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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第二十六話-b

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orisuta

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「アルジェントさん!」
アルジェントの死に様に、ウオーヴォは絶叫した。彼もまた、亡兄の友の一人であり、一時旧暗殺チームで兄と肩を並べた生え抜きの暗殺者であった。その死に、ウオーヴォは悲痛な思いを抑える事がなかった。

ジョルナータもまたハラハラと涙を流していた。特別親交はなかったとはいえ、目の前で人がかくも無残に最期を遂げれば、ショックを受けないはずがない。だが、それは戦闘の最中に持つべき感情ではなかった。グリージョは、負傷の苦しみもモノともせず、彼女の隙をついた。
「もらったぜぇ!」
体内に残る針も、彼の動きを鈍らせる役には立たなかった。ジョルナータの背後へと瞬間移動して、グリージョの手刀が伸びる。彼女が気付いて、飛びずさろうとした頃にはもう遅い! が、突如彼の頭上から影が広がった。

「殺し合いってよォ……、ほんとーにムズいよなぁ。前や後ろに目ェ配ってるだけじゃ、こんな奇襲は防げねぇからなぁ!」
「9分58秒……、二秒は縮められたか。待たせたな、ジョルナータ」
上方から聞こえる声に、手刀を止めて天井を見上げたグリージョが目にしたのは、自分めがけて落下する巨大な網と、ゲル化した天井から半身を現したステッラとストゥラーダの姿であった。

彼らは、針金を編み込んだワイヤーをザイル代わりに、『スーサイド・D』の能力による『水面』から逆さ釣りとなって登場した。そして、ジョルナータが絶体絶命の窮地へと陥った瞬間を見計らって、用意していた針金製の投網をグリージョへと投げつけたのである。
上から投げつけられた投網に、
「無駄なんだよ! こんなもん、掴み取って投げ返して……」
鼻で笑ったグリージョはスタンドを使うまでもない、とばかりに腕を伸ばしたが、その時鮮烈な痛みと共に腕がボトリ、と落下し、彼は網に包み込まれた。グリージョの腕を切り落としたのはジョルナータであった。彼女は、ステッラ達の出現にグリージョの意識が向けられている間に素早く距離をとるや、指先から伸ばしていた筋原織維の表面に骨刀の刃を微かに植え付ける事で、即席の暗器へと変えていたのであった。そして、それをこのチャンスに振るうことでグリージョの腕を切断したのだ。肉の糸は、そのまま切り落とした腕に巻きついてジョルナータの元へと引き寄せる。それを掌握しながらも、彼女は砕かれたアルジェントの頭の無残さを目にし、思わず涙をこぼした。が、

「ジョルナータ! 腕を奪ったのならば、すぐに階段まで戻るんだ! そこに居られると、僕達にとって迷惑だ!」
とのウオーヴォの言葉に、急いで階段際まで移動せざるを得なくなる。その位置から、ジョルナータはグリージョの反応を慎重に見守っていた。
 
 
 




**

腕を切断された事で、つかみ損ねた網にグリージョは為す術なく包み込まれてしまう。針金で編まれた網の細かな目には、液状化した石が付着していた。『スーサイド・D』の能力によって液状化したそれらは、網ごと落下する事で、能力の支配下から離れて再び固形化する。故に、吸血鬼の身体に絡みついたまま網は固められ、グリージョは身動き一つ取る事が出来ない。
「ハッハッハッ! 吸血鬼とか聞いてた割には、ざまあねぇぜ! って、……マジかよ……」
天井からのストゥラーダの爆笑は、しかしすぐに止んだ。網が、ミシミシと音を立てて形を変えていく。信じられない事に、針金を編み込んで作り上げた鋼鉄の網が、その表面を覆い尽くして固まった石の膜が、内側から力任せに引きちぎられていくではないか!

