招かれたもの達

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招かれたもの達 ◆Z9iNYeY9a2



「美遊ーー!」
「何やってんのよー。早くしないと学校遅れるわよー」
「今行く」

いつもと同じ日々。
イリヤ達と学校へ行き、授業を受けて、放課後は遊ぶ。
何の変哲も無い、だけど大切な時間。

「今日の体育はソフトボールだぜぇ!よし、プレイボール!」
ボガッ!!
「グホァ!!!」
「ギャー!龍子の顔面にボールがめり込んだーー!」
「ああっ!鼻血がアーチ状に吹き上がってる!」
「実況してないで早く保健室へ行ったほうが…」

なのに、何か違和感を感じる。


「あ、士郎さん」
「お兄ちゃーん!」
「あ、イリヤ達おかえり。学校終わったのか」

誰かが足りない。何かが欠けてしまったような気がする。
家に帰ると、ルヴィアさんとオーギュストさんが迎えてくれて、後は軽くメイドの仕事をして明日に繋がる。
いつもと変わらないはずなのに、屋敷の中が妙に静かになってしまったような違和感を感じる。

そうだ、家のメイドはもう一人いなかっただろうか?
自分より扱いが悪くて、そのことにいつも不満を流しながら働き、何かあるとすぐにルヴィアさんと喧嘩を始める誰か。

「美遊、どうかなさいまして?」
「ルヴィアさん、その…、凛さんはどこにいるんですか」

パキッ
その名前を口に出した瞬間、世界にヒビが入り、家にいたはずの風景がいきなり変わる―――

■■■■■■■■■■■―――!
フシュルルルルルル!!!

バーサーカーが森の木々を粉砕しつつこちらに向かってくる。
黒い狐が口から炎を吐き出してくる。
共に、狙いは自分。

そして、大質量の体と高熱の炎が体に接触した瞬間、世界は黒く塗りつぶされた。



「やっぱりそうですのね。せめて、夢の中くらいは平穏なままでいさせてあげたかったのですけど」

ふと、真っ黒な世界の中でそんな声が聞こえた。
いつも聞いていた声。まだその声を聞かなくなって半日も経っていないのに、すごく懐かしく聞こえた。
なのに、どうしてこんなに声が遠いんだろう?

「そろそろ時間ですわね。では行きなさい美遊。
 あなたは一人ではありませんわ。あなたと共に戦ってくれる人もいます。イリヤスフィールも、クロも、サファイアもいます」

その声はとても優しくて。まるで心を包むかのように。

「それに何より、あなたはいつまでも、私の義妹(いもうと)なのですから」
「ルヴィア…さん?」

なぜかそんな声と共に、自身の義姉の、ルヴィアゼリッタ・エーデールフェルトの存在が遠ざかっていくのを感じ取った。


「ルヴィ…ア、さん…?」

意識が開く。
どこかの家のソファーの上にいるようだ。
起き上がろうとすると、腕に鋭い痛みが走った。

何が起こったのか。そうだ。私は由花さんとロロさんを追っていったはず。
その時何があったのか思い出せないが、そのまま意識を失って気絶したような気がする。
どうしてこんなところにいるのか。

『美遊様!』

声に反応して手元を見ると、そこにはいつもと変わらないサファイアの姿。
服装こそ私服に戻っているが、どうやらずっと魔力供給を続けることで傷の回復を促してくれていたらしい。

『よかった…』

安堵の声。どうやら傷はそれなりに深いものだったようだ。
部屋は特に汚れていないが、血の匂いがうっすらと空気に混じっている。

「ごめん、心配かけた。…ここは?」
「あっ…」

と、美遊がサファイアに状況説明を求めたとき、部屋の入り口から顔を出す少女の姿が見えた。


「目、覚めたの?!傷の具合は大丈夫なの?!」
「…大丈夫」
「よかったぁ~…」
『美遊様、こちらの家で手当てをしてくださった、鹿目まどか様です』
「えっと、美遊…ちゃん、でいいのかな?」
「構わない。ねえ、サファイア。どこまで話したの?」
『美遊様の手当てを優先したので、まだ込み入った話までは』
「そう。傷の手当のことはお礼を言わせてもらう。もう行かなきゃいけないところがあるから」

時計を見ると、あれからそれなりの時間が経過している。早く追わなければ見つけることができなくなってしまう。
こんなところであまりゆっくりしている暇はない。転身しようとサファイアを掴もうとするが、その体をまどかに抑えられた。

