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3:「”立ち向かうもの”」の巻

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pusan

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だれでも歓迎! 編集
「おまえはこのわたしの後を継ぐのだぞ。もちろん、わたしの権力で、ではない。
 自分の『力』で……この会社の『社長』へとのし上がるのだ。それがおまえの使命」

気がつくと、若い頃の父が自分に向かって何かを言っている。
白髪混じりの黒髪をオールバックにした彼の姿が、セピアに色あせていたことから、
それが現実の物ではなく自らの記憶の残滓だということが分かった。
父の顔が普段よりも大きく見える。上を見上げているようだった。これは、小学生くらいの頃の記憶か。

ふと意識を戻すと、視点が変わっている。
先ほどの父を見上げるアングルではなく、幼い自分を見下ろし、何かを言い聞かせている父の姿が下にある。

「はい、おとうさま……」

幼い頃の自分は、無感動な瞳を父に向けると、作りものの笑いを実の父に投げかける。
父は、その笑みが作りものであることに気がついているようだった。
幼い頃の自分では気付けなかった事実だ。しかし、父はそれを知ってなお、いや、知ったからこそさらに笑みを浮かべる。
いやらしい、愛情のまったく存在しない打算からの笑い……ではない。人の温かみのある、心からの笑みを。

「そうだ。その笑いだ。おまえはきっと将来、美しい女になる。
 なんといっても母さんの娘だからな。その美貌を生かせば、きっとおまえは成功する。幸せになれる」

彼の人格が悪かったかと言うと、父は悪い人間ではなかった。
権力に目がくらんだような、そんなありがちな『駄目な父親』ではない。むしろ、娘の幸せを祈れる人間だったし、
家庭をないがしろにするような仕事人間でもなかった。母は彼の事を愛していたし、勿論彼も母を愛していた。
そのくせ、仕事はちゃんとこなすのである。家庭と仕事を両立させた、まさに完璧な「父親」であった。
無論、自分自身も父のことは「いい人間である」と幼心に考えていた。

が、その感情にはひとつだけ、歪んでいる点がある。「成功」「幸せ」を直結させている点だ。
父は、商業的に、企業的にトップに立ち、「成功」をおさめることこそが「人生の幸福」だと考えている。
そこに自分の感情は存在しない。それは、たしかに「裕福」ではあるだろうが、自分にとっては幸せではない。
自分にとって、「幸福」とは、この街で大切な友人と笑い合える、そんな生活なのだから――。

そう、夢の中の自分が思考したところで、視界が切り替わる。
まだぼんやりと、ピントは合わないが……。いやに豪奢な飾り付けの天井。
(前に譲華たちを遊びに連れてきたとき、那由多に「成金趣味」と称された)
まぎれもなく、彼女の部屋だ。
淡島寒月は、「いやな夢を見た」、と独り呟いた。

しかし、それは夢の中の父、ひいては現在の父に対する嫌悪からではない。自己嫌悪から、である。
この「成功と幸福を直結させる父」については、実は既に、決着はついている。
中学3年――つまり昨年の秋、父は無理矢理に自分を県外の超進学校に入れようとした。もちろんそれは「成功」の為である。
この街で友人と過ごすことに少なからず幸せを感じていた自分は、当然 反発したが、それは聞き入れられなかった。
頭ごなしの否定だった。今までの父からは考えられないくらいに、全く以って自分の意思を否定した論調だった。
今にして思えば、それほどまでに父が自分の幸せのために県外進学を重要視していたということなのだが……。
困った自分は――上野譲華、当時から親交があった彼女を頼り……、現在に至る、というわけだ。

そのとき彼女と自分の父親の間で、どんな話が交わされたか、自分は知らない。
だが、父親が「成功しろ、それがおまえの幸せだ」と言わなくなり、「おまえが幸せだと思うならそれでいい」と
言い出したのを見て、だいたいどんな話がされたのかは想像に難くなかった。
…………きっと、譲華は父のことを強く叱ったのだと、思う。それは、二人にとって、とても辛いことだったろう。

