第589話:フリーダムヴァインパイア(最強の吸血鬼) 作:◆5Mp/UnDTiI
運が悪かった――とは言えないのかも知れない。
運が良かった――とも言えないのかも知れない。
序盤から凍らせ屋や風の騎士など、戦闘能力で言えば参加者の中でも上位に食い込める連中を味方に付けられた。支給品は外れ以外の何物でもなく、その後も彼女が使えそうな武器には恵まれなかった。
塞翁が馬。幸福と不幸はコインの表裏のように背中合わせで、誰も片面だけは手に入れられない。
そんなことは幼少の頃から理解できている。彼女の人生は最初からそうだった。親に捨てられ、それが切欠で世界を裏から牛耳る組織に身を置き、そしてあまりにも大きな嘘をつき続けなくてはならなくなった――
(くだらない)
九連内朱巳は、己の運命をそう断じる。
幸運に順番などつけられない。特にこんなイかれた島では、人並みの幸福基準など当てに出来ない。
そもそも、朱巳はいままで運頼みも神頼みもしたことがない。
自分の力だけを頼りにしてきた。合成人間のような力も、MPLSのような才能もなく、あるのは傷塗れの心と二枚舌。そんなもので世界を相手にし、そして渡り合ってきた。
(だからこの状況も、あたしは切り抜けてみせる)
九連内朱巳は前を見る。
自分の向けた懐中電灯に照らし出されるのは奇妙な二人組み。互いの手を皮の紐で繋いだ、自分と似たような年頃の少女達。
「んー? どうしちゃったのかな? 仲良くしようって言っただけなんだけど……怖がらせちゃった?」
「"カルンシュタイン"さん、口元に血がべったりだからねえ」
手を括った片割れに指摘され、カルンシュタインとやらが「おっと」などと呟き、口元をごしごしと擦り始める。
それでも全身に染み付いた血の臭いは取れない。出会った瞬間、朱巳が咄嗟に警戒態勢をとったのもそんな理由からだった。
B-5東部の森林地帯。時刻は二日目を刻んでから数十分が過ぎていた。
九連内朱巳がその時間、その場所にいたのは――なんのことはなく、探索の結果とダナティアの放送を聞いたからだ。
あの殺し屋に左手を砕かれて、その処置を施すために、死ぬほどの激痛に絶えながらE-1の商店街を探索した。
運良く薬局を見つけることは出来たが、だがさすがにモルヒネなどの強力な鎮痛剤があるわけもない。
結局、市販されている成分の薄い鎮痛剤を多量摂取することで誤魔化すことにした。だが、それを長く続ければ遠からず体機能に異常が出る。
必要なのは、適切な薬品と器具――そういうわけで次に向かったのはB-4の病院であったが、辿り着いてみればあるのは瓦礫の山ばかり。どうやら地滑りで流されたらしい。
(どういう造りをしてたのよ……)
地盤工事をしていなかったのだろうか。こんな悪趣味な島に放り込んでおいて、それが手抜き工事で片手間に造られた代物だというのならある意味噴飯ものだが。
そんなことを思いながら病院跡を眺めている時だった。例のゲーム打破を誓う放送が聞こえたのは。
ダナティア・アリール・アンクルージュ。放送の主はそう名乗り、この世界からの脱出を目指すと宣戦布告する。それを聞いて、
(ありゃあ――おっかない奴ね)
霧間凪。死んでしまった自分の旧友を思い出す。
あれは魔女の声だ。込められた意志は本物で、だけど相手には容赦なく、そして全てを曝け出すでもない――
力を持ち、人を動かす事に慣れ、更に嘘の吐き方まで心得ている。そんな女性の声だった。
(さて、あとはあの放送に対して、あたしがどう動くかだけど)
無視できるほど、あの放送の影響は小さいものではない。
何が起こるにせよ、大勢の人間が放送が行われたあの地点――C-6を中心に動くことになる。
朱巳は可能性を打算する。あの放送を行った集団に関して演説から分かる事項は二つ。
(ひとつ。あいつらには確かに力がある。あれをやれば人が集まってくるなんてのは馬鹿でも分かることだわ。それを捌ききる自信を持てるってことは、おそらく情報も持っている。自分が集められた参加者のパワーバランスの中でどの程度の位置にいるか、ということをおおよそでも掴んでいるってことでしょうね。そうすると、あの12人って馬鹿みたいに多い人数もあながちはったりって訳じゃないのかもね――確実についてる嘘は途中で挟まれた銃声くらいか。あれは自作自演でしょうし)
ダナティアの演説を遮る様に挟まれた銃声。耳にした誰しもに、昼頃にあったあの悲惨な断末魔を思い出させ、だがそれを跳ね除けることで希望を示した。
だからこそ捻くれ者にして希代の嘘吐き九連内朱巳は、それをあまりにもタイミングが良すぎると感じたのだ。
狙撃を許さない環境での演説方法など、あの放送主とそれが擁する集団ならいくらでも思いつけただろう。例の雲を吹き払うパフォーマンスを行うにしても、もっと安全な方法などいくらでもあった。ならば彼らはわざわざ危険な方法をとったということになる。理由もなくそんなことをする程の愚か者であるという印象はもてなかった。ならばその理由とは?
無論、そんなものはマッチポンプに決まっている。
(そこから分かること二つ目。ゲームからの脱出を説いてたけど、かちかちに凝り固まった正義の味方、ってわけでもないみたいね。目的の為なら手段を選ばない奴よ、あれは)
敵を前にすれば容赦なく殺せるだろう。慈愛の徒というわけでは決して無い。
(方向性が真逆ってのが救いだけど、性質的には乗った奴と同じだわ。下手を打つとこっちも危ないわね――何も考えずに接触するのは馬鹿のやることか)
だからこそ、九連内朱巳は思考する。その上で自分はどうするべきか。
(まあ、放送をした集団に接触することは吝かではないわね――あたしには武器も薬も、何もかもが不足してるし。取引できるのは情報くらいか。例の刻印に関するメモを手土産に、さらにあいつらとの橋渡しをちらつかせれば、腹の底の本意が何であれ殺されるこたぁないでしょ。問題はゲームに乗った連中の動きね)
乗った連中の全員がマンションに集中するというわけではないだろう。
だが殺人鬼がひとりも例の放送に興味を抱かないということも有り得ない。
左手を砕かれ、逃走手段に制限のある今の状態では、殺人者との遭遇は高い確率で死に繋がる。
結局、取ったのは中庸案だった。00:00に行われる第四回放送を聴いてから決める。
それまでは自分のように医薬品を求める者が訪れる可能性のある病院から離れ、C-6に近い場所で身を潜めていようと思ったのだが――
結局、計画は御破算になった。
ダナティアは四回目の放送で名を告げられた。彼女たちの予想通り殺人鬼たちは誘蛾灯に吸い寄せられ、そして彼女たちの予想を超えて強大だったということだろう。これで例の集団に接触するのはさらにリスクが高くなってしまった。
とはいえ、その程度のことでへこたれる朱巳ではない。ならば次に目指すのは火乃香達との待ち合わせ場所であるH-1の神社。
そう思い立ち、身を隠していた木陰から歩き出して――
「――はぁい、お嬢さん。ちょっと遊んでいかないかい?」
――現在に至る。
「最初は安いポン引きかと思ったけどね……」
「あはは。まあ可愛い女の子だったから、フレンドリーに話しかけてみようと思ってさ」
けたけたと笑いながら"カルンシュタイン"が軽薄な口調で嘯く。
だがその視線はじっとりと湿っていて、朱巳の体を無遠慮に這い回っていた。
(危険だ)
目の前の少女に対して、朱巳はそう判断する。血の臭い、この島でお互いを繋ぎ合う異常性、態度。その全てが常人ならざるものの証。
左手が砕けている以上、仮に相手が合成人間のような超身体能力を持ち合わせておらずとも、追いかけっこでは敵わない。薬を使っても痛みは消えないし、薬の副作用は朱巳から正常な運動能力を奪っている。故に彼女は逃走ではなく会話を選んだ。
「口元に血ね……返り血にしては場所が妙だけど、カニバリズムに興じてでもいたのかしら?」
「んー、惜しいっ。お肉のほうには興味ないんだけど――」
爛々と眼を紅く光らせながら、カルシュタインと呼ばれた方が応じる。
「ちょーっと血を分けて貰えたらなー、なんて」
(吸血鬼? 確かに名前から予想は出来たけど)
カルンシュタイン伯爵夫人。吸血鬼としての知名度はドラキュラに次ぐだろう。さほど読書家でもない朱巳でも知っている。
無論、創作の中の登場人物として、だ。少なくとも朱巳の知る世界には本物の吸血鬼などいない。朱巳にとって現実の吸血鬼とは吸血病患者を揶揄する言葉でしかない。
だが魔法使いが闊歩するような空間で、目の前の少女をただのヴァンパイアフィリアと断定するのは危険に過ぎる。
(本物のカーミラ・カルンシュタイン……?)
