オリスタ @ wiki

【インハリット】オリジナルスタンドSSスレ「宝石の刻(とき)」【スターズ】第九話

最終更新:

orisuta

- view
メンバー限定 登録/ログイン


 
燦々と外を照らす太陽が嘘のように暗い地の底で、二人の男が対していた。
不気味な空間にはそぐわぬ豪奢な椅子に背を預ける男の前で、もう一人はやる気がなさそうにぼさっと突っ立っている。
「んで、俺が呼ばれた理由は何なんですか? ボス」
男の軽い口調での質問に、ボスは彼の足もとへと仮面のようなものを無言で放り投げた。
「何すか、これ?」
「それこそが、私が探し求めた物の片割れ、『石仮面』だ。それを被った者に吸血鬼としての偉大なる力を授けると言われているが……、奈何せん本物かは確かではない」
「あー、なるほど。要は、俺に実験台になれってわけですね。嫌っすよ、偽物だったらどーすんすか」
「偽物であれば、おそらく実験台は死ぬ。そして、本物であっても実験台は日の元を歩けぬ身となる。
どちらにせよ、リスクは多大である。だからこそグリージョ、お前が実験台でなければならぬのだ。
そのスタンド、『ノー・リーズン』を以てすれば、どう転ぼうと問題点を『うやむや』に出来る。違うか?」
「……ったく、ボスは卑怯っすよ。俺があんたを裏切るだけの深い考えなんぞ持ち合わせてねーのを知ってて無理を言うんですから」
そう言って、男は仮面を拾い、それを己が顔に被せ……、
ファアゴォォォォォッ……
ボスが仮面に血を垂らした瞬間、奇妙な光が地底の空間を照らしていった。

**
 
 
 




「はぁ……、単三うまいでし。そして、今日も涙が出るほど空は青いでし。こんな日こそ、僕の悩みが解決されそうな気がするでし」
イタリアの首都ローマは真実の門の付近で、ピンク色のカバのぬいぐるみのような姿が単三電池を口にくわえ、ちょこなんと車の上に横たわっていた。
しかし、ぬいぐるみもどきが車の上でなごんでいても、道行く人々は奇怪とも思わずに、一瞥もくれずに傍を通り過ぎている。
それもそのはず、そのものは生き物ではなくスタンドであるからだ。しかし、それがスタンドと信じられようか?
自我を持つスタンドはそれなりに存在する。しかし、こうまでだらけきった様子を曝すスタンドなどそうそういない。
が、だらけきっていた彼(ということにしておこう)は突如耳を立て、起き上った。
とっとっとっ、と軽い足音を立てて一人の少女が足早に彼の元へと向かってくる。
少女はまっすぐに歩み寄るや、彼を掴んで物陰へと向かい、そこで初めて呆れ声を出した。
「なによ、キャッツ。あんたまだ電池なんて貧乏くさいモノを食ってたの? そんなもの食うくらいなら、その辺の車のバッテリーでも吸ってなさいって、あれほど言ったじゃん」
少女の詰問口調に、彼、キャッツ・グローブは耳を垂れ、うなだれていたが、やがて苦しげに本体である少女の顔を見た。
「僕は、人様にご迷惑をかけたくないでし。例え、どんなに車のバッテリーが電池より美味しくても、後ろめたいからおなかが痛くなるでしよ」
「はぁ? バッカねぇ、スタンドなんだからあんたがやったってことなんてバレないじゃん。何後ろめたがってんのよ。
それに、車が動かないってあたふたする持ち主の顔って本当に傑作じゃない!」
妊婦を急いで病院に連れて行こうとする男の人が、車がかからないことでパニックになってた時の顔なんか最高だった、と少女は心底面白そうにケラケラ笑う。
その姿に、キャッツ・グローブは嘆息した。彼女は昔はこんな子じゃなかった。自分の能力を使うのも、精々タダで自販機を使ったり、車のクラクションを鳴らして面白がる程度であった。
それが、家族がローマを支配するギャングの一員となった時から徐々に変わっていってしまった。
最初はほんの軽い悪戯しかしなかった少女が、ギャングのボスに可愛がられていくにつれて徐々にその無邪気さを邪悪な方向へと歪めてしまったのだ。
今では、かつての悪戯と同じ程度の軽い気持ちで、十字路の信号を全て青に変えて大事故を巻き起こしたり、病院の器具を誤作動させて患者を死亡させるのを面白がるようになってしまった。
自分は少女の子供っぽさと良心が具現化したスタンドだと自負していたのに、彼女を止めることも出来ず、結局はいやいやながらも命令に従ってしまうことに彼は忸怩たる思いを抱いていた。
「……僕としては、ルーチェちゃんにはこれ以上ボスと関わってほしくないでし」
「えー、何でよ。父さんと母さんが死んで路頭に迷っていた私とグリージョお兄ちゃんを世話してくれてるのはボスじゃない。
それに、ボスは色んな楽しいことを教えてくれたよ?
本物のクレーンを動かして逃げまどう人たちを釣り上げる人間クレーンとか、テレビをチカチカさせて誰かをけいれんさせるのなんてもうやみつきじゃない」
彼女に悪びれた様子などない。そもそも彼女に悪気などない、ただそれ以上に人を思いやるという考えがないだけだ。
いうなれば、心が幼すぎるのだ。それでは、自分が何を言っても届きはしない。キャッツは嘆息と共に口を閉じた。少女はその様子に気づかない。
「さてと、今日はまずローマ駅を滅茶苦茶にして遊んでからっと……。キャッツ、お昼は病院の電気を吸いつくさせてあげるね♪」
如何にもいい事を思いついた、とばかりに少女はにっこりと笑う。その様に、キャッツ・グローブはもはや何も言わず、ただ首を振るだけだった。
(誰か、お願いだから彼女を止めてほしいでし。もう、僕にはどうにも出来ないでしよ……)

