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かつてセイギノミカタを目指した者の夢

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かつてセイギノミカタを目指した者の夢 ◆Z9iNYeY9a2



あの日、彼は全てを失った。
家、家族、それまで生きていた証、そして人間としての○○。
それまでの人生で積み上げてきたもの、重ねてきた思い出。
それらを全て、あの炎の中に置いてきた。

そうして生き残った自分には何が残ったのか。
何も残らなかった。
それまで生きた証は全て灰と化し。
そして生き残った自分自身さえ、それまでの自分とはかけ離れた存在となった。

ゆえに、もう”彼ら”がそれ以前の話を語ることはおそらくないであろう。
その行動はもはや何の意味も影響ももたらさない。

ここに述べる話は、そんな者達による己の内側に対する問いかけの、ほんの小さなお話である。




『北へ向かいましょう』

黒き魔法少女の襲撃後、穂群原学園に到着した一同が、各々怪我の治療を行いながらこの先どうするかを考えているとき、そう提案したのはルビーであった。

「え、どうして?」
『ここまでの道中を考えて下さい。
 バゼットさんはここから東でセイバーさんと戦闘行為を行い、そのまま追ってくることはしませんでした。
 あの、呉キリカさんでしたっけ?彼女は逆方向、西から来ました。バゼットさんの話を聞くに、どうやらバゼットさんの会ったニアという方のところから向かって来られたのでしょうね」
「ええ、しかし彼女の言葉から察するに、もう生きてはいないでしょう。…彼には悪いことをしました」
『だとすると、この私達のいる南部周辺にはそこまで人はいないでしょうね。バゼットさんも我々とキリカさん以外とは誰とも会わなかったと言いますし。
 ならば、この場に留まっている、あるいは南下する意味はないでしょう。まだ引きこもるには情報が足りていませんし』

下手に動いて士郎さんに更なるスイッチを入れられてしまうというのも問題ですけど、とはルビーは思ったが言わなかった。
遅かれ早かれ誰かと戦うことになるのは見えている以上、戦いそのものを避けてばかりでも何の解決にもならない。

『で、乾さん。移動する上で一つ聞いておきたいことがあるんですけど。
 正直もっと早く聞いておくべきことでしたが、ゴタゴタのせいで聞き損ねてしまったことです』
「何だよ?」
『乾さん、この方に見覚えはありませんか?』

と、ルビーはどこから取り出したのか、映写機のようなものを体(?)から引き出し、光を壁に当てる。
明らかに質量保存を無視したもので、巧も突っ込むべきかと一瞬考えたが、そこに映し出された顔を見てその思いはどこかへ行ってしまった。

褐色の肌を持ち、イリヤのものに薄いピンクを混ぜたような色の髪をし、長い髪を後ろに縛った少女。
その顔は

「………」
「この子は…、イリヤにそっくり…いや、双子みたいに似てるけど…この子がもしかして、イリヤの言っていた――」
「うん、クロ。もう一人の私、というか妹みたいなものかな?」
『巧さん、知っていますね』
「…ああ」

あまり思い出したくないのか、声が小さく今まで以上にぶっきらぼうな答え方に見えた。

「え、ちょっと待って。何で乾さんが知ってるって分かったの?」
『正直私もあの場で気付くべきでした。
 乾さんの体に刺さっていた黒い矢、あれはクロさんのものではありませんでしたか?』
「矢って…あ…」
『無論、他の人に支給されたものを何処の誰かも分からない人が使った可能性も考えましたが、敢えてここで思い切って聞いてみました。
 ビンゴだったようですが』

視線をルビーから反らす巧。
そんな彼に、さらに追求するようにルビーは問いかける。

『そもそもおかしいとは思っていました。先の情報交換の中では随分とそのマミさんって方を気にかけていた割に、あなたは今彼女を連れていません。
 あの後、一体何があったんですか?』
「…別に大したことじゃねえよ。
 その写真のやつと変な竜みたいな動物に乗った女がマミを連れて行っただけだよ。
 俺みたいな化物と一緒にいるよりは、その方が安全だろうが」
『………。…はぁ、私の周りにいる男性はどうしてこうも面倒な方ばかりなのでしょうか……。
 さすがのルビーちゃんも男難の相を疑いますよ』