「だ、ダメだよ、そんな怪我してるのに!まだ応急処置くらいしかしてないんだから!」

確かに腕の傷は血こそ止まっているが、あまり激しい動きをすると再度開く可能性がある。
一般論であれば正しい。が、自分はただの人間ではない。
サファイアの力を持ってすればこの程度の治癒にはそう時間は掛からない。

『美遊様、私も反対です』
「え、サファイア…?」
『その傷の治癒にはどうも時間が掛かっています。実際これまでの時間ずっと私が治癒に魔力を費やして止血が精々でした』
「…」
『少し考えなければならないこともできました。もう少しここに留まっては』
「でも、それじゃロロさんと由花さんが―」
『美遊様』

そのサファイアの声はまるで戒めるかのように静かで、しかしはっきりと放たれていた。

『先の放送をお忘れですか?ここは凛様のような魔術師でもこれほどまでに早く亡くなられているのです』

遠坂凛との付き合いはおそらくサファイアの方が長い。つまり自分の知らない彼女も知っているはずだ。
魔術師としての腕は一級品だった。そんな人でも生き残れなかったのだ。

『もしここで休むことで結花様やロロ様に何か影響がある可能性は否定することはできないでしょう。
 それでもそれは美遊様の責任ではありません。むしろ私にとっては美遊様が傷付く姿を見るほうが辛いのです。
 もちろん私は彼等を見捨てたいとは思いません。それでも美遊様に全てを背負って欲しくはないのです』
「………」
『どうか自分を見失われないようにお願いします』

「―――――分かった。じゃあ少しだけ。
 えっと…まどかさん。ここで休憩させてもらっても構いませんか?」


美国織莉子とサカキの二人は、黒い剣士の襲撃を退けた後、真っ直ぐに目的地である美国邸へと直行していた。
市街地を抜けて森に入って以降は道の悪さが気になるものの、そこまでの障害というわけではない。
道自体は車両走行に優しいものではなかったものの、バイクの性能にも助けられた。ある程度の荒地ならものともしないようだ。
もしかしたら後ろからあの剣士が追ってくるかもしれないということも考えられたため助かった。

だが、肝心の美国邸は。

「ここなのか…、君の家は」
「……一体何があったのでしょうか」

まるでミサイルでも落ちたのかという有様。もはや家としての体裁は保っていない。
そこにあるのはただの瓦礫の山だ。

「ここに、君の仲間は来ると?」
「そうですね…、もし来たら激怒するのではないかと思いますけど」

しかし、今この周辺にそのような声は届いてこない。少なくともこの周囲にはいないということなのだろう。
――――例えば、この瓦礫の下に埋もれているなんてことがなければ。
まあ魔力の反応もない以上有り得ない話だが。

「家としては使い物になりませんが、少し気になるところもあります。立ち寄らせていただいてもよろしいでしょうか?」
「まあ構わんよ。こっちも急いでいるわけではないし、これほどの破壊を行える者がいるなら調査は必要だろう」

バイクは家の前に停めて家の中に入る。本来なら道路交通法とかに引っかかりそうなことだがこの場では誰が咎めるわけでもないだろう。

特に何もないだろうと確信した上で、敢えてサカキと別れて元・自宅であっただろう瓦礫の山を進む。
確かに自宅は、世間一般では豪邸といえるほどの広さはあっただろう。しかし生まれてずっと過ごした自宅だ。どこに何が、どの部屋があったかなどは分かる。
寝室、キッチン、客間、、自室、書斎。どの辺りがどうだったかということぐらいは予想がつく。

そして、その周囲にはそこがかつて自分の過ごした場所であることを示すかのように、記憶どおりのものが落ちている。
寝室があったであろう場所に落ちている布団の柄、素材。キッチンがあったであろう場所に落ちている食器の破片。
椅子の破片の模様、かつては本だったであろう紙の残骸、お菓子が入っていただろう包み。
全てが記憶の中にあるものと一致する。
自宅なのだから当然となど言えない。ここにあるのは自宅ではあるが、それがあるこの場は見滝原ではないのだ。
いかにしてこの家をこの場に持ってきた、あるいはこれほどまでに再現して作ったのだろうか。
手段はともかく持ってきたというなら再現率も当然だが、作ったというのであればあまりに気味の悪い話だ。

ふう、と息をついて目をやった先にあるのは、様々な植物が植えてあった庭園。
やはり花々は崩壊の巻き添えにあったようで、根から抉り取られるように倒れている。
かつてはここでよくキリカとお茶をしたものだった。しかしその時使ったテーブルは存在しない。
当然だろう。あの日この場に突如現れた魔女が破壊したのだから。
あれ以降はキリカに大きな仕事を任せたこともあり、結局テーブルの新調などしていなかった。


(…魔女?)



