巡りゆく星たちの中で > ラヴァンジェ諸侯連合体・貿易交渉

ピースギア・シナリス星系第二臨時本部・作戦統合室

床は黒曜石のように艶やかで、天井は星空を映したように淡く光り、壁一面に半透明の投影スクリーンが広がっている。
そこには各種物資の輸送リストや会談準備の進捗、ラヴァンジェの軌道上居留地の地図が淡い青で描かれていた。
スクリーンの前には水晶のようなテーブルが据えられ、上には資料や翻訳デバイスのサンプルが並ぶ。

綾音「……ラヴァンジェからの正式返信が届いたわ。会談は予定通り、ただし短時間で交渉をまとめたいという希望を示してきたそう。」

彼女の声は落ち着いていて、スクリーンに映る文書が淡い光を帯びながら更新される。

イズモ「戦後処理の最中で、国民の不安も収まっていないのだろう。」

(窓の外では銀白色のポータル艦がドックで微かに光を発しながら整備されているのが見える。)

カエデ「共立世界における現象魔法の運用実績も、転移者戦争での痛手も彼らの心に重く残っているようです。過度な圧力は逆効果になります。」

綾音「それは承知していますが、こちらの条件も譲れません。クオリアイト供給契約、翻訳デバイスの提供、そしてポータル航行の安全保障協定……いずれも、先方が渋る可能性が高い。」

テーブルの上で資料の一部が浮かび上がり、ホログラム化してゆらめく。

綾音「だからこそ、私たちが存在するのよ。『死よりも無力化を、戦闘よりも平和を』――これが私たちの信条。無理に軍事的譲歩を求めるのではなく、相互に利益を感じさせる提案に仕立てるわ。」

後方の壁に設置された観測装置が、まるで星が流れるような軌跡を描きながら静かに回転する。

イズモ「では、翻訳デバイスのデモンストレーションを準備するか。ラヴァンジェ側は多言語社会だ。きっと響く。」

綾音「提案するわ。携帯型翻訳デバイスや安全な通信システムを実際に体験してもらい、文化尊重を前面に出しましょう。」

カエデ「言語適応チップも用意します。彼らの文化的背景からも歓迎されるでしょう。機械兵器は最小限に抑え、アンドロイドは給仕役のみです。」

テーブル上でアンドロイドの映像が現れ、給仕姿で一礼する様子が再生される。

綾音「いい判断ね。演出も大事よ。ラヴァンジェの文化では『教師として教える』ことが貴族のステータスだと聞く。こちらが『学ぶ姿勢』を見せれば、彼らも柔らかくなるでしょう。」

イズモ「ならば、交渉チームの一人にヴァンジェ語で挨拶させるのも良いな。」

綾音「輸送艦の編成も確認しておくわ。ポータル艦エルニウスを旗艦に、護衛は控えめに。過度な武威は見せず、あくまで平和的訪問として。」

スクリーンに艦隊の配置図が現れ、光の点がゆっくりと編隊を組む。

カエデ「翻訳デバイスのほかに、現地の環境維持に役立つ簡易空気浄化装置も積み込んでおきます。軌道居留地の空調事情に配慮します。」

綾音「準備は順調ね。最後に確認するけれど……私たちの任務は未来のリスクを抑え、争いを未然に防ぐこと。交渉もまたその一環だわ。決して、我々の利益のためだけに動くものではない。」

窓の外のエルニウスが青白い光に包まれ、静かに発光している。

イズモ「もちろんだ。相手が過去に何をし、どれほどの過ちを犯したとしても、それを裁くのは我々の役目ではない。未来に禍根を残さぬよう導くだけだ。」

カエデ「そのために、私たちは技術と知恵を担い、文化的架け橋となるのです。」

綾音「そして、そのために共立世界の片隅であっても、こうして交渉の場に立つ。……無駄な血を流さないために。」

綾音「そう。無力化を、戦闘よりも平和を、管理よりも連携を。そのために私たちピースギアは存在する。――全員、出発の準備を。」

イズモ・カエデ「了解!」

スクリーンにラヴァンジェの会談会場の俯瞰映像が映し出される。そこに向けて、ポータル艦エルニウスがゆっくりと発進していく。窓の外の星々が一層輝きを増し、艦の光が星空に溶け込んでいく。
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最終更新:2025年08月02日 20:40