第12話 悲愴
青年が再び口を開いたのは、それから30分ほど経過した頃だった。
「・・・なんか聴きたい」
「ん? あぁ~、わかった」
金髪(ブロンド)の男はおもむろに立ち上がると、壁際にあるオーディオラックに歩み寄った。
そこには、長く使い込まれていながら、未だ新品のような真新しさを保ったレコードプレイヤーが鎮座している。
彼らはアナログ音源の柔らかい音を気に入っていた。
それは“こだわり”というより、あくまでも“好み”の問題であるといえた。
それは“こだわり”というより、あくまでも“好み”の問題であるといえた。
「何聴く?」
「なんでもいい」
「あいよ」
金髪の男はライブラリから一枚のレコードを選んだ。
紙製のパッケージからビニールに包まれたDISCを取り出し、さらに丁寧にそれをプレイヤーにセットした。
紙製のパッケージからビニールに包まれたDISCを取り出し、さらに丁寧にそれをプレイヤーにセットした。
電源を入れ、皿を回し、針を落とす。
・・・聞こえてきたのは、深淵の谷底に響くような、重々しい弦楽器のアンサンブルだった。
「・・・チャイコフスキーの『悲愴』・・・
演奏は・・・ん~~ぁ~~・・・ムラヴィンスキーとレニングラードフィル?」
演奏は・・・ん~~ぁ~~・・・ムラヴィンスキーとレニングラードフィル?」
「あったり~。おまえ浪漫派すきだったっけ?」
男は椅子に戻り、もう一度深く腰掛けた。
一方で青年は、無我の境地に居るかのように空間を眺めながら、じっと曲に聞き入っていた。
チャイコフスキー作曲、交響曲第六番『悲愴』・・・
なんともミステリアスな曲だ。
交響曲には一種の形式があって、4つの楽章のうち、最後はアップテンポなのが普通である。
つまり、最後は快活・盛大に、大団円的クライマックスを迎えるわけだ。
つまり、最後は快活・盛大に、大団円的クライマックスを迎えるわけだ。
ところがこの曲は、そのクライマックスが3楽章目に出てきてしまう。
そして最終楽章はといえば・・・
その表題が示す通り、あまりにも救われない、陰鬱極まりない最後で締めくくられるのだ。
その表題が示す通り、あまりにも救われない、陰鬱極まりない最後で締めくくられるのだ。
その響きは悲劇の終幕を飾るかのようであり、運命への諦めを誇示しているともいわれる。
このように謎めいた作品であるが、チャイコフスキーはこれを「最高傑作」と自負していたそうだ。
しかし、彼はこの曲を初演した9日後、“謎の急死”を遂げたのである・・・
「・・・ねぇブルーノ」
青年が唐突に男に話しかけた。
「ん?」
「チャイコフスキーってさ、ロリコンだったんだよね」
「そりゃあブルックナーだろ」
「そうだっけ・・・ そうだっけー・・・」
青年はそう言うと、また電池が切れたように動かなくなった。
ブルーノと呼ばれた男は指先のささくれを剥きながら、漆黒のシンフォニーに耳を傾けていた。
* *
俺達を乗せた車は、再び太陽道路を走行していた。
色んなことが起こった・・・
あまりに急激すぎて、“色んな”という表現で纏めることしかできない。
まず、ヴェルデが襲われた。
その治療のために停まった駐車場には、既に敵が待ち伏せていて・・・
その治療のために停まった駐車場には、既に敵が待ち伏せていて・・・
そいつは思い出したくもないゲス野郎だった。
奴に辛勝した俺とビアンコが車に戻ると、そこは駐車場の原型を留めていなかった。
イザベラとアラゴスタも、敵の攻撃を受けていたらしい。
イザベラとアラゴスタも、敵の攻撃を受けていたらしい。
俺達は、敵の罠にまんまとはめられたというわけだ。
今は怪我も完治し、車は“何事も無かったように”ミラノへ向かっている。
車内は静かだった。