「家の中心には巨大なクレーターが出来ていた。それこそ空から大質量の物体でも降ってきたんじゃないかというほどに」

数分後、軽い調査を終えたサカキと合流した織莉子は、見たもの、気付いたことについての情報を明かしあっていた。

「念のためニドキングも出してチェックをしてみたが、特に何かを見つけられはしなかった。それ以外は収穫無しだ」

もしこれがポケモンによるものであるなら、同じポケモンなら何か気付くかと思い探らせてみたものの、何かあった様子はなかった。
あくまでポケモンによる破壊であると断言できないだけで、ポケモンが引き起こしたものである可能性も十分にある、と言った上で。

「それで、そちらのほうは何か気付いたことはあったか?」
「はい、ここは限りなく私の家、ですね。少なくとも残骸を確認する限りは」
「そうか」
「それで、少し考えたことがあるのですが―――――」



特に問題もなく、まどかは美遊の頼みを受けた。
休息の中で、美遊はバッグに入っていた弁当を開いた。この数時間の間に戦いが続いていた体がエネルギーを求めていたのを感じたのだ。

するとまどかが興味を持ったように覗き込んできたので、美遊はまどかにも弁当を分けてあげることにした。

「これおいしい…」
『ここへ来て最初に出会ったタケシ様という方から頂いたものです』
「タケシさんと真理さん、大丈夫かな?」
『少なくともあの放送で名前を呼ばれることはありませんでした。ロロ様と結花様もそうですが、無事を祈るしかないでしょう』
「え、真理さんって…、もしかして園田真理さん?」
『お知り合いですか?』
「その、私じゃないんだけど、一緒にいた草加さんって人が探してて」
「これまでに何があったか、聞かせてもらってもいい?」

そうしてまどかはそれまでにあった出来事を話し始めた。

「最初、その、オルフェノクに襲われて、草加さんって人に助けられたの」

そうして話していくまどかの話の中には、美遊の直接的な知り合いはいなかった。
ロロの言っていたゼロとユーフェミアなどといった間接的な者はいたが。

『一つお聞きしたいのですが、まどか様は日本人ですよね?』
「? そうだけど…」
「ロロさん、私の出会った人から聞いた話だと、彼女は日本人を殺すかもしれないって」
「えっ…?でも、全然そんなふうには…」
『おそらく彼女もまたロロ様の知る彼女とは別なのでしょう』

そしてそこから話がさらに進んだ辺りで美遊の表情が変わる。

「バーサーカー…!」
「美遊ちゃん知ってるの?」

それは、Lという人物に北崎というオルフェノクと協力してあのバーサーカーと戦ったという話。
あの怪物と戦ったという事実もそうだが、何よりそれを一度とはいえ倒したという事実に驚かされた。
そしてその北崎というオルフェノクも、Lという人物が手綱を握ることでどうにか衝突は避けているものの危険人物であることには変わりないという。

「大体は分かった。じゃあこっちの話をする」

まどかの話は大まかに掴めたと感じた美遊は、こっちの話に移った。
だが、最初に出会った人物について話したところでまどかから大きな反応が返ってきた。

「真理さんって人に会ったの?!どこに行ったか分かる?!」
『ここから北で会いましたがそれ以降は。お知り合いですか?』
「…?一つ聞きたいんだけど、真理さん、草加さんについて何か話してなかった?」
『いいえ、お伺いしていませんが』
「だ、だって、草加さんは知り合いだって言っていたのに…」
『もしかして、草加様という方と真理様の世界は違うのでは?』
「世界って…?」
『平行世界というやつです。誰かからそのような話をお聞きしてはいませんか?』

言われてまどかが思い出すのは、あの時のゼロの言っていたよく分からない言葉。
あの時はその言葉が何を意味しているのか分からなかったものの、ここに来てそれがどのような影響をもたらすのか実感をもって知った。

『私達は乾巧という方がオルフェノクであることまではお聞きしていませんが』
「草加さんは、皆を騙してるって言ってたんだけど…」
「それ、本当なの?」
「え、どういうこと?」
「もしかしてその草加って人が嘘をついてるんじゃ――」
「そんなことないよ!だって、オルフェノクって怖いんだよ?!」