もともと、その一点を除けば普通の親バカであった彼は、今では本当にただの親バカに成り下がってしまっている。
だから、この夢を見た自分は、まだあのときのことを引きずっているのか、と軽く自己嫌悪に陥ったのだが……。

ふと、それが間違った自己分析であることに気がついた。

「ああ……、そういえば、そうだったな……。やれやれ、まったく憂鬱だ」

単刀直入に言うと、彼女はここ数ヶ月、ストーカー被害に悩まされていた。


3:「”立ち向かうもの(ダウンワード・スパイラル)”」の巻



――7月23日 PM1:00 ドゥ・マゴ――


寒月「……というか、夏休みになってもほぼ毎日顔を合わせるっていうのもどうかと思うんだがな……」

譲華「とかなんとか言っちゃって、何だかんだで毎日欠かさず来てるくせに。忙しいのに」
寒月「わたしはそういうところはシッカリと教育されてるからな…………ふふ、おまえらとは約束事に対する姿勢が違うのだよ」
慧「口調といいなんかオバサンキャリアウーマンみてーだなぁ~」
那由多「『悪趣味なカタツムリファッション』も忘れちゃ駄目よ。で、話なんだけど」

《バンダナ「今月のはじめに『矢』で射抜かれて目覚めたこの能力…………」》

那由多「あのとき、あいつは確かに『矢』で射抜かれて……と言ったわ。確かにね」
譲華「靖成さんに聞いてみたら、「本当に『矢』と言ったのか」と念を押されたあとに切れちゃったけど……」

那由多「そういえば、あいつ、『矢』について何か知ってるそぶりを見せてたものね」

寒月「その「靖成」という人物を知らないからなんとも言えないが……。わたしも調べてみよう」
慧「おれのダチによると、すでに『矢』に射抜かれて目覚めたという人間がこの街に数人いて、不良を束ね始めているらしいぜ」

譲華「スタンド使いが組織を作り始めたってわけね……。ったく、誰がどんな目的かは分からないけど、
    フザけんなって言いたいわね。面倒くさいってレベルじゃあないわよ、この始末」
那由多「じゃあ、わたしたちは靖成を呼んで来るわね。スタンドがらみの事件にあんたたちを巻き込む以上、
     あんたたちの身は絶対に守らないとあいつに申し訳が立たないし。それにわたしたちのプライドが許さないわ」

寒月「お構いなく、と言うのが正しい場面か? これは」
慧「気にすんなよ! おれを誰だと思ってるんだ? ”蹴り技の達人”慧さまだぜ?」

譲華「遠慮なんかしないでいいわよ。あんたたちが怪我してからじゃあ遅いんだしさぁ~」
那由多「10分チョイで戻ってくるから安心しなさいよ」

スタスタ・・・

寒月「…………」
慧「スタンド、ねぇ。『矢』で射抜かれれば目覚めるんだっけ?」

寒月「射抜かれたい、とでも思っているのか?」
慧「まさかだろ、おれはこのままでも十分強いしな」

寒月「わたしは射抜かれたい」
慧 

慧「だが……これまで譲華たちと戦ってたスタンド使いは どいつも『矢』で射抜かれたスタンド使いだぜ?
  もしかしたら、おれたちもそうなっちまうかもしんねぇ……。そんなことになるのはおれは絶対イヤだ」
寒月「わたしだってそんなことになるのはいやだし、スゴイ不安に思っているさ」

寒月「だが、わたしはその危険を犯してでも彼女達と同じステージに立ちたい。それに、そうなってもきっと二人なら助けてくれるさ。
    わたしはこのとおり、頭脳労働専門だからな。三人の足手まといというポジションになるのは勘弁してほしい」
慧 ・ ・ ・

寒月「……ま! そもそも『矢』を持ってるヤツと出会えなければ話にならないのだが……」

ドンッ

寒月
慧    うぉっ

金髪「……ああ、すまない。余所見をしていたよ……。ところで、杜王区役所というのはどこにあるか分かるかな?
    最近この街に来たもので……。街の勝手が良く分からなくて困っていたんだ……」
寒月「ああ、そこなら、この先の大通りを道なりに進めば分かるはずだ」

慧「(このオッサン眼鏡スゲーな……。ピカピカ光ってるぜ)」

金髪「ありがとう」ペコリ

スタスタ

ズキィ

寒月「いっ……」
慧「…………った」                   ピチャ

ド ド ド ド

寒月   
慧   

ベットォ

寒月「(こ……れは…………)」
慧「(…………血……)」


金髪「あのガキども、どうやら「才能」があったようだな……。わたしの持つ『矢』が引き寄せられるとは」 キラッ

 ド ド ド ド




寒月  
慧     サ ァ


・ ・ ・



「おい、起きろ、おい」

寒月
慧   ハッ!

