I was the bone of my sword

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I was the bone of my sword ◆Z9iNYeY9a2



―――――体は剣で出来ていた



「それで、いつになったら僕を楽しませてくれるのかな?」
「………」

北崎の退屈の理由は何となく察しはついている。
彼の望みは自分が最強であるということを示したいという、子供のような自己顕示欲を満たせる戦いをすること。

確かに彼のその望みを自分が満たせているとは思っていない。
バーサーカーとの戦いにしても、彼自身が倒したとはいっても草加雅人の協力があってこそだったし、それにあの直後で復活してしまって倒しきれたともいえない。
それからしばらくは、北崎が休息に入っていたこともあり、北崎の望みを叶えられているとは言えなかった。

まあ、あそこで自分がいなければあるいは草加雅人と鹿目まどかが危機に陥っていた可能性もあるのだが。

ただ、北崎を満たすことができているわけではないというのが彼の退屈の理由ならば少し急がなければならなかった。
あわよくば、彼を殺し合いに乗った者と戦わせ、同時に協力してくれるであろう者を探し、北崎を打倒する。

北崎を倒すことはあくまで通過点、その先にあるものも見据えた上で動かなければならないのだから。
できることなら、力になってくれ得る者と戦わせたくはない。

「分かってるの?さっきのメロって子も敢えて見逃してあげたんだよ?
 君のお気に入りの子らしいからね、もしかしたら君を助けるためにもっと凄いやつを連れてきてくれるかもしれないし」
「彼は私を助けるために戻ってくることはないでしょう。あくまで彼自身のために戦いを続けると、そういう人だと思いますから」

ロロを痛めつけた時とその時の心境の違い、それは彼の興味を引いたかどうかだろう。
あの彼の持っていた瞬間移動のような能力、それに気を引かれた北崎が遊んだだけ。
一方でメロは、身体能力的にも一般人だった。捕えられたら銃で応戦するしかないような、そんな存在に興味を持つ確率は低い。
それが救いといえば救いだったのかもしれない。

「でもさぁ、流石にそろそろもうちょっと自由に動いてみたいなぁってそう思ってきたんだよね」
「それは、どういう意味でしょうか」
「言葉通りの意味だよ。当然君には君で期待してるけど、僕は僕でもう少し色々やりたいからね。
 例えばさ、ここに近づいてくる人達に遊んでみる、とかさ。先に行ってるからすぐに追いついておいでよ」

そう呟いて、北崎はLの額にデコピンを放つ。
ただのデコピンでしかなかったが、予想以上の衝撃を額に受けたLは後ろに仰け反り倒れこんでしまった。

額を押さえながら起き上がったL。
しかしその視界に北崎の姿はない。

あくまでも想定内の、しかし決して喜ばしくない事態に焦りながらもLは北崎を探して、激しい運動に慣れていない体に鞭打って走り始めた。


涙を流しながら士郎の体にギュッとしがみ付いたイリヤ。
士郎の背が涙で濡れるがそんなことを今気にする者はその場には誰一人としていなかった。

「イリヤ、どうしたんだ?」
「分かんない…、分かんないけど、何かすごく悲しくて…」

士郎と巧は困惑して、イリヤ自身もわけが分からないといった状態。
ただ一人、いや、一本。ルビーだけがその理由に想像をつけていた。

(まさか、クロさん…)

さっきすぐに追いつくといっていたクロの合流が妙に遅い。
士郎曰く、青い髪の少女と戦っていたらしく、士郎の目からはクロであれば大丈夫だろうという根拠のはっきりしない、よく分からない保障をされていた。

むしろそういう意味では危険なのはバゼットだろう。相手はあの魔王と最強の英霊。執行者という人間視点であれば上位に入るような者でもどうにかできる相手ではないはずだから。
ではもし、そこでバゼットが敗れ、他の皆が彼らの追撃を受けたのだとしたら。

何かきっかけがあると、事態が事態なだけに思考がどうしてもマイナスな方に行ってしまう。
いや、ある意味ではそれ自体は正しいものなのだろう。最悪の事態を想定しておけば、もしもの時に大きな動揺をせずに済むのだから。
それに、その想定が正しいのかどうかはすぐに分かること。

時刻は、もうしばらく待てばあの定時放送が始まる時間。

もしその放送で心を乱されているようなことがあった際、落ち着けることができる場所が必要となる。
ただでさえ皆傷だらけの状態、そのままの状態でもし殺人者に襲われればそれこそ一網打尽となってしまう。

幸いにして移動する時間くらいは残っているようだ。早く落ち着ける場所へとたどり着いて放送へと備えなければならない。

『士郎さん、ここから病院か、あるいは間桐邸が近いです。今はどちらかに向かうべきだと思いますが、どうしますか?』
「間桐邸…、桜達の家か…。休むならそっちの方が落ち着けるだろうけど、病院ならイリヤの治療ができるな…」
『しかし同じ考えで行動する人がいないとも限りません。むしろそれを逆手にとって殺し合いに乗った者が来てしまう危険性もあります』

ルビーとしてはイリヤの治療自体は急務ではないと考えている。
こうしている今も、ルビーはイリヤを転身させた状態で治癒を続けているのだ。
病院に向かう必要があるとすればむしろ士郎と巧の方だ。

とはいっても、この二人が自分の体に対しての気の使わなさはつくづく見ている。
ここは少し無理やりにでも連れて行くべきかもしれない、とルビーは思考した。

「…お兄ちゃん、病院に行こう」
「イリヤ?」
「お兄ちゃんの体、怪我だらけで痛そう…。私よりお兄ちゃんの怪我を見て」
「俺も同感だ。お前自身だと大丈夫だって言ってるけど、かなりガタが来てるようにしか見えねえぞ」
「巧には言われたくないな。てゆうかそっちの方が重症に見えるぞ」

ともあれ、病院に向かえばいいということはここにいる皆の共通認識となったようだ。
バゼット達もあの戦いではさすがに大きなダメージを負っているはずだ。そうなれば自然と病院に立ち寄るだろう。合流も難しくはないはずだ。

無論、彼女たちが生きていれば、の話だが。

『では士郎さん、急ぎましょう。できれば放送までには到着しておきたいところです』
「?何で放送までに…?まあ、分かった」
「待て」

と、進もうとした士郎を巧は引き止めた。

『誰か近づいてきますね』
「………お前ら、逃げろ」

ルビーが近くに来ている何者かの存在をキャッチし。
それより早く近寄る存在に気づいていた巧は、険しい顔をして士郎達に逃走を促す。

「へえ、久しぶりじゃん。乾巧クン」

若干薄ら笑いを浮かべた、だらしない格好の少年がこちらへと近づいてきていた。

「お前、北崎…」
「そう構えないでよ、君と僕は今は別に戦うような仲じゃないでしょ?同じラッキークローバーなんだからさ」
「…俺はお前らの仲間に入った覚えはねえよ」
「そうなの?へえ~。まあ村上くんなら怒るんだろうけど、僕にとってはどっちでもいいかな?
 あ、でもさ。ってことは今ここで君と戦ったりしても何の問題もないんだよね?」

北崎はそう言いながら笑みを深め。
その顔に灰色の紋様が走ったところで、その姿は巨大な角を携えた龍のような魔人へと姿を変えた。

「こいつも、オルフェノクか…?」

その灰色の体、そして節々に構成されている要素には巧のオルフェノク態との共通点が見られる。
しかし、その身から感じるのは怖気の走るような真っ黒な邪気。
士郎はそれだけで、この目の前の存在が話の通用する者ではないということを察した。

まるで処刑人のようにゆっくりと歩み寄る北崎――ドラゴンオルフェノク。
あえてゆっくりと歩いてくるところが返って不気味だった。

「士郎、逃げろ!」

そう一言叫ぶと同時、巧もウルフオルフェノクへと姿を変えてドラゴンオルフェノクへ向かって走った。

全力でその体に拳を叩きつけるもドラゴンオルフェノクは動じることもなく、逆に返しの手甲の振り上げで吹き飛ばされる。
衝撃で地面に転がりこむ巧。

「巧!」
「君はまあ、面白くはあるんだけど戦ったことあるからある程度はどれくらい力あるか分かるんだよね。
 じゃあ、そっちの君ならどうかな?」

そう言ってドラゴンオルフェノクは、その手に青い炎を作り出し、士郎の元へと投げつけた。

「!」

反応の遅れた士郎、そして周囲を覆う熱と爆発音。

しかしそれが士郎達に届くことはなかった。

爆風の通り過ぎたところで目を開くと、目の前で巧が士郎達を庇うように立っていた。
その体を包んでいるのは灰色の肉体、しかし先ほどとは違う点が随所に見られる。
全身に生えた刃は巨大化し、申し訳程度に生えていた白い体毛はその背中一面を覆っている。
更にその人間離れした脚部はこれまで以上にオオカミのそれに近づいた形を形成し。
その顔はまるで怒りを表すかのように吊り上がった面へと変化している。

「早く行け。こいつ相手だとお前を守りながらじゃ戦えねえ」
「――――っ」

体のダメージはまだ大きいだろうに、そう逃げるように促す巧。

士郎とてあるいは戦うこともできただろう。
巧と共に目の前の魔人を倒すという選択肢も存在しただろう。

しかし、今その背には未だ動けないイリヤがいる。

「分かった、先に行く。
 だけど約束だ。絶対に追い付いてきてくれ」

2秒ほどの迷いの後、士郎は決断し走りだした。

その間も、巧は振り返ることもなく、目の前の敵を睨み続けていた。

「へえ、力入ってんじゃん。昔戦ったときはすぐに終わっちゃったからね。
 だけど今の君なら楽しめるのかな?」
「…?昔戦った?何のことだ」
「教えてほしい?僕に勝ったら教えてあげるよ」