あの時、ホースオルフェノクに殺されかけたことは、未だにまどかの心に傷を残している。
だからこそ、オルフェノクという存在に対して心のどこかで拒否してしまうところがあった。

「…ごめんなさい。気に障るようなこと言ってしまって」
「う、ううん。こっちもごめん、いきなり大きな声出して」

ともあれ本人達が居ない場所では判断が難しいこと。そればかり話していてもことが進みはしない。
美遊は話を進めていく。

先に述べたバーサーカーとの戦い、ロロ・ランペルージや長田結花という人物との出会い、ポケモンを連れた名も知らぬ女の襲撃。
そしてあの放送の後の顛末。

まどかには驚きしかなかった。
自分よりも年下の、こんな小さな少女があの怪物と戦っているという事実に。
実物を見たからその恐ろしさが分かった。もしあれと会ったときに自分ひとりだったら恐怖で足が竦んで動くことすらできないだろう。
なのに、目の前の少女がそれと戦ったという。

(やっぱりすごいな…。それに比べて私は…)

その後、長田結花という人物と出会い、直後に謎のポケモンという存在を連れた女からの襲撃。
女は撃退したが結花を見失い、追っている途中で放送が始まり、その中で兄が死んで錯乱したロロにより怪我をし、今に続く。

「美遊ちゃんってさ…、もしかして、魔法少女…なのかな?」
「え?」
「あ、ううん!何でもないの!分からなかったら気にしないで」

ふと、戦う少女と言われて連想した言葉を口走ってしまった。わけの分からないことを言ったかもと思われるかもしれないと思うまどか。

『まどか様ももしかして魔法少女なのですか?』
「ふぇ?」

しかし話を聞くと、美遊は実際に魔法少女という設定だと、サファイアは言っていた。(設定って何だろう…?) また、それが自分達の世界のモノとも恐らく異なるものであるだろうとも。
実際彼女達は、とある事件の中で同い年くらいで自分達よりも戦い慣れして戦闘能力を備えた別世界の魔法少女と出会う機会があったとか。

『よろしければ、そちらの魔術形態についてお伺いしてもよろしいでしょうか?』
「ま、まじゅつ…けいたい?」
『魔法少女の成り立ちや、仕組みといったものです』
「その…あ、そう、そっちから聞かせてもらってもいいかな?」

そうサファイアに問われたものの、何を話してよいか分からなかったためまどかは美遊に先に答えてもらうように聞いた。
専門的なことなど分からないし、そもそもあのことを話していいのか判断に困ってしまったのだ。

「私達は魔力回路を運用してサファイア達のような魔術兵装を用いることで平行世界からの干渉によって魔力を無限供給している。
 サファイアは第二魔法の応用で作られた魔術礼装でマスター契約により運用可能。
 戦闘においては魔力運用はあくまで魔力回路に依存するため使用者の一度に使用可能な魔力は『美遊様、まどか様の頭から湯気が上っています』

ともあれ、掻い摘んで大まかにサファイアの説明を聞いたまどか。
やはり難しかったものの、内容はキュゥべえが以前話したものとは全く異なるもののようだった。
大前提として、どうも魔法(魔術?)を使うには生まれつきの才能が必要であり、それが無ければ基本的に魔術を使うことはできないのだとか。

やはり迷いはあったが、話してみることで何か答えを見つけられるかもしれない。
あるいは人間でなくなったことを苦しんだ親友を救う術も見つけられるかも。

「それじゃあ、こっちも話すね。って言ってもそんな原理とか理屈とか、詳しいところは分からないんだけど―――」


「なるほど、この空間は我々の記憶から作られたものであるかもしれない、と」
「はい」

織莉子とサカキは屋敷を巡回した後、壊滅状態にある敷地内の、ほんの少し空いた空間で自分達の考察について話していた。

「例えばこの家、私の家で間違いありません。おそらく崩れる前は完全に私の家を模倣していたはずです。
 ただ、本音を言うならこの殺し合いという場において、そのようなことをする必要はあるでしょうか?」
「そうならざるを得なかった、というのじゃないのか?例えば家をこの場に持ってきた、とか」
「そのようなことも可能なのですか?……それは違うかもしれません。先ほど寄った衛宮邸という家を覚えていらっしゃいますか?
 見たところ一世帯の家族が住んでいるであろう家のはずですが、生活感がまるでありませんでした。きっとこの私の家もそのようだったと考えられます」
「しかしそれだけではまだ我々の記憶から作られたものという考えにたどり着くには弱いと思うが」
「そうですわね。この地図を見ていただいてよろしいですか?」

