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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第二十三話

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orisuta

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 仕留めた敵から聞き出した情報のメモ書きを片手に、スォーノは頭を掻いた。どうも、敵の居場所が予想外すぎて、内心呆れ気味なのを紛らわす意図があったのかもしれない。
「『真実の口』の地下にやつらのボスがいる、ねぇ……。確かに、超音波で調べたら地下空間の存在は確認できたから、ガセじゃねーみてーだし、ローマの地下ってのは遺跡ばっかだから、そんな拠点があんのも判らなくはねぇけど、如何にも辛気くせぇ場所だな。で、マジでオレら二人だけで行くんスか? アルジェントの旦那」
「無論だ。超音波で消音・探知・加熱、と様々な事を行えるお前の能力は暗殺向きだ。故に、俺とお前の二人がいれば敵を仕留めるのは難しい事ではない」
 アルジェントのにべもない言葉に、スォーノはわざとらしく頭を抱えてみせる。別に、敵に敵わず敗死するのはどうってことでもないが、同じ戦うならばステッラのチームと合流した方が勝率は上がるだろう。何と言っても、あらゆるモノを針金のバネにするステッラのスタンドと、あらゆる金属を溶かして武器に変えるアルジェントのスタンドは相性がよく、更に向こうのチームには治療系のスタンド能力があるのだから。
「そりゃそうっスけど、やっぱ合流した方がいいと思いますぜ?」
「いらん。これは、俺が俺自身に命令しての暗殺だ。やつらに先んじて暗殺を成功させなければ意味がない。そして、暗殺の過程でたまたま出会わない限り、共闘などそもそも出来る話ではない。ボスからは許しを受けたとはいえ、俺たちはあくまでも『パッショーネ』の枠の外に居る人間だ。枠の中と好んで関わる権利など、元より持ち合わせているものか」
(だから、何でそんなに頑ななんスかァーーーーーーーーーーーーーッ!)
 ……本気で頭を抱えたくなった。こんな事を言ってるくせして、この人はローマに来てから、敵と戦っている最中のステッラのチームのメンバーを、数の論理で押しつぶす為に駆けつけようとした『ヴィルトゥ』の援軍を全て先回りしては暗殺しているのだ。彼らは気付いていないだろうが、大体幾ら手薄になっていたからといって、敵の本拠地に乗りこんでおいて、必ず1対1で殺し合いになって、1対1のまま終わるなんて事は、偶然ではあり得ないのだ。そんな非常識を演出しておいて、それでも合流だけはしない、という思考のありようがスォーノには如何しても理解出来なかった。
 
 
 




「ストゥラーダ、あんたこんなところで何やってんだい?」
 ベルベットは、目をパチクリさせた。人気のないローマの裏路地を歩いていた彼女は、目の前で見覚えのあるニット帽をかぶった人間が、しゃがみ込んでシクシクと泣いている姿に、半ば呆れながら声をかけた。が、その人間が顔を上げた時、彼女は再び面食らった。仲間だと思ったのはただの思い違いで、泣いていたのは同じ作りのニット帽をかぶった少女であったのだ。体格や背丈は当然違っているのだが、しゃがみ込んで背中を向ければ、その違いは判りにくくなる。ちょいと早とちりしすぎたようだ。
(んー、ジョルナータと大体同じくらいかねぇ。にしても、こんなところで泣いてるってのも変な話だよ)
見てしまったからにはほっといたら寝覚めが悪くなる。ベルベットは、泣いている女に声をかけた。
「あんたね、何でこんなところで泣いてるんだい?」
「おにーちゃんと、あえなくなっちゃったの」
 少女が口を開き、目をベルベットに向ける。その一瞬、両者の顔が同時に引きつった。
(子供みたいな事を言う女だねぇ……。もしかして、精神に問題でも抱えてんのかもね……。さぁて、あたしは如何すりゃいいんだろ。精神科のお医者さんでもないあたしに出来ることなんてないじゃないか。あー、声かけなきゃよかったよ)
と、ベルベットの考えは罰当たりなモノであったが、少女はしばし俯き、やがてボソリと呟いた。
「……みつけた」
「はぁ?」
「おにーちゃんをいじめるひとのひとりだー! おじさんはやくそくしてくれたの。『わたしてくれたしゃしんにのっているひとたちは、おにーちゃんをいじめるひとだから、そいつらをみんなやっつけたら、おにーちゃんもこじいんからひきとってくれる』って!」
グオン! 突如、少女の背後から現れた影に、ベルベットは小さな悲鳴を上げた。こいつ、スタンド使い!
「あんた、『ヴィルトゥ』のやつだね! なら容赦しないよ、『ベルベット・リボルバー』!」
少女のスタンドが拳を構えるより早く、ベルベットは飛び退き、地面を一回転して距離をとりながらスタンド弾を連射する。もちろん、それらは全て少女のスタンドに弾かれるが、全く問題はない。着弾した壁にスタンド弾は跳弾し、予想もつかない軌道で少女に襲いかかると共に、様々な場所にリボルバー拳銃を生やす。
「一斉射撃だよッ!」
 ガガガガガ! 跳弾と、リボルバーからの斉射が一度に少女に襲いかかる。これでは流石のスタンドも防ぎきれないだろう! ベルベットの甘い予測は、しかしすぐに破られた。
 
