ユミル・イドゥアム連合帝国の直轄領ジャゴラス・ラノリーネは、虹色大公
アルバス・ヴィ・レミソルトの治める地として、派手なネオンと絶え間ない喧騒に満ちていた。金と光の屋敷は、まるで星間カジノのようだ。メイドたちが笑い声を響かせ、ホログラムスクリーンではFPSゲームの爆音が鳴り響く。そんな中、静かな嵐が到来した。アリウス・ヴィ・レミソルト、冷血母公にしてロフィルナ連邦共同体の立憲君主が、専用艦から降り立った。公式には「帝国との外交交渉」だが、誰もが知る真の目的は、祖父アルバスの「監督」だ。
アリウスは細身の長剣「レミソルティス・ファラネヴェ」を手に、氷のような微笑を浮かべて屋敷の玄関をくぐる。黒と金のローブが静かに揺れ、彼女の存在が空気を一変させた。
「おお、アリウスママ!やっと来たか!ほら、この酒、帝国一の味だぞ!」
アルバスはソファにふんぞり返り、グラスを掲げる。彼の周囲には派手な衣装の愛人たちが群がり、ゲームの爆発音が壁を震わせていた。
アリウスは一瞥で場を掌握し、ホログラムシートに指を滑らせる。グラヴィス調律器が低く唸り、部屋の重力がわずかに増す。愛人たちが悲鳴を上げ、グラスが床に落ちて砕けた。
「祖父上、この騒々しさ……ロフィルナの名にふさわしくありませんわ」
「はっ!名誉だと?そんなもんは中央貴族に丸投げだ!」
アルバスは立ち上がり、金色のローブを翻す。
「俺は虹色大公!存在だけで宇宙を輝かせる!なあ、アリウスママ、俺のこの筋肉、どうだ?」
彼は上半身の服を脱ぎ捨て、鍛え上げた体を見せつける。メイドたちが「大公様、最高!」と叫ぶが、アリウスの瞳が冷たく光る。
「貴方の存在が騒がしいことは、認めます……ですが、連邦の名を背負う者として、この『バカ領主』ぶりは見過ごせません」
突然、アルバスが目を輝かせる。「おお、怒った顔も可愛いな、ママ!よし、こうなったらアルバス様の必殺技だ!」
彼は不敵な笑みを浮かべ、両手を広げて叫ぶ。「濃厚連打ペロキッス!」
異常な速さでアリウスに飛びかかり、唇を尖らせて連続キスの構えを見せる。メイドたちは「大公様、かっこいい!」と歓声を上げ、ホログラムスクリーンがゲームの効果音で爆発する。アリウスは一瞬たじろぐが、即座に「ディスラ・プレッサ」を発動。グラヴィス調律器が唸り、10倍の重力場がアルバスを床に叩きつける。
「ぐおっ!ママ、容赦ねえな!」アルバスは這いつくばりながらニヤリと笑う。「だが、俺の愛は重力なんぞで止められんぞ!」
アリウスは冷たく見下ろす。「祖父上、貴方の『愛』は帝国の予算を食い潰す害悪ですわ」
彼女はホログラムシートに符文を描き、「ヴァスティル・クルヴァ」を準備。剣先から霊気の疾風が放たれ、屋敷の装飾品が吹き飛ぶ。
メイドたちは逃げ出し、アルバスは転がりながら叫ぶ。
「おい、マジになるなよ!俺はただ、孫娘とスキンシップしたかっただけだ!」
彼はなんとか立ち上がり、懐から怪しげなデバイスを取り出す。
「これを見ろ!パルニウム酔拳法対応ガジェットだ!」
デバイスが虹色のオーラを放ち、彼の動きが酔拳のように予測不能になる。どうやら、過去の「パルニウム酔拳法」習得エピソードがここで活きたらしい。
アリウスは目を細める。「そのような玩具で、私を止められると思っているのですか?」
彼女は「ゼルティス・ヴェーラ」を発動。剣舞が始まり、ホログラムシートに精密な符文が描かれる。
アルバスの動きを予測し、剣先が彼の急所に迫る。だが、アルバスは酔拳の動きで躱し、「ペロキッス連打!」と叫びながら再び突進。
メイドたちは「大公様、頑張れ!」と叫ぶが、アリウスの表情は凍りつく。
「祖父上、この戯れは終わりです」
彼女は「クラヴィス・コラプタ」を発動。超重力場が屋敷を覆い、アルバスのデバイスが悲鳴を上げて砕ける。彼は床に叩きつけられ、動きを止めた。
「ふう……ママ、さすがだな」アルバスは這いつくばりながら笑う。
「だが、俺の愛はまだ終わらんぞ……ほら、もう一発ペロキッス!」
彼は最後の力を振り絞り、唇を尖らせるが、アリウスは一歩踏み出し、剣の柄で彼の額を軽く叩く。
「祖父上、貴方が人質として帝国に赴いた日のことは、忘れません……ですが、この無責任な振る舞いは、ロフィルナの名に泥を塗りますわ」
彼女の声には、微かな震えがあった。過去、アルバスがテロ事件の主犯として家族を危険にさらし、アリウスが死刑執行書にサインした記憶が、彼女の心に影を落としていた。
アルバスは床に座り込み、珍しく真剣な表情を見せる。
「なぁ、アリウス……あの日のことは、俺も後悔してるよ……お前を守るために帝国に来たんだ、信じてくれ」
彼の声は、いつもの騒がしさとは裏腹に静かだった。アリウスは剣を鞘に収め、言う。
「祖父上、貴方の『信念』は騒がしい……ですが、嫌いではありませんわ……次は、お茶会で『教育』します」
アルバスは目を丸くする。「お、お茶会!?ママ、それだけは勘弁してくれ!」
彼の叫びが屋敷に響き、メイドたちは笑い声を上げた。
アリウスは踵を返し、屋敷を後にする。去り際、彼女は一瞬振り返り、微かな微笑を浮かべる。
「祖父上、貴方の笑顔は……確かに家族ですね」
その言葉は風に消え、アルバスは床に倒れたまま呟く。
「へっ、アリウスママ……やっぱ可愛いな」
屋敷は再び騒々しい音楽で満たされ、虹色大公の伝説はまた一つ増えた。