寝ている者は誰一人としていない。
みんな、黙っていた。
みんな、黙っていた。
疲れているとか、先程の戦いがトラウマになったとかいった理由ではきっとない。
「次の戦い」に備えるためだ。
「次の戦い」に備えるためだ。
俺達は敵の攻撃を掻い潜っていくうちに、少しづつ士気が高められている。
「経験値を得た」とでも言おうか・・・
「経験値を得た」とでも言おうか・・・
何としてでも、俺達は生きてネアポリスに帰らなければならない。
そういった信念が、暗黙のうちにみんなを包みこんでいたのだ。
そういった信念が、暗黙のうちにみんなを包みこんでいたのだ。
ミラノまで、あとどのくらいだろうか。
このままずっと永遠に走り続けなければならないような気がする。
このままずっと永遠に走り続けなければならないような気がする。
まるで弱音を吐いているようだが、決してそうではない。
具体的にどういうことだと聞かれれば、俺には答えられない。
具体的にどういうことだと聞かれれば、俺には答えられない。
ただ一つ言えるのは、「結果」への道程が果てしなく長く感じられるということだけだ。
ビアンコ「なぁヴェルデ・・・あとどれくらいでミラノに着くんだ?」
ビアンコも同じことを考えていたのだろうか、彼らしくない重い口調で、ヴェルデに質問した。
尋ねられたヴェルデは2~3秒の間を挟んで、ビアンコよりは僅かに軽く聞こえる口調で返答した。
尋ねられたヴェルデは2~3秒の間を挟んで、ビアンコよりは僅かに軽く聞こえる口調で返答した。
ヴェルデ「“順調だ”。予定通り、4時ころには到着するだろう」
“順調”とは、俺達の運命に対する皮肉だろうか。既に三人の刺客に襲われ、予定は大きく狂っているはずなのに。
だが現在地から推測すると、確かに予定時刻に到着できなくもない時間である。
というのも、今この車は法定速度を3倍ほどオーバーして走行しているのだ。
もしこの車に飛行機の翼があったら、余裕で離陸できそうなほどのスピードで疾走していた。
もしこの車に飛行機の翼があったら、余裕で離陸できそうなほどのスピードで疾走していた。
正直な話、俺は初めこのスピードにビビっていたが、時間が経つとすっかり慣れてしまった。
これが本当の「慣性」・・・などというつまらない洒落はやめておこう。
これが本当の「慣性」・・・などというつまらない洒落はやめておこう。
いずれにせよ、ヴェルデの運転は信用できる。
俺は運転席の後ろで、火の球のように流れていく外灯の光を眺めていた。
ジョルノ・ジョバァーナは今、何をしているのだろう。
どんなルートでミラノへ向かっているのかなど、俺には知る由もない。
どんなルートでミラノへ向かっているのかなど、俺には知る由もない。
もしかしたら彼も、敵の奇襲を受けているのでは?
しかし俺は、彼を心配してはいない。
“心配する必要がないからだ”。
“心配する必要がないからだ”。
あの人なら大丈夫だろう・・・
そんな安心感が俺にはあった。
そんな安心感が俺にはあった。
『僕のことを案ずるのはもはや愚行であり、無駄な心労に他ならない。
それよりも、まずは自分達のことを優先すべきだ』
それよりも、まずは自分達のことを優先すべきだ』
・・・俺はジョルノにそう言われているような気がした。
それから何分経っただろうか、無意識のうちに瞼が下がりかけていた俺は、“何か”を感じてふと我に返った。
この車の横、俺の目の前を、“何か”が通り過ぎた気がしたのだ。
ロッソ「・・・!! ヴェルデさん・・・」
ヴェルデ「なんだ?」
ロッソ「速度を落としたほうが賢明かと・・・
“何か”が・・・いや、『スタンド』が・・・!」
“何か”が・・・いや、『スタンド』が・・・!」
グオオォォォォォォォォォォォォォォ!!
