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ロロ・ロサーノがバーのウエスタンドアを開けると、如何にも英国紳士然とした中年男性、ヘンリー・ギボンズが奥のテーブル席に座っていた。
その傍らにはウイスキーのボトルと、リボルバーの拳銃。
その傍らにはウイスキーのボトルと、リボルバーの拳銃。
「君が対戦相手だね」
「ヒヘッ その通りだヨ」
「ヒヘッ その通りだヨ」
先の戦いでは、完全に距離を取っていたロロも、今回は戦いの場に姿を現している。
もう彼のスタンド『オホス・デ・ブルッホ』は発現しているのかもしれないが、現時点では姿は見えない。
もう彼のスタンド『オホス・デ・ブルッホ』は発現しているのかもしれないが、現時点では姿は見えない。
「私の名はヘンリー・ギボンズ。英国よりサーの称号を賜っている。掛けないかね?」
ギボンズに対して油断しているわけではない。
ロロは相変わらず不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと椅子に手を取り、そしてギボンズと向き合って座った。
ロロは相変わらず不敵な笑みを浮かべながらゆっくりと椅子に手を取り、そしてギボンズと向き合って座った。
「ロロ・ロサーノだヨ。よろしくミスター・ギボンズ」
「フフッ…… それはやめてくれ。君を殺したくなる」
「フフッ…… それはやめてくれ。君を殺したくなる」
口調こそ物腰柔らかで、笑みを失くさない表情ではあるものの、殺意が本物であることは決して戦闘のプロフェッショナルなどではないロロであっても理解でき、一瞬委縮してしまう。
「じゃ……じゃあ何と呼べばいいのカナ……?」
「できればヘクター。ないしサーとでも」
「ヘヒッ……じゃあ聞いてもいいかいヘクターさん」
「できればヘクター。ないしサーとでも」
「ヘヒッ……じゃあ聞いてもいいかいヘクターさん」
「この拳銃は?」
テーブルに置いてあった拳銃を、ロロは手に取ってギボンズに尋ねる。
ロロは少しだけ、拳銃を手に取れたことを驚いていた。ギボンズは敵対者である自分に手を取らせたのだ。
見たところスタンドを発現させている様子はない。真に無防備であるというアピールなのだろうか、かえって露骨にさえも見えなくはないものの、直後にギボンズは口を開いて言い放つ。相変わらず表情は揺るがず、それがロロにとっては不気味にさえ映った。
ロロは少しだけ、拳銃を手に取れたことを驚いていた。ギボンズは敵対者である自分に手を取らせたのだ。
見たところスタンドを発現させている様子はない。真に無防備であるというアピールなのだろうか、かえって露骨にさえも見えなくはないものの、直後にギボンズは口を開いて言い放つ。相変わらず表情は揺るがず、それがロロにとっては不気味にさえ映った。
「今回の勝負、スタンドを使わんようにしないかね?」
「もう使ってるかもしれないヨ?」
「そこは紳士協定ということで、私も自身のスタンドを使わぬことを誓おう」
「何に?」
「そうだな。神にでも」
「もう使ってるかもしれないヨ?」
「そこは紳士協定ということで、私も自身のスタンドを使わぬことを誓おう」
「何に?」
「そうだな。神にでも」
その言葉は失笑を誘うほど軽薄で、吹けば飛ぶような代物であった。
だが、ギボンズはお構いなくルール説明を続けた。
だが、ギボンズはお構いなくルール説明を続けた。
「ルールは大体分かるだろ? 「ディアハンター」とかで観てるはずだ」
「フヒッ……ボクはその映画タイトルしか知らないヨ…」
「フヒッ……ボクはその映画タイトルしか知らないヨ…」
まあそうはいっても、大体は理解している。
ギボンズが弾倉を開いてそれを見せつけたように、その中には弾丸が一発だけ込められていた。
ギボンズが弾倉を開いてそれを見せつけたように、その中には弾丸が一発だけ込められていた。
「だがな、このロシアンルーレットにはもう一つルールを設けたいと思う……」
「『アタリ』の度に、自身の『スタンド』に関する『秘密』を一つずつ相手に告白する」
「『アタリ』の度に、自身の『スタンド』に関する『秘密』を一つずつ相手に告白する」
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ロロは静かに驚愕した。ギボンズ同様彼の表情も揺るぎはしないが、それでもそれが何を意味するかは分かった。
世の中にはスタンド使いが大挙して在校する学園なんてものもあるだろうが、そんなものはロロからすれば危険でしかない。
