光華薇(ナリス・ヴェリダ)


概要

 光華薇(ナリス・ヴェリダ)は、セルクレム王国において祈念の象徴とされる花である。令花祭りでは、この花の花弁を空へ放つ所作が儀礼の中心を成す。花弁は淡く、白銀に近い色調を持ち、陽光を受けると微細な光粒を反射する。その姿は、静かな祈りの気配を空へ広げるものとして重んじられている。この植物は、乾燥地帯や砂漠の岩間でも根を張り、力強く花を開く。地中深くまで伸びる根は、微細な水脈を探り当てる構造を持ち、葉は小さく、表面に鱗片状の膜が並ぶ。蒸散を抑えるための工夫が、全体に静かに組み込まれている。開花は年に一度、春の初風が吹く頃に限られる。花弁は三日ほどで散り、その短さゆえに「命の儚さと循環」を象徴するものとして扱われる。香りは極めて淡く、近づいた者にのみ届く程度である。王国ではこの香気を「静寂の気配」と呼び、祈念の場にふさわしいものとして受け入れている。自然発生は稀であり、神殿や庭園では特別な土壌と手入れによって育てられる。栽培には、花弁の揺れ方や根の伸び方に応じた細かな調整が必要とされ、熟練の園丁による管理が欠かせない。儀礼に用いられた花弁は地に落ちても拾われず、風に任せて消えていく。これは「命の循環に干渉しない」という王国の思想に基づくものである。この花は、ただ美しいだけの存在ではない。戦火の記憶と鎮魂の願いを宿し、砂の地にも静かに根を張る。その姿は、王国の精神に深く重なっている。

薬効

 光華薇(ナリス・ヴェリダ)は、儀礼に用いられる花として知られる一方で、薬草としての性質も持つ。根から得られる抽出液には神経の過敏を鎮める働きがあり、微量の使用で睡眠の質が整うことがある。花弁には抗炎症性の成分が含まれ、乾燥させて粉末にしたものは皮膚の軽い炎症や火傷に対して穏やかに作用する。香気は極めて微細だが、蒸留によって得られる精油は精神の揺らぎを静かに整える目的で神殿の静養室などに用いられてきた。葉には目立った薬効はないものの、鱗片状の表皮を煎じた液は喉の痛みや咳の初期症状に対して緩やかな緩和をもたらすとされる。全体としての作用は穏やかで、即効性を期待するものではない。王国では医療の中心には据えられておらず、「静養」や「調律」の補助として扱われている。過剰な使用は避けられ、環境条件によって成分の濃度にも差が生じる。神殿で育てられた個体と野生種では性質が異なり、とくに砂漠地帯で育ったものは根の成分が濃く、鎮静作用が強まる傾向がある。そのため、医師や園丁の間では「深根種」と呼ばれ、儀礼用とは別に管理されている。光華薇の薬効は、王国の医療体系において中心的な位置を占めるものではないが、静けさと回復を支える存在として、長く信頼されてきた。

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最終更新:2025年09月20日 23:12