―――共立機構最高評議会
パルディステルのドームは、星雲の光がガラス天井を通って柔らかく差し込み、静かな輝きで満たされていた。広大な円形の評議会室では、指導者たちが中央のホログラフィックディスプレイを囲んでいた。ディスプレイには、シナリスIVの「サリフェル・トライア」――燐光を放つ結晶がちりばめられた三角形の大陸――の最新データが映し出されていた。結晶の表面が微かな磁気脈動を発し、まるで大陸が静かに呼吸しているかのように揺らめいていた。データによると、この脈動は未確認物質「クェーサー」と連動し、大気中で微妙な磁場変動を生み出しているらしかった。
メレザ・レクネール最高議長は、議長席からディスプレイを見上げ、穏やかな微笑みを浮かべていた。彼女の声は柔らかく、温かみのある敬語で皆を包み込んだ。
『皆さん、サリフェル・トライアの磁気脈動は、シナリスIVの秘めた力を映し出しています。この現象は、共立の技術と誠意で解き明かす新たな可能性です。星々の調和を大切にしながら、この大陸の脈動を未来への希望につなげましょう』
彼女の言葉は、評議会室に静かな決意を呼び起こした。指導者たちは、シナリスIVの神秘と共立の使命に思いを馳せ、穏やかな期待感が広がった。
アリシア・レムナント中将が立ち上がり、ホログラフィックマップを操作した。彼女の指が空中を滑ると、シナリスIVの軌道とサリフェル・トライアの地表が拡大表示された。マップには、300隻の巡航艦が軌道上に整然と並び、大陸の磁気脈動を追跡する薄紫色のセンサー網が浮かんでいた。アリシアの声は、落ち着いた自信に満ちていた。
『サリフェル・トライアの磁気脈動は、大気中の磁場を通じて軌道上の観測に影響を与えています。この現象を正確に把握するため、駐留艦隊に磁場追跡プローブを配備し、大陸周辺の磁気変動を継続的に監視します。さらに、艦の航法システムを調整し、磁場による影響を軽減します』
アリシアはマップ上に、プローブの監視範囲を示す薄紫色の波紋を重ね、艦隊の役割を強調した。『艦隊は、シナリス星系の安定を第一に考え、調査隊との連携を深め、データを即座に共有します』
カイル・トレント博士が新たな提案を加えた。彼はディスプレイに、サリフェル・トライアの結晶脈の磁気データを解析した立体モデルを投影した。モデルは、結晶の脈動がクェーサーと連動して微細な磁場を形成し、大気中で調和的なパターンを生み出していることを示していた。カイルの声は、科学者の好奇心に満ちていた。
『サリフェル・トライアの結晶は、クェーサーと連動して独特の磁気脈動を生み出しています。この現象を活用するため、シナリス調査隊に磁場安定化コイルを配備し、結晶脈の脈動を調節する試験を行います。また、クェーサーの特性を調べるため、遠隔操作の磁気スキャナーを用いて地殻深部のデータを収集します。これにより、共立の磁場技術への応用を探ります』
カイルはモデル上の磁場パターンを指しながら続けた。『調査隊には、環境への影響を抑えるため、軽くて低消費電力の装備を選び、サリフェル・トライアの自然な輝きを守ります』
リナ・ハルツェルが新たな提案を提示した。彼女はホログラムに、シナリス星系の星図を映し出し、サリフェル・トライアを中心とした共立の支援網を強調した。
『サリフェル・トライアの脈動は、共立の技術と誠意を示す機会です。調査隊のデータを星間研究会議に公開する専用チャンネルを構築し、共立の透明性を高めます。さらに、調査隊の活動を基に、シナリス星系の環境保護に関する共立の指針を策定します。これにより、星々の信頼を築き、協力の基盤を強めます』
リナはホログラム上にチャンネルの設計図を投影し、データの流れを視覚化した。『このチャンネルは、共立の理念を星々に伝え、未来の協力を育む架け橋となるでしょう』
メレザは皆を見渡し、穏やかに頷いた。『皆さん、アリシア中将、艦隊の磁場追跡プローブと航法調整を速やかに実行してください。カイル博士、調査隊の磁場安定化コイルと磁気スキャナーの準備を急いでください。リナさん、研究会議のチャンネル構築を進めてください。サリフェル・トライアの脈動は、共立の未来を照らす光です』
―――シナリス駐留艦隊