「この程度でッ! 岩をも握り潰せる吸血鬼を捕えられるとでも思ってんのかぁッ!」
バシィン! バラバラに寸断された網を軽く放り上げ、グリージョがその姿を現す。

「高々網ごときでよォ、俺を捕まえられるとでも思ってたのか? その思い上がりを後悔させてやるぜッ! この、数で押しつぶすことしか考えつかねぇ卑怯者どもめ!」
哄笑するグリージョであったが、それをステッラは、まるで中学校の生物の授業で解剖されるカエルが水槽の中で飛び跳ねているのを見るような視線で頭上から見下した。

「引きちぎるだけの筋力など、無い方が幸せだっただろうがな……。俺の能力は『殴ったモノをコイルばねに変える』能力で、その応用がコイルばねを伸ばして針金に変えることだ。バネを伸ばした針金は再び巻けばバネに戻るからいい。だが、寸断された針金はもうバネには戻す事は出来ないから、当然能力は解除される。判るな?」
「ああ? 何言ってんだ?」
「何、難しい事ではないさ。破壊した事で、投網を元の物体に戻したのは俺ではない。お前だ、というだけの話だ。そして、俺がバネにしていたモノはッ!」
数台の乗用車だッ! バラバラにされて彼の身体のあちこちにくっついていたバネが、車のパーツに戻って彼を圧し潰していき、更にガソリンを辺りへと撒き散らしていく。そこに、タイミングを合わせてベルベットがリボルバーを生やしていき、
「機械に埋もれて焼死しなッ!」
一斉射撃でガソリンに点火した!

 こうなる事を知っていたから、退避するように言っていたんだ。感謝の目で見つめるジョルナータに、ウオーヴォは一瞥をくれ、呟いた。
「『卑怯者』か……、馬鹿馬鹿しい。僕たちはそんな言葉を考えたことすらないな。
手段は結果が弁護する。結果を得ることも考えずに手段を選ぶなど、僕たちギャングの世界ではあってはならないというのにな。『卑劣』だなどと思ったギャングは、殺られた揚句ハエの餌にでもなった負け犬以外に居ないんだ……。
これだけは覚えておくことだな、ジョルナータ。節を守って死んだ紳士などッ! 務所に入っているコソ泥にさえ及ばないッ! 判るな? 判らないのならば今すぐギャングを止めろ」
「た……、多分判ります。ウオーヴォさん」
「『卑怯な勝利』を躊躇うべきではない、勝てばそれが正義だ」
ウオーヴォはそんな風に彼女を諭し、燃え盛る炎を見つめていた。
 
 
 




ゴオオッ! 炎が空間全体へと急速に広がっていき、残骸の下敷きとなっていたグリージョを火だるまに変えていく。が、燃えながらもグリージョはせせら笑っていた。
「なるほど、これだけの火力があれば、吸血鬼でさえも焼却する事が出来ただろうよ。だがなぁ、俺のスタンドにかかればどうってこたぁないんだぜぇェェェッ! やれ、『ノー・リーズン』!」

ガオン! 残る片腕で、体に覆いかぶさる車の残骸ごと炎をうやむやにしたグリージョであったが、消え去った炎の向こうに彼が見たのは、待ってましたと言わんばかりに微笑んで、腕を払うジョルナータの姿であった。
「おかげで助かりました。火事になっているままだったら、あなたを捕えるどころではありませんでしたからね」
その声を、グリージョははっきりと聞き取ることができなかった。突如、彼の首に何かが巻きついて、あらぬ方へと彼を引き寄せていたからだ。だが、吸血鬼の力を以てすれば、こんな拘束などすぐに引きちぎれる! 首に巻きついたモノに残った片手をかけ、引きちぎろうとしたグリージョであったが、それが思いがけない事にぬらりとした触感であったことに力をかけ損なったことが彼の命運を分けた。指と指の隙間から、ビュッと噴き出した液体が、彼の両目を射抜いたのだ。視力を奪われた彼に、天井から床へと2人が『着水』する音と、ジョルナータの声がはっきりと聞こえた。