この島ではそれも有り得ないことではなかった。ただ、日本人離れした美形であるとはいえどう見てもこの"カルンシュタイン"は西洋系の人間にみえなかったが。
「あ、でも待って。貴女みたいな可愛い女の子のお肉には興味があるから――主に性的な意味で」
朱巳の顔が僅かに引きつる。
"吸血鬼カーミラ"を騙るための演技――というわけではないらしい。その粘っこい視線には確かにおぞましい欲望が含まれていた。
(ああそうか、もしかして紐で繋がれた方は……)
朱巳がそちらの方に同情めいた視線をやると、繋がれた少女は首を傾げて微笑んで見せた。その笑みが困ったような、あるいは悲しんでいるような色を携えているように見えたのは――朱巳の主観だったのかもしれないが。
とまれ、視線を吸血鬼に戻す。もしも相手が襲ってきたら抵抗は不可能だろう。
故に、九連内朱巳は逃亡を完全に選択肢から排除した。
眼を怪しく輝かせながらにじり寄ってくる吸血鬼に、だが物怖じもせずに相対し続ける。
「趣味はともかく……本物の吸血鬼ってわけ?」
「そうだよ。貴女はわる~い吸血鬼にみつかっちゃったってわけ」
肯定を返してくる吸血鬼。嘘――ではないだろう。あまり意味のない嘘だ。仮に吸血鬼でなくとも、現在の朱巳なら五体満足な普通の人間というだけで十分に制圧できる。
だが想定内だ。朱巳はにっこりと笑みを返すと、その肯定に対してさらに言葉を返す。
「ふうん。ま、珍しいっちゃ珍しいか。つってもあたしの知り合いにも"人食い"がいるけどね――」
「……」
朱巳が放った言葉に、ぴたりと"カルンシュタイン"の足が止まった。
象る表情は疑念。自身の行動が失策だったのではないかという不安と、相手の手の内を探ろうとする警戒。
「そうね。あいつと同じくらい強いんだったら……確かにこういう不敵な行動にもでれるわよねぇ。だって、強いんですものねぇ――」
その疑念を深めるように、朱巳は言葉と態度を継いでいく。
相手の心理を読み取るのは朱巳の十八番だ。相手の行動から逆算して、すでに聖がどういう思考からこの行動にでたのか完全に見破っている。
(こいつは害意をもっているにも関わらず、完全に無警戒であたしに話しかけた。あたしを無害と断じていて、しかも自分の力に自信を持っている。
だけどあたしが無力っていうのはどこまでいってもただの憶測に過ぎない。あたしは外でもこの島でもそういう風に演じてきた。九連内朱巳の力量を完全に把握できる情報はここにはない。
さらにこいつは戦闘用合成人間みたいな戦いのプロ、ってわけでもないみたいね。それなりに戦闘経験があれば、どんなに自分が強くても警戒は怠らない。つまり力を得たのはごく最近。だから経験に裏打ちされた自信も無い)
朱巳の知識内で無理やり類型分けするなら、後天的に能力を開花させたMPLSに近い。それもかつて彼女が対決した内村杜斗――フェイルセイフのような、目立ちすぎて機構に目を付けられるタイプだ。
もっとも成り代わるために一家族を皆殺しにして罠まで仕掛けたフェイルセイフに比べれば、この"カルンシュタイン"はさらにお粗末。だからこそ付け込む隙はある。
朱巳が所謂"異常"と近しい存在であると匂わせ、さらに"カルンシュタイン"自身の力量を再認識させるような言葉を放ち、力量差を再推測させる。結果として、目論見通り吸血鬼の歩みが止まった。
しかしまだだ。これは相手を迷わせただけ。
状況はさほど変わっていない。立場が逆転したわけではない。襲い掛かられれば朱巳が負けるという状況は依然変わりなく、変わったのは相手が迷った、という一点に尽きる。このまま時間を与えれば、敵はすぐに迷いを振り払って襲い掛かってくるだろう。
だからこそ、さらに言葉を重ねる。迷いの道に、言葉を九連内朱巳にとって都合の良い道標として打ち込み、思考を操作する。いかに尤もらしい道標を造れるかが嘘吐きの技量だ。
「――何にしても、まずは自己紹介しましょ、吸血鬼さん。お互い、利用し合う価値はあるかもしれないし。
あたしの名前は九連内朱巳。フレンドリーに呼びたいなら、"金曜日に降る雨"とか"傷物の赤"とか渾名で呼んでも良いけれど。そっちはカルンシュタインでいいの?」
「……聖でいいよ。佐藤聖。で、こっちの子が詠子ちゃん」
「名字は十叶っていうんだけど、私のことも好きに呼んでいいよ」
「聖に詠子ね。ま、どの程度の付き合いになるか分からないけど――」
あくまでも余裕の笑みを浮かべて、朱巳は目の前の二人に応対する。
「――ま、ひとつよろしくってことで」
運が良かった――とも言えないのかも知れない。
序盤から凍らせ屋や風の騎士など、戦闘能力で言えば参加者の中でも上位に食い込める連中を味方に付けられた。支給品は外れ以外の何物でもなく、その後も彼女が使えそうな武器には恵まれなかった。
塞翁が馬。幸福と不幸はコインの表裏のように背中合わせで、誰も片面だけは手に入れられない。
そんなことは幼少の頃から理解できている。彼女の人生は最初からそうだった。親に捨てられ、それが切欠で世界を裏から牛耳る組織に身を置き、そしてあまりにも大きな嘘をつき続けなくてはならなくなった――
(くだらない)
九連内朱巳は、己の運命をそう断じる。
幸運に順番などつけられない。特にこんなイかれた島では、人並みの幸福基準など当てに出来ない。
そもそも、朱巳はいままで運頼みも神頼みもしたことがない。
自分の力だけを頼りにしてきた。合成人間のような力も、MPLSのような才能もなく、あるのは傷塗れの心と二枚舌。そんなもので世界を相手にし、そして渡り合ってきた。
(だからこの状況も、あたしは切り抜けてみせる)
九連内朱巳は前を見る。
自分の向けた懐中電灯に照らし出されるのは奇妙な二人組み。互いの手を皮の紐で繋いだ、自分と似たような年頃の少女達。
「んー? どうしちゃったのかな? 仲良くしようって言っただけなんだけど……怖がらせちゃった?」
「"カルンシュタイン"さん、口元に血がべったりだからねえ」
手を括った片割れに指摘され、カルンシュタインとやらが「おっと」などと呟き、口元をごしごしと擦り始める。
それでも全身に染み付いた血の臭いは取れない。出会った瞬間、朱巳が咄嗟に警戒態勢をとったのもそんな理由からだった。
B-5東部の森林地帯。時刻は二日目を刻んでから数十分が過ぎていた。
九連内朱巳がその時間、その場所にいたのは――なんのことはなく、探索の結果とダナティアの放送を聞いたからだ。