別に聞いてもいないのに勝手に言い訳じみた言葉を続ける巧に溜め息をつくルビー。
この人はもう少し人と話し合うことを覚えた方がいいのではないか、と思ったがイリヤと士郎含めて今周りにいる人は考えより行動が先に出る人ばっかりだったという事実を思い出してさらに溜め息をついた。

「乾さん、クロはどうだったの?どこか怪我したりはしてなかった?」
「パッと見じゃ何ともなかったと思う。てか怪我してたら矢なんて撃てねえだろ」
「そっか…、正直安心した…」

少なくとも大きな怪我をすることもなく、一緒に行動できる人を見つけられて独りで戦ったりすることなく健在というところにイリヤは安心していた。
殺し合いに乗ることはない、と信じていたけど、色々と不安なところもあったのだ。
魔力不足に陥っていないか、とか、まさかそれで初対面の人にキスを迫るようなことがないか……とか。
そんな、まさかね。

『彼女とどこで遭遇されたか、覚えていませんか?』
「詳しい場所までは覚えてねえよ。あの時は撃たれたあいつのために必死で病院に向かってたからな」
『とすると、向かった場所は東か、あるいは北西ということになるでしょうね』
「一ついいですか?その巴マミという魔法少女も撃たれた、と言いましたが、やはり心臓、あるいはそれに近い急所を撃たれたのですか?」

と、それまで沈黙を保っていたバゼットが口を挟んできた。

「…心臓かどうかまでは分からねえが、胸を撃たれたのは確かだった。
 だからまだ助けられるうちに病院に連れて行けば、って思ってな…」
「え、じゃあその子、その重傷を追った状態で俺たちと戦っていたのか?」
「それに関しては不思議はないでしょう。あの呉キリカも、私のフラガラックを受けてなおあれだけの行動ができたのです。
 しかし、もしそうであればあの生命力は彼女固有というよりは魔法少女という存在特有のものなのかもしれません」

いかなる生き物であっても、心臓を潰されて生きていけるものはいない。
強靭な生命力で知られるあの吸血鬼でさえも急所と言い伝えられる場所であり、またサーヴァントであっても心臓と脳は急所である。
ならば、魔法少女の生命力は一体どこからきているのか。

『乾さんの件はともかく、キリカさんの件はあのフラガラックを使用した以上外した可能性は無いでしょうし。
 とするとぱっと考えられる可能性は、そうですね。
 何かしらの魔術(に近いもの)をかけて心臓を即行で治癒したか。あるいは核そのものが別に存在するか。
 何にせよ完全な不死身ということはありえないでしょう』
「そうだな、俺のところには臓硯っていう化物みたいなやつがいたんだが…」

間桐臓硯。
生に執着し、その身を蟲として堕として数百年の時を生き続けた魔物。
しかし、そんな彼であっても魂の腐敗までを食い止めることはできなかった。
だからこそ聖杯を求めていたのだ。

完全な不死というものは有り得ない。きっと何か弱点があるはずだ。
ギリシャ神話に語られるアキレスにとってのアキレス腱のような、ドイツの英雄叙事詩に語られるジークフリートの背のような何かが。

『まあとりあえずこの話は実際にその魔法少女と会った際に検証すればいいでしょう。
 問題はクロさんですね。もう時間も経っているためこの近くにはもういない可能性もありますが、いる可能性もあります。
 少し遅くはなりましたが、存在を確認できた以上まず彼女と合流することを視野に入れて動こうかと思います』
「それは分かるけど、…でもクロじゃないといけないの?」

ふと、そんなルビーの提案に疑問を投げかけるイリヤ。

『え、どういう意味ですか?』
「いや、何となくだけど、美遊やルヴィアさんももしかしたら近くにいるかもしれないのに、クロのことばっかりでいいのかなって」

無論、時間経過したとはいえ確認できた存在と確認できない存在を同列に並べるのはおかしいだろう。
だが、ほんの少し、根拠はないが何となく。
イリヤにはルビーがクロとの合流を急いでいるかのようにも見えた。

