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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第二十四話

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orisuta

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それぞれが一戦を終え、ステッラのチームは戦果と共に一先ずの拠点である下水道内部へと帰還した。まずは、それぞれの結果を総合して、次の行動を決定しよう、というところであったのだが、そこでちょっとした事件が起こった。
「……ストゥラーダ、こいつを渡しとくよ」
「ああん? ベルベット、てめーにしちゃしおらしい言い草じゃねーか。ははん、ようやく俺の魅力に気付いて、遅ればせながら愛の告は、くでも……」
 何の気も無しに、薄暗い中で手渡されたモノを見ようと、隻眼を近づけたストゥラーダの顔色が突如変わり、掴んでいた右手がブルブルと震えた。彼が目にしたものは、自分の被るそれと寸分の違いもない作りのニット帽であったのである。
「てめぇ! これを、何処で、どうやって手に入れやがったんだ?! こいつは、俺と妹が孤児院に居た時から持っていた手作りの帽子で、世界に二つしかねぇしろもんだぞ!?」
「……あんたの、妹から持ってきたのさ」
 目を逸らし気味に語るベルベットであったが、話を聞いているストゥラーダは、この場の薄暗さと片目を失った事が災いして、すぐには気付く事はない。
「! 妹が、トルナーレが、ローマに居るってのかよ? そいつはいいぜ! 任務を済ませたらすぐ会いに……、『持ってきた』だぁ? そいつは……、如何いう意味で言ってんだよ?」
「もういない、ってことさ。あんたの妹は……、ヤク漬けにされて、ラリってた。そして、『ヴィルトゥ』のやつらの命令で、あたしに襲いかかってきた。だから、返り討ちにせざるを得なかったのさ。悪いとは思うし、かなり気が咎めてはいるけど、それでもあたしは、あの時あんたの妹を殺ったのは正しい事だと信じるよ。やらなきゃ、あたしがやられてた。例え、イタリアの裁判官全員が有罪と宣告しても、あたしは自分のした事が間違っていないと断言できるさ」
最初のうちこそ、どことなくぎごちない感じがした彼女の言葉は、しかし最後には胸を張って答えられた。自分は、間違いを犯しはしなかった。彼女の思いがこもった答えに、ストゥラーダはしばし呆然と立ち尽くしていたのだが、
「このアマぁっ! ぶっ殺してやる、『スーサイド・ダイビング』!」
「そう来ると思ってたよ! 『ベルベット・リボルバー』!」
二人のスタンドが同時に発現し、互いの喉へと擬して止まった。『スーサイド・D』の手刀はベルベットの頸動脈へ、『V・リボルバー』の銃口はストゥラーダの喉仏へ、とそれぞれ皮一枚ほどの隙間を開けて突き付けられている。このままでは、どちらも動くに動けない。それどころか、スタンドのスピードでは彼らに劣る事はないステッラやジョルナータでさえ割り込む事が出来ない。
 
 
 