靖成「おい、こいつら大丈夫か? スタンド攻撃でも受けてるんじゃあないか?」
譲華「そうねぇ……」
那由多「あ、目ぇ覚ましたみたいよ」

寒月「…………あれ、譲華たち、もう来たのか」
那由多「もうって……。ちょうどキッカリ10分よ。寝ぼけてるの?」

慧「……って、そこにいる人」
譲華「ああ、紹介忘れてたわね、この人が靖成さんよ」

靖成「川端靖成だ。姓名好きなほうで呼んでくれていいぜ」
寒月「よろしく、川端」
慧「靖成だな! 覚えたぜ」

靖成「…………」

靖成「(年上の威厳ってモンは譲華以外期待するだけ無駄ってわけだな……。良く分かったぜ)」

慧「あ、そ、そうだッ! おれたち、今そこで『男』にぶつかったんだよ!」

靖成「『』?」

寒月「そうだった。『男』だ。『男』に道を尋ねられたんだよ」

慧「んで、寒月がその『男』に道を教えて見送った直後に! 首に激痛が走ったんだよ」

靖成「『激痛』…………」ド ド ド ・・・

寒月「思わず首筋に手を当てたわたしの手には、紛れもなく『血』がついていたのだが……。

    この首を見てくれ、そんな傷が、いや、『血』が流れていた痕が分かるか?」

譲華「い、いや……」
那由多「ぜんぜん、まったく……。少なくとも、わたしが見る限りでは」

慧「そうなんだよ! 『傷』が確かに首にあったはずなのに! それがなくなっている……。きれいさっぱりな」

寒月「これは川端。おまえの言う『矢』による現象だとわたしは推理する。
    『矢』のように鋭利な刃物であれば、痛みを感じるまでに遅れても納得できるしな」

靖成「…………結論だけ言おう、そいつは間違いなく『矢』だ。
    そして、今こうして「生きている」っつーことは、おまえらも既に『目覚めて』いるはずだ。スタンドにな」

靖成「そしてだが……その『男』について、何か覚えていることはあるか?
    例えば……『何か特徴的なしぐさをしていた』だとか」

慧「あ! それならおれ、覚えてるぜ! 確かあの『男』は…………」

ピクッ

靖成「男は?」

慧「あれ…………、なんだっけ……。急に記憶にもやがかかって思い出せない……」

寒月「実は、わたしも同じことを考えていた。
    『男』であったということは覚えているのだが…………

    肝心の『どんな男か』ということがらがまったく思い出せない」

靖成「……一種の記憶障害ってやつだな……。分かった。
    今日のところは、とりあえず家に帰って安静にするといい」

寒月「うむ……、残念だが……」
慧「お言葉に甘えて、そうさせてもらうことにするぜ!」

譲華「あんたたち、本当に安静にしてるのよ? 覚醒していないとはいえ、スタンド使いなんだからね」

寒月「分かっているさ。慧はともかくとして、わたしがそんな無謀なマネをするわけがないだろう?」
慧「んだとっ、てめぇ!」
那由多「慧は馬鹿だけど野生の勘でマズくなったら逃げ出すから大丈夫よ。
     あんたはヘンに頭が回るから、危険でも勝算を見出してムチャするから怖いのよ……」

寒月「うぐ……。分かったよ、まっすぐ帰るさ。家の人に迎えに来てもらう。それで大丈夫だろ?」
靖成「家の人に迎えに来てもらうのか、そりゃあいいな。ついでにそこの慧って子も送ってやればいいんじゃあないか?」