ギギイイイイィィィィィ!!
ギギイイイイィィィィィ!!
「!!!!」
何一つ思考する余裕はなかった。
突如として車がスピンし、俺達は凄まじい重力加速度に押さえつけられた。
突如として車がスピンし、俺達は凄まじい重力加速度に押さえつけられた。
アラゴスタ「うわあぁぁぁぁぁぁッ!!」
ロッソ「『ガーネット・クロウ』───ッ!!」
ビアンコ「『エイフェックス・ツイン』ッ!!」
ギガアァァァァァァァ!!
ガッッッッッックン!!
・・・止まった。
俺とビアンコのスタンドで、回転する車の前と後ろを押さえたのだ。
どうやら、ガードレールに激突する寸前だったようだ。
どうやら、ガードレールに激突する寸前だったようだ。
ビアンコ「何事だよオイ!」
ロッソ「間違いない、敵のスタンドが近くにいるッ!
今、道路をこの車と並走していたのが見えたんです!」
今、道路をこの車と並走していたのが見えたんです!」
ビアンコ「どこだよ・・・」
ビアンコはドアを開けようとした。
イザベラ「ま、待って!」
アラゴスタ「無闇に出たら危ないよ! 敵が待ち構えているかも!」
二人はそう説得したが、俺はその意見に同意できなかった。
ロッソ「いや、“この場所は危険だ”・・・」
アラゴスタ「えっ・・・?」
ロッソ「『殺気』が迫ってくるッ・・・! しかも、かなりのスピードで!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
ビアンコ「どういうことだ・・・?」
イザベラ「・・・!」
ロッソ「まずい! ここはまずいッ!!」
ヴェルデ「お前らッ! 外へ逃げろォォ!!」
バン!
ヴェルデの一声に押され、俺達は一斉に外へ飛び出した。
ロッソ「イザベラッ!!」
真ん中に座っていたイザベラは、必然的に逃げ遅れる形になる。
俺はスタンドでイザベラの体を掴み、車外に引っ張り出した。
俺はスタンドでイザベラの体を掴み、車外に引っ張り出した。
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!
どこからともなくエンジン音が迫る。
その姿は見えない。
だが、“それ”は既に目前にあった。
その姿は見えない。
だが、“それ”は既に目前にあった。
バグアァァッシャアアァァァァ!!
「!!」
突然、俺達が乗っていた車が独りでに吹き飛んだ。
いや、恐らく“吹き飛ばされた”。
いや、恐らく“吹き飛ばされた”。
車は強風の日の紙切れのように飛んでいき、ガードレールの外に落下した。
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・
ヴェルデ「助かった・・・のか?」
アラゴスタ「少なくとも“今は”ね・・・」
ビアンコ「おい! 何だったんだよ今のは!」
ロッソ「とにかく、一ヶ所に固まらない方がいいッ! また来る可能性が高い!」
イザベラは少し腰が抜けてしまったようで、俺の肩を借りてやっと立ち上がれる状態だった。
ビアンコ「これからどうしろってんだよ!」
ロッソ「今は敵の正体を探ることしかできません・・・でもきっと反撃のチャンスがあるッ!」
真夜中とはいえ、高速道路の上に立っているだけでも自殺行為なのに、敵からの攻撃まで受けている。
はっきり言って、いま俺達はかなり危機的な状況だ。
はっきり言って、いま俺達はかなり危機的な状況だ。
ロッソ「俺が見た限りでは、最初なにか“小さなもの”が車の横を通り過ぎた・・・それから、車がスピンしたんだ」
アラゴスタ「じゃあ、後から車が吹き飛んだのは?」
ロッソ「考えられるのは・・・」
イザベラ「“敵は二人”・・・」
そう。
今までの『応報部隊』の人間たちのように、今度の敵もペアを組んで襲ってきている可能性が高い。
今までの『応報部隊』の人間たちのように、今度の敵もペアを組んで襲ってきている可能性が高い。
ヴェルデ「車が来るぞッ!」
ロッソ「・・・!」
俺達が来た方角から、ヘッドライトの明かりが見える。
一般の車だ。
一般の車だ。
ロッソ「イザベラ、行こう!」
イザベラ「うん!」
轢かれないよう、俺達は路肩へと走り出した。
ズルッ!
