エイズ治療薬の特許取り消し

All patents should be removed on anti retroviral drugs to fight aids. 
エイズの治療に用いられる抗レトロウイルス薬の特許を無効にするべきだ。

1 現状分析、問題点
●HIV/AIDSの現状
 全世界のAIDS患者数は、WHOへの報告数で1999年11月時点で220万人。UNAIDSによると1999年12月時点でのHIV感染者数/AIDS患者数は3430万人以上であり、累積死亡者数は1880万人にのぼっています。

 現在のところ、AIDSの特効薬というのは存在しません。いくつもの治療薬が開発されていますが、それらによってAIDSが根本的に治る、ということはないのです。しかし、抗AIDS薬の開発のおかげで、かなりの長期にわたってAIDSの発症を防ぐことが可能になりました。ただし、この抗AIDS薬を使用する抗HIV療法はかなり高額のお金がかかります。2000年現在でアメリカでこの治療1年間にかかる費用は約1万2000ドルに達しているのです。
 年間150万円。日本やアメリカなどの先進国の人間であればなんとかなる値段なのかもしれません。お金が無くとも国の庇護を仰ぐことでなんとかなるケースも多いでしょう。

 問題は一番多くの感染者/患者がいるアフリカ諸国です。
 発展途上国の1人あたりの年間医療費は4ドルといわれ、とても治療薬を買うような余裕はありません。

 *レトロウイルス科(retrovirus)とは、RNAウイルスの種類の総称。ウィルス核酸は、一本鎖RNAの+鎖である。ヒト免疫不全ウイルス(ヒトめんえきふぜんウイルス、英: Human Immunodeficiency Virus, HIV)は、レトロウイルス科レンチウイルス亜科に属する。

●AIDS治療薬と特許


 AIDS治療薬の値段が高いのは特許のライセンス料が原因です。医薬品の開発には数百億というお金がかかると言われています。その開発資金を回収するには、ライセンス料をある程度高く設定しないわけにはいかないわけです。
 特許のライセンス料を気にせず、原価のみで医薬品を作成した場合、抗エイズ薬は年間1万2000ドルかかるところを1000ドルで作成することができます。2001年3月、南アフリカにおいて欧米の大手製薬会社39社が南アフリカ政府を訴える裁判を起こしました。これは南アフリカ政府がエイズ薬の安価な複製品を輸入・製造することを認める法律を作成したことに対して起こされたものです。
 この複製品はコピー薬などと呼ばれますが、これは特許登録されて独占的に製造・販売されている医薬品と同成分・同方法での製造をされた薬のことです。ノーブランド薬ともいわれ、特許に対するライセンス料を支払わずに製造されるため、製造費用のみしかかからず、独占的に販売されている医薬品よりもかなり安い値段で提供されます。

●問題点
 -高額な開発資金の回収
 -経済的原因でAIDS治療薬を購入できない人々への支援


2 メリット・デメリットとそれに関する情報

●メリット
 -エイズ発症の抑止
 -途上国の財政負担の解消(医療費等)

●デメリット
 -製薬会社の経済損失(倒産する恐れ)
 -先進国の税収が減る
 -法律上の問題

●関連情報
 前述した南ア政府が輸入したノーブランド薬はブラジル・インドなどで製造されており、ブラジルで製造されたものを使った場合、上で述べたように年間1000ドルで治療が行えるというわけです。

 このコピー薬は適法なものとはいえないと思う人も多いかもしれません。しかしブラジルやインドで製造される分には特許法違反、ともいえないのです。
 ブラジルの場合、特許法の中に「国の緊急事態と見なされる場合には、特許よりも強制実施権を優先する」ことを認める規定があります。エイズの場合それが致死性の病気であるが故に、その感染を抑え、発病者を減らすための薬製造は国家の緊急事態であるからやむなし、とされたわけです。ブラジルの財政では高い金を払ってライセンス薬を手に入れてエイズ治療に当てるだけの費用が捻出できなかったという事情もあります。
 インドの場合は、特許法に「食べ物や健康に関する事項の特許を禁止する」という規定が盛り込まれています。このため医薬品は特許の対象外であり、作成しても特に違法とはならないわけです。

 そもそも特許法というものは国内法ですからその国内でしか独占権は発生しません。たいていの場合複数の国に特許を申請して特許取得を行うため、世界中で独占権が生じるかのように見えるだけです。

 実は、95年1月に発効した「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)の27条によって、物質特許(食品・化学物質・医薬品などに与えられる特許)をWTO加盟国は保護するようにしなければならない、と定められました。
 これによってインドがWTOに加盟しようとするのならば物質特許を保護しなければならなくなり、その特許法の改正が行われれば、現在つくられているコピー薬は欧米諸国によって特許を取得されて違法品となります。TRIPS協定は発展途上国に対しては10年間の経過措置をとっていますから、インドでの違法となるのは2005年以降ということになります。これはWTO加盟国に対して発効されるものであるため、インドがWTOに加盟しないのであれば効果を現しませんが、インドは加盟予定のようであるため、違法となることになると思われています。

