空とポケモンと悪夢と囚われし姫君

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空とポケモンと悪夢と囚われし姫君 ◆Z9iNYeY9a2



真理は逃げるということは基本的に嫌いだった。
元々勝気な性格であることもあり、どんな相手を前にしても逃走という選択を取ったことはない。
とはいっても、例えばオルフェノクが相手であったり、あるいは銃器を持った人間であったりならば逃げるという選択は取る。
勇気と無謀は違うということは、それまでのオルフェノクとの戦いでイヤというほど思い知っている。
もし、真理が本当に逃げた時、それは彼女自身が敗北を認めてしまったときだろう。
だから、戦略的撤退は存在しても、決して恐怖心から逃げたり、相手に屈するようなことはなかった。

故に、真理はこの時ほど敗北感を、自分の無力感を感じたことはなかった。

それは、ナナリーを、桜を助けられなかったこと、そんな状況でルヴィアにナナリーを任せてしまった自分の無力感。
それらから逃げるかのように、ひたすら走った。
とにかく我武者羅に。

今はどこにいるだろうか。
ルヴィアさんは桜ちゃんとナナリーちゃんを連れて戻ってこられる場所だろうか?
きっと帰ってくると、信じても大丈夫なのだろうか?

背負ったタケシはまだ目を覚まさない。
どうやら気絶させることにおいては手加減をしてくれなかったらしい。

彼を背負い、自分達の後ろを行く青年、Nに注意を向ける。
その後ろにはタケシのグレッグルとかいうカエルの他にも、ピンク色でまん丸な体の生き物、黒いキツネ、尖った耳を持った黄色いネズミ、空を飛ぶ赤い竜がいた。
かなりの大所帯だ。しかしそれで不安が晴れるはずもない。
真理はまだこの青年について、あの黒い影から助けてもらったくらいの認識しかないのだ。
確かに助けてもらった恩はあるし、美遊ちゃんの姉であるルヴィアさんが連れてきた仲間であるのなら信用したい。
しかし、つい先ほどそれ以上には長く共にいたはずの少女の豹変を見た後となっては迂闊には信じられなかった。

「はぁ…はぁ…、もう大丈夫かな…?」
「………。リザードンは一応もう視界には見えないって言ってるね。
 少し休もう。彼らも疲れているみたいだ」

と、Nが示したのは彼の連れてきたポケモン達。
特にピンク色の丸い子は気分も悪そうだった。
タケシのポケモンであるらしく、あの時黒い影に飲み込まれていった人が連れてきていたらしき存在、ピンプク。
そう長くはないとはいえ、同行していた相手が目の前で消えていったのだ。さすがにいい気分であるはずがない。

「シュー、フシュール!」

と、Nの傍にいた黒いキツネが鳴き声のような音を鳴らした。
それはまるでNに話しかけるかのような行動にも見えた。

「ゾロアーク?…いや、さすがにそれは危険だ。もしものことがあったら、君だけじゃどうにもならない」
「シュルルルルルル!」
「…分かった。なら君の意思を尊重しよう。だけど、無理はせずに絶対に戻ってくるって約束してほしい」
「フシュル」

そう最後に頷き、ゾロアークは木の上に登り、獣の外見に違わぬ身のこなしで木々を伝って離れていった。
真理にはNとゾロアークの間に何があったのかは分からなかったが、それが何かしらの意志の疎通になっていたのだということはうっすらと分かった。

「ねえ、今の…、ゾロアーク、だっけ?何て言ってたの?」
「ここから今彼女がどこまで追ってきているかを見てくるって言っていたんだ。
 本当だったら行かせたくはなかったんだけど、…それを言ってしまうとゾロアークの意志を無理やり捻じ曲げることになってしまう…。クソッ…!」
「ピカ…」

そんな彼に話しかけるように声(?)をかける別のポケモン。
真理にはよく分からなかったが、NにはNの何かしらの想いがあることだけはうっすらと分かった。
それはまるで、タケシとグレッグルの間にあった絆のようなものだろうか。

「…う、こ、ここは…」
「あ、タケシ!目が覚めたの?!」
「ハッ、さ、サクラさんは?!」

と、意識を取り戻したと同時、飛び起きて桜のことを気にかけたタケシ。
真理はそんな彼に、あの後何が起きたのかをはっきりと伝えた。

「そんな、…どうして…!」
「ごめん、私も一緒に逃げようって言ったんだけど…」

金髪の少女がルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト――美遊・エーデルフェルトの姉であったこと。
彼らにとってそう長い付き合いのあった者ではないとはいえ、知った人物の家族をあのような場所においてきたという事実が、二人の胸を締め付けた。
しかし、他にどうしようもなかったのもまた事実。
ナナリーの安否もまた不明であった以上、誰かが残ることはきっと必要だったはずだ。