あの殺し屋に左手を砕かれて、その処置を施すために、死ぬほどの激痛に絶えながらE-1の商店街を探索した。
運良く薬局を見つけることは出来たが、だがさすがにモルヒネなどの強力な鎮痛剤があるわけもない。
結局、市販されている成分の薄い鎮痛剤を多量摂取することで誤魔化すことにした。だが、それを長く続ければ遠からず体機能に異常が出る。
必要なのは、適切な薬品と器具――そういうわけで次に向かったのはB-4の病院であったが、辿り着いてみればあるのは瓦礫の山ばかり。どうやら地滑りで流されたらしい。
(どういう造りをしてたのよ……)
地盤工事をしていなかったのだろうか。こんな悪趣味な島に放り込んでおいて、それが手抜き工事で片手間に造られた代物だというのならある意味噴飯ものだが。
そんなことを思いながら病院跡を眺めている時だった。例のゲーム打破を誓う放送が聞こえたのは。
ダナティア・アリール・アンクルージュ。放送の主はそう名乗り、この世界からの脱出を目指すと宣戦布告する。それを聞いて、
(ありゃあ――おっかない奴ね)
霧間凪。死んでしまった自分の旧友を思い出す。
あれは魔女の声だ。込められた意志は本物で、だけど相手には容赦なく、そして全てを曝け出すでもない――
力を持ち、人を動かす事に慣れ、更に嘘の吐き方まで心得ている。そんな女性の声だった。
(さて、あとはあの放送に対して、あたしがどう動くかだけど)
無視できるほど、あの放送の影響は小さいものではない。
何が起こるにせよ、大勢の人間が放送が行われたあの地点――C-6を中心に動くことになる。
朱巳は可能性を打算する。あの放送を行った集団に関して演説から分かる事項は二つ。
(ひとつ。あいつらには確かに力がある。あれをやれば人が集まってくるなんてのは馬鹿でも分かることだわ。それを捌ききる自信を持てるってことは、おそらく情報も持っている。自分が集められた参加者のパワーバランスの中でどの程度の位置にいるか、ということをおおよそでも掴んでいるってことでしょうね。そうすると、あの12人って馬鹿みたいに多い人数もあながちはったりって訳じゃないのかもね――確実についてる嘘は途中で挟まれた銃声くらいか。あれは自作自演でしょうし)
ダナティアの演説を遮る様に挟まれた銃声。耳にした誰しもに、昼頃にあったあの悲惨な断末魔を思い出させ、だがそれを跳ね除けることで希望を示した。
だからこそ捻くれ者にして希代の嘘吐き九連内朱巳は、それをあまりにもタイミングが良すぎると感じたのだ。
狙撃を許さない環境での演説方法など、あの放送主とそれが擁する集団ならいくらでも思いつけただろう。例の雲を吹き払うパフォーマンスを行うにしても、もっと安全な方法などいくらでもあった。ならば彼らはわざわざ危険な方法をとったということになる。理由もなくそんなことをする程の愚か者であるという印象はもてなかった。ならばその理由とは?
無論、そんなものはマッチポンプに決まっている。
(そこから分かること二つ目。ゲームからの脱出を説いてたけど、かちかちに凝り固まった正義の味方、ってわけでもないみたいね。目的の為なら手段を選ばない奴よ、あれは)
敵を前にすれば容赦なく殺せるだろう。慈愛の徒というわけでは決して無い。
(方向性が真逆ってのが救いだけど、性質的には乗った奴と同じだわ。下手を打つとこっちも危ないわね――何も考えずに接触するのは馬鹿のやることか)
だからこそ、九連内朱巳は思考する。その上で自分はどうするべきか。
(まあ、放送をした集団に接触することは吝かではないわね――あたしには武器も薬も、何もかもが不足してるし。取引できるのは情報くらいか。例の刻印に関するメモを手土産に、さらにあいつらとの橋渡しをちらつかせれば、腹の底の本意が何であれ殺されるこたぁないでしょ。問題はゲームに乗った連中の動きね)
乗った連中の全員がマンションに集中するというわけではないだろう。
だが殺人鬼がひとりも例の放送に興味を抱かないということも有り得ない。
左手を砕かれ、逃走手段に制限のある今の状態では、殺人者との遭遇は高い確率で死に繋がる。
結局、取ったのは中庸案だった。00:00に行われる第四回放送を聴いてから決める。
それまでは自分のように医薬品を求める者が訪れる可能性のある病院から離れ、C-6に近い場所で身を潜めていようと思ったのだが――
結局、計画は御破算になった。
ダナティアは四回目の放送で名を告げられた。彼女たちの予想通り殺人鬼たちは誘蛾灯に吸い寄せられ、そして彼女たちの予想を超えて強大だったということだろう。これで例の集団に接触するのはさらにリスクが高くなってしまった。
とはいえ、その程度のことでへこたれる朱巳ではない。ならば次に目指すのは火乃香達との待ち合わせ場所であるH-1の神社。
そう思い立ち、身を隠していた木陰から歩き出して――
「――はぁい、お嬢さん。ちょっと遊んでいかないかい?」
――現在に至る。
「最初は安いポン引きかと思ったけどね……」
「あはは。まあ可愛い女の子だったから、フレンドリーに話しかけてみようと思ってさ」
けたけたと笑いながら"カルンシュタイン"が軽薄な口調で嘯く。
だがその視線はじっとりと湿っていて、朱巳の体を無遠慮に這い回っていた。
(危険だ)
目の前の少女に対して、朱巳はそう判断する。血の臭い、この島でお互いを繋ぎ合う異常性、態度。その全てが常人ならざるものの証。
左手が砕けている以上、仮に相手が合成人間のような超身体能力を持ち合わせておらずとも、追いかけっこでは敵わない。薬を使っても痛みは消えないし、薬の副作用は朱巳から正常な運動能力を奪っている。故に彼女は逃走ではなく会話を選んだ。
「口元に血ね……返り血にしては場所が妙だけど、カニバリズムに興じてでもいたのかしら?」
「んー、惜しいっ。お肉のほうには興味ないんだけど――」
爛々と眼を紅く光らせながら、カルシュタインと呼ばれた方が応じる。
「ちょーっと血を分けて貰えたらなー、なんて」
(吸血鬼? 確かに名前から予想は出来たけど)
カルンシュタイン伯爵夫人。吸血鬼としての知名度はドラキュラに次ぐだろう。さほど読書家でもない朱巳でも知っている。
無論、創作の中の登場人物として、だ。少なくとも朱巳の知る世界には本物の吸血鬼などいない。朱巳にとって現実の吸血鬼とは吸血病患者を揶揄する言葉でしかない。
だが魔法使いが闊歩するような空間で、目の前の少女をただのヴァンパイアフィリアと断定するのは危険に過ぎる。
(本物のカーミラ・カルンシュタイン……?)