 ブラジルの方法に関してですが、TRIPS協定には31条に強制実施権に関する規定があります。この強制実施権とは権利者の意に反して当局から強要されるライセンス契約のことを言います。わかりやすく言えば、発展途上国などの政府が、先進国の大企業などによって独占使用されている特許ライセンスを、強制的に自国で使うことを認めさせる、という権利です。この権利は各国が「国家の緊急事態」などの際に使うことができるように定められている(実際は色々と条件が存在するがここでは述べない)ため、ブラジルの持つ強制実施権の制度は、その程度にもよりますが許されるということになります。
 また、この強制実施権に関しては国連も認めています。ブラジル政府は1998年から独自のノーブランド薬を製造して国内のHIV感染者の症状のコントロールを行っていますが、この方法を国連は他の国々に対して推奨しました。さらに2001年4月に国連は53カ国中52カ国の賛成によって、「必要性が極めて高い薬剤の開発のためには特許を無視することもやむを得ない」という考え方を認めています。唯一の反対者はアメリカで、エイズの特許を握っている国としては反対せざるを得なかったと思われます。この投票は公式な決議というわけではありませんが、それでも強いアピールであることは確かです。


 このような状況や国際世論の批判を受けて、2001年4月19日、大手製薬会社側は訴えを取り下げました。「人命より利益優先」という批判の高まりや、業界イメージへのダメージが大きすぎると言うことから判断されたと思われます。
 さらにアフリカなどの発展途上国に対して無償や原価に近い値段で薬を提供することも決定されています。業界全体のイメージを回復するため、ということとコピー薬に対する対抗がその根底にあるようです。また、発展途上国においてはもともと高価な薬を買うだけの余裕はないことから、原価で提供したところで企業に対して損益を与えることはないという判断もあると思われます。



3.崩壊の予想と提案

 上で見たように、現在エイズの治療薬は格安の値段で各発展途上国で提供されようとしています。また、先進各国からのエイズ対策基金の寄付も行われています。
 しかし、これはとりあえずの対策に過ぎません。この状況を長年にわたって続けることは不可能といってよく、崩壊への危機を多分に抱えているといえます。

 危機の一番の理由というのが、薬の開発には長い時間と巨額の資金が必要という事実です。現在、1つの薬を開発するために10年間の時間と200億円の費用が必要と言われています。そして製薬会社も営利企業ですからその資金を回収しなければならないし、利益を上げなければなりません。そうしなければ会社がつぶれてしまうことになるでしょう。
 開発資金の回収のためには、今の体制下ではライセンス料の徴収という形が一番一般的な方法です。これによって製薬会社は開発資金を回収し、次の薬品製作のための資金を得ます。しかし、エイズ治療薬に関する現在の状況は、この方法を否定、とは言わないまでもかなり制限しています。

 特許権は企業や開発者たちに対して発明に対するインセンティブを与えるものです。この制度は、せっかく巨額の資金を用いて開発しても、すぐに市場にコピー品が出回るようでは開発資金を回収できない、それでは誰も開発などを行おうとしなくなって技術の発達を阻害する、ということから、開発者や企業に対して開発したものに対する独占権を与えたものです。
 現在のエイズ治療薬に関する状況が続くようであれば、近いうちにどの企業も開発資金を投入しなくなる可能性があります。利益を得られないものに対して資金を投入することは企業にとって自殺行為に近いからです。そのようになっては本末転倒ではないでしょうか。
 HIV感染者を助けるため、としてやったことが結果としてHIVを治療するための薬の開発を止めることになりかねないのですから。

 今のところ製薬会社の利益は先進国の患者に対して使われている薬からライセンス料として回収されているようです。先進国の患者が--ひいては先進国の医療保険が--発展途上国の患者に対する薬を購入しているという状況です。先進国では高額で売られているが、発展途上国では低額もしくは無償で提供されているのを見て、果たして先進国の患者たちは納得できるのでしょうか。特に生活ぎりぎりで治療を行っている人は、少しでも薬代を安くして欲しいと思うのが当たり前でしょう。


 この状況の改善のための対策ですが、現在の体制下でこれを行うのは至難の業と思われます。このまま状況が進むと、最終的に命に関わるような薬に関しては原価に近い低額で各国で提供され、開発者に対しては先進国の保健医療費から開発費用が支払われる、というような形になりそうに思います。というよりもそれ以外に先進国/発展途上国にかかわらず治療薬を安く提供する、という方法はないでしょう。もちろんのことながらこの方法では「国家が営利企業を養うのか」という批判が出てくるのは避けられないと思われます。



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最終更新:2009年10月02日 13:14
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