**
 
 
 




「ボス、ただいま裏切り者の正体が判明しました。フマーレ、ぺルデルスィ、ヴィアッジョの三名です。いずれも、『ヴィルトゥ』の回し者でした」
情報管理チームを統括するドレットヘアの部下の報告に、パッショーネのボスは厳しい顔を向けた。
「始末は済ませましたか?」
「いえ、一歩間に合いませんでした。やつらは、ステッラ様のチームを最初に襲撃した者がやられた時点で逃亡の準備を始めていたようです。
おそらく、ネアポリス駅を16:50に出るエウロスタルに乗って逃亡したのでしょう」
その言葉に、思わず彼は壁の時計に目をやった。時計の針は、17時ちょうどをさしていた。
「既に出ている、か……。まずいですね、あの列車にステッラたちが乗る、との連絡を既に受けています。
おそらく、彼らは潜入任務の失敗を償うためステッラ達を探すでしょう。僕たちに出来ることは、警告を送ることだけですか……」
「そして、もう一つ悪いお知らせです。暗殺チームからアルジェント、私の部下からスオーノが無断で組織を抜けました」
「あの二人は、確か以前『ヴィルトゥ』ボスの暗殺任務で返り討ちに遭ってしまったイドゥラタンテとフィーロの友人でしたね。
ステッラのチームに敵の目が向いているチャンスを突いて、独自に暗殺に向かいましたか……」
ボスは立て続けにやってきた苦い報告に、不快感を隠すことが出来ずにいた。

**

「しかし、改めて見てもこの部屋が亀の中にあるとはとても信じられねぇ話だぜ。見ろよ、キッチンや風呂場までそろってやがるぜ」
「ボスの元にある親ガメには何度か入ったことがあるが、それよりも良い作りをしているな。ボスもよく用意してくれたものだ」
「テレビや本もそろってますけど、水道や電気ってどこから来ているんでしょうか……」
 ステッラ達は、亀の中の空間にしきりに驚嘆していた。
ボスの元にある親亀の細胞を何かに植え付けて用意した子亀が、遠方へと向かうチームには貸与されるという話は、組織の中でもあまり知られていないことであり、彼らは物珍しげに中を見渡していた。
「まあ、あたしやジョルナータにとっては風呂やトイレが用意されているってのはありがたい話だけどね」
「部屋の質などはどうでもいいが、休養も十分に取れるようになっているだけでもありがたい。それで十分だな」
室内でくつろぐ彼らと、それを収めた亀を載せ、エウロスタルは300キロの速さでローマへと向かう。この列車が無事にローマへと着くか否かは、現時点では神のみぞ知るであろう。

**

「この列車にステッラ達が乗るってのは間違いないんだね?」
「ああ、僕の『ゴールド・シーカーズ』が調べたことに間違いはない」
「ならば、後は俺たちの仕事だ。この、『シックス・フィート・アンダー』と……」
「私の『セクシャリー・ノウイング』のね……。フフフ」
 
 
 

使用させていただいたスタンド


No.229
【スタンド名】 キャッツ・グローブ
【本体】 ルーチェ
【能力】 電子機器本体、または電子機器を本体の想像出来る範囲で操作する




< 前へ       一覧へ戻る       次へ >





当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用、AI学習の使用を禁止します。




記事メニュー
ウィキ募集バナー