魔王は並び立ち、魔法少女は堕ちる

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魔王は並び立ち、魔法少女は堕ちる ◆97SsGRff6g



 階段を駆け上がる。声は、未だついてくる。
 振り返れば、“それ”は目の前にいるだろう。
 追跡者の気配は、逃走者の息遣いを嘲笑う様に離れない。
 追跡者が、語りかける。その口調は逃走者に向けているというよりは、むしろ。

「オレは魔王たる道を選び、世界に混沌をばら撒く存在となった……貴様は魔王として死に、世界に秩序を遺す」

 追跡者の声が、段差に弾むように響く。逃走者は構わず駆ける。

「オレはC.C.を殺し、貴様はC.C.に生きる意志を与えた……オレは契約を履行し、貴様は契約を破棄させた」

 逃走者の足がもつれ、転倒する。追跡者は足を止め、地に伏した逃走者を見下ろす。

「オレは未来を捨て、人を捨てた。お前は未来を望み、己を捨てた。
 オレ達は、こうも違いながら……どうしようもなく、その本質が、同一だ」

 逃走者が、床から上げた視線を追跡者に移す。その目に絶対遵守(ギアス)の光を灯して。

「お前は……一体、何者だ!?」

 追跡者がその手に還零(ギアス)の光を宿し、告げる。

「オレは死人だ。お前もそうだろう?」


 ◇


 俺の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。
 黒の騎士団、神聖ブリタニア帝国、超合衆国の頂点に立ち、父以上の暴君として世界に君臨した呪われた皇子。
 そしてゼロ・レクイエムによって友・スザクに討たれ、死にゆく運命めにあるはずの男だ。
 そんな俺が、いつのまにか飛ばされていたオフィスビルから外に出て、周囲の地形を確認しながら物思いにふける。
 数時間ほど経っていることもあり、暗かった空に僅かに白みが混ざっていた。

「だが俺は生きている……生きていると実感する……」

 とある作業を済ませた後の火照る身体を眺め、変わらず機能する四肢に力を込める。
 頬に当たるビルの隙間風、肌をなぞる冷気。目に映る眠った街、どこからか聞こえてくるざわめきは鼓膜を揺らし。
 そして、変わらず思考する俺の脳髄がこの状況を現実だと叫んでいる。
 記憶の混乱もない。ナナリーを失い、スザクと共に父・シャルルを討ち倒した記憶はあれど、ゼロ・レクイエムを成し遂げたという記憶はない。自分の呪われた人生には、いまだピリオドが打たれていないのだ。

「神様だって見たんだ、地獄があっても驚きはしなかったがな。これは一体どういうことだ?」

 アカギという男の言葉に従うわけではないが、ディパックの中の名簿を確認してみる。
 ……しかし、俺の困惑が収まる事はなかった。名簿に載っている名前は、俺にとってあまりに不可解すぎた。
 平行世界、などという戯言が頭をよぎるが、確証のない情報を鵜呑みには出来ない。

(スザク、C.C.、咲世子は生きている人間だ。この場にいることに納得はできないが理解はできる。
 だが、死んだはずのマオやロロ……そして、ユフィとナナリーの名が何故記されている? ロロ・ヴィ・ブリタニアとは誰だ?)

「お前の疑問、この私が解いてやろう」

「!?」

 思考にふける俺の隙に入り込むように響く声。
 見通しの悪い市街地のどこから聞こえてくるのかは分からない。
 だがその声は、不思議と俺の知っているそれに似ていた。変性されたその声は、かっての俺。今の奴。

「死者を蘇らせるのは、実はそう難しいことではない。彼岸に渡る魂さえ固定する技術があれば、蘇るのは本人だ」

 もっとも、周囲の人間にとって意味や価値があるのかは別だが……と嘯いて、デジャビュ持つ声が近づく。
 俺は、未だその声の位置を掴むことができない。まるで陽炎のように薄い存在感。まるで王のように重い威圧感。