『おやー、イリヤさんはクロさんと合流したくないんですか~。
 あっ(察し)、そういうことですか。やはりイリヤさんもまだまだ初心ですねえ~』
「その『あっ(察し)』って何?!何を察したのよ?!違うから!そういうのじゃないから!
 ああもう!人は真面目に話をしてるのにー!」

士郎、巧、バゼットにはそのルビーの(察し)が何を意味しているのかは分からなかった。
というかその意味が分かる人物はきっと、この会場内においても美遊、そしてシロナとC.C.くらいしかいないであろう。

『時にイリヤさん、体の具合は今は万全ですか?』
「体の具合?ルビーのおかげでもう傷とか大分楽になったけど」
『そうですか。ではただちに出発しましょう。善は急げといいますし』
「一つよろしいですか。私としては出発前に軽く食事を済ませたいのですが。
 傷を負いすぎたこともあり、さすがに体が栄養を求めているようにも感じます」
「あ、ならさっき俺が作った弁当があるんだが、食べるか?」
「いただきましょう」

数分後。
あるいはルビーが急ぐことを告げたためでもあるのか。
衛宮士郎が作ったお手製の軽食は、特にこれといって味あわれる様子もなく、ただ栄養源、エネルギー源としての役目を果たすためだけにバゼットの体内に取り込まれた。
さようなら、士郎のお手製軽食。君のことは忘れない。


「すぅ…すぅ…」

移動する道中、イリヤは士郎に背負われたまま眠りに落ちた。
いくら魔法少女をやっているなどといっても肉体はやはり小学生でしかない。
数時間の睡眠だけでやってきたことがここで一気にきたのだろう。

「士郎、大丈夫なのかよ。何なら代わってやろうか?」
「はは、これぐらい大丈夫だよ。こう見えてもそれなりに鍛えてるからな」
『巧さん、ここは気遣いよりも空気を読むところですよ。夢の中にいるイリヤさんには幸せな状態で居てもらうのが最善だと思いますよ』
「?」

まあまさか義理とはいえ兄である存在に恋心を抱く妹がいるとは、なかなか想像しづらいものですけどね。とルビーは口に出すことなく心の中で思った。


「バゼット、そういやあんたの腕のほうはもういいのか?」
「動かす分には支障はありません。治癒のルーンもかけておきました。
 もしあのサーヴァントほどの存在と会ってしまえば分かりませんが、あれほどの者がそういるとは思えませんし。
 そういえばタクミ、一つよろしいですか?」

と、ふとバゼットが思いついたように疑問を投げかけた。

「何だよ」
「あなたはオルフェノクについて、先ほど説明した以上のことを知っているのではないですか?
 あなた自身がオルフェノクなのであれば」
「……」

巧はバゼットに対しては自身がオルフェノクであるという事実までは明かしていなかった。
そんな巧にバゼットが疑問を持つのは当然といえるだろう。

だが、それでも巧に答えられることはなかった。

「…俺も本当によく知らねえんだよ。
 村上ってスマートブレインの社長なら詳しいこと知ってんだろうけど、俺には全然分からねえ」
「では、あなたが言っていた、人の心を失うというのは?私にはまだあなたがそのオルフェノクに完全に心を堕としたようには見えませんが」
「そうなるんだよ。オルフェノクになったやつは大抵力に溺れて人間を襲うようになる。………ちょっとだけ例外はいたけどな」
「なるほど、個人差のあるものでしたか。そしてあなたはその例外であると」
「んなことねえよ。俺だっていつ襲うようになるか分かんねえからな。気になるなら離れてもいいんだぞ」
「ご心配には及びません、腕には覚えがあります。人外との相手も慣れていますし、もし襲うようなことがあればこの手で始末させてもらうだけです」
「じゃあ、その時は頼ませてもらうぜ」

ふと、巧はそんな自信満々に言うバゼットの言葉に、一人の少女のことを思い出し、すぐに脳裏から切り離した。
もう終わったことだ。きっとあの方が自分なんかといるより良かったのだ、と。
そう自分に言い聞かせる。