「せめて、俺が残っていれば―――」
「プ、プク~!」
「ピンプク?」

と、そう搾り出すように声を出したタケシに抱きついたのは、ピンプクだった。
小さな体を震わせて、まるで泣くかのような鳴き声をあげている。

「この子は、あなたと離れたくないって言っている。先のあの場所で、ここにきてずっと一緒にいた人に死なれたことが心に傷を負わせたのかもしれない」
「…君は、一体…?」
「僕はN。ポケモンのトモダチだ。
 はじめまして、カントー地方のニビジムのジムリーダー、タケシさん」



例え、その体を泥に染めようとも、マークネモが土壇場で追わせた傷は大きかった。
ルヴィアを殺害後、桜はその場に留まり体にさらに泥を馴染ませることで肉体のダメージを癒すことに専念していた。
黒い影が蠢くその空間で。
間桐桜は肉体の傷が、行動に支障がなくなる程度には回復するのを待ち続けた。

ゆっくりと、しかし確実に、それの侵食は進みつつあった。


(うふふふふふ、待っててくださいね、皆さん)





そして、その傍に。
一匹の獣が近づきつつもあることにも、少女は気付いていた。


「そうか、サトシとヒカリは…」
「ピカ…」
「そしてリザードン達は僕が保護した。
 もうあんな扱われ方をすることがないように」

Nから、これまでの顛末を彼が話せる限りで聞いた真理とタケシ。
それは真理から見ても、彼らポケモンがかなり辛い道を通ってきたことが分かる内容だった。
自分の飼い主を目の前で殺された挙句、その殺害者に服従させられていたことといい、友の、仲間の亡骸を2度見ることになったことといい。

彼らと共にした時間が長かったタケシはなおのこと、地面を殴り彼らの死を悔やんでいる。

「くそ、サトシ…、ヒカリ…!」
「ピカ…」
「お前たちは、もっと辛かったんだな…。すまない…、何もできなくて…」

涙を流すタケシを、言葉は分からずとも彼なりの動作で慰めるピカチュウ。
もう悲しみの涙は流した。だからこそいつまでも泣いているわけにはいかない。
そうピカチュウは自分なりに耐えていたのだ。
しかし。

「ピカチュウ…、辛いなら泣いてもいいんだぞ…?」
「………」

それでも長き時を共に過ごした仲間。ピカチュウには誤魔化しきれなかった。
仲間の死が悲しくないはずがない。もう泣いたのだから大丈夫、などという理屈が通用するはずがなかった。
ピカチュウの目に、幾度目かの涙が溜まりかける。
が。

「…ピカ」

ピカチュウは耐えた。
泣くことなら後でもできる。今泣くだけの涙はもう流した。
サトシの死を知り、その亡骸を目の当たりにしたときも。ヒカリの死を知り、またその亡骸を見たときも。
だからこそ、今は強く生きねばならないのだ。
いつまでも泣いていることを、きっとサトシは望まないから。

「彼、本当に強いね」
「ええ、俺が知っている最高のトレーナーの連れていたピカチュウですから」

そんなピカチュウを見て、Nはふと呟く。
タケシは言葉が通じずとも、ピカチュウの本当の気持ちを察し、それでもこのピカチュウは耐えた。
大切な人との別れを、そして悲しみを受け止めて今を生きている。
もし、これがポケモンとトレーナーがもたらす絆の強さなのだとしたら。

(本当に、ポケモンと人間を引き離すことは正しいのだろうか)


「ところでNさん、ヒカリの手持ちに、モンスターボールがあったかどうかは分かりませんか?」
「いや、彼女の支給品ならきっとあのサクラって人が持っていってたと思うけど、ポケモンはいなかったはずだ」
「そうですか…、いえ、俺のところにはグレッグルがいましたし、サトシのところにもリザードンがいて、Nさんのところにピカチュウがいたならもしかしてって思ったんですが…」
「心配だね…。彼女、どんなポケモンを連れていたの?」
「ポッチャマやヒノアラシ、マンムー達を連れていました」

この場においては、自分とピカチュウのようにトレーナーと離されて支給品に混ぜられるポケモンも存在しているのは確認済みだ。
それでもピンプクやピカチュウは運がよかったが、もしもサトシを殺した彼女やゾロアークを渡された者のような参加者の手にでも渡っていたら。
Nには考えるのも恐ろしかった。