「可能性宇宙……平行世界には、異なる出自と役割を与えられた同一の魂が混在する。
 戦うナナリー……親殺しのスザク……薄汚い偽の家族としてのロロ……愚かにも魔王を僭称するロロ……
 理想を汚されなかったユフィ……魔女を求め、そして拒絶したマオと、死を求め、そして拒絶したC.C.。そして……」

 声が消え、唐突にその主が姿を現す。

「スザク!」

 まず飛び出した頭部……仮面を見て、俺は二度ギアスの呪いをかけた友の名を呼んだ。
 そう、その仮面の持主は英雄ゼロ。ゼロレクイエムによって世界の為に存在し続ける運命を背負った人格なき勇者。
 そして俺を殺した後、ゼロの名と姿を継ぐのは、枢木スザクを置いて他にはいない。

 思わず近づこうとして、しかし踏みとどまる。

 仮面に次いで現れたのは、筋骨隆々とした、怪人じみた巨体だった。

(って、これスザクジャナーイ!)

「そうだ。私はゼロ……魔王、ゼロだ!」

 心境で素っ頓狂な声を上げてしまった俺の思考が、崩壊寸前までカオスに飲み込まれる。
 俺でもスザクでもないゼロ。名簿に載っているその名は全くの別人のものだと思っていたが、確かに目の前にいるのはゼロの似姿だ。この怪人の口調だと、平行世界のゼロらしいが……

「待て! それ以上近寄るな……来るなと言っている!」

「只人の言葉など聞かぬわ! ……ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア! 悪逆皇帝よ!
 貴様に、真の虚無(ゼロ)を教えてやろう!」

「くっ……行け! キリキザン!」

 俺の手から、一個のボールが放たれる。その名はモンスターボール。
 超常的な力を持つ怪物を封じ込めたアイテムで、俺の支給品の一つだ。
 名簿を見ながら同時に確認していたのだ、二つ以上の作業を同時にするゼロ(俺)としての激務が役に立ったといえる。
 現れた怪物は全身にスーツとプロテクターを纏った人間状の姿で、雄叫びを上げながらゼロ(筋)に襲い掛かる。
 同時に俺は逃走を開始する。先ほど出てきたビルの中に飛び込み、一刻も早く屋上に向かわんとする。

「邪魔をするな!」

 全力で駆ける俺の背後から、キリキザンが殴り飛ばされて目的地のビルの五~六階の窓に突っ込んでいくのが見える。
 薄々予感していたゼロ(筋)の怪物以上の戦闘力に歯噛みしながら、俺は振り向く事無くビルに飛び込んだ。
 ゼロ(筋)は追いかけてくるが、積極的に追いつこう、追い抜こうとしている走りではない。
 恐らくこちらを疲れさせてから捕えようと考えているのだろう。
 ともかく、俺は階段を探して(エレベーターは止まっていた)、走り続けた。


 ◇


 階段の踊り場で、立ち上がったルルーシュとゼロが対峙している。
 ルルーシュの目に光るギアスの光は、仮面をつけたゼロに届く事はない。
 だが、仮にゼロが仮面を外していたとしても、効果がないのは同じことだろう。
 ゼロの手に浮かぶギアスの紋章は、ルルーシュの絶対遵守のギアスを掻き消していた。

「く……」

「エデンバイタルの高次元にアクセスし、事象の本質を知る我が魔王の力は、平行世界の貴様の行いをも看破済みだ。
 貴様はユーフェミアを殺し、スザクを憎み、罪もないシャーリーすらギアスの呪いに巻き込んだ。罪深い事だな」

「……どうやら平行世界云々の話は事実らしいな。だが、俺が罪人であることは俺自身がもっともよく知っている。
 余所者にとやかく言われることではない。顔も見せない奴には特にな!」

 ルルーシュは、目の前の男の正体を探るように睨みつけながら、再び階段を上り始めた。
 突如現れたゼロを名乗る怪人の言葉は、不思議とそれが嘘であるとルルーシュに思わせない。
 ごく限られた者しか知らないはずのルルーシュの罪を正確に言い当てたという表面上の理由もある、が。
 先ほどと同じ、追う者と追われる者の関係を維持しながら、ゼロはルルーシュの後ろで言葉を発し続ける。

