第5話 【スタンド使い ―復讐の男―】
某時刻 司令部にて
司令官「やはり、『ただの』ボランティア団体ではないようだな。『スピードワゴン財団』……か。」
コンコンッ
軍人「失礼します!」(ガチャ
軍人「先ほど西部の診療所へ向けた第二軍の十三番隊から連絡が途絶えています!また、会話履歴から『見えない何か』に襲撃されたものと思われます!!」
司令官「『見えない何か』だと?ふざけているのか?私はふざけるという事が嫌いなんだがね・・・・?」
軍人「ふざけてはいません!司令!!」
司令官「もういい!南部にいる部隊も第三軍として向かわせろッ」
軍人「了解!失礼します!!」
司令官「いや、待ちたまえ!」
軍人「はい!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
司令官「やはり、その必要はない。『アレ』を使え」
軍人「了解!失礼します!!『アレ』ですね!」
ここはとある島国の地下深くである。
もともと実験用に作られた人工の島であるため、
ほとんどが埋め立てて作られたものである。
そのため、この地下施設はかなり地底深くに存在している。
少年「ククク・・・いつもの頼むよ、メシア。」
メシアと呼ばれた女は医者のような服装をしていた。
背はこの少年よりだいぶ高い。
メシア「依存しすぎっていうのも良くないと思うわよ?」
少年「本当に俺は君がいないとダメな人間だなぁ
ククク・・・だけどそれもいいな」
メシア「何が良いのよ。健康な方がいいと思うけど。」
少年「その方が『人間らしい』じゃあないか。」
メシア「人間らしい・・・ねぇ、あなたには似合わないかも。」
少年「俺だって『これでも人間』なんだからな、
人を『化け物』みたいに言うんじゃあないよ」
メシア「あらあら、怒らないの。『いつもの』してあげるから、ね?」
メシアの側に巨大な注射器を持ったナースのような女が現れる。
これがメシアのスタンドだ。そしてこのナースは巨大な注射器を・・・
少年の胸に突き刺したッ!!
少年「いつも思うけど結構痛いな、これ。」
メシア「我慢しなさい、男の子でしょう?」
そしてナースはこの巨大な注射器の中の液体を注入していく。
少年「あぁ、生き返った心地がするよ。ありがとう、
君は本当にぼくの救世主(メシア)だ!」
少年「あ、そうだ!面白いものがあるんだ!メシアもこれをみてくれよ!」
少年が手渡したのは監視カメラのビデオ映像である。
メシア「あら、何かしら」
白灰色の部屋の中、男がじっとテーブルの上においてある小型テレビのモニターを
凝視していたかと思えば、突然、壁を殴り部屋から出て行くという短い映像だった。
少年「これを見てどう思うかい?ククク・・・」
メシア「うーん・・・何故この男の人は壁を殴ったのかしら」
少年「違うよ、そんなことはどうでもいいんだ。
君に見てほしいのは彼が殴った後の壁だよ、壁。」
メシアは映像を巻き戻して再度見てみる。
この男が殴った後の壁にはヒビが入っていた。
メシア「ヒビがはいってるようだけど、これがどうかしたの?」
少年「普通の人間の力じゃここまで壁にヒビをいれることは出来ないと思うんだけどね、ククク・・・」
メシア「言われてみればそうかもしれないわね。」
少年「こいつはこの前、拾ってきた元軍人だよ。今は単なる『労働者』だけどね。
こいつはあの『部屋』に入って無事だったんだ。生きてたんだよ。」
メシア「!!・・・ということはこの男の人はスタンド使いなのかしら。」
少年「そしてその壁の映像の話に戻るんだよ。
こいつはきっとその時、無意識にスタンドで殴ったんだろうね。
スタンド使いに間違いはないね、ククク・・・」
メシア「貴方、そういえば今は『労働者』って言ってたわよね?
