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オンリー/ナンバー ワンを夢見た 少女/男 ◆8nn53GQqtY


 ――わかり易く言うならば、最後の一人になるまで殺し合いをしてほしいのだ。

 とても冷たい目をしたおじさんは、ゆまたちにそう言った。

 殺し合いというのは、つまり、お互いに相手を殺そうと戦うということで、魔法少女と魔女が命がけで戦っているように、あの広い場所にいた人たち全員で、命を奪いあえということで。

 メガネをかけたお兄さんが、そのアカギというおじさんをやっつけようと向かっていった。

 侮辱した者は殺すとかぶっそうなことを言っていたけれど、つまりあのお兄さんは、『殺し合い』を許せないと思って、おじさんを止めようとしたのだ。

 けど、あのお兄さんの首には『魔女の口づけ』がつけられていた。

 お兄さんは、助けて、と叫びながら燃えて死んでいった。


 思い出して、ゆまの体が少しだけ震える。
 キョーコと出会い、『魔法少女』のことを知ったあの日から、命がけの戦いに立ち会い、父や母を含めた人間たちの無残な『死』だって見て来た。
 それでも人の『死』を見ることは嫌だし、怖いと思う。
 それが他人の『死』であっても、ゆま自身の『死』であっても。



 つまり、あのおじさんはわるい人だ。



 人間でも魔法少女でもない(男の人だし)、魔法を使えない人に見えたけれど、人間に『魔女の口づけ(“ジュジュツシキ”とは何のことだろう)』を点けられるのだから、人間なのに魔法が使えるのか、それともわるい魔法少女の一味なのか、そのどちらかだと思う。

 わるい魔法少女をやっつけるのも、魔法少女であるゆまのお仕事だ。
 わるい魔法少女を探していたマミおねえちゃんなら、あのおじさんだってきっと退治しようとするだろうし、キョーコもきっと、いつものように『オトシマエ』だと言って、あのおじさんと戦おうとするだろう。


(わるいことなんて、させないんだからね)


 ゆまも、こんなところで死んでしまうのは嫌だ。
 そして、キョーコが死んでしまうのも、同じくらいかそれ以上に恐ろしい。

 それが、襲い来る『魔女』から逃げ出して、こうして生きている理由だから。
 それが、ゆまが『魔法少女』として生きている理由だから。

 だから、ゆまは殺し合いを止める為に、ゆまにできることをしたい。
 幼いながらもしっかりと揺らがない心の強さで、小さなゆまは大きな決意を胸に抱いた。

 しかし……

 +   +   +

「むらうえ……うぅ~……下の名前はなんて読むんだろう」

 ゆまはまず、参加者の確認で早くもつまづいた。

 名簿の名前は漢字ばかりで、義務教育の三分の一も終えていないゆまには、半分近くの名前が読めなかったのだ。

 しかし、カタカナの『マミ』という名前があるのは見つけた。
 マミ、というのは、以前キョーコと公園で話していた魔法少女のおねえさんだろう。
 キョーコのことを『怪しい』という目で見ていたからゆまも仕返しにスカートをめくってやったりしたけれど、二人はそんなに仲が悪くなさそうだった。
 あのおねえさんも魔法少女なら、きっと味方になってくれるだろう。

 それに、ゆまとマミおねえちゃんの二人の魔法少女が呼ばれているなら、きっとキョーコだって一緒に呼ばれていると思う。
 あの暗い場所に飛ばされるまで、一緒にホテルのお布団でおやすみしていたのだ。
 きっとキョーコも連れて来られているはずだ。

 キョーコがいるとなれば、がぜんゆまの心は強くなった。

 早くキョーコと会いたい。
 会ってキョーコを助けたい。キョーコの役に立ちたい。

 ゆまは一人だと何もできない役立たずじゃないけれど、でも、一人でいるのはさびしい。


 だから、まずはキョーコを探そう。


 ゆまはそう決めたものの、しかし行くあてがあるわけではなかった。
 魔法少女同士は離れた場所にいても頭の中でお話ができるのだけれど(もっとも、ゆまはいつもキョーコと一緒にいたからほとんど使ったことはない)この場所に来てからその力が使えなくなっている。