ロッソ「!」 イザベラ「!!」
俺達二人は、いきなり地面に足を取られた。
凍ったアスファルト・・・いや、その上にさらにオイルをぶち撒けたような滑りようだった。
ロッソ「なにィィッ!?」
ドシャッ!
バランスを崩し、俺達は転倒してしまった。
ビアンコ「おいッ!!」
アラゴスタ「危ないッ!!」
車が迫ってくる。
夜闇のせいで、ドライバーは俺達に気付いていないみたいだ。
夜闇のせいで、ドライバーは俺達に気付いていないみたいだ。
イザベラ「キャアァァァァァァァッ!!」
ロッソ「イザベラッ! “繭糸”を出してッ!!」
イザベラ「!」
『シルキー・スムース』が糸を一本吐く。
俺はそれを手に取ると・・・
俺はそれを手に取ると・・・
ロッソ「アラゴスタァッ!!」
ドバアァ!
安全な場所にいるアラゴスタに向かい、『ガーネット・クロウ』でイザベラを放り投げた。
ロッソ「“糸”を巻き取れェッ!!」
シュルルルルル!
“糸”に引っ張られて、俺の身体が宙を舞った。
アラゴスタ「うぉッと!」
ガシッ
『スターフライヤー59』がイザベラを受け止めてくれた。
それに続いて、俺もアラゴスタの近くに着地した。
それに続いて、俺もアラゴスタの近くに着地した。
ロッソ「よかった、助かっ・・・」
ギイィィィィィィィ━━━━━━!!
耳をつん裂くブレーキ音が背後で炸裂する。
俺は後ろを振り向いた。
俺は後ろを振り向いた。
「何ィッ!?」
俺達全員、呆然とした。
やってきた自動車は独楽のように回転し、路上を暴れ回っている。
そして中央分離帯に乗り上げ・・・
そして中央分離帯に乗り上げ・・・
グオォォオッ!
自動車はひらりと宙を舞った。
そしてそのまま、
グウゥゥゥ・・・
ドガッシャアァァァァ!!
ドガッシャアァァァァ!!
道路の外に落ちていった。
「・・・!」
全員が唖然とする。
───俺達と同じだ。
俺達の車と同じようにスピンした。
俺達の車と同じようにスピンした。
しかし、あの車には止められるものがなかった。
だから・・・落ちた。
だから・・・落ちた。
ゾッとした。
敵の正体がまったく分からない。
敵の正体がまったく分からない。
『二人いる』とは言ったが、それはあくまでも「仮定」であり、「確定」ではない。
もしかしたら三人かもしれないし、あるいは一人かもしれない。
もしかしたら三人かもしれないし、あるいは一人かもしれない。
あの姿なきエンジン音・・・
俺達の車を一瞬でスクラップにした。
俺達の車を一瞬でスクラップにした。
奇怪だ。
あんなのに激突されたら・・・
あんなのに激突されたら・・・
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・!
「!」
ロッソ「きたッ!」
ヴェルデ「お前ら散らばれェッ!」
ヴェルデが叫んだ。
しかしビアンコは一人動かず、音がやって来る方向を見据えながら言った。
ビアンコ「待て・・・俺が止める。『エイフェックス・ツイン』の壁でブッ潰すッ!」
ギュイン!
『エイフェックス・ツイン』の二つの衛星が、車道と垂直に、互いに離れて浮かんだ。
ビアンコ「来やがれクソ野郎ッ!」
ビアンコの“壁”なら・・・
これは・・・いけるか!
