エレス・ニア第3軌道基地の会議室は、透明なドーム越しに星々が輝く荘厳な空間だった。中央の長テーブルには、共立機構の代表団が着席し、対面にはピースギアの使節団が静かに控えていた。アリシア・レムナント中将が議長を務め、副官のセイラ・ヴィエント少佐、技術解析チームのリーダーであるカイル・トレント博士、外交官のリナ・ハルツェルが同席し、初接触の交渉に臨んでいた。
アリシアはホログラフィックディスプレイを操作し、会議を開始する。「エレス・ニア第3軌道基地へようこそ。
文明共立機構は、当宇宙領域における平和と協力を推進する組織です。エルニウスの航行協力により、友好的な対話の基盤が築けたと確信しています。今日は、共立機構の能力と、ピースギアとの協力に向けた提案を共有します」
セイラがタブレットからデータを引き出し、補足する。「我々のセンサー解析では、エルニウスの空間干渉波に、共立機構の標準技術を凌駕する独自の変調が確認されました。このポータル技術は、当宇宙領域の不安定宙域での緊急展開や戦略的移動に革命をもたらす可能性があります。共立機構は、当領域全域をカバーする監視網と、数十の文明との協定に基づく安定した戦力を有しており、これを背景に、貴方方の技術とのシナジーを追求したいと考えています」
カイル博士が冷静に続ける。「空間干渉波の解析から、未知の技術要素が含まれており、共立の理論では説明できない特性が観測されました。このポータル技術は、我々の次世代航法システムや空間安定化装置の開発に飛躍的な進展をもたらす可能性があります。共立機構は、当宇宙領域のエネルギー網を支える高効率反応炉や、惑星間防衛を担うシュテファーン級艦隊の技術を有しており、ピースギアの技術と統合することで、双方に新たな領域を開拓できると確信しています」
リナ・ハルツェルが外交的な口調で補足する。「共立機構は、当宇宙領域の平和維持において主導的役割を果たしてきました。シアップ紛争の解決や、不安定宙域の安定化実績はその一例です。ピースギアの技術が加われば、例えば、危機宙域の再構築や、高速通信網の拡張といった、双方に利益をもたらすプロジェクトが実現可能です。我々は、信頼関係を基盤とした完全な技術共有を希望します。その報酬として、エルニウスのメンテナンスやアップグレードを最優先で支援し、共立の先端技術の一部を共有する用意があります」
アリシアはテーブルに手を置き、穏やかながら力強い口調で続ける。「共立機構は、当宇宙領域の安全保障を支える戦力と技術的基盤を有しています。エルニウスのポータル技術は、我々の平和維持活動をさらに強化する鍵となり得ます。我々は力による解決を一切考えず、対等なパートナーシップを追求します。完全な技術共有には相互の信頼が不可欠ですが、共立は長年にわたる文明間の協定を通じて、その構築に実績があります。提案としては、信頼醸成のための対話を重ね、数日以内に技術共有の条件を具体化したい。エルニウスの安全と快適な滞在は、我々が全面的に保証します」
セイラが迅速に応じる。「中将、技術解析チームに、ピースギアのポータル技術と共立の次世代航法システムの統合可能性を評価するよう指示します。エネルギーコアのデータに基づき、シナジー効果の報告を明日までにまとめます」
カイルが頷く。「共立の反応炉技術や空間安定化装置との互換性を検討し、完全共有を前提とした応用シナリオを準備します。ピースギアの技術は、当宇宙領域の安定化に新たな可能性を開くものです」
アリシアは戦術スクリーンに目をやり、エルニウスの航跡データを確認する。「ピースギアとの協力は、当宇宙領域の未来を切り開く一歩だ。共立の戦力と技術的優位を背景に、信頼を最優先に進め、双方の利益を最大化する。セイラ、基地の歓迎プロトコルを徹底し、ピースギアが安心して交渉に臨める環境を整えなさい」
「了解しました。ゲストクォーターの準備と、技術評価のスケジュールを調整します。共立の軍事力を示すデモンストレーションも準備しますか？」セイラがタブレットを操作しながら提案する。
「その案、悪くないな」アリシアは小さく微笑む。「シュテファーン級の航法精度や反応炉の出力デモを、さりげなく披露する。ピースギアに、共立が信頼に値するパートナーだと理解させるんだ」
会議室には、未知の来訪者との対話への期待と、共立機構の自信に裏打ちされた緊張感が漂っていた。アリシアは静かに息をつき、ピースギアとの信頼関係が新たな協力を築く鍵となると確信していた。共立機構は、戦力と技術の優位を穏やかに示しつつ、エレス・ニア第3軌道基地を当宇宙領域の同盟の舞台とする準備を整えていた。
最終更新：2025年06月14日 12:56