 
 




「『ブーメラン・ストリート』!」
 少女のスタンドが、本体を斜め上へと放り投げたのだ。ベルベットの師のスタンドであれば少女自身へと弾丸を追尾させて仕留める事が出来ただろうが、彼女ではそうはいかない。スタンドで生やしたリボルバーはあくまでも実体を持った本物でしかなく、スタンドへの効果など望むべくもない。つまり、少女のスタンドは跳弾した『ベルベット・リボルバーのスタンド弾』だけに対応すればいいのだ。地べたへとはたき落とされた弾丸から生えてきたリボルバーを、少女のスタンドはグシャリと踏み潰し、おもむろに両手を上げて落下してきた少女を受け止めた。ベルベットは、それをうっかり見逃していたが、よく見ればこの一幕には異常な点があった。斜め上は上でも後方へと投げられたはずの少女が、スタンドの前方へと落下するには、空中で弧を描かなければいけないのだが、それがいかにも不自然であった。
スタンドに受け止められた少女は、ニパッと子供の様な笑みを浮かべ、懐から大量のナイフを取り出し、スタンドへと受け取らせる。
「わたしの『ブーメラン・ストリート』はね、とってもつよいんだよ? おばさんなんて、簡単にやっつけちゃうんだから!」
「だ、だれがおばさんだい!」
 ベルベットは正直カチンときた。まだ20代前半の若者である自分が、幾ら幼児退行しているようだといえ、自分と幾つも年が違わない少女に「おばさん」よわばりされるのは気にくわない。だが、むかっ腹を立てていても銃の腕は更に冴える。『ブーメラン・ストリート』が投擲してきた一本のナイフを、
「飛び道具での攻撃ってのはさ、相手をするのは難しいことじゃないんだよ。はじめに、ちっと軌道をずらしちまえばいいんだ。そうすりゃ、届く頃には明後日の方向へと飛んでくからねぇ……」
スタンド弾で迎撃し、飛来する角度を変えてしまう。明後日の方向へとナイフが飛んでいくのと、壁に生えたリボルバーが少女へと弾を吐き出すのは殆ど同時であった。攻防一体の対応を、しかし少女は弾丸を払い落しながらクスクスと笑ってみせた。
「あはー、ばかみたーい!」
「ああん? 何だって……ギャッ!」
苛立ちながら聞き返そうとしたベルベットの肩に、激痛が走った。明後日の方角へと飛んでいったはずのナイフが、ブーメランのように反転してきて、彼女の左方へと突き立ったのである。この一幕に、ベルベットは少女の能力を悟った。
「『投げたモノをブーメランみたいに戻ってこさせる』能力ねぇ……。なるほど、名前通りの能力じゃないか」
「ふっふーん! どーだ、おもいしったか! でも、ほんとうにこわいのは、これからなんだからね!」
そう言って、少女は奇妙な事を始めた。スタンドの右手が持つナイフを前へと、左手が持つナイフを後ろへと、軽く投げていったのだ。それらは、それぞれもう一方の手を経由し、完全な円を描いて少女とそのスタンドの周囲をクルクルと回っていく。回転の速度は徐々に上がり、やがて純銀の円筒を織りなしていく。
この奇観にベルベットは思わず息を飲んだ。あのナイフの結界を掻い潜って銃弾を撃ち込む事など、とても出来やしないし、ナイフを弾いても他のナイフが邪魔してしまう! しかも、この結界は前進しながらその一部を自分めがけて放ってくるのだ。飛ばす軌道はある程度ならば操作できるらしく、前と後ろから絶え間なく襲いかかるナイフの回避や防御は至難の技であった。
その最中、ナイフの結界の中から何かがベルベットの頭上を越えて何処かへと飛んでいく。
何だかしらないが、嫌な予感がする! 咄嗟に前方へと身を投げ出したベルベットの背後で、ドカン!
 投擲されたのは手榴弾であったのだ。そう理解した時、ベルベットは顔色が真っ青になるのを覚えた。投げたモノは本体の少女の元へと戻ってくる、と言う事は……。
「しゅりゅーだんのはへんはねー、ばくはつしてからもどってくるのー!」
 バシュバシュバシュッ! ベルベットの頭上を遥かに通り越して爆発したはずの手榴弾の破片が、全て旋回して背中へと飛来する。駄目だ、防げない! ドスドスドスッ!
 伏せていた彼女の背中に、手榴弾の幾つもの破片が突きささり、後はナイフの結界の上へと吸い込まれていく。あらかじめ手榴弾を避けて地べたに伏せたことが、飛散した破片が戻っていく上で上手く働いたのか、幸い致命傷には至らない。が、立ち上がったベルベットの脚は小刻みに揺れていた。やはり、かなりの大ダメージを防ぐ事は出来なかったのだ。
 
