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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第二十五話

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orisuta

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人目を避けながら、ステッラ達は深夜のローマを歩いていく。『真実の口』へと向かう途中、彼らは各々の考えにふけっていた。その果てに、ぽつり、と彼らは声を漏らした。
「おい、ベルベット。てめぇは死ぬんじゃねぇぞ。『ヴィルトゥ』をブッ潰してから、俺がてめぇをぶっ殺すんだからな」
「はっ、おととい来なってんだ。あんたに殺られるあたしじゃないよ。……ま、そういうあんたこそ生き延びるんだね。妹さんを悲しませたくないんならさ」

ベルベットの言葉に、ストゥラーダはフン、と鼻を鳴らしていた。
「てめぇにだけは言われたくねぇな。言われるまでもねぇ。俺は死ぬもんか、ぜってぇに死なねぇぜ。トルナーレの分も生きてやるのが俺の義務だ!」
ストゥラーダが力説するその後ろで、ジョルナータはウオーヴォに話しかけていた。
「あの、ウオーヴォさん。私、この先娘を引き取ろうかと思ってるんですけど、もしよろしかったら、あの子に目をかけてあげてくれませんか?
 その、出来ればあの子の父親代わりになっていただけるとありがたいんですけど……」

そこまで言って、モジモジと口を濁したジョルナータに、ウオーヴォは呆れたような視線を向けた。その視線に、「やっぱり、駄目ですよね……」と項垂れかけた彼女であったが、
「まだ収穫もしていない小麦の売値を考えるような事は、僕は好まない。……だが、終わってから先も生きていれば、その時に考えておこう」
とのウオーヴォの返事に安心したのか、はにかんだ笑みを見せた。
だが、部下達が思い思いの会話を交わす中、ステッラだけは眉根に皺を寄せて何かを考えていた。

**

(……俺は、敗れたか)
アルジェントは、首だけになった自身の肉体を見下ろし、自嘲気味に笑った。
あの時、グリージョに額を貫かれ、吸血された彼であったが、血が急速に吸い取られる感覚に、咄嗟にアルジェントはスォーノの死体から流れる血液の中の鉄分から作った大量の針を、引き寄せて自身へと突き刺し、更に体内で人工的な血栓とする事で強引に吸血され尽くされるのを防いだのであった。
しかし、彼自身は知る由もない事であったが、吸血の際にグリージョが屍生人化させるエキスを注ぎ込んでいた状態で、血液が多量に残っていた事が災いし、アルジェントは自意識を保ったままに半ば屍生人化してしまったのである。

それに気付いたグリージョは、残忍にもその首から下だけをバラバラに切り刻む事で、彼を再起不能として苛む事に決めた。その結果が、首だけになって広場の隅に放り捨てられた現在のアルジェントであった。
半ば屍生人化した彼の肉体の大半は、粉微塵に切り刻まれ、部屋中に散らばらされてなお生きてはいるが、吸血鬼ならぬ身では、元通りにつなげる事は不可能であった。
 
 
 




(今の俺に出来る事なぞ、精々『メタル・ジャスティス』による自害程度のものか……。スォーノの忠告を聞いて、ステッラらと合流すべきだった。
が、俺はこのままでは死なん。いずれ、あいつらが必ず来る。あいつらが吸血鬼とやらを倒す上で微力でも手助けをして、この恥を雪ぐまでは生きなければ……)
その思いだけを頼りに、歯噛みして見つめてくる生首に、グリージョはへらへらとした笑いで返した。しかし、その時両者の耳に階段を下りてくる足音が聞こえた。
「ああん? ここにきやがんのは誰なんだ? ここしばらく幹部がボスに謁見するこたぁねぇんだがな。
まさかてめぇの仲間ってぇんなら、とんだバカ野郎だぜ。たった一人でこの俺に敵う訳もねぇってのによ!」

せせら笑うグリージョとは対照的に、アルジェントの顔を絶望の色が染め上げていった。
(一人……、なのか? まずい、たった一人ではこの男には勝てん!)

**

『真実の口』へとたどり着いたステッラ達。当然のことながら、昼間は観光名所であろうが、深夜には人影など無い。
それでも念を入れて周囲を確認したウオーヴォが、『ダフト・パンク』を伸ばしても触れられる生物などいないことを保証するのを待って、
「さぁて、と。これでもう後戻りはきかないよ。覚悟はいいんだね?」
と、ベルベットは『真実の口』を開こうとする。しかし、それまで無言で何かを考え続けていたステッラが突然、
「待て! やはり少し計画を変更するべきだ。俺たちは、『ヴィルトゥ』のボスを仕留める為に此処に来ているんだ。
あのデータを無条件に信じて、一度にやつらの本拠へと飛び込むのは危険すぎる。ここは俺の指示を聞いてくれ」
と彼女を止め、ジョルナータへと向き直った。

「ジョルナータ、10分だけでいい。10分の間だけ、一人でこの下に居るであろう敵を抑えてくれ。その間に、俺たちが勝つための準備を整えておく」
彼の言葉に、ベルベットらが、
「いくらなんでも、ジョルナータ一人で行かせるのは危険すぎる」
と轟々と抗議を上げる。が、彼は命令を翻さなかった。
酷な命令だと、ステッラにも判っていた。それでも、彼は敢えてジョルナータに負担を強いていた。少しでも任務を達成しやすくする上で、そうすることが最善の手段だと考えた為であった。

「確かに単純に戦闘力で考えれば、俺のスタンドの方が上だ。
だがジョルナータのスタンドは、能力の使い勝手のよさ故に大抵の状況には対応出来る。
そして、他のメンバーは下に向かうより先に、まずやってもらわなくてはいけない事がある。だからこその命令だ」
あくまでも自分の考えを曲げようとせず、ステッラはジョルナータの目をじっと見つめた。

が、彼の言葉にジョルナータは戸惑いと危険への恐怖に、スッと目をそらしてしまう。
(やはり、駄目か……)
ステッラが止むなく強要を諦めようとした時、ジョルナータがポツリと呟いた。
「……10分、だけですか?」
「そうだ。それ以上でも、それ以下でもない。ただの、10分だ。
なるべくそれよりも短く済ませられるように努力はするが、まず10分はかかると見込んでおくに越したことはない」
ステッラが保証する間、ジョルナータは彼の眼をジッと見つめ続けていた。まるで、それが本気で言っているのかを確かめられるかのように。
ステッラの言葉が終ってからも、しばらく彼女はその目を見つめていたが、やがてコクリ、と頷いた。
「……判りました。どれだけ時間を稼げるか、判りませんけど、やってみます。そうしないと、勝てないんですよね?」
頷いたジョルナータであったが、ステッラは却っていたたまれない顔で「済まない」、と小声で答えた。
 
 
 



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