「ところでNさん、ルヴィアさんも言っていましたけどヒカリを殺したのが桜さんだっていうのは、本当なんですか?」
「少なくとも状況から見ると、その可能性は高いみたいだね」
「そうですか…。真理さん、Nさん、俺、もう一回桜さんと話をしてきます。
 ルヴィアさんも、ナナリーちゃんも絶対に連れて戻りますから」
「ちょっとあんた何言ってるのよ!死にに行く気なの?!」
「少し話をしてくるだけです。大丈夫です。俺、人を見る目にはそこそこ自信ありますから。
 桜さんは悪い人じゃないって信じてます」

「それには賛同できないな。
 もしルヴィアさんが無事に戻ってくるなら、それはそれで問題ない。
 だけど戻ってこないなら、彼女の手にも余る相手だったってことだ。
 タケシさんには悪いけど、あなたにどうにかできるとは思えない」
「だからって!こうして何もしなかったら…!」

焦れているタケシの、仲間の死の真相が知りたい気持ちは真理にも分からなくはなかった。
しかし、それでも諦めなければならないことはあるのだ。

「タケシ、もっと慎重になろうよ…。ルヴィアさんもそんなことのために、私達に美遊ちゃんのことお願いしたんじゃないはずだしさ…。
 もっと、仲間を探せばきっと桜ちゃんもどうにかできるって」


相手に圧倒的な力の差があるのであれば、ただただ挑むのは死へと近づく道でしかない。
今は、それが逃げの選択肢であっても、耐えなければならないのだ。

オルフェノクに仲間が殺されゆく現実の中でも、ただ一人の男の生存を、帰還を信じ続けたあの時のように。
そうだ、ここには巧だって、ファイズだっているのだから。
今の真理にはそれが数少ない一つの希望だった。

と、その時であった。

ドサッ

かなりの距離が開いた場所から、何か毛の塊のようなものが飛んできた。

黒き毛玉は、所どころに赤い模様をつけ、今まだその赤い液体を滴らせて、謎の唸るような音を上げている。

「ゾロアーク!?」

もぞもぞと動くそれは、先ほど送りだしたあのゾロアークだった。
傷だらけの体は黒き体毛を所どころ赤く染め、起き上がったその肉体には四肢のうち左腕に相当する場所が欠損していた。

「ふふふふふふ。愚かなキツネさん。そのまま逃げていれば逃げられたかもしれないのに、わざわざ戻ってくるなんて」

そのゾロアークが飛ばされてきた先、間桐桜がいたであろう方向。
そこから聞こえてきたのは黒い気配とあの少女の声。

「傷が治るまでは待ってあげようかと思ったのに、こうして戻ってきてわざわざ命を減らすなんて。
 そんなに死にたいなら、思い通りにしてあげましょうか」

姿を見せた少女の姿に、真理とタケシは息を呑む。
ポケモンセンターで着替えたあのナース服はすでに千切れ、肌を晒すはずの隙間は黒い布がびっしりと覆っていた。
右腕は欠損しており、体からかろうじて見える隙間には、肌色ではなく赤い液体が滴っている。
紫に染まっていたあの髪も、半分ほどは白く脱色している。

その姿を見たとき、真理とタケシの嫌な予感は完全に現実なものとなってしまったことを知った。

「くっ、ゾロアーク…!だから無理はしてはいけないと…!」
「…………」

薄目を開いたゾロアークは、一声も発することなく苦しそうにNの顔を見た。

「Nさん!はやくモンスターボールを!」
「…っ」

タケシの言葉を受け、一瞬の迷いの後懐から取り出したモンスターボールに、ゾロアークを戻すN。
ピカチュウとグレッグル、リザードンが三人の前に立ち、桜を睨みつける。


「桜ちゃん…、ルヴィアさんとナナリーちゃんはどうしたの…?」
「どうしたって、二人とも食べちゃいました」

真理の問いかけを、事もなげに恐ろしい答えで返す桜。
そこにはあの時ポケモンセンターで見た少女の顔はなかった。
あるのはただ、狂気に満ちた、見る者を怖気させるような笑みのみ。

「サクラさん…!」
「残念です。あなた達はあの方たちのように悪い人じゃなかったのに殺さなければいけないんですから」
「………その悪い人の中には、ヒカリも入っているんですか?」
「ヒカリさん?誰ですかそれ?」
「この近くで殺された、帽子をかぶった女の子だ…」
「ああ、あの人ヒカリっていう名前だったんですね。別に話すようなこともありませんでしたから知らなかったです」