「お前ら、止めろ!」
一喝こそしたものの、ステッラも判っていた。今のストゥラーダを止める事は、自分にも出来ないだろう。手の打ちようのない状況に三人が傍観せざるを得ない膠着状態の中、ストゥラーダは吼えた。
「ベルベット、てめぇは許せねぇ!」
「はっ、許してもらわなくても結構さ。ただね、これだけは言っとくよ。耳の穴かっぽじってよーく聞きな。今、あたし達が殺し合って喜ぶのは誰なんだい? あんたの死んだ妹かい? うちのボスかい? ステッラかい? 違うね、答えは『ヴィルトゥ』の連中さ。あたしを殺したいってんなら、『ヴィルトゥ』のボスを叩き潰してからにしな。それからなら、幾らでも相手になるよ。もっとも、あんたが状況を理解することさえ出来ない大バカ野郎ってんなら話は別だがね。この距離なら、あたしの方が早いし、手刀での切り傷なんてのも、即死さえしなければジョルナータに直してもらえるさ。所詮人間並みの速度のあんたのスタンド相手になら、この場であたしが死ぬ事は決してない。さあ、やるならとっとと済ませたらどうなんだい?」
 ベルベットの辛辣な言葉に、怒りで顔を赤黒くしていたストゥラーダの動きが止まり、ややあってからスタンドは解除された。しかし、その隻眼は未だ怒りに染まっている。
「ああ、今は任務だから殺しはしねぇ。妹の人生を狂わせた『ヴィルトゥ』のやつらを皆殺しにするまでは生かしてやる。だが、あくまでも『今は』だ。次はねぇ……。任務が終わり次第、俺はてめーをぶっ殺す」
嚇怒を押さえ、ストゥラーダはベルベットに背を向け、座り込んだ。渋い顔をするステッラに詫びを入れた彼は、ジョルナータに向かって奪われた方の目を指差してみせた。
「ジョルナータ、今更なんだがよ。潰れちまったこの目を如何にかしてくれねぇか?」
彼自身に指摘されるまで、一方の目が失われている事に気付いていなかったジョルナータは、大慌てでストゥラーダの傷を見て回ったが、やがて溜息と共に首を振った。
「残念ですけど、直すには手遅れです……。この手の傷は、出来たばかりなら患部周辺の細胞が死んでないから、私の眼球の一部でも割り込ませるように植え付けてしまえば一件落着なんですけど、眼球を真っ二つにされてから時間がかかり過ぎると、傷口を埋めても『死んだ眼球』は死んだままなんです。どこかから、新しい眼球をえぐり取ってきて、代わりに植え付けるしかないんですけど、そう簡単な話ではありませんし……」
「部位のストックとかはねぇのか?」
「筋肉や骨、血液とは違って、特別な臓器はちょっと……」
と、ジョルナータが弱り果てている中のことであった。
「こんな最中に言うのもなんだけどさ、さっきは伝える余裕がなかったからね。あんたの妹なんだけど、『私の分も生きて、私の分も幸せになってほしい』って言ってたんだ。あの子の死体なら、まだ新しいし、移植は間に合うかもしれないよ。きっと、それを当人も望んでるよ」
「! ……確かに、あいつはそう思ってくれただろうが、駄目だな。兄貴ってのは、妹や弟の為に痩せ我慢するもんだ。ありがとよ、ジョルナータ。片目を失ったくれェ、どうってこたぁねぇよ。そん代わりってのもなんだがよォ、亀を取ってくれねぇか? ちっとの間一人でいてぇんだ」
亀の中へと入っていくストゥラーダの顔は、ジョルナータの位置からは見えなかった。けれど、その背は泣いていた。そう、確かに感じた。思わず、彼女は消えゆく背中に呼びかけた。
 
 
 