能力が露見することは、スタンド使いにとっては死活問題。
それを何故露見させるなどと……
世の中にはスタンド使いが大挙して在校する学園なんてものもあるだろうが、そんなものはロロからすれば危険でしかない。
能力が露見することは、スタンド使いにとっては死活問題。
それを何故露見させるなどと……
「ただロシアンルーレットをするだけでは画的につまらんだろう? 私たちはマイケル・チミノじゃあないんだから」
「誰ですカ? その人」
「「ディアハンター」を撮った監督だよロサーノくん」
「…………クヒッ」
「誰ですカ? その人」
「「ディアハンター」を撮った監督だよロサーノくん」
「…………クヒッ」
どこまでも不敵な男だ……
ロロはこの男を静かにそう評する。
このロロ・ロサーノ自身も、他人から見れば「不敵」と評される類の人種であるだろうが、それ自体は彼からすれば『デコイ』だ。
人は見た目が九割と言う書籍が存在するように、この不気味と取れる容姿も、イメージを形づけるのに効果的である。
ロロはこの男を静かにそう評する。
このロロ・ロサーノ自身も、他人から見れば「不敵」と評される類の人種であるだろうが、それ自体は彼からすれば『デコイ』だ。
人は見た目が九割と言う書籍が存在するように、この不気味と取れる容姿も、イメージを形づけるのに効果的である。
「それじゃあ先行後攻を決めるコイントスでもしようか……」
「ロサーノくん、君が投げるかい? これは先の戦いで破った相手から拝借した日本の硬貨だよ」
「ロサーノくん、君が投げるかい? これは先の戦いで破った相手から拝借した日本の硬貨だよ」
そう言ってギボンズが手渡した日本の硬貨(確かこれは「500円硬貨」だろうか?)を手に取る。
ヒンヤリとした金属の感覚が、手に取った瞬間ロロの手に伝わる。
ヒンヤリとした金属の感覚が、手に取った瞬間ロロの手に伝わる。
「裏の植物が描かれている方が表面だよ。そっちが裏」
「クヒッ……ご親切に」
「クヒッ……ご親切に」
そう言って、ロロはコインを右手の親指ではじく。
「表」
「裏」
「裏」
ロロが表と言ったのに対し、ギボンズは相変わらずの口調で軽く裏と言ってのけた。
左手を退けると、その中には500の面が描かれた「裏面」がそこにはあった。
左手を退けると、その中には500の面が描かれた「裏面」がそこにはあった。
「それじゃあ……先行を貰おう」
ギボンズはそう言ってリボルバーを回転させた。
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ロシアンルーレットは、どう転んでも最長6回までしか弾丸が放たれない。
その中で不利とされる後攻を選んだギボンズに対して、流石にロロも疑念を抱いていた。
追加ルールによって最大で「三つ」まで能力の秘密を露見させなければいけないこの状況に於いては、流石になにかあると思わざるを得ない。
最初から、多少疑ってはいたものの、よもやここまでとはロロも思っていなかっただろう。
その中で不利とされる後攻を選んだギボンズに対して、流石にロロも疑念を抱いていた。
追加ルールによって最大で「三つ」まで能力の秘密を露見させなければいけないこの状況に於いては、流石になにかあると思わざるを得ない。
最初から、多少疑ってはいたものの、よもやここまでとはロロも思っていなかっただろう。
「本当に後攻でいいノカイ? ミスター・ギボンズ」
「…………」
「…………」
ギボンズの表情が、少しだけ揺らいだ。
「……構わんよ。あとできればミスターとは呼ばんでほしい」
「フヒッ……分かったよミスター」
「フヒッ……分かったよミスター」
挑発による揺さぶり。多少であるが有効ではあった。
「始めようか」
ギボンズは表情をもどし、こめかみに銃口を当て、リボルバーを見ないように目をつぶりながら引金を引く。
弾丸は放たれず「アタリ」……ギボンズはふぅと息を吐いた。
「キヒッ……それじゃあ」
「ああ分かっているよ」
「ああ分かっているよ」
「私の『スタンドの名は『フリーズ・フレイム』 射程距離は2mほどで破壊力は一撃で人を仕留められるほどだ』」
確信を突いているようで突いてはいない。
射程距離はスタンドを語る上で大事な要素の一つではあるものの、この場を動けないこの状況では、あまり重要ではない。
射程距離はスタンドを語る上で大事な要素の一つではあるものの、この場を動けないこの状況では、あまり重要ではない。
「そいじゃあ次はボクだね……」
ロロもまた「アタリ」だ。