 これには魔法少女のゆまも、とほうにくれた。

 とほうにくれたと言えば、ゆまの隣に置いてある『これ』もそうだ。
 ゆまの飛ばされた場所に初めから落ちていた。
 だからゆまが使っていいものだと思うけれど、しかしゆまには『これ』を使うことができない。

 しょぼんとうなだれると『ぐぅ~』とお腹が鳴った。

 ゆまは顔を上げた。
 ゆまの立っている大通りから建物二つほど離れた先に、夜中にも明るいコンビニエンスストアの看板が見えた。

 万引き――もとい食料自給でよくお世話になる場所になじみを覚えて、ゆまはそそくさと歩みを進め、自動ドアをくぐり、明るい店内に足を踏み入れる。

 お店の中に人はいなかった。
 好奇心が高じて、レジの裏から『関係者以外立ち入り禁止』の場所まで探索したけれど、本当に誰もいなかった。

 いいことを思いついた。

 さっきディパックを開けたところ、食べ物は給食に出て来るようなパンばかりだった。
 別にパンは嫌いじゃないけれど、食生活に不自由していないゆまには、ちょっと飽きのくるメニューだ。

 もちろんキョーコに教わったように、その食べ物を粗末にするつもりはなかったけれど、それ以外のオカズやお菓子があればとても嬉しい。
 いつもハンバーガーや菓子パンを食べているキョーコだって、きっと味気ない想いをしているはずだ。


 そしてここは万引きをせよと言わんばかりにたくさんの食べ物があり、にも関わらず店員は誰もいないのだ。


 キョーコを探す前に、やることができた。

 レジの裏からコンビニのレジ袋の中を持ちだすと、ゆまは目についた食料――特にキョーコの好きそうなジャンクフードやお菓子――を詰め込んで行く。

 わるいひとを許さないことと、泥棒をすること。
 この二つは、ゆまの中で何の矛盾もない行動だった。

(お菓子を持って行けば、きっと杏子も喜んでくれるよね……!)

 板チョコを棚から何枚もつかみだして袋に入れながら、ゆまは杏子との再会を思って『にぱー』と笑った。

 +   +   +

 メロは注意深く付近を観察しながら、深夜の大通りを闊歩していた。


 何の前触れもなくあの広間に召喚され、まず、彼の心に生まれたのは激しい怒り。


 メロという人間の全てを費やした“四年間”の決着を、妨害された怒り。
 あと二日で、全てに決着がつくはずだった。最後の戦いが行われるはずだった。


 ニアは、己の命と世界の命運を賭けて、夜神月の前に姿を現そうとしていた。

 夜神月もまた、己の命と世界を支配する権利を賭けて、一対一でニアとの対決に臨もうとしていた。

 そしてメロは、この二人の決闘を知り、双方の策略を推察し、覚悟を決め、命を賭けて『ある状況』を作る為の『誘拐』を実行していたところだった。

 そう、あともう少しで、二代目Lことキラと、ニアとメロ、この三者の対決に、全ての決着をつけられるところだった。
 三人の宿敵が、それぞれの人生とプライドを賭けたひとつの決闘劇を、いとも簡単に不条理に邪魔された。

 その怒りは、激しやすいメロでさえ人生でそう何度も味わったことがないほどの、苦々しいものだった。
 怒りで唇をかみしめて食い破った血の苦さの味だ。



 そして、次に思い知らされたものは、驚愕と、納得。

 そこで目にした、耳にした、常識を覆す数々の異様な光景と、謎のキーワード。

 例えば、真っ先に反抗を試みて殺された青年の、異形の姿。そして『オルフェノク』という単語。
 例えば、青年の体を突如として炎上させた、『魔女の口づけ』なる呪術式。
 例えば、アカギが願い事として口にした『全ての時間軸から魔女を消し去る』、『人類の進化系が支配する世界』といった計画。

