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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第二十六話-a

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orisuta

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「一人で向かうってのも、やっぱりちょっと怖いですね……」
カツン、カツン、と階段に足音が鳴り響く。ジョルナータは、一人地下空間へと降りていた。周囲の不気味な彫刻には、なるべく目を向けないようにして歩いている。ギャングの一員らしからぬ話ではあるが、後で夢に出てこられたらどうにもかなわないからだ。

「よ、ようやく着いた……」
心底疲れ切った表情で、広間へと到着し、人気のない周囲をビクビクと見回していたジョルナータの顔が、ある一点を見た瞬間凍りついた。広間の床に、生首が!
声を出せば、居場所がばれる! 絶叫したいのを何とか堪えたジョルナータであったが、生首の口が開くのを見た時は、流石に悲鳴を上げた。

「しゃがめ! 触れられるとどうなるか判らんぞ!」
生首がしゃべった! 言葉の内容より何より、その事実に驚愕したジョルナータは腰を抜かしてへたり込んだ。が、その頭上を風音と共に何かが通り過ぎていく。
「ちっ、余計な事を言いやがる。奇襲に失敗しちまったじゃねーか」
通り過ぎたモノは、着地しながらぼやいた。立ち上がり、その方向に目を向けたジョルナータが見たのは、データで確認した通りの『ヴィルトゥ』ボスの護衛の姿であった。
緊張にゴクリ、と唾を飲んだジョルナータであったが、その時になってようやく先程の生首が、自分に忠告してくれた事に気付き、そちらへとぺこりと頭を下げた。

「あの、さっきはありがとうございました」
「そんな事はどうでもいい。お前は、ステッラのチームの新人か? ならば、俺は味方だ。元暗殺チームのメンバー、アルジェントのなれの果てが、これだ。
気をつけろ、やつは化け物になっているぞ! 敗れれば、お前もこのように死んでいるのか生きているのか判断もつかない化け物に変えられる……。早く、この場から逃げる方がいい!」
生首となったアルジェントがジョルナータに語りかけるのに、グリージョはニヤニヤしながら身動きを止めた。恐れをなしてジョルナータが逃げてくれれば、手間がかからなくて済む、というつもりのようだ。が、ジョルナータは首を横に振った。
「そうはいかないんです……。私が、戦わないといけないんです」

彼女の心の中に、逃げるという選択肢はなかった。ここで自分が逃げだせば、後から来る仲間たちに迷惑がかかる。それでは、顔向けの出来ない人がいる。そして、自分が許せなくなってしまう。だから、あくまでもジョルナータは立ち向かうつもりであった。
しかし、敵への不安もない訳はない。他人を首だけのまま生かせるということは、おそらく自分自身もまた似たような事ができるのだろう。
ならば、今までの「自分の手を汚さない」などという姿勢での戦闘など出来るどころか、「必要以上に手を汚して」なお相手の命を奪えるかどうか判ったモノではない。
それでも今回ばかりは、どんなに苦しくても、どんなに嫌な思いをしてでも、死ぬのがイヤなら、殺すつもりでやるしかない! スタンドを発現させたジョルナータに、グリージョもまたスタンドを発現させた。
 
 
 




「逃げてくれりゃあ、面倒じゃねぇのによ。時間の流れまで『うやむや』にしちまうと、相手にも俺の動きに対応できるだけのスピードをやっちまう事になるが、しゃぁねぇな……。行くぜ!」
ガオン! 遍在を偏在に変えての瞬間移動で、グリージョがジョルナータへと襲いかかる。が、当の彼女は既にその場にはいなかった。

「えっと、足蹴にするような形ですいません……。咄嗟に、他に『植え付ける』対象が見つからなくて……」
「気にする理由など無い。むしろ、この程度でやつの鼻を明かせるのならば誇るべき事だ」
瞬間移動はグリージョの専売特許ではない。ジョルナータは床に転がるアルジェントの頭へと自身を植え付けることで、グリージョの強襲を回避したのだ。そして、ジョルナータは走り出した。迎え撃つグリージョは、何のつもりか自身の腕関節にスタンドの手を向けて、こちらも疾走を開始する。

