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【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第七話

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orisuta

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ポンペイで激闘が行われていたころ、港では一人の女が気絶した男を見下ろしていた。
「なんだい、高々時速六十キロで吹っ飛んでくる円盤の上から後頭部めがけて飛び蹴りかましたくらいで気絶するとは情けない奴だねぇ……
こんなのが幹部たぁ、パッショーネも底が知れるさ」
女は両手でそれぞれの指でチャクラムをひっかけ、器用にくるくる回しながらバカバカしげに呟いた。
「あーあ、どっかにアタシに本気を出させるくらいのやつらはいないもんかねぇ……、っと、おいでなすったか。せいぜい楽しませてくれよ?」
女の口元に獰猛な笑みが浮かぶ。遠くから足音がドカドカと聞こえてきていた。


「あれは……ズッケェロさん!」
「知り合いなんですか?」
地面に倒れる男の姿に驚くウオーヴォ、それが誰かを尋ねるジョルナータであったが、
「俺と同じ幹部の一人だ。戦闘になった様子が見られないが、やつほどの男が一矢報いることも出来ないとなると、相手はよほど素早いか、、それとも予想もしていない攻撃を受けたか……」
ステッラが遠くから慎重な分析を行うのに、
「はっ、そうだねぇ。自慢じゃないが、アタシは相当に素早い。そこらのスタンドじゃ太刀打ちできないくらいにねぇ」
頭上からの声に、ハッと三人は顔を上げる。そこで彼らが目にしたものは、回転するドーナッツ状の薄い円盤の上に仁王立ちし、もう一つの円盤を人差し指に絡めて回転させている女の姿であった。
「アタシはティラーレ・ヴェント、あんたらを抹殺する為に来たもんさ」
「バカな、3対1だぞ? 勝っても自慢にならないほど僕達に圧倒的有利な状況で、僕たちを倒せるというのか?」
「アタシが不利だから面白いんじゃないか。御託は如何だっていいのさ。さあ、殺し合いだよォッ!」
言いざま、宙を猛スピードで接近してくる相手に、ジョルナータ達もスタンドを発現させて向き合う。
「無駄無駄無駄無駄!」
敵に真っ先に接近されたジョルナータであったが、飛びずさって相手をよけつつ突きの連打で反撃する。しかし女はスレスレの位置で急旋回することでかわしていた。どうやら、精密動作性はともかく、スピードは相手の方が上らしい。
それどころか、ブシュゥ!
「っ! チャクラムに触れてなんていないのに、どうして?!」
彼女の足が斬りおとされ、傷口から血が周囲へ飛び散る。すぐにインハリット・Sでつないだのだが、彼女は愕然としていた。まるで鋭利な刃物に切り裂かれたかのような傷口だが、よけたはずの相手に斬りつけることが出来るはずはない。どうやら、これが敵の能力の一端であるようだ。
だが、彼女が急旋回したことで如何しても動きは鈍る。そこを狙って、
「ダフト・パンク! !?」
ウオーヴォは目を疑った、上空はるかに上がっていこうとする相手を捉えようと伸ばした『コード』が、足元の円盤に近づいた途端まるで風にそよいだようにふわっと流れて跳ね返っていく。
そして、相手がもう一方のチャクラムを飛ばしてきたのを彼も咄嗟に転がってかわしたが、起き上った時にはこれまた腕がスパリと斬り裂かれている。
「まるで、風にそよいだような……『風』だと?! ……なるほど、あんたのスタンドは風をまとっているのか。触れてないのに切り裂かれるのはカマイタチによるものだな!」
「へぇ、もう気づくなんて流石だねぇ。やはり、パッショーネにゃあ人材が豊富って訳かい。だけど、あんたらじゃ風を捉えられるはずがない。形なきモノをどうやって捉えるッてんだい!」
「……ああ、風を捉えることは出来ない。だが、その上のお前を捉えることは難しくないな!」
!? グン、と身体が引っ張られる。驚いた女は、自分の足に細い針金が巻きつき、その先を引っ張っているステッラの姿を見た。こちらも、先程の急旋回の際にばねを飛ばしていたのだ。
猛烈な勢いで引っ張られ、彼女はたまらずスタンドから転落し、針金がばねの形に戻っていく勢いに乗って引き寄せられる。
しかしその途中で、ウオーヴォへと飛ばしていた方のチャクラムが勢いよく戻ってきて彼女に巻きついた針金を切断し、その足元に制止することで体勢を整えなおす。が、彼女は周囲を見渡して愕然とした。これは、針金の『鳥かご』?!
「貴様を引き寄せる際に、周囲に針金で『結界』を張った! これで自由な動きなど出来はしまい!」
 
 
 




『結界』に囚われた敵の姿に、ウオーヴォの傷をつなげながらジョルナータは不味い、と首を振った。
あれではまだ逃げられる。それでは何の意味もない。
「ウオーヴォさん、ひとつお願いがあるんですけど、聞いてくれませんか?」
「奴を倒せるというのならば話を聞こう、でなければ聞く価値もない」
「それは大丈夫です。この手段なら、確実に出来るはずです……」
ジョルナータは彼の耳にそっとあることを囁いた。それに、ウオーヴォは目をパチクリとさせたが、やがて、
「いいだろう。好きにすればいい」
と頷いた。