 誰もが悪い夢を見たと思いかねないその異常な空間は、しかし、受け入れなければ命に関わりかねないという現実だった。

 『名前を描いただけで人を殺せるノート』が、実在したように。
 持っていたノートが急に浮遊したと思ったら、死神と名乗るシドウが現れたように。
 あまりに常識を覆すものを見た時は、逆にあっさりと受け入れた方が対応しやすいことをメロは経験から知っている。
 ただ、今回ばかりは流石にファクターのバリエーション豊富さに、呆れかえりそうになったが。

 そして提示された命令は『殺し合い』。
 その目的も、『儀式』というオカルトじみた領域の産物だった。


 しかし、メロは『命令に従って殺し合いに乗る』という選択をするつもりはない。


 あのアカギという男は、『最後の一人』を『勝者』として願いを叶えると言っていたが、しかしあの主催者の命令に忠実に従って『儀式』を実行したとして、それは『勝者』ではない。
 その場合の『勝者』は、アカギという男、ただ一人だ。
 主催者に怒りを抱き、可能なら報復を望んでいるメロにとって、それは決して望ましい形ではなかった。

 また、皆殺しを実行するということは、あの決闘劇の相手だったニアと夜神月を殺害、もしくは見殺しにするということになる。
 別に、このような状況下でも助けたいと思うほど、深い友誼を抱いているなんてことは全くない。むしろその逆だ。
 この世でもっとも忌々しいと思っている二人が、彼らだと言っていい。

 もしこの儀式に呼ばれたのが三カ月前のメロだったら、ニアと二代目Lを出しぬき、二人に勝利し、場合によっては殺害した上での生還を前提として行動しただろう。
 その為ならば、ニアの悪評を振りまき、対主催陣営にヒビを入れることも厭わなかったはずだ。
 ニアを倒し、Lを越えて“一番”の高みにのぼる。その為には手段を選ばないし、どんな悪事も辞さない。
 それがメロの長年の悲願であり、行動方針だったのだから。

 しかし、今のメロは、そこまで強引なことをして、ニアと競争しようとは思わない。

 今のメロは、命がけで『ニアを夜神月に勝利させる』為の計画を実行していた最中だったのだから。

 キラを止める為に命を捨てよう、などと正義感にかられたわけではなかった。
 メロが生き残り、その上でニアと夜神月の二人を出しぬけるという勝算もあった暴走だった。
 しかし『もし自分の誘拐計画が失敗しても、それが結果的にニアの勝率を挙げる行為になる』とまで見越して行動したことは、認めざるを得ない。

 何より求め続けた“一番”の地位をニアに譲ることになったとしても、ニアに最後の最後の局面で『メロのおかげです』とでも言わせることができれば、『ニアの力だけでLを越えることはできないが、二人ならLを越えられる』と認めさせることができれば、そんな結末でも、まぁいいかと妥協して納得して、メロは『俺がやるしかない』と覚悟した。
 だから、こんな運と不確定要素に大きく左右される殺し合いの場で、決着の形が違うものになってしまうことは、とてもではないが好ましくなかった。

 『儀式』を中断させ、ニアや夜神月と共に決着の続きをつけられることができれば、それが最善。
 しかし、夜神月は、殺し合いに乗る可能性があるだけでなく、メロの排除に動きかねない。
 その場合は彼を打倒し、決着をニアとの一対一に持ち越す。それが次善。
 そして、最悪の場合にせよ、主催者の思惑には乗りたくないので『勝者』を狙うつもりはない。

 ……まぁ、あくまで“ニアと積極的に争うつもりはない”というだけで、慣れ合うつもりはもうとうないが。
(第一、こちらに競争する意思がなくとも、向こうは未だにメロを警戒しているだろう)