「では、貴様に問おう。もしもユーフェミア達が死なず、シャーリーも失わない選択肢があったとして、それを選んだか?」

「黙れ魔王! そんな質問に意味はない! 全ては終わった事だ、選び直す事は出来ない!」

「だがユーフェミア達は確かにこの地で生きている。お前の知る者たちでないとはいえ、限りなく同一の命として」

「ぐっ……」

 ルルーシュの脳裏に、自分によって不幸にならなかったロロ、ユフィ、ナナリーの幻想が浮かぶ。
 それは、ルルーシュが心底から求めている、彼にとっての優しい世界であった。

「やはり、迷うか。オレもそうだ……己の在り方を、迷い続けている」

 どこか遠くを眺めるような眼差しでルルーシュを見ながら、ゼロがその挙動を変えた。
 自分の中で何らかのケジメをつけたのだろうか、追跡から攻撃へと移る。

 だが次の瞬間、それを待っていたかのように、階段のホールの壁を破って現れる影が一つ。
 言うまでもなく、先ほどビルの中に殴り飛ばされたキリキザンである。
 キリキザンは新たなるマスターを守る為、全力でゼロに突撃し、十数段ほどの距離を押し込んだ。

「キリキザン! “あなをほる”だ! なんとしても足止めするんだ!」

「ギシャァァァァァァァ!」

 ついに屋上に出るドアに到達したルルーシュの指示に従い、階段に穴を掘りながら、縦横無尽に移動するキリキザン。
 その動きに翻弄されるゼロを尻目に、ルルーシュは屋上へと飛び出した。
 空調機器と思しき物をすり抜けながら、屋上に設置されたある物体に近づき、脱出する為の行為に移る。
 しかし、目指す位置にたどり着く前に、キリキザンが錐揉み回転しながら鉄柵に激突していた。

「さて、話の続きをしようではないか」

(役立たずが……)

 舌打ちしてキリキザンをモンスターボールに戻し、新たにテッシードを召喚するルルーシュ。
 トゲだらけの蛹、あえて言えばくっつき虫のようなポケモンは、見た目にそぐわぬ俊敏さでゼロに迫る。

 だが、ルルーシュは焦りを隠せなかった。戦力的には、テッシードよりキリキザンの方が上のはずなのだ。
 一対一では時間稼ぎすら難しい、このままでは逃げる前に追い詰められる……そう考えたルルーシュが、捨て駒にする覚悟で傷ついたキリキザンを呼び出そうかと考慮し始めたそのとき、それは来た。


「ティロ……フィナーレ!」

「何!?」


 突如屋上の室外機の陰から飛び出した、巨大な銃。その使い手すら覆いつくす威容から、熱した弾丸が放たれる。
 咄嗟に飛びのいたゼロの足元が爆ぜ、コンクリートの床に易々と穴が空く。
 衝撃の余波を受けたテッシードが、マミが立っているのとは別の室外機にめり込んで動きを封じられた。
 巨銃は一射のみで掻き消え、使い手の矮躯だけが月夜に漂って、やがて室外機の上に舞い降りた。
 闖入者の正体は、金髪の少女。両手に歩兵銃を持ち、魔王ゼロに殺意の視線を送っている。

「……貴様からは死臭を感じるぞ、無粋な小娘よ」

「魔女相手に“粋”なんて必要ないでしょう? いえ……魔王、だったかしら?」

 室外機から飛び降り、少女が更なる攻撃をゼロに加える。
 両手に持った銃を、交互に発砲。単発式の銃を扱うにしては、あまりに無思慮な攻め手だ。

 だが、この少女に限っては問題ない。魔法少女である彼女、巴マミに限っては、なんのデメリットもなかった。
 何故ならば、マミの手には既に新たな武器(マスケット)が装填されている。超神速の弾込めなどではない。
 完全に新調された銃器が、屋上の床に着地するまでに六丁、マミの背から手に移り、撃ち捨てられた。
 総計八発の弾丸を、今度こそ過不足なくゼロに撃ち込み、巴マミはルルーシュの眼前に降り立つ。
 両手両足、そして腹部に銃弾を雨霰と受けたゼロは崩れ落ち、黒い蒸気を噴出して動かなくなった。