「…………キヒッ」
「それじゃあ言うヨ……『スタンド名は『オホス・デ・ブルッホ』 射程距離は長い方』……こんな感じでもいいカナ?」
「結構。では次は私だな」
「それじゃあ言うヨ……『スタンド名は『オホス・デ・ブルッホ』 射程距離は長い方』……こんな感じでもいいカナ?」
「結構。では次は私だな」
銃を手に取り、引金を引く。また「アタリ」
「『私は嘘を吐くかもしれない』」
「?? そいつはどういうことカナ??!」
「?? そいつはどういうことカナ??!」
引金を引いてすぐ、唐突に言い放たれたその言葉には、ロロもさすがに声を荒らげた。
「もちろんスタンドに関することのみだ。私のスタンドは近距離パワー型でないかもしれないし、射程距離は長いかもしれない。スタンドの名前が『フリーズ・フレイム』ではないかも」
「そして「これから嘘を吐くかもしれない」……?」
「そう言うことだ。分かってるじゃあないかロサーノくん」
「そして「これから嘘を吐くかもしれない」……?」
「そう言うことだ。分かってるじゃあないかロサーノくん」
ちょっとだけ笑みを浮かべて、ギボンズは拳銃をロロに手渡した。
これで四回目の発砲。これまで順当に来ているが、次に弾丸が放たれるかもしれない。当然ロロも、絶対的な自信があるわけではない。
もうこの時点で虚勢なのだ。
次に弾丸がこめかみを突きぬけるかもしれないと思うと、流石に恐怖は少なからず抱く。
拳銃を握る手にもおのずと力が入り、手の平に嫌な汗をかいているのも分かった。
もうこの時点で虚勢なのだ。
次に弾丸がこめかみを突きぬけるかもしれないと思うと、流石に恐怖は少なからず抱く。
拳銃を握る手にもおのずと力が入り、手の平に嫌な汗をかいているのも分かった。
「…………クヒッ」
笑っては見せたが、こめかみに銃口を突き付けた時点で、余裕などはほぼ皆無であった。
そして引金を――――引く。
そして引金を――――引く。
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カチッと音が鳴る。「アタリ」だ。
「…………」
ここまで来ると、もはや息の荒さや頬を伝う汗は、混じりけのない完全なる素である。
「おめでとう。ロサーノくん」
やはり、この男おかしい。この自信、絶対に何かある。
強い疑念は確信に変わりだしていたが、ロロは動けない。
相手が近距離パワー型のスタンドではまず勝ち目がないからだ。このトーナメントに於いて勝機があるとすれば、彼が提示したロシアンルーレットでの結果のみ。
勝敗の決し方はどうでもよいはずだ。だから運で乗り切ればそれで勝てる。
強い疑念は確信に変わりだしていたが、ロロは動けない。
相手が近距離パワー型のスタンドではまず勝ち目がないからだ。このトーナメントに於いて勝機があるとすれば、彼が提示したロシアンルーレットでの結果のみ。
勝敗の決し方はどうでもよいはずだ。だから運で乗り切ればそれで勝てる。
「…………」
「大丈夫かい?」
「……ああ大丈夫ダヨ…………じゃあ最後に「ボクも嘘を吐いてるかもしれない」」
「大丈夫かい?」
「……ああ大丈夫ダヨ…………じゃあ最後に「ボクも嘘を吐いてるかもしれない」」
ここでロロは勝負に出る。
「……嘘を………………吐くとは?」
「さっきアンタの言ったのと同じダヨ……もう吐いてるかもしれないし、これから吐くかもしれない」
「さっきアンタの言ったのと同じダヨ……もう吐いてるかもしれないし、これから吐くかもしれない」
これからというのはない。
ロロは半ば、勝利を確信していた。それゆえの「嘘を吐いているかもしれない」発言なのだ。
ロロは半ば、勝利を確信していた。それゆえの「嘘を吐いているかもしれない」発言なのだ。
「ふぅん……」
ギボンズの表情は一瞬だけ硬いものとなった。先の「ミスター・ギボンズ」と呼ばれた時のような硬い表情である。
だが、それはすぐに解け、右口元を少しだけ緩ませて拳銃を手に取る。
そして、何のためらいもなく引金を引く。
だが、それはすぐに解け、右口元を少しだけ緩ませて拳銃を手に取る。
そして、何のためらいもなく引金を引く。
ロロは勝利を確信していた。確信していたのだが、それによって構築された歓喜の「したり顔」はすぐに崩れ落ちる。
「「アタリ」だ。次は君だよロサーノくん」
ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない
絶対にありえない。
なぜこうなるのだヘクター・ギボンズッ!
なぜこうなるのだヘクター・ギボンズッ!