「筋原繊維を束ねてくるとでも思ってました? 残念ですけど、大間違いです。人体の腸って、実は結構長いんですよ。生きている間は、大体小腸が3mで、大腸が1.5m程の長さだそうです。合わせて、4.5mもの長さがあれば、十分鞭としての役割を果たせますよね。それも、一部分を裏返して植え付けるだけで、消化液を眼潰しとして発射できる危険な武器になるんです!」
自分の臓器を鞭にして、ジョルナータはグリージョを引き寄せたのである。人をはるかに超えるスタンドの剛力に強引に引き寄せられ、否応なしにたたらを踏んだグリージョが、足元に張られた『ダフト・パンク』に躓いて転びかかる。バランスを取ろうと伸ばした、残った片腕にジョルナータは遠慮無しに骨刀を叩き込んだ。
「ベネ。完璧だ、ジョルナータ。スタンドの能力が危険だというのならば、先ずはその能力を封じ込める状況に相手を置くべきなんだ」
相手の腕を切り落としたジョルナータに、ウオーヴォが珍しく及第点を与えるが、この絶体絶命の窮地でもグリージョは余裕を保っていた。

「てめぇらよぉ~、一つ大事な事を忘れちゃいねぇか? 俺を始末したところでもう手遅れだってことをな! こんだけ派手な物音を立てといて、ボスが気付かねぇ訳が「この空間に於いて、時間の流れは『うやむや』になっているんですよね? なら、あなたのボスの耳にこの物音が届いているかさえ怪しいモノだと思いますけど」
ジョルナータの言葉に、グリージョの顔から余裕が消えた。その通りだという事を自分でも忘れていた。このままでは護衛としての役割を果たせないどころか、ボス自身が迫る危険に気付けないのだ! 何としてでもこの場を逃れなくては!

「『ノー・リーズ……「させるか!」
メキャッ! 倒れ込みながらもスタンドを発現させようとしたグリージョの頭に、『SORROW』の蹴り上げが叩き込まれる。壁へと叩きつけられたグリージョを、今度は天井から床へと『着水』していたストゥラーダが拘束し、力任せに振り回して、再びステッラの元へと投げ返す。それを、彼は『SORROW』の横蹴りでジョルナータの元へと軌道を変え、ジョルナータもまた『インハリット・スターズ』の拳でストゥラーダの元へと吹っ飛ばす。代わる代わるに殴り飛ばされて宙を舞う彼の姿は、まるで三人で行うキャッチボールを思わせた。
その末にボロ雑巾のようになって、うつぶせに地べたへと落下したグリージョを、ステッラ達が取り囲む。吸血鬼の肉体が自然治癒していく前に仕留めようとのつもりらしいが、彼らの予想を超える速度で、グリージョの身体は元の様子を取り戻していく。彼は、息を荒らげながら立ち上がろうとした。
 
 
 




「ブッ……殺して………や……る。『ノー・リーズン』で……蹴り潰し…、腕を………取り返し…てから…、『うやむや』に……」
「はぁ、そうですか。でも、どうやって腕を取り戻すんです?  既 に 戻 っ て いる と い う の に」
ジョルナータの皮肉めいた言葉に、グリージョはふと自分が肘を突っ張って身を起こそうとしていたのに気づいた。考えてみれば、両腕を失った人間が足だけでうつぶせの姿勢から立ち上がろうとするのは至難の業である。身を起こそうと焦るあまり、その不可思議さに気付いていなかった。如何いう事だ? 視線を下げたグリージョは絶句した。奪われていたはずの自身の両腕が、掌ごと胸板に張り付いている、だと?!

「先程斬り落としたあなたの腕を、知恵の輪みたいに掌の方と切断面から同時に生やしてお返ししました。掌が自分の胸に当てられているんですから、当然スタンドも同じ状態になって、能力は自分へと帰ってきますよね。あなたは、自分の能力でこの世から消えていくんです。
……けど、あんなに惨い事をしたあなただけは、私には許せません。あなたが『うやむや』にされる前に、一つだけやらないといけない事がありますね」
「アルジェントは……、親友だった。俺には、仇を討たなくてはならない理由がある!」