そのまま離れた場所から青い炎を投げつける北崎。
それを回避した巧は、後ろで上がる炎には目もくれずに北崎に向かって拳を振りかざして走った。


イリヤの心中には、ふつふつと罪悪感が湧きつつあった。
もし自分がこんな体でなければ、士郎にそんな負担をかけるようなこともなかったのに。

『イリヤさん、あなたが何を考えているのかの想像はつきます。しかし今は体を治すことに専念してください』
「………」

ルビーの言葉にもイリヤは何も答えない。
ただ、やりきれない思いだけが、その心の中に溜まっていくのを感じていた。

実際、今の自分に戦いができるのかといえば、おそらくはできないだろう。
あの時のバーサーカーから受けたダメージは、魔法少女でなければおそらくはミンチになっていただろうほどのもの。
制限下では完治まで数時間はかかるだろうというのがルビーの見立てだった。

それだけではない。
あの時のバーサーカー。
極大の魔力砲を食らい、体を焼かれながらも攻撃に耐えきりこちらへと攻撃を放ってきたその気迫。
それにイリヤは恐怖していた。

呉キリカから受けた恐怖が理解できない狂気からくるものであるなら。
バーサーカーから感じたそれは、圧倒的な力、超えることができないといえるほどの強大な力に対する恐怖だった。

おかしいと思った。
バーサーカーとはかつて一度戦ったことがあった。
あの時はここまで怯えることはなかったはずなのに。

美遊や凛、ルヴィアと共に戦ったクラスカードの英霊と何が違うのか。

(…………。違う、違うのはバーサーカーじゃない)

確かにバーサーカーの力は強大だった。
クラスカードによる現象と本物の英霊の力の違いもまた大きなものだ。
だが、違うのはそこではない。

怖いのは、そういった者達によって大切なものを失うこと。
共に戦う仲間が、死んでいくこと。
死なないと思っていた凛の名が放送で呼ばれてしまったように。
クロが、バゼットが、ルヴィアが、藤村先生が、乾巧が、――そしてお兄ちゃんが。

イリヤの中には、士郎と共に戦うなどという選択肢はない。
むしろ士郎は守らなければいけないものなのだから。
そして今は、バゼットも巧も近くにいない。自分は戦うことができない。

今のイリヤは、士郎と共にいながらどこまでも一人ぼっちだった。


カシャン


カシャン


カシャン


そんな、イリヤの耳に届いた金属音。
まるで甲冑を着込んだ騎士が、その身の鎧から音を打ち鳴らしながら歩いているかのようなそれに、イリヤは聞き覚えがあった。

かつてイリヤ達を追い詰めた最強の敵であり。
そしてまたこの場においても、イリヤを狙って襲いかかったその足音の主。

「また会いましたね。士郎」
「……セイバー…!」

黒き騎士王、セイバー。
それが、士郎の見据える先にいた。


ドラゴンオルフェノクに対してその拳を、その手の刃を幾度となく打ち付けてきた。
それに反応するかのように、北崎も近づくたびにその手甲を振りかざしている。

今の巧、ウルフオルフェノク激情態の戦闘能力は普段のそれよりも大きく強化されている。
その拳は打ち付けるたびにドラゴンオルフェノクの硬い装甲に少しずつヒビを入れ。
巨大な足から繰り出さえる蹴りもまた装甲の内側に大きな衝撃を与えて北崎に少しずつだがダメージを加えている。

その素早い動きは北崎の攻撃では捉えるのが難しい。
しかし逆に北崎のその一撃が当たれば今の巧は動けなくなるだろう。幾度となく行われた強大な敵との戦いのダメージ、それが大きなハンデともなっていた。
だからこそ、一撃も受けることなく北崎を倒さなければならないのだから。

なぎ払うように振るわれた手甲の爪を体を逸らして避け、その胴体に拳を突き入れる。
体が揺らいで、一歩後ろに下がる北崎。
そのまま追撃を加えようとしたところでカウンターのように突き出された爪を、今度は腰を落として回避。
ドラゴンオルフェノクの腰にしがみつくような形で、巧は北崎に取り付く。

「ずいぶん必死になっちゃってさぁ。そんなにさっき逃げた人間が大事なの?」
「ああ、大事だよ!」

振り払おうとする北崎に対し、巧はその反動を利用して後ろに下がり、逆に北崎の体を蹴りつつ飛び上がる。

「俺はあいつの夢を守るって言ったからな!」

そのまま落下の勢いにまかせてその頭に蹴りを叩き込む。
さしものドラゴンオルフェノクも、頭部への強い衝撃に体をふらつかせる。

地面に着地したウルフオルフェノクは、そのまま片足を地面についた状態で回し蹴りを放つ。
さらに間髪いれず空中からの振り下ろし。
幾度となく、ドラゴンオルフェノクの体に連撃を加えていく。

「だから、お前のようなやつらを、あいつに近寄らせはしねえ!あいつの、士郎の笑顔は、夢は、俺が守ってやる!」

幾度となく振り下ろされる蹴りの速さは北崎をもってしてもその手甲で防ぐのが精一杯。
反撃する暇すらも与えられず、受け止め続ける北崎。

10に届いただろうかという数の蹴りを受け止めたところで、北崎の手甲が砕け散る。

「うおおおおおおお!!」

そのまま北崎の体に飛び膝蹴りを打ち込み、体を数メートル後ろに吹き飛ばし。
さらにそこから追撃をかけようと拳を振りかざしたところで。


「調子に乗るなよ」

子供のようにゆったりしていたはずの声がいきなり低くドスの利いた口調へと変化し。

拳をその胸に叩きつけると同時、ドラゴンオルフェノクを覆っていた硬い外骨格が砕け散った。
これまでに比べてあまりにあっけない手応えに違和感を感じた巧は、次の瞬間傍を高速で通り過ぎた何かにその体を吹き飛ばされる。

「!」

動揺しつつも何かが通りすがった先に視線を移した巧。しかし、

「どこを見てるの?こっちだよ」

その声は背後から届く。
反応して思わず振り向いた巧。

その瞬間、一秒足らずという時間に10発の拳が巧に襲いかかった。
反応することすらできず、まるでかつて自分が使ったファイズのアクセルフォームのごとき速度で繰り出された攻撃をまともに受けてしまう。

よろめいた先でさらに追撃をかけるドラゴンオルフェノク・龍人態。
裏拳を叩きつけ、大きく振りかぶってなぎ払い、雷を纏った正拳を打ち付ける。

それらの動作が、巧視点では一瞬の出来事。
いくらウルフオルフェノク激情態であっても反応しきることはできない。

そのまま膝蹴りが胴体を捉え宙に打ち上げられ。
数メートルほど巧の体が浮き上がったところで、雷を纏った北崎の足が思い切り振り下ろされ。
地面に叩きつけられたところで、まるでそのタイミングを狙っていたかのように北崎の手から作り出された巨大な青い炎が巧の体に投げつけられた。

「ぐ!ああああああああああああああああああ!!」

青い炎が爆発し、巧の体を包み込む。
巧の絶叫と共に、広い浜辺のまっさらな砂地に青い火柱が上がる。

手応えとその絶叫から攻撃の命中を確認した北崎。
その巧の様子が見える位置まで近寄る。

「あーあ、もう終わりかぁ」

そこに倒れ伏していたのは、人間の肉体に戻った乾巧。
息はあるようだが意識はなく、これ以上の戦闘続行は無理そうだった。

「この前の時よりはまあ楽しめたけど、やっぱり僕の方が強いんだよね。
 そうだなぁ。じゃあせっかくだし、君の守るって言ってた彼らを追いかけてみようかな。じゃあね」

そう言って巧に背を向けて去る北崎。
彼の興味はもはや巧にはなく、むしろここから逃げていった二人に向いてしまっていた。

それから数分くらいの時間。
動く者もなく静寂に包まれた空間。
ピクリとも動かずクレーターのように抉れた地面の中心に伏した巧の元に。

「大丈夫ですか?」

静かに駆け寄る男が一人。

「…あ、いて…」

そんな声に反応するかのように、小さく痛みを訴えながら意識を取り戻す巧。
薄く目を開いたところにいたのは、猫背で姿勢の悪い、見るからに不健康そうな男。

「北崎さんはどちらに向かったか、分かりませんか?」
「…あ、あんたは…?」
「私はLです、殺し合いには乗っていません。
 北崎さんを抑えておくことができなかったのは私の責任です、早く彼に追いつかなければいけません」
「あいつなら…、士郎達を追って、たぶん向こうだ…」

と、巧はLにその方向を指さす。

「ありがとうございます。あなたはここで休んでいてください。私が何としても彼を止めますので」
「おい…、待て…!」

巧に背を向けてその方向に走ろうとしたLを呼び止める。
声を出すのも辛そうなほどにダメージを受けているようだが、その痛みに耐えて絞りだすかのような声だった。

「俺も、連れて行け…!」
「…あなたはしばらく休むべきです。北崎さんのことは私がなんとかします」
「知るか…、早く行かねえと、士郎が…!」

よろめきながらも立ち上がろうとする巧。
きっと、彼は自分が連れて行かなかったとしても北崎を追うのだろうと、Lの目にはそういう男に見えた。

足元もおぼつかない巧に、慣れないことではあるがLは肩を貸す。

「もし何かあっても私はあなたを守れません。私にできるのはあなたを連れて行くだけですよ」
「構わねえよ…」

重傷を負った怪我人ではあるが、意志がある以上自分ひとりよりはマシだろう。

さっきよりも随分と移動速度も落ちてしまったが、一歩ずつ、巧を担いだLは北崎を追って歩き出した。



士郎の目の前に立っているのは、深夜に出会い、戦ったセイバー。
その体中には細かなキズ、汚れこそあるが、連戦続きでボロボロのこちらと比べてもコンディションの差は歴然だった。

