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私の光が全てを照らすわ

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匿名ユーザー

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私の光が全てを照らすわ ◆Vj6e1anjAc



「千歳ゆまが死んだ……か」
 ぽつり――と一言呟いて、名簿の名前を塗り潰す。
 ただそれだけのことでありながら、少女・美国織莉子の所作からは、隠しようのない気品が見て取れた。
「知り合いか?」
「いえ。ですが私にとって、意味のある存在ではありました」
 同行者サカキの問いに対し、答える。
 自らがかのキュゥべえに存在を示唆し、契約へと導いた千歳ゆま。
 元々は鹿目まどか捜索の時間を稼ぐため、撒き餌に利用した娘だ。
 少し前まではいざ知らず、既に契約を終えた彼女には、とりたてて用も役目もなかった。
 もっとも、自分の目的のために彼女を巻き込んだこと、そんな彼女を救えなかったという事実には、少し良心が痛んだが。
(残る魔法少女のうち、警戒すべき人間は2人……巴マミと、暁美ほむら)
 とはいえ、そこで思考を止めるわけにはいかない。
 再び名簿へ視点を落とし、記された名前を見定める。
 この中で問題とすべき相手は、心中で名前を挙げた2名だ。
 魔法少女狩りの犯人・呉キリカと、自分が協力関係にあることを知っている魔法少女、巴マミ。
 倒すべき最悪の魔法少女・まどかを保護している魔法少女、暁美ほむら。
 この2名と対峙することになれば、戦闘は免れないだろう。積極的に殺したいとは思えないが、障害となるのなら、消すしかない。
「ふむ……では、これからどうする? どうやら君の友人とやらは、まだここには来ていないようだが」
 ここ、とサカキが言ったのは、現在地である見滝原中学校だ。
 一通り探りを入れてはみたが、ここにはまだ人の気配がない。織莉子の未来視の力にも、キリカとの再会のビジョンは映らなかった。
「そうですね……それでは、これから私の家に行くとして、それからもう一度ここに戻ってくるというのはどうでしょう?」
「まぁいいだろう。君の力のおかげで、捜索にも時間はかからないわけだからな」
 織莉子の提案を、サカキが承諾する。
 人捜しといっても、実際にやるべきことは、ただ廊下を歩くだけのことだ。
 通りがかった部屋の中に、誰かがいたとするならば、それは織莉子の能力が察知する。
 これだけの余裕を持ったスケジュールも、その能力の賜物だ。
 もっとも実際にやるまでは、もう少し時間がかかるのでは、と思っていたのだが。
「ありがとうございます」
「では行くとするか。君の家の方には、何かあるかもしれんからな」
 言いながら、サカキは教室を後にした。
 織莉子も名簿をデイパックへしまい、彼に続いて廊下へと出る。
 ポケモン城という手掛かりを得たのは、収穫と言えば収穫だった。
 しかしながら、ここに至るまで、彼女はまだ誰とも会えていない。それ故に彼女の力は及ばず、多くの犠牲が出てしまった。
(人の命に、取り返しなんてものはつかないけれど……)
 出来ることなら、より多くの人を救いたい。
 犠牲を対価に得るものは、多いものであった方がいい。
 それを叶えるためにもと、改めて胸中の決意を固めた。


 校舎を出て、正門前。
 オートバジンを停めておいたこの場所に、織莉子とサカキの2人が現れる。
 既に陽の昇った今となっては、懐中電灯の類は不要だ。太陽の光は十分に地上へと行き渡り、手にした地図を明るく照らす。
「こちらは南側ですから、こう、ですね」
「少し回り込むことになるか」
 指先で地図をなぞりながら、我が家への道筋を織莉子が示した。
 このまま北上していけば、川に行き当たることになるはずだ。
 そうしたら後は目印として、橋を探していけばいい。その先は平原になっているから、家の位置も分かりやすいだろう。
「では、行くとしよう」
 言いながら、サカキが銀色の車体へと跨る。
 ここまで来たのと同じように、タンデムで走らせれば、すぐの場所だ。
 もし向こうに尋ね人がいなかったとしても、こちらに戻ってくる頃には、姿を現しているかもしれない。
 ひとまず善は急げということで、サカキはバイクのエンジンをかけたのだが、