これは・・・いけるか!
俺達はその様子を緊張しながら見守った。
ドギャァッ!
ビアンコ「ヌオォォォォ━━━━ッ!!」
「!?」
突然ビアンコが大声をあげた。
───苦しんでいる。
───苦しんでいる。
イザベラ「ビアンコさん!」
アラゴスタ「え・・・“衛星”が・・・ッ!」
見ると、片方の衛星がバラバラになっていた。
無惨にも部品が飛び散ったまま、空中に浮かび漂っていたのだ。
無惨にも部品が飛び散ったまま、空中に浮かび漂っていたのだ。
アラゴスタ「まずいッ! “衛星”が壊れたら壁が張れなくなるッ!」
ロッソ「ビアンコさあぁぁぁぁん!!」
ビアンコは脚をやられていた。
『エイフェックス・ツイン』には下半身が無い代わり、二つの衛星が両足にあたる部分になっているからだ。
『エイフェックス・ツイン』には下半身が無い代わり、二つの衛星が両足にあたる部分になっているからだ。
そして・・・迫り来る“殺気”は、間違いなくビアンコに向かってきていた。
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!
ヴェルデ「『ウェポンズ・ベッド』! 」
ズウゥゥッ!
ヴェルデがスタンドを解き放つ。
ヴェルデ「『伝説のカウボーイ、マウンテン・ティムの投げ縄』ッ!」
『ウェポンズ・ベッド』は大きく振りかぶり、ビアンコに向かって縄を投げた。
ヒュルルルルルルルル
ガシッ!
ガシッ!
縄は正確にビアンコを捕らえ、目にも留まらぬ速さでヴェルデの所へ引き込んだ。
ギュウゥゥ─ン!
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・
轟音が通りすぎていく。
ロッソ「よ・・・よかった」
ビアンコ「よかったじゃあねぇッ! 近くに“もう一匹”いるッ!」
ヴェルデ「なにッ!?」
ロッソ・アラゴスタ・イザベラ「 ! ? 」
シュシュシュシュシュシュシュ
グオォォ!
グオォォ!
ドガアァ!!
アラゴスタ「ぐあぁぁぁぁ━━━ッ!!」
!!
迂闊だった。
“ビアンコの衛星を破壊した存在”が近くにいるということに、今の今まで気付かなかった。
“ビアンコの衛星を破壊した存在”が近くにいるということに、今の今まで気付かなかった。
背後から音がしたかと思うと、アラゴスタが背中から攻撃を受けて大きく吹き飛ばされていた。
ヴェルデ「アラゴスタッ!」
ギュルルルルル!
ロッソ「・・・コイツがッ!」
───その見た目は自動車の「タイヤ」のようなスタンドだった。
「タイヤ」は独りでに高速回転し、悠々と道路上を走行していた。
「タイヤ」は独りでに高速回転し、悠々と道路上を走行していた。
グルルルッ!!
イザベラ「・・・こっちに向かって・・・!」
ロッソ「危ないッ!」
バッ!
反射的に俺はイザベラに突進する。
ギュンッ!
スタンドは俺の背中を掠めて飛んでいった。
ドン
タイヤのようなスタンドは着地と同時に、バッと広がるように形状を変えた。
その姿は、巨大な団子虫のようだった。
その姿は、巨大な団子虫のようだった。
??「シブテェ野郎ドモダナァ~ッ、チョコチョコ逃ゲヤガッテヨ~!」
スタンドが喋りだした。
男でも女でもないような声だった。
男でも女でもないような声だった。
ロッソ「お前はッ・・・!」
??「ココハヤッパ・・・“同時ニ”イクノガ手堅イ方法カナァ!
ホラ、イクゼブラザー!」
ホラ、イクゼブラザー!」
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・
ヴェルデ「来るぞッ!」
「! !」
ロッソ(くそッ・・・いつまでも逃げているわけには・・・!)
本体は・・・
本体はどこにいるんだ・・・!