「話を戻します。ではあなたはどうしてオルフェノクになったのですか?」
「何だよ、やたらと気にするな」
『兵法にもあるじゃないですか。敵を知ることは重要である、みたいなやつですよ』

問われる巧だったが、それでも答えられるようなことはなかった。

「オルフェノクに襲われてなる、と聞きましたがやはりタクミもそれでなったのですか?」
「たまに事故とかで死んだ人間もオルフェノクになったりするらしいんだよ。俺みたいにな」
「…なるほど、それでは知らないのも無理はないのかもしれませんね」

これ以上深く聞いても求めている答えは得られないと感じたのだろう。
バゼットは話を打ち切った。
その代わりに、そんな会話を聞いていると少し疑問に思ったことを士郎は聞いてみた。

「なあ、それって巧の家族とかって知ってるのか?
 事故で死んだあんたがそんな姿になって生きてるって」
「………」

しばらくの沈黙。
何の気無しに聞いてみたがさすがにまずかったか、と謝罪と共に反省する士郎。

しかし、その問いかけに目を伏せつつも、巧は刹那の沈黙の後回答した。

「家族なんていねえよ。
 俺が事故で死んだとき、皆あの火事の中で死んだ。
 俺みたいに化物になることもなく、な」
「え…」

巧自身、本来ならば言うつもりもなかった、というより語りたくもなかった過去。
だが、どうしてか、聞かれたからとはいえあまりに自然に、そんなことを言っていた。
化物として転生し、誰とも深く関わることのないように生きていく、その始まりになったあの出来事など。
あれ以来熱いものが苦手になったことなど。
なぜ話していたのか、巧も自分に少し驚いていた。


そして。ふと、そんな巧の返答を聞いて。
士郎の脳裏には、彼にとって原初とも言える記憶が巡った。

息を吸うだけでも熱が体を巡るあの地獄の風景。
自分にとって終わりでもあり始まりでもあった、あの光景。

ああ、そうか。
何故乾巧のことがこんなに気になったのか、こんなに歩み寄ろうとしたのか。
なんとなくだが分かった気がした。

ならば、こちらも話さなくてはならない。

「悪い、辛いこと話させてしまったな」
「………。…気にすんな。勝手に俺が話しただけだよ」
「まあ、その、何だ。
 じゃあ、俺が今から言うことも勝手に喋ってるだけだから、そこまで深くは考えなくてもいい。聞きたくなければ無視してもらっても構わない」

と、士郎は背後のイリヤに視線を向ける。
目を覚ましそうな気配はない。兄の背に完全に身を任せ、静かに寝息を立てている。
今から話すことは、このイリヤには知る必要はない。
いや、知ってほしくないことであると言ったほうが正しいだろう。

士郎はその背で眠る少女に気を払いつつ、ポツリと話し始めた。

「俺もな、昔火災に巻き込まれたことがあるんだ。
 それもただの火事じゃない、街一つ巻き込むような大災害に」
「……続けろよ」

巧も何か言いたいことがあるのだと悟ったのか、そんな士郎を止めることなく静かに話を聞いていた。
それがただの不幸自慢ではないことを悟ったのだろう。

「その時に、家族も思い出も全部なくしてしまって、正直思い出せることがないんだ。
 覚えてるのは、その火災の中で助けを呼ぶ人たちの声や、苦しみに喘ぐ人たちの声くらいしかなくて。
 俺はただ死にたくなくて、そんな彼らをただ無視して歩いていたんだ。ただ自分だけが生き残るために。
 でもやっぱり俺一人は何にもできなくて、歩けなくなって倒れてもうダメだって思ったとき、俺を助けてくれた男がいたんだ。
 それが、俺に衛宮の名前をくれた、育ての親父だった」
「………」

誰も口を挟もうとはしなかった。
イリヤは眠り、巧は沈黙を続け、バゼットは聞いているのかどうかも定かではない。
ルビーすらも、軽口一つ立てずにその話を聞いていた。

「その時の親父の顔がな、とっても綺麗だった。助けられたのは俺なのに、まるで親父の方が俺を助けたことで救われた、みたいな顔しててさ。
 だからこそ、俺もそんな風に誰かを救えるようになりたいって、そう思ったんだ。