「………」
 返ってきたものは、沈黙と静止だ。
 地図を胸の高さから下ろした織莉子は、しかし彼の声に応えず、静かにその場に立ち尽くしていた。
「どうした?」
 問いかけるも、返らず。
 南東の方をじっと見つめ、少女は微動だにせず沈黙する。
 そこからアクションを起こしたのは、数瞬の間を置いた後だ。
「!」
 刹那、発光。
 織莉子の身体が閃光を放ち、サカキの視界を白一色に染める。
 光輝の粒子を振りまいて、顕現したのは魔術師の姿だ。
 魔法少女への変身――学生服を掻き消して、純白のドレスが織莉子を包んだ。
 右の腕をしなやかに振り上げ、白魚の指先で虚空を指す。
 素早い腕の動作に合わせ、ぎゅん、と空を割く音が響いた。
 背後に出現した数個の宝珠が、ビルの影目掛けて発射されたのだ。
 きん、と。
 闇より響くのは金属音。
 時間差で2個目、3個目と飛来し、またそれに合わせて音が鳴る。おまけにその音量は、繰り返す度にボリュームを増していた。
「――ッ」
 埒が開かないと判断したのか、次いで具現化した数は、8つ。
 合計8個の球体を、一点に密集させて円形に並べる。
 ビルの合間から何かが飛び出し、サカキの視界に映った瞬間。
 スクラムを組んだ宝石群が、左手を突き出す動作に合わせて発射された。
 接近。
 反応。
 激突。
 炸裂。
 轟――と音を伴い爆発。
 燃え盛る爆炎と吹き荒れる爆煙が、市街地の風景を覆い隠す。
「来ます! そこから離れて!」
 ようやく織莉子の口が開いた頃には、サカキも状況を把握していた。
 無言でそれに頷くと、オートバジンのエンジンを再始動させる。
 熱を伴う加速の開始と、襲撃者の殺到は同時だった。
 灰色の煙を引き裂いて、鈍く輝く剣が迫る。
 爆音を立てる銀色の車体が、その場を離れてそれをかわす。
 回避に成功したと見るや、ブレーキをかけ車体を止め、バイクを降りてその姿を見た。
「………」
 サカキの前に現れたのは、漆黒のドレスをまとった少女だった。
 織莉子のそれとは大きく異なり、黒の中に赤が混ざっている。煌々と脈動するラインは、まるで人体の血管のようだ。
 線は細く、背も低い。戦闘向きの体躯とは思えない。
 しかし、手にした黄金の剣の壮観さが、その印象を覆す。見た目通りの相手ではないと、サカキの考えを改めさせる。
 恐らくは美国織莉子同様、単純な身体スペックに頼らぬ超能力の使い手――彼女の言葉を借りるならば、
「彼女も、魔法少女というやつか?」
「いえ……あのような邪悪な魔力を発する者は、今までに見たことがありません」
 同行者から発せられた一言を、織莉子はにべもなく否定する。
 あの暗黒の鎧甲から発せられる、刺々しいまでに暗いオーラは、むしろ瘴気とでも呼ぶべき代物だ。
 どちらかと言えば、魔法少女の成れの果て――魔女に近い力と呼べるだろう。
 しかし魔女と同一視するには、あれは人型を保ち過ぎている。あの異形の怪物とは、明らかに印象を異にしている。
 であれば、サカキのポケモン同様、織莉子にとっては未知の人種だ。