本体はどこにいるんだ・・・!
ロッソ「イザベラ、放れろォッ!」
イザベラ「でもッ・・・」
ロッソ「いいから早くッ!!」
??「シャアァァァァァッ!」ドン!
敵スタンドは再びタイヤのような形状に戻り、その場で高速回転を始めた。
ギュラギュラギュラギュラギュラ!!
RRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!
アラゴスタ「ロッソ! 危ないッ!」
タイヤのようなスタンドが突っ込んでくると同時に、姿なき敵も迫ってくる。
両方のスタンドが発する“殺意”は、全て俺に注がれていた。
両方のスタンドが発する“殺意”は、全て俺に注がれていた。
ロッソ「!」
俺はその場から、一歩も動かなかった。
ドガァ!!
ギュルルルルルルル!
ロッソ「グアアァッ!」
「! ?」
『ガーネット・クロウ』は、先に向かってきたタイヤのようなスタンドを受け止めた。
凄まじい衝撃と、受け止めてなおも回転し続ける敵に全身がはじけるかと思った。
凄まじい衝撃と、受け止めてなおも回転し続ける敵に全身がはじけるかと思った。
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!
??「ナンダトッ!?」
見えないスタンドが、すぐ目の前まで迫っている。
??「ヤベエッ!!」
身の危険を感じた“タイヤ”は、急いで俺の所から離れて逃げ去った。
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!
ヴェルデ「ロッソォォォ━━━━━!!」
ヴェルデが絶叫する。
ロッソ(問題ありませんよ、ヴェルデさん・・・
“見えた”・・・予想通りだったッ!)
“見えた”・・・予想通りだったッ!)
バァッ!
怪我などモノともせず、俺はその場で大きく跳び上がった。
そして、轟音をあげる姿なき敵に向かって、スタンドの拳を真っ直ぐに突き出した。
そして、轟音をあげる姿なき敵に向かって、スタンドの拳を真っ直ぐに突き出した。
ロッソ「そこだアアアァッ!!」
ガッシャアアアアァァァン!!
ガラスが勢いよく割れる音が響き渡る。
そして『ガーネット・クロウ』の拳は、そのガラスの奥にいた人間の顔にクリーンヒットした。
そして『ガーネット・クロウ』の拳は、そのガラスの奥にいた人間の顔にクリーンヒットした。
??「ベギャアァァァァァァッ!」
ドゴッ!
ロッソ「うッ・・・!」
その人間がいた場所は、“トラックの助手席”。
そう、見えない敵スタンドの正体は、「見えないトラック」だったのだ。
そう、見えない敵スタンドの正体は、「見えないトラック」だったのだ。
??「アァ~~~ッ! オルトレマーレェェェェ!!」
運転席の男が慟哭している。
───さっき、俺はわざとスタンドを受け止めることで、本体を“動揺”させた。
その“動揺”の発生源を感じとり、ピンポイントで本体の位置を把握したのだ。
その“動揺”の発生源を感じとり、ピンポイントで本体の位置を把握したのだ。
もっとも、本体がいるのがこの中でなかったら・・・
俺は・・・虚しく宙を舞っていただろう・・・
俺は・・・虚しく宙を舞っていただろう・・・
ロッソ「ぐあ・・・」
俺は今、運転席に上半身だけ突っ込んだ状態だ。
割れたフロントガラスが、俺の腹に刺さっていた。
それほど深く突き刺さっていたわけではないが、先ほどのダメージと相まって動くことができない状態だった。
割れたフロントガラスが、俺の腹に刺さっていた。
それほど深く突き刺さっていたわけではないが、先ほどのダメージと相まって動くことができない状態だった。
運転手「このヤロオォォォッ! 車から離れやがれェェェッ!!」
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!
