しばらくして『エルニウス、こちらアルヴァート。誘導に従い感謝。エレス・ニア第3軌道基地到着まで護衛を継続。安全な航行を保証する。』と
共立英語とモールスで送られてきた。
イズモ「きたなぁ」
イズモはモニターに映る通信ログを見ながら短く言う。微かに安堵の笑みを浮かべるが、その瞳にはまだ油断はない。
KAEDE「そうね……今のところは信用しても良さそうかな?」
モニター越しに同行している艦の進路を確認しながら、慎重ながらも肯定的なトーンで返す。
イズモ「にしてもかなり熱心にこっちのこと探ろうとしてるねぇ」
艦外からスキャンされているのが可視化されたホログラムが映し出されている。
モニターにはスキャンされてることが映されている。微弱ながらも複数の帯域で断続的な探査波が当艦へと浴びせられているのがわかる。
イズモ「あんまり探知できないとはおもうけどねー」
肩をすくめ、どこか楽しげにも見える口調で呟く。
KAEDE「まあ気楽に行きましょ」
どこか気の抜けたような声でいう。けれどその奥底にはわずかな緊張が潜んでいるのは、長年の相棒にはわかる。
艦全体を外部からスキャンしても内部構造物を解析することは不可能ではあるのだが……
イズモ「ま、そうするか……」
操縦席に体を預け、軽く伸びをする。
イズモ「転移者慣れはしてはいそうなんだけど、もしかしてうちみたいなレベルの技術持ってるとこは初ってかんじなのかな?」
KAEDE「考え過ぎじゃない?」
淡々と返すが、その顔にはわずかな不信感が浮かんでいる。いや、見せているだけなのかもしれない……。
実際、変に反応せずに飄々と過ごすことは難しい。だからこそ、その感情を表に出さず相手に「信頼している」と思わせる技術――それを自然にこなすイズモの腕は相当のものといえるだろう。
イズモ「ま、そうかも」
短く笑って受け流す。
KAEDE「……考えても仕方ないことですね。アハハハ……」
どこか投げやりな、けれど強がりにも聞こえる乾いた笑いだった。
イズモ「そういえばこの速度なら3時間くらいでつきそうだね」
KAEDE「そうね」
現在航行中の速度ならば、目的地「エレス・ニア第3軌道基地」にはあと数時間で到着する予定である。
KAEDE「さて、そろそろどう動くか検討しておいたほうがいいかも」
戦術計画タブレットを取り出しつつ提案する。
イズモ「とりあえず技術渡すとなると、リミッターつけたものを渡すか、作るときに監督するのどっちがいいんだろ。」
KAEDE「内部システムの場合は簡単だけど、船外部やその他考えると個別がいいのかな?共有するのは食料プラントとエネルギーステーションの主砲、しいて言うならポータル技術?しかないし」
イズモ「まあ、とりあえずはリミッターつけたのを渡そう。それで様子見」
KAEDE「そうね……」
KAEDE「……なんか嫌な予感がするけど……大丈夫よね?」
彼女の声には、わずかな震えが混じる。
イズモ「ま、なるようにしかならないさ」
軽く笑って見せるその後ろ姿は、どこか背負っているものの大きさを感じさせる。
イズモ「たぶんリミッターつけるとするとAIで対象判断して使用不可か許可するか判断するシステムで外せないようにしとこう」
KAEDE「ですね」
イズモ「とりあえずシステムいじってくるね」
KAEDE「はいはい」
呆れたようにいうKAEDEの声は、どこか安心しているようにも聞こえる。そう、この艦のAIはイズモが設計したものなのだから。
そして1時間ほどかけて、イズモはリミッターとその他システムを構築したのだった。
イズモ「よしっ!これでどうだろう?」
軽く画面を叩いて満足そうに微笑む。
そう言いながら、モニターにはこう書かれていた。
”当艦ならびに船の副砲等のリミッターを設定。以後一切のシステム、装置の稼働は不可。”
イズモ「どうだ?」
KAEDE「……OKね」
KAEDEは表示を確認し、少しほっとしたように肯定したのだった……。
最終更新:2025年06月27日 20:06