寒月「それもそうだな……」
慧「んじゃ、お世話になるとすっか!」スック

寒月「ああ待て、今連絡するから……」

ピポポパ

とぉるるるる とぉるるるるん

寒月「あ、もしもし? ジイか? ちょっと込み入った事情でな……。
    迎えに来てほしいんだが。……いや、割と切羽詰った事情なんだ」

靖成「じ、ジイ……!? ジイって言ったぞ、今ジイって!」ボソ
那由多「あれ? ああそういえば言う暇なかったわね。こいつンチ金持ちなのよ」ボソッ

那由多「やっぱ都会に住んでても豪邸とかには住めないの?」
靖成「俺はただの地方公務員だっての……。しかもK県はそこまで都会じゃないからな」

譲華「いーや! M県のあたしたちからすればK県なんて都会も都会、大都会よッ!!」ガタンッ

寒月「……えっと、もういいか?」
譲華「あっ……」

リムジン ブルブルブルブル ファー ブルスコファー


靖成「リムジン……だと……」ドドド

譲華「じゃあねー(いつ見ても目立つわね)」
那由多「成金趣味め……(お大事にね)」

靖成「(本音と建前が逆転してやがるぜ)」


――リムジン内――


慧「にしても、おれもスタンドに目覚めたらしいが、どうも実感わかねぇな~」
寒月「それは仕方がないだろう。譲華や那由多なんて生まれたときからの天然モノなのに
    最近まで『ヴィジョン』とやら すら発現できていなかったらしいじゃないか」

慧「なんかこうさぁ、首筋にアザみたいなのが浮き上がったら、いかにも『目覚めた!』って感じすると思うんだよな」
寒月「赤ん坊でも取り込まない限り、むずかしいだろうなぁ~。緑色の
慧「なして!?」

寒月「首筋にアザで思い出したが譲華の首筋ってなんかヘンなアザがあるよな」
慧「ああ、星型の」
寒月「面白いよな。マジに星型なんだぞ? ちょっと歪んでるとかそういうのもなく」
慧「そういえばオヤジさんの首筋にも同じ形のアザがあるって言ってたぜ」
寒月「ヤツの父親も『スタンド』を持ってたらしいからな……。不思議なこともあるものだ」

慧「おっ、もういいぜ」

寒月「ん? まだカメユーデパート前だが……」

慧「ああ、夕飯の買出しもしないといけねーしな。
  一人暮らしは辛いぜー? お嬢様には分からん辛さよ」
寒月「……ああ、そういうことなら買い物が終わるまでここで待ってるが……」

慧「良いっつってんだろー、忘れたのか? おれんち、カメユーの裏だぜ?」ガチャッ

タッタッ

寒月「……そういえばそうだったな」

ブロロロロロ・・・

寒月「(最近よくみる夢……。あの父の夢だが………………)」

寒月「(やはり、わたしがあの件に直接関わらなかったことが原因なんだろうな)」

寒月「(――『父のあの一件』……。)」


――1年前 淡島寒月 中学3年生の夏――


寒月「なぜですか!? わたしは! この街を出たくない!」バンッ

寒月父「寒月よ、それは『わがまま』だ。ずっと話してきただろう?
     おまえは、『成功』すべき人間だ。そのためには「教養」がいる。それこそがおまえがいますべきこと。
     そのためにお前には教育を施してきたし、そのための能力も持っている」

寒月「ぼっ……、暴論だッ! わたしは今まで何度も言ってきたはずです! 『この街を出たくない』と!」
寒月父「寒月……この話はもう終わりだ。寝なさい」

寒月「……くッ!」クル

寒月「(この街を出るなんて考えたくもない! この街には『思い出』がある!
     『思い出』を捨てることなんてできない!)」

寒月「(どうする? わたしの力ではどうしようもない……。
     この分では母さんも丸め込まれているはず……『淡島』に味方はいない)」

寒月「(外部に……逃げるしかないか)」

――今にして思えば、このときのわたしは相当に頭に血が上っていたのだろう。

.   逃げる、といえば壮大な風だが、簡単に言えば「要求が通らないから家出する」ということだ。

.   まあ、『淡島』を家出するということはそれだけに壮大なスケールが関わってくるということなのだが――



――翌日――


寒月「……これで、少なくとも5日間は持つか。
    アレを除けば子煩悩な父さまのことだ……5日もわたしがいなくなればきっと折れるはずだ。
    (こーいう打算は自意識過剰みたいであまり使いたくはないのだが……まあそうも言ってられないだろう)」ズシィ