 それから数年経って、親父が死ぬ間際にこう言ったんだ。
 僕は正義の味方になりたかったんだ、って」
『正義の味方、ですか…』
「ああ、だから俺は言ったんだ。俺がその夢を叶えてやる、って。
 親父は言ったことがあるんだ。正義の味方として全部を救うのは無理なことで、それでも救えない人は出てくるって。
 あれはきっと親父が目指したことだと思うんだ。だからこそ、俺がその正義の味方になってやるって」
「……――話は終わったのか?」
「そうだな。今のところは、これで終わりだな」

巧はふと振り返り、士郎と目を合わせた。
僅かな時間、何かを考えるように沈黙した後、静かに口を開いた。

「お前、さっき言ってたよな。みんなに幸せになってほしい、って」
「そうだな。確かにそう言った」
「じゃあ聞くけどよ。
 士郎の友人でも家族でも誰でもいい。回りのやつが幸せそうにしてるのを見て、嬉しいって感じたこと、あるか?」
「………」
「啓太郎のやつはな、人が幸せそうにしてるのを見ると、マジで嬉しそうに、自分の幸せみたいに笑ってたんだよ。見てるほうが恥ずかしくなるくらいにな。
 でも、お前は何ていうか、そう見えないんだよ。なんつうかよ、自分が幸せ感じると罪悪感感じてそうな、そんな気がするんだよ。
 お前さ、その火事で生き残ってよかったって思えてねえだろ」


巧の言葉は、当たらずとも遠からずだった。
己の存在は誰かを助けるためにあるものだと考えていた。
この命を捨ててでも、誰かのためにあることができればいい。そう思っていた。
そうでなければ、切嗣に助けられた意味がない。あの災害の中で死んでいった人たちに申し訳が立たない。

ずっと、そう考えてきたのだ。

あの日までは。

「鋭いな、巧は」
「その親父とか昔いたはずの家族はいないかもしれないけどよ、俺と違って今のお前にだって家族くらいいんだろ。
 背中で寝てる妹とかよ。そいつらが悲しむとは思わねえのか?」

家族。
親父が生きていた頃からの付き合いで、姉同然として共に過ごしてきた、ぐうたらな教師がいた。
最初は敵意を向けて襲い掛かってきた、義理の妹にして今背で眠る少女の別の可能性がいた。
そして。

―――――先輩

かつては守るべき日常の象徴、そして今は何があっても守らなければならないたった一人の愛しき存在がいた。

「ああ。いる。
 何があっても守りたい人が。俺はその人のために死ぬわけにはいかない」
「分かってんじゃねえか」
「だからこそ俺、聞きたいことがあるんだ」

長くなってしまった気もするが、これまでが前置き。とはいってもこの質問をして大丈夫かどうか確かめた、というのもあるが。
士郎が聞きたかったのは、この先だ。

「さっきあのキリカって魔法少女に言われたんだ。
 愛っていうのは全てを捧げることだって。心も体も命も、生きる意味さえも捧げて相手に尽くすことだって。
 あの子はそのために殺し合いに乗ったって言ってたんだ。

 俺には、好きな人がいる。彼女だけの味方になるって、何があっても守るって約束した子が」

人としての扱いを受けることもなく生きてきた少女。いつも隣に存在し、いることが当たり前になり、気がつけばかけがえのない存在になっていた。
そして、その少女は倒すべき敵だった。
放っておけば多くの人を殺す、死なせることになるであろう、それまで掲げてきた理想の中には、決して存在してはいけないであろう悪。
それに気付いた時、彼女は弱りきっており、自分になら殺されてもいいとまで言った。きっと、彼女を殺すことができる最後の機会であっただろう。

なのに、暗い夜、一人涙を流す彼女を、俺は抱きしめていた。
救うべき多くの人々、それまで信じていた理想よりも、たった一人の大切な存在を選んだのだ。
その存在が、多くの人を死に至らしめるものであると知りつつも彼女を守る道を選んだ。
世界の何が敵に回ろうと、君を守る、と。