「関節を『うやむや』にしてリーチを伸ばすッ! そして、俺のパワーは、厚さ4cmの鉄板をも貫通するッ! 防げるもんなら防いでみろよ!」
岩をも粉砕する鉄拳が人間のリーチを越えて放たれる。伸びた腕は、しかしジョルナータの身に触れることなく止まった。後方へとジョルナータが再び瞬間移動していたからか? いや、それは理由にならない。グリージョは拳を突き出し、その上で体ごと突っ込んでいた。少々の位置の操作など、物ともせずに仕留める事が出来たはず。彼を止めたのは他の何モノでもない、ジョルナータの一撃であった。

その一撃は、斜め下から彼を貫いていた。小児並みの全長となったジョルナータが伸ばした骨刀は、過たずに彼の心臓を刺し貫いていた。四肢を繋げ合わせた『槍』の穂先となって。関節をうやむやにする程度の間合いでは、人体の両腕と両足を足し合わせた長さの間合いに対応出来るはずがなかった。二本の肋骨を組み合わせた穂先の形状は、まるで十字架のようであった。横たえられた側の刃は、グリージョの体内で伸びていた。
「『インハリット・スターズ』!」
四肢を繋げたままのジョルナータを、そのスタンドが抱え上げ、全力で振り回しにかかっていく。『インハリット・スターズ』のパワーでは人二人分の重みを支えるには、何らかの力を借りる必要がある。彼女は、それを遠心力に求めたのだ。

『インハリット・スターズ』は、両足を軸に凄まじい速度で独楽の如く旋回する。回転に従い、串刺しにされたグリージョまでもが振り回され、ぶつかった柱を薙ぎ倒していく。体内で伸びた骨刃が拘束し、遠心力によって穂先から逃れる事は出来ない。そして、
「そおっ……、れぇっ!」
ジョルナータが自身の身体を元通りに植え付け直したはずみに、体を支えるモノを失ってグリージョは猛烈な勢いで吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。が、すぐに何事もなかったかのように立ち上がってくるのに、ジョルナータは慄然とした。
確かに、自分は相手の心臓を貫いた。揚句、力任せに振り回して柱や壁へと打ちつけた。仮に心臓を逸れていたとしても、常人ならば全身の骨が砕け散って死んでいるはず。それだけやっても、平気で立ち上がってくるだなんて、吸血鬼とは何という化け物か!

「やってくれるじゃねぇか、嬢ちゃん。だがなぁ、この程度で俺を殺せると思うんなら大間違いだぜ」
「……………………くっ」
「だが、これほどのダメージを受けてすぐにやり合うのは、いくら俺が吸血鬼でも無理がある。そこでだ! こんなモノを俺は持ってる」
何時の間にか、グリージョの手には大量のナイフが握られていた。それを見たジョルナータの表情が変わった。もし、ナイフの軌道を『うやむや』にされたら大変な事になる!

「へぇ、気付いたか。だが、もう遅いぜ! お前は四面楚歌に陥ったんだ! 『ノー・リーズン』!」
『ノー・リーズン』の手から大量にナイフが放たれる。それらは、それぞれ異なった軌道でジョルナータへと襲いかかる。一本一本の動きを読み取る事など不可能な中、それでもジョルナータは敢然と立ち向かった。

  リブス・ブレード
「露 骨 な 肋 骨!」
不規則な動きで飛来するナイフを、再び腕から伸ばした骨刀と、スタンドの手刀で弾いていくジョルナータ。が、グリージョもまたうすら笑いを浮かべながら手を忙しなく動かしていた。
 
 
 




「ちょっぴりずつ、そして段階的にやるのがコツなんだぜ……。時間をうやむやにしたこの空間では、一度にナイフとの距離をうやむやにしちまうと、下手すりゃ『直撃した場所』をすっ飛ばして、俺の手元まで一気に戻ってきかねねぇ。それじゃあ、意味はねぇからな。距離をよォ、ちょっとずつ、ちょっとずつうやむやにしていけば、お前の背中へと確実に、軌道を自由に操作して襲いかからせることが出来るんだぜ!」
 ヒュンヒュンヒュン! 明後日の方角へと弾いたはずのナイフが、瞬間移動してジョルナータの背を襲う。彼女の反応も速い。即座に身を翻して、骨刀で、スタンドの手刀でナイフの雨を斬り払っていくが、
「駄目押しってやつだぜ!」
 パチン! 無防備な少女の背中めがけ、『ノー・リーズン』が指を鳴らすと同時に、更に大量のナイフが彼女へと襲いかかる。最初の投擲の際に、全体の三分の二程の本数を『うやむや』化させて隠しておいて、この瞬間に解除したのだ。