寒月「(しかし何かあれだな、こういう『家出!』って感じのは青春を感じさせるな……。
     わたしはこういう事柄に本当に無縁だったからな……不謹慎だが胸の高鳴りを感じてしまう)」

――こうして、わたしは家出した。最初の一日はよかった。家出するのに十分なほど、小遣いは持っていたので、

.   安いホテルなら10日はゆうに泊まれる程度のお金はあったし、

.   食料は事前に缶詰などを拝借してきたから、わたしも安心しきっていた――


――しかし問題は二日目からだった。ホテルの窓から「淡島寒月 行方不明!」というビラが貼り付けられているのを見た時、

.   わたしはほとんど無策で『淡島』を敵にした自分の早計を呪ったよ。それほどに、自分の家というのは手強い敵だった――


寒月「(どうする!? このままではここがバレるのも時間の問題……! 今なら朝も早い!
     顔を隠せば逃げることは容易……しかしどこに逃げる!?
     野宿? 論外だ。屋外では見つけてくれと言っているようなもの!)」

寒月「(……うう、ど、どうすれば……! こんなとき、やつなら、譲華ならどうする……?
     譲華……そうだ! あいつを頼れば……!?)」

――そういうわけで、わたしは譲華を頼った。彼女の家がマークされていなかったのは幸運だったが……

.   今にして思えばこの行動はなんとも情けない。自分の行動の不始末を友人に押し付けているんだからな――


寒月「……というわけで、数日間ほどかくまってほしい。
    ああ、心配はいらない。食事は自分で持ってきてあるから。本当に寝床と風呂さえ貸してくれればそれでいいんだ。
    頼む。この通りだ!」
譲華「……別にあたしはいいけど。でもどーしてそんなことを?
    両親と喧嘩したくらいで家出るほど直情的じゃないでしょ? あんた」

寒月「……いやまあ、実は……」

・ ・ ・


譲華「な、なァんですってッ! それで! あんたはそれがイヤなのよね!? あたしたちと一緒にいたいのよね!?」
寒月「……………………当然だろう」

譲華「あっあたし! 言ってくるわッ! あんたのお父さんに!」
寒月「ちょっ、ちょっと待て! 譲華!」

譲華 ダッ

――そのあとは、譲華が父と話をつけて、現在に至るわけだ――



寒月「(わたしは、ストーカー被害に悩まされている)」
                             . . . ..
寒月「(ストーカーの犯人は分かっている。所謂いいなづけってヤツだ。
     政略結婚……父さんにとっては、それすらもわたしの幸せだったらしい。
     こればっかりはちょっと歪みすぎと言わざるを得ないが。
     急に婚約(口約束とはいえ、だ)を破棄されたら、相手も怒るだろうな。
     相手も相当わたしに入れ込んでたみたいだし……(ロリコンというやつだ))」

寒月「(この問題は、『しわ寄せ』だ。自分の問題を自分の力で片付けなかった、
     その”ツケ”の清算を、ここで迫られている)」

寒月「(だからこの問題に関してだけは、譲華たちに相談することは決してない……。
     助け合うのが友人の美徳だ、と言うヤツもいるかもしれない。
     抱え込むのはエゴだと言うヤツもいるかもしれない。

     ……それでも……エゴでも何でも良い。自分の問題には自分で決着をつけたいッ!)」

寒月「(…………って、わたしは何を一人で熱くなってるんだろうな……。
     今は車のなか。ストーカーがやって来る可能性なんかないというのに……)」

寒月「ジイ? どのくらいで着きそうだ?」

シィイイイ―――ン
               ブロロロロロロ・・・
寒月「ジイ?」

??「………………」

寒月 ・ ・ ・

寒月「ジイッ! 返事をしろッ!」バッ

ド ド ド ド

ジイ ペッラアアアア~~~

寒月 !!