「危ないところでしたね。あれは、私達にしか倒せない存在……
 あなたも使い魔のような物を持っているようだけど、あまり無茶をして怪我でもしたら、お友達が悲しみますよ?」

「……何故俺の知り合いがここにいると知っている?」

「あら、やっぱりそうだったのね。私のお友達も何人かここに来ているから、もしかしたら、と思ったのだけど」

 してやったり、と笑うマミに、ルルーシュの目が光る。
 現状が把握しきれない今、情報源である他の参加者と悠長に情報交換などしている暇はない。
 助けてもらった恩義を感じていないわけではないが……と逡巡しながらも、ギアスをかける事に抵抗はない。
 だが、マミの余裕も、ルルーシュの思惑も、次の一瞬で水泡と帰した。
 その一瞬を支配するのは音でもなく光でもない、しかし圧倒的な速度で飛来する――――拳だった。


 ◇


「――――――ッッ!」

「ほわぁぁぁぁぁっ!」

 ひ弱そうな青年を、押しのける。
 まず行動するのは他人の為、それが私が魔法少女である理由。
 次いで、30本出した銃の9本目を腕に添えるように構えてガード、迫る拳を受け止める。
 しかし、その威力は私の想像を超えていた。腕の骨が砕ける音と同時に、暴発した銃の弾が髪をかすめた。
 ガードと同時にステップを踏み、その場を離れようとしていた足が真逆の方向へ擦れて体を回転させる。
 五~六メートル程吹き飛ばされ、体勢を整える前に10本目の銃の引鉄を絞り、追撃の拳に銃弾を撃ち込む。

「鉛玉では、我が一撃は止まらんよ」

「な……!?」

 銃弾が、魔女の拳に飲み込まれ……薬莢となって床に落ちる。射撃の反動を利用して回避はできたが。
 驚愕に、心が揺れる。流暢に人語を喋り、人型から大きく変化せず、結界すら張らないこの稀有な性質にも驚かされた。
 しかしこの魔女、その能力すらもここまで逸脱していたとは……ソウルジェムが探知した反応に、バカ正直に突っ込んできた自分をほんの一瞬だけ恨む。
 だが、私が駆けつけなければあのひ弱そうな青年は、この魔女に食い殺されていただろう。
 ならば、この戦いは歓迎すべきだ、と言い聞かせ、11、12本目の銃を手に取る。

「何発撃とうが同じ事だ。なんなら手が尽きるまで待とうか?」

「銃だけが能ってわけじゃ……ないのよ!」

 髪を結うリボンがひとりでに解け、長大化する。片端を銃に繋ぎ、片端で魔女を捕らえる。
 この魔女は、人間だという前提で見るならかなりの巨体だが、魔女の常識に照らせば最軽量級。
 魔法少女として身体能力を強化された今の私ならば、容易くその体をリボンで振り回すことができた。
 屋上に点在する機器に魔女を激突させながら、回転速度を上げていく。

「このまま放り投げてあげる……結界を張られると、彼を逃がしにくくなるからね」

「……まさか、これで私を拘束しているつもりか?」

 魔女が全身の筋肉を隆起させると、魔法で強化しているリボンが簡単に弾け飛んだ。
 だがそれは予想通り……否、計画通り。先ほどの言葉も、魔女のこの行動を誘う為のもの。
 拘束から解かれ、空中で一瞬静止した魔女が言葉を失う。そう……今度は、彼女が驚愕する番だった。
 私がマスケット銃を大量に召喚し、使った銃を片っ端から捨てていく戦闘スタイルは効率を重視した正形。
 それゆえに魔女は既に攻撃力を失い、うち捨てられた銃になど関心を残さない。
 それこそが、私が仕込んだ心理的盲点だとも気付かずに。