何故かセイバーの後ろには自分と同じくらいの歳であろう少女の姿が見える。
その挙動不審な様子から見て、彼女に無理やり従わされているのではないのかとも思わなくもないが、セイバーと比べれば敵意は感じないのが救いだろうか。


「夜の別れ際に言いましたね、次に会うことがあれば、イリヤスフィールを貰い受ける、と」
「………」

一方でセイバーの敵意は本物だった。
たとえ自分であっても情け容赦などしてくれないだろう。

加えて、今背負っているのは動けないイリヤ。
そのイリヤも、セイバーのその様子に恐れるように震えている。

『士郎さん、逃げましょう』

ルビーははっきりとそう言った。
今の士郎が戦っても、セイバーに勝ちうる可能性がどれほどあるかと言われれば恐ろしく低いだろうと。

それは士郎自身はっきりと自覚していることだ。

しかし。


震えるイリヤが、士郎の背で服の裾をぎゅっと掴む。
回復のために転身しているイリヤのその握力は士郎の服を握りつぶさんばかりのもので、だからこそ彼女の恐れが士郎にも伝わってくるようだった。

「ルビー、今のイリヤは一人で逃げることはできるか?」
『激しい動きはできませんが、空を飛んで逃げるのであれば何とか。しかし回復に回した魔力を使うことになるためイリヤさんの怪我の完治が遅れます』
「今は仕方ない…。イリヤ、俺がお前を下ろしたらとにかく逃げろ。俺が時間を稼ぐ」

セイバーの歩みはそう速いわけではない。といっても、もしここで背を向ければ彼女の発する黒い霧が飛ぶ斬撃となってこちらに襲いかかるだろう。
だから、イリヤを逃がすなら今しかない。

しかし、イリヤは動かない。

「イリヤ?」
「ダメ…、行かないで」

その背にしがみついたイリヤは、士郎の言葉を受けてもそこから離れようとしなかった。

「大丈夫だ、頃合いを見てすぐ俺も追いつくから」
『イリヤさん、ここは離れましょう。というか私達が一緒にいては士郎さんも逃げることができません』
「嫌…、離れたくない…」
「……イリヤ、これ以上ワガママを言うようだと、お前のこと嫌いになっちゃうぞ」

士郎としてもそんなことは言いたくはなかったが、ここは心を鬼にしてでも逃さなければならない。
するとその言葉が予想外に効いたようで、イリヤは握っていた士郎の服を手放した。

「ルビー、頼んだぞ。俺もすぐに追いつくから」
『了解しました、あと士郎さん、くれぐれもその腕は使われないように』

と、イリヤはルビーの先導の元で低速ながらも空を飛んで移動していった。

背後からイリヤの気配が感じなくなった辺りで、張り詰めていた気を少しだけ緩めてセイバーへと向かい合う。

「…待っていてくれたんだな」
「彼女を捕らえたければあなたを倒してイリヤスフィールを単独で追った方が都合がいいですから。
 二人同時に相手をすればさっきのようなことになりかねませんし」

セイバーの手の魔剣がキラリと煌く。
片手で無造作に構えられた剣は、しかしいつでも振りかざせるような体勢だ。

「ユカ、ここで近づく者がいないかどうか見張っていろ」
「は、はい」

傍にいた少女にそう命じるセイバー。

そして士郎もまた、剣を構える。
手にしたのは陰陽の双剣、干将・莫耶。

目の前にいるのは、最優のサーヴァント。今は宝具を持ってはいないがその技量に衰えはないだろう。
鍛錬であっても彼女に一本も取ることができなかった自分でどこまで食いつくことができるか。

いや、それは違う。
食いつくことができるか、ではない。食いつかなければいけないのだ。
もし自分が負けるようなことがあれば、イリヤに被害が及ぶのだから。


重厚な鎧の音を立てながらこちらへと走り来るセイバーに向かって。
士郎は双剣を構えて迎え撃った――――



浮遊する体は、空を飛ぶ心地よさとは裏腹に最悪の気分とコンディションだった。
というか、移動するたびにこれまでは感じることがなかった魔力消耗による気分の悪さが体を蝕む。
体の内側の痛みは収まってはいないのにこの状態が続くというのが最悪な気持ちだった。

『イリヤさん、もう少しの辛抱です。大丈夫、士郎さんも追い付いてきてくれますって』
「………」
『ほら、昔言ったじゃないですか。魔法少女は笑顔が武器ですって。
 イリヤさんにはそんな暗い顔は似合いません、もっと明るく笑顔になりましょうよ!』

キラキラという効果音を立てながらイリヤに元気を出してもらおうと、ルビーは魔力の小さな光を撒く。
が、しかし、イリヤの表情は晴れることはない。

「ねえ、ルビー」
『何ですかイリヤさん?』
「もしあそこで、私がバーサーカーとちゃんと戦ってたら、こんなことにならずにすんだのかな?」

バーサーカーの一撃を受けたあの瞬間。
もしもあの一撃に慢心せずにちゃんと対応していたら。こんな状況にはならなかったのではないのか。

クロとバゼットを残し、巧を置いていき、そして士郎をも一人戦わせて自分一人逃げ残り。

「こんなふうに、皆の足手まといにならなくてすんだのかな…?」
『それは結果論でしかありません。そもそもバーサーカーがあの砲撃を受けきったのだって私にも想定できませんでしたし』
「………」
『まあ、今回は運がよろしくなかっただけですよ。そう悪いことなんて、ずっと続きはしませんってきっと―――』





「へえ、君空飛べるんだ。気持ちいい?」

ふとそんな声が、空を飛んでいるはずのイリヤの耳にはっきり聞こえたその瞬間。

数メートル上空を移動していたイリヤの視界が衝撃と共に反転した。




双剣の振り下ろしを、防ぐ必要もないと言わんばかりに躱され。
相手の素早い一閃がこちらをとらえた。

どうにか受け止めたものの、その衝撃は両腕に伝わって、その手を痺れさせる。

だがそれに動きを鈍らせている暇はない。

返すその剣が狙うのは、こちらの首筋。

「っ―――!」

本来であれば避けられないと思っただろうその一撃を、しかし士郎はどうにか防ぎきった。

逸れた剣は顔の皮一枚を切り裂くに留まり、そのままセイバーは一気に後ろに後退。体勢を立て直す。


「ぁ…はぁ、はぁ…」

互いの剣の軌道から離れたところで、士郎は息を切らせる。



そもそも、勝てる戦いではなかったのだ。
ここで最初に会った時は、セイバーの今持っているグラムの補助を受けていて。
なおかつそれごと吹き飛ばされそうになった時にイリヤが攻撃を防いで。
その隙を突いてどうにか一撃を入れることができたのだ。

一対一の戦いではどうにかなるような技量の差ではない。
たとえそれが時間稼ぎであっても。

「無駄なことを。あなたが稼いだ時間程度で、私がイリヤスフィールを見逃すと思うのですか?」


だが、それでも。
諦めるわけにはいかない。


イリヤをセイバーに渡すわけにはいかないのだから。


「何故そのような体で、勝てない戦いにこうも挑むのですか?」
「そんなもの…、決まってるだろ…。イリヤを守るためだ…!」
「イリヤスフィールを守る、ですか。ですが士郎、あなたとて気づいているはずだ。
 あのイリヤスフィールはあなたの知る彼女ではないことに」
「………」

ああ、そうだ。確かにあのイリヤは俺の知っている彼女とは全く違う存在だ。
そんなことにはとっくに気づいている。

「それが、どうしたって言うんだよ」
「あなたの守らなければならない者は他にいるはずだ。
 凛亡き今、彼女を、間桐桜を救えるのはあなただけだ。
 そんな、どこの誰ともしれない者のためにあなたは命を投げ出すつもりか?」
「それ――――は―――」
「今一度だけ問います。そこを退きなさい、士郎。
 そうすれば今はあなたを見逃してあげます」

セイバーはそう告げると、構えていた剣を下ろす。

おそらくは見逃す、というのは本当だろう。
これがもし騙し討ちをするための策であるのだとしたら彼女らしくない。
いや、そもそも彼女はそんな卑怯な策など使わずとも自分を一瞬で斬り伏せることもできるだろう。

だから、ここで通せば自分は生き残れる。
桜のためには、それが最善だと。



「――――――断る」

だというのにその申し立てを、俺はきっぱりと撥ねつけていた。

「そうですか。そういえば元よりあなたには他者より己を優先するという考えはありませんでしたね」

今の言葉が最後の、セイバーなりの情けだったのだろう。
グラムを構えるその姿には、もはや鋭い殺気しか残っていない。

「ではシロウ、覚悟を」

こちらも干将莫耶を構え、次なるセイバーの手に備えた。
たとえ打ち勝つことはできなくても、受け止め、退くことくらいはできるはずだから。


と、その時だった。


「楽しそうだね、君たち。僕も混ぜてよ」

そんな言葉と共に現れたのは、一人の少年。

セイバーはこちらの後ろにいる少年を見据え、大きく目を見開いていた。
そのただならぬ様子に、不用意ではあったが思わず振り向き。

「――――――っ!」

10メートルほど離れた場所にいる少年。
それはさっき巧が相手をしていたはずのあのオルフェノクの少年。
巧と戦ったというはずなのにその体はピンピンしているようで。


そしてその少年の手には。
左手には、首を掴まれたままじっと動かないイリヤがいて。
右手にはジタバタとその手から逃れようと動くルビーが握られていた。


巧はどうしたのか、とか。イリヤが何故そこにいるのか、とか。
色々と問い詰めなければならないことがあったはずなのに。
それら全てが、その光景を見ただけで吹き飛んだ。


「ユカ!」
「え、あ、はい!」

一方セイバーの反応もまた早かった。
後ろの少女の名を呼びかけると、混乱しつつも少女はその少年に突撃をかける。
走りながらその姿は鳥をイメージする白い姿へと変化。
彼女もまたオルフェノクであったということを知るが、それに意識を裂くことはできなかった。