「驚いたな。よもや、勘付かれるとは思わなかった」
 凛とした、少女の声色で。
 豪胆な武将のごとく、重く。
 相反する2つの印象を内包した、襲撃者の声が響き渡る。
 ガラスのごとき眼球からは、感情が読めない。フラットな発音と相まって、無感情な印象を与える少女だ。
 意志のある魔法少女にも、心ない魔女にも見える存在だった。
「特技のようなものね……生憎と、私に不意打ちは通用しないのよ」
 にこり、と笑みを湛え、織莉子が告げた。
 この鎧の少女が物陰から迫り、サカキを両断する未来――彼女は数十秒前に、それを見たのだ。
 故にそれを迎撃せんと、変身し宝石を放って先手を打った。
 故にそれからサカキを守らんと、稼いだ時間で回避を取らせた。
 未来視の力を持つ美国織莉子には、あらゆる不意打ちが意味をなさない。
「だが、それだけだ。斯様に軽い攻撃では、私の身には届かぬぞ」
 ぶん、と剣を唸らせ、襲撃者が告げた。
 やはり、相当な手練だ。下段に取ったその構えからは、微塵の隙も感じ取れない。
 ほとばしる魔力は濃霧と化し、より深き暗黒へとドレスを染める。
「では、これならばどうかな」
 にぃ、と口元を歪めたのは、サカキだ。
 白い三日月を浮かべる男が、両者の会話に割って入った。
 手にしたモンスターボールを放り投げ、彼もまた臨戦態勢を取る。
 白光から姿を現したのは、紫の怪獣・ニドキング。
 かのポケモン城での戦闘においても、リザードンを撃退した強力な相棒だ。
 ダメージの回復が済んでいない上に、相手は見たところ人間だが、そうも言ってはいられない。
「ほう、見たこともない魔物だ」
「今度は怪物呼ばわりか」
 女の声に、苦笑した。
 どうやらこの黒ドレスの少女も、ポケモンというものを知らないらしい。
 どころか、魔物とまで呼んでいる。そんなものと日常的に触れ合っているとするならば、もはや完全なファンタジーの住人だ。
 やはり彼女も、そして織莉子も、伝説のポケモンが持つ力――空間を超える力により、異界から招かれた存在なのだろうか。
「いずれにせよ、ここで立ち止まるわけにはいかない……」
 黒に対峙するのは、白。
 魔法少女のドレスから湧き上がり、その場を満たしたものは重圧。
 細められた織莉子の藍眼が、莫大なプレッシャーをもって敵を威圧する。
 全てを飲み込み、熱を奪い。
 さながら極寒の吹雪のごとく、見る者の四肢の自由を奪う。
 どう――と鼓膜が揺れた気がした。
 無風のはずの正門前に、突風が吹き荒れたかのような錯覚を覚えた。
 かつてのロケット団総帥が、ほう、と賞賛の声を漏らす。
 気高き令嬢・美国織莉子が、生来備えていた最強の武器は、優雅さでもましてや美貌でもない。
 あらゆる外敵を物ともせず、毅然と、悠然と相対する、この圧倒的なプレッシャーだ。
 その気迫は、魔法少女としての経験で遥かに勝る、あの巴マミですらも沈黙させる。
「貴女が立ちはだかるというのなら、全力で排除させてもらうわ」
 漆黒の騎士を睨みつけ、純白の姫君が宣告した。