ジイ「お……嬢……様…………お逃げ……ください……」

ジイ パタタン パタンッ パタァ

寒月「ば、馬鹿なッ!! ジイが『紙』のように畳まれていくッ!?」

ド ド ド ド

ブロロロロォ

??「おおぉ、おぉ、随分な慌てようじゃあないですか…………」

寒月「(すっ、スーツを着た男……! まるでセールスマンみたいな……)」

寒月「だッ、誰だお前は!? どうしてそこで運転しているッ!?」

ド ド ド ド

寒月「いつの間に……この車の中へ……!?」

セールスマン「そういう発言は……慎んだほうがあなたの為ですよ……。レディ。
      なぜならそんなことを口走るのは、ドラマなんかで開始10分のうちに殺されるような端役位のものだからだ」

ズズズ・・・

?? ド ド ド

セールスマン「そして……あなたの問いに答えるつもりもない……。
      なぜならわたしの『ラザロ』は……既にあなたへの攻撃を『開始』しているからだ」

?? ズオオオ――ッ

寒月「す、『スタンド』ッ! これが……!(現物は初めて見るが……)」
セールスマン「み、見えているッ?」

寒月「うおおおッ! 触るなッ!」サッ

セールスマン「……避けた……?」

寒月「くッ、逃げなくては……! ここでは分が悪過ぎる!
    身動きが取れない……! そうだ! 譲華たち! やつらに助けを……」

セールスマン 

寒月 サッ
セールスマン「『ラザロ』ッ! 扉を殴れ!」バァッ

ラザロ シュバッ!

メッシイ

セールスマン ・・・!

セールスマン「何……! 『ラザロ』の拳が……空振りだと……」

寒月「……まったく、わたしっていうやつは本当に腰抜けだな……。
    さっきまであんなに息巻いてたのに、いざとなったらこの有様さ……」

ド ド ド ド

セールスマン「扉に伸ばした手を……引っ込めたから……『ラザロ』の拳をかわせたのか……!
      しかし理解できない! なぜならレディ……。あなたがここに残ったところで、
      あなたは『スタンド』が見えるだけのただの一般人のようだ……。
      そんなあなたに、勝ち目があるようには見えないからだ……」

寒月「ああ、恥ずかしながら、わたしの『理性』も「今すぐ逃げろ!」と警告しているよ」

セールスマン「ならば何故……」

寒月「だが、それ以上にわたしの『心』が「立ち向かえ!」と叫んでいるのさ」

寒月「『スタンド』だっけ? どうでもいいが「Stand」っていう動詞には、
    実にさまざまな種類の意味があるよな…………。
    『スタンド』の語源らしい「傍に立つ」はもちろんだが……
    「地位にいる」という意味や、「止まる」「耐える」「立ち上がる」という意味がある……」

寒月「わたしはひとつ、「立ち向かう」という意味の「Stand up to」
    『スタンド』…………という認識でいさせてもらうよ」

セールスマン「何を言っている? あなたはスタンドを『発現』すら出来ていない……」

寒月「できるさ。今、覚悟を決めたからな。『立ち向かう』覚悟を」

セールスマン「ハッ……、何かマズイ……。『ラザロッ!』

寒月「『 ダ ウ ン ワ ー ド ・ ス パ イ ラ ル 』ッ!!」

ズオッ!!

DS『マイイッ!

セールスマン「な……速……いやッ! 疾いッ!!」

ラザロ ドバギ

セールスマン「うげげえええ――ッ」

キキキ―――ッ

寒月「おっとっと……。どうやらわたしの『ダウンワード・スパイラル』、なかなかの攻撃力のようだな」

寒月「どれもう一発……!」

DS『マイイッ!

ペタァ

寒月 ・ ・ ・!?