「もし、もしなんだけどさ。ここに連れてこられて会ったのがあのキリカって子だったら、俺、どうなったか分からないんだ」

もし、かつて最も信頼した己のサーヴァントでも、自分を兄と言って慕う少女と同じ姿をした存在とも会わず。
あの少女の歪んだ愛を受け止めていたら。

きっと道を誤ってしまったかもしれない。

「…巧、俺、どうするべきなんだろう?
 桜を守ることと皆を死なせないこと、両方を欲しがることってそんなにおかしいのかな?」

桜は何があっても守らなければならない。
しかしその一方で、イリヤや、藤ねえにも死んで欲しくなんてない。無論遠坂にも死んで欲しくなんてなかった。

士郎には分からなかったのだ。どうすることが正しいのか。
自分が死ねば、きっと桜は悲しむ。ではもし自分の命と桜の命を、あるいはイリヤや藤ねえ達、他の誰かの命を選ぶことになったらどうするべきなのか。
呉キリカの言っていたように、己の命を投げ打ってでも愛に尽くすべきなのか、それとも偽りかもしれないこの愛を捨てて桜を殺すべきなのか。

「……なあ、士郎、お前の夢って何だ?」

そう悩む士郎の前でふと、巧はそんなことを聞いていた。
夢、それはさっき巧自身が、士郎が啓太郎と同じ夢を持っているといっていたもの。
それを巧は、再度問うたのだ。

「夢…?」
「ああ、夢だよ。例えばよ、将来何がしたいとか、どんな風になりたいとか、何だっていいんだよ。
 何か、生きることの目標みたいなのとかねえのか?」

生きる目標、どんな風になりたいか、何がしたいか。
これまでごく一般的な意味で色んな人に聞かれてきた問いかけであり、その度に士郎の答えは決まっていた。
だから、それまでと同じように自分のするべきことを述べるだけだ。

「それはもちろん、s「あ、そういや。当然の話だけどな、人のために何かしたいとかってことじゃねえからな。士郎のためになるようなことだよ。だから正義の味方だの何だのっていうのは無しな」

先手を打たれて口を噤む。
話の流れを察すれば分かることであったのだろうが、どうやら言わんとしたことは読まれていたらしい。

「んじゃあよ、例えばの話だ。お前、結構飯作るの上手いじゃねえか。
 他の人に食ってもらって美味いって言ってもらえたとき、何て感じるよ?」
「そりゃあ、嬉しいって感じるさ。俺の作ったものを食べて、みんなが笑顔になれるんならそれで――――」

笑顔。

そうだ、俺はあの雨の公園で桜が泣いているのを見て、心の底からそれが嫌だと感じた。
涙の原因である間桐臓硯に強い怒りさえ覚えた。
俺は、そんな桜の顔が笑顔で過ごせるような場所を守りたかったのだ。

桜がいて、藤ねえが騒ぎ、黙々と一人食事を進めるセイバーがいて、猫を被った凛が静かにそこにいて、そしてイリヤもいて。
もう戻らないものもあった。欠けてしまったものもあった。
だが、その光景は何より当たり前で、故に大切で。
当たり前であるからこそ、守りたいと思ったのだ。
もうこれ以上、何も欠けることがないよう。

「ああ、そうだ。俺は桜を、桜の笑顔を守りたいんだ。桜が笑顔でいられる世界を。
 それが、俺が正義の味方を諦めた、俺の夢だ」

ただ命を救うだけが、助けることではない。
その先に笑って暮らせる世界がなければ、自分と同じだ。
そして、その夢は決して桜の命と他の人間を天秤にかけて成立するものではない。
巧が教えかったのは、きっとそういうことなのだろう。

「ああ、それでいいんだよ、お前は」

その答えが、きっと巧の言おうとしたことに合致したのだろう。
士郎の決意を受けて、巧ははっきりとその目を見据え、静かで優しい口調でこう言った。

「なら士郎、お前はその夢を叶えろよ。お前の夢くらいは、俺が守ってやるからよ」
「そう、か。ありがとう」
「……お前は危なっかしいからな。お守りくらい必要だろ」
「はは、気をつけるさ。………なあ、巧。
 お守りついでに一つだけお願いできるか?」