声を心の中にとどめることは出来ていたが、それは表情の瓦解によって既にギボンズに露見している。
どうしてあの状況で助かる。何故死なないのだ。
どうしてあの状況で助かる。何故死なないのだ。
「そんなにありえないかね?」
「ああ……もうどうでもいいかもしれないが一応言っておくと――――」
「ああ……もうどうでもいいかもしれないが一応言っておくと――――」
ギボンズの表情は、完全に勝者の「したり顔」に染まっていた。
もはやギボンズが最後に言った告白すらも耳には聞こえない。
もはやギボンズが最後に言った告白すらも耳には聞こえない。
「ひ……引金を…………フフヒッ……ひ……ひか」
「引けよ」
「引けよ」
ギボンズは、ロロを指さし厳しい口調で言い放つ。
口元は緩んでいる。
だが、目は完全にヤバい。これは人を殺すことなど厭わない殺人者の目。いや、殺人者と形容するには安すぎる、悪辣な何かなのだ。
口元は緩んでいる。
だが、目は完全にヤバい。これは人を殺すことなど厭わない殺人者の目。いや、殺人者と形容するには安すぎる、悪辣な何かなのだ。
「…………キヒッ……フヒヒヒッ」
「キハハハハハハハハハハハハハハハハ……」
「キハハハハハハハハハハハハハハハハ……」
かくして、弾丸は放たれた。
渇いた音と共に、ロロ・ロサーノのこめかみは貫かれ、テーブルに沈むのであった。
渇いた音と共に、ロロ・ロサーノのこめかみは貫かれ、テーブルに沈むのであった。
「…………最後に一言。このウイスキーはきみにやるよ」
ギボンズは、そう言って酒場を後にした。
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――――
「……キヒッ。行ったかな?」
ギボンズが去ってから十分ほど経ったところで、酒場の床下の木の板一枚を持ち上げて、ロロ・ロサーノが姿を現す。
それと同時に、机に横たわる「ロロ・ロサーノ」は姿を消し、そこには穴の空いた尻尾が現れる。
ロロ・ロサーノは「嘘を吐いていた」。
敢えて言えばその「存在自体」が嘘なのだ。
先の戦闘でレドフォードを破った戦法の流用であり、油断をした隙を狙おうと思ってはいたのだが、ギボンズの狂気に触れて、ロサーノは心身ともに勝利を諦めた。
今となっては「命あっての物種」だ。
ヘクター・ギボンズ。あれほどまでに敵わない敵となると、もはや清々しいだろう。
それと同時に、机に横たわる「ロロ・ロサーノ」は姿を消し、そこには穴の空いた尻尾が現れる。
ロロ・ロサーノは「嘘を吐いていた」。
敢えて言えばその「存在自体」が嘘なのだ。
先の戦闘でレドフォードを破った戦法の流用であり、油断をした隙を狙おうと思ってはいたのだが、ギボンズの狂気に触れて、ロサーノは心身ともに勝利を諦めた。
今となっては「命あっての物種」だ。
ヘクター・ギボンズ。あれほどまでに敵わない敵となると、もはや清々しいだろう。
「フヒッ……スペインに帰って一から出直そうとするカナ……」
ロロは、おもむろにギボンズが置いて行ったウイスキーの蓋を開けようとする。
なかなか開かない――――
なかなか開かない――――
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ギボンズは最後に、こう告白していた。
「私は能力を、すでに使っている。能力とは「凍結させる能力」だ」と。
無論、ロロはそれを聞けていないのだが、ギボンズが能力を使用していた対象は二つ。
一つは拳銃。これによって自分に対して弾丸が発射されることを確実に防いでいた。
デコイとしてコインも事前に「冷やして」いたのだが、ロロは全く気付かなかった(『フリーズ・フレイム』というスタンド名もヒントであるのに)。
そして、もう一つは――――
一つは拳銃。これによって自分に対して弾丸が発射されることを確実に防いでいた。
デコイとしてコインも事前に「冷やして」いたのだが、ロロは全く気付かなかった(『フリーズ・フレイム』というスタンド名もヒントであるのに)。
そして、もう一つは――――
「『フリーズ・フレイム』解除」
ウイスキーの蓋が開いた瞬間、ロロを光が包む。
それと同時に、ギボンズが先ほどいた酒場は、凄まじい爆音と共に木っ端みじんに爆散した。
中に「爆発寸前の液体爆弾」が入っていたのは、もう言うまでもないだろう。
それと同時に、ギボンズが先ほどいた酒場は、凄まじい爆音と共に木っ端みじんに爆散した。
中に「爆発寸前の液体爆弾」が入っていたのは、もう言うまでもないだろう。
「酒は美味しかったかい? ロサーノくん」
ヘクター・ギボンズは、再度頬を緩めた。
★勝者:
本体名 ヘクター・ギボンズ
スタンド名『フリーズ・フレイム』
スタンド名『フリーズ・フレイム』