タケシは思わず身を強張らせる。
あの時、まるで重傷を負った一般人のように傷付いた体を引きずっていた女の子は。
ヒカリをまるで虫けらのように、名を、存在すら認識せずに殺していたのだ。

「何が、君をそこまで殺人に駆り立てるんだ?」

ふとNは問いかける。

「何だっていいじゃないですか。もう、今の私にはそれしかないんですから」
「タイガの、ことかい?」

藤村大河。
間桐桜を救おうと、一生懸命彼女に語りかけ、結果的になのかは分からないがそのせいで命を落としてしまった一人の人間。
Nの口からその名が出た瞬間、彼女の顔から薄気味悪い笑みが消失した。

「あれは、きっと君の意志ではないんだろう?
 彼女は君のことを必死で救おうとしていた。君はその想いを無為に帰すのか?」
「………」
「少なくとも、タイガは君にそんな風になって欲しくて君を救おうとしたんじゃない、と僕は思う」

共にいた時間はそう長くはなかったが、それでもあの人が救おうとした人がそんな風になるのは、大河は望まないはずだと。
Nは何となくそう思ったし、そう思いたかった。

「―――――――うるさい」
「サクラ、君は――――」
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!
 お前なんかに何が分かる!
 大体そんな声で私の名前を呼ぶな!」

しかし、彼の言葉も既に桜の心には届かない。
むしろ彼の声が桜にとある人物を連想させてしまったことが彼女を逆上させてしまった。

腰に巻いたベルトに手を翳す。

「もっと私は悪い子にならないといけないんですよ。だから。
 皆さん、死んでください」

「――変身」


ベルトについた小型の機器に、音声での入力を行い、腰の脇に差し込む。
黒い服の上に黒いスーツが覆い、白い線がΔの形を作る。

火花を散らすベルトを気にも留めずに、本来動きづらいであろう片腕で難なくデルタフォンを構える。
グレッグルが口から針を吐き出すのと、デルタフォンがレーザーを吐き出すのは同時だった。

そのままピカチュウとリザードンが、体勢を変える前にそれぞれ鋼と化した尻尾と翼をデルタへと叩きつける。
が、次の瞬間桜の姿が影の中に消える。

「ゲゲッ!」「右だ!」

Nとグレッグルの声に反応したリザードンとピカチュウが共に後ろに跳び下がった瞬間、2匹がいた場所に火花が散った。

「くっ…!」
「Nさん?!」

そんな、ポケモンに命のやりとりを任せっきりであることに焦れたNがピカチュウとリザードンの前に飛び出した。

「もう止めろ!こんなことをして僕たちを殺して、一体君に何が残るんだ!?」

ポケモントレーナー同士でのポケモンバトルであれば、Nはそれを認めるまでにかなりの時間を要したとはいえ何かそれで得るものがあることを知っていた。 
だが、これはただの命の奪い合いでしかない。
なぜそんなことをしなければならないのか。こんな戦いに何の意味があるというのか。

―――こんなものが、藤村大河という人間が守ろうとしたものの結末なのか?


桜はそんなNの問いかけに答えることなく、その赤き眼をNに向け、静かにデルタムーバーの引き金を引いた。

真理は、それが何なのかは推定レベルでしか分からなかった。
だが、引き金を引く瞬間、デルタのスーツに這った白いフォトンブラッドが光ったように見えていた。
もしそれがファイズやカイザと同じ型のものであるというのであれば、そこから射出されたのは、必殺の光。

「なっ…!タケシ?!」

と、紫色に輝く三角錐のポインターがNを縫い付ける瞬間、タケシがNの体を引き寄せ、後ろに投げたのだ。
その行動が何をもたらしたか。
Nの体をポインターの射線上から離すことには成功した。
しかし、代わりにその場に縫い付けられたのは。


「タケシさん!」
「グ、グレッグルとピンプクを…、お願いします……!」

Nを引き寄せた体勢のまま、体を動かすこともできずその場に縛られたタケシ。
すでにデルタは飛び上がっている。

もし、バッグに入っていたカイザギアを使っていれば、これを食らっても耐えられたのだろうか。
ああでもどっちにしてもそれで死んだんだろうな。
などと意味のない仮定を想定してしまうのはもう既に生を諦めてしまったことを表しているのだろうか。

グレッグルが、ピカチュウが、リザードンがこっちに走ってくるのが見える。が、きっと間に合わないだろう。
すまないな、お前達。サトシやヒカリがいなくなった矢先に。
せめて、真理さんやNさん達と逃げられるようにしてくれ―――