 一度、納得して捨てた命だ。
 なら、最後に命がけの難題にチャレンジするのも悪くない。


 死ぬ覚悟を決めた今のメロにとって、対主催行動を取るのは、それほど決断を要す事態でもなかった。


 さて、『ニア』と『夜神月』に対する対応はそれで良いとして、名簿には他にもいくつか、看過できない名前が存在する。

 夜神月の部下、松田桃太。夜神月の恋人、弥海砂。この二人に関しては、夜神月との繋がりで呼ばれたと考えて良いだろう。
 おせじにも使える人材とは言えないが、夜神月の派閥にいる以上はメロのことを警戒しているだろうし(それでなくともメロは犯罪者なのだ)悪評を振りまかれる可能性はある。
 警戒ぐらいはしておくべきだろう。

 しかし、『L』という名前が名簿上に存在するのはどういうことか。

 これまでにLを名乗った人間は三人いる。

 言わずと知れた、世界最高の探偵、メロとニアの目標、初代L。
 そのLを殺害し、まんまと二代目Lの座に居座っている夜神月。
 そして、メロが引き起こしたノート強奪事件に際して、偽証からLだと申告した松田桃太。

 初代Lは、既に故人となっている。
 夜神月と松田桃太の名前は、既に名簿上に存在する。

 これだけなら、名簿の誤表記を疑っていたところだ。

 他にも『あり得ない名前』が存在しなければ。

 夜神総一郎。
 南空ナオミ。

 どちらも既に死んだ人間の名前だ。
 といっても、南空ナオミに関しては伝聞でしか聞いたことがない。
 過去に、初代Lが話して聞かせてくれた『ロサンゼルスBB殺人事件』でLの協力者となった元FBI警官の名前だ。
 どうも婚約者であるレイ・ペンバーがキラ事件で殉職して以来、行方不明になったらしく、メロとしても本当に死んだのかどうかの確信は持てない。
(たまたま同性同名の人間が名簿に載っている可能性もある)

 問題は、夜神総一郎だ。
 彼に関しては間違いなく死んだと断言できる。

 彼を殺したのは、他ならぬメロだから。

 否、直接に手を下したのはマフィア時代の仲間であるホセだが、殺す決断はメロがくだしたようなものだ。

 息を引き取るところまでを見たわけではないが、撃たれた総一郎からノートを取り上げようとした時の、あの負傷は充分に致命傷だった。

 主催者は、願いを叶える権利の具体例として、死者の蘇生をも可能にすると言っていた。
 死神の存在を受け入れたメロでさえも、死者蘇生というのはにわかに信じがたい。
 しかし、仮にも“オカルト”を受け入れると決めた以上、その可能性も念頭に置いた方がベターだろう。
 もちろん、『死者蘇生』が可能と見せかける餌を撒く為に、名簿にわざと故人の名前を混ぜたという可能性もあるが。
 しかし、仮に、故人が参加者になり得るとしたら……



(初代Lも、蘇生している……?)



 その仮説は、流石のメロにも形容しがたい身震いを走らせる。
 あの『L』だ。
 ワイミーズハウスにいた者ならだれもが尊敬し、そしてある者は叶うはずがないと諦め、ある者はその『後継者』の座を得ようと夢見て研鑽を重ねて来た、あの『L』だ。

 彼が蘇生しているかもしれないと言われ、動揺の走らぬはずがない。
 胸が高鳴らないはずがない。


 希望的観測に依りかかるのが危険だとは承知している。
 しかし、仮にLが蘇生しているのだとすれば、名簿の表記に関する問題は解決する。

 本当に死者が蘇生しているかはともかくとして、名簿に故人の『夜神総一郎』が書かれているように、名簿の『L』が故人である『初代L』を指す可能性は大いにある。

 どちらにせよ、今の段階で断定はできない。
 だからこそ、今、何よりも必要なものは『情報』だ。

 その為にこそ、メロは恐れることなく大通りの真ん中を歩いていた。
 まずは何より、他の参加者との接触を――


 黒いカラーリングの原付自転車が、路上に停車していた。


 メロは駆けより、その車体を観察する。
 鍵はささっているようだ。
 特に故障も見当たらない。むしろその輝きは新車のそれだ。
 ニアには無いアクティブさを強みとするメロにとって、そのバイクを利用することは大きなアベレージとなる。
 しかし、こんな路上にぽつねんとバイクが駐車しているのも不自然な話だ。