そう言って織莉子は、支給品の中にあった地図を広げる。
孤島の島に、様々な施設が特に統一性もなく散らばっている。

「これらの施設を見て、何かお気づきにはなりませんか?」
「ふむ…。……名簿も見せてもらえないか?」

そう言い、名簿と地図を交互に見比べ、やはりと呟いて顔を上げるサカキ。

「ここに記されている施設は、他の参加者に関わりがあるものが多い、ということか?」
「はい。ここに呼ばれている参加者の苗字を持った施設だけで8軒。
 そして学校と思われる施設は3軒、いえ、この流星塾という施設もあわせれば4件でしょうか。
 他にも柳洞寺、スマートブレイン、アヴァロン、蓬莱島、さくらTVなど特定の固有名詞に当たるものも見受けられます」
「そういえばポケモンセンターやフレンドリィショップはポケモントレーナーであればまず知っているはずの施設のはずだ」
「この中で参加者との関わりがあるかどうか不明瞭なものは、警視庁、病院、美術館、政庁、遊園地でしょう」

他の施設はもしかすると誰かと関わりのある施設の可能性は高い。
古びた教会―――なぜ教会、ではなく”古びた教会”なのか。
人間居住区―――少なくとも自分達の世界では人間が住む場所などいちいち示したりはしない。何か人間の種族と共に生きている世界があるのかもしれない。

「そうなるとここへ来るまでの通り道の美術館に寄っておくべきだったかもしれませんが」
「それで、もし君の仮定が当たっていたとすれば、どのような憶測になると?」
「私達の世界には、魔女という存在があります。
 彼等は結界の中に潜み、人間に対し様々な悪影響を与えるのです。
 その中でも魔女に操られた者、意識を乗っ取られた者には魔女の口付けとよばれる印が付くのです」
「待て、魔女の口付けだと?それは――」
「はい、私達に付けられたこの呪いの元です。
 そして彼等は、時には人間の記憶に入り込んでくることもあります」

思えばその地点にはもっと早くに気付くべきだった。
まさか魔女を思いのままにする人間がいるとは思わなかった。
しかしあの時聞いた神のごときポケモンの力をアカギが持っているのであれば、あるいはあり得るかもしれない。
無論、まだ推測の域は出ない。確信するには早いだろう。
だが、指針として、可能性としては考えておかねばならない。
すなわち、

「アカギ、あるいはその協力者は魔女の力を利用している可能性があります。それもその力を完全に支配下に置いた上で」



『それは、本当なのですか?』
「うん…」

鹿目まどかは全てを話した。
魔法少女のこと。キュゥべえのこと。それに翻弄された皆のこと。そして、魔女の存在とその真実。

「魂を固定化させ変質させる。さらにその際発生するエネルギーを回収する。サファイア、そんなこと可能なの?」
『私の使用する魔術とは根本的な分野が異なるため何ともいえませんが、少なくともそれは魔法に匹敵する奇跡であることには変わりないでしょう』

契約の代価にいかなる願いも叶えるという異星生物。
その契約をしたものは魂を宝石に変換させられ魔女という生き物と戦う運命を背負うという。
そして、魔力を使い切ったとき、その魔法少女自身がその魔女へと変化する。

「サファイア、もし宝石魔術の際使用される魔力を人間の魂そのもので定着させた場合、どのくらいの魔力を生み出す?」
『生きた人間の魂そのものとなると、前例が無いため測り知ることはできません。あるいは凛様やルヴィア様であれば知られている可能性はありますが…』
「………」

「ご、ごめんね、変なこと聞かせちゃって」
「構わない。色々参考になった」
『まどか様、そのキュゥべえという生き物ですが、もしかするとアカギに何らかの関わりがあるのではないですか?』
「えっ?」
『魔女の存在と魔女の口付け――私達に付けられたこの刻印。希望と絶望という感情からエネルギーを変換する。
 今の状況と一致させられる条件が揃っています』
「でも、それならどうして私がいるのかな…?」

