H.L.F多国籍部隊(TB)旗艦「ソルヴィエント」ブリッジ、エレス・ニア星系
警告音が静まり、ブリッジに緊張感と好奇心が漂う。メインスクリーンに映る不明艦—
ピースギア所属ポータル艦「エルニウス」からの通信が、
共立英語と国際モールス符号で届いた。
『こちらはピースギア所属ポータル艦アリス級エルニウス艦長の最上イズモ三佐だ。ピースギアが崩壊し、さまよっていたところこの宙域に転移した。交戦の意思はない』
アリシア・レムナント中将は、スクリーンを凝視し、眉を軽く上げる。
「ピースギア…初耳だ。パラレルワールドからの転移者で、組織の崩壊だと? 興味深いが、警戒を解くわけにはいかん」 彼女の声は低く、思索に沈む。
副官のセイラ・ヴィエント少佐がタブレットを手に報告する。
「中将、通信は共立英語と国際モールス符号で受信。エネルギーシグネチャは安定、攻撃意図は見られません。シュテファーン級3隻は三角フォーメーションを維持、応答待機中です」
アリシアは腕を組み、艦長席から立ち上がる。
「英語か。共立英語と一致するが、『地球』の言語をどう知った? シアップの戦争以来、転移者の言語パターンは予測不能だ。慎重に進めるぞ」
彼女は通信コンソールに向き、指示を出す。「エラン大佐、状況はどうだ?」
―――シュテファーン級「アルヴァート」ブリッジ
エラン・クレイス大佐は、戦術モニターに映るエルニウスの流線型艦体を注視していた。副艦長ミラ・ソーニス中尉が通信を解析し、報告する。
「艦長、エルニウスの通信確認。ピースギアなる組織はパラレルワールド管理を目的とし、崩壊後にこの宙域に転移したと主張。敵意なしと明言。英語は共立英語と99.8%一致します」
エランは顎を撫で、呟く。
「パラレルワールド管理…ツォルマリアの理論物理学者が唱えた転移技術の新形態か?崩壊というのが本当なら、ただの探査艦ではないな」
彼は一瞬考え、通信機に指示を出す。
「ミラ、返信を準備。内容は以下だ—『エルニウス、こちらH.L.F多国籍部隊、シュテファーン級アルヴァート。貴艦の意図を確認、保護を保証する。エレス・ニア第3軌道基地への誘導を提案。ピースギアの状況と技術の概要を共有願う。引き続き非敵対姿勢を維持』。英語とモールスで送信」
「了解!送信準備完了!」ミラがコンソールを操作し、信号が星系を横切る。
―――「ソルヴィエント」ブリッジ
アリシアは戦術スクリーンに映る3隻のシュテファーン級とエルニウスの位置を確認。
「セイラ、中央総隊に報告。ピースギアのデータベース照合を急がせろ。転移者対応プロトコルの第2段階—情報収集と対話継続—を維持。だが…」
彼女は一瞬目を細める。
「この『ピースギア』が本当に無害とは限らん。シールドと武装の解析データを引き続き監視。万一の備えは怠るな」
「了解!中央総隊へ報告、解析継続!」セイラが迅速に応答し、通信士が動き出す。
―――「アルヴァート」ブリッジ
エルニウスからの次の応答を待つ間、エランはクルーに指示。
「シールドを30%に下げ、非敵対姿勢を強調。センサーでエルニウスのエネルギー出力と構造を詳細スキャン。パラレルワールド技術の痕跡を逃すな」
ミラが頷き、データを確認。
「艦長、エルニウスの空間干渉波はツォルマリアの転移理論に近い波形ですが、未知の変調が含まれます。艦体素材も
共立世界の合金と一致しない…異世界技術の可能性が高いです。」
エランはモニターを見据え、呟く。「ピースギア、か。友好的ならいいが…シアップの教訓を忘れるな。対話を信じ、準備を怠らず。」
星系の光を背景に、シュテファーン級3隻はエルニウスを緩やかに囲み、誘導軌道を形成。TBのプロフェッショナリズムが、未知の来訪者との初接触を穏やかに、しかし警戒を解かず進めていた。
最終更新:2025年06月14日 12:54