「プクプクーーーーー!!!!」


と、最後にタケシの視界に映ったのは。
小さな体を宙に飛び上がらせ、デルタのキックの射線上に割り込む一匹の小さな体だった。


「ピカーーーー!!」「ゲゲッ?!」
「タケシーーーー!!!」

拘束されたタケシにルシファーズハンマーを命中させる様子を見ていることしかできなかった皆。
だが、その中で唯一そこに間に合った一つの存在があった。
タケシの傍にいて、なおかつ最も体勢を整えることに時間が掛からなかった一匹のポケモン。

ピンプクはその小さな体を、ポインタとタケシの間の僅かな隙間の割り込ませたのだ。
そして同時に、何かしらの技を発動させたのかピンプクの肉体が一瞬光るのが見えた。

そして次の瞬間。
ポインタの示した場所に、デルタのとび蹴りが衝突。
膨大な破壊力を、衝撃を持った一撃が、タケシの体を吹き飛ばした。

着地するデルタ、一瞬の静寂。

「ピカピィーーーーー!」
「ダメだピカチュウ!今近寄っては!」

タケシの元に駆け寄ろうとするピカチュウを、Nが静止する。
今あそこにはデルタがいる。タケシの元に駆け寄ることは非常に危険なのだ。

タケシはピクリとも動かない。
視線を一瞬タケシに向け、そのままこちらに体を向けるデルタ。

が、彼女が一歩踏み出したところで体が膝から崩れ落ちた。

「…何、ですか…、これは…?」

膝をついて屈みこむ桜。
体を起こそうとするも、うまくはいかない。


その謎の様子を見届け、咄嗟にタケシの元に駆け寄る真理。
桜は真理を追撃しようとするも、体をうまく動かせないのか立ち上がることができず、その手に取ったデルタムーバーも手から落としてしまう。

タケシに近寄り、その心肺、脈を確かめる真理。

「…!大丈夫、まだ脈はあるわ!」


ピンプクが先ほど割り込んだ際に放ったもの。
それは彼女が覚えていた、数少ない技の一つ、ひみつのちから。
至近距離から放たれたその技、そしてピンプクの体は、ルシファーズハンマーの威力を即死レベルからどうにか軽減することに成功し、さらに間桐桜の体を麻痺状態に追いやっていたのだ。

しかし、その代償。

タケシの生を確認したNが次に目を向けた先にあったのは、真っ赤に染まり真っ二つに割れた、タマゴのような形の小さな石。それを拾い上げた。
ピンク色の小さな肉体はもうどこにもない。
身動き一つとらないタケシの体には、一見すれば致死レベルはあろうかという血が付いている。これだけの出血を起こせば、人間であれば生きているはずはないだろう。
もしその血痕全てが、彼を守ろうとしたあの子のものであるとするなら。

「僕は、トモダチを助けられなかったのか……」


一方、緩慢な動きながらどうにかデルタムーバーを拾い上げた桜が、タケシに注目している彼らに銃口を向ける。

「チュウウウウウウウウ!!」

しかし、それに気付いたピカチュウが、至近距離からの電撃をデルタに対して浴びせる。
その一撃に再度デルタムーバーを取り落とす桜。
と、その時デルタギアから火花が散り、変身が解除されギアが吹き飛ばされた。

「―――、どうして…!」

先のマークネモとの戦闘で、デルタギアそのものが大きなダメージを負っていた。
その状態で、高圧の電気を繰り返し流された結果、デルタギアが限界を迎えたのだ。

素早く、弾き飛ばされたデルタギアを拾い上げるグレッグル。

「急ごう!タケシさんはまだ息はあるけど、かなり危険な状態だ!」

身動きが取れず、デルタギアも失った間桐桜だが、その危険性は変わらない。
さっきのような暴走を目の当たりにしていればなおさらだ。
真理としても気がかりではあったが、今はタケシのことが優先だ。

リザードンが、多少は無理をしてでも三人と数匹の体を乗せようとその背を差し出す。
各々がリザードンに掴まり、そのまま飛翔しようと翼を広げたとき。

そのすぐ傍を鋭い何かが通り過ぎた。

ピンと張ったワイヤーのような何か。その先には鋭い大型のナイフが付いている。
その元を辿る振り返ったとき、そこには黒き巨人が立っていた。

「嘘…、ナナリーちゃん…?」
「間に合って、くれましたね…。じゃあお願いしようかしら。
 そこの皆を殺して、あのベルトを取り返して」

先に見たあの体は全身に赤い筋が走り、威圧感を備えた生物的なデザインであった体とあわせて異常なまでの禍々しさを備えている。
それはいつであったか、タケシと共にいたときに見たあの巨人のようでもあった。

