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アイス食べたい

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orisuta

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逢ヶ浜縁がエレベーターから降り、ホテルのエントランスホールを見渡すとそこに藍澤蒼真の姿はなかった。
部屋を別々に取り、支度ができたらこのホールに集まると決めていたのだが、どれだけ縁が早起きしても先にいるのはいつも蒼真のほうだった。

しかし、今日は蒼真はそこにいなかった。
白を基調としたおしゃれなエントランスにはフロントに女性が一人立っているだけで、
ラウンジではひとりの青年がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。

縁はフロントの女性にすみません、と声をかける。
見慣れた顔の女性は縁の顔を見ると少し苦笑いをして、縁が聞く前に「お連れの方は先に外出されました」と言った。

またか、と縁は思いホールの窓のほうを見た。
窓の外の街路樹が風を受けて枝を揺らしている。

M県S市を訪れ縁の父親の足跡をたどる旅をはじめてから1週間が経つ。
蒼真が縁を置いて外へ出たのはもうこれで3度目だった。

朝の日差しがホールに差し込んでいる。
日に照らされた脚がじんわりあたたかい。
天気予報では今日も気温が20℃を超えるそうだ。

縁はつばの広い帽子を深くかぶってホテルの外へ出た。
 
 
 




「なるほど……ここがウワサのアイスクリーム屋か」

縁のいるホテルから3キロほどの場所のアイスクリーム屋の前に藍澤蒼真は立っていた。
まだ朝早い時間帯のこの界隈でも、近くの高校に通う学生や駅へ向かうサラリーマンが往来している。
蒼真が縁をホテルに残しここへ来ている理由、それはこのアイスクリーム屋のアイスを食べることだった。

「『憂鬱な月曜の朝の慰めに』……ストロベリー&チョコチップのアイスが好評なようだが」

ただひとつ、問題があった。

「……スッゲー並んでるじゃねーかッッ!!」

建物の外に向かって開かれているカウンターの前でアイスを買う客が列を作っていた。
最後尾に立つ蒼真の前には10人ほどの客が順番を待っている。
客は学生から若い主婦、子ども、お年寄りまで様々だった。
5月にしても今日は朝から暑かったので、確かにこんな日のアイスクリームは格段においしく感じられるだろう。
とはいえ、これだけの客が並ぶことは蒼真はもとより店の者も予想外だったに違いない。

「ま、まあ待つのは別に嫌いじゃない。たかが10人、たいした時間じゃない。それにまだ朝だし売り切れの心配も……」

だが、アクシデントというものは重なって起こるものである。
アイスクリーム屋から店員が申し訳なさそうな顔をして並ぶ客に向かって言った。

「大変申し訳ございません! 冷凍庫が故障してしまい、あと3つしか作ることができませぇん……」
(何ィッ!!)

蒼真は心の中で仰天する。
蒼真にとって、アイスを目の前でおあずけされることは何にも例えがたいほどのストレスなのである。
アイスを食べると決めたら食べなくては腹の虫もおさまらない。
蒼真は、なんとしてもこの店のアイスを食べなくてはならないと思っていた。

しかし、10人ほどの客に対し、店が提供できるアイスは3つのみ。
気づけば先頭の客がアイスを受け取っていた。
店員はもう次の客のアイスを準備し始めている。
蒼真の前に並ぶ客も何人かは列を離れていっていた。

(今先頭で待っている客があきらめることはまずないだろう。俺が食べられる可能性があるとすれば……残る1つのみ!)

「…………しかたねえ」
 
 
 




2人目の客が支払いをしている時であった。
陽は辺りを照らし続け、風も吹いていないというのに、急にあたりの気温が下がり始めた。
急激な気温変化のために人々は思わずあたりを見回す。
空の様子は何も変わっていっていないというのに、気温だけがぐんと下がりだした。

並んでいた薄着の女性客はたまらずそこから離れて大通りへ向かった。
2人組の主婦達もあたりを見回しながら去っていく。
支払いを済ませていた客は苦笑いをしてアイスを受け取った。

急激な気温の低下が起こった理由、それは藍澤蒼真の持つスタンド「コールド・チューブ」の能力だった。

(『コールド・チューブ』……アイスクリーム屋の周囲の気温を15℃以上低くした!
 わざわざ寒い中アイス食いたいなんてのは俺くらいだろーからなッ!)

残り1つしか提供されないアイスクリーム屋のアイス。
それを待っていた客はほとんどがいなくなっていた。

藍澤蒼真と、一人の女子高生を残して。

「はぁ~あ、急に寒くなってきた……でもガマンガマン、おかげでアイスが食べられそう」

その女子高生は体をさすりながらもアイスクリーム屋から離れようとはしなかった。

(……んなバカなッ! 気温5℃だぞ!? 耐えられない訳ではないにせよ、アイス食べたいとまでは思わないはずだろ……
 仕方ない、風邪ひかれるかもしれないが……)

蒼真はスタンド能力の効果範囲を狭め、女子高生のまわりを0℃以下まで気温を下げた。
急激な気温変化のためにあたりには白いもやが現れだす。

「…………」

しかし、女子高生は離れようとはしなかった。
そのまま前へ進み、アイスクリーム屋のカウンターの前に立った。

「ストロベリー&チョコチップのアイスひとつください!」

(何ぃぃぃいいいい!!?)