おそらくあの呼びかけはイリヤを取り返せという意味だったのだろう。
それを知ってか知らずか結花は北崎に挑みかかるも、鎧袖一触、変身すらしていない北崎の蹴りを受けて弾き飛ばされる。

「まあ、そんなに熱くならないでよ。この子とはちょっと遊ばせてもらっただけで、まだ生きてるからさ」

と、そう言って無造作にイリヤを掲げる北崎。
よく見ると意識を失っているわけではなさそうで、しかし体の激痛と北崎に対する恐怖で息を乱すことしかできない様子だ。



頭が沸騰しそうになった。
何も考えられなくなりそうなほど、その光景に怒りを覚えている自分がいた。


「貴様、イリヤスフィールに何をした」
「ああ、この子?珍しいからちょっとちょっかい出してみたんだけど、全然面白くなくってさ。
 せっかくだからこっちに来た方が面白そうかなって連れてきてみたんだ。こっちの変な道具はちょっとうるさかったけどさ」
『ぐぬぬ、離せー!!』

と、じたばたもがくルビーを意に介すこともなく、北崎は話す。

「それで来てみたら、何か楽しそうなことしてるみたいだし。
 まあ邪魔するのも悪いし続けてよ。それで勝った方が僕と戦うんだ。
 見た感じ二人ともこの女の子が大事って風だし、それで勝ったやつがこの子を好きにできるって、そういうのでどう?」
「―――――てめぇ…!」

ふざけるな、とか。今すぐその手をイリヤから離せ、とか。
そんな言葉も出てこないほどに、今の自分は怒りの感情に支配されていた。

「ほら、続けて続けて。二人同時にってのもいいんだけど、ちょっと面倒だし今は観客になるのもいいかなって思ったからさ」
「………」

カシャ、と。

セイバーは剣を構え直す。
焦りこそ微かに感じるが、その剣に迷いはない。

イリヤを確保するための、一つの障害にすぎない、と。
そう見方を変えたのだろう。
急がねば、イリヤの命が危ないのだから。

だが、こちらもおいそれと命をくれてやるわけにはいかない。
彼女を守らなければいけないという想いは同じ、いや、セイバー以上に強いのだから。

もしこの場で問題があるのだとすれば。
イリヤが捕らえられたことで、退路を失ったということ。


一閃を全力で受け止める。
返す刃でセイバーの脇へと剣を振りぬき。
しかし届かない。

いくら剣を振るったところで、最優とも言うべきセイバーの技能と、化け物じみた直感を越えて攻め立てることはできない。
それは、他でもない俺自身が一番よく知っているはずだ。


しかし、退路を絶たれた以上、今はセイバーを倒すために剣をふるうしかない――――!


『12:00、定刻通り死亡者、並びに禁止領域の発表を始めよう』

何か声が響く。
だが無視。
今そんなことに気を取られている暇はない。

己の感覚の全てを、セイバーに対しての攻撃に集中させる。
まだだ。まだ感覚を研ぎ澄ませろ。
一瞬でもいい。動きの中にセイバーを倒せるだけの隙を見つけろ。


『死亡者はナナリー・ランペルージ、ロロ・ヴィ・ブリタニア――――』

旋風を越え、暴風のように矢継ぎ早に繰り出される剣撃を受け止める。

ああ、そうだ。今は戦うことだけを考えろ。
今だけは、桜のことも、イリヤのことも頭から離して戦わなければ、彼女には勝てない。

『―――ア、藤村大河、クロエ・フォン・アインツベルン、ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト、バゼット・フラガ・マクレミッツ―――――』

今だけは、この時だけはこの体だけではない。
心も刃として戦わなければ、セイバーに届かせることはできない。

手にした干将莫耶が幾度にもなる打ち合いで悲鳴を上げている。
だがもう少しだ。もう少しだけでいい。持ってくれ。

それで、彼女に一撃を入れることができれば―――――――――――













―――――――藤村大河。


「えっ」

そんな名が呼ばれた気がした。
戦いのみに心を委ねていたはずの自分の中に、そんなあまりに馴染みの深い名が呼ばれて。

何故その名がここで出てきたのだろうと思考して。
その意味を理解した瞬間。

セイバーとの戦いの最中という、一時も手を抜くことなどできないというこの状況の中で。

思考が完全に漂白した。


―――――――――ザシュッ


イリヤは、その光景から目を離せないでいた。

今しがた放送で呼ばれた名前。

クロ、ルヴィアさん、バゼット、藤村先生。
多すぎる、知った者達の名が呼ばれたことに衝撃を受けているイリヤの目の前で。

いきなり消滅したかのようにその手に込めた力がふわっと抜けたように見えた士郎が。
セイバーの一閃を受けて地に伏したのだから。

「え…」

舞い散る赤い何かを目にし、虚ろだった意識が一気に覚醒する。

何かの間違いではないか、もしかしたら夢なのではないかと心のどこかで否定しているのに。
その目の前で起きていることは、紛れも無く、あまりにも現実で。

「…嘘」

セイバーが士郎から視線を外してこちらを向くことも気にならない。
そのまま倒れて動かない士郎から、視線を離すことができない。

「嘘…でしょ…」

いくら頭の中で否定しても、現実は全く変わらない。
そのまま倒れたままでいると、本当に動くことが無くなってしまいそうな予感があって。

イリヤは、思わず声を張り上げて叫んでいた。

「――――お兄ちゃん!!!!!」





「…クソッ」
「………」

一歩ずつ、ゆっくりと移動を続ける巧とL。
そんな彼らの元に放送が聞こえてきたのはつい今のこと。

Lは呼ばれた名の中に、夜神月やメロや夜神総一郎、草加雅人や鹿目まどかといった知った名がいないことにひとまず胸を撫で下ろし。
それとは対照的に、巧は悔しそうに顔を歪めていた。


佐倉杏子。
ほんの短い間だったがゼロと戦うために共闘した、気に食わなかったけど悲しい瞳をした魔法少女。

バゼット・フラガ・マクレミッツ。
バーサーカーとゼロから逃げる際、殿を務めた女。

クロエ・フォン・アインツベルン。
確かイリヤの姉妹で、自分に矢を仕掛けた少女の名だったと思う。士郎を助けるために一人あのバゼットの戦う場所近くに残っていた子だ。

呉キリカ。
あの時自分たちに襲いかかってきた黒い魔法少女。重傷を負っていたため長生きはできないだろうと思っていたが、実際に名前を呼ばれることとなった。


他にも幾つか人づてで聞き覚えのある名が聞こえた気がしたが、今はそれらに思考を裂くことはできなかった。

「辛い気持ちは分かります。しかし今は私達は立ち止まっているわけにはいかないのです」
「誰が…立ち止まってるってんだよ」

ゆっくりとだが一歩ずつ、北崎の去っていったであろう方向、士郎達も逃げただろう場所へと足を進めていく二人。

追いつくことができるかと言われたら、正直厳しいと言わざるを得ないほどにゆっくりとした歩みだ。
焦る気持ちとは裏腹に、蓄積したダメージで満足に動かない体に苛立ちを覚える。

そんな時だった。


―――――――――お兄ちゃん!!!!!

周囲に響いたのは大きな叫び声。
その声の主を、巧は知っている。

そして、その声はそう遠くない場所から響いている。


「何かあったようですね。急ぎましょう」
「ぐ、おい、俺から一旦離れろ」

巧はそう言って、Lを密着した自分から引き離した。

よろめき、膝をつきながらも一人で起き上がった巧は、気合を入れるかのように吠えた。

その瞬間、体を灰色の肉体が包み、人ならざる姿へと変化させる。

その変化に若干驚いていたLに向かって巧が声をかける。

「掴まれ」
「巧さん、体の方は大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫だ」

そうは言ったが、実際のところこうして変身しているだけでも意識が消し飛びそうな状態だ。
それでも変身できたのは、痛みに耐える精神力、そして仲間への想いがあってのものだろう。

Lはその全身に刃の生えた体の中で、それが少ない場所を掴み。
そのまま狼の脚力を持って走りだした。

生身で車にでも縛り付けられたかのような速さにしがみつくのが精一杯のL。
しかし巧はまた、肉体の疲労とダメージで想像以上の速度が出ないことに焦れていた。


風に髪をボサボサにされつつも、しがみついて移動すること数十秒。
たどり着くことができた目的の場所。
体が限界を迎えた巧は、人間の姿に戻って倒れこみ。


「へえ、追い付いてきたんだ。まさかL、君も一緒なんてね。
 今おもしろいものやってるからちょっと見てみなよ」
「北崎さん…!」

それでも意識を保ったまま、前を見た巧の目に映ったもの。
北崎に抑えられたイリヤとルビー。

こちらを見据えた黒い騎士。

そして。


「士郎!!!!」


肩から胴にかけて袈裟懸けに斬られた士郎が、血を流しながらも立ち上がろうとしている姿だった。




不思議と痛みはなかった。
それでも斬られたのだと気付いた時、俺はもう死んでしまったのだと感じた。

なのに、耳に聞こえてくるのはこちらから離れていくセイバーの足音。
それが知覚できるということは、まだ生きているということだろう。
あの挙動はセイバーにとっても予想外だったようで、それ故に剣筋がはっきりとしたものではなかったのが救いだったのかもしれない。


だというのに。
痛みを感じなかったのが不思議だった。

いや、一番不思議なのは、彼女の名が放送で呼ばれたことに対して、ここまで驚いていることだ。


藤村大河。

例えばの話、名が呼ばれたのがイリヤスフィールでも、間桐桜であったとしても、こうはならなかっただろう。
ここまで、傷の痛みすらも感じないほどに、彼女の死に動揺している自分がいた。

つまるところ、自分は藤村大河という存在が死ぬことを、完全に想定していなかったのだ。
彼女が殺しても死なない、のではない。
彼女が死ぬはずがない、という固定概念を、自分の中に持っていたのだ。

それほどに、藤村大河の存在は日常になくてはならないもので。
衛宮士郎という存在を支えていたものだったのだから。

そして、その衛宮士郎という存在を支えていた柱が無くなったと、そう認識してしまった今。
正義の味方、桜の味方という以前に。

衛宮士郎として、立ち上がることができなくなっていた。



そして、立ち上がることもしないこんな自分をしばらく見据えたセイバーは、そのままこちらから視線を外し。
イリヤを、そして彼女を捕まえ離さない北崎の方に向いた。

ああ、その判断は正解だろう。
きっと、衛宮士郎という男はここで死ぬ。
斬られた傷は深く、気を抜けば意識を落としてしまいそうになっている。

そして、ここで意識を落とせばもう二度と起き上がることはないだろう。

そのまま、漂白した状態から回復することもなく、士郎の意識は闇へと沈んでいくのを感じ。
何もない、深い無の中へ――――――――――――――




―――――――――お兄ちゃん!!!!!