その頭部から生えたワイヤー、その先の刃が一斉にこちらを向き、そのまま射出。
ピカチュウに、リザードンに、グレッグルに、Nに、タケシに、そして真理に。
巨大な刃が一斉に迫った。

その瞬間だった。

ドドドドドドドドドドドドド

マークネモの立っていた周囲の地面が、大爆発を起こす。
ワイヤーは吹き飛び、刃はあらぬ方向に飛んでいった。

「…!誰ですか?!」

状況が飲み込めず困惑する桜の元に、今度は大口径の銃弾が放たれる。
反応できない桜に対し、その元に向かって銃弾を弾くマークネモ。

銃弾が放たれたであろう先の方向を見ると、そこにはマークネモには劣りこそすれ、二足歩行で直立した巨大な何かが立っていた。
そしていつの間に近づいたのか、集まった皆の傍には金髪で学生服らしき制服を着た一人の少女がいた。


「大丈夫かしら?」
「君は、誰だ?」
「話は後。こいつは私達が引き受けるわ」

名を名乗ることもせずに巨人を見つめる少女。
その近くに先の巨大な機械が降り立つ。
真理はそれが何なのかを知っていた。しかしそこに乗っているのは紫の瞳の戦士ではなく、金髪の少女と同じくらいの年頃であろう黒髪の少女。

逃がすものか、と言わんばかりに震える手で取り出したコルトを撃ち出す。
が、それは機械―――サイドバッシャーに乗っていたはずの少女により弾かれた。

「ポチャ!?」
「ピカ?!」

サイドバッシャー上に残された一匹の小さなペンギンが、リザードンの背に乗った存在に気付いて鳴き声をあげる。
が、その背に乗った、ピクリとも動かぬ男に気付いて鳴き声を失った。

数メートルはあろうという高度を飛び上がった黒髪の少女が、その脇に乗ったペンギンに声をかける。

「どうやら彼女にやられたみたいね。どうする?このまま追っていっても気にしないし、ここに残ってあの人の仇を取るのも構わないわ」
「ポチャ…、ポチャ!!」

その鳴き声は強く、逃げようという感情が混じったものでなさそうだということには、少女も察しがついた。
リザードンの背に乗ったピカチュウにほんの少し目配せをし、何も言うこともなく飛び立つその姿を見送った。


「で、アリス。あれは何なの?ゼロが呼び出したあの巨大なロボットに通じるものがあるような気がするんだけど」
「そうね。私も驚いているわ。どうしてこいつがここにいるのか」

ほむらは、アリスに対して問いかけるが特に分かったことはなかった。
唯一分かったのは、この巨人がアリスの世界に存在するものであるということだけ。

「だけど、私が知ってるこいつはここまで禍々しい姿をしていなかったわ」
「だとすると、そのヒントはあいつね」

そう言ってほむらが視線を向けた先にいるのは、憤怒と憎悪の表情を浮かべた、斑に白い髪をした黒い女。

「よくも邪魔を…。許さない、許さない…、許さない…!!」
「まずはあの女をどうにかしないとね。ポッチャマ、手伝ってくれるかしら?」
「ポチャ!」

仲間を傷つけられた義憤に駆られているのか、怒りの瞳を向けるポッチャマ。

「こいつはかなり手ごわいわ。地力ならゼロ単体にも匹敵するかもしれない」
「そう、なら逆に言えばこいつを止められないならゼロを殺すのも無理ってことね」
「こいつは私が倒す。この場で絶対に!」

身動きを取れない桜の前、巨人が一斉に頭部のナイフを射出し。
同時にほむらのサイドバッシャーの腕部から多数の銃弾が発射された。


【C-5/森林/一日目 昼】

【間桐桜@Fate/stay night】
[状態]:黒化(大)、『デモンズスレート』の影響による凶暴化状態、溜めこんだ悪意の噴出、喪失感と歓喜、強い饑餓 、怒り
    ダメージ(頭部に集中、手当済み)(右腕損失、胸部に大きな切り傷、回復中)、魔力消耗(大)、ジョーイさんの制服(ボロボロ)、麻痺状態
[装備]:コルト ポリスポジティブ(6/6)@DEATH NOTE(漫画)、黒い魔力のドレス
[道具]:基本支給品×2、呪術式探知機(バッテリー残量5割以上)、自分の右腕
[思考・状況]
基本:“悪い人”になる
0:いずれ先輩に会いたい
1:“悪い人”になるため他の参加者を殺す
2:先輩(衛宮士郎)に会ったら“悪い人”として先輩に殺される
3:空腹を満たしたい
4:目の前の二人(暁美ほむら、アリス)を殺す
[備考]
※『デモンズスレート』の影響で、精神の平衡を失っています
※学園に居た人間と出来事は既に頭の隅に追いやられています。平静な時に顔を見れば思い出すかも?
※ルヴィアの名前を把握してません
※アンリマユと同調し、黒化が進行しました。魔力が補充されていくごとにさらに黒化も進行していくでしょう。
※精神の根幹は一旦安定したため、泥が漏れ出すことはしばらくはありません。黒い影も自在に出すことはできないと思われます。
※デルタギアがどの程度不調なのかは後の書き手にお任せします
 もう変身できないかもしれませんし、変身しても何かしらの変化があるかもしれません。また、時間経過で問題なく使用可能かもしれません。