まだ原理が分からないとはいえ、条件は揃いすぎているように見える。
しかしまどかはそれに対して疑問を呟いた。

「キュゥべえが言うには、私にはこれまでにない魔法少女の才能があって、今までにないほどのエントロピーを回収できるって言ってたし…。
 こんな、もしかしたら私が、…死んじゃうかもしれないところに連れてくるのかな…?」
「どういうこと?」
「キュゥべえがそう言ったの。私には神様にもなれるほどの才能があって、宇宙を救えるかもしれないって。
 そんな、多分キュゥべえにとって重要かもしれない私が死んじゃったら元も子も無いんじゃないかな?」
『確かにその部分だけを聞くと不自然に感じますが…』

確信を得るためにはまだ材料は足りない。可能であればまどかの言う魔法少女達やルヴィアと接触を図るべきだろう。
だが、得た情報は貴重なものだ。また異世界の魔法少女、魔女の存在など。


「それで、あなたはどうしたいの?」

ふと、美遊はそんなことを切り出した。
まどかは意味が分からず首を傾げる。

「どうしたい、って?」
「そんな力を持って、そんな不条理な願いを持ちかけられて、あなた自身はどうしたいの?」
『美遊様?』

それは唐突な問い。
なぜそんなことをまどかに聞くのか、美遊の心中はサファイアには分からなかった。
それに対し、まどかは少し考えた後ポツポツと話し始めた。

「私、今まで何のとりえも才能もなくて、このまま誰のためになることも、何の役に立つこともできずに生きていくんだろうなって思ってて。
 そんな時に、街の人を守るために戦うマミさんを見て、好きな人のために魔法少女になって傷付いてくさやかちゃんを見て。
 なのに何の力にもなれなくて。でも、キュゥべえはそんな私にも力があるって言って」
「あなたは契約したいの?人間じゃなくなっても、他の人を襲う存在になるだろうって知った今でも?」
「……魔法少女になりたいかどうかは分からないけど、でも、何にも出来ずに、守られてばっかりなのは嫌だし…。
 だからもし私にもできることが、戦えるようなことがあるなら、力になりたいってそう「そんな覚悟で戦いに参加したいなんて言わないで」

その言葉に、美遊は唐突に割り込んだ。

「あなたは戦いの中にいるような人間じゃない。戦う理由を持っていない」
「そんなこと――」
「そんな、ただ何かをしなければいけないなんて理由しか持っていない人に、戦場に立ってほしくはない。あなたは、戦うべきじゃない」

そう、美遊はまどかの望みを、きっぱりと否定した。


「ここから私達は北上しこの橋から市街地へと再び入ろうと思っています」
「先に寄った学校に寄るのではないのか?」
「最初はそのつもりでしたが、ここで戻ればあの剣士に遭遇する可能性があります」

もしあの子があの剣士と会い戦った場合、勝つことは難しいだろう。そして彼女もそれくらいのことは分かるはず。
だからこそ、もし出会えば逃げてくれると信じている。
あの傷があっても、彼女の能力を持ってすれば逃げることは可能なはずだ。

念を入れて、もしキリカがここに来たときのために、目印を残しておこう。
家の残骸の中にあった一枚のハンカチ。それを森の入り口の木に分かりやすいように縛り付けておくのだ。
これが自分のものだということに、キリカならば気付いてくれるはずだ。

市街地に向かった後は、まずそこから最も近い場所にある鹿目邸へと足を運び、その後病院に向かう。
可能な限り施設は調べておきたいという考えの元だ。
というのも事実ではあるが、実際には鹿目邸に向かうことにはまた別の思惑もある。しかしそれを口にしたりはしない。

今後の指針は決まった。
あの剣士が追いついてくる様子は無いが、もたもたして追いつかれてしまうとまずい。

特に未練もなく完全に崩壊している己の家に背を向け、入り口の門をくぐった。

(そういえば、何時ぶりだったかしら。キリカ以外の人をここに通すのは)

そして特に意味もなく、ただ何となく。
そんなことを思った。


まどかは家の中にいた。
何かを考えるように、キッチンの椅子に座り込んでいた。
しかしその表情は決して明るくない。

戦うなと。自分には自分のなすべきことがあるのだと。
散々言われてきた言葉だった。
涙を流しながらそう伝えた少女もいた。その言葉を最後に親友の成れの果てと消え去った少女もいた。

(だけど…)