「……小細工が上手い。しかし、何をやろうが同じ事だ」

「そうかしら?」

 そう、私が今までの戦闘で捨ててきた10本の歩兵銃は、使用済みの物と入れ替えた新品。
 空の歩兵銃を背中から排除し、両手に構えた銃を発砲すると同時に、床に捨てられた10本の銃が独自に回転、照準を魔女に合わせて、放火を噴いた。
 12発の弾丸が全方位から魔女を襲う――――しかしこれでは不十分。
 この魔女を殺しきるには全くもって足りない。それどころか、ダメージを与える事すらできないだろう。
 だから私は銃弾に込める魔力を調節し、12全てのの弾丸を炸裂弾と化した。
 破壊力を拡散させた弾丸は、霧を思わせる硝煙を発生させて魔女を覆う。
 だが、その霧の中からは、相変わらず余裕に満ちた言葉が響いていた。

「面積を増やせば効くと思ったのか?」

「いいえ。やっぱり、強敵には面より点の、大きな一撃よね」

「……!」

「食らってみる? 大玉ッ!」

 飛び上がる。炸裂弾で魔女を取り囲んだのは、ダメージを期待してのことではない。
 その狙いは圧倒的な全方位からの制圧射撃で、一瞬でも一秒でもその思考を奪うことにあった。
 そして、その目的は。この魔女が唯一回避を選んだ、逆に言えば唯一ダメージを恐れた私の必殺技を見舞う事。

 私の正義の体現……数多の魔女を屠ってきた、最大最強の一撃。

「ティロ・フィナーレ!」

「……」

 無言で、魔女が吹き飛ばされる。その体は一瞬で床にめり込み、恐らく数階層下まで押し込まれた。
 手ごたえは、あった。私は魔女が舞い戻ってこないことを、床に空いた穴を数十秒ほど眺めて確認し、穴に背を向けてひ弱そうな青年に視線を向ける。彼は、意外にも狼狽した様子は見せていなかった。


 そう、狼狽してはいなかった。
 彼は、戦慄の表情を浮かべていたのだ。


 彼の戦慄が私にではなく、私の背後の空間に向けられている事に気付いたのは、背中に衝撃が走った後だった。


 ◇


「……化け物め!」

「私は魔王だよ? その言葉は貴様の想像力の欠如から来るものだと言わざるを得ないな」

 魔王ゼロは、先ほどのマミとの戦闘の影響をなんら感じさせない、ルルーシュと出会ったままの態度で君臨していた。
 ルルーシュの足元にはその戦闘の敗者……最後に油断して背後から殴り飛ばされた、マミの姿がある。
 呼吸すらままならない状態であえぐ少女は、それでもなお一本だけ残った銃を右手に掴んでいる。
 だが、それを撃つ事はもはやままなるまい……ルルーシュのその判断は正しかった。
 マミがなんとか銃を構えられたとしても、それより早くゼロの拳はマミの頭を砕くだろう。

「邪魔が入ったが……貴様に聞きたい事の答えは、まだ返してもらっていなかったな」

 ユーフェミア、ナナリー、ロロ。
 ルルーシュの大事な、そして己の所業の結果として殺した人間が、彼の知る者としてではないとしても――
 平行世界の人間として、生きているのなら、ルルーシュは、どうするのか。

「例え一瞬だけの希望であっても、彼女たちに癒しを求めるか? “生きて”いる……彼女たちに」

「俺が殺したユフィは死んだ! 俺はシャルルや母さんとは違う、過去の幻影など望まない!」

 吐き出すように叫んだルルーシュは、ここに到って遂に理解した。
 ゼロの存在する平行世界が、自身の覚悟、悪逆皇帝として死に、世界を壊し、世界を創るゼロレクイエムにとって、あまりに甘い毒であると。
 その存在を認めてしまえば、悪行と惑いの果てに見出した確かな答えであるゼロレクイエムに、己自身が疑問を抱いてしまうのだと。

 ゆえに、ルルーシュは決意する。
 ロロ・ヴィ・ブリタニア、ユフィ、マオ。そして蘇ったというロロ・ランペルージ。最愛の妹であるナナリーでさえも。
 自分の世界で、自分の所為で死んだ彼らを否定し、平行世界の他人という名の彼らを再び殺すことこそが、自分に与えられた罰なのだと。
 エゴであっても。凶行であっても。死した者たちの影に浸る事だけは、許されない。