「ストゥラーダさん!」
「やめておけ、ジョルナータ。人間には、誰かに構われる事がかえって辛い時がある。特に、理不尽な家族の死を知った時などはな。ベルベットはともかくとして、それを僕も、ステッラも、そして君も知っているのではないのか?」
ウオーヴォにたしなめられ、ジョルナータは沈黙した。けれど、納得出来たからではない。義父の死と、母の死、それらは共に理不尽なモノであった。なのに、どちらも悲しみや喪失感を感じた覚えなんてない。義父の死を風の便りに聞いた頃、自分は既に肉奴隷としての日々で心を壊しかけており、母の死は喪失感よりも逆に娼奴としての日々からの解放の切っ掛けとしての思いが勝っていたから。
それを、悲しく感じたことなんてない。壊れかけの心を必死に取り繕って、今を懸命に生きるだけの人形。それが自分なのだから。ただ、心を、思いを殺していないだけで、人間の真似事でしかないのは、あの頃と同じだ。それに、その思いも本物なのか、それとも本物と思い込んでいるだけの演技なのか、判ったモノじゃない。自分を引き取った男を廃人へと追い込んだ時の激しい拒絶と、友人を殺した売人への憎しみだけは、本物なのだろうけど、それ以外はどうだろう? 友人の葬式で流した涙が悲しみによるものなのか、自らの手で人を殺すことへの怯えが、ウオーヴォへの思いが、本当に心の中から自然に出てきたモノなのか、それとも理性が作り出した贋物なのか、ジョルナータには判別がつかなかった。思わず、声が漏れた。
「私も……、知ってなんて……!」
「いや、判っているさ。ジョルナータ。感情の奥に、押し込められているだけで。以前の話以来気になっていた。君は自分を壊れかけているように思いこみ過ぎているようだな。自分の心をもう少し見つめ直すといい。君は、壊れてなんかいない」
「あ……」
何故だろう、今更になって激しい喪失感が、心に広がってきた。義父の死が、母の死が、悲しくて、苦しくて、胸が締め付けられるように、痛い。何時しか、ジョルナータの目から堰を切ったかのように止まらぬ涙があふれ出した。慟哭が、止まらない。号泣の中で、彼女は悟った。今、ようやく己の心の中で父母の死が事実として定着したのだと。そして、自分の人間としての心が生き返ってくれたのだと。その切っ掛けとなったのが、ウオーヴォだったのだ。
感極まった彼女が思わずウオーヴォに抱きつこうとした時、ステッラがコホン、とわざとらしい咳をした。それで、ようやく我に返った彼女が恥ずかしげに俯く中、ステッラは亀の外に居るメンバーにパソコンの画面を示してみせた。其処には、ディスクの中身が映し出されている。
「それにしても、ベルベットが手に入れたディスクの内容は信じがたいものばかりだな……。人間を吸血鬼にする『石仮面』や、その力を増幅させる『エイジャの赤石』。そして『ヴィルトゥ』のボスの目的が、『究極の生物と化して、世界の頂点に君臨する事』なんてモノに至っては世迷言としか思えん」
「だが、逆に作りモノらし過ぎるのがおかしくはないか? このような情報を得て、僕達が信用すると思う方が異常だ。それに、『エイジャの赤石』そのものはジョルナータが敵から奪取している。こうなると、三文記事で騙そうとするにしては凝り過ぎているだろう。それに、このディスクに載っている、ボスの手元に矢がある、という情報と、ボスの護衛のスタンド能力の項目は信じてもいいと思うが。護衛の、『全てをうやむやにする能力』というのは、かなり危険なものじゃないか?」
「けどさ、完全無欠のスタンド能力なんてのは存在しないんだろ? 現に、一通りの応用と、その欠点なんてのが書かれてるくらいなんだからさ。ただ、全員で突っ込むのは却ってやばい気がするけどね。2、3人でまず向かって、どうもヤバそうだと判断したら残りのメンバーが加勢すりゃいいんじゃないかい?」
ベルベットの提案に、ステッラは顎に手を当てて考え込んだ。
「どちらにせよ、深夜になるまではやつらの拠点へと向かう事は出来ない。それまでの時間は作戦会議と鋭気を養うのに充てることとしよう」
 
 
 