と、そこで士郎はまた別の話に移る。
これは、きっと本来はお願いするべきことなどではないのかもしれない。
しかし自分の中のけじめはつけておく必要はある。だから、切り出すなら今しかない。

「何だよ?」
「俺にもしものことがあったら、イリヤを守ってやってほしいんだ。
 イリヤを守って、元の場所に帰してやることを、お願いしたい」
「お前…、こいつはお前の妹じゃねえのかよ」
「いや、このイリヤは衛宮士郎の妹だけど、俺の妹じゃないんだ。
 だから、イリヤの本当の兄もまた別に存在してる。
 そしてもしかしたら、俺にはイリヤを守りきることはできないかもしれない」

桜が笑顔で居られる世界に存在するイリヤと、衛宮切嗣の生きる世界で学校に通うイリヤは違う。
だから、もしもの時は守れなくなるかもしれない。
それでも士郎は、このイリヤのことは心から守り、帰してやりたいと思ったのだ。
あの、買い物帰りに兄と慕う存在の前で童謡を口ずさんでいた帰り道、家族もいない中で唯一残った家族からの共に暮らそうという言葉すらも断ることしかできなかった少女。
彼女が戦うこともなくただの少女として切嗣と共に幸せに暮らしている世界があるのであれば。
それもまた、守らなければならないもののはずだと、思ったのだから。

「これは夢ではないかもしれない。でも、俺の願いなんだ。
 だから俺に何かあったら、巧、頼む…!」
「……」

巧はわざとらしくも見える嫌そうな表情を作り、髪を掻きつつもやがて観念したかのように士郎の願いに返答した。

「たくよ、言っておくが俺は人間じゃねえ、オルフェノクだぞ。
 俺だっていつ人間の心を失くして襲い掛かるようになるか分からねえってのに。何でそこまで信用できるんだよ」
「どうしてだろうなぁ。何だか、巧の傍に人々の笑顔を守りたいって願いを持ってる人間がいたってのがどうしても、な。

 それと、さっきまでの会話ではっきり確信した。あんたは人間だよ。だからもっと胸を張ってもいいんじゃないか?」

少なくともその言葉は、士郎からすれば巧の、士郎なりに感じた心の枷を少しでも楽にしてやりたいと思って口にしたものだった。
しかし、それを受けた巧の表情は、暗く、どこか浮かない表情しか示していなかった。


(なるほど、思わぬところで聞いておきたかったことが一通り伺えたわけですが…)

と、そんな彼らの会話を影から見守っていたルビー。
別に盗み聞きしていたわけではない。ただ、彼らの会話がそこまで周囲に気をはらったものでなかったため、勝手に聞こえてしまっただけのこと。

士郎が己の命を顧みない行動をする理由。
それはきっと、士郎のかつて願ったその歪んだ正義の味方という理想からくるものなのだろう。
しかし、今の彼はそれを捨ててでも守りたいものを持っている。

(これはイリヤさん、寝ていてもらって正解でしたね)

きっとその衛宮士郎に恋焦がれる彼女にはこの話は重すぎるだろう。
少年の心の空洞、そして歪んだ理想、そして守りたいものの存在までは。

もしかしたらイリヤを守れない、というのもまた重い話だ。
そうでなくても、彼にはあの英霊の腕がある。
戦う力があるとはいえ、呉キリカ相手に怯えた彼女が進んで戦いに駆り出すというのはルビーとて避けたい。

「バゼットさん、二人の話、聞いていました?」
「別に聞こえない距離ではないでしょう」
「このこと、イリヤさんには可能な限り伏せておいてください」
「私には話す理由もありませんね」

まあそうだろう。
そもそもイリヤさんに、自分か衛宮士郎の指示に従うように言ったのはバゼット自身だ。
下手な動きに繋がりかねないことをするはずはない。
しかし、下手な動きといえば衛宮士郎自身にも通じることではある。
だがイリヤの兄への恋心を分かっていない者には彼女の無茶はワガママにも見えてしまうものだ。

最も無茶なことをしているのは士郎だというのに。

(サバイバーズ・ギルドというやつですか。
 きっと生き残った士郎さんの、空虚な心を埋めるのに、正義の味方というのは都合のいいものだったのでしょうね)