セールスマン「この…………くそったれが……。
     たかが金持ちの令嬢の分際でッ! このおれにッ!
     ゲスな『スタンド』の拳をブチこみやがってッ!」

セールスマン「『ラザロ』のスタンド能力…………。
      触れたものを『圧縮』して紙のようにする能力で、おまえの拳をペラペラに『圧縮』したッ!」

ド ド ド ド

セールスマン「そして……『圧縮』の能力には、こういう使い方もあるんだぜ――ッ!」ドシュシュッ

フワアアァァァア

寒月「これは……紙飛行機か? それもたくさん……。
    確かに、これだけ多ければさばくのは大変だろうが、
    わたしの『ダウンワード・スパイラル』には造作もないこと……」

DS『マイマイィィッ!シババッ

セールスマン「その考えが……アマいんだなァアア~~~ッ!!」

紙飛行機 グシャアッ!

ド ド ド ド

紙飛行機 メキョ・・・ メギョォ・・・

寒月「ハッ! これは!」

セールスマン「『ラザロ』の能力で圧縮した『ナイフ』を紙飛行機状にして飛ばせばッ!」

ド ド ド

紙飛行機? メキキキ・・・ シュゴオ――ッ

セールスマン「きさまのスタンドの拳を潜り抜けてナイフを送り込めるというわけだ――ッ!!」

ナイフ ゴゴゴ・・・ オオオオ――ッ

セールスマン「『スタンド能力』を解除すれば、そのままの勢いできさまに『ナイフ』が襲い掛かるッ!」

寒月「こいつは……マズイ……ぞッ! こちらには身を守るものが……ないッ!」

セールスマン「そして『紙飛行機』はおまえの急所目がけ投げたッ!
      おまえは『生かして誘拐しろ』という命令だったが……致し方ないッ!
      ブチ殺してその死体を依頼人に届けるとするぜ―――ッ!!」

     ド ズ ズ ゥ !

ド ド ド ド

寒月「かっ……ひぃっ……」ドザア!

セールスマン「ふぅ……。終わったか……。こいつの『スタンド』がスタンド能力に目覚める前でよかったな……」

ド ド ド ド

セールスマン「ん? ……なんだ……? ヤツに殴られた腕にささくれが……」

ド ド ド ド ド ド

セールスマン「おかしいな……? なんだこのささくれ。なんか少しばかりとんがりすぎているような……」

ささくれ? シバァッ!

セールスマン ドズゥ!

セールスマン「うげぇぇぇ――ッ!!?」バッ

セールスマン「ば、馬鹿なッ! ささくれが! ささくれが『発射』されて……
      おっおっおっおっおれの頬にィィィィ―――――ッ!!!」ドドドド

寒月 ムクッ・・・

セールスマン「なっ!? 確かに致命傷を狙ったはず!」

寒月「『トゲを生やす能力』、だ……」
セールスマン「へっ?
                          . . .
寒月「『スタンド能力に…………目覚めていない』……と誤解していたようだからな……。
    教えてやってるのさ……、わたしの能力を。『トゲを生やす能力』だとな」

セールスマン「む、胸と、腹に……『トゲ』……! それもぶっといのを……」

寒月「生やしているわけだからな……。ナイフが何本もぶつかれば、
    体にじかに衝撃も加わる。さっきはそのせいでちょいと意識が遠くなったが……」

寒月「なに、スタンドを操作する程度の気力は残っている」

セールスマン「こっこの…………」

セールスマン「このクソアマがあああああ――――ッ!!
     てめーの大事なところを『圧縮』してナイフで切り刻んでやるぜッ!!」

寒月「あッあ―ッ……きみのためを思って言うのだが……
    そういう発言は慎んだ方がきみのためだぞ? ジェントル。
     . . .. .. . .. . .  .. .. . . . ..... ... . . .. . ... . . . . .. . . . .
    そんなことを口走るのは、ドラマなんかで開始10分のうちに殺されるような端役位のものだからな」

寒月「『ダウンワード・スパイラル』は既に座席に触れている」

セールスマン ・ ・ ・!
      ドズウ

セールスマン「ぎゃああああああああああああ―――ッ!!?