運転手の男は車体を左右に振って、俺を振り落とそうとする。
しかし、刺さったフロントガラスのせいで、俺が落とされることはなかった。
しかし、刺さったフロントガラスのせいで、俺が落とされることはなかった。
運転手「クソォォォ~~~ッ・・・おい、オルトレマーレ、しっかりしろ!」
運転手は半泣きの状態で、オルトレマーレというらしい助手席のパートナーに声をかける。
しかし、オルトレマーレはぐったりとして返事をしない。
しかし、オルトレマーレはぐったりとして返事をしない。
運転手「テメェらまとめて轢き潰してやるぅぅぅッ!!」
ギュイィ!
俺のことを諦めた運転手は、トラックを急旋回させてイザベラたちに方向を向けた。
ビアンコやアラゴスタが負傷している中、このトラックを止められるスタンドはもう無い。
ロッソ(くっ・・・どうするか・・・)
ロッソ「・・・・・・」
オルトレマーレ「・・・が」
ロッソ「・・・!」
オルトレマーレが、まだ少し意識を残していた。
ロッソ(こいつのタイヤのようなスタンド・・・能力は「転がる」だけではない・・・)
そういえば、道路の上で転倒したとき、“あるもの”が足元にあった───
ロッソ(この容態ならば・・・できるかもしれない・・・!)
DRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!
運転手「ウォォォォォォ死ねェェェェ━━━━━ッ!!」
ガクン
運転手「ハッ!」
ギュルルイィィィィィィィィィィ━━━━━!!
運転手「ヌオワアァァァァ━━━!?」
地球最後の日の如き震動とともに、トラックがスピンを始めた。
ロッソ(成功だ・・・)
間違いない。
オルトレマーレのスタンドの本当の能力、それは転がった後の地面を「極端に滑りやすくする」こと。
オルトレマーレのスタンドの本当の能力、それは転がった後の地面を「極端に滑りやすくする」こと。
転倒したとき、俺の足元にあったものは「タイヤの痕」だった。
この「痕」を車が踏めば、アイスバーンよりも滑らかな地面にスリップ、スピンしてしまう。
この「痕」を車が踏めば、アイスバーンよりも滑らかな地面にスリップ、スピンしてしまう。
オルトレマーレは、恐らくこの車内から“この車が通らない位置”に痕を残していたのだろう。
それはともかく───
なぜ、このトラックがスピンを始めたのか。
なぜ、このトラックがスピンを始めたのか。
俺は『ガーネット・クロウ』でオルトレマーレに触れ続けていた。
オルトレマーレは意識が朦朧としていたが故に、「感情」とその他の「理性」の区別が曖昧な状態に陥っていた。
その結果、俺はオルトレマーレの意識をすべて掌握することに成功し、スタンドを動かすことができたのだ。
オルトレマーレは意識が朦朧としていたが故に、「感情」とその他の「理性」の区別が曖昧な状態に陥っていた。
その結果、俺はオルトレマーレの意識をすべて掌握することに成功し、スタンドを動かすことができたのだ。
運転手「ああああああああああ━━━━━!!」
ドギャン!!
ロッソ「ッ!」
スピンが止まった。
ガードレールにぶつかって。
ガードレールにぶつかって。
その衝撃で、俺はフロントガラスからやっと解放された。
しかし、その先にあるのは────谷。
しかし、その先にあるのは────谷。
ロッソ「・・・!」
運転手「・・・へっ、ヘヘッ、ざまあぁぁみろォ! “裁き”は下ったのだァァァッ!!」
ロッソ「いや・・・まだ“裁き”は下っていない・・・俺は、ここで死ぬ運命ではない!」
グイッ!
運転手「!?」
俺が落下するのと同時に、オルトレマーレ及び運転手が谷へと引っ張られた。
運転手「ぬおッ!」
ガシッ!