 
 




背中から鮮血を滴らせ、手足に力が入らぬまま、それでも決死の覚悟で立ち上がるベルベットの姿に、女は手を打って無邪気に笑った。
「あははー♪ まだたおれないんだー! おばさんって、がんじょーだねー! でも、おにーちゃんをいじめるわるいひとはやっつけなきゃならないもん。これでおやすみだよ!」
 少女のスタンドの周囲で、ナイフの結界が渦巻く。間違いない、次で決めるつもりだ。全部のナイフが放たれてしまえば、今のベルベットには絶対に打ち落とす事は出来ない。それでも、ベルベットは諦めようとは思わなかった。
「おばさんおばさん煩いんだよ! あたしはね、自分をおばさん扱いした相手は例外なくぶっ殺してきてんだ。それでもいいなら来な。あたしがあんたに勝てないと思ってんなら、大間違いだと教えてやるよ!」
 彼女の挑発に乗った訳ではないだろうが、少女はナイフの結界を解除し、それらを雨と降り注がせる。それに対し、ベルベットは力のこもらぬ手を無理やり上げて、『ベルベット・リボルバー』を胸元に擬し、弾丸を立て続けに放つ。が、何処へ放たれたのか、スタンド弾はナイフへと飛来してはいない。そして、ナイフが、直撃する時が来た!
ガッ! 金属的な音が辺りに響く。それさえも不思議に思わず、命中した事に「あはっ」と笑いかけた女の顔が、何か不思議なモノを見て怯えるかのようにクシャクシャに歪んだ。全てのナイフが、ベルベットの全身に生えた大量の拳銃に食い込んで、止まっている?!
「痛いからこれまでやんなかったけど、皮膚の表面に生やした『リボルバーの盾』は、どうやら間に合ったみたいだねぇ……。そして、このリボルバーに食い込んだ大量のナイフは、戻っていく際にあたしを巻きこんで引っ張っていくッ!」
 ギュオン! 彼女の言葉をきっかけとするかのように、ナイフはリボルバーの銃身に食い込んだままスタンドの手へと反転していき、それに引っ張られる形でベルベットは急速に女との距離を詰めていく。驚きに目を見開いた女が、慌ててスタンドに迎撃を命じた時には、既に遅い。リボルバーの生えた皮膚を引きちぎって、拳の下をスライディングするベルベットの弾丸と、更にリボルバーを生やされたナイフが射撃の反動で向きを変えて、女の全身を貫いたのはほぼ同時であった。ナイフに食い込んでいたリボルバーが、肉に突きささる途中で引っかかったから即死こそしなかったものの、まぎれもない致命傷であった。
「殺し合いなんて、こんなもんだよ。ジャブの連打でじわじわと追い詰めるなんて手はやめときな。相手の戦い方を逆手にとって、一瞬で勝負を決める。つまり、あんたの戦い方は派手なだけで無意味すぎたってことさね。覚えるだけの脳味噌があんなら、覚えとくんだね。もちろん冥土の土産に、ってことだけどさ」
全身から血を流しながらも、勝ち誇ったベルベットが笑った時、致命傷を受けて倒れ込んでいた少女が、ゴボリ、と血を吐きながら、消え入るような声で呟いた。
 