**

「しっかし、不気味な場所だぜ。何処のどいつだ、『真実の口』の地下にこんなバカでけぇ空間なんぞ作ったヤローは」
地下空間へと続く階段を下りながら、スォーノは気味悪げに周囲を見回した。ローマの地下に広がる古代遺跡を構成する壁や柱の彫刻は、我々が知る一般的な古代の遺跡とは違い、何処か人間の美意識を超越するものがあった。気のせいか、空間そのものや時の流れまでが何か異常な感じがする。足が渋りがちのスォーノを、アルジェントは小声で叱咤した。
「気にしても仕方がないだろう、スォーノ。俺たちの為すべき事は、『ヴィルトゥ』のボスの暗殺だ。場所や、時間、そして相手の状況、そんなモノどうでもいいッ! ただ、見つけ、気付かれず、一瞬で殺害する。それこそが俺たちの為すべき事だ……」
「いや、ホントマジで此処ヤベーですぜ旦那。なんつーかさー、普通の遺跡より、時間の流れが淀んでるっつーか、相当昔の遺跡のくせして、古戦場みてーな、死人であふれかえってた的な感覚がめっちゃあんだけど、それともなんか違うよーな……。あー、どう表現していいかわっかんねーな」
 スォーノが必死に言いつのろうとしたその時、背後から冷笑する声が聞こえた。
「いや、その表現だけど、案外間違っちゃいねぇんだぜ? ま、俺があんたらだったらもちっとこの場所を好きになっとくがな。なんせ、自分の墓場になるんだからよ」
「「!!?」」
 背後からの声に、二人は背筋が凍るのを感じた。彼らは、『ディーズ・オブ・フレッシュ』で常時周囲を把握しているはずだった。だから、気付かずに誰かに背後に回られる事はあり得ない。なのに、何故! 振り返った二人は、ニタニタ笑う男を目にした。驚いた事に、姿が目に見えているというのに、男は『ディーズ・オブ・フレッシュ』の超音波では反応がない!
「て、てめぇ、幻覚だなんてしゃらくせぇ手を使いやがって! 実体があんなら、オレの能力で存在を感知できねぇ訳がねえんだ!」
驚きを怒りに変じさせ、スォーノが凄んでみせるのに、男は一瞬訳が判らないといった顔を見せ、次いで如何にも面白そうに腹を抱えて笑いだした。
「幻覚? 幻覚だとさ、ハッ! こいつはおもしれーぜ! 腹がよじれていてぇったらありゃしねぇ!」
フッ! 笑い続けていた男の姿が突如消え、今度は広場の真ん中へと現れる。一瞬だけ存在が把握できなかったが、今度は超音波で存在が確かに確認出来る。
「幻覚だとバレたから、今度は本体が姿を現した。そういうことか? だが、俺たち相手に勝つ自信があるというならば、それは早計であるだろうに」
「早計ねぇ……。よく言うぜ、俺の能力も、この場所の事情も知らねぇくせによォ。せっかくだし、チィと教えてやるぜ。タネも判らねーまま殺されるってのもシャクだろーしよォ。俺の名はグリージョ、ボスの護衛を務める吸血鬼だ。スタンドは『うやむや』にする能力を持つ。まー、よろしくってとこか?」
 吸血鬼? うやむや? 何がなんだかよく判らない。イカれてるのか、この男は?
ステッラのチームと合流しない、という決定が、ここで悪い方向へと働いた。当惑する両者の前で、グリージョは楽しげに口を開いた。
 
 
 