 もしや、これは誰かに支給品として配布された物ではないか。
 だとすれば、この原付を支給された持ち主は、バイクの運転ができなかったか、あるいはここに原付を停車させて、この近辺を徘徊しているか。


 ――ウィィィィン


 十数メートル先の建物――深夜でも明るいコンビニエンスストア――の、自動ドアが開かれた。

 コンビニのビニール袋をその手にぶら下げた少女が現れ、あどけなく大きな瞳がメロをきょとんと見上げた。

 +   +   +

「お兄ちゃん……?」

 ばっちりと目が合ってしまった。

 襟もとと袖口を織り込んだぶかぶかのセーター。
 鈴を模したような金色の髪飾りと、小さなふたつ結び。
 年齢はおそらく、六歳前後。

 こんな幼女まで殺し合いに放り込むとは。
 子どもを巻き込むことに憤慨するほどメロは人道的ではなかったが、しかしアカギ曰くの『選ばれた戦士たち』の基準を疑いたくはなってしまう。
 まぁ、あのメガネの青年がそうだったように、一見して一般人だからといって、その正体もそうだとは限らないのだが。

 しかし、そのきょとんとした表情はあまりにも無防備で、頼りない。

「なんだ、ガキか」

 子どもという手ゴマは、正直なところ『微妙』だった。

 使い道がないわけではない。
 むしろ、連れ歩くだけで他の参加者からの警戒を和らげるなど、メリットはある。
 しかし、問答無用で『保護し守る義務』が発生する。
 例えば、大人の参加者なら『仲たがいをして別れた』『相容れないから切り捨てた』だけの説明で済む要因でも、その相手が子どもなら『子どもをこんな殺し合いで放置した血も涙もない男』という不和のタネになってしまう。
 今ここで放置しても、この子どもが他の参加者にメロのことを話せば、決してメロに良い印象は持たないだろう。
 つまり、今後のことを思えば、(道中の預け先を見つけない限り)ずっと連帯するしかなくなってしまう。

(まぁ、殺すという選択肢もあるな)

 殺すという手段は、乱暴だが手っ取り早くもある。
 他の参加者の恨みを買うというリスクはあるが、そもそもメロが殺したという証拠さえ残らなければ問題ないだろう。
 ライダースーツの中に隠した支給品――ワルサーP38――をこっそりと確認した。

(もちろん先に情報を引き出しておく必要はあるが)

 メロは決して善人ではない。
 出来る限りの努力を積み、それでも敵わないニアとの差を埋める為に、メロは“手段を選ばない”という選択をした。
 何の罪もないSPKのメンバーを『ニアを出しぬきたいから』という理由だけで殺した。
 使えない手ゴマをデスノートの実験台として使ったこともあった。

(しかし足手まといだから切り捨てるというのも考えものだな。
 ……ただでさえニアや夜神たちは俺のことを警戒しているだろうから、極力こちらも味方をつくっておきたいところだ)

 しかし、そんなメロにも惜しみなく協力してくれた仲間はいた。

 メロを信頼し、トップの座を実質的に譲り渡すばかりでなく、資金を惜しみなく提供したロッド・ロス。
 ワイミーズハウスの同郷であり、マフィア壊滅事件以来のただ一人の協力者、マット。
 無償の尽力というわけではなく、打算あっての協力関係だった。
 しかしそこには確かに、裏社会で生きる者なりの信頼があった。
 どちらも、メロのキラ打倒計画に加担したからこそ、メロより先に死んでいった。

 彼らの犠牲の上にメロは生き延び、そして、メロは一人になった。

(俺もヤキが回ったか……)