(どうにも、解せん……)
 びゅん、と音を立てながら。
 魔剣グラムを振り回し、漆黒のセイバーが思考する。
 敵の戦力は合計2体。
 浮遊する球体を操る、魔術師と思しき白い女と、コートの男が操る紫の魔物だ。
「ニドキング! だいちのちから、続けてシャドークローをぶつけろ!」
 厳つい男の声に応じて、紫の魔物が叫びを上げる。
 刹那、ニドキングなるそれの雄叫びに呼応し、足元を鋭い衝撃が襲った。
 轟、と伝わるのは地震――否、文字通り大地から迫る衝撃波だ。
 振動、波動、そして瓦礫。
 灰色のアスファルトを粉砕しながら、下方から炸裂する衝撃がセイバーを煽る。
「チッ!」
 ここに来て彼女は、彼が下した、追撃の命令の意図を察知した。
 舞い上がる瓦礫を掻き分けて、ニドキングが突撃を仕掛けてきたのだ。
 漆黒のオーラを纏った爪撃を、黄金の剣を振り上げ、迎撃。
 足場が安定しない。姿勢がままならず、力が入らない。
 なるほど、パワーやスピードだけでなく、心的余裕すら奪い取る有用なコンボだ。
 故に英霊アーサー王は、らしからぬ強引な回避手段を取る。
 切っ先からこちらも暗黒を発し、裂音と共に相手を吹き飛ばす。
 ゆらゆらと金髪をはためかせながら、セイバーは着地するニドキングを見据えた。
(パワーではこちらが勝っている……手数は豊富なようだが、決して押しきれない相手ではない)
 魔物に下した評価が、それだ。
 小柄な割に獰猛な容姿を持った紫の魔獣は、その外見特徴同様、非常に攻撃的な性質を有している。
 コンクリートをも粉砕する技の威力、見かけによらぬ俊敏な身のこなし、どちらもなかなかに強力だ。
 しかしそのどちらもが、一兵卒からの観点によるものである。
 元より己も鈍重なスピードはともかく、パワーではセイバーが上回っていた。
 故に相手の攻撃を恐れず、積極的に踏み込めば圧倒できる――
「――させないわ」
 という目論見を潰すのが、もう一方の存在だ。
 冷やかな女の声と共に、5つの影が飛来する。
 反射的にそれを見定め、バックステップで回避を取った。
 先ほどまで具足のあった場所が、銀の球体によって破砕された。
(そうだな……警戒すべきは、こちらの敵だ)
 崩れた構えを立て直し、その双眸で敵を見据える。
 宝石のごとき球体を操る、全身白一色の魔術師――先ほど相対を宣言した、白い少女だ。
 こちらもニドキング同様、セイバーの剣を退けるにはパワーに欠ける。
 どころか、魔物の背後に立ったまま、前に切りこんでこないということは、耐久力もさほどではないのだろう。
 しかし、こちらが攻めあぐねている原因は、むしろこの女の方にあった。
(こちらの動きを予測しているのか?)
 思考と共に、剣を振るう。
 ニドキングが黒の剣先をかわし、その影から球体が襲いかかる。
 これをグラムをもって弾き返せば、死角から攻め込んでくるのはニドキングの爪だ。
 そして攻撃のタイミングも角度も、男に女が告げ口していた。
 こちらが攻められて困る箇所を、正確に察知し、指摘したのだ。
(……違うな。単純な計算では、ここまで偶然が続くはずもない)
 影を纏う剛腕の一撃を、身を反らしてかわしながら、否定した。
 既にこのように対処された回数は、悠に10回を超えている。
 単純に相手の考えを推測していただけでは、これほどの的中率には至らない。
 こちらの考える最善手と、相手が推測する最善手が、必ずしも一致するとは限らないのだ。
 相手が読み違えるか、あるいは、こちらが悪手を打ちでもしたら、予測は真実との乖離を起こす。