「えーと、探知系のスタンドの方のやつに言う事なんだけどよ。あんたの直感ってさ、ホント間違ってねーのよ。むしろ、カン働きだけでそんな事に気付けんのはマジですげぇわ。
そうだぜ、この場所に関しては時の流れは俺の支配下にあるんだ。まあ、聞きねぇ。
俺は、ボスの私室を守る番人なんだがよー、番人ともなると常にこの場所から離れる訳にゃあいかねぇのさ。かといって、ずっと気ぃ張ってたら疲れもするし、おちおち飯食うのも、寝るのも、風呂入んのも、ここから離れる事になるから、やってる訳にもいかねぇ。けど、適当に当番を決めるには、俺に見合うだけの部下はいねぇ。かといって休憩をとらない訳にもいかねぇ。
そこで俺は考えたね。スタンドパワーを消費すんのも、腹減るのも、眠くなんのも、疲れたりするのも、時間が過ぎるからなんだって。なら、その時間の流れそのものを『うやむや』にしちまえってな。
思いついた時は、我ながらいい事を思いついたって喜んだもんだぜ。うやむやってのは、あるかないかはっきりしねー状態を指すんだ。つまり、俺の能力の支配下にある此処だけは、時間は流れてねーのも同然なのさ。うやむやになってるだけで流れてない訳じゃねぇから、誰でも自由に動けんのが、時間の止まった世界との違いだがよォ。
……けどよ、いざうやむやにしてから気付いた事があんのよ。時間の流れがうやむやになっちまったおかげで、どんなに速いスタンドも遅いスタンドも、判りやすく言っちまえば秒速を計る上で必要な1秒の長さがうやむやにされちまった所為で、スピードの条件は一緒になっちまったし、同じ論理で『一秒あたりに』音が伝わる距離も判別できねぇから、ボスの元に俺が敵とやり合っていることすら伝わんなくなったし、どんなに戦ったって時間は流れてねぇから向こうも疲れねぇ、とくる。
結局のところ、差し引きで俺の損の方が大きいってことだわな。解除すんのがめんどくせーから改善する気はねーけど」
 こいつ、ベラベラと秘密にすべき事ばかりしゃべっているようだが、まさかバカなのか?内容が事実であるのならば、自分たちにとっては必ずしも悪い条件ではないのだが。顔を見合わせるアルジェントとスォーノに、グリージョはいけしゃあしゃあと少し前に言った事を繰り返した。
「だからよ、わざわざ説明してやってんのは、俺があんたらを返り討ちにするだけの自信があるからだって言ってんだろーよ。
何時も思うんだわ。俺んとこのボスってよォ、本当に頭いいぜってな。あん時、ボスは俺にこう言ったね。『認識することだ。箱を開けるまで生きているか死んでいるか判らない猫のように、何処にでも在り、何処にでも無い自分を存在させるのだ、と!』ってよォ! つまり、俺は! 空間の中に、常に遍在し、偏在している! 一字の違いで大違いだ。
あんたらが考えたような幻覚なんてちゃちなもんじゃねぇ、こまけぇ理屈は判らねぇけどもっとすげぇものなんだ。俺を捕えることなんざ、どんな奴にも出来はしねぇぜ。ほれ、試しに攻撃してみろよ。俺を殺せるつもりなんだろ、あんたらはなぁ! けど、俺も全力で殺しにかかるぜッ! 『ノー・リーズン』!!!」
 ズギュウウウウウウウウウウンッ! グリージョの身体から、怒りに満ちた表情のスタンドが姿を現した。スタンドこそ発現させたものの本体は一歩も動いていない、なのにまた『ディーズ・オブ・フレッシュ』では探知がきかなくなっている!? 驚愕するスォーノを見て、グリージョは優越感に満ちた表情になった。半ば開いた口元から、鋭く尖った犬歯が見えた。
 
 
 




