オリスタ @ wiki

ラストピース

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orisuta

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「本日は、公私ともお忙しい中、父の為にお集まりいただきまして誠にありがとうございます。
父もさだめし、皆様方のご厚情に感謝している事と存じます。
残りました私たち家族、まだまだ未熟者ではありますが、家業を盛り立てていく所存です。 父亡き後も、皆様方のご指導ご鞭撻の程を心からお願い申し上げ、甚だ簡単ではございますが遺族を代表し御礼のご挨拶とさせていただきます。
本日は誠にありがとうございました」


挨拶をする30代半ばらしき男とその脇に遺影を持ちうつむき気味の初老の女性。
遺影に写るのは同じく初老の男性……挨拶をした男には遺影の面影が確かにあった。



弔問席には遺影の男と同じ年代のまた別の女。



彼女は霊柩車を見送った後、1人で式場を後にし














1人、失望する。

























こうして、世界は終わった。
 
 
 




柔らかな日差しが頬を照らし、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
こんな日は僕を縛り付ける『お布団』という名前の悪魔からもすんなり解放してくれるのだ。

全く、最高の朝だなぁ……



こいつさえいなければ。



「……優衣。なんでお前は毎朝僕の部屋にいるんだ?」

「なんで?
ん~~……窓が開いてたから?」

「いや、そういう問題じゃなくて……」


言いながらも僕は知っていた。 この女には何を言っても無駄だって。


この女『天羽 優衣』は
僕『内田 徹』の所謂『幼なじみ』ってやつだ。

幼稚園の頃から家は隣同士、さらに二階の自分の部屋まで隣同士という……どこかで聞いたことのあるような環境。

更に……この優衣がなかなかの美人である事を付け加えると、大抵の男は涙目で『ギギギ……』と、虫の鳴くような音を立てて表情を歪ませる。



とは言え、僕は別に優衣と付き合っている訳ではない
本当に、ただの幼馴染みなのである。


「徹ーッ!いつまで寝てるの!?さっさと朝ご……あら、優衣ちゃん来てたの?ご飯食べてく?」

「大丈夫です~、ありがとうございます」


……ノックもせず、無遠慮に部屋に上がり込む母と
窓から不法侵入してくる幼馴染み。
部屋の主である僕の尊厳は一体どこにあるのだろう?


「はぁ……優衣、着替えるからシャツ取ってよ」

「取ってって……自分で取りなさいよ」


「男にはそういう訳にはいかない理由があるんだよ」

「……あー、ハイハイ。
勃起してんのね、可哀想に『彼女』とはご無沙汰かぁ~」

「それはいけないわ、セックスレスは離婚の理由として正式に認められてる程の問題よ!」


「……違うって、ただの朝勃ちだよ」

「何て事!やりまくりだって自白したわッ!」

「徹……ちゃんと避妊はしなきゃ駄目よ?」


「……もういいから出てってくれよ」
 
 
 




――ガチャッ

「いってきまーす」

「ごちそうさまでした~!」

「……結局、朝飯食ってたじゃん」

「だって用意してくれてあったんだもん、食べないなんて失礼じゃない」

「まったく……」


「おはよう、徹くん」

不意に後ろから声をかけられ、振り向くとそこには学園のマドンナ『寺沢 葉子』の姿があった。

彼女の家は僕の家から学校へ向かっていく途中にある。
つまり、彼女はわざわざ一度反対方向にある僕の家へとやって来た訳だ。
その理由とは……

言わずもがな、彼女が僕の『彼女』という事だ。
しかも、この前当たる事で有名に占い師に観てもらったら
彼女と僕は『ソウルメイト』だと言われた。


それはパズルのピースのように

刀と鞘のように


二人で一つ。

魂で深く繋がっているから、例え生まれ変わっても必ず巡り会い、結ばれると。


こんな話を信じるなんて馬鹿げてると思われるだろうけど、男ってのはロマンチストだからね。


因みに、ソウルメイトでない普通の男女は『元素』に例えられるらしい

たとえば、水素と酸素は結びついて水になるけど
別に結びつけるのはそれだけじゃあない。
水素も酸素も別の元素と結びつく事が出来るからだって。


「あら、寺沢さん。わざわざ迎えに来なくても私がコイツをちゃんと学校に連れて行くわよ~」

「おはよう、天羽さん。
うん、でも学校だと徹くんと校舎が違うし……出来るだけ一緒にいたいから……ね?」

「そっか~、大変じゃない?
まぁ寺沢さんが良いならいいけど……
じゃ、『三人』で学校に行きましょうか!」


「あ、そうだ。急がなきゃ遅刻しちゃうぜ(優衣……ッ!空気読めよ!)」


こうして僕らは三人で学校へ向かう……
寺沢さんの貼りつけたような笑顔が逆に怖い。
 
 
 