「そうだ……両親を殺し、腹違いの兄弟たちを殺し、最愛の妹すら殺した俺が、死んだだけで罪を償えるはずがなかった……
 俺は、未来を望む為に過去を殺し、現在に死んでいく。それが、俺に相応しい終末だ。選択肢は、変わらない」

「……そうか。お前は、そういう選択をするんだな。聞きたい事は全て聞いた。ならば……」

 ここで死ね、とゼロは言った。

 その言葉は自分がどんな選択をしていても同じだったのだろうと、ルルーシュは思った。


 だが……ルルーシュは、死を容認しない。ここでは、死ねない。己の悪行を完遂するまでは。


 ルルーシュの手が、目に伸びる。絶対遵守のギアスを下すその構えは、王の威厳を備えていた。

「……オレにはギアスは効かない。そこの死にぞこないを操っても無駄な事は知っているだろう」

「いるじゃないかもう一匹! お前の後ろにな! テッシード、“ミサイルばり”!」

「!?」

 ゼロが振り向く。
 それは、偶然だったのだろうか。
 あるいは、これまでの展開は、これまでの位置取りは、全てルルーシュの掌の上だったのだろうか。
 ともかく、そこには。室外機の一つに埋まり、片目だけを出しているテッシードがいた。

 ルルーシュが弾けるように背後に飛び、同時にギアスを飛ばす。
 ゼロが手にギアスの光を生み、ルルーシュのギアスを消そうとするが……テッシードから放たれた、無数のトゲに阻まれる。
 そしてルルーシュが放ち、テッシードに届いたギアスは――――


「全力で だいばくはつ”しろ!」


 無慈悲なる、だが抗えぬ命令。
 テッシードは一瞬の躊躇もなく、己の体を爆発させた。

 その威力はギアスによって制限の大半を逸脱した、強大なものだった。
 ゼロを中心に起こった大爆発は、それだけで終わることはない。条件は、全てクリアされていた。

 キリキザンの“あなをほる”により、構成する柱の一部を破壊され、僅かだが傾きつつあったビルが倒壊していく。
 ティロ・フィナーレによる物の数倍の穴を空けた大爆発は、ゼロを再び階下に落としただけではなく、大地震のような揺れを屋上にもたらし、床はまるで荒波のように撓んでいた。

 ルルーシュが、爆風から身を隠すように屋上に設置された自分の最後の支給品に飛び乗る。
 彼が屋上まで逃げてきたのは、“それ”で空に逃げ出すためだった。
 そもそも一旦ビルの外に出てきたのも、低所から空を眺めて可視性を推定する為。

「……」

 ルルーシュと、マミの目が合う。支給品が運べる人間は一名まで。
 この地獄から逃げ出せるのは、ルルーシュだけなのだ。

 ルルーシュにとってマミの登場は嬉しいハプニングだった。
 キリキザンに命令した時から考えていた、いざとなればゼロを葬る為に起こせた作戦を実行させてくれたのだから。

 いわば恩人を、見殺しにせざるを得ない状況。
 だがそれで決断が鈍るほど、もうルルーシュも子供ではなかった。


「……生きろ!」


 だから、それは気休めだった。
 絶対に助からないと思うからこそできる呪い。
 勇敢に戦った彼女に、せめて最後まで迫る死に立ち向かって欲しいという願い。

 ルルーシュは知っている。これが、自分の甘さだと。
 もし彼女が生き延びても、自分が彼女を助ける事などないのに。

 だが……そんな甘さを今全て吐き出すことで、これから自分が行う所業に、それを介在させないと誓ってもいた。
 陶然と自分を見上げるマミから目を切り、空中に飛び出す。


 ルルーシュは、悪逆皇帝として、己の過去の幻影を殺す旅に出た。
 そう……ナナリーすらも、殺す旅に。


「フハハハハハハ! なんだかんだと言われても! 俺に他の道はもはやない! 世界を破壊し、世界を創る!
 偽りの愛を拒み、真実の悪を貫く! 神聖ブリタニア帝国第99代皇帝! ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア!
 父を殺し、世界を欺き、仲間を捨てて覇道を駆ける俺には、どんな明日も待っていない!」