「!!? しまっ……!」
 気付いた頃には、既に回避など間に合わない距離へとナイフが迫る。前後から迫る大量のナイフを、ジョルナータはどうやっても防ぎきれないと理解していた。それでも、彼女は迫りくる死の運命へと抗おうと、高らかに叫んだ。
「それでもッ! 私はこんな場所では、死ねないんです!」
脳裏に大切な人の顔が過る、母と名乗る事さえ出来なかった幼い娘の顔が過る。だから、死ねない。彼と、娘と、これからを一緒に生きていきたいから――――!

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ッ!」
 スタンドと本体が背中合わせの突きの連打で、銀の驟雨を迎え撃つ。が、スタンドならばともかく、本体が、それも自分の骨などで飛来するナイフを撃ち落とせるはずがない。
骨の刃が傷つけられる痛みにジョルナータの反応は遅れ、更にナイフに込められた力は彼女のガードを力づくでこじ開けるに充分であった。ジョルナータが気付いた時には、既に数本のナイフが突きの連打をくぐり抜けて、彼女の胸元へと迫っていた。だが、その時足元から弱弱しい声が聞こえた。

「『メタル……、ジャス、ティ……ス』」
首だけのスタンドがジョルナータを庇うように宙に浮かぶ。それを前に、ナイフは急速に溶けていって、空しく床へと落下していく。その様に、安堵で足から力が抜けたのか、ジョルナータは床へとへたり込んだ。
 
 
 




「一思いに殺さなかったのが仇となったな、グリージョ。完全にスタンドが使えない訳ではない」
ニヤリと笑ったアルジェントに、グリージョは歯噛みして悔しがる。が、まだ終わった訳ではない。一気に間合いを詰めれば、仮にアルジェントがまだ金属から武器を作り上げられたとしても、深刻な影響は与えられないだろう。再び身体を遍在化させようとした彼であったが、その時ジョルナータがゆっくりと立ち上がる様に、怪訝な目を向けた。彼女は、こんな事を呟いていた。

「この感覚……、あの日の草原と同じです! 私の『インハリット・スターズ』は、まだ先があった! あなたが死ぬ寸前にまで追い詰めてくれたことと、ナイフの軌道を操作するというヒントをくれた事で、さらなる段階を見出せました。私は行きます、成長の果てへと!」
 そう言ったジョルナータの腕から、コトリ、と骨刀が落下した。本来ならば、腕から直接生やしている『露骨な肋骨』が落下するはずがない。敵対するグリージョでさえ判っていた事だ。それが、落下した。岩の床に横倒しに寝かされた骨刀は、次々とその数を増やしていく。人体の肋骨は全24本。そのうちの4本と、両腕の尺骨の、合わせて6本より構成された骨の刃を、ジョルナータは力を込めて蹴った。
ヒュッ! ヒュッ! ヒュッ! 飛来する骨刀を、グリージョはただかわしていった。別に、わざわざ弾いたり撃ち落としたりする事はない。所詮骨は骨であり、その上体から離れた肉体はただのモノでしかなく、『インハリット・スターズ』でも掌握できない以上、軌道を変えられはしない。かわしてしまえば脆い骨の事だから、壁にでも当たって折れ砕けるのが関の山だろう。

そんな観測は、しかし甘かった。ジョルナータがクイッと指を微かに動かすだけで、何故か骨刀の軌道が変化して、グリージョを襲う。おまけに、『ノー・リーズン』の拳が迎撃に動く度に、迫りくる骨刀は別の場所へと移っていって、そこから変幻自在の軌道で襲いかかってくる。『時間の流れる速度』を『うやむや』にした事が完全に裏目に出た。しかし、これは何なんだ? 先程、自分が見せたナイフの軌道操作に迫る骨刀の運用に幻惑されるグリージョに、ジョルナータは静かに語りかけた。
「私の能力は、平たく言えば『肉体の一部を自在に植え付ける』ことです。流石に、肉体を構成する分子の一つ一つまでは掌握しきれませんけど、やっと掌握の限界までたどり着けた気がします。
所で、あなたは自分の肉体がどんな風に出来ているかを知ってますか? 私達の身体を構成するモノの一つである筋肉は、巨大多核細胞である筋繊維が集まって出来たもので、更に筋繊維は細胞内器官である筋原繊維が大量に集まって出来ています。そして人体の骨格筋繊維は、一本あたりは太さ10~100μmでありながら、長さは10cmにも達します。判りやすく言えば、0.01~0.1mmの細い糸の集まりな訳ですね。で、その筋繊維を構成する筋原繊維は0.001mm 程の細さなんです。要は、ゾウリムシよりもずっと細いって事です。ちなみに、毛髪は細くても0.05mmはあります。あなたには、髪よりなお細い糸が見えるんですか? 骨刀のあちこちから伸びて、自在に操作する傀儡の糸を!」