でも、草加さんも杏子ちゃんもLさんも、皆それぞれの形で戦っている。
だったら、自分には何ができるんだろうか。
そのできることが、もし戦うことだったら、戦うしかないのではないか。
理由だってある。皆を守りたい。力になりたいと思っている。
それでも理由にはならないのだろうかと。
もしさっきあの少女に否定されたときにそう言えていれば何か変わっただろうか。
でも、現実にそんな術を持たないまどかには、そんなことを言うことはできなかった。



もしその存在があったとしても、おそらく嫌な顔しかできなかっただろう存在。
それでも、いつも悩んでいたときには姿を現して契約を迫ってきたあの生き物。
キュゥべえ――インキュベーター。
しかし、今この場においてはいくら悩んでいても、あの白い生き物が姿を現すことはなかった。


「………」

あの後、居心地の悪さを感じ取った美遊は、鹿目邸の庭に出て外の空気を吸っていた。
襲撃者がいたときにはこちらに注意を惹きつけつつ屋敷を離れるつもりだったが、少なくとも今はそのような気配はない。

「サファイア、彼女にそこまでの魔力があるように見える?」
『彼女の世界のものと私達とでは、同じ名称であっても根本的原理が違うようですので一口に判断することはできません。
 まどか様の世界の魔法少女に会ってみなければ何ともいえないでしょう』

これまでは一人も会ってこなかったが、会う機会があればサファイアの力をもって調べるのも仕事だろう。
腕の傷は、少なくとも動かす分には問題ないほどには治癒した。
あの時サファイアはロロを止めるために一時的に美遊の手を離れたことでバーサーカーと戦ったときと違い防壁を張ることができなかった。
バーサーカー戦でもそうダメージを受けなかった体にここまでの傷が残ったのはそのためらしい。
だが、もしあの場でサファイアが動かなければ、あの大口径の銃弾は美遊の心臓を撃ちぬいただろう。とっさの行動だったから分からないものの、あれをサファイアが防壁で受け止めることができたかと問われると分からない。
結果論なのだからあまり言っていても仕方ないだろうが。
今なら結花やロロ達を追うことを、サファイアは許してくれるだろうか。
だが、あの鹿目まどかにも若干気になるところがある。

『それにしても美遊様、先ほどの言葉は少し言いすぎでは?』
「…それは……、後で謝る」

少し言い過ぎたのではないかと、美遊自身も思わなくもない。
彼女自身が自らの立ち位置について悩んでいるのは仕方の無いことだろう。自分がどうこう言うことではないのだ。

ただ、彼女の世界の魔法少女の真実を知り、己の力を知らされていながらなおジレンマから抜け出せず答えを出せないその姿に少し苛立ちを感じてしまった。
いつだったか似たような感情を持ったことがある気がするが、あの時とはまた異なった感情のような気がする。

ふと、遠くを見つめながら、

「―――何でも願いが叶えられるなんてこと、全然いいことじゃないから」

そう呟いた美遊。
その言葉の意味も、その心中も、サファイアには量れなかった。


二つの場所で起こった2組の、己の家への帰還。
その中で彼等は様々な考察を巡らせた。
それが果たして真実なのか、ただの思い込みでしかないのかはまだ分からない。

しかし、もし彼等2組に関して一つ言えることがあるとすれば。
本来出会うはずのない2人の少女の間にある距離が、確実に縮まりつつあるということだろう。

【D-6/鹿目邸/一日目 午前】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:擦り傷が少々
[装備]:見滝原中学校指定制服
[道具]:基本支給品、不明ランダム支給品0~3(確認済み)
[思考・状況]
1:私、どうしたらいいんだろう…
2:さやかちゃん、マミさん、ほむらちゃんと再会したい。特にさやかちゃんと。でも…
3:草加さんが追ってくるのを待つ
4:乾巧って人は…怖い人らしい
5:オルフェノクが怖い…
[備考]
※最終ループ時間軸における、杏子自爆~ワルプルギスの夜出現の間からの参戦
※自分の知り合いが違う人物である可能性を聞きました
※美遊と情報交換をし、バトルロワイヤル開始からこれまでの出来事と遭遇者、「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」の世界の情報を得ました。(後者は難しい話はおそらく理解できていません)
しかし長田結花がオルフェノクであることは知らされていないため、美遊の探す人物が草加の戦ってる(であろう)オルフェノクであることには気付いていません。