 黎明の空に浮かぶのは、かってロケット団が使っていた気球。
 しかし……爆風を飲み込み、膨らんだ風船の部分だけが改造されていた。
 崩壊する屋上で、瓦礫にうずもれながら沈んでいく巴マミがその後姿に瞠目する。

「キュウ……べぇ……?」

 己の友を模した気球を、正面から見ることもなく。
 巴マミは、その視界を闇に閉された。


 ◇

 完全に倒壊し、廃墟と化したビル。そのクズ鉄の山には、『スマートブレイン本社』と書かれた看板が転がっていた。
 そして、その看板を足蹴に佇む魔王が一人。いうまでもなく、ゼロである。
 ゼロは、テッシードの大爆発と、高層ビルの倒壊に巻き込まれていながら、未だ二本の足で立っていた。

「ご苦労だったな。下がれ、ガウェイン」

 なぜかハドロン砲と飛行機能がオミットされているガウェインでは、空に逃げたルルーシュを追うことはできない。
 背後に佇むエデンバイタルの魔人、ガウェインに労いの言葉をかけ、ゼロは一息ついた。

 彼は倒壊するビルの中で、咄嗟にガウェインを喚び出して身を包み、難を逃れていたのだ。
 亜空間へ消えていくガウェインを見送るゼロが、僅かな疲労を覚える。

「ガウェインの機能に手を加えるとは、あのアカギという男は一体……ふむ」

 大爆発を終え、瀕死状態となったテッシードの鋼のボディを拾い上げて握りつぶす。
 握力は、落ちていない。
 無論無傷ではないが、すぐさま休養を必要とするほどでもない。悠々と歩き出そうとして、その足が止まる。

 先ほどの戦闘で、いくらかの銃弾を食らった拳が鈍い痛みを訴えていた。
 本来ならば、鉛玉などいくら当たっても無意味だというのに……

 意外にも気の小さいゼロは、自分の攻撃の要となる拳を保護するべくテッシードのボディを引きちぎり、加工する。
 鋼の甲殻をグローブ状に誂えて装備し、視線を移すゼロ。

「さて……行くか。“奴”の事も気になるが、“奴”が真に魔王の道を歩むなら再び遭う事もあるだろう」

 ゼロの目には、濁った血が点々と垂れた、逃走の道筋が映っている。
 耐えたのか、再生したのか、ゼロと同じように死を免れたマミの遺したモノであると、ゼロは直感していた。


 そうして、ゼロは立ち去った。
 エデンバイタルより与えられた、魔王としての役割を成す為に旅立った。
 混沌を振りまき、友・スザクや最愛の妹……ナナリーとすら敵対し、彼女達を殺す旅に。


 ◇



「ご……はっ」

 路地裏で、マミが口から大量の血を吐き出す。
 腹部からは内臓がはみ出していて、両足の感覚も殆どない。
 放っておけば再生するとはいえ、その速度も目に見えて低下していた。
 ゼロとの戦闘で半分ほど濁ったソウルジェムが、不気味な光を放つ。
 辛うじて走ってビルを後にすることはできたが、もうそれほど動く事は出来ないだろう。

「何故……私は逃げたの……」

 しかし、マミは自分を責めていた。

 あの魔女を倒さなければ、必ず多くの犠牲が生まれる。
 自分の命と引き換えにしてでも、あの場で道連れにしておくべきではなかったのか。

「……」

 『その思考』に到ったマミの目に、再び光が宿る。
 だがその光は、彼女の正義の精神が燃やす光ではない。
 それは、ギアスの光だった。


【F-3/上空/一日目 黎明】
【ルルーシュ・ランペルージ@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[状態]:疲労(大)
[装備]:ロケット団の気球@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:共通支給品一式、モンスターボール(キリキザン:瀕死)@ポケットモンスター(ゲーム)、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本:スザクとともに生還し、ゼロ・レクイエムを完遂する
1:スザクと合流
2:自分の世界で死んだ者たち(平行世界の存在も含む)を全て殺害する(手段は問わない)
3:他の知り合いの事は保留
4:ナナリー……
[備考]
※参戦時期は21話の皇帝との決戦以降です
※自分の世界と平行した世界があることを知りました
※テッシードが死んだ為、モンスターボールが空きましたが中に他の参加者に支給されたポケモンを入れることは出来ないようです