空間を舞い踊る骨刀が、勢いを増す。が、グリージョはそれを忌々しげに見やると、手を一振りした。それだけで、指と指との間にはナイフが出現する。何処から、そんなモノを取り出したんだ?!
「『うやむや』にするって、便利だよなぁ。こんな風に、何時でも何処でも大量のモノをかさばらせずに持ち運んでられるからよォ。暗器の操作は、俺の方が上だ!」
掌を振り上げ、グリージョはナイフを投擲しようとした。だが、投擲より先に、銃声と共にナイフの先端が吹き飛んだ。同時に、突然伸びてきたコードがアルジェントの頭を持ち去っていく。

「何っ?!」
銃声の方向を見やったグリージョは、一組の男女が階段を背にして立つ姿を目にした。また、ジョルナータは二人の姿に喜びの声を上げた。アレは、ウオーヴォとベルベットだ!
「待たせたねぇ、ジョルナータ。チィとばかし準備に時間がかかってねぇ」
「アルジェントさん、あなたの受けた辱めは僕達が必ず雪ぎます。ジョルナータ、助けに来たぞ!」
 
 
 




両者の登場に、グリージョは舌打ちを漏らした。次から次へと湧いて出やがって! そちらへと跳躍しかけたグリージョであったが、
「あなたの相手は私です!」
横合いからの『インハリット・スターズ』の拳に打ち落とされ、そちらへの対応に目を向けざるを得なくなる。それでも、ウオーヴォらへとナイフの雨を放ちはしたが、

「『ダフト・パンク』!」
「何本でも撃ち落としてやるさ、『ベルベット・リボルバー』!」
蜘蛛の巣のように張り巡らされたコードに或いはからめとられ、或いは床から生えた拳銃の結界に撃ち落とされる。

三人が三者三様の忙しさの中、アルジェントは自身が手を貸す事の出来ない悔しさに唇を噛み締めていたが、そんな最中にふとある事に気付いた。
「おい、お前達が此処に来たのは何時頃だった?!」
「は、はぁ?! こんな時に何を言ってんだい!?」
「いいから、答えろ! 殺し合いの最中に、問われた事を問い返すな!」
「……あたしらがやってきたのは、深夜だよ。あんたは如何なのさ?」
 呆れ気味に答えたベルベットの質問には答えず、アルジェントは何事かを考えていたが、やがて、グリージョへと口吻を向けた。

「……判ってきたぞ。貴様の『時』は紛い物だな?
本来、時を操るスタンド能力の効果は、全世界に及ぶものだ。それぞれのスタンドが時間の歯車とがっちり噛み合ったようなものだからだろう。そうでなければ、理論上は二種類の時のスタンドの対戦が成り立てない事になるからな。
だが、貴様の場合は違う。この世界全体の『時』をうやむやにすれば、他の時のスタンドは能力を使用出来なくなる。他にも時を操るスタンドが組織に居るらしい以上、そんなことは貴様らのボスが許すはずがない。そして、周囲にも異常が簡単に気付かれてしまう為に、対応を考えられてしまうだろう。
それを避ける為には、限定された空間に於いて、『時の流れ』のうち自身が浸かっている部分だけを操作するしかない。隔離された場所で、限定的に時を操るのであれば、他の場所では時間の流れの異常は感知できない。故に、自身の能力の秘匿が保たれる。考えたモノだな。
おそらく、自分の肉体が存在する位置をうやむやにするのも同じようなものではないのか? 全世界で行えるというのならば、貴様のボスが護衛なんぞに使うはずがない。とっくの昔に、俺たちのボスを暗殺に向かわせているはずだ。どれ程厳重に警備しても、警備を無視して対象の元まで移動できるはずなのにやらないのならば、つまりは実際に出来る訳ではないのだろう?」