この島ではそれも有り得ないことではなかった。ただ、日本人離れした美形であるとはいえどう見てもこの"カルンシュタイン"は西洋系の人間にみえなかったが。
「あ、でも待って。貴女みたいな可愛い女の子のお肉には興味があるから――主に性的な意味で」
朱巳の顔が僅かに引きつる。
"吸血鬼カーミラ"を騙るための演技――というわけではないらしい。その粘っこい視線には確かにおぞましい欲望が含まれていた。
(ああそうか、もしかして紐で繋がれた方は……)
朱巳がそちらの方に同情めいた視線をやると、繋がれた少女は首を傾げて微笑んで見せた。その笑みが困ったような、あるいは悲しんでいるような色を携えているように見えたのは――朱巳の主観だったのかもしれないが。
とまれ、視線を吸血鬼に戻す。もしも相手が襲ってきたら抵抗は不可能だろう。
故に、九連内朱巳は逃亡を完全に選択肢から排除した。
眼を怪しく輝かせながらにじり寄ってくる吸血鬼に、だが物怖じもせずに相対し続ける。
「趣味はともかく……本物の吸血鬼ってわけ?」
「そうだよ。貴女はわる~い吸血鬼にみつかっちゃったってわけ」
肯定を返してくる吸血鬼。嘘――ではないだろう。あまり意味のない嘘だ。仮に吸血鬼でなくとも、現在の朱巳なら五体満足な普通の人間というだけで十分に制圧できる。
だが想定内だ。朱巳はにっこりと笑みを返すと、その肯定に対してさらに言葉を返す。
「ふうん。ま、珍しいっちゃ珍しいか。つってもあたしの知り合いにも"人食い"がいるけどね――」
「……」
朱巳が放った言葉に、ぴたりと"カルンシュタイン"の足が止まった。
象る表情は疑念。自身の行動が失策だったのではないかという不安と、相手の手の内を探ろうとする警戒。
「そうね。あいつと同じくらい強いんだったら……確かにこういう不敵な行動にもでれるわよねぇ。だって、強いんですものねぇ――」
その疑念を深めるように、朱巳は言葉と態度を継いでいく。
相手の心理を読み取るのは朱巳の十八番だ。相手の行動から逆算して、すでに聖がどういう思考からこの行動にでたのか完全に見破っている。
(こいつは害意をもっているにも関わらず、完全に無警戒であたしに話しかけた。あたしを無害と断じていて、しかも自分の力に自信を持っている。
だけどあたしが無力っていうのはどこまでいってもただの憶測に過ぎない。あたしは外でもこの島でもそういう風に演じてきた。九連内朱巳の力量を完全に把握できる情報はここにはない。
さらにこいつは戦闘用合成人間みたいな戦いのプロ、ってわけでもないみたいね。それなりに戦闘経験があれば、どんなに自分が強くても警戒は怠らない。つまり力を得たのはごく最近。だから経験に裏打ちされた自信も無い)
朱巳の知識内で無理やり類型分けするなら、後天的に能力を開花させたMPLSに近い。それもかつて彼女が対決した内村杜斗――フェイルセイフのような、目立ちすぎて機構に目を付けられるタイプだ。
もっとも成り代わるために一家族を皆殺しにして罠まで仕掛けたフェイルセイフに比べれば、この"カルンシュタイン"はさらにお粗末。だからこそ付け込む隙はある。
朱巳が所謂"異常"と近しい存在であると匂わせ、さらに"カルンシュタイン"自身の力量を再認識させるような言葉を放ち、力量差を再推測させる。結果として、目論見通り吸血鬼の歩みが止まった。
しかしまだだ。これは相手を迷わせただけ。
状況はさほど変わっていない。立場が逆転したわけではない。襲い掛かられれば朱巳が負けるという状況は依然変わりなく、変わったのは相手が迷った、という一点に尽きる。このまま時間を与えれば、敵はすぐに迷いを振り払って襲い掛かってくるだろう。
だからこそ、さらに言葉を重ねる。迷いの道に、言葉を九連内朱巳にとって都合の良い道標として打ち込み、思考を操作する。いかに尤もらしい道標を造れるかが嘘吐きの技量だ。
「――何にしても、まずは自己紹介しましょ、吸血鬼さん。お互い、利用し合う価値はあるかもしれないし。
あたしの名前は九連内朱巳。フレンドリーに呼びたいなら、"金曜日に降る雨"とか"傷物の赤"とか渾名で呼んでも良いけれど。そっちはカルンシュタインでいいの?」
「……聖でいいよ。佐藤聖。で、こっちの子が詠子ちゃん」
「名字は十叶っていうんだけど、私のことも好きに呼んでいいよ」
「聖に詠子ね。ま、どの程度の付き合いになるか分からないけど――」
あくまでも余裕の笑みを浮かべて、朱巳は目の前の二人に応対する。
「――ま、ひとつよろしくってことで」
◇◇◇
「ま、あたしの知り合いにも"人食い"がいるけどね」
そんな言葉を前にして。
(失敗したかなぁ)
吸血鬼はぽりぽりと頬を掻きながらそんなことを述懐していた。
"カルンシュタイン"――佐藤聖が九連内朱巳を標的として定めたのは、彼女がまさに手頃な獲物であるように見えたからである。
かつて聖と共に行動していた海野千絵が提唱した危険度判別法。それに照らし合わせてみれば、現代的な装いの朱巳は十分に安牌と判断できた。
おまけに手負いで、眼に見えて危険な武器を携帯しておらず、そして――これが聖にとっては最大のポイントだったが――気の強そうな美人さんでもあった。
ダナティアが死者に名を連ねたことで危険性が減り、行動が大胆になっていたのも影響している。聖が完全に無警戒で声をかけたのはそういった理由の積み重ねがあったからだ。
(志摩子のお墓を探しにいくまでの暇つぶしと間食目的だったんだけど……)
これまで得てきた情報を統合すれば、藤堂志摩子の遺体があるのは例のマンション付近であることは推測できる。
だがすでに聖は危険人物として例の集団に認知されている可能性が高い。その程度のことは聖も理解できていた。リナやシャナといった人物とすでに遭遇しており、被害を与えてしまっている。無論この二人が例の集団のメンバーなのかは分からないが、可能性は高いように思えた。最初に遭遇したのはマンションの近くであったし、そもそも仮に二人がメンバーでなくとも、あれが放送の通りの大集団であるのなら相応に情報は収集しているだろう。
結論として、聖はマンションに向かうという予定を先延ばしにした。それよりはC-6付近のエリアで網を張って、通りかかる可愛い女の子の相手をしている方が安全という面では良い。
それが佐藤聖が吸血鬼になることで得た自信の表れであり、また自信の限界でもあった。
だがその見極めを間違ったかもしれない。
(そういえばシャナちゃんもそうだったっけ。よく考えれば千絵の知り合いも"悪魔"とか出すって言ってたし……現代的な服装してれば安全、ってあんまり判断基準にならないのかな)
もっとも奇妙な格好をしている連中は十中八九聖が想像も出来ない能力や技術を有しているので、少しでも危険性の低い相手を狙うという意味では間違っていないのだが。
それはともかくとして、目の前の少女に集中する。
黒髪黒目の典型的な日本人としての造詣。見た目は普通の女の子だ。どことなく大人びた雰囲気があるが、ともすれば自分より年下かもしれない。仮にリリアンに在籍していたとしても違和感は感じないだろう。
だが彼女は知り合いに"人食い"――自分のような存在がいると言っていた。そのたった一言が、もしかしたら少女自身もそれと近しいものなのではないかと聖に想起させる。
以前、考えなしに襲ったシャナには危うく殺されかけた。その経験が、聖の行動を鈍らせる。
(――本当に何か"力"を持ってる?)