寒月「そう叫ぶなよ……。わき腹にトゲが突き刺さっただけさ。
    それとも何か? 『殺す』……とか言う割には、意外とそういう『覚悟』もしていなかったのか?」

セールスマン「こ、こ、この……クサレビッチが……!」

寒月「やれやれ。まったくやれやれ、だ」

DS『マイマイマイマイマイマイマイマイマイ         ドゴドゴドゴドゴ
  マイマイマイマイマイマイマイマイマイ         ドゴドゴドゴドゴ
  マイマイマイマイマイマイマイマイイイ―――ッ!!』   ドゴドゴドゴドゴドッパア――ッ

セールスマン ガシャアン!

セールスマン ドンッ ズダッ ゴロゴロオ…

寒月 ムクゥ

寒月「……手が、元通りに戻ったな」
ジイ「……う、く」

寒月「大丈夫か? ジイ」
ジイ「わたし……は……」

寒月「安心しろ。全部終わったから」
ジイ「そう……ですか……」

寒月「…………ああ……」


――その夜 淡島邸――


寒月父「なるほどなぁ……。そんなことがあったのか……。
     寒月……、わたしはそんなことにも気が付けなかったのか……。申し訳ない」
寒月「やめてください父さん。謝るのは……わたしの方です。
    自分で立ち向かわなければならない問題から目を背けていたのは、わたしです。
    わたしはその『清算』をしただけにすぎない……」

寒月「あのとき、譲華から、結構キツイことを言われたんでしょう?
    彼女にも今度改めて謝っておきたいですが、今は……。今はあなたに謝りたい」
寒月父「ああ~、確かにキツかったな。あれは……。

     『お願いです! あたしの友達をとらないでください!』……」
寒月 

寒月父「確かにあれは別の意味でキツかったな。お前は父親失格だ、って言われるよりもよっぽど」

寒月「…………」

寒月父「なんだ? 寒月。もしかしておまえ、あの譲華って子がわたしに
     『おまえみたいなヤツは父親である資格はない!』なんて啖呵切ったと思ってたのか?」

寒月「…………」

寒月父「だとしたら、それはとんだ勘違いだ。あの子はずっと泣いてたよ。
     ただ、お願いしますって……ずっと、それだけさ。だが、それが逆に何よりも心に響いた」

寒月父「……謝るんなら、あの譲華ちゃんに対して謝るんだな。
     まあ、アレについてはわたしも納得してるし、わたしに謝ろうなんて水臭い考えは抜きだ。

     ああ、あと…………」

寒月「……はい?」

寒月父「前から言おうと思ってたが、その敬語はやめないか?
     親子なんだから……そういうのも抜きだ」

寒月 パチクリ

寒月「…………」

寒月「……ああ!」


⇒TO BE CONTINUED...




淡島寒月 『ダウンワード・スパイラル』
( 考案者:ID:kvK4Epn+O 絵:ID:lWwSYfaJ0 )
高校1年生の少女で『ダウンワード・スパイラル』のスタンド使い。
この一件を通して、父の一件に関する自らのしがらみのすべてを清算した。
後日、譲華に謝る代わりに、特大のパフェを奢ってやったらしい。
以前に比べて、少しだけよく笑うようになったとか。

上野譲華 『クリスタル・エンパイア』
虹村那由多 『リトル・ミス・サンシャイン』
川端靖成 『ヒートウェイヴ』
あの後は特に何もせず帰宅した。

寒月の父 『スタンドなし』
この一件の後、愛する娘とさらに親しくなれてハッピー。しかし、あまりにベタベタしすぎるあまり、
妻から『おまえ 実の娘に欲情してんのか?』と疑いをかけられてしまう。あながち間違いではないかも。

セールスマン風の男 『ラザロ』
( 考案者:ID:h1wpgo5pO 絵:ID:jUDvki630 )
寒月の元婚約者にやとわれていた「殺し屋」。本業は殺しだったが、多額の前金に釣られて誘拐を敢行した。
『ラザロ』のスタンド使いで、圧縮による暗殺を得意としていたが、作中の言動から彼が三流なのは明らかである。
ちなみに、依頼主の元婚約者もしっかりしょっぴかれた。

愛川慧 『?』
 
高校1年生の少女。何らかのスタンドに目覚めているようだが、現時点では詳細不明。
夕飯の買い物にカメユーデパートに行ったようだが……?

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