(ならば、読心の能力を有しているのか?)
 故に想定すべきはそれではなく、それとはまた別の可能性だ。
 考え得るもう1つの可能性へと、推理の対象をシフトした。
 ぐっ、と大地を踏み締め、疾駆。
 弓から矢を解き放つかのように、自らの身体にロケットスタートをかける。
 進むべきは正面ではなく、側面。
 目の前のニドキングを一度無視し、回り込むようにして魔術師を狙った。
「!」
 刹那、目の前に展開されたのは弾幕。
 合計7つの炸裂弾が、瞬時に連続発射される。
 数は多い。しかし、見切れない速さではない。
 足元を狙う石を跳躍して回避。顔面を狙う石をグラムで切断。胴体を狙う石を身をよじって回避。
 巻き起こる灰色の爆風を掻き分け、その先の白い少女へ切りかかる。
 初撃は喉元を狙っての突き――複数の球体を盾にされ、阻まれた。
 追撃は胴体を狙っての薙ぎ――タイミングを読まれ、飛び退かれた。
(やはり、違う。心を読める程度では、こうはならない)
 援護に出たニドキングを振り払いながら、またもセイバーは仮説を否定した。
 今の強襲で試した手は、2つだ。
 初撃では一度に10通りの攻撃パターンを考案し、ギリギリでその中の1つを選び放った。
 追撃は逆に思考回路を全カットし、完全な直感に任せての攻撃を仕掛けた。
 己の攻撃を全てかわされ、猛スピードで突っ込んでくるというプレッシャー下での、この二撃である。
 前者なら限られた時間のうちに、10の攻め手に対応できるはずがない。
 後者ならそもそも思考が存在しないから、攻撃を読み取れるはずがない。
 しかし、彼女はやってのけた。
 読心の限界と穴を突いた、双方の戦術をくぐり抜けたのだ。
(そうなると)
 奴は過程を見てはいない。
 こちらが攻撃に至るまでに、どのような考えを展開しているのかを、覗き見ているわけではない。
 この敵が見据えているのは結果だ。
 意識下、ないし無意識下を問わず、思考の果てに辿り着いた、その結果だけを読み取っているのだ。
 心理ではなく、現象を見ている。
 事実を構築する論理ではなく、論理の後に付随する事実を見ている。
 すなわち、
「未来を読める、ということか」
 考えられるのは、それだけだった。
 白い魔術師は相手の行動判断ではなく、自分の身に起こる未来を予知していたのだ。
 であれば、これまでの行動にも納得がいく。
 こちらの正体すら定かではなかった、最初の闇討ちに対処したことすらも、その一言で証明できる。


「その通りよ」
 ふわり、とドレスの裾が揺れる。
 たんっ、と着地の音が鳴る。
 緩慢な動作で地に足をつけ、柔らかな銀髪を虚空に揺らした。
 回避運動を終えた末、白き魔術師が着陸したのは、車道のど真ん中だった。
「私は現在だけでなく、未来に起こる事実をも見ている」
 ビルの間から、光が漏れる。
 開けた大通りの真ん中には、遮られることなく陽光が差す。
 純白一色のドレスが、黄金の煌めきに彩られた。
 後光を浴びた装束が、荘厳な銀色に輝いた。
「全てを炙り出す光の前では、あらゆる企みが意味をなさない」
 静かに、波風を立たせぬ声で。
 厳然と、有無を言わさぬ声で。
 日輪の光に照らされて、1人の少女が言葉を紡ぐ。
 そこに宿された威圧感は、さながら戦場の武士のそれだ。
 無双の英霊に対峙してなお、これほどの気配を保てるとは。
 しかもこれほどの濃密な気迫が、年端もゆかぬ小娘のものだとは。
「貴女が何を為そうとも、私の光が全てを照らすわ」
 それは聖女か、教皇か。
 この世全ての善を従え、暗黒を祓うかのように。
 白銀に煌めく未来視の魔女が、堕ちた騎士王へと告げた。