そんな彼が、守りたいと望むものを見つけ、その個人のために生きることを決意し、しかしそれは同時に彼自身が本来倒すべき悪を守るという自身の理想に反するもので。
逆にいえば、それほどまでに彼にとってその間桐桜という人が大事なものとなっていたのだろう。

衛宮士郎と乾巧。
近い境遇の中で、人としての心と体、それぞれ違うものを失っていった二人。
その存在が、互いにとって益となるものであって欲しいと。
衛宮士郎の背で眠る己がマスターを見ながら、ルビーはそう思わずにはいられなかった。

【G-2/市街地/一日目 午前】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)
[装備]:干将莫邪@Fate/stay night、アーチャーの腕
[道具]:基本支給品2人分(デイバッグ一つ解体)、お手製の軽食、カリバーン@Fate/stay night
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:とりあえずルビーの指示に従う
2:バゼット、巧と協力して、イリヤを守る。
3:桜、遠坂、藤ねえ、イリヤの知り合いを探す(桜優先)
4:巧の無茶を止める
5:“呪術式の核”を探しだして、解呪または破壊する
6:桜……セイバー……
[備考]
※十三日目『春になったら』から『決断の時』までの間より参戦
※アーチャーの腕は未開放です。投影回数、残り五回
[情報]
※イリヤが平行世界の人物である
※マントの男が金色のロボットの操縦者

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、睡眠中
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:この殺し合いを止める
1:一応バゼットとルビー、お兄ちゃん(衛宮士郎)の指示には従うけど……
2:ミユたちを探す
3:お兄ちゃんを守れるよう、強くなりたい。
4:お兄ちゃんには戦わせたくないし、あまり重荷にはなりたくない
5:乾巧の子供っぽさに呆れている
6:バーサーカーやセイバーには気を付ける
7:呉キリカに恐怖
[ルビー・思考]
基本:イリヤさんを手助けして、殺し合いを打破する
1:士郎さんを助けるために、クロさんに協力を仰ぐ
2:士郎さんの話したことはイリヤさんには黙っておく
3:呉キリカの使用した魔術の術式と言語が気になる
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
[情報]
※衛宮士郎が平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?
※マントの男が金色のロボットの操縦者、かつルルーシュという男と同じ顔?

【バゼット・フラガ・マクレミッツ@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(小)、全身裂傷、左腕重傷(骨、神経は繋がっている、応急処置・縫合済)
[装備]:ルーンを刻んだ手袋
[道具]:基本支給品、逆光剣フラガラック×2@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:何としてでも生き残る。手段は今の所模索中
1:とりあえず会場を回り、クロエ・フォン・アインツベルンを捜す
2:衛宮士郎、イリヤスフィール、乾巧と手を組む。
3:セイバーを追い詰められるだけの人員、戦力を捜す
4:障害となる人物、危険と思しき人物は排除する
5:呉キリカのような魔法少女について調べる
6:呉キリカと再び遭遇したら、今度こそ確実に仕留める
[備考]
※3巻の戦闘終了後より参戦。
※「死痛の隷属」は解呪済みです。
※フラガラックの特性の発動条件は、通常より厳しくなっています。
※セイバーやバーサーカーは、クラスカードを核にしていると推測しています。
※衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
※魔法少女やオルフェノクについて、ある程度の知識を得ました(が、先入観などで間違いや片寄りがあるかもしれません)

【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(中)、治療済み、肩から背中に掛けて切り傷
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:木場を元の優しい奴に戻したい
0:マミの事が少し心配
1:衛宮士郎に手を貸してやる
2:二人の元から離れたいが、仕方がないので協力する
3:衛宮士郎が少し気になる(啓太郎と重ねている)
4:暁美ほむらを探して、魔法少女について訊く
5:マミは探さない
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識?
※マントの男が金色のロボットの操縦者


098:空とポケモンと悪夢と囚われし姫君 投下順に読む 100:Juggernaut-黒き零の魔人達
097:アルミナ 時系列順に読む
095:それぞれの想い 乾巧 100:Juggernaut-黒き零の魔人達
衛宮士郎
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
バゼット・フラガ・マクレミッツ



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