僕と優衣が教室に着くと、朝っぱらから何やら重々しい雰囲気だった。


「おいっす、高橋。
なんかみんな暗いけど何かあったの?」

机に鞄を置きながら前の席の友人に声をかける。

「あぁ……朝、先生達が集まって緊急会議をしてたんだよ。
ほら、例の『通り魔』……
殺されたのがうちのクラスの……」

そう言って高橋は顎で僕の隣の席を指す。


「………!そんな……北島……ッ!」


僕は力なく自分の席へ腰を落とす……
北島……消しゴムを貸してくれた恩は卒業まで忘れないよ。


――ガラガラガラッ!

教室の扉が乱暴に開け放たれるとクラスの担任が大きな足音を立てて教壇に上がる。

「おーーッすお前ら!おはよう!
今日はHRの前に重大発表がある!
昨日ついに通り魔の被害にうちの生徒があってしまった!
被害者『達』の中にはうちのクラスの北島も含まれる……まずは一分間の黙祷だ!
………黙ッ!
………祷ォォオ!!!」



……………………………


……………………………


………………………


…………………



「おーし!終わりだ!
次に対策を発表する!
戦闘タイプの生徒は学校が終わったら自警団を結成して街に出ろ!
教師が引率する!


非戦闘タイプの奴らは集団下校だ!
戦闘タイプの奴を何人か混ぜるッ!
通り魔と出くわして戦える奴がいなくちゃ話にならないからなッ!」


「先生!さっき被害者『達』と言われましたが、北島以外に誰がやられたんですか!?」


高橋が大きく手を挙げ質問する。
その事は、確かに僕も気になっていた。


「……聞きたいのか?ならば教えよう。
殺されたのは各部活の部長、並びに副部長……!
そして目撃者の北島だ」
 
 
 




その瞬間、クラスの空気が凍り付いた。

各部活の部長と言えば、この学園の中でも最強と言われている人達であるからだ。
恐らくこのクラス全員でかかってもまず勝てない人達だ。


「これは我らが学園に対する挑戦である!
現在、職員、生徒会、各委員会が対策を練っている。
追って指示があるまでは先ほどの指示を守れ。
これは降星学園始まって以来の戦いになるだろう……
もし、敵と出会っても犬死にはするな!
最低でも手傷を負わせるか、能力を解き明かしてから死ね!
自分の死が敵を倒す道筋を作り出す事を誇りに思え!」





……最悪だ、言ってる事が無茶苦茶だ、このハゲ。




僕らの通う降星学園は
太平洋のど真ん中に位置する孤島に建てられた巨大な学校で、学園自体が既に都市と化している。
ここに通える生徒は世界中でもごく僅かしかいない。
経済力でも学力でもなく、ただ一点のみで入学の合否が決まる……それは『スタンド』の才能があるかないかという事。

表向きには才能ある子供を集めて、世界に有益な人物を輩出させるのが目的とされているけれど、本当の目的は『スタンド能力の軍事利用』とも言われている。


僕と優衣、それに寺沢さんは親がこの島で働いているため実家から通っている。
僕ら以外に、もちらほらそういう生徒もいるが、寮で一人暮らしの生徒がほとんどだ。




僕の能力は戦闘向き……帰宅する側には回れないだろう。
でも、まだ帰宅する非戦闘タイプの生徒達の護衛の可能性も残されている、願わくば寺沢さんの護衛につきたいなぁ。


そんな事を思いつつ、ちらりと優衣の方を見ると
拳を作りシャドーボクシングの真似事なんかしていた。


「……あいつ、戦う気満々じゃん」
 
 
 