その可能性はゼロではないだろう。
だが僅かな可能性に怯えていては生きてはいけない。特に、吸血鬼という身の上であれば。
朱美自身にそういう力があるとは明示されていないのだ。
それだけだったら虎の威を借る狐――しかも虎の存在さえ不確かな虚勢に過ぎない。
だがそれを確信できないのは、虚勢を張っているようには見えない自然体の表情と態度。まるで自分が襲いかかってもさほど問題にはならないとでもいうような。
確かめたいのなら、とりあえず襲ってみればいい。相手は懐中電灯を携えている。つまり人並み以上に夜目は利かないと言うこと。吸血鬼の自分なら、闇に乗じて逃げ延びることは難しくないだろう。そして何より我慢は健康によくないのだ。ふわふわのケーキを前にした子供のように、吸血鬼となった聖のただでさえ薄っぺらい忍耐力は一秒ごとに削れていった。
(よし決めた)
論理3、欲望7の割合で決断すると、聖は踏み出しの軸とすべき右足に力を込め――
「――何にしても、まずは自己紹介しましょ、吸血鬼さん。お互い、利用し合う価値はあるかもしれないし。
あたしの名前は九連内朱巳。フレンドリーに呼びたいなら、"金曜日に降る雨"とか"傷物の赤"とか渾名で呼んでも良いけれど。そっちはカルンシュタインでいいの?」
――さらにその出鼻を挫かれる。
「……聖でいいよ」
軸足に込めた力を霧散させ、聖は胡散臭そうな眼差しで九連内朱巳と名乗った少女を再度見やった。相手は例の自信に満ち満ちた瞳でこちらをみつめている。まるでこちらの心中を読み取られているかのような不快感。
(……確かに、血を吸うのは話してからでも遅くないけど)
だから襲うのを保留した。相手の力が分からなかったから、それを知ることが出来るかもしれない機会を設けるのは悪いことではない。
――だけど、それは本当に?
頭の隅を疑念が掠める。相手がそんな自分の思考を見透かしているような気がしてならない。
もしも自分がそういう風に考えることを予測されているなら、相手の思い通りに行動するのは愚かだろう。ならば、
(無視して襲っちゃおっか?)
そんな考えが鎌首をもたげ――そしてすぐに消える。
それは今更、少々間抜けに過ぎるというものだった。こうして自己紹介を交わし、会話をする態勢を整えてしまったのだから。
ちなみに相手が迷っている最中により飲みやすい条件の選択肢を提示するのも、お互いに自己紹介をして交渉の価値ある相手と認めさせるのも、同じくネゴシエイターがよく使う交渉のテクニックのひとつである。無論、そのことを聖が知るはずも無いが。
(まあどっちにしても、話してから吸っちゃえばいいよね)
吸わないという選択肢はない。九連内朱巳は上玉であり、吸血鬼になった佐藤聖は欲望に素直だ。
会話中隙を見て襲い掛かるか、会話の後、別れる振りをして背後を見せたところを襲い掛かるか。経過は違えど、吸うと決めたのだから結果は同じだ。
思考を纏めて、聖は満足げにひとつ頷き、
「じゃ、朱巳ちゃん。早速だけど――吸っていい?」
「いきなりそれ?」
呆れたように朱巳が呻くのに、聖は笑って返した。
「だって私が吸血鬼だっていうのはもうばれちゃってるし」
「あんたが自分からばらしたんでしょうが」
「そうだっけ? どっちでもいいけど、とにかくばれちゃってるんなら、この会話の焦点は私が貴女の血を吸うか吸わないか、ってとこじゃない?」
「あら、吸わないでくれるって選択肢もあるの?」
「それは朱巳ちゃん次第かな。何か力を持ってるんならそもそも怖くて吸えないし、出来れば敵対はしたくないけれど」
嘘だった。
吸血鬼である以上、もはや人間は餌でしかなく、ならば敵対しないで済ませることの出来る選択肢は無い。特に自分のことを吸血鬼と知っている人物であれば。分かり合えるのは同じ吸血鬼だけだろう。そして吸血鬼にするには血を吸うしかない。
もっとも快楽主義者と化した聖はそこまで考えていないが。とにかく相手が可愛い女の子なら吸ってこの愉悦を共有したい。それだけである。
「――もしも何か面白い力を持ってるんなら、見せてくれない? 私の気が変わるかもよ?」
軽いジャブでも放つ心地で、聖が言葉を突き出した。
力の有無の確認。実は十万馬力の怪力を持つだとか、眼から緑色の怪光線がでるだとか。何でもいいが、こちらにとって彼女は脅威となりうるかどうか。聖が朱美に対して唯一警戒している点だ。
聖は特に弁が立つわけでも、頭が回るわけでもない。だから下手に相手を陥れるような策略は巡らさず、そのままストレートに疑問を口にした。
強者は奸計に頼らずとも良い。不必要というわけではないが、いまの聖にはそれを補って余りある腕力がある。この場に置いて、聖は絶対的な強者だ。
対して、弱者は言葉を弄するしかない。
「……あたしの"能力"を見せるのは別に構わないけど」
少し間を空けて朱巳が返答する。なにやら空中で手首を捻るような動きを見せながら、
「これ、例えば物を壊したりするには向いてないのよね――人相手にしか使えないから、聖か詠子か、どっちかに的になって貰わなきゃならないんだけど」
(……そうきたか)
聖は苦笑を洩らした。無論、素直に切り札を晒してもらえるとは思っていなかったが。
もしも朱巳の言っていることが本当なら、無論却下である――自分は当然のこと、お気に入りと化した詠子を無駄な危険に晒すつもりはさらさらない。
だが嘘だと断定できる要素も無い。聖が見る限り、朱巳の態度に怪しいところは一欠けらも見当たらなかった。
「それは勘弁だね。でも、どんな風な能力なのかっていうのも教えてくれないのかな?」
「とっておきだからね。ただで教えるっていうのも何だか損したみたいじゃない?」
「じゃあね――教えてくれたら、見逃してあげるっていったら?」
にっこりと極上の微笑みを浮かべ、聖は朱巳に甘言を囁いた。
「……本当に? そっちにメリットなんかひとつもないじゃない」
「そういうわけでもないよ。朱巳ちゃんが何か力を持ってるっていうのは本当みたいだし、だったら怖くて襲ったり出来ないからね。あとはどういう力なのか教えてくれたら私の知的好奇心も満たされるから、見逃してもいいかなぁ、って気分にもなるじゃない」
非常食もあるしね――と聖は繋がっている詠子を抱き寄せた。
詠子が困ったような表情で身じろぎするが、そんな彼女の反応に愉悦を覚え、聖はさらに体を擦り付ける。
そんな痴態を思うがまま晒しつつ、聖は横目で朱巳を観察していた。
ここに来て九連内朱巳と名乗った少女は考え込んでいる。自分の言った条件を吟味しているのだろう。
(だけどごめんね……それも嘘なんだ)
逃す気は無く、相手の言動の虚実を見破ることも不可能。となれば、聖ができるのはただひとつ。
油断させ、隙を突いて襲う。もとより、最初からそうすべきだったのだ。吸血鬼になって気が大きくなっていた。だから真正面から声を掛けるなどという愚行を犯したが、本来、聖は真正面から戦うタイプではない。
見逃すふりをして、背後を見せたところを襲う。詠子を抱き寄せたのも、繋いだ紐に余裕をもたせるためだ。
無論リスクはあるが、彼女の欲望はそのリスクを許容する。
(それに能力を見せられないってことは、そんなに便利な能力じゃないんじゃないかな?)