沈むはずだったのに。
そんな、イリヤの叫び声を聞いて、意識が浮かび上がるのを感じた。

(―――――――っ)

それと同時に、自分の痛覚が痛みを訴えているのを感じ取り。
まだ生きている、という認識を覚まさせた。

ああ、そうだ。
俺には、まだやらなければいけないことがある。

もう、この命は俺一人のものではないのだ。
例え”衛宮士郎”としての支えがなくなったとしても。

今俺が背負っているのは、自分の理想だけではない。

今の俺には、衛宮士郎として守らなければいけないものがある。

桜が、そして、イリヤが。

だから。

「――――――ぉ」

体を無理やり起こす。
血が流れるのを気にもとめず、立ち上がる。


こんなところで。

「――――――――おおおおおおぉぉぉぉぉ!」

くたばってなど、いられないのだから。



「別に君が戦うっていうんなら構わないけどさ、まだ後ろの彼やる気のようだよ?」
「何?」
「何か面白いものが見られそうな予感があるから、戻ってきなよ。今だけは待ってあげるからさ」

そう言ってニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを眺め続ける北崎。


思わず振り返り。
そこで士郎が起き上がっていたことに、最も驚いたのはセイバーだった。

あの一撃は、即死ではなくとも致命傷に間違いのないものだったのだから。

そして、振り返ったセイバーの目に映ったのは。
傷口から血を流しながらも、立ち上がろうとしている衛宮士郎の姿。

肉体は満身創痍のはずなのに、その目の戦意は衰えるどころか先よりも増している。


「士郎、今のあなたの傷は命に関わるものだ。しかしおとなしくしているのであれば、早急の手当で延命はできる可能性はある。
 それなのに、まだあなたは起き上がるのですか、?
 まだ、私と戦おうというのですか?」
「―――――ああ、そうだ」
「イリヤスフィールを守るために?」
「ああ」
「…何があなたを、そうさせるのですか?」

セイバーには分からなかった。
今の衛宮士郎を、何がそこまで奮い立たせるのか。

彼には、あのイリヤを守る理由はないはずなのに。
何故そこまで傷ついてまで、守ろうとするのか。


「――――昔、世界の皆が幸せになってほしいって、そんな願いを持って戦った男がいた。
 そいつは、自分の大切なものを全部切り捨てて、それでも一人でも多くの人が幸せになれるように戦ってた、らしい。
 たくさんの人を救うために、少しの犠牲を切り捨てる、そんな、…正義の味方になろうとした男が」

それは、小さな少女と一人の男への追想。
まるでそれが自分のことのように。
遠い過去を思い出すかのように。
静かに語る。

「そのために、その男は自分の最も守りたかったものを、守ることができなくて。
 今でもその子は、その男のことを恨んでる。自分を捨てた、と。
 要するに、自分の信じた道を往くために、自分の大切なものを選ぶことができなかったんだ、その男は」

前を向く士郎。
その先にはセイバーがいる。しかし見ているのはさらにその先。
今にも泣き出しそうな顔をした、銀髪の少女。

「だけど、俺思ったことあるんだよ。もしそんな親と子が、幸せに暮らしてる世界があったら。
 蟠りも何もなく、親は親として子供を愛して、その子供も親の愛情を受けて幸せに暮らしていけたら、それはどんなに幸福なことなのか、って」
「…………それは、キリツグとイリヤスフィールのことか?」
「ああ」

息子なのだから。父親の幸せを願うのは当然だろう、と。
そう言って、士郎は続ける。

「桜の笑顔も、俺が守らなきゃいけない。だけどイリヤも守る。
 桜の味方としての俺、衛宮切嗣の息子としての俺、どちらかを取ることなんてできない。
 ―――それなら俺は、両方を選ぶ。二人とも、死なせはしない」

だから、その理由さえあれば。エミヤシロウはまだ戦うことができる。
立ち上がることが、できる。


「………あなたの覚悟は分かりました。
 これで本当に最後です。この戦いが終われば、共に立っている、ということは有り得ないでしょう」
「ああ」
「もしあなたの持っている、2つの”聖杯”を得る、という望みが本気であるのなら。
 ―――――私の屍を越えて進むがいい」



士郎は思考する。
この体はあとどれくらい動けるか。
セイバーに打ち勝つには、何が必要か。

可能性はもはや絶望的なもの。
だが、そこにほんの僅かだが、光を見いだせるものがある。

「―――お兄ちゃん…っ!ダメ…!」
『士郎さん!いけません!』
「止めろ!士郎!」

そんな士郎を止めようとする声が3つ。
彼の耳に届く。

イリヤ、ルビー、そして巧。

(無事だったん、だな。巧)

あの北崎が追い付いてきた時、巧がどうなったのか、気がかりではあった。
無論、肉体的には無事ではないだろう。しかし、まだ生きて自分の身を案じてくれている。

それが嬉しくて、同時に申し訳無さもあった。



ここから先は、もう彼らのことを考えることなどできないだろう。
だから、最後に彼らに会えて、良かった。


そんな感謝の気持ちを心の中で述べ、セイバーをまっすぐ見据えた士郎は。

肩に手をかけ。

―――――――赤き聖骸布を、一気に剥ぎ取った。



これは2度目だった。

己の中で世界が崩壊するのは。

生命の存在を許さないだろうこの突風のような流れ。

ボロボロの肉体が、まるで高質量の液体の激流に揉まれていくかのような衝撃。

一度目は無意識であった。だからこそ、流されてしまった。

だが、今は。

耐える。この肉体を、精神を破壊するようなこの激流に。

前に進む。一歩ずつ。

今度は、耐えなければならない。


そうだ、例え他の誰に負けることがあっても、自分にだけは負けられない。
だから、決して屈しはしない。

無理にでも前に出ようと進み。
しかしその度に体をすり減らされ押し返され。
それでも、諦めることなく前進を続ける中で。

ふと、赤い外套が見えた気がして。

その瞬間、思考が完全にクリアになった。


俺では立っていられないような突風の中で。
ただ一人、じっと立ち続けるその男は。

こちらに目をくれることもなく。
こう問いかけてきたのだから。


――――――――ついてこれるか?

静かに脳裏に響くその声に。
思わず叫び返していた。

「――――――――――――――――――――――ついてこれるか、じゃねえ」
「てめえの方こそ、ついてきやがれ――――――!!」


地を踏みしめる。
風はもう途絶えた。


騎士王、アルトリア・ペンドラゴン。
今は黒きイングランドの王との距離は数メートル。

思考し、分析する。

今必要なものは何か。

今彼女の手にあるのは魔剣グラム。
アーサー・ペンドラゴンの宝具、約束された勝利の剣ではない。

しかしその技量は健在。

弓による攻撃は不可。隙があまりに大きすぎる。

今必要なものは、彼女の剣とまともに打ち合うことのできる剣。

いや、彼女に”隙”を作りうる攻撃。

構えるは、干将莫耶。
まだ投影する必要はない。
この宝具は、双剣は、まだ戦う力を残しているのだから。

こちらの武装を確認したセイバーもまた、片手に構えた剣を両手に持ち直す。
そのままの体勢で、ほんの数秒ほど時間も世界も止まったかのような静寂に包まれる。

ほんの数秒だった静止した時、しかしそれが永遠に近い時にも感じられた。


そして。


「「―――――――!」」


駆け出すのはほぼ同時だった。


―――――!

激しい金属音を奏でながら全力で叩きつけられる魔剣。

正面から受け止めるにはあまりに大きすぎる一閃。
それを、この腕は防いでいた。

腕、正確にはこのアーチャーの持っていた記憶が、経験が受け継いだ中に存在したセイバーが。
それが俺の知るセイバーの技量と合わさり、彼女の攻撃のクセをかろうじて掴んだのだ。

しかし、そんなもの初撃の数度を受け止めることができれば幸いという程度のもの。
いくら相手の技量を知っていようと、その程度で対応できるならば彼女は剣の英霊などと呼ばれてはいない。



だからこそ、次の一手を思考する。
せめて一撃を入れる、決定的な隙さえ作れればいいのだから。

グラムを払い、軋みを上げる干将莫耶。
それを、セイバーの目の前で、投擲した。

不意打ち、というにはあまりにも雑なそれを、セイバーは難なく回避。
手に武器のなくなった俺に向かって容赦なく剣を振るい。


――――――ガキィン


その一撃を、俺は咄嗟に肩に未だ持ち続けていたバッグで防ぐ。
バッグの中身が散乱する中、グラムを受け止めたのはその中から姿を現した一本の黄金の西洋剣。


「―――!私の剣…!」


勝利すべき黄金の剣(カリバーン)。
かつてアーサー王が持っていたとされる、選定の剣。


何という皮肉だろうか。
かつてアーサー王が所持していた選定の剣を自分が振るい。
今セイバーが持っているのは、自身にとって天敵となる竜殺しの特性を備えた、そのカリバーンの原点でもある最強の魔剣。
本来であればこの戦いで互いに持つべきは逆であるべきだろうというはずの2本の剣が、こうして主を違えてぶつかり合っているのは。


だがしかし。例えカリバーンであっても、相手はその原典である魔剣。
加えて干将莫耶によって受けていた、僅かながらもステータスアップの効果も今はない。

だからこそ、セイバーの一閃を正面から受け止めきることなど、不可能。

だが逆に言えば。
この咄嗟に近い一撃だけは、受け止めることができる。

そしてそれだけの時間があれば十分。

「――――――!!」


セイバーはそれで俺の狙いに気付いたのか。
引くこともなく、思い切り剣を振るい、こちらを吹き飛ばす。

後退する体、隙だらけのその体勢に、セイバーは追い打ちをかけることもなく。

―――――!!