**

「そういえば、ここに最初に来たときから気になってたんですけど、ステッラさんってどうしてローマの地理に詳しいんでしょうか? 下水道や裏通りを知っているにも程がありますよ」
「ああ、ステッラは元々ローマのチームに所属してたからな。ボスが、先代のボスを倒した場所はローマだった事もあって、ローマに居た旧パッショーネのメンバーの多くが彼の懐柔に応じ、組織の掌握に力を尽くした訳だ。……おかげで、手薄になったローマが『ヴィルトゥ』に奪われた訳だが。
まあ、ともかくそういう事もあって、幹部達の間には『ローマ閥』とでもいうべきものが存在していたりするな。代表的なのは、ステッラ以外にズッケェロさんとサーレーさんあたりかな。派閥があるといっても、幹部間での対立という程の事はないから気にする者はいないが」
夜が、近づく。作戦会議など、当の昔に終了し、ステッラたちが亀の中で休息を取っている間、外での見張り役になっていたジョルナータとウオーヴォは、排水溝の壁に背をつけて、あれこれ取り留めのない話をしながら時を過ごしていた。たわいのない内容ではあったが、会話を続ければ続ける程ジョルナータの顔が安らいでいく。そんな最中に、突如話の重要性に変化が生じた。
「ジョルナータ、今から言う事をよく聞いてくれ。おそらく、今夜中に任務は終わる。そうでなくてもこれから先の戦闘は激しさを増すはずだ。だからこそ、今言っておかなければならない」
ウオーヴォが、ジョルナータの目を見据え、真剣な顔で話しかける。それに、ジョルナータは胸がドキドキするのを覚えた。もしかして、この先にある言葉は……!
「いいか、ジョルナータ。君が治療役だからこそ言わなければならない事だが、この先、戦闘の最中に複数のメンバーが負傷し、誰かを後回しにしないといけなくなったら、先ず自分自身を治療しろ。君が死ねば、他のメンバーはそれ以降治療できなくなる。その次がステッラだ。幹部の死は組織にとっても、チームにとっても大きな痛手となるからな。ストゥラーダとベルベットは負傷の重い方を優先しろ。どちらも戦闘向きではあるモノの、平のチンピラなのだから、治療が間に合わなくても、さほど組織やチームへの影響は出ないだろう。けれど、僕の事は見捨てても構わない。むしろ、これから先の荒事では僕は役に立たないから、治療はせずに仲間が失った部位の移植元として扱うべきだ。常に命の優先順位を考えて治療すればそれでいい。僕は、その中の最下位でいいッ!」
やっぱりプロポーズなわけがない。愛の告白だなんて甘ったるいモノではないのは、ジョルナータも気付いていた。ウオーヴォの性格柄、そんなものがこんなところであり得る訳がない。しかし、その激越な内容に、そして現実にそうなった時の事を考えてしまい、ジョルナータは悲鳴交じりの声を上げた。
「そんなこと、言わないでください! もし、ウオーヴォさんが死んだら、私は今度こそ完全に壊れてしまいます。いいえ、きっと後を追うに決まってます。だから、死ぬことなんて、考えないでください……!」
「別に、僕は死ぬ覚悟を固めたりしている訳でも、ましてや死ぬつもりでいる訳ではない。ただ、『死ぬ』だの、『生き延びた』だの、そんな言葉はギャングの世界にはないんだ。相手を殺ったか、殺られてしまったか、それとも殺る過程か、そもそも互いに出会う前か、この4つしかギャングの殺し合いにはない。僕たちの人生は、味方を生かし、敵を殺すことだけを考えればいいんだ。後は、そうする上で必要な事さえやっておけばそれでいいんだ。情愛なんていらない、ただ自分が、出来る事ならば仲間も今を生き延びる事だけ考えればいい」
言っている事は頭では理解出来る。けど、やっぱり納得したくない。反論しかけようと口を開いたジョルナータだったが、その時になって亀の中からステッラ達が姿を現す。どうやら、もう安らぎの時間は終わりのようだ。後は、怒濤が待ち受ける未来へと向かうだけだ。彼らの目は、既に覚悟を定めていた。未だ、覚悟を定めきれていないのはどうやら自分だけらしい。ジョルナータは、苦笑いをして反論をごまかした。
「行くぞ、お前達! 今! 俺たちはッ! やつらの悪夢を現実とするッ!」
 
 
 