少なくとも、真正面から聖を撃退できる能力ではないのだろう。それが分かれば十分。
やがて朱巳が思考を終え、顔を上げた。聖は彼女の口が開かれるのをにこにこと笑いながら待つ。とにかくこの交渉は早々に終わらせて、背後から襲ってしまおうと決めながら。
だが朱巳の口から出たのは更なる質問だった。
「――その前に、あんたのことも教えてくれない? さっきからあたしばっかり質問されてる気がするんだけど?」
「構わないよ。もちろん内容次第だけどね」
聖は即断した。そもそももう交渉するつもりがないのだ。質問を2、3許したところで自分の優位は変わらない。
「あんたはゲームに乗ってるの?」
「んーん? 別に積極的に人を殺すつもりはないよ。火の粉は振り払うし、血は貰わなきゃならないけどね」
その過程で何人か殺してしまっているが、それはまあ勘定に含めないでいいだろう、と胸中で自己弁護する。
「あんたに噛まれて吸血鬼になった子って、他にもいるわけ?」
「うん、二人くらい。ひとりはさっきの放送で呼ばれちゃったけどね――ところで二つも質問を許したんだし、そろそろこっちの質問に答えてくれてもいいんじゃないかな?」
答えて欲しいというよりは、さっさとこの会話を終わらせたい心算で聖は質問を止めた。
朱巳は肩を竦めると、存外素直に「分かったわ」と負傷していない方の手をひらひらと振って見せた。
そしてそのまま、その手を肩よりも上に掲げ、
「降参するわ――血を吸わせてあげる」
「へ?」
あっさりと、投降を宣言した。
そんな言葉を前にして。
(失敗したかなぁ)
吸血鬼はぽりぽりと頬を掻きながらそんなことを述懐していた。
"カルンシュタイン"――佐藤聖が九連内朱巳を標的として定めたのは、彼女がまさに手頃な獲物であるように見えたからである。
かつて聖と共に行動していた海野千絵が提唱した危険度判別法。それに照らし合わせてみれば、現代的な装いの朱巳は十分に安牌と判断できた。
おまけに手負いで、眼に見えて危険な武器を携帯しておらず、そして――これが聖にとっては最大のポイントだったが――気の強そうな美人さんでもあった。
ダナティアが死者に名を連ねたことで危険性が減り、行動が大胆になっていたのも影響している。聖が完全に無警戒で声をかけたのはそういった理由の積み重ねがあったからだ。
(志摩子のお墓を探しにいくまでの暇つぶしと間食目的だったんだけど……)
これまで得てきた情報を統合すれば、藤堂志摩子の遺体があるのは例のマンション付近であることは推測できる。
だがすでに聖は危険人物として例の集団に認知されている可能性が高い。その程度のことは聖も理解できていた。リナやシャナといった人物とすでに遭遇しており、被害を与えてしまっている。無論この二人が例の集団のメンバーなのかは分からないが、可能性は高いように思えた。最初に遭遇したのはマンションの近くであったし、そもそも仮に二人がメンバーでなくとも、あれが放送の通りの大集団であるのなら相応に情報は収集しているだろう。
結論として、聖はマンションに向かうという予定を先延ばしにした。それよりはC-6付近のエリアで網を張って、通りかかる可愛い女の子の相手をしている方が安全という面では良い。
それが佐藤聖が吸血鬼になることで得た自信の表れであり、また自信の限界でもあった。
だがその見極めを間違ったかもしれない。
(そういえばシャナちゃんもそうだったっけ。よく考えれば千絵の知り合いも"悪魔"とか出すって言ってたし……現代的な服装してれば安全、ってあんまり判断基準にならないのかな)
もっとも奇妙な格好をしている連中は十中八九聖が想像も出来ない能力や技術を有しているので、少しでも危険性の低い相手を狙うという意味では間違っていないのだが。
それはともかくとして、目の前の少女に集中する。
黒髪黒目の典型的な日本人としての造詣。見た目は普通の女の子だ。どことなく大人びた雰囲気があるが、ともすれば自分より年下かもしれない。仮にリリアンに在籍していたとしても違和感は感じないだろう。
だが彼女は知り合いに"人食い"――自分のような存在がいると言っていた。そのたった一言が、もしかしたら少女自身もそれと近しいものなのではないかと聖に想起させる。
以前、考えなしに襲ったシャナには危うく殺されかけた。その経験が、聖の行動を鈍らせる。
(――本当に何か"力"を持ってる?)
その可能性はゼロではないだろう。
だが僅かな可能性に怯えていては生きてはいけない。特に、吸血鬼という身の上であれば。
朱美自身にそういう力があるとは明示されていないのだ。
それだけだったら虎の威を借る狐――しかも虎の存在さえ不確かな虚勢に過ぎない。
だがそれを確信できないのは、虚勢を張っているようには見えない自然体の表情と態度。まるで自分が襲いかかってもさほど問題にはならないとでもいうような。
確かめたいのなら、とりあえず襲ってみればいい。相手は懐中電灯を携えている。つまり人並み以上に夜目は利かないと言うこと。吸血鬼の自分なら、闇に乗じて逃げ延びることは難しくないだろう。そして何より我慢は健康によくないのだ。ふわふわのケーキを前にした子供のように、吸血鬼となった聖のただでさえ薄っぺらい忍耐力は一秒ごとに削れていった。
(よし決めた)
論理3、欲望7の割合で決断すると、聖は踏み出しの軸とすべき右足に力を込め――
「――何にしても、まずは自己紹介しましょ、吸血鬼さん。お互い、利用し合う価値はあるかもしれないし。
あたしの名前は九連内朱巳。フレンドリーに呼びたいなら、"金曜日に降る雨"とか"傷物の赤"とか渾名で呼んでも良いけれど。そっちはカルンシュタインでいいの?」
――さらにその出鼻を挫かれる。
「……聖でいいよ」
軸足に込めた力を霧散させ、聖は胡散臭そうな眼差しで九連内朱巳と名乗った少女を再度見やった。相手は例の自信に満ち満ちた瞳でこちらをみつめている。まるでこちらの心中を読み取られているかのような不快感。
(……確かに、血を吸うのは話してからでも遅くないけど)
だから襲うのを保留した。相手の力が分からなかったから、それを知ることが出来るかもしれない機会を設けるのは悪いことではない。
――だけど、それは本当に?
頭の隅を疑念が掠める。相手がそんな自分の思考を見透かしているような気がしてならない。
もしも自分がそういう風に考えることを予測されているなら、相手の思い通りに行動するのは愚かだろう。ならば、
(無視して襲っちゃおっか?)
そんな考えが鎌首をもたげ――そしてすぐに消える。
それは今更、少々間抜けに過ぎるというものだった。こうして自己紹介を交わし、会話をする態勢を整えてしまったのだから。
ちなみに相手が迷っている最中により飲みやすい条件の選択肢を提示するのも、お互いに自己紹介をして交渉の価値ある相手と認めさせるのも、同じくネゴシエイターがよく使う交渉のテクニックのひとつである。無論、そのことを聖が知るはずも無いが。
(まあどっちにしても、話してから吸っちゃえばいいよね)
吸わないという選択肢はない。九連内朱巳は上玉であり、吸血鬼になった佐藤聖は欲望に素直だ。
会話中隙を見て襲い掛かるか、会話の後、別れる振りをして背後を見せたところを襲い掛かるか。経過は違えど、吸うと決めたのだから結果は同じだ。
思考を纏めて、聖は満足げにひとつ頷き、
「じゃ、朱巳ちゃん。早速だけど――吸っていい?」
「いきなりそれ?」
呆れたように朱巳が呻くのに、聖は笑って返した。
「だって私が吸血鬼だっていうのはもうばれちゃってるし」
「あんたが自分からばらしたんでしょうが」
「そうだっけ? どっちでもいいけど、とにかくばれちゃってるんなら、この会話の焦点は私が貴女の血を吸うか吸わないか、ってとこじゃない?」
「あら、吸わないでくれるって選択肢もあるの?」
「それは朱巳ちゃん次第かな。何か力を持ってるんならそもそも怖くて吸えないし、出来れば敵対はしたくないけれど」