――――そして、放課後。


僕は、寺沢さん達のグループの護衛につく事が出来た。
方面が一緒なのが幸いしたみたいだ。

……ただ




「徹ッ!がんばろうね!二人で通り魔をやっつけよ!!」

「お……おぅ」


考えても見れば家が隣同士なんだから優衣も一緒になるのは当然の事だった。

「徹くん、よろしくね」

「任せてよ、寺沢さんは僕が無事に家まで送り届けるから」


邪魔者はいるが、寺沢さんと帰れる事に違いはない。
僕は気を取り直して家路につくことにした。
















「あっついねー!みんな、アイス買って行こうよ!」

「……お前は。小学生じゃないんだからさぁ」


とは言え、一学期終盤の汗ばむ陽気では、アイスと言う誘惑に打ち勝つ事は難しい……と、言うか無理。


結局、コンビニでアイスを買い食べながら帰る事になってしまった……まぁ、でも天気も良いし、通り魔も白昼堂々と襲ってくる事なんかないか。


アイスをくわえ、だらだらとお喋りしながら僕らは歩いていた。



しばらく歩き、住宅街の入り口辺りで自警団の生徒と出会う。

「おぃすー、通り魔いた?」

「いや、いたら俺たちは今頃あの世にいるだろ」

「そりゃそうか。じゃ、僕らはこれで」

「おう、送りオオカミするなよ?」

「バカ、そんな事しないよ」


笑顔で彼らを見送り、さあ帰ろうと前へ振り向こうとした時……


僕の後ろで、何か重たい物が落ちる音がした。
 
 
 




耳をつんざくような悲鳴に、思わず体が硬直する。


「………!」


恐る恐る……ゆっくりと振り返ると、そこにはたった今見送った自警団の生徒の姿がそこにあった。


どの生徒も胴体に大きな穴が開き、既に事切れている。


「馬鹿な……彼らはたった今、反対方向に向かって歩いていった筈ッ!」


「おい!ぼさっとするな!敵だッ!」

僕らの先頭に立つ上級生の声に目線を前に向ける。


ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ



『これが……世界を牛耳る……降星学園の実……力か?』


僕らの目の前、数メートルの場所には男が1人佇んでいた。


「こ……いつはッ!?」


何かとてつもなくヤバい雰囲気を感じる。
男がそこにいるだけで、夏だってのに鳥肌が治まらない……!

「徹ッ!きっとこいつが通り魔だよ!やっつけるわよ!」


「徹くん……!逃げましょう!」


僕の後ろには優衣と寺沢さんがいる……二人とも違う事を言っていたが、そのどちらも正解とは思えなかった。

戦って勝てるとも思えなかったし

逃げ延びる事も不可能に思えた。




ふと気が付けば、殺された生徒達の体がグズグズと腐敗し嫌な臭いを放っている……

先頭にいた先輩は、いつの間にか顔面を縦に切り裂かれ、顔から何かをこぼしつつ痙攣していた。






さっきまで威勢の良かった優衣ですら、その顔面からは血の気が引き、小刻みに震えている。




「駄目だ……殺されるッ!」
 
 
 




『どうした…?かかってこない……のか?』

――ズギュウン……ッ!


男がスタンドを発現させると、大気が震え空間がねじ曲がるかのような感覚が僕らを襲う。


違う。


これは人間じゃあない。

世界がこの男を拒絶している。

この男は存在すべきではないと叫んでいる。

だけどこの男はそれを力で抑えつけてる。





この男は……世界よりも『強い』



この男が人間だとしたら……僕らはピョンピョン飛んで血を吸う蚤だ。


蚤が人間に立ち向かう……?

違う、そんなのは勇気じゃあない。



「徹ッ!やるしかないよ!覚悟を決めて!」

「逃げるのよ!死んじゃうわ……!」


「くぅ……!!」


そんな僕らを、まるで面白い見せ物を見るかのように男は嫌な含み笑いをしている。

気が付けば、悲鳴すらあげず他の生徒達の骸が足下に転がっていた……


『進むべきか……退くべきか……
決めあぐねて……いるか。
ならば……決めやすくしてやろう。
いくぞ……【キングスタープラチナ・ザ・ワールドクイーン・イン・ヘブン】!!』



音も気配も無く、一瞬でそいつは僕の前に現れた。

まるで時を止められたかのように……

それはほんの一瞬であったが、僕が死を感じとるには充分な時間だった。


「オラオラオラオラオラオラアーッ!!」


男の背後から、優衣が飛びかかりスタンドでラッシュを繰り出す!

