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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第二十九話

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orisuta

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 スタンドパワーの乱用を避け、ベルベットの運転する車でローマ市内を駆け抜ける。車内の一行は黙りこくって『矢』を見つめていた。長い沈黙が続く中、意を決してウオーヴォが口を開く。
「ステッラ、この『矢』がどれほど重要なのか、教えてくれないか? 僕は、『矢』がスタンド能力に進化をもたらす、との噂を聞いただけだ。それが事実なのかを、僕達は知らなければならないんだ」
「そうだな、お前達には知る権利がある。そして、知らなければこの先生きていく事は出来ないだろう……。
 結論から言おう。噂は真実だ。二年前、俺はボスと先代が『矢』を巡って争う様を目にした。そして、知ったのだ。『矢』の支配者こそが全てを越える『レクイエム(鎮魂歌)』の力を得る事を、そして支配者を選ぶのが『矢』自身であるという事をッ!」
「けどさ、その全てを越える力、ってのはなんなのさ! あたしらはそれを知りたいんだよ! その力さえ得れば、『ヴィルトゥ』のボスに勝てる可能性があるってのかい?!」
「いや、それは判らない。どのような力を得るかは、俺の知るところではないからな。俺が知っているのは、ただボスが『矢』の支配者として、『キング・クリムゾン』を打倒した事実、それだけだ」
 ステッラが言葉を締めくくると、運転中のベルベットを除く全ての視線が『矢』へと向けられる。選ばれる為には如何すればいいのか、それを知る事が出来れば……。ジョルナータがポツリと呟いた。
「『矢』にこの中の誰かを認めさせる事が出来れば、『レジーナ・チェリ』を倒す事が出来るのでしょうけど……」
「……いや、残念だがそう上手くいくとは限らないな。敵のスタンドこそが最大の障害だからな。やつが『時間の流れの外』に居る限り、僕達の能力はどこまでも無力だ。いや、僕達のボスの『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の持つ謎の能力や、この中の誰かのスタンドが進化してさえ、『レジーナ・チェリ』が能力を解除しないうちは手が届かない可能性がある。下手をすれば、勝機なんてものは見いだせないかもしれない……」
 
 
 




「そんな……。『矢』を得てなお勝てないかもしれないだなんて。それじゃあ、私達は如何すればいいんですか!」
 ウオーヴォが気付いてしまった事実に、自棄になったジョルナータ。だが、それを冷静に否定する声がした。
「……いや、勝機はあるよ。『インハリット・スターズ』さ」
 ベルベットの言葉に、一同は目を見開いた。ジョルナータの驚きはなおさらだった。自分のスタンドこそが、勝利のカギ?!
「ジョルナータ。あんたのスタンドは、他人の身体の一部を奪い取ることで、そのスタンド能力の一部を使えるんだろ?」
「はい……。ですが、それが如何したんですか?」
「判らないのかい? あんたなら、ボスの身体の一部を取り込めば、その部位だけでも『時の流れの外』へと干渉出来るようになる訳さ。言うなれば、この中で『時の流れの外の世界』へと唯一入門出来るのがあんたなんだよ。
それに、ストゥラーダが伝えてくれたじゃないか。やつは、『時の流れの外に出る』能力を解除しない限り攻撃できないってことをさ。つまり、この中の誰かが襲われれば、その時逆にやつの腕でも足でも奪い取るチャンスが出来るんだ。そして、一度『時の流れの外の世界』へと入門しちまえば、あんたのスタンドの方が有利さ。今の『インハリット・スターズ』は、相当芸達者なスタンドへと鍛え上げられている。それが『時の流れの外』にも対応できるようになれば、相手のスピードやパワーが上回っていたとしても、まず『時の流れの中』へと引っ張り出す程度の事は出来るはずさ。そうすれば、『レクイエム(鎮魂歌)』の力が通じるようになる。大丈夫、きっとあたしらは最後に勝つ事が出来るよ」
 ベルベットは楽天的に見通しただけに過ぎない。相手を探知する手段がないのだから、ボスの腕を奪うなどといったことに成功する確率は限りなく低い。そして、奪い取った部位をジョルナータが使いこなせる可能性は本当にあるのだろうか? しかし、そういった暗い見通しを捨ててもなお余りある物があった。『希望』である。『レジーナ・チェリ』を倒す可能性がゼロではない、そう思えるだけでどれ程心強くなれるか、それは言葉に表せないほどのモノがあった。
「ベルベットの言う通りだな、『インハリット・スターズ』こそが俺たちの要になる。ジョルナータ、お前に『矢』を預けておく。勝利の機会を得た時、それがお前の力になってくれればいいのだが……」
ステッラが『矢』を手渡したその時、ピシッ、と窓ガラスが鳴った。車内の空気が微かに揺らいだ。グン、とアクセルが踏まれ、ハンドルが急に曲げられる。運転が急速に不安定と化した車の中で、ジョルナータが驚きの声を上げた。
「い、今の音は? ベルベットさん、何があったんです?」
 しかし、返事はない。当然の事だ。当の運転手が、両耳の上に開けられた一対の銃創から鮮血を流し、虚ろな目で一方の窓にもたれかかっていたのだから。『矢』を手渡す事に注意が向けられ、全員に一瞬の油断が生じていた。その隙をついた狙撃が、過つことなく彼女の頭を撃ち抜いていたのだった。