嘘だった。
吸血鬼である以上、もはや人間は餌でしかなく、ならば敵対しないで済ませることの出来る選択肢は無い。特に自分のことを吸血鬼と知っている人物であれば。分かり合えるのは同じ吸血鬼だけだろう。そして吸血鬼にするには血を吸うしかない。
もっとも快楽主義者と化した聖はそこまで考えていないが。とにかく相手が可愛い女の子なら吸ってこの愉悦を共有したい。それだけである。
「――もしも何か面白い力を持ってるんなら、見せてくれない? 私の気が変わるかもよ?」
軽いジャブでも放つ心地で、聖が言葉を突き出した。
力の有無の確認。実は十万馬力の怪力を持つだとか、眼から緑色の怪光線がでるだとか。何でもいいが、こちらにとって彼女は脅威となりうるかどうか。聖が朱美に対して唯一警戒している点だ。
聖は特に弁が立つわけでも、頭が回るわけでもない。だから下手に相手を陥れるような策略は巡らさず、そのままストレートに疑問を口にした。
強者は奸計に頼らずとも良い。不必要というわけではないが、いまの聖にはそれを補って余りある腕力がある。この場に置いて、聖は絶対的な強者だ。
対して、弱者は言葉を弄するしかない。
「……あたしの"能力"を見せるのは別に構わないけど」
少し間を空けて朱巳が返答する。なにやら空中で手首を捻るような動きを見せながら、
「これ、例えば物を壊したりするには向いてないのよね――人相手にしか使えないから、聖か詠子か、どっちかに的になって貰わなきゃならないんだけど」
(……そうきたか)
聖は苦笑を洩らした。無論、素直に切り札を晒してもらえるとは思っていなかったが。
もしも朱巳の言っていることが本当なら、無論却下である――自分は当然のこと、お気に入りと化した詠子を無駄な危険に晒すつもりはさらさらない。
だが嘘だと断定できる要素も無い。聖が見る限り、朱巳の態度に怪しいところは一欠けらも見当たらなかった。
「それは勘弁だね。でも、どんな風な能力なのかっていうのも教えてくれないのかな?」
「とっておきだからね。ただで教えるっていうのも何だか損したみたいじゃない?」
「じゃあね――教えてくれたら、見逃してあげるっていったら?」
にっこりと極上の微笑みを浮かべ、聖は朱巳に甘言を囁いた。
「……本当に? そっちにメリットなんかひとつもないじゃない」
「そういうわけでもないよ。朱巳ちゃんが何か力を持ってるっていうのは本当みたいだし、だったら怖くて襲ったり出来ないからね。あとはどういう力なのか教えてくれたら私の知的好奇心も満たされるから、見逃してもいいかなぁ、って気分にもなるじゃない」
非常食もあるしね――と聖は繋がっている詠子を抱き寄せた。
詠子が困ったような表情で身じろぎするが、そんな彼女の反応に愉悦を覚え、聖はさらに体を擦り付ける。
そんな痴態を思うがまま晒しつつ、聖は横目で朱巳を観察していた。
ここに来て九連内朱巳と名乗った少女は考え込んでいる。自分の言った条件を吟味しているのだろう。
(だけどごめんね……それも嘘なんだ)
逃す気は無く、相手の言動の虚実を見破ることも不可能。となれば、聖ができるのはただひとつ。
油断させ、隙を突いて襲う。もとより、最初からそうすべきだったのだ。吸血鬼になって気が大きくなっていた。だから真正面から声を掛けるなどという愚行を犯したが、本来、聖は真正面から戦うタイプではない。
見逃すふりをして、背後を見せたところを襲う。詠子を抱き寄せたのも、繋いだ紐に余裕をもたせるためだ。
無論リスクはあるが、彼女の欲望はそのリスクを許容する。
(それに能力を見せられないってことは、そんなに便利な能力じゃないんじゃないかな?)
少なくとも、真正面から聖を撃退できる能力ではないのだろう。それが分かれば十分。
やがて朱巳が思考を終え、顔を上げた。聖は彼女の口が開かれるのをにこにこと笑いながら待つ。とにかくこの交渉は早々に終わらせて、背後から襲ってしまおうと決めながら。
だが朱巳の口から出たのは更なる質問だった。
「――その前に、あんたのことも教えてくれない? さっきからあたしばっかり質問されてる気がするんだけど?」
「構わないよ。もちろん内容次第だけどね」
聖は即断した。そもそももう交渉するつもりがないのだ。質問を2、3許したところで自分の優位は変わらない。
「あんたはゲームに乗ってるの?」
「んーん? 別に積極的に人を殺すつもりはないよ。火の粉は振り払うし、血は貰わなきゃならないけどね」
その過程で何人か殺してしまっているが、それはまあ勘定に含めないでいいだろう、と胸中で自己弁護する。
「あんたに噛まれて吸血鬼になった子って、他にもいるわけ?」
「うん、二人くらい。ひとりはさっきの放送で呼ばれちゃったけどね――ところで二つも質問を許したんだし、そろそろこっちの質問に答えてくれてもいいんじゃないかな?」
答えて欲しいというよりは、さっさとこの会話を終わらせたい心算で聖は質問を止めた。
朱巳は肩を竦めると、存外素直に「分かったわ」と負傷していない方の手をひらひらと振って見せた。
そしてそのまま、その手を肩よりも上に掲げ、
「降参するわ――血を吸わせてあげる」
「へ?」
あっさりと、投降を宣言した。
◇◇◇
「へ?」
間抜けな声を上げ、体から力を抜いていく聖を眺めながら、
(やっぱり、襲う気だったみたいね――)
朱巳は挙げていた手を降ろしながら溜息をついた。
もとよりここから無傷で逃げ出すことは諦めていた。相手が論理ではなく、感情によって動くタイプだと悟ってからは。
そもそも会話が続かないのだ。相手はこちらの血を吸うという一点に集中していて、しかも途中からは明らかに交渉を放棄していた。
交渉の放棄――それが意味することはひとつ。
(あたしの負けってこと)
話が通じない以上、自分に出来ることはない。"鍵を掛ける"ことすら難しいだろう。
また屍やヒースロゥという護衛を失ったいまの状況では暴力に訴えることもできない。つまりは完全なチェックメイト。
だから朱美は迷わず次善の策を打った。それが最後に発した一連の質問。
そこから確認したかった事項はひとつだけ。即ち――
「な、なんで――?」
「あんたに噛まれることによってふりかかるデメリットより、噛まれることによって得られるメリットの方が大きいからよ」
動揺を隠せない聖に、朱美は何でもないという風にそう答えた。
そう、朱美が確認したかったのは吸血鬼に噛まれることで生まれるデメリットの確認。
吸血鬼の特性というのは、例えば創作の上でも作品によって様々な違いを見せる。銀の武器は有効か無効か、心臓に杭を刺すだけで死ぬのか、それともその後に然るべき儀式が必要なのか、等々。ほとんど伝承とは別物のような吸血鬼すら存在する。
朱美が恐れたのは噛まれることによって自分の思考が操作される可能性についてだった。その疑念を晴らすために投げかけたのが件の質問である。
(この吸血鬼は交渉を放棄していた――だからこそ、さっきの答えは嘘偽りのないものになる。嘘を付くよりは真実を話す方が簡単だもの。そしてその情報から考察してみるに、噛まれて吸血鬼になっても意識を支配される、っていうことはないみたい)
聖が吸血鬼になったのはこの島に来てからだと朱美は睨んでいる。もしも聖の"親"の吸血鬼が噛んだ相手の意識を支配できるのなら、自分の護衛や手駒として使う筈だ。少なくとも、こんな風に無意味な行動には走らせない。
(もちろん"親"の吸血鬼が合理的な性格をしてなくて、愉快犯的に吸血鬼を増やしているってことも有り得るけど)
しかし聖は違うだろう。愉快犯的に増やしはするかもしれないが、もしも相手の思考を支配できるのなら、自分の傍に置いておくはずだ。自信に溢れている様で、その底に沈殿しているのは寂寥。この吸血鬼は仲間を求めているのだと、朱巳はここまでの会話で察していた。
