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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第三十一話

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orisuta

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その夜、トレントにて

「これで、本当に消耗しているっていうの? 『ヴィルトゥ』の外部派遣チーム……、恐ろしくなるほどの強敵ぞろいだわ」
 何人目を屠ったのか、もはや自分ですら解らない。
倒した敵に目もくれず、ポケットから取り出したレースのハンカチで頬の返り血を拭うドンナであったが、彼女?の耳が突如ピクリ、と動く。荒い息遣いが近づいてくるのが聞こえた。

「ふふ……、やられましたよ。相打ち、といっても差し支えない状況です。この方面の敵の大部分は仕留めましたが、仲間もかなりの被害を受けました」
「あ、あなた……!」
 身構えたドンナが目にしたもの、それは深手を負いながらも報告に来た自らの部下の姿であった。片目は潰れ、腕は吹き飛び、胸にパックリと空けられた穴からは地べたが覗く。おまけに、何処かへいってしまった下半身の代わりに、腰から内臓があふれ出している。紛れもない致命傷を負いながらも、彼女はただ任務の遂行を報告する為だけに上司の元まで戻ってきたのである。

「しっかり! 今、治療チームを呼ぶわ!」
「いえ、無用です。私のスタンド、『ハッピー・エンド』ならば、治療が受けられ、そして成功するまで自身を仮死状態に置く事が出来ます。
報告が済んだ以上、後はスタンドパワーを振り絞るのみです。それではドンナ様、私も命が惜しいですので、申し訳ありませんが一眠りさせていただきます。後は、お任せいたしました……」
 カチリ、とスイッチが押される。仮死状態となった部下を抱き上げたドンナは、すぐにしゃがんで物影へと彼女を安置し、ひとりごちる。
「あなたは……ここにおいて行くわ。もう誰も……これ以上傷つけたりはしないように。だから、必ず一緒に帰りましょう。私達のシマへ。
 …………出てきたらどうなの? この子をつけてきたのは、アタシの居場所を見つけるつもりだったんでしょ?」
 立ちあがったドンナの誰何に答え、次々に姿を現す影がある。
パッショーネの襲撃を生き残った『ヴィルトゥ』外部派遣チームが、せめて敵幹部を一人でも仕留めて恥を雪ぐ為に、血の帯を残しながら這いずってきた部下を追跡してきたのである。彼らと対峙するのは、今はドンナ唯一人であった。
 
 
 




 突進してくる黒い影達、その先頭を走る一人が自らのスタンドを出すより早く、
「止まって見えるわッ!」
ドンナが打ち下ろした拳が相手の顔面を捉える。スタンドの出る幕さえない、唯の一撃で勝負は決まった。
鼻はひしゃげ、眼球が飛び出す。頭蓋骨を粉々に打ち砕かれ、男は頭からアスファルトへとめり込んでいく。
一瞬の早業に、さしもの『ヴィルトゥ』指折りの面々ですら度肝を抜かれたのか、つんのめり気味に足を止める。その中の一人が、指を上げて目を剥いた。

「お、お前は、まさかウォモ・デッラ・ドンナなのか? 元ヘビー級世界チャンプのボクサーであった、あのドンナだというのか?!」
「あら、アタシの事をまだ覚えてた人がいただなんて意外ね。こんな、八百長と賭博に関わったが為にボクシング界を追放された人間をね……
けど、そんな事は如何だっていいのよ。今重要な事は一つだけ。たとえ死んでも、アタシの部下には誰の指一本すら触れさせはしない。
どれ程多くの相手がかかってきても、たった一人のアタシが恐れずに立ち向かうのは、マリア様がイエス様を生んだことよりも確かな話。
数の優位を当てにする、というのなら、さあ、かかってきなさい!」

 ファイティングポーズをとるドンナ。だが、その後ろから、
「いーや。生憎こいつらは数でも負けてるぜ。俺たちは、“有能なメンバー”を出し惜しみしていた訳じゃねぇからな」
「ミスタちゃん!」
突然放たれた銃声を合図に、道路の前後からそれぞれ数人のスタンド使いが姿を現す。
挟撃された事に意表を突かれた『ヴィルトゥ』のギャングたち、しかし彼らの希望を完全に断ち切ったのは、自分らの背後から現れた敵の先頭に立つ男の姿であった。
「じょ、ジョルノ・ジョバァーナだ……。『パッショーネ』のボス自ら北イタリアを制圧しに現れた……」
 絶望の呻き声は、すぐに断末魔へと変わる。彼らは、数で劣り、スタンドの戦闘力で劣り、そして戦意でも、占める立場でも劣っていた。必然たる敗北であった。

「ぼ、ボス! 如何して、如何して此処に?!」
「話は後です。まずは、あなたの部下を治療しましょう」
 かがみこんで、構成員が失った体を新たに作り始めるボスの代わりに、歓喜に震えるドンナへと返事を返したのはミスタだった。

「北イタリアへと勢力を伸ばすのに、俺達が戦力を出し惜しみする訳がねぇだろーが。
とっととこの辺の『ヴィルトゥ』の勢力を駆逐して、南イタリアに残したメンバーと南北からローマを確保する。これが俺たちの戦略だ。
ほれ、おめーはさっさとトレントを仕切る幹部を叩きに行けっての」
 まるで関わり合いになるのを恐れるかのように、犬でも追うような声で答えたミスタであったが、ドンナはそんなことなど全く気にしていないのか、感極まった表情で数歩歩みより、やおら金剛力でミスタを抱きかかえると、ピラニアが獲物へと襲いかかるよりも猛烈に彼の唇へと吸いついた!