ベルベット・フチーレ――死亡

「!!!」
 声にならない悲鳴を上げるジョルナータ。まさか、ベルベットがこうもあっけなく殺害されるだなんて、信じられなかった。だが、これが単なる狙撃でないことも理解せざるを得なかった。なぜなら、彼女の傷口にはイカの様な形をした小さなスタンドが張り付いて、一心不乱に血液を啜りこんでいたのだから。それを視認した瞬間、再びピシッという音が鳴る。二度目の狙撃が、『ダフト・パンク』で車のコントロールを取り戻そうとかがみ込んだウオーヴォへと放たれたのであった。
「危ない!」
咄嗟に、『インハリット・スターズ』の手刀が伸びる。が、ジョルナータのスタンドのスピードでは、慌てている状況で完全に弾丸を弾くのは難しい。むしろ、銃弾が窓ガラスを突き破ってから反応して間に合った事だけで奇跡的なのである。しかしこの絶体絶命の危機に、『インハリット・S』の精密動作性が発揮された。
「無駄無駄無駄無駄無駄あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!」
 『インハリット・S』の掌が鋏の形を成して、伸ばした二本の指を弾丸に絡める。そのまま、渾身の力で腕を振り抜き、力任せに銃弾の軌道を逸らしていく!
 二発目の弾丸は、誰一人傷つけることなく後部座席へと着弾する。文章にすれば長いが、実は短かった危機を切り抜けた事に、ジョルナータはホッとため息をついた。しかし、ウオーヴォは難しい顔で姿勢を元に戻した。
 
 
 




「やれやれ、今の狙撃に気を取られてしまったな。見ろ、もう『ダフト・パンク』を使っても無駄らしい」
 彼の指差した先、そこに見えたのは街路脇の壁である。ベルベットの死でコントロールを失った車は、一直線に壁へと衝突するコースを辿っていた。しかも、不味い事にジョルナータが軌道を曲げた弾丸は、如何いう結果そうなったかは知らないが後部座席を貫いた末に、ガソリンタンクへと直撃したらしい。背後からは物が燃える厭な臭いが流れてきていた。
「チッ……、不味いな。脱出するぞ、二人とも俺に掴まるんだ! ジョルナータは、狙撃への警戒を絶やすな!」
 ガン、と後部の扉を蹴り飛ばすステッラ、その言葉にウオーヴォは無言で頷き、ジョルナータは当惑をあらわにした。
「で、ですが、ベルベットさんは……、ベルベットさんは如何するんですか!」
「死体は、どんな目に遭おうが気にしない! それに、取りついたスタンドも放っておけ! 対処していれば、俺たちの脱出が間に合わなくなる! つべこべ言わずに亀を抱えろ!」

**

 『SORROW』の伸ばしたバネが、急速に縮んで3人を常夜灯の元へと引き寄せる。その後ろで、乗客を失った車が壁に激突、大破し炎上する。
 如何いう訳か、車を乗り捨てた3人が狙撃される事はない。壁の上に一先ず身を落ち着けた彼らだが、ふとある事に気付いてステッラが首を傾げる。
「妙だな。事故の物音にも、周囲の住人が姿を現さないとは……」
「……いえ、何も妙ではありません。感じるんです、『インハリット・スターズ』の能力射程の10m四方に、蟻一匹分の生命さえ存在しないのが! 在るのは、血液の一滴さえ吸われた、乾涸びた死骸ばかりです!」
 炎の柱に包まれる車の残骸。その赤々とした明りが照らしたのは、カラカラに乾ききった猫やヒトのミイラ。乾燥し尽くして燃えやすくなっているのか、飛び散る火の粉がかかった死骸はすぐに炎の塊となり、やがて灰と化す。だが、このような光景など、次に彼らが見た光景に比べれば大したことはなかった。
広がっていく炎の明るさが、家々の間を支配していた闇を駆逐する。そして、暗闇に潜んでいた者たちが遂に光に照らされる。それは、世界の理を逸脱した生命であった。
「『人狼』、『ケルベロス』、『ガルーダ』、『ヒッポグリフ』、『マンティコア』、『キマイラ』、『パ・ビル・サグ』、『窮奇』、『リザードマン』、『マフート』、『クロコッタ』、『ディープ・ワン』……。これは驚きだな。ミニチュアサイズとはいえ、古今東西の有名無名取り交ぜた様々な怪物がひしめき合っているとは。
おおかたスタンド能力の産物なのだろうが、こんなくだらないモノをよくまあ大量に用意してきたものだ。これらの本体は、ギャングをやるよりもC級映画を作った方がお似合いだろうに」
 ウオーヴォが心底呆れた、と言わんばかりのため息をつく。しかし、事態は「呆れた」で済む程度の問題ではなかった。ジョルナータの能力射程から僅かに離れた位置に姿を隠していたのは、古代から現代に至るまでの神話や創作に登場する合成生物たちであったのだ。人形程度の大きさであったとはいえ、その全てが『生命』を持つ本物であった。しかも、小さいとはいえいずれ劣らぬ獰猛さを備えている。その全てに襲いかかられれば、下手をすれば全滅する危険もあった。
 