そのまま背後から迫った2本の剣を弾き飛ばす。
それは今しがた俺の投擲した、干将莫耶。

弧を描く軌道に放たれたそれは、互いを引き合う性質によって引き寄せられ、セイバーの立っていた場所へと旋回し舞い戻ったのだ。

だが、セイバーの直感もまた化け物。

剣の投擲とカリバーンで受け止めたという事実だけで、こちらの狙いに気付いたのだから。

弾き返された干将莫耶は砕け散り、精錬された双剣はただの鉄クズへと成り果てる。

しかし、それもまた予想範囲内。
この程度のこと、彼女ならば難なく対処してくれる。

振り返ったセイバーは、後退した士郎へと更なる追撃を駆けるために跳ぶ。

アーチャーの腕を持った自分が、距離を空ければ何をするか。分からないわけがないのだから。

だからこそ。
ここで弓を穿ちはしない。そんな暇は、今はない。


「投影――――開始(トレース、オン)」


使う魔力は最小限、かつ弓を射ずとも離れた相手に攻撃できる武器。
元より剣に特化した体。剣でなければ魔力の消費は上がる。
その中でも射ることなく瞬時に射出可能な、魔力消耗の少ない剣。


そう、俺は知っている。
相手の切り札に反応して因果を逆転させる、飛翔する魔剣の存在を。

それは、衛宮士郎が本来の歴史では決して会うことのなかった執行者の持つ、神代の魔剣。
その存在をこの目で見た。


そして、それを使う持ち主、バゼット・フラガ・マクレミッツの姿も、脳裏に焼き付いている。
ならば作れる。それが剣であるのならば。
使用法、効果、形、それら全てを模して、つくり上げることができる。

パキン

その瞬間、何かが割れるような感覚が脳内に走った。

しかし、問題はない。
戦うことに、支障はない。壊れた箇所は、腕が補強する。

後より出て先に断つ者(アンサラー)の軌道詠唱。不要。
作り出しさえすれば、後は放つだけだ。

投影すると同時に浮遊した短剣に拳をつがえ。

「――――斬り抉る戦神の剣(フラガラック)!」

手が焼ける感覚と共にその名を開放、閃光となって飛翔する一本の短剣。

それは相手の切り札に反応して、相手を穿つ光線を放つ迎撃宝具。
エクスカリバーを持たぬ彼女に、因果を逆転させる効果を発動させることはできない。

しかしそれでも、セイバーに迫るその光線は低ランクとはいえ宝具の光。
例え彼女であっても、受けていいものではない。

咄嗟に後退し、直線に走る光を避ける。
目標を穿ちもしなかった短剣は、それだけで役目を終えるように消滅し。

その瞬間、次の一手の布石が揃った。


「―――――――投影、装填(トリガー・オフ)」

フラガラックの射出と同時に、その手に持った黄金の剣から全ての情報を読取る。

真名開放直後の、投影魔術。
魔術回路の酷使にも近い行為を、体内に眠る27の魔力回路を、そしてこの腕を総動員して成し遂げる。

セイバーはそのただならぬ様子に気付き、距離を詰めようと一気に駆け出そうとしたところで。
間に合わないと悟り、逆に一歩下がり彼女もまた剣を構える。

そして、この剣に蓄えられた全ての知識を、情報を読取ったこの体で。
この聖剣の真名を、開放する―――――

「全工程投影完了(セット)――――是・勝利すべき黄金の剣(カリバーンブレイドワークス)」

読み取るは聖剣の記憶。騎士王の戦いの記録。
基本骨子を、構造を、経験を、魔術構成を。その全てを読み取り、その真名を開放する。

聖剣に収束していく魔力が、カリバーンに黄金の光を纏わせ。

「―――はあっ!」

そのまま振り下ろした聖剣は、黄金の波を放ちながら、セイバーへと迫った。

対してセイバーも、その様子を目にしながら。
退くこともなく、素早い動きで剣に魔力の霧を渦巻かせる。

それは、エクスカリバーを、そして風王結界を喪失した彼女の持つ、切り札には届かずとも最大の攻撃である技。

そう、あの光は己の所持していた聖剣の光。
故に、ことあの聖剣のことであれば彼女以上に知っている者などいない。

だからこそ、あの剣にだけは、敗れるわけにはいかない。
それがあの剣の所有者としての誇りだ。

そう言わんばかりに魔力を魔剣につぎ込み。
渦巻く黒い魔力は、巨大な剣のように形作り。
黄金の光を迎え撃つ―――


「卑王鉄槌(ヴォーディガーン)――――!!」


巨大な波動の刃は一瞬、黄金の光を打ち止め。
しかし直後に光に押されて崩壊させる。

その光を前に、セイバーは再度瞬時に魔力を剣に集中させる。
纏っていた黒き鎧、その魔力を剣に集め。

「――――ハッ!」

振り下ろした剣を再度、同じ形で打ち上げた。

鎧を魔力へと変換し再度放った卑王鉄槌。
それをもってしてなお、黄金の光は止まらない。
今のセイバーが持ちうる最大の攻撃を持ってしても、その光を破ることはできない。


しかしセイバーは、その様子に動揺することもなく、振り上げた剣を流れるような動作で地面に突き立てた。

光が彼女を覆い尽くすと同時に、濃密な霧がセイバーの周囲を守るように防壁へと形を変える。
防壁ごと光に覆い込まれるセイバー。

――――シュン

一瞬の後、閃光を一閃するかのように剣風が走り、光が消滅。
奥から現れたセイバーは、前進を魔力に焼かれ纏った服はボロボロに焼け焦げている。


2度の卑王鉄槌、そして魔力の霧による防御。それらは確かにカリバーンの光を打ち消すことはできなかったが、決して意味がなかったわけではない。
幾度の障害を通じ、その威力はセイバーの対魔力と耐久力を持ってすれば耐えられるほどまでに威力を相殺されていた。


そして、目の前の士郎を見据えたセイバーは、今度こそ目を見張ることとなった。

「なっ?!」


構えているその武器は弓。
アーチャーの持っていた黒弓。それはいい。

問題は、そこに矢として構えられている武器。
黒い弓とは対照的に、その手に構えられた黄金の剣。


矢から手が離れると同時に一歩前に出たセイバーは、射出されたそれを咄嗟に全力で弾き飛ばして。
その直前、目の前でそれを見て、セイバーの驚愕は決定的なものとなる。

士郎はこともあろうに、勝利すべき黄金の剣を、自分の宝具を使い捨ての矢として射出したのだから。


そう、あのカリバーンですらも、ただの一手にすぎない。
セイバーがカリバーンを耐えぬくことなど、想定していたのだから。

カリバーンを最も知っているのがセイバーであるなら、―――――セイバーを他の誰よりも知っているのは俺なのだから。

だからこそ。彼女の直感はこの攻撃を予知し得ない。
予知できたとしても、起こり得ることとして捉えることができない。この一撃は、英霊に対する一つの冒涜でもあるのだから。



ぶつかり合った衝撃で軋みをあげ、ヒビを入れた魔剣グラム。
それにより弾いたカリバーンは、上空へと打ち上がり大爆発を引き起こす。
ランクにしてAクラスの宝具の、壊れた幻想(ブロークンファンタズム)。
そんなものが爆発すれば周囲に振りかかる熱は、爆風は膨大となる。

轟音と共に吹き荒れる爆風。
あまりに予想外の事態に、乱れるセイバーの直感。
そしてそんな現象の至近距離に近い場所に位置し、先のカリバーンに勝るとも劣らぬ強烈な爆風に覆われながらも、セイバーは笑っていた。


士郎は本気だと。
自分の武器を打ち捨ててなおも、自分と戦っているということに。

あの、鍛錬では自分に一本も入れることが出来なかった少年が、こうまで自分を越えようとしている事実に。
喜びと楽しみを感じている自分を、セイバーは感じ取っていた。
それこそ、今この時だけは現マスター、桜のことも、イリヤスフィールのことも忘れられるほどの。

ああ、だからこそ惜しい。

次の士郎の一手が、この戦いに決着をつけてしまうだろうことを、直感していたから。


魔力の混じった爆風で周囲の状況もロクに掴めぬ空間。

そんな中で、視界の端に何かが映る。

「来るか、士郎―――――」

視界の端に映った剣を、瞬時に受け止め。

(――――違う!)