運転手は驚きながらも、反射的にハンドルを掴んで抵抗した。
運転手「な・・・なんだこの“糸”はッ!?」
ロッソ「さすがはイザベラ・・・といった所かな」
俺の身体には、長~く伸びた太い“繭糸”が巻き付いていた。
俺がトラックに飛びかかる直前、彼女は俺の命綱として出してくれていたのだ。
俺がトラックに飛びかかる直前、彼女は俺の命綱として出してくれていたのだ。
そして糸の先にはまだ「余裕」があった。
俺はそれをこっそりと、オルトレマーレと運転手の足に結びつけておいたのだ。
俺はそれをこっそりと、オルトレマーレと運転手の足に結びつけておいたのだ。
ロッソ「俺と、あなたのパートナー・・・二人ぶんの体重を支えるのはつらいでしょう・・・
諦めたらどうですか?」
諦めたらどうですか?」
運転手「やめろォォォ! 一度でいいから教祖サマに・・・“スカルラット大司教”からお褒めの言葉を頂戴したいのにィィィッ!!」
『スカルラット大司教』・・・
奴らのボスはそんな名前なのか・・・
奴らのボスはそんな名前なのか・・・
ロッソ「大丈夫です・・・あなたが名誉の死を遂げれば、彼から拝んでもらえますよ・・・」
グイッ
運転手「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ついに運転手が手を離した。
俺はすかさず糸の先を切り離し・・・
俺はすかさず糸の先を切り離し・・・
ロッソ「おっと忘れていた、落ちていく前に・・・これが本当の“落とし前”ってやつです。受け取ってください・・・」
オルトレマーレ「くぅ・・・」
運転手「ああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
ロッソ「ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラガ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ノ!!」
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラウラ
ウラガ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ノ!!」
ドッギャアァァァァァァ!!
ラッシュを食らった二人は、深淵の谷底へと消えていった。
ロッソ「・・・・・・」
俺は何も考えられず、ただ垂れた糸に揺られていた。
さすがにダメージがでかい。特に“タイヤ”スタンドの激突がキツかった・・・
ロッソ「・・・・・・」ガクッ
身体は落下しなかったものの、俺の意識は真っ暗な谷底へ───
* *
BRRRRRRRRRRRRRRRRRRR・・・
───車のエンジン音が聞こえる。
目に入ってくるのは、流れては消えていく橙色の電灯。
そして・・・強い風。
ロッソ「・・・・・・」
アラゴスタ「あ、起きた!」
イザベラ「・・・ロッソ」
どうやら、俺達はトラックの荷台に乗っているようだった。
ロッソ「・・・この車は・・・」
アラゴスタ「あの“トラック”だよ。スタンドが解除されて・・・元の姿に戻ったんだよ」
運転席にはヴェルデ、助手席にはビアンコの姿が見える。
あの「見えないトラック」の正体は、ボロボロの古ぼけた軽トラックであった。
それにヴェルデの荒い運転が加わって、ミラノまで持つのだろうかと心配になるほど車は揺れていた。
それにヴェルデの荒い運転が加わって、ミラノまで持つのだろうかと心配になるほど車は揺れていた。
ロッソ「スカルラット・・・」
アラゴスタ「ん?」
ロッソ「このトラックを運転していた男が言った名前・・・『教団』のトップの名前だよ・・・
俺達が目指す人間が、ついに分かった・・・!」
俺達が目指す人間が、ついに分かった・・・!」
イザベラ・アラゴスタ「・・・!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・
太陽道路は、未だ長く続いている。
しかし、もうじき辿り着くべき場所に俺達は到着するだろう。
しかし、もうじき辿り着くべき場所に俺達は到着するだろう。
そこには・・・俺達の運命を決定づける、大きな存在が待っている。
決着のときは近い。
そして決着の場所・ミラノはもうすぐだ。
応報部隊)オルトレマーレ/スタンド名『グラン・トゥーリスモ』 →死亡。
アボーリオ(運転手)/スタンド名『デトロイト・ロック・シティ』 →死亡。
アボーリオ(運転手)/スタンド名『デトロイト・ロック・シティ』 →死亡。
to be continued...
使用スタンド
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