巡りゆく星たちの中で > 運命を変えていくということ

未来因果班詰所。
この区画は、無機質な白壁と光沢のある金属床に包まれながらも、ところどころに植物や柔らかな光を取り入れた空間設計がなされていた。厳格さと和やかさの両立を目指した場所。ここが、キューラを含む新たな仲間たちの日常の拠点である。

キューラ「ふぅ……やっと戻ってこられた。現地は緊迫してたけど、司令部に帰ると一気に安心感が出るね」
隊員A「いや、キューラ様のおかげで住民退避は大成功でしたよ。あの場で即座に変異パターンを解析できる人なんて、そうそういませんから」
キューラ「えへへ、それが僕の仕事だからね。……でも、やっぱり人の命を背負って動くのは重たいな」

そう言いながら、キューラはホログラム端末を閉じ、ふわりと椅子に座り込んだ。

そこへ、詰所の扉が開き、未来因果班の先任である分析士レオンが顔を覗かせた。

レオン「おい、新入り。初任務の感触はどうだ?」
キューラ「初任務……うん、やっぱり責任重大だったよ。でも、こういうのって慣れるものなのかな?」
レオン「慣れたら終わりだ。常に重さを感じ続けるからこそ、俺たちの判断は狂わない」
キューラ「なるほど……言葉は厳しいけど、心強いね」

翌朝。
未来因果班の面々は簡易会議を行っていた。テーブル中央には巨大なホログラムマップが浮かび、各地の異常報告やリスクシナリオが点滅している。

綾音「キューラ、昨日のシナリスⅦでの観測結果を基に、因果的な連鎖の予測を出せるか?」
キューラ「はい。解析を開始します」

彼女は目を閉じ、両手をかざすと、幾重もの数式と遺伝子構造図が空間に展開された。淡い光の粒が踊り、データがつながっていく。

キューラ「……出た。発生源付近に見られる地質の変化が、地下放射帯の不安定化と一致しています。さらに、それが局地的なウイルス活性化を招き、変異キメラの急速増殖につながった可能性が高いです」
レオン「自然災害と疫学的要素が重なった……複合災害か」
綾音「つまり、再発の可能性もあるわけだな」
キューラ「はい。ただ、このパターンは共立世界全体に波及する危険は低いと推定されます。現地の監視網を強化すれば封じ込めは十分可能です」

淡々と報告を終えるキューラだったが、その口元は僅かに不安げに揺れていた。

休憩時間。
未来因果班のラウンジでは、コーヒーの香りが漂い、談笑が飛び交っていた。

隊員B「キューラちゃん、甘いの好きだろ?このチョコレート、新しく入荷したんだ」
キューラ「わぁ!ありがとう。こういうの大好きなんだ」
レオン「まるで子供だな……情報端末の化身とは思えん」
キューラ「失礼な。僕だって“市民権を持ったひとり”なんだからね」
綾音「……だが、彼女の明るさは班にとって必要不可欠だ。張り詰めた空気ばかりでは、いざという時に心が持たない」
キューラ「えへへ……僕がここにいる意味が、少しわかった気がするよ」

数日後。
新たな任務はなく、日常的な観測と報告作業が続いていた。だが、その平穏の中にも未来因果班の重責は漂っている。

キューラ「今日のリスクシナリオ、低レベル案件ばかりだね」
レオン「油断するな。些細な芽を摘むことこそ俺たちの仕事だ」
キューラ「わかってる。でも、こうして地道に未来を守ってるって実感できるのは、ちょっと嬉しいな」

彼女は笑顔を浮かべながら、ホログラムに未来予測のグラフを描いていく。

夜。
詰所の窓からは、シナリスIVの夜景が見渡せた。
遠い星空に瞬く光を眺め、キューラは小さく呟いた。

キューラ「僕の過去は、きっと多くの人にとって“罪”の象徴なんだろう。でも……今こうして未来を守る仕事をしている。それが贖罪になるのかな……」

綾音「キューラ」
背後から穏やかな声が届いた。振り返ると、司令官が柔らかな微笑みを浮かべていた。

綾音「贖罪ではなく、役割だ。君は過去を裁かれるためではなく、未来を守るためにここにいる。忘れるな」
キューラ「……ありがとう、綾音司令」

星の光が二人を照らし、静かな夜は深まっていった。

翌日からまた、未来因果班の忙しい日常が始まる。
データ解析、住民対応、リスク予測、現地調査――その全てが彼らの「日常」であり、同時に共立世界の「未来」を形づくる基盤であった。

キューラ「今日も頑張ろう。僕たちの仕事は、誰かの笑顔に繋がるんだから」

その言葉に、班の仲間たちはそれぞれ頷き、端末に向き直った。

未来因果班の日常は、静かにしかし確実に、共立世界の運命を変えていく。

――その歩みは、まだ始まったばかりである。

最終更新:2025年08月24日 06:28