ステッラ・テンペスタはギャングとしては非常に人望の厚い方である。彼がネアポリスを任されたのはほんの一年ほど前からであるが、今ではもう街の人々が気軽に声をかけるようにまでなっている。
その日も、街角で昼食をとっている彼を、ネアポリスの住人たちがあいさつとともに通り過ぎていく。
だが、今日ばかりは少し様子が違った。一人の老婆が涙ながらに彼に声をかけたのだ。
「ステッラ、お願いだから聞いとくれよ。あたしの孫娘が殺されちまったんだよ!」
「どういうことだ? 警察は何と言っていたんだ?」
「失踪して数日後に死体となって見つかったんだよ……、警察は『麻薬の中毒死なんて、そこらの不良によくあることだから』って、まともに捜査なんかしてくれないんだよ。
こんなことってあるもんかね! あの子は勉強のできる、ごくまじめな子だったんだよ。麻薬をやるだなんてことはありえないんだよぉ!」
「!!」
「ねぇ、どうなってんだい! あんたのとこは麻薬を扱わないんだろ? 犯人を見つけとくれよステッラぁ~、あんたはあたしらの味方なんだろぉ?!」
「……わかっている。麻薬をばらまいているのは俺たちのところじゃない、必ずばらまいている奴らを叩き潰すから安心してほしい」
***
ステッラに老婆が懇願する様を、とある建物の一室で二人の男が眺めていた。
「あの老婆が言うような、『若者が行方不明になり、その一部は数日後に中毒死して発見される』という事件がここ最近イタリア全体で起きているのに気が付いていたか?」
「うんにゃ、卵と鶏のどっちが先かを知らねぇように、そんな話は聞いてねぇぜ、ウオーヴォ」
「……どうも嫌な予感がする。この事件の裏には想像もつかないような謎が潜んでいるようだ。生き残った暗殺チームの報告には、おそらく穴が多いのだろう」
学生の冷静な分析に、ニット帽の男は手にしたメモ帳と彼に交互に目を向けながら口を開いた。
「まるで、ボスや幹部のみに伝えられた報告内容を知ってるような言いぐさじゃねぇか。誰かにコードを差し込んだ、ってんなら話はきかねぇぜ。粛清モノの出来事には関わりたかぁねえんだよ」
「僕はそんなことに命をかけはしない。知っているだろう? 僕やステッラは暗殺チームに知人が多いことを」
「そういや、死んだ知り合いや家族が旧暗殺チームゆかりだったんだっけか? で、どういう内容なんだよ」
「『奴らが安価で麻薬をばらまくのには何らかの理由があるらしい』ということだ。
おそらく、この理由こそがこの事件にかかわっているはずなんだ。
……ところで、さっきから何をやってるんだ?」
「ん~? いや、パッショーネの女構成員を非公式にさまざまにランキング付したやつだよ。俺と、情報管理チームの連中とで作ってんのさ。男の構成員の間じゃ、結構人気だぜ?」
「バカバカしい。そんなものに何の意味がある」
「童貞ヤローが、組織のビッチに声をかけたりする時なんかに便利だ、って大反響が来てるぜ。ちなみに、ベルベットは結構男遊びが激しいほうだから、そっちの方では結構高順位。
で、ジョルナータは入団していきなり清純系のランキングでトップテンの圏内に躍り出た。今は、プレイボーイどもの誰が落とすかでヤミの賭博が始まってるぜ?」
「……弛んでるな、パッショーネも。で、それもお前が出世するための一手段なのか?」
「あったりめぇよ。俺はよぉ~、絶対に権力を手に入れねぇといけねぇんだよ。最低限、情報管理チームの連中を私的に動かせる程度にはよ」
その際だけ、普段はおちゃらけている彼の顔が引き締まった。この男にも、何か理由があるのだろう。ウオーヴォはストゥラーダの追求をしようとは思わなかった。
その代わり、彼は戸口のほうに首を向けていた。
「だ、そうだが、如何する? 情状酌量の余地はあるようだが」
「あるわけがないじゃないかい! 勝手に格付けされた側に泣き寝入りしろってのかい?!」
その声に、ストゥラーダは寝たままの姿勢から一気に飛び起きた。
戸口に、ベルベットがゴゴゴゴゴ……という擬音を背負って立ち塞がっている?!