シナリスIVの軌道上、共立の巡航艦300隻が星雲の光に照らされ、整然と隊列を組んでいた。旗艦「オルディス・セイバー」のブリッジは、青白い照明に照らされ、ホログラフィックコンソールが無数のデータを映し出していた。艦長タリス・ヴェルンは、中央の指揮席に立ち、サリフェル・トライアの磁気脈動を追跡する磁場追跡プローブのデータを確認していた。コンソールには、大陸の結晶脈から発せられる磁場が、まるで星の呼吸のように緩やかに揺らぐグラフが表示されていた。磁場は、艦の航法システムに微細な揺らぎを与えていたが、大きな影響はなかった。
タリスはクルーに向かって指示を出した。『全艦、磁場追跡プローブを展開しなさい。サリフェル・トライアの磁気脈動を秒単位で監視し、変動パターンを調査隊に即座に転送する。航法システムの自動補正を強化し、磁場の影響を完全に排除しろ。データの暗号化を徹底し、シナリス星系の安定を保つ』
副官のレオン・カルデスがコンソールを操作し、プローブの薄紫色の監視網がホログラム上で広がった。クルーたちはデータストリームを監視し、艦隊の連携を調整していた。突然、コンソールが小さな通知音を鳴らし、タリスが画面に目を凝らした。『この磁場パターンの揺らぎ…クェーサーの影響か? プローブの解析精度を上げ、変動の発生源を特定しろ。調査隊にデータを優先送信する』
レオンがデータを確認し、報告した。『艦長、磁場の揺らぎは安定していますが、周期が微妙に変化しています。サリフェル・トライアの深部で、クェーサーが反応している可能性があります』
タリスはホログラム上のサリフェル・トライアを見つめた。結晶の燐光は、軌道から見ても穏やかに輝いていた。『全艦、航法補正を継続し、磁場の影響を監視しろ。調査隊の作業を支えるため、データを途切れさせない』
ブリッジのクルーたちは迅速に動き、航法システムの補正を完了させた。磁場の揺らぎは穏やかに収まり、艦隊はシナリス星系の調和を保ちながら、調査隊との連携を深めた。オルディス・セイバーのブリッジは、静かな決意に満ちていた。
―――シナリス調査隊
シナリスIVのサリフェル・トライアは、低い山型の地形に広がる結晶の脈が、淡い燐光を放ちながらゆっくりと脈動していた。共立のシナリス調査隊は、軽量探査船「エクレル・ノヴァ」から降り立ち、磁場安定化コイルと遠隔磁気スキャナーを設置していた。隊長セリア・マルクは、結晶の近くで計測器を調整しながら、隊員たちに指示を出していた。彼女のヘルメットのバイザーには、リアルタイムの磁場データが映し出され、結晶脈の深部で微細な磁場変動が調和的なパターンを描いていることを示していた。変動は穏やかで、環境への影響は最小限だった。
セリアは隊員たちに指示を出した。『磁場安定化コイルを結晶脈の中心に設置しなさい。磁気脈動を調節し、クェーサーのサンプルを磁気スキャナーで採取する。環境への影響を最小限に抑え、データは艦隊と即座に共有する』
隊員のヴィン・テラルが、スキャナーの操作パネルを調整しながら報告した。『隊長、磁場の変動は安定していますが、周期が微妙に揺らいでいます。クェーサーが結晶と連動して、調和的なパターンを形成しているようです』
セリアは燐光を放つ結晶を見つめ、頷いた。『コイルの出力を微調整し、脈動を安定させなさい。スキャナーの深度を上げ、クェーサーのデータを収集する。共立の技術で、この大陸の脈動を未来につなげる』
隊員たちは迅速に動き、磁場安定化コイルの低く唸る音がサリフェル・トライアの静寂を満たした。突然、結晶の光が一瞬強く輝き、バイザーのデータに小さな揺らぎが記録された。ヴィンが報告した。『隊長、磁場パターンが一時的に強まった! 環境への影響はなし、データは正常だ』
セリアはバイザーのデータを確認し、穏やかに答えた。『予備のコイルを待機させ、データを解析しなさい。この揺らぎは、クェーサーの自然な反応だ。艦隊とエルニウスにデータ送信を続けて!』
コイルの調整が完了し、磁場の揺らぎは穏やかに収まった。調査隊は、結晶の脈動を安定させ、クェーサーのデータを収集し終えた。サリフェル・トライアの燐光は、静かに輝き続け、共立の技術と調和を映し出していた。
最終更新:2025年06月16日 07:01