【美遊・エーデルフェルト@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:ダメージ(小)、左腕に大きな傷(処置済み、大体は治癒、ただし激しい戦闘を行えば傷が開く可能性有り)
[装備]:カレイドステッキサファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、クラスカード(アサシン)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、支給品0~1(確認済み)
[思考・状況]
基本:イリヤを探す
1:出発したいが、鹿目まどかのことも少し気になる。どうしよう?
2:結花、ロロを追いかける
3:知り合いを探す(ロロの知り合いも並行して探す)
3:結花の件が片付いたら、橋を渡って東部の市街地を目指す(衛宮邸にも寄ってみる)
4:真理の知り合いと出会えたら、真理のことを伝える
5:ナナリー・ランぺルージには要警戒。
6:『オルフェノク』には気をつける
7:まどかの世界の魔法少女を調べる
[備考]
※参戦時期はツヴァイ!の特別編以降
※カレイドステッキサファイアはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※まどかと情報交換をし、バトルロワイヤル開始からこれまでの出来事と遭遇者、「魔法少女まどか☆マギカ」の世界の情報を得ました。
  しかし草加雅人が現在オルフェノク(長田結花)と戦っているであろうということは知らされていません。

[考察(まどか、美遊)]
キュゥべえがアカギに関わっている可能性はあるが、まどかを参加させる理由が見当たらないため保留。
アカギは魔女の力を何かしらの形で利用している?


【D-7/美国邸付近/一日目 午前】

【美国織莉子@魔法少女おりこ☆マギカ】
[状態]:健康、疲労(小)、ソウルジェムの穢れ(3割)、白女の制服姿、オートバジン騎乗中
[装備]:
[道具]:共通支給品一式、ひでんマシン3(なみのり)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:何としても生き残り、自分の使命を果たす
1:鹿目まどかを抹殺する。ただし、不用意に他の参加者にそれを伝えることはしない
2:キリカを探し、合流する。
3:積極的に殺し合いに乗るつもりはない。ただし、邪魔をする者は排除する
4:サカキと行動を共にする
5:C-6南部の橋から市街地へ入り、鹿目邸を調査。その後市街地を巡回した後病院へ向かう。
[備考]
※参加時期は第4話終了直後。キリカの傷を治す前
※ポケモンについて少し知りました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※アカギに協力している者がいる可能性を聞きました。キュゥべえが協力していることはないと考えています。


【サカキ@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:左腕に裂傷(軽度)、オートバジン騎乗中
[装備]:オートバジン@仮面ライダー555、高性能デバイス、ニドキングのモンスターボール(ダメージ(小)疲労(中))@ポケットモンスター(ゲーム)
[道具]:共通支給品一式 、技マシン×2(サカキ確認済)@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:どのような手段を使ってでも生き残る。ただし、殺し合いに乗るつもりは今のところない
1:『使えそうな者』を探し、生き残るために利用する
2:織莉子に同行する
3:織莉子の提案通り、C-6南部の橋から市街地へ入り、鹿目邸を調査。その後市街地を巡回した後病院へ向かう。
4:力を蓄えた後ポケモン城に戻る(少なくともニドキングとサイドンはどうにかする)
5:『強さ』とは……何だ?
6:織莉子に対して苦い感情。
[備考]
※『ハートゴールド・ソウルシルバー』のセレビィイベント発生直前の時間からの参戦です
※服装は黒のスーツ、その上に黒のコートを羽織り、黒い帽子を頭に被っています
※魔法少女について少し知りました。 織莉子の予知能力について断片的に理解しました。
※ポケモン城の一階と地下の入り口付近を調査しました。
※サイドンについてはパラレルワールドのものではなく、修行中に進化し後に手放した自身のサイドンのコピーだと思っています。
※アカギに協力している者がいると考察しています。

[考察(織莉子、サカキ)]
この空間は参加者の記憶から作り出された空間、すなわち魔女の結界に類似したものである可能性がある。
アカギは魔女の力を何らかの形で利用している

【オートバジン(バトルモード)@仮面ライダー555】
現在の護衛対象:美国織莉子
現在の順護衛対象:サカキ
[備考]
※『バトルモード』時は、護衛対象の半径15メートルまでしか行動できません
※『ビークルモード』への自律変形はできません
※順護衛対象はオートバジンのAIが独自に判断します


091:ガブリアスが見てる 投下順に読む 093:蛇の道は蛇
時系列順に読む
085:Lost the way 鹿目まどか 106:彼らの探し物
美遊・エーデルフェルト
076:私の光が全てを照らすわ 美国織莉子 096:美国織莉子、私の全て
サカキ



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