それは、干将莫耶の片割れ、陽剣・干将。
しかし、剣の担い手はそこにはいない。

これはあくまでも投擲されたものに過ぎない。

思考より先に体が動く。
これが投擲されたということは、もう一方も自分に食らい付こうと迫ることは火を見るより明らかなのだから。


それを知っていたからこそもう一方、逆側から飛来した陰剣・莫耶をギリギリのところで受け止めることができた。

迫った剣にグラムを振るい粉々に砕く。
爆風の中であってもその直感をもって的確に対処し、干将莫耶による一撃を完全に回避し。

「―――――!」

それ故に、目の前に迫ってきた彼の次なる手を、防ぐ機会を失うことになる。

目の前で光るその手を見据えながら、その一撃を避けることができない、と見たセイバーは。


「っ!はああああああああああああ!!」

それでも退くこともなく、その一撃を、正面から迎え撃ち。

「セイ、バー――――――――…………!!!!!!」

その衝撃は周囲に一陣の風を巻き起こし。

爆風が完全に晴れた先にあった光景は。

互いの体が交差し、背を向け合う二人。
セイバーの振り下ろした剣と、士郎の投影した武器が、共に互いの体を捉え。


胸から腹にかけて、深く斬られて血を流す士郎と。
胸に一本の刃を刺されたセイバー。

その二人が、共に倒れる姿だった。



「――――――お兄ちゃんっ!」

イリヤ自身、どこにそんな力が残っていたのか分からない。
ボロボロでロクに力も入らないはずの体だったのに、その光景を見ただけで北崎の拘束を振りほどいて走りだしていた。

「お兄ちゃ…ゴホッ」

体の中で、治りかけていた傷が開きかけたのを感じ取る。
口の奥からせり上がってくる鉄の臭い。体の内側から走る、鋭い痛み。

なのに、その足は止まることなく士郎の元へと駆け出していた。

『い、イリヤさん!』

叫ぶルビーの声にも。

「あーあ、相打ちかぁ。面白くないなぁ」

あくびを出す北崎の声にも反応することなく。

「お兄ちゃん…、お兄ちゃん!」

よろめきながらも走るが、体は正直だった。
傷ついた内臓の発するは身体機能を大きく低下させ、たった数十メートルの距離を満足に走らせない。

やがて足がもつれ、地面に転がり込む。

「つっ…、お、お兄ちゃん…」

それでも、地を這うように動かぬ兄の元にたどり着くイリヤ。

「目を開けて!お願いだから!お兄ちゃん!お兄ちゃん!」

揺らそうと呼びかけようと、倒れた兄は反応しない。

「嫌…、嫌だよ…、こんなの…。嫌ああああああああああああ!!!」

絶叫するイリヤ。


そんな様子を見ながら、北崎はゆっくりと立ち上がる。
嫌な予感を感じたLは、咄嗟に北崎を静止する。


「北崎さん…!」
「……」

しかしそんなもの、彼にとって何の障害にも成り得ない。
腕の一振りで跳ね飛ばされるLの身体。

ゆっくりと、倒れた二人と泣き叫ぶイリヤの元に、オルフェノクの身体へと変化させながら近付く。

「士郎!おい士郎!しっかりしろ!」

未だ起き上がることができない巧は、必死で士郎の名前を呼び続ける。
それが、無駄なことだと分かっていながら。

「クソッ、動け、動けよ俺の脚!!」

起き上がろうとしても、脚に力が入らない。
ボロボロの身体でオルフェノクの力を酷使したこの身は、まだ一人で起き上がることもままならない。


「お前、そこから逃げろ!!速く!」

せめてもの行為として、イリヤにそこから逃げるように叫ぶ。
しかし、イリヤは士郎の傍を、離れることはなく。


やがてドラゴンオルフェノクは、3人の元へと辿り着く。

じっと二人の身体を見渡し。足で軽く揺さぶって。
何の反応もないことを確認した北崎は。

「相打ちかぁ…。このパターン正直イラつくんだよねぇ。僕の関われないところで楽しそうなことしてさ」

士郎の身体にすがりついたイリヤに目を向ける。
その視線に、そして今の状況にようやく気付いたイリヤは。


「ひっ…!」

小さく怯える声を上げ。
それを楽しそうに北崎は眺め。

「それじゃあ、この戦いは僕の勝利ってことで、この子を好きにしてもいいんだよね?」

そう言って、手をイリヤへと差し伸ばし。

「じゃあね。運が良ければ生き返れるかもしれないけど。さよなら、白いお人形さん」


その手から、細い触手を彼女の心臓めがけて打ち出した。


―――――――ザクッ


投影するたびに大切なものが消えていった。

思い出が、記憶が、大切な人達への想いが。
何故戦っているのか、遠くで俺の名前を呼んでいるのは誰なのか。

俺がなりたかったもの、守りたかったもの。

それが、少しずつ零れていった。


傷口からは刃が擦れる音を鳴らし。
ああ、俺はもう人間じゃないんだな、と思いながら。
それでも死を迎えようとしている自分を、とても冷静に見直しているやつがいた。

確か、誰だったかな。さっき、自分の大切な誰かの名前が呼ばれたような気がする。

ダメだ、名前が出てこない。
だけど、とても大切な人だったんだとは思う。

(………---、ごめんな、俺、もうすぐそっちへ行くと思う)

誰なのかは分からないのに、きっと怒られるんだろうなって感じた。
だから、たぶん先に待っているその人に対して何て謝ろうかなんて、そんなことを考えていた。



俺の名前を必死で呼んでいる少女の声が聞こえる。

確か、名前は―――そうだ、イリヤだ。

何となく、その声に涙が混じっているようですごく申し訳ない気持ちになっていた。

妹を泣かせるなんて、兄として最低の行為じゃないかと思った。
だけど、この涙のあとは、きっと彼女はそれを埋めるような笑顔を浮かべられるだろうと。
今はその悲しみに泣くことがあっても、いずれきっと、その数十倍の笑顔を浮かべられるようになるから。そう信じてるから。
だから、君は生きてほしいと。
彼女には届かないと思いながらも、そう願いを込めた。

あと、他に名前を呼ぶ男がいる気がする。
名前は―――――出てこない。
だけど、何となく覚えている。
ぶっきらぼうだけど本当は優しい心を持ったやつ。
人を傷つけるのを恐れて、人を自分から遠ざけようとする、自分と比べてまっすぐにみんなの笑顔を守れるだろう、そんなやつ。

俺の夢を守ってくれると言ってくれた時は本当に嬉しかった。
なのに肝心の俺がいなくなってしまうというのは、謝罪する言葉も見つからない。

それでも。あんたならきっと。
俺の夢を、守ると言ってくれた、桜の笑顔を含む、皆の笑顔を守ってくれるって、信じてる。



そして――――桜。
俺が守らなきゃいけない、大きな罪を背負った女の子。
彼女のことだけが、俺にとってほぼ唯一の心残りだった。

俺がいなくなって、---もいなくなって、--もいなくなって。
彼女は笑顔を浮かべられるようになるのか。
きっと、とても悲しむだろうなと思った。

だから、せめてあの子を一人にしないために。
もう生きていることができない俺の代わりに悲しむ彼女を、支えてやれるように。

だから、俺は



最も守りたかったものを。守るべきものを。その全てを。
最も信頼した存在に、託す。

だから桜を――――


「頼んだぞ、セイバー」

もはや声も出ないはずの身体で、それだけはっきりと、口にできた気がした。


―――――――ザクッ

鋭い音とともに、突き出されたそれはその肉体を貫いていた。

目を見開くイリヤ。
じっと動かないドラゴンオルフェノク。

いや、動かないのではない、動けなかった。

イリヤに伸ばした触手は、その数ミリ前で停止し。
触手の主の首からは、後ろから貫くように鋭い一本の剣が生えていたのだから。

北崎には、何が起こったのか理解することもできず。
もはや声を出すことも、身動き一つとることも叶わなかった。

ただ、自分のすぐ後ろに何者かの気配を感じ。

「――…その穢れた手で、彼女に触れるな。下郎」

その存在が震えるような声を、こう発したような気はした。

そしてその言葉を最後に。
首に刺さった刃が動かされ。

浮遊感に包まれて飛び上がったような感覚に包まれた北崎は。
何か大きな身体のようなものが青い炎で燃え上がっているのを見て。

それが、闇に落ちる北崎の意識が最後に見たものとなった。



イリヤの目の前で、ドラゴンオルフェノクの頭が飛んでいき。
青い炎に包まれてその身体が崩壊していくのを見届けたイリヤ。
それと共に、まるで竜を殺したことで役目を終えたかのように根本から折れ飛んでいく刃。

そんな彼女の視界に入ったのは。
胸に刃物を突き立てられた金髪の女剣士だった。

彼女は柄だけになった剣を投げ捨て。
胸に刺さった刃を引き抜く。

それは剣ではなく短剣程度の大きさの刃物。
なのに、その刃の部分はギザギザな線を描いた奇妙な形をしている。

そして、イリヤはそれを知っている。

「ルールブレイカー…?」

そう、ここに来たばかりの時、呪術刻印を消すために使った宝具。
それが、セイバーの胸に突き立っていた。

その歪な刃が抜き取られると同時、セイバーの肉体から発されていた黒い魔力が消失。
ボロボロな黒いドレスの色は青く変わっていき、真っ白だった肌は生きている人間のそれと大差ない色へと変わる。

その変化に驚くイリヤの目の前で。
セイバーは静かに士郎に近づき、その肉体を返して顔を上に向ける。

「……っ、あなたは…、どうしてこんなものを、私に…!
 あなたを殺した私に、生きろというのですか…!?」

あの最後の一撃。
あそこで投影していたのが干将莫耶だったなら、その双剣でもってこの身を切り裂いたのだったなら。
間違いなくこっちの刃は士郎に届かず、彼に勝利をもたらしただろう。