 ……時が、固まった。やがて、ゆっくりとドンナがミスタの唇を解放する。唾液の橋が宙にかかった。
「これが、『大人のキッス』ってものよ、ミスタちゃん。戻ってきたら、もっとイイことしましょ?」
 舌なめずりし、ドンナはステップで新たなる敵の元へと向かっていく。

呆れたような顔でその後ろ姿を眺めていたボスは、やがてとってつけたように参謀に問い質した。
「ミスタ、大丈夫ですか?」
「オエッ……。あいつ、舌まで差し込んで来やがった……」
 参謀がゲェゲェ吐く音が深夜の街に溶けていく。いたたまれない空気が辺りに広がっていた。
 
 
 




 そして、数刻の後。ドンナはとある路地で、ヨーイーチと名乗る『ヴィルトゥ』の幹部と対峙していた。
現在、ヨーロッパの大半は北欧に拠点を持つ巨大ギャングの勢力下に在る。そしてこのトレントは国境に程近い都市、彼らと何時激突が生じてもおかしくはない危険地帯である。
そんな重要拠点を任された幹部が凡庸なスタンド使いであるはずがない。一色即発の状況下で、ドンナは神経が張り詰めていくのを覚えていた。

「距離は、おおよそ十歩程度。その気になれば、すぐに詰める事が出来る間合いね」
「ふ、十歩が千歩であろうが、私には易々と詰める事が出来る。それも、一瞬でな。
貴様も、哀れな事だ。よりによって、この私に、高々『耳石の操作』などと言う下らぬ能力で立ち向かってくるとは!
 容赦など行わない、貴様には恐怖すら感じる余裕も与えん! 『アクセンスター』ッ、距離を消し去れっ!」
 幹部が発現させたスタンドが、何かを抉るように手刀を突き出す。直後、男はドンナの視界からかき消えた。もちろん、本当に消えた訳ではない。空間を消滅させたことによる瞬間移動に、ドンナの目が対応出来なかったのだ。
遮るもの一つない直線、そして相手は自身の能力を知る機会すら与えられなかった。
スタンド自体のスピードは同格、と聞いているが、それならば対応は絶対に間に合わない。間に合わない以上、触れる事だけで勝負が決まる一撃必殺の『アクセンスター』が負けるはずはない。だが、彼の傲慢な見通しは、

「『フリー・フォール』ッ!」
 他ならぬ敵の拳によって顔面ごと打ち砕かれた。ドンナは、相手の姿が見えなくなった瞬間、己が本能の命じるままにスタンドの拳を突き出していたのである。
それが、瞬間移動してきたアクセンスターへとジャストミートしたのだ。未来予知が出来でもしない限り、こうは上手くいかないくらいの会心の一撃であった。
グラリ、と倒れかかった男が、信じられない、という目でドンナを見つめた。

「す……、凄みで、瞬間移動の先を探知したのか……?」
「残念、女の感よ。まったく、凄み、だなんて失礼しちゃうわね。風に吹かれたくらいでさえ耐えられないほどか弱いアタシに、凄みなんて物騒なものがある訳ないじゃない!
 グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラ――」

 唇を尖らせるドンナを背にし、『フリー・フォール』の拳が奔りだした。
一撃目で意識がトンだ、二撃目で字面通りに叩き起こされた、三度目でまた意識がトンだ、四度目からは自分が誰なのかすら分からなくなった。
数え切れない拳の乱打に、ヨーイーチの全身が破砕されていく。
「――グラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラグラツィオーソ(優雅たれ)!」
 そして、渾身のアッパーで宙へと浮き上がった時点で、彼は既に人としての形を留めていなかった。
まるで、スライムの様になって落下した肉塊からは、もはやスタンドは失われていた。
「ふう……、これで終わったわね。……それにしても、この人のスタンドって、一体如何いう能力だったのかしら?」
 仮に知っていたとしたら、知った情報諸共この世から消えていただろう。そんな事とはつゆ知らず、ドンナは小首を傾げて肉泥を見下ろしていた。


今回の死亡者
本体名―ヨーイーチ(樋口耀壱? 誰それ)
スタンド名―アクセンスター(ドンナの女の感とやらで動きを先読みされ、ラッシュをくらって死亡)
 
 
 



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