 
 




「やれやれ、数の多さというのは厄介なものだな。ウオーヴォ、ジョルナータ、此処は俺に任せて、お前達は狙撃手を仕留めに行け!」
 ステッラが首を振って両者に命令を下したその時だった、
「そういう訳にはいきませんね。貴方の相手は別にいますし、『矢』は私が頂いていきますから……。私のスタンドが、もう少し速く、そしてもう少し力を持っていれば、此処まで大規模な手段を取らずに済んだのですが」
そのような言葉が、ジョルナータの衣服の内側から漏れると共に、『矢』がその懐から転がり落ちていったのは。3人は目にした。彼女のコートの襟から、小さな腕が矢を弾き飛ばす光景を。そして、その腕の主がコートの生地を蹴って飛び出すのを。宙を舞う小さな影を逃すまいと、ジョルナータの手が伸びる。が、それは人影に爪先がかすったところで、突如現れた巨大な腕に打ち払われた。
「『グラットニー』!」
 スタンドを発現させると共に、それまで小指の先程度の大きさであった本体が急速に本来の大きさを取り戻す。それは、黒く長い髪をなびかせる小柄な少女であった。彼女は、『矢』を拾い上げると、
「『矢』は私とズマッリート様が頂く。お前たちは犬でも相手にしていればいい!」
再び縮小して姿をくらませた。ステッラが舌打ちした。
「クソッ、『縮小』の能力か! まんまとしてやられた!」
「いえ、まだしてやられた訳じゃありません! さっき爪先をかすらせた際に、私の肉片を『植え付け』ました。10m以内ならばその位置を探知することができますから、追撃は十分可能です。……ここを任せても構わないのならばの話ですが」
「ジョルナータは『矢』を追わないといけない。そして狙撃手も仕留めないといけない。かといって、この獣どもを始末する人間がいないと、その両方が失敗するのは自明の理。ステッラ、決断を下してくれ」
 両者からの言葉、それを受けてステッラはすぐさま決断を下した。素早く考えをまとめざるを得なかった。
「よしっ、此処は俺が引き受ける! ジョルナータは『矢』を取り戻しに行け! そしてウオーヴォ、お前は狙撃手を始末しろ!」
「「了解しました(した)!」」
 命令に応じ、ジョルナータとウオーヴォがこの場を離脱する。彼女らに襲いかかろうとした合成獣を、
「『SORROW』!」
バネの反発力によるリーチとスピードで、スタンドの拳が叩き落とす。遠くに延ばした腕を元に戻し、天を衝く炎の柱を見上げながらステッラは呟いた。
「隠れるのはよせよ、いるのは分かっているんだからな。こんな有象無象だけではなく、俺の相手役のスタンド使いも用意する程度の力は『ヴィルトゥ』にないはずがないだろ?」
 呟き声でしかなかったその言葉に、しかし応えるように炎が一際高く挙がる。そして、巨大なヒトの形を成していく。どこからか声が響いた。
「ヒャハハハァッ! いや、判ってるねぇ。判ってるじゃないか、『パッショーネ』の幹部さんはよォッ! だが、生憎あんたの命もこれまでだ。なんせ、俺があんたを焼き殺しちまうからなァ。この俺の、『レッド・ホット』がよぉッ!」

今回の死亡者
本体名―ベルベット・フチーレ(味方チームの一員)
スタンド名―ベルベット・リボルバー(ズマッリートの狙撃を受けて死亡)




使用させていただいたスタンド


No.120
【スタンド名】 グラットニー
【本体】 グランデ
【能力】 物体の体積を貰ったり逆に与えたりできる

No.310
【スタンド名】 レッド・ホット
【本体】 カールド
【能力】 炎であることが能力




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