ひょっとして、このスタンド使いは一般人と同じ環境にいるの!?」
少年「そうだよ、彼の能力はまだわからないが、よく働く奴でね。
かなり仕事も上手いんだ。元軍人なだけに力仕事が得意みたいだね、ククク・・・」
メシア「なんて子なの・・・」
「ではァァ これよりィィィ 休憩時間とするゥゥゥゥ!!」
それまで作業をしていた者らが途端に安堵のため息をつき、
ある者は体操を始め、ある者は話を始め、ある者は売店へ向かい始める。
しかし一人だけ仕事が終わったというのに、道具もおろさずに
考え事をしながら仕事をし続けている男がいた。
元軍人のセイムである。
あれから十数日が経過した。
地下の労働生活にもだいぶ慣れた。
そして、何よりこの地下施設の仕組みをよく理解した。
まず、『スピードワゴン財団』という財団が作った施設であるということ。
あと、ここにいる奴らはもともとの原住民がほとんどだということ。
そして、ここのトップは『ヨア』とかいう奴が一人で担当してるらしい。
セイム(まぁ、そんなことはどうだっていい・・・
そんなことより、脱出の方法を考えねばな・・・)
中年の男「おい、あんた・・・」
セイム(まずは協力者が必要だ。信頼できる『仲間』を集めなければならない。)
中年の男「お~い、あんた!」
セイム(そして私と同じような能力を持つ者でなければならないだろう。)
中年の男「おいッ!セイムさんッ!!」
セイム「あぁ、すまない。ぼーっとしていた。班長、どうかしましたか?」
班長「いやぁ、しっかりしてくれよ。
ここでは体調が悪くなっちまったら終わりなんだからな。」
労働すれば日給(ここでは1日の労働を終了した際に貰える賃金のこと)が貰える。
また、労働したくなければしなくても良い。
しかし、お金が底を尽きれば、死ぬしかないのである。
班長「自分の体調管理には気をつけた方がいいよぉ」
セイム「はぁ・・お気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ。
ちょっとばかし考え事をしていただけですので。」
班長「考え事かい?そういえばあんたはこの島のモンじゃなかったね。
家族はいるのかい?心配してるだろうねぇ・・・」
セイム「妻と子供が二人いますよ。三人は日本に住んでいるので
普段はあまり会う機会は少ないんですがね。」
班長「そうかい。なんか辛くなったら私に愚痴をこぼすもいいし、
売店で1本買ってくいっとツマミ片手にしたっていいんだからね。
ストレスだけは溜めない方がいいに越したことはないよ。」
セイム「そうですね。久しぶりに少しばかり飲もうと思います。」
地下労働は本当に労働というカタチで行われ、働いた者には日給が出る。
その賃金で食料品を買うも良いし、嗜好品を買うことも良い。
そして働かずに怠けてばかりいるとお金が底をつき、飢え死にしてしまう。
また、ここでは部屋のレンタル料金が存在する。
部屋では今まで長い間、労働経験を詰んだ者が班長として管理するのである。
班長の仕事は部屋内のメンバー内での窃盗などといったトラブルが起こった場合、
報告役として、内線の電話機で報告するのである。
また部屋のレンタル料金が無く、労働場で寝る場合は、
たとえ物が盗まれようと金品が盗まれようと『しょうがない』のである。
そして連続1週間、労働場で寝ていると働く気が無い、働くことが出来ない人間として
認定され、実験室へ連れて行かれる。そこでどんな実験が行われているのかは
定かではない。だが、今まで生きて帰って来た者は未だ一人も居ないという・・・。
売店から戻ったセイムは果実酒を飲みながら考え事をしていた
セイム(仲間を選ぶ基準としてまずはスタンド使いかどうか『確かめる』必要がある。
そして信頼できるかどうか『見極める』必要がある。)
セイムは手持ちのお金を握り締めながら決意する。
セイム(最悪は一人で脱出するしかないかもしれんが、
まずは地道にこの金を貯めていくことから始まるんだッ)
休憩時間が終わる。
僕は本を読むのを止め、僕の持ち場(仕事場)へ向かう。
本を読むのは好きだ。たくさんの『知識』を得ることが出来る。
そしてここには僕の唯一の娯楽である読書の出来る最高の環境がある。
『電子書籍』だ。
電子書籍というのは休憩室のコンピュータルーム(入場有料)から
見ることのできる文字通り電子の書籍だ。
ありとあらゆる本という本のデータが閲覧可能なのだ。
しかしなかなかお目当ての本は見つからない。
「僕の今、最も知りたい『知識』・・・」
しかしその『知識』は後にこの電子書籍からではなく、
この同じ地下の人間から知ることとなる。
僕は一人の男に目が釘付けになった。
まるで僕の視線を『固定』させられたかのようだ。
そいつは最近入ってきた新人。元軍人だと聞いている。
今、そいつは僕の目の前で仕事をし始めた。
しかし僕は見てしまったのだ・・・・・
彼の背中から突然背後霊のような者が現れ、彼と一体化し、
何事もなかったかのように仕事をし始めたところを。
「おい、あんた・・・」
セイム(この金で時間を買うんだ・・・)
青年「お~い、あんた!」
セイム(たっぷりとまとまった時間が欲しい、時間さえあればいけるッ)
青年「おいッ!軍人さんッ!!」
セイム「あぁ、すまない。ぼーっとしていた。班長・・いや、誰だお前は。」
青年「君みたいな人をずぅぅぅっと探していた・・・探していたんだ・・・・・」
セイム「どういう意味だ・・・?」
青年「本当に長ぁぁぁかった・・・長かったんだ・・・・・」
セイム「誰だ、名を名乗りな。」
青年「菅原信司。長い間、君みたいな人を待っていた・・・・・。」
セイム「私を待っていただと?何者だ?
私はお前と構っている暇があったら今すぐにでも寝たいんだが・・。」
ちらりとその青年の顔を見ると青年の顔は本気だった。
しかし私はそれに驚いたのではない。
そして青年の隣には人型のスタンドが立っていた。
しかし私はそれに驚いたのではない。
スタンド使いを探す前からスタンド使いの方から
まるで引き寄せられるかのようにやってきた。私はそのことに驚いたのだ。
セイム「ほう、お前のその顔から何を言わんとしているかが伝わったッ!!
お前もきっと私と同じ考えを持つ者・・・
そしてお前は私のスタンドに気づいたんだろう?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
信司「僕が長い間待っていた人かどうか君を試させてもらうよ!!」
セイム「いいだろう・・ いずれこうなることは予測していたからな」
セイム(実戦で戦えねばあの少年―ヨア―は倒せんだろう。
試させてもらおうか、私のこの能力・・・)
「私の『復讐』のために!!」