(相変わらずの、ふざけた素質だ)
 苦笑を浮かべ、サカキが心中で呟いた。
 目の前に展開された攻防に、軽い衝撃を覚えつつも、冷静にニドキングを前へと出させる。
 戦闘で目の当たりにしたのは2度目だが、織莉子の未来予知というものは、何度見ても凄まじいものだ。
 もちろん、万能の力ではない。
 そこには数秒先の未来しか見えないという限定条件と、本人の肉体的限界という問題がつきまとう。
 現に先ほどの薙ぎ払いは、完全に回避しきることができず、僅かにドレスの表面を切り裂かれていた。
 恐らくあの漆黒の女剣士と、単独で相対していたのであれば、こうまで凌ぎ切ることはできなかっただろう。
(だが、それを可能としたのがニドキングだ)
 つくづくポケモントレーナー向けの女だ、と。
 自らのパートナーに視点を落とし、次いで織莉子の姿を見据える。
 自分を卑下するつもりはない。現に自己の判断で、あの剣士を退けたケースも存在する。
 しかしこれまでのやり取りの中で、何度かは織莉子のお膳立てによって、よい結果をもぎ取れたケースがあるのも事実なのだ。
 魔法少女とやらのスタンダードが、どれほどの能力であるのかは知らない。
 しかし目の前の敵に比べれば、織莉子の単独での戦闘能力は劣る。
 それを覆したのは知略であり、未来予知であり、そしてニドキングという護衛の存在。
 恐らくこの美国織莉子という少女は、単独での一騎打ちではなく、他者を指揮しての組織戦に長けている。
 そういう資質なのだ、この娘は。


(だが、だとしてもこれからどうする?)
 後ろ向きな感想を振り払い、敵を見つめて目を細めた。
 そうだ。うっかり失念しかけていたが、今は戦闘中なのだ。
 妙な気の迷いを抱いている暇などない。そんなことを考えるよりも、現状の打開策を考えなくては。
(美国織莉子、そしてニドキング……悔しいが、単体のスペックでは、どちらもあの敵には及ばないようだ)
 実際に戦ってみて分かる。黒いドレスを着た少女は、当初の想像以上の難敵だった。
 妙な影をまとう剣捌きは、ニドキング渾身のシャドークローをも、容易く切り返すほどの破壊力を誇る。
 今は織莉子の先読みによって、何とか持ちこたえている状態だが、それもあくまで互角に過ぎない。
 こちらの損傷が軽微であるように、向こうの損傷もほとんどない。互角同士の戦いでは、ケリがつかないままジリ貧だ。
(そうなると、先の戦闘でのダメージが響いてくるな……この勝負、有利に見えて不利なのはこちらか)
 ちら、とニドキングを見やって、判断した。
 先ほどのリザードンとの戦いで、ニドキングはダメージを負っている。
 無論、現状では軽微なものではあるが、長期戦ともなれば、そうはいかない。
 蓄積された疲労と相まって、どんな影響を及ぼすか、知れたものではない。
 そしてニドキングが倒れた瞬間、こちらの敗北は確定する。織莉子の移動速度では、敵の攻撃を避け続けるのは困難だからだ。
「……なるほど。であれば、これ以上の読み合いは無意味か」
 黄金の剣が持ち上げられる。
 これまで下段に構えられていた、剣士の刃が天へと向かう。
 刹那、ほとばしったのは暗い光だ。
 陽光を覆い隠すかのように、漆黒のオーラが剣へと集った。
 びりびりと大気が震動する。空気が針となったかのように、ちくちくと肌へ突き刺さる。
 この世全ての暗黒を、一点に集束させたかのような。
 膨大な瘴気の結晶体が、少女の手元へと形成された。
(! まずいな、これは……)
「飽和攻撃が来ます、逃げて!」
 どうやら敵は言葉通り、小競り合いには飽きたようだ。
 相手がいくら予知をしても、避け切るだけの余地のない攻撃――強力な広範囲攻撃を放って、一網打尽にする気なのだろう。
「言われずとも……!」
 そしてそれは、わざわざ未来予知に頼らずとも、一目見ただけで誰でも分かる。
 あれ程強大なエネルギーの塊だ。それ以上の使い方など、見当たらなかった。
「ニドキング、最大パワーでだいちのちからを放て!」
 オートバジンに跨りながら、命令を下した。
 ニドキングは即座にそれを実行し、周辺一帯に衝撃を走らせる。
 波動は敵の足元を襲い、瓦礫は織莉子達を覆い隠した。
 爆音はバイクのエンジン音をも掻き消し、サカキを不可視の存在へと変える。
「きゃっ!」
 そのまますれ違いざまに、強引に織莉子の手を引いた。
 荒っぽく2人乗りの形を作ると、モンスターボールのレーザー光を、ニドキングに当てて回収する。
 後はとんずらを決め込むだけだ。あんなものにまともに付き合っていては、いくら命があっても足りない。
「ォオオオオオオオッ!!」
 雄叫びと共に闇が弾けたのは、サカキのバイクがその場を離れ、ビルの影に入り込んだのと同時だった。