「覚悟を決めろ! テンテンテンテンテン!」
針金の間を縫って迫るSORROWの拳。だが、女はかえって嘲笑を向けた。
「無駄だってんだよ! 来な!」
その声に応じ、先程まで乗っていた方のチャクラムが彼女の下へと飛んでくる。それが纏う風は、針金をたわませ、大きな穴を『結界』に開けた。その穴から両足にチャクラムを履いて女は脱出する。
「しまった!」
「はっはっは! あんたら三人ごときじゃ、束になったってこのアタシを捉えることなんざ出来ないのさ……んなっ!」
調子に乗って高笑いしていたティラーレであったが、高速で飛行を続けていた足元のスタンドが空中で急停止し、その勢いで彼女は海へと投げ出された。
真相はこうである。先程ジョルナータの足を斬り落とした時、彼女はインハリット・Sの腕をW・A・Hの底部に植え付けていたのである。
その後で彼女自身に斬り落とされたウオーヴォの腕を生やすことで、『腕』からダフト・Pを伸ばせるようにし、それをSORROWの『結界』に巻きつけたのだった。
当然、それでティラーレのスタンドは鎖でつながれたも同然となり、結果急停止して本体を振り落としたのであった。
バシャァン! 水しぶきを上げて海へと落下したティラーレだったが、彼女は落ちる際に状況を把握していた。
動きを制限されようが、風で海水を吹っ飛ばせれば溺れるはずはない。この程度で終わりはしないよ!
(ワイルド・アット・ハート!)
ギュインギュイン! 吹きつけた強風が水面を周囲へと押し退けていく。その様に、
「ああ、やっぱりやっちゃったんですか……。落水しただけなんですから、そのまま潜って逃げればそんなことにならなかったのに」
ジョルナータが呆れ気味に呟いた。「へ?」と思う間もなく、彼女『も』風に押され、落下速度を加速させて海底の泥へと猛スピードで沈み込み、跳ね上がった泥が彼女の体を覆い尽くした。
風に押されて周囲へと海水が吹き飛ぼうが、当人にも影響がない訳がない。この結果は必然であった。
(しくじった……! だけど、ワイルド・アット・ハートを引き寄せてつかまればこんな泥如き!)
口や鼻を泥で詰まらせながら、半狂乱になって彼女はガムシャラにスタンドを呼び寄せる。しかし、耳にまで泥が詰まった彼女にミシミシいう音が聞こえるはずがなかった。
「やれやれ、これだから単細胞は困る。僕達のチームにこんなやつがいなくてよかったよ」
肩をすくめるウオーヴォの隣で、ジョルナータは見ていられないという気持ちで両目を瞑り、ステッラは、
「呑気に見物しているんじゃない、伏せろ!」
と叫んで二人を地面へと押し倒した。その頭上を越えて、『結界』を張る支柱となっていた鉄柱や街路樹がすっ飛んで行くW・A・Hに引っ張られて、回転しながら彼女へと落ちかかっていった。
言ってみれば当たり前の話である。まだダフト・PによってW・A・Hは『結界』につなぎとめられていたのだから、猛烈に引っ張れば『結界』とそれを支える柱ごと巻き込まない訳がない。
やがて、海底の泥が轟音と共に盛大に飛び散った。
 
 
 




ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
かつてとある映画でも使用された、ローマのある観光名所の底、ひっそりとその空間は広がっていた。
我々はこの空間を知っている! かつてここに如何なる邪悪が眠りについていたかを知っている!
そして今、その中央には新たなる邪悪が存在しているのだ!
「ほぉ……、ティラーレたちが殺られたか。パッショーネも存外やるようではないか」
柱に身をもたせかけて報告を聞くヴィルトゥのボスに、その幹部は蹲踞の礼をとった。
「はい。正直なところ、現在我らのめぼしいスタンド使いは『財団』への工作に関わっており、どうにも人手が足りません」
「仕方がないことだ。なに、やつらのボスと直接対決しない限りは俺にかなうスタンド使いなどいない。で、如何手を打った?」
「はっ、アンゴロ、フルト、ヴィストーソにやつらを斃す任務を与えました。後は、このローマにも私を含む数名を配置する所存です」
「フルトとお前か……、どちらも甲乙つけがたい外道だが、まあよかろう。それと、例の物らは奪い取ったか?」
「『石仮面』は『財団』が気付かないほど数がありました故、手に入れるのは難しいことではございませんでした。しかし、『赤石』は……」
「あの『時止め』が預かっているという訳か……。
だが、どんな手を使ってでも手に入れろ。あれにはそれだけの価値がある。わかったのならば去れ」
ボスの言葉に、スルスルと幹部が去っていく。それに目もくれず、ボスは柱を撫でた。
「究極の生命体……。この私がなってみせますよ、父上」


状況:
ズッケェロ救出成功・『亀』ゲット!

本体名―ティラーレ・ヴェント
スタンド名―ワイルド・アット・ハート(自滅。死亡)

ズッケェロ―あの後、幹部としての体面を考えたステッラに「敵にやられながらも、とっさに一刺ししてぺしゃんこにしてくれたおかげで、自分らはバラバラにするだけで済んだ」という嘘をばらまいてもらって体面を保つ。
サーレー―出世にはやるスカリカーレらにステッラのような深謀遠慮があるはずもなく、敵にやられたことで男を下げる。
反省のしるしとして丸刈りにしたが、周囲に笑われ、娘には「かにあたまじゃないパパなんてパパじゃない!」と大泣きされた。
 
 
 

使用させていただいたスタンド


No.1027
【スタンド名】 ワイルド・アット・ハート
【本体】 ティラーレ・ヴェント
【能力】 スタンドに風を纏わせる




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