 感傷を抱くほどやわな人生を送って来たわけではない。
 己の決めた道に、失敗はあっても後悔をしたことはない。
 しかし、誠意をつくしてくれた『仲間』を、己のツメの甘さから死なせてしまったことは『申し訳ない』と心から思う。

 よくも悪くも、『感情』というものを制御できないし、制御する気もないのがメロなのだ。

 だからこそ、少女を殺すかどうかの判断で迷ってしまう。
 例えばキラなら、敵も味方も問わず『利用する』の一択であり、相手が足手まといだろうとまずは好意的に接して味方につけるだろう。
 しかしメロには『信頼をする』と『利用する』の二択が存在しているだけに、かえって味方の選抜にはシビアになってしまう。

(まぁ、ひとまずは『観察』に回るか。
 殺されたメガネの男からして、参加者の中には明らかに化け物じみた力を持つ奴らがいる。
 そんな連中がゴロゴロしてる中で、一般人の俺が軽々しく引き金を引くのは間抜けもいいとこだ)

「ガキ、何してるんだ、こんなところで」

 そんなメロの迷いも露知らず、少女はメロの言葉に、頬をむっと膨らませた。

「ゆまはガキだけど強いんだよ! 役に立つんだよ!」

 「ゆまはガキじゃないよ!」というテンプレートな反論を返さないところに、少し好印象を受けた。
 だからどうだというわけでもないが。

「そいつは悪かったな。それで何やってるんだ? コンビニなんかで」
「お店に人がいなかったから、食べ物をもらって来たの。あと、レジのお金も」

 殺し合いに巻き込まれて最初にすることが食料調達とは……冷静だと見るべきか、事態を理解していないと見るべきか。
 金品にまで気が回っていることから、メロは前者だと判断する。
 こんな閉鎖環境で金がそこまで魅力を持つとも思えないが、しかしあって困るものではないだろう。何より、あまりかさばることがない。
 こんな異常な状況下で、しかし即座に物資の調達を考えられる少女のことを、メロは少しだけ評価した。

「お前、親は……」
「え? 何?」
「いや、いい」

 よくよく見ればぶかぶかのセーターには乱暴な補修の跡があり、ずいぶんと着古されている。
 保護者が娘の身なりにさえ配慮しない環境にいたのか、あるいは保護者自体がいない環境にいたのか。
 己の経歴がら、貧困街に住みつくストリート・チルドレンも見慣れて来たが、彼らは下手に甘やかされた大人よりよほど抜け目がなく、生きることに貪欲だ。
 この少女も、その類の人種かもしれない。

 少女は、臆することなくしげしげとメロの顔を見つめた。

「お兄ちゃん、けがしてるね……」
「この傷は元からだ。別に痛かねぇよ」
「そっか……じゃあゆまの治療魔法も効かないのかな?」

 『魔法』。
 まさに欲していたそのキーワードが、メロの耳朶を刺激する。

 主催者の言っていた『魔女の口づけ』という呪縛の名前。
 そして、『全ての魔女を消し去る』という言葉。

「ガキ、お前『魔法』と言ったか?」
 半信半疑が声に出たらしく、アクアマリンの瞳が強い目力をこめてメロを見つめる。

「ゆま。『ガキ』じゃなくて、魔法少女の千歳ゆまだよ」

 見てて、と『ゆま』は言った。
 どこからか、緑色の小さな宝石を取りだした。


 宝石が発光し、その纏う衣装が一瞬にして変じた。

(変身……した……?)