肩を怒らせ、ジョルナータとステッラがグリージョへと詰め寄っていく。追い詰められたグリージョであったが、彼はそれでも自分が負けるとは思っていなかった。吸血鬼である限り、この程度の窮地はスタンドが両腕を使えなくても乗り切れる。この二名を倒してから能力を一時解除すれば、自身の肉体も完全には『うやむや』にはならないだろう、と踏んでいたのだ。
「いい気になってんじゃねーぜ! 空裂眼刺……」
「無駄ぁっ!」
瞳から体液を放とうとする予兆を察知し、『インハリット・S』の拳がいち早くグリージョの顔面へと打ち込まれる。瞬間、目が焼かれる激痛が彼を襲った。ジョルナータは相手の攻撃に先んじて、吸血鬼の眼の表面に自らの胃壁を植え付けていたのだ。

「うガアアアアアアアアアアアアアアッ! クソまみれのサナダムシ以下のクソ野郎どもがッ、この俺様によくもォッ!」
目を強酸で焼かれる激痛に、怯まない生き物などいる訳がない。身をよじって罵声を上げ、スタンドを発現させたグリージョを、二体のスタンドの拳が捉えた。
 
 
 




「テンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテン――――――」
 
 
 




「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――――――」

 前後からの拳の猛打が、容赦なくグリージョの身体を突き上げていく。吸血鬼であろうと、ジョルナータとステッラの同時ラッシュには為す術を持たなかった。
 
 
 




「――テンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンテンガ・イル・レスト(つりはとっときな)ォッ!」
 
 
 




「――無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

 両者の最後の一撃が重なり、全身を滅茶苦茶に破砕されたグリージョの身体が吹っ飛んでいく。スプーンを突っ込んでかき回したゼリーのようにグチャグチャになった吸血鬼は、粘液状になった床を突き抜けて、地面の底へと消えていった。その末路に、もはや誰一人として目を向けようともしなかった。彼らの視線は、広間の先へと向けられていた。
 
 
 




**

「此処は……? お、俺は夢を見てたのか? だが、あの苦痛は、如何考えても夢なんかの訳がねぇ……。それに、こんな場所は俺はしらねぇ。ここは一体何処なんだ!」
気がついた時、彼はどこかの夜の街にいた。ローマの住宅とは似ても似つかぬ、見慣れぬ構造をした木造の家ばかりが所狭しと立ち並び、それらの全てが没個性な黒いカーテンを閉ざしている。窓には、これまた示し合わせたように米字型の紙が張り付けられていた。
不思議に思って、とりあえず手近な家の扉を叩いてみようとした彼の耳を、サイレンの劈くような音と、機械のエンジンの重い音が打った。

(なんだ、ありゃ……? ……おい、マジかよ。何時の時代だよあの飛行機はよォ)
頭上から聞こえてきたエンジン音に、顔を上げたグリージョは、途端に頭が痛くなるのを覚えた。空を埋め尽くしていたのは、やたらに古めかしい爆撃機の大編隊であったのだ。

(ありゃ、確かアメリカの古い爆撃機だったよな……。えーと、確かB-28だか30だか……。何でそんな骨董品が、山ん中に捨てた死体から湧いたハエみてぇに空を埋め尽くしてやがんだ?)
混乱するあまり、その場に立ち尽くしていたことが不味かった、と彼が気づいたのは、サイレンの音が辺りに響き渡り、赤い火の雨が降り注いだ時であった。

「お、おい! なんだってんだよ?! こいつは、何なんだ?!!」
降り注ぐ焼夷弾の雨から逃げ出そうとしたときにはすでに遅かった。

バスッ……。衝撃と共に、そんな軽い音が彼の頭を襲った。次いで、体の中で灼熱が弾けた。グリージョのうなじを貫いて、焼夷弾が彼の体内へと没入したのである。普通の人間であれば即死出来たというのに、吸血鬼と化していた事が災いし、開いた穴は自然に治癒して体内に焼夷弾を閉じ込めてしまう。燃焼に酸素を必要とせず、摂氏2000~3000度で燃焼するエレクトロン焼夷弾が体内に植え込まれてしまうのでは、幾ら彼が吸血鬼であったとしても肉体が耐えられるはずがない。内側から巻き起る炎はすぐにグリージョの体中のありとあらゆる穴から噴き出し、松明のように彼を燃やし始めたのであった。
「ぎっ、ギャアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
表現にすることすら出来ない苦痛に絶叫しながらも、彼は自分の意識が何処かへと飛んでいくのを感じていた。それが、何処へ行くのか、なぜそうなるのかは皆目見当がつかなかった。
 