あろうことか、女子高生は身の寒さにもかかわらずアイスを注文した。
蒼真は唖然として、女子高生がアイスの代金を払い、アイスを受け取り、
店員がこちらを見てすみませんと言うように会釈をするところまで固まったまま眺めていた。

我にかえった蒼真はあわてて女子高生を探す。
女子高生はアイスを手に持ったままその場を離れようとしていた。
この店のアイスはもうしばらく買うことができない。
ふつうならあきらめるところだろうが、蒼真はアイスを食べることに関してはチンケなプライドを守る気などさらさらない。
蒼真はなんとしてもアイスを食べなくてはならない使命感を抱いていた。
 
 
 




蒼真は女子高生に近づき声をかけた。

「な、なあアンタ……」
「ひゃっ! なな、なんですか?」

突然後ろから声をかけられ、女子高生は思わず身を跳ね上がらせた。

「申し訳ないんだが、そのアイス譲って欲しいんだ!頼む!」
「なんですかあなた……」
「俺はここの店のうわさを聞きつけて、遠くからやってきたんだ……どーしてもここのアイスが食べたいんだ! 金は倍払うから、ゆずってくれ!」
「い、いやですよ! 私だって帰省してひさーしぶりにここのアイスを食べようと思っていたんです!
 なぜかはわかりませんけど寒い思いをしてまで買ったんですから、渡せません!」
「それは悪いコトしたと思ってるが……」
「え?」
「あ、あ、いやなんでもない」

思わず、気温を下げたのは自分の仕業だと言ってしまうところだったが
女子高生はきょとんとした顔を見せただけだった。

(まあ、スタンド能力なんだし、気づくはずもねーがな……)

「じゃあ、そういうことで失礼しますね」

そう言うと女子高生はくるりと蒼真に背を向けて歩き去ろうとしていた。

(ああああっ、アイスが…………こうなったら最後の手段ッ!)

蒼真は周囲の冷気をひとかたまりにし、空気中の水分を固めて人型のヴィジョンを形成した。
それをゆっくりと、女子高生の背後へ近づかせた。

そして、そーっと女子高生の持つアイスへヴィジョンの手を近づけていく……。

だがその瞬間、「コールド・チューブ」の手が指先から融けだしていった。

(な……ッ!? 気温が元に戻って融けだしたか? いや、そんなはずはない。それにしたって指先から急に融けるなんて……)


女子高生は背を向けたまま、話し出す。

「やっぱり……『スタンド使い』だったんだね」
「……いいっ!?」

このとき、蒼真は気づく。
「コールド・チューブ」は冷気のスタンド。
その性質を利用して周囲の空気と同化してサーモグラフィーと同じ働きをすることができる。

「コールド・チューブ」の指先が融けだしたのは、その女子高生自身が人並み外れた「熱」を放っていたから。
性格には、熱を放つスタンドを持っているからだった。


「『メテオ・クラッチ』っ!!」

「んなにぃっ!!」

女子高生の傍らに炎をイメージさせるスタンドヴィジョンが現れ、背後のコールド・チューブに対し殴りかかった。
振り下ろされた拳はコールド・チューブの頭部に命中し、ヴィジョンを象る氷にヒビが入り、殴られた箇所は融けてくぼみができていた。

女子高生はくるりと蒼真のほうを向き、むっとして蒼真をにらみつける。

「しつっこいんだよっ! 往生際が悪いぞ!」
「……っ!」
「スタンド使ってまでアイス食べようだなんて、卑怯としか言いようが……あああっ!」

女子高生の持っていたアイスが、スタンドの熱によってドロドロに融けてしまっていた。
チョコチップ入りの融けたストロベリーのアイスが手にダラダラ流れている。

「せっかくのアイスが……」
「そっ、それはオマエのスタンドの熱のせいだろ……」
「アンタがちょっかいださなきゃこんなことにならなかったんだっ!!」

女子高生は怒った顔で持っていたコーンを蒼真に投げつける。

「もームカついた……アンタみたいなヒトの迷惑を考えないようなヤツは、その腐った性根叩き直してやらなきゃなんないね……」

「な、何で!?」

女子高生のスタンド……『メテオ・クラッチ』は自身の怒りを表すかのようにヴィジョンの炎をいっそう高く燃え上がらせた。
それと同時にあたりの温度が一気に増していく。
それに対し蒼真は臨戦態勢を整えるため、周囲の水分を集めて冷気をかためていく。


「この『豊念寺惑火』が、アンタにキツいお灸をすえてやるっ!!」

(アイスは食えない、クソガキにインネンはつけられる……踏んだり蹴ったりだぜ。
 しかたねえ、ちょっと痛めつけて頭冷やしてもらうか……)







※ 〝アイスの因縁を機に、『熱』と『冷気』の戦いが始まる……!!〟



出演トーナメントキャラ


No.5377
【スタンド名】 コールド・チューブ
【本体】 藍澤 蒼真(アイザワ ソウマ)
【能力】 超低温の体そのもの

No.2643
【スタンド名】 メテオ・クラッチ
【本体】 豊念寺 惑火(ホウネンジ マドカ)
【能力】 殴ったものに熱を込め、弾丸として飛ばす









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