 その姿は、『魔法少女』という可愛らしい響きに違わず。

 猫耳のような突起物をつけた白いヘアバンドに、ミドリと白のドレス。
 関節部をリボンできゅっとしぼったひらひらのブーツと、白くふかふかした手ぶくろ。
 まるでジャパニーズ・アニメーションに登場するキャラクターを思わせた。
 ファンシーな格好に変じた少女は、首に着いた鈴のようなチョーカーをりんと揺らしてメロをにっこりと見上げる。

「これが『魔法少女』。治療魔法の他に、攻撃魔法もあるんだよ」

 その手には、どこから取り出したか、己の背たけほどもある白いメイスを軽々と握っていた。

 その変身はどう見てもトリックの類ではない、明らかな『異質』の法則が持ち込まれたもの。

(これは……拾いものかもしれないな)
 ……どうやらメロが逡巡している間に、彼女は己の価値を証明してしまった。

「なるほど、お前に力があるらしいことは分かった」
「そうだよ! ゆまはキョーコと一緒にわるい魔女をやっつけてきたんだよ」

 メロは片膝をついてすわり、ゆまと目線を合わせる。

 ああ、ガラにもないことをしているな、と内心で苦笑。

 大丈夫、メロはニアと違って、ワイミーズハウスでも社交性のある子どもだった。
 だから、子どもの対応にだって慣れている、はずだ、おそらく。

「ゆま、俺と来い」
「お兄ちゃんと……?」
「『お兄ちゃん』じゃねえ……俺はメロだ。
 悪い奴をやっつけるってことは、お前は殺し合いに乗るつもりはないんだろう。
 俺は決して正義の見方じゃない。しかし、あのアカギって奴の企みをぶっ潰したいと思ってる。
 だからゆま、俺に力を貸せ」

 ゆまは驚いたように、そして、感動したように大きな瞳を見開いた。

「メロは、ゆまの力が必要なの?」

 どうやら“必要とされる”ことに喜びを見出すタイプらしい。

「あぁ、お前のその『魔法』とやらが本当に役に立つならな。
 とりあえず、知っている事を話せ。『魔女』ってのは何なのか。魔法少女とやらは他にもいるのか。
 それが終わったら、この支給品に乗って会場を探索するぞ。
 その片手間なら、お前の知り合い探しぐらいは手伝ってやるよ」
「……うん! うんうん! じゃあ、メロお兄ちゃんはゆまの『仲間』だね」



 こうして、“一番になりたかった男”と“必要とされたがった少女”は小さな同盟を結んだ。


【F-2/大通り コンビニ前/一日目 深夜】

【メロ@DEATH NOTE】
[状態]健康
[装備]ワルサーP38(8/8)@現実
[道具]基本支給品一式、不明支給品0~2
[思考]
基本:元世界に戻り、ニアとの決着をつける
1:ゆまから『魔女』についての情報を得る
2:原チャリにゆまを乗せて各施設を探索
3:死者(特に初代L)が蘇生している可能性も視野に入れる
4:必要に応じて他の参加者と手を組むが、慣れ合うつもりはない(特に夜神月を始めとした日本捜査本部の面々とは協力したくない)

[備考]
※参戦時期は12巻、高田清美を誘拐してから、ノートの切れ端に名前を書かれるまでの間です
※協力するのにやぶさかでない度合いは、初代L(いれば)>>ニア>>日本捜査本部の面々>>>夜神月>弥海砂


【千歳ゆま@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]健康、変身中
[装備]ソウルジェム(穢れ無し)
[道具]支給品一式、不明支給品0~2、コンビニ調達の食料(板チョコあり)、コンビニの売上金
[思考]
基本:わるいおじさんをやっつける
1:メロお兄さんとお話する
2:メロお兄さんと一緒にキョーコ、マミお姉ちゃんを探す(キョーコを最優先)

[備考]
※参戦時期は、少なくとも3話以降
※原動機付自転車@現実が、コンビニの数十メートル手前で停車しています


【支給品紹介】
【原付自転車】
何の変哲もない50cc以下の原チャリ。
『仮面ライダー555』に登場する一連のバイクのように、特殊な機能は一切ない。

【ワルサーP38】
9mmパラベラム弾8発装弾のドイツ式拳銃。
かのルパン三世の愛銃だったことで有名。


014:終人たちのプロローグ 投下順に読む 016:事故防衛
013:最強の竜 時系列順に読む
000:WORLD END 千歳ゆま 040:片手に幼女、唇にチョコレート、心に……
初登場 メロ


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