「……またしても、取り逃がすとはな」
 黒と灰色の靄の中、セイバーは静かに独りごちた。
 あのニドキングの使い手の目測は、見事に的を得たらしい。
 足場を崩されたことで安定を失い、瓦礫に阻まれたことで視野を失い、轟音によって聴覚すらも失った。
 そこに放ったあの波動は、ただでさえ低下した索敵能力を、更に削る羽目になってしまった。
 未来が見える向こうからすれば、逃げ出すことなど容易だっただろう。
「どうにも、雑把な戦い方では上手くいかんらしい」
 己の不甲斐なさを恥じ、思い出したようにヘルムを再生成した。
 これまでに経験した戦いは3度。
 一度は衛宮士郎および、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンとの戦闘。
 一度は、あの英霊というものを嘗め切った、背の高い女の魔術師との戦闘。
 そして最後の一度が、先の白い魔術師と、紫の魔物との戦闘だった。
 このうち敵を逃したのは、二度。これまでに撃破した敵は、ゼロ。
 最優のサーヴァントなどとおだてられていながら、あまりにも不甲斐ない戦績だった。
「過小評価が過ぎたようだな」
 認めよう。
 この儀式とやらの空間に、油断すべき場所などないのだと。
 適当にあしらって勝てるような、簡単な相手ばかりなのではないのだと。
 であれば、今度は逃さない。
 次なる戦闘の機会があれば、誰であろうと確実に殺す。
 衛宮切嗣の感傷を断ち切り、慢心さえも切り捨てて、セイバーは再び歩を進めた。


【E-7/見滝原中学校前/一日目 午前】

【セイバー・オルタ@Fate/stay night】
[状態]:健康、疲労(小)、黒化、魔力消費(小)
[装備]:グラム@Fate/stay night
[道具]:基本支給品、不明支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本:間桐桜のサーヴァントとして、間桐桜を優勝させる
1:人の居そうな場所に向かう
2:間桐桜を探して、安全を確保する
3:エクスカリバーを探す
4:間桐桜を除く参加者全員の殲滅
5:クロエ・フォン・アインツベルンを探す
6:もし士郎たちに合った時は、イリヤスフィールが聖杯の器かどうかをはっきり確かめる(積極的には探さない)
[備考]
※間桐桜とのラインは途切れています
※プリズマ☆イリヤの世界の存在を知りました
 クロエ・フォン・アインツベルンという存在が聖杯の器に関わっていると推測しています