アルジェントが事実をすっぱ抜いたことに、グリージョは思わず苦い顔になった。
その通りなのであった。『全世界における時間の流れをうやむや』に出来るというのならば、時間の流れの内外さえもはっきりしなくなるのだから、却ってボスはそれを禁止するに決まっている。だいたい、そこまでする必要性もないのだ。自分にとって疲労を抑えるのならば、時間の流れ全体に干渉しなくても、自分の周囲の時間だけをうやむやにすればいい。言うなれば、一般的な時間干渉系のスタンドが『時の流れ』全体に関わる事の出来る水門の様なものであるとすれば、自分の能力は『時の流れ』の一部を隔離して、その中だけを操作するようなものだ。
そして、座標を『うやむや』にする事もまた然り。自分の思考で把握できる場所より先など、いくら居る場所を『うやむや』にしたところで行けるはずがない。
結局のところ、時間・空間双方における欠点を隠す為には、この地下の広間のような、他の場所から隔離された所で戦うしかない。これこそが、『ノー・リーズン』の能力の限界なのであった。
 
 
 




舌打ちする吸血鬼とは打って変わって、ジョルナータはホッと胸をなでおろしていた。時を『うやむや』にされたおかげで、相手のスタンドに如何にかついていけてはいるが、それでもうやむやになった時の中で、「持ちこたえている間の10分で作業を済ませる」という事が出来るのかどうか心配であったのだ。少なくとも、この外で時間が流れているのならば、いずれは必ずステッラ達も現れる。安堵したジョルナータの前で、グリージョは突如狂的な笑いを浮かべた。
「ククク……、その通りだぜ。だがな、元々それで問題はなかったのさ。ボスは、お前らの襲撃よりも、むしろ部下の裏切りを心配しててな。既に死んじまったやつだから敢えて話してやるがよ、『ヴィルトゥ』に所属していた『時差』を作り出すスタンド使いが裏切った時に備えることもまた、時間を『うやむや』にする理由だったのさ。俺がここに居る限り、そいつが裏切ったところで無駄だったってことさ。そして、俺は能力の弱点を知ったやつらを広間の外へと逃がす事は決してない……。御祈りでもしとくんだな。
さて、と……。わざわざお前の推測を補足してやったんだ。満足して消えやがれ!」

『ノー・リーズン』が空を薙ぐ。それだけの動作で、『距離』を『うやむや』にされて、ウオーヴォの抱えていたアルジェントの頭部がグリージョの掌へと吸い寄せられていく。それを、グリージョは鷲掴みにし、吠えた。
「こんな芸当も出来るんだぜ、俺は! URRRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYY!!!」
咆哮を合図に、鷲掴みにされたアルジェントの頭に生じた異変に、ウオーヴォさえも息を飲んだ。アルジェントが、凍りついていく!

「これが、気化冷凍法だ……。俺は、触れたモノの水分を一瞬にして気化させる事が出来る! このまま、こいつを泥団子でも握り潰すように打ち砕いてやるぜッ!」
掌に力を込めたグリージョであったが、その時彼は頭頂より凍りついていくアルジェントの口元に確かに笑みが浮かんでいるのに気づいた。

「ああん? 何を笑ってやがる? 死ぬ間際にとうとうイカレちまったのか?」
「お前は……再起不能と……侮るべきではなかったな……。俺は……、自らの誇りを……失わない! 『メタル・ジャスティス』!」
 声を合図に、彼の頭は弾けた。首の傷口から体内の鉄分全てに干渉し、作り出した無数の針を吹っ飛ばしたのだ! 死に際の全スタンドエネルギーを絞りつくしての至近距離での一撃を、グリージョでさえ避ける事が出来なかった。骨にまで突き立った針は、不思議な事にアルジェントのスタンドが消滅してなお消える事なく彼に苦痛を与え続けた。

「ふ、ふ……。水分は奪い取れても、鉄分までは奪い取れなかったな……」
バラバラに弾け飛んだ首の欠片の中で、半分に千切れた舌だけが微かに蠢いたが、それもすぐに動きを止めた。


アルジェント・ポサーテ―死亡
 
 
 



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