『ッ!?』


――ドゴドグシャアーーッ!!


「ぐわあぁあーッ!?」


「……あれ!?徹ッ?」


気が付いた時には、優衣の拳を受け吹き飛ぶ僕……

だが、そのおかげで僕は男の攻撃を避ける事は出来た。


駆け寄ってきた寺沢さんに介抱されながら思考をフル回転させるが、敵の能力は全く分からない……
 
 
 




駄目だ……無理だ。

倒すどころか突破口も思い浮かばない……


「諦めちゃ駄目ッ!
私たち二人なら何とか出来る!信じるのよッ!!
だから立っ……」


――ボゴオォォオ!


言い掛けた優衣の土手っ腹に風穴が開く……

「……ゴフッ!」

口から血を流し崩れ落ちる優衣。

何とか、息はあるようだが



このままでは殺されてしまうだろう。



僕に出来る事は一つしかなかった。



――ダッ!!


震える寺沢さんの手を掴み、男に背を向けて駆け出す。


『逃げるか……だが……みすます逃がすものか』





――ボゴンッ!


痛みもなく、体に衝撃が走る。


息が出来なくなり、胸に手をやるとおびただしい出血があり、風穴が開いていた。

心臓と肺を一度に持って行かれたようだ。


隣を見ると、寺沢さんも同じ状態のようだった。




「ごめん……寺沢さん……」


それ以上は息が出来ず、
どんなに頑張ってもパクパクと、金魚のように口を動かすばかりで

















1人、後悔を抱えて














こうして、僕は死んだ。
 
 
 




『お前の連れ……は、死んだ
どうせ、お前もすぐに……同じになる』


うつ伏せに倒れる優衣の側に男は佇む。



「ゴフッ……!


あーあ……逃げられちゃったか……


そうだよね……寺沢さんの方が……大事だよね。


好きだったんだぁ……私。

ずっと、ずっと………

徹の事が……


でも彼は……ずっと彼女が好きだった……」

『ふむ、あの……男、徹と……いうのか。
最後に徹の言葉を……伝えてやろう。お前は……唯一の戦士だった
せめて安らかに……眠れ』


男は優衣の近くに屈み込み、耳元で何事か囁く……




しかし



優衣は既に視力も聴力も失ってしまっていた……


男の言葉は彼女に届かなかった。




ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ




「だったら……こんな世界……



いらない」







『……ッ!?』


消えかけの彼女のスタンド。その両腕の地球儀が回転し、世界が光に包まれる。














柄の書かれていない真っ白なパズルのピースを、少女ははめ込んで行く。


やがてそれは組み上がり、最後に一つだけピースが余る……


次のパズル、また次のパズルと組み上げていくが

やはり一つだけ、ピースが余ってしまう。


そしてそれはどれも同じ形をしていた。
 
 
 




ぽたり

涙がパズルの上に落ちる。


彼女はどの世界に於いても、唯一無二であり続ける。


どこの世界にも居ると言うことは、どこの世界にもいないのと同じなのだ。




それでも、この無限に広がるパズルのどこかにこのピースがピッタリはまるパズルがあるはずだと
彼女は信じ、新しいパズルを組み始める。



ぽとり


合わなかったピースが、先ほど壊したばかりのパズルに落ちる。



彼女は気付かない



合わないと思って壊したパズルに、ピースが余ると思って壊してしまったパズルに





ぴったりと合うピースが












確かに在ったのだ。










――END




使用させていただいたスタンド


No.1804
【スタンド名】 キングスタープラチナ・ザ・ワールドクイーン・イン・ヘブン
【本体】 通り魔
【能力】 時を止めて巻き戻して吹き飛ばして加速させることができる

No.1001
【スタンド名】 ワールズ・エンド・ガールフレンド
【本体】 天羽 優衣
【能力】 「この世界」を消滅させ、「平行世界」に移動する









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