「……大丈夫ですか、サカキさん?」
「気にすることはない。かすり傷だ」
 オートバジンを操るサカキへ、気遣うように織莉子が言う。
 どうやら先の爆発の際、コンクリートの破片が掠めたようだ。
 さほど深くはないものの、黒い左袖が引き裂かれ、赤い血の色が覗いている。
「まぁ、あれほどの脅威から逃れられたのだから、これくらいで済んだのは御の字だろう」
 言いながら、サカキの両手がハンドルを切った。
 角を曲がり、方向を修正して、地図にあった美国邸へと向かう。
 周知の通り、織莉子とサカキは、あの場を危険と判断し、標的をその場に残して撤退した。
 殺し合いを望んでいたであろう者を放置し、おまけにサカキに怪我を負わせてしまった。
 その事実は自責という名の鎖となって、織莉子の心を深く沈める。
「しかし、美国織莉子……本当にあの娘の力には、特に覚えはないんだな?」
「ええ……かなりの強敵であることは、間違いないと思うのですが」
 言いながら、先ほどの戦闘を回想した。
 あの漆黒の戦士の戦闘能力は、並の魔法少女を上回るものだ。
 最後に放った大技の威力は、かの巴マミがキリカを仕留めた際の、あの炸裂弾すらも凌駕している。
 恐らく彼女を倒すには、今以上の戦力と、今以上の連携が必要だろう。
 サカキという第三者を介した、ニドキングとの連携は、あまり勝手の利くものではない。
 それこそあのキリカのように、直接の意思疎通が可能なパートナーの確保が、何よりの必須条件と言えた。
(……キリカ……)
 ふと。
 黒き騎士との戦闘分析から、親友の姿が連想される。
 あの場にもしもキリカがいたら――そんな無責任な仮定が、否応なしに想起されてしまう。
 戦力などと、とんでもない。傷つき苦しんでいるはずの友に、そんな役目を押しつけられるものか。
 彼女は無事でいるだろうか。
 我が最愛の友人は、無事で生きているだろうか。
(私が必ず助けに行くわ)
 今度は私がキリカを助ける。
 己の人格を破壊してまで、私を救ってくれた愛に、今度は私が報いてみせる。
 固く胸に誓いながら、織莉子は行く先を見据えていた。


【F-7北部/一日目 午前】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:健康、疲労(小)、ソウルジェムの穢れ(3割)、白女の制服姿、オートバジン騎乗中
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす
1:鹿目まどかを抹殺する。ただし、不用意に他の参加者にそれを伝えることはしない
2:キリカを探し、合流する。
3:積極的に殺し合いに乗るつもりはない。ただし、邪魔をする者は排除する
4:サカキと行動を共にする
5:美国邸へ行く。調査が終わった後、再び見滝原中学校を調べに行き、その後鹿目邸へ行くことを進言する
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモンについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※アカギに協力している者がいる可能性を聞きました。キュゥべえが協力していることはないと考えています。


【サカキ@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:左腕に裂傷(軽度)、オートバジン騎乗中
[装備]:オートバジン@仮面ライダー555、高性能デバイス、ニドキングのモンスターボール(ダメージ(小)疲労(中))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式 、技マシン×2(サカキ確認済)@ポッケトモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:どのような手段を使ってでも生き残る。ただし、殺し合いに乗るつもりは今のところない
1:『使えそうな者』を探し、生き残るために利用する
2:織莉子に同行する
3:美国邸へ行き、その後見滝原中学校へ戻る。可能ならばフレンドリーショップやポケモンセンターにも寄りたい
4:力を蓄えた後ポケモン城に戻る(少なくともニドキングとサイドンはどうにかする)
5:『強さ』とは……何だ?
6:織莉子に対して苦い感情。
[備考]
※『ハートゴールド・ソウルシルバー』のセレビィイベント発生直前の時間からの参戦です
※服装は黒のスーツ、その上に黒のコートを羽織り、黒い帽子を頭に被っています
※魔法少女について少し知りました。 織莉子の予知能力について断片的に理解しました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※サイドンについてはパラレルワールドのものではなく、修行中に進化し後に手放した自身のサイドンのコピーだと思っています。
※アカギに協力している者がいると考察しています。

【オートバジン(バトルモード)@仮面ライダー555】
現在の護衛対象:美国織莉子
現在の順護衛対象:サカキ
[備考]
※『バトルモード』時は、護衛対象の半径15メートルまでしか行動できません
※『ビークルモード』への自律変形はできません
※順護衛対象はオートバジンのAIが独自に判断します


075:少女地獄 序章 投下順に読む 077:Nの心/人間っていいな
074:MEMORIA-黒き騎士の記憶 時系列順に読む 083:漆黒の会談
056:わが臈たし悪の華 美国織莉子 092:招かれたもの達
サカキ
074:MEMORIA-黒き騎士の記憶 セイバー 094:暴君主権


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