 
 




**

次に彼が気がついたのは、豪華客船の一室らしき場所であった。窓からは夜の海が見える。
「う……、ここは? い、一体何なんだ?! さっきの、あの想像を絶する苦痛は、絶対に夢なんかじゃねぇはずなんだが……」

あれは、間違いなく事実であった。だが、それでは現在のこの状況は如何説明する? 息を荒げたグリージョは、現在自分が置かれる状況を理解する助けを得ようと、部屋の中のモノを必死にひっかきまわした。そして、何の気も無しに最後に時計の底を覗いた彼は、驚愕にそれを取り落とした。
[TITANIC]。時計の底に、船の名前はそう刻まれていた。

「なっ、なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
彼の絶叫が引き金となった訳ではないが、突然船に大きな衝撃が走った。
急な揺れにバランスを崩して倒れ込んだ彼の身体の上に、衝撃で破壊された船室の家具がのしかかる。不味い事に、何かの角が頭部を破壊したらしく、手足に力が入らない。身動きもとれぬままに死を待つ中、グリージョは理解した。今、自分はタイタニック号が沈没する瞬間に立ち会っているのだと。

「まさか、これは……!」
その言葉は、最後まで紡がれる事はなかった。ドアを、窓を破って入りこんできた冷たい海水がすぐに彼を覆い尽くした。
 
 
 




**

今度彼が気がついたのは、何処かのビルの中だった。窓の外には、やけに低空飛行する旅客機が見えた。手近な机に飾られていたカレンダーは、今日が2001年の9月11日である事を教えてくれた。
この頃にもなれば、彼にも何故自分がこうなってしまったのか理解は出来ていた。コロッセオ地下での決戦に於いて、グリージョはスタンドパワーの消耗を抑える為に、『時の流れ』をうやむやにしていたが、そこに他ならぬ自分の腕を掌握したジョルナータのラッシュを受けてしまった。故に、自身は『うやむや』にされて消滅するべきであるのだが、『時の流れ』をうやむやにした事が仇になり、消滅する瞬間そのものまでが『うやむや』になってしまったのである。しかし、『うやむや』は『ない』ということではないので、自身の死という結果そのものは曖昧ながらも残っている。結果はあるにせよ、それが過程を含めて曖昧であるということが、どうも噂に聞く『ゴールド・E・レクイエム』の能力を疑似的に再現してしまったらしい。もちろん、時の影響はうやむやなだけだから、いずれはスタンドエネルギーが枯渇して、能力の効果も切れるのだろうが、それが何時になるかはわからない。あるのかないのか『はっきりしない』、それが『うやむや』なのだ。

そこまで考えて、彼はつまり自分がいかなる運命の元に置かれたかを知った。自分は、スタンドエネルギーが尽きていくまで、何時果てるともない死を繰り返さなければいけないのだ! それも、どうやら死ぬ場所も時代も『うやむや』にされて!
彼の推測を裏付けるかのように、窓の外には、今にもビルに直撃しそうなほどに迫った旅客機の姿が見えた。グリージョは、自身の息が荒くなるのを覚えた。
「こ、これは何時になったら終わるんだ!?? 俺は、俺は、どれだけ死に続ければいいんだ?! うっ、うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


今回の死亡者
本体名―アルジェント・ポサーテ(パッショーネの一員、味方側)
スタンド名―メタル・ジャスティス(半屍生人化してもなお闘志を捨てず、最後には自身の血液中の鉄分を針と変え、炸裂させて自爆)

本体名―グリージョ
スタンド名―ノー・リーズン(自身を『うやむや』にしてしまい、何度も死に続けることになって再起不能)
 
 
 



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