なのにこの刃を、彼はこの身に刺した。
結果、負けたはずの自分が生き、衛宮士郎はその生命を終えた。

例え届かなくても、何故そんな選択をしたのか。
問い詰めようと思う心がはやり士郎へと詰め寄った。

なのに。
士郎の顔は、まるで何かをやり遂げたような顔をしていた。

「何故あなたは…、悔いを残したはずなのにそんな顔で死ぬことができるのですか」

そんな顔を見せられたら、怒るに怒れなくなってしまうではないか。

「桜やイリヤスフィールを、あなたの代わりに私に守れ、というのですね…?」

もう、答える者のいないはずのない問いかけ。
なのに、その言葉に頷かれたような感覚を、どこからともなく感じ取っていて。

「あなたと、いう人は…」

今の自分に涙を流す資格などない。
だからこそ、そんな心を切り離すかのように、士郎を地面に横たえ。

「…分かりました。これより私は、あなたの剣として、イリヤスフィールを、桜を、必ず生きて連れ帰りましょう」

黒き泥の呪縛から解き放たれた騎士王は、かつての主へと一つの誓いを立て。

自分が離れると同時に士郎に近付くイリヤを見送りつつ、離れた場所で倒れた者達へ向けて、歩みを進めた。


自分には何もできなかった。
何となくあの黒い騎士に従うことは間違いだと思っていながら、最後まで逆らうことができず。

なのに目の前では、ただの人間に見える少年が、あのとても強い騎士さんと戦って死んでいった。
勝てないはずの相手に、一歩も退かずに立ち向かって。

自分は、あのオルフェノクに立ち向かうことも、騎士に従わずに立ち向かうこともできなかったのに。

何となく、そんな自分の理想のために真っ直ぐ、強くあった少年の姿に。
一人の、心優しく強く、それでいて理想を願うオルフェノクを連想していた。



「ユカ、大丈夫ですか?」
「え、っと…、セイバーさん、ですよね…?」

セイバーからそんな優しい言葉をかけられたことのなかった結花は、戸惑いを隠し切れない。

「…はい。安心してください。今の私はあなたを力で縛ろうとは思いません」

そう言って手を差し伸ばし、結花を起き上がらせたセイバー。

そして周囲を見回し、二人の男を見つけた。
傷ついた一人を、もう一人が肩を貸して起こしているようだ。

「えっ、乾…さん?」
「知り合いですか?でしたら話は早い。一緒に来てくれませんか?」




『士郎さん…、あなたは…』
「な、何だ、どういうことだよ…?!」

何かを悟ったようにつぶやくルビーに対し、混乱する巧。
無理もないだろう。目の前で士郎と戦っていた剣士が、いきなり起き上がったと思ったら北崎の首を刎ね、そのままイリヤに何をすることもなく士郎の死体に問いかけていたのだから。


「…………」

そしてLもまた混乱こそしていたものの、頭は状況把握に努めようときわめて冷静だった。


咲世子の仇も取れず、一人の危険人物の手綱を握ることに失敗し、こうして死人まで出す事態になってしまった。
しかし、だからこそLは今するべきことをしなければならない、と。

そんな中、未だ状況の掴みきれない二人と一本の元についさっきまであの少年と剣を交えていた少女が、こちらへと向かって歩いてきた。

「大丈夫ですか?」
「ええ、私は大丈夫ですが、彼が重傷です。せめてどこか休める場所へ移動したい」
「…おい、待てよあんた。こいつのことを信用するのかよ」

信用するかのようにセイバーに話しかけるL。
そんな様子に意義を申し立てたのは巧だった。

「今の彼女からは敵意を感じません。それに、私の見立てでは彼女は騙して人に取り入り、闇討ちするような人にも見えません」
「信用できると思ってんのかよ」
『少なくとも彼女の言葉に嘘はないでしょうと私は思います』
「間違っていた時は私が責任を取りましょう。
 …すみません、今は色々なことが立て続けに起きて私自身状況の整理ができていません。一旦どこかの施設に移動する、ということでよろしいでしょうか?」

そう言ったLの言葉に、巧は顔をしかめつつも反論はせず、セイバーもまた頷いていた。

問題は、士郎の傍から動こうとしないイリヤだったが。

「反論は、ありません。ただ、その前に一つだけお願いが」
「何でしょうか?」


と、セイバーはかすかに迷うように顔を伏せ。
その願いをLへと告げた。

「…シロウを、埋葬させてください」



【E-4/一日目 日中】

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:疲労(大)、肋骨骨折、両腕両足の骨にヒビ、内臓にダメージ(中、優先的に治癒中)、悲しみ
[装備]:カレイドステッキ(ルビー)@プリズマ☆イリヤ
[道具]:クラスカード(キャスター)@プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本:?????
1:お兄ちゃん…!
[ルビー・思考]
基本:イリヤさんを手助けして、殺し合いを打破する
1:イリヤさんを落ち着かせつつ、まずは目の前の人達と話をする
[備考]
※2wei!三巻終了後より参戦
※カレイドステッキはマスター登録orゲスト登録した相手と10m以上離れられません
※ルビーは、衛宮士郎とアーチャーの英霊は同一存在である可能性があると推測しています。
[情報]
※衛宮士郎が平行世界の人物である
※黄色い魔法少女(マミ)は殺し合いに乗っている?
※マントの男が金色のロボットの操縦者、かつルルーシュという男と同じ顔?



【乾巧@仮面ライダー555】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(特大)、肩から背中に掛けて切り傷、全身に重度の打撲+軽度の火傷
[装備]:なし
[道具]:共通支給品、ファイズブラスター@仮面ライダー555
[思考・状況]
基本:木場を元の優しい奴に戻したい
0:マミの事が少し心配
1:士郎…、何でだよ…
2:二人の元から離れたいが、仕方がないので協力する
3:暁美ほむらを探して、魔法少女について訊く
4:マミは探さない
5:セイバーに対して警戒心
[備考]
※参戦時期は36話~38話の時期です
[情報]
※ロロ・ヴィ・ブリタニアをルルーシュ・ランペルージと認識?
※マントの男が金色のロボットの操縦者


【L@デスノート(映画)】
[状態]:右の掌の表面が灰化、疲労(中)
[装備]:ワルサーP38(5/8)@現実、
[道具]:基本支給品、スペツナズナイフ@現実、クナイ@コードギアス 反逆のルルーシュ、ブローニングハイパワー(13/13)、 予備弾倉(9mmパラベラム×5)、シャルロッテ印のお菓子詰め合わせ袋。
[思考・状況]
基本:この事件を止めるべく、アカギを逮捕する
1:目の前の少女、セイバー達と情報を共有するために移動する
2:月がどんな状態であろうが組む。一時休戦
3:魔女の口付けについて、知っている人物を探す
4:3or4回目の放送時、病院または遊園地で草加たちと合流する
[備考]
※参戦時期は、後編の月死亡直後からです。
※北崎のフルネームを知りました。
※北崎から村上、木場、巧の名前を聞きました。
※メロからこれまでの経緯、そしてDEATH NOTE(漫画)世界の情報を得ました。しかしニア、メロがLの後継者であることは聞かされていません
※Fate/stay night世界における魔術、様々な概念について、大まかに把握しました。しかし詳細までは理解しきれていないかもしれません。


【セイバー@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(大)、全身に切り傷と軽い火傷(回復中)、魔力消費(大)
[装備]:無し
[道具]:なし
[思考・状況]
基本:シロウの願いを継ぎ、桜とイリヤスフィールを守る
1:まずは目の前の参加者と話す
2:シロウ…
[備考]
※破戒すべき全ての符によりアンリマユの呪縛から開放されセイバーへと戻りました


【長田結花@仮面ライダー555】
[状態]:ダメージ(大)、疲労(中)、翼にダメージ(オルフェノク態のダメージ)、仮面ライダー(間桐桜)に対する重度の恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、ゴージャスボール@ポケットモンスター(ゲーム) 、穂群原学園の制服@Fate/stay night、お菓子数点(きのこの山他)、
    スナッチボール×1、魔女細胞抑制剤×1、ジグソーパズル×n、呉キリカのぬいぐるみ@魔法少女おりこ☆マギカ、不明支給品0~3
[思考・状況]
基本:???
1:私は、どうしたら…?
2:え、乾さん…?
[備考]
※参戦時期は第42話冒頭(警官を吹き飛ばして走り去った後)です


【衛宮士郎@Fate/stay night 死亡確認】
【北崎@仮面ライダー555 死亡確認】

※干将莫耶、勝利すべき黄金の剣、グラムは破壊されました。








そこは、月が綺麗な夜の、静かな庭の縁側。
座った自分の隣には、一人の男が静かに佇んでいた。

「なあ、爺さん」

呼びかけても、隣の男は静かに目を閉じたまま動かない。

「俺さ、正義の味方にはなれなかった。それどころか、妹も、守るって決めた女の子も守れなかった。
 優しくしろって言われてたのに、結局泣かせちまったんだ」

「………」

「まだ、やらなきゃいけないことも後悔も沢山あったけどさ。
 それでも、やらなきゃいけないことは、俺なりにやり切ったと思うんだ」

父親の希望は、小さな妹に。
夢は、一人の男に。
そして、守りたい大切な存在は、最も信頼した少女に。



風が静かにそよぐ。
庭の草花がそれに揺らされ、小さく音を立てる。

しばらくの沈黙をもって、隣の男に問いかけた。


「爺さん、俺、間違ってなんてなかったよな?」
「………」


男は答えない。沈黙を保ったままだ。

小さな不安に包まれる心。
そんな時、微動だにしなかった男は、静かに俺の頭に手を乗せ、クシャクシャと乱雑に、しかし優しく撫でた。

その意味が分かった時、俺はなんとなく、心からの笑みを浮かべられたような気がした。


107:第二回定時放送 投下順に読む
107:第二回定時放送 時系列順に読む
103:HORIZON-金色の奇跡 衛宮士郎 GAME OVER
乾巧
イリヤスフィール・フォン・アインツベルン
096:美国織莉子、私の全て セイバー
長田結花
104:無邪気な悪意 L
北崎 GAME OVER


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