**

 ガァン! ガァン! スォーノが放った銃弾を、グリージョは何もせぬまま迎える。その理由はすぐに明らかとなる。眉間めがけて放たれた銃弾は、スウッと彼の姿を通り過ぎてしまったからだ。グリージョは指を振り、蔑んだ目でスォーノを見た。
「高々人間ごときがよォ、日光を克服している吸血鬼と戦おうだなんて笑っちまうぜ。しかも、そのスタンドが貧弱ゥすぎるんだからなぁ。まあ、俺の無敵のスタンドに比べりゃどんなスタンドも貧弱、貧弱ゥにも程があるけどよォ。
正直言っちまうとな、俺はマジで『ノー・リーズン』に勝てるスタンドなんて存在しねぇ、と思ってんだわ。時を遅らせようが、何でも消し去ろうが、パラレルワールドに移動できようが、俺にとってみれば大したことじゃねぇ。どんなスタンドだって、その気になればブチ殺せる。俺んとこのボスさえもその例外じゃぁねえな。
今すぐボスの寝首を掻くよりも、まだ親指と人差し指で歯と歯の間に挟まった食べカスをつまんでとる方がよっぽど難しいぜ。けどなぁ、俺は頭がよくねぇからそんなこたぁしねぇ。『ヴィルトゥ』を乗っ取ったって、配下を上手く動かせずに自滅しちまうだけだからなぁぁぁぁぁああああああああああああああああ! 
UUUUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」
ブン! 遍在が偏在に変わる。突如アルジェントの目前へと現れたグリージョの背後で、先程まで彼が居たように見えた場所を、『メタル・ジャスティス』の投げたナイフが通り過ぎていく。
「無駄だぜ! てめーのナイフは、明後日の方向だ! 死ぃねぇェェェェェッ!」
 グリージョの貫手がアルジェントの頭へと迫る。が、アルジェントは悠然と構えたまま、
「やれ、スォーノ」
「了解だぜ! 『ディーズ・オブ・フレッシュ』!」
 メタリックなトンボが、翅を小刻みに高速振動させる。超音波が向かった先は……。
「飛ばしたナイフを、弾丸諸共引き寄せる! そして、超音波の振動で、刃の切れ味を向上させ、なおかつ急速に熱する! 死ぬのは貴様の方だ。若僧、そもそも俺とお前とでは、戦いの年期からして違っていたんだよ……」
『メタル・ジャスティス』が引き寄せたナイフだ! ザシュッ! 飛来したナイフが、今度は過たずにグリージョの伸ばした腕を切り落とした。肉の焼ける厭な臭いを伴って。超音波振動で加熱されたナイフの刀身が、腕を切り落とす際に傷口を焼いていたのだ。
同時に、戻ってきた弾丸はグリージョの足の内部へと到達したところで、液体金属の鞭となって両足を内側から切り落とす。『メタル・ジャスティス』の拳に押され、バランスを崩したグリージョの胴体は、脚から滑り落ちて床へと倒れ込んだ。
「へっ! ぬぁーにが『無敵のスタンド使い』だ! 一々てめぇなんぞに構ってらんねーんだ、わりーけど撃ち殺させてもらうぜ」
 手足を切り落とされて倒れ込んだグリージョに安心したのか、スォーノが拳銃を片手に彼の元へと近寄る。しかし、彼はあまりにも吸血鬼を知らなさすぎた。それが、悲劇を招いた。
 スペースリパー・スティンギーアイズ
「空   裂   眼   刺   驚!」
まさか、眼球から高圧の体液が発射されるだなんて思ってもみなかった。そして、彼のスタンドは身を守る上ではあまりにも無力すぎた。為す術もなく、眉間を撃ち抜かれたスォーノは、噴水の如く鮮血を撒き散らし、声もなく倒れていった。

スォーノ・フィウーメ―死亡

「スォーノ!」
 予測すらしていなかった敵の反撃に、愕然としたアルジェントであったが、続いて彼はこの世のモノとも思えない光景を目にした。グリージョの足の傷から伸びた血管が、切り落とされた足の先端を引き寄せ、傷口にあてがった、と見る間に、彼の足は元通りになったのである。何事もなかったかのように立ち上がったグリージョは、腕の傷に目をやり、
「焼き塞がれた傷は、自然再生までには時間がかかるか。『ノー・リーズン』、この傷をうやむやにしろ!」
ズギュゥゥゥゥゥン! 彼のスタンドが傷口に触れた次の瞬間、切り落とされたはずの腕は元通りに再生していた。掌を開け閉めして具合を確かめた彼は満足そうに頷く。
「さてと……、ちぃと時間を稼いだだけだったな!」
ニタリ、と笑ってグリージョは再び抜手を突き出した。
「くっ、『メタル・ジャスティス』!」
 既に、アルジェントは自らの敗北を理解していた。それでも、彼はあがきを見せようと、金属の盾を自らの前へとかざした。
しかし、それは『ノー・リーズン』に触れられただけであっという間に消滅し、グリージョの指はアルジェントの額へと触れた。
「貴様の血を、いただくぜ!」
 言葉を聞くのと、体から何かが抜き取られていくのを、アルジェントは同時に体感した。彼の絶叫は、しかし誰にも聞かれぬまま止んでいった。


今回の死亡者
本体名―スォーノ・フィウーメ(パッショーネの一員、味方側)
スタンド名―ディーズ・オブ・フレッシュ(空裂眼刺驚で頭を撃ち抜かれて即死)
 
 
 



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