 
 




「わ、私は、何を……」
 死に逝く間際に、どうやら彼女は正気を取り戻せたらしい。その事に、勝ち誇っていたベルベットは後ろめたいモノを覚えた。幼児退行する程に精神が崩壊していたのだから、おそらく相手は『ヴィルトゥ』に操られた犠牲者であるのだろう。それを、殺さなければ自分が死んでいたからといって、殺してしまうのだから後味が悪くなるのも当然だ。バツの悪い顔で、壁に背を持たせかけていたベルベットであったが、それに対して少女は残る命を振り絞って、必死にすがった。
「あ、あなたが……、何者かは、知りませんけど、お……、お願いがあります。私に、襲われて……返り討ちにしたのですから、少なくとも、『ヴィルトゥ』の敵のはず……。どうか、これを……」
 地べたを這いずって近寄ってきた少女は、震える手で懐から何かを取り出し、ベルベットの手のうちにそれを滑り込ませた。触れた感触からして、どうもビニールか何かで硬いモノを包んでいるらしい。
「こ、この中には……、私の『OA-DISC』が入って、います……。ボスの、目的や、秘密、そして……、護衛のス能力が……、中に……。信じられないような、内容ばかりですが、真実なんです……。お願い、役に、立てて……」
「ああ! 判ったよ! 判ったから、頼むからもう安らかに逝っとくれよ! あたしに、これ以上後味の悪い思いをさせないどくれ!」
 思わず、悲鳴交じりの声を上げてしまったベルベットに、しかし少女は更に縋りついて、声を絞り出した。
「最後に……、もう一つだけ、お願いが、あります。もしも、兄に……、スカリカーレ・ストゥラーダ、という男に、あなたがお会いしたら、こう……、伝えてください。
『私の分も生きて、私の分も幸せになってほしい』と、妹のトルナーレが、言って……」
 言葉は、最後まで紡がれることなく終わった。残る命の限りを絞りつくして持ち上げていた頭がカクリと落ちた。それでも、ベルベットにしがみついていた両手の指は深く肉へと食い込んで、引き離すのに難儀した。
「あたしが……、あたしが殺しちまった……! ストゥラーダが必死に探してた、あいつの妹を……、あたしが殺しちまったんだ!」
 思わず、ベルベットは天を仰いで慟哭した。こんな皮肉な巡り合わせに、神がいるなら声を限りに罵倒してやりたかった。


今回の死亡者
本体名―トルナーレ・ストゥラーダ(スカリカーレ・ストゥラーダの実の妹)
スタンド名―ブーメラン・ストリート(ベルベットに撃たれ、更に自分の投げたナイフで全身を貫かれて死亡。
輪姦された揚句薬物漬けにされた結果起きてしまった精神退行が、死の間際に治ったことが幸いし、兄の仲間に大切なモノを手渡せた)




使用させていただいたスタンド


No.1218
【スタンド名】 ブーメラン・ストリート
【本体】 トルナーレ・ストゥラーダ
【能力】 一度手から離れた物体を再び手元まで戻す




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