【ギアスの制限について】
1:「死ね」など、直接対象を殺害する命令はできない(「○○を殺せ」等は可)


【E-2/路地裏/一日目 黎明】
【巴マミ@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:両足損傷、内臓損傷、消耗(大)、魔力消費(大)、ソウルジェム(汚染率25%)、絶対遵守のギアス発動中(命令:生きろ)
[装備]:なし
[道具]:共通支給品一式、ランダム支給品0~3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本:魔法少女として戦い、他人を守る
1:仮面の怪人(ゼロ)から逃げる(手段は問わない)
2:キリカ、織莉子を警戒。発見したら排除する
3:ゆま、杏子、ほむらと接触する
[備考]
※参加時期は第4話終了時

【魔法の制限について】
1:銃を出せる数は完調時でも60~80本程が限界
2:再生の速度低下


【E-2/スマートブレイン本社ビル跡/一日目 黎明】
【ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、ガウェイン3時間召喚不能
[装備]:テッシードのグローブ
[道具]:共通支給品一式、ランダム支給品0~3(本人確認済み)
[思考・状況]
基本:参加者を全て殺害する(世界を混沌で活性化させる、魔王の役割を担う)
1:金髪の少女(マミ)を追跡し、殺害する
2:ナナリー……
[備考]
※参加時期はLAST CODE「ゼロの魔王」終了時
※エデンバイタルとの接続により、「コードギアス反逆のルルーシュ」世界の情報を得ています
※E-2スマートブレイン本社ビル跡周辺にビルの倒壊する音が響きました

【能力制限について】
1:身体能力の低下
2:ガウェイン召喚の時間制限(詳細は後の書き手氏に任せます)。間隔をあけなければ次の召喚が不可能(3時間)。また、ガウェインのハドロン砲、飛行機能は排除されている
3:エデンバイタルとの接続の不安定化。また、正しい情報だけが得られるとは限らない。ギアス世界(反逆)以外の他世界の情報は、放送毎に一つずつ開示されます
4:ザ・ゼロによる森羅万象の消滅に制限。ある一定以上のエネルギー量は消せない。他参加者の肉体や体力の類は直接消せない。デスノート・ギアスなどにより、一度成立した呪いは消せない
5:他者へのギアスの発現・魔道器の移植の禁止


【支給品解説】

【キリキザン@ポケットモンスター(ゲーム)】
ゲーチスの手持ちのポケモンの一体。タイプはあく・はがね。
切断系の技を多く持つ、狂暴なポケモン。

【テッシード@ポケットモンスター(ゲーム)】
Nの手持ちのポケモンの一体。タイプはくさ・はがね。
防御に特に秀でる。

【ロケット団の気球@ポケットモンスター(アニメ)】
アニメ「ポケットモンスター」にて、ロケット団が逃走などに使用する気球。
出るたびに攻撃されて空気が抜け、彼方へと飛んでいくオチ担当アイテム。
このロワに置いては、ニャースの顔だった球体部分がキュウべえのどや顔に改造されている。

【ガウェイン@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
支給品ではなく、ゼロが能力として召喚するエデンバイタルの魔人。
サイズ、ハドロン砲、10指に備え付けられたハーケンなど装備・機能は『反逆』世界の物と酷似している。
原作最終局面では、高性能な足場としてゼロとナイト・オブ・ワンであるヴァルトシュタイン卿との決戦を見守った。
おい、ロボバトルしろよ。


026:その南空ナオミをぶち殺す 投下順に読む 028:殺さねばならない相手がいます
014:終人たちのプロローグ 時系列順に読む 030:ばーさーかーとのそうぐう
初登場 ルルーシュ・ランペルージ 055:だが…信用できないのはルルーシュ・ランペルージだ…!(前編)
初登場 巴マミ 050:ロスト・ワールド
初登場 ゼロ


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