【ナナリー・ランペルージ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:健康(精神)|黒化、自我希薄(肉体、ネモ)、マークネモ召喚中
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
1:???

【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:ソウルジェムの濁り(少)
[服装]:魔法少女服
[装備]:盾(砂時計の砂残量:中)、グロック19(15発)@現実、(盾内に収納)、ニューナンブM60@DEATH NOTE(盾内に収納)、サイドバッシャー(サイドカー半壊、魔力で補強)@仮面ライダー555
[道具]:共通支給品一式、双眼鏡、黒猫@???、あなぬけのヒモ×2@ポケットモンスター(ゲーム)、ドライアイス(残り50%)
[思考・状況]
基本:アカギに関する情報収集とその力を奪う手段の模索、見つからなければ優勝狙いに。
1:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
2:協力者が得られるなら一人でも多く得たい。ただし、自身が「信用できない」と判断した者は除く
3:ポッチャマを警戒(?)。ミュウツーは保留。ただし利用できるなら利用する
4:サカキ、バーサーカー(仮)は警戒。
5:あるならグリーフシードを探しておきたい
6:目の前の巨人と女を取り押さえ、情報を引き出す。
最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。
[備考]
※参戦時期は第9話・杏子死亡後、ラストに自宅でキュゥべえと会話する前
※『時間停止』で止められる時間は最長でも5秒程度までに制限されています
※ソウルジェムはギアスユーザーのギアスにも反応します
※サイドバッシャーの破損部は魔力によって補強されましたが、物理的には壊れています

【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】
[状態]:疲労(小)、ダメージ(小)、ドーピングによる知覚能力・反応速度の向上
[服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット
[装備]:グロック19(9+1発)@現実、あなぬけのヒモ@ポケットモンスター(ゲーム)、
    ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:共通支給品一式、 C.C.細胞抑制剤中和剤(2回分)@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー
[思考・状況]
基本:脱出手段と仲間を捜す。余裕があればこの世界のナナリーも捜索。
1:目の前のナイトメア(マークネモ)を倒す。
2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先)
3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい
4:余裕があったらナナリーを探す。
5:ほむらの隠し事が気になるが重要なことでなければ追求はしない
6:ポッチャマを気にかけている
7:ミュウツーはとりあえず信用する
8:サカキを警戒
9:黒猫に嫌な不安を感じる
最終目的:『儀式』から脱出し、『自身の世界(時間軸)』へ帰る。そして、『自身の世界』のナナリーを守る
[備考]
※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前
※『ザ・スピード』の一度の効果持続時間は最長でも10秒前後に制限されています。また、連続して使用すると体力を消耗します
※ヨクアタールの効果がいつまで持続するかはお任せします


「タケシ…。大丈夫なの…?」
「まだ大丈夫のはずだ。急いで病院へ連れて行こう」

リザードンはその背に多くの人を乗せて飛び立っていた。
本来であれば限界を超えた重量となっているはずだが、それでもリザードン自身の意思でこうやって無理をしてでも飛翔していたのだ。
少しでも急いでタケシを助けたい、という思いからグレッグル、そして本来ならボールに収まることを嫌うピカチュウもモンスターボールに戻っている。

「あの二人の子…、大丈夫かな…?」
「少なくとも僕の知っている人ではないね。でも今はタケシさんを救うことに集中しよう」

中学生くらいの二人の女の子。
そんな人物は、真理も知らない。
しかし、どこの誰なのか分からぬ子であっても残してきた以上、心配であることに変わりはなかった。

ナナリーちゃんもそれで、あんな風になってしまったのかもしれないという罪悪感もあったのだから。

「ナナリーちゃん……、あれ?」

ちょっと待て。
中学生くらいの女の子―――ナナリーちゃんも中学生だと言っていた。
ナナリーちゃんは、確かその身に纏った服装は学校の制服だと言っていたような気がする―――あの子も同じ服を着ていなかったか?
そして、この場には自分の友達が呼ばれている、とも。