「お、おめぇ、いつ来やがった!」
「ウオーヴォがあんたのやってる事を聞いた時からだよ!」
スタンドを発現させた彼女と、顔面を青ざめさせた彼、その様子をつまらなさそうに眺めつつ、ウオーヴォは亀を弄んでいたが、ふと顔を上げた。
「ところで、ジョルナータは?」
「あいつは、服を取ってくるんだとさ。せめて上着とマフラーくらいは予備のものを用意したいんだと」
***
「大お祖母ちゃん。私、しばらく旅行してくるからね」
ジョルナータは、もう耳が遠くなった曾祖母に大声で話しかけた。
最近ややボケが始まってきた彼女は、気を抜くとすぐに「当時ネアポリス一の家具職人」だったという高祖父の話を延々と続けだすので、できるだけ早く話を切り上げるつもりでだ。
「ええ? いったい、どこへ行くんだってぇ、ジョルナータちゃんや?」
「旅行! ローマに!」
「ああ、そうかいそうかい。どうも年を取っちゃうと、耳が悪くっていけないねぇ。そういや、ローマと言えばおまえのひいひいお祖父さんが……」
また高祖父の話か。嫌気がさしたのか、ジョルナータはマフラーとコートを取りに急いで部屋を出て行った。
「……死んだのもローマだって、死んだ兄さんが手紙に書いていたっけねぇ。そういえば、あの手紙はどこに行ってしまったのかしら……」
と、老婆はひ孫がいなくなったのにも気づかずに延々と過去の思い出話を語っていた。
その手紙は、ジョルナータがコートを引っ張り出した際に、どこに挟まっていたのか床に落ちた。彼女はシーザー・ツェペリ、と書かれている封筒を何の気もなしに拾って机の上に載せ、それから出て行った。
***
「どうも、『矢』から抽出したウイルスで汚染した薬物では、普通に『矢』を刺すよりもスタンドが発現する確率は低いようです。
そして、その多くが精神に何らかの形で異常をきたします。おそらく、ボスの思う結果を出すためにはもう少し研究が必要なようです」
「言い訳などいらぬ。12番と13番の被験者を使用するから、今すぐ解き放て」
とある研究所の一室で、男が一人の研究員と会話をしている。彼は、数日前ヴィルトゥのボスに報告をしていた男であった。
「また被験者を使用するのですか? 数日前に『財団』への工作に使うとのことで数名引っ張って行かれたばかりでして、その二人まで出されたら、生きている被験者はこの研究所からはいなくなりますよ?」
「構わん。ボスからの許可は取ってある」
幹部の言葉に、研究員は「そうでしたか」と一つ頷き、水槽へと彼をいざなった。その中に、それぞれのスタンドのシルエットを不気味に揺らめかせ、二人の女が眠りについていた。
***
「ブラック・クロニクルッ!!!」
スタンドの拳の風切り音を、男の義手に仕込まれていた銃器の音響は更に凌駕していた。
が、その攻撃はいともたやすく人魚の尻尾に弾かれる。
そのスタンドの本体は、年端もいかぬ少女であったが、その眼光は正気を持ち合わせている者のそれではなかった。
「まるで、俺の人生を狂わせたカルトの連中みたいな目つきじゃねぇか。嬢ちゃん」
口では軽口を叩くものの、男は内心焦りを感じていた。友人の「敵を惑わすため『赤石の偽物』を運んでほしい」との依頼を放棄すれば命は助かるであろうが、それは彼のプライドが許さない。
「オマエハ、ソノ石ヲモッテハイケナイ。ソレハ、限リナク邪悪ナ物。私ガ、命二カエテモ封ジナケレバ魔王ガ……」
突然彼に襲いかかってきた少女は、先ほどからそのような意味不明の言葉を繰り返すだけである。まるで、洗脳されたか気が狂ったかのようであった。
だが、彼女のスタンドは圧倒的な力を効率的に使って彼を追い詰めている。洗脳された相手では決してこうはスタンドを動かせない。まるで、誰かが彼女を操っているかのようであった。
そう分析した彼であったが、彼はそれをだれにも伝えることができなくなった。少女が、その能力を発動したからである。
「命ニカエテモ、ソレダケハ……! ウケヨ、我ガ最強魔術、『えたーなるふぉーすぶりざーど』!」
狂った少女の目が異様に輝いた直後、彼の世界は氷で埋め尽くされた。
周囲もろとも氷結する刹那、男は薄れゆく最後の思考で、最後の悪あがきに出た。
ボシュッ! 内部のギミックにより射出された二つの義手が、少女の頭と首に指を食い込ませる。
「グゲゲ……。マ、マサカ、キサマアノ禁断ノ術ヲ……ヤメロォ!」
既に氷の中で息絶えた男の最後のあがきに、少女は驚愕の悲鳴を上げた。が、死人が残した最後の精神力は狂った少女の狂った思考よりもなお強靭であった。
そして、義手に仕込まれた最後のギミックが炸裂した。
「ギャアアアアア!」
少女は悲鳴を上げる。指に仕込まれていたドリルとチェーンソーが彼女の頭骨を、喉を抉っていく。
絶叫を放ってのた打ち回る、ボスから与えられた「手駒」を遠くから観察して、その男は舌打ちをした。
「やはり、命令通りにスタンドを操ることしかできない人形では役立たずか……。それに、奴の持っていた『赤石』は偽物のようだとはな。
まあいい、空条承太郎が『赤石』を預けるであろう相手は他にも心当たりがある。次のターゲットは、『東方仗助』。次こそ、絶対に『赤石』を手に入れる……」
本体名―ゲーフェンバウアー
スタンド名―ブラック・クロニクル(周辺の大気ごと一瞬で凍らされて死亡)
本体名―少なくとも権田原ということだけはあり得ない、発狂させられたためか厨2病が異常に発達したイタリアの少女
スタンド名―エターナルフォースブリザード(頭と喉をいくつもの小型ドリルとチェーンソーで抉られ続けて、苦しんだ末に死亡)
使用させていただいたスタンド
No.393 | |
【スタンド名】 | ブラック・クロニクル |
【本体】 | ゲーフェンバウアー |
【能力】 | 義手や義足などを神経が通ってるかのように自在に操る |
No.186 | |
【スタンド名】 | エターナルフォースブリザード |
【本体】 | 少女 |
【能力】 | 一瞬で相手の周囲の大気ごと氷結させる 相手は死ぬ |
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