綺麗な、長い髪をした子だと。
だとすれば、あの場に残してきた女の子の一人は、もしかして。

「ナナリーちゃんの友達の…アリスちゃん…?」

だが、今更それに気付いてももう戻ることなどできない。
今できるのは、タケシの治療のために病院に急ぐことだけ。

あの場でどうして気付かなかったのか。どうして伝えられなかったのか。
強い後悔が真理を苛むも、もう後の祭りでしかなかった。


アリスは知らない。
目の前に立つ巨人、マークネモこそが親友のナナリー・ランペルージであるという事実を。
黒き女の胎で、未だその意識を残して囚われているという事実を。

その事実を知らず、ただ巨人を敵と認識したまま、戦い続ける。


【D-5北部/空中/一日目 昼】

【園田真理@仮面ライダー555 パラダイス・ロスト】
[状態]:疲労(中)、身体の数カ所に掠り傷 、強い後悔
[装備]:Jの光線銃(2/5)@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:基本支給品一式、支給品0~2(確認済み)、ファイズアクセル@仮面ライダー555、スマートバックル(失敗作)@仮面ライダー555、デルタギア@仮面ライダー555(戦闘のダメージにより不調)
[思考・状況]
基本:巧とファイズギアを探す
1:ここから離れ、タケシを治療する
2:病院に向かう
3:南にいる美遊、海堂と合流?
4:巧以外のオルフェノクと出会った時は……どうしよう?
5:名簿に載っていた『草加雅人』が気になる
6:イリヤと出会えたら美遊のことを伝える
7:並行世界?
[備考]
※参戦時期は巧がファイズブラスターフォームに変身する直前
※タケシと美遊、サファイアに『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えましたが、誰がオルフェノクかまでは教えていません
 しかし機を見て話すつもりです   
※美遊とサファイア、ネモ経由のナナリーから並行世界の情報を手に入れました。どこまで理解したかはお任せします

【タケシ@ポケットモンスター(アニメ)】
[状態]:疲労(中)、背中や脇腹に軽い打撲、身体の数カ所に掠り傷、胸部に強いダメージ(重傷)、意識不明
[装備]:グレッグルのモンスターボール@ポケットモンスター(アニメ)
[道具]:カイザギア@仮面ライダー555、プロテクター@ポケットモンスター(ゲーム)
[思考・状況]
基本:意識無し
1:???
[備考]
※参戦時期はDP編のいずれか。ピンプクがラッキーに進化する前
※真理から『パラダイス・ロスト』の世界とカイザギア、オルフェノクについての簡単な説明を受けました
※真理から『乾巧』、『長田結花』、『海堂直也』、『菊池啓太郎』、『木場勇治』の名前を教えてもらいましたが、誰がオルフェノクかまでは教えてもらっていません
※美遊とサファイア、ネモ経由のナナリーから並行世界の情報を手に入れました。どこまで理解したかはお任せします

【N@ポケットモンスター(ゲーム)】
[状態]:疲労(小)
[装備]:サトシのピカチュウ(体力:満タン、精神不安定?)@ポケットモンスター(アニメ)、サトシのリザードン(疲労(小)、悲しみ)@ポケットモンスター(アニメ)、ゾロアーク(体力:ダメージ(大)、片腕欠損、真理とタケシを警戒)@ポケットモンスター(ゲーム)、傷薬×6、いい傷薬×2、すごい傷薬×1
[道具]:基本支給品×2、カイザポインター@仮面ライダー555、変身一発@仮面ライダー555(パラダイスロスト)、割れたピンプクの石、不明支給品0~1(未確認)
[思考・状況]
基本:アカギに捕らわれてるポケモンを救い出し、トモダチになる
1:タケシを救う
2:タイガの言葉が気になる
3:世界の秘密を解くための仲間を集める
4:タイガ…、ルヴィア…
[備考]
※桜とマオとスザク以外の学園に居たメンバーの事を大体把握しました(あくまで本人目線)
※並行世界の認識をしたが、他の世界の話は知らない。


※ピンプクは死亡しました


097:アルミナ 投下順に読む 099:かつてセイギノミカタを目指した者の夢
096:美国織莉子、私の全て 時系列順に読む 101:Code Alice-God Speed Love
084:悪意と悪夢―聖杯と魔女 間桐桜 101:Code Alice-God Speed Love
ナナリー・ランペルージ
園田真理 114:魔人病棟
タケシ
N
093:蛇の道は蛇 暁美ほむら 101:Code Alice-God Speed Love
アリス


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