そして思考が支配されないというのなら、九連内朱巳にとって吸血鬼にされてしまうというのは大した問題ではない。傷がまたひとつ増えるだけ。そしてその傷は朱巳の致命傷にはならない。むしろ武器となる力が手に入るのならありがたいくらいだ。
対して、聖はあーだのうーだの、意味のない呻き声を上げながら空中に視線を彷徨わせていた。依存することに佐藤聖はもう躊躇いを覚えない。だが朱巳の申し出に、彼女は咄嗟に返事を返せないでいた。
当然といえば当然である。さっきまで散々腹の探りあいをしていた相手からの降伏。そこに何か裏があるのではないかと疑うのは理に適っている。
(そこからこの吸血鬼が血を吸ってから"念のため"にあたしを殺そうとする可能性はあるわね)
ゲームには乗っていない――しかしそれは殺人をしないということと同義ではない。
積極的には殺さないだけで、必要とあらばその手段を行使することに躊躇いを覚えない人種というのはいる。
「もちろん、ただってわけじゃないわ」
だから朱巳は一歩を踏み出した。聖が混乱を何割かおさめ、その瞳に警戒の色を帯びさせる。
だが朱巳は止まらなかった。さらに足を進め、手を伸ばせば触れられる間合いからさらに詰め、そして距離を零にした。
「む、ぅ――!?」
聖が驚愕の声を上げようとして、だがそれは瞬時にくぐもった音に成り果てる。
ぴちゃり、と二人の接点から濡れた響きが森の中に落ちた。唾液同士が混合される音。
一瞬、聖の手が強張った。それは人間の筋肉や骨格など一薙ぎにしてしまえる怪物の膂力――だが、すぐにその強張りは消える。水音が二度、三度と繰り返し響く内、吸血鬼の体は脱力していき、やがて見た目通りの少女の柔らかさを取り戻す。
「――ぷは」
時間にしてみれば一分も続かなかっただろう。朱巳が顔を引き、聖に向けて悪戯めいた笑みを差し向ける。
「あ――」
そこで、聖の理性の糸が切れた。
壊さないように細心の注意を払いながら、しかし乱暴に朱巳の体を押し倒す。朱巳は特に抵抗もせずにそれを受け入れた。
どさり、と二人分の体重が地面に転がる音。仰向けに寝そべった朱巳の体を征服するように、聖がその上に馬乗りになりさらに唇を求めようと顔を近づけ、
「――がちゃん」
耳元で囁かれた、そんな声に停止する。
横目で見やる。聖の即頭部に添えられる様に、そこには朱巳の手があった。まるで何か発条の様なものを巻くかのような手つき。
「教えてあげる。あたしが持ってるのは『その時の感情を固定する』っていう力なの。そう、まるでコインロッカーの鍵を掛けるみたいにね――」
奇妙な動作と言葉。混乱と欲情で乱された聖の心に、傷物の赤の言葉がまるで蛇のように侵入していく。
朱巳は役目を終えた右腕を平手に戻し、聖の頬を優しく撫で上げた。
「貴女がいま抱いた"あたしが欲しい"という感情に鍵を掛けた。貴女はもうあたしのことを忘れられないし、あたしを見捨てることも出来ない」
「……それを教えてくれるのが、血を吸うことへの報酬?」
熱く濡れた光を湛える聖の双眸。その奥の感情を読み取り、朱巳は首を横にふった。相手が欲しているであろう台詞を推察し、口にする。
「違うわ。あたしがこれからずっと一緒にいてあげる。決して貴女を独りにはしないわ。それが、貴女への報酬。"死が二人を分かつまで"――とでも言ってみる?」
「……素敵」
とろりと表情を融かし、聖は寝そべったまま朱巳の胸の中に己の顔を埋めた。その頭を朱巳の手がゆっくりと愛撫する。
(――と、まあこんなもんか。これで殺されるこたぁないでしょ)
表情にも態度にも微塵も出さず、朱巳は頭の中だけで溜息を完結させた。
彼女の能力"レイン・オン・フライデイ"は所詮、暗示に過ぎない。だから成功させるためには仕込みが必要だ。その為の情婦染みた演技。思考を混乱させ、自分という存在を受け入れさせた。フェイルセイフ事件の時にも使った手管。
(……ま、これから"されること"については本意じゃないけど……でも、それでも大したことじゃない)
自分は"傷物の赤"なのだから。
すでにこの身は傷だらけ。それでも、それが生命に届く致命的な一撃でない限り、彼女は彼女であり続ける。
それに、この演技はどうしても必要なものでもあった。
好みの対象に対する、見境のない求愛――それは結局、愛を求める心理の裏返し。
佐藤聖という人物が元々持っていた他者に対する依存性と、吸血鬼という種族特有の渇き。練り合わさったそれらが誘発する衝動である。
この女に暗示をかけるには、その衝動を上手く利用する必要があった。
結果は成功。朱巳は見事に"鍵"を掛けて見せた。これでもはや佐藤聖はその内面に何か劇的な変化が起きない限り、朱巳に対して好意を抱き続けるだろう。
(――心中を隠しもせず、周囲に対して垂れ流す。それは確かに強者の権利だわ)
強者との戦いのみに価値を見出す統和機構の"最強"。
自分に対して淫靡な感情を恥もせず向けてきた佐藤聖。
彼らは力を持つが故に、自分のように嘘をつき続ける必要がない。常に胸襟をきっちりと閉じ合わせることはしなくていい。
しかし、それでも。
(その程度の強さ、この九連内朱巳にゃ全く持って通用しないけどね――)
間抜けな声を上げ、体から力を抜いていく聖を眺めながら、
(やっぱり、襲う気だったみたいね――)
朱巳は挙げていた手を降ろしながら溜息をついた。
もとよりここから無傷で逃げ出すことは諦めていた。相手が論理ではなく、感情によって動くタイプだと悟ってからは。
そもそも会話が続かないのだ。相手はこちらの血を吸うという一点に集中していて、しかも途中からは明らかに交渉を放棄していた。
交渉の放棄――それが意味することはひとつ。
(あたしの負けってこと)
話が通じない以上、自分に出来ることはない。"鍵を掛ける"ことすら難しいだろう。
また屍やヒースロゥという護衛を失ったいまの状況では暴力に訴えることもできない。つまりは完全なチェックメイト。
だから朱美は迷わず次善の策を打った。それが最後に発した一連の質問。
そこから確認したかった事項はひとつだけ。即ち――
「な、なんで――?」
「あんたに噛まれることによってふりかかるデメリットより、噛まれることによって得られるメリットの方が大きいからよ」
動揺を隠せない聖に、朱美は何でもないという風にそう答えた。
そう、朱美が確認したかったのは吸血鬼に噛まれることで生まれるデメリットの確認。
吸血鬼の特性というのは、例えば創作の上でも作品によって様々な違いを見せる。銀の武器は有効か無効か、心臓に杭を刺すだけで死ぬのか、それともその後に然るべき儀式が必要なのか、等々。ほとんど伝承とは別物のような吸血鬼すら存在する。
朱美が恐れたのは噛まれることによって自分の思考が操作される可能性についてだった。その疑念を晴らすために投げかけたのが件の質問である。
(この吸血鬼は交渉を放棄していた――だからこそ、さっきの答えは嘘偽りのないものになる。嘘を付くよりは真実を話す方が簡単だもの。そしてその情報から考察してみるに、噛まれて吸血鬼になっても意識を支配される、っていうことはないみたい)
聖が吸血鬼になったのはこの島に来てからだと朱美は睨んでいる。もしも聖の"親"の吸血鬼が噛んだ相手の意識を支配できるのなら、自分の護衛や手駒として使う筈だ。少なくとも、こんな風に無意味な行動には走らせない。
(もちろん"親"の吸血鬼が合理的な性格をしてなくて、愉快犯的に吸血鬼を増やしているってことも有り得るけど)
しかし聖は違うだろう。愉快犯的に増やしはするかもしれないが、もしも相手の思考を支配できるのなら、自分の傍に置いておくはずだ。自信に溢れている様で、その底に沈殿しているのは寂寥。この吸血鬼は仲間を求めているのだと、朱巳はここまでの会話で察していた。
そして思考が支配されないというのなら、九連内朱巳にとって吸血鬼にされてしまうというのは大した問題ではない。傷がまたひとつ増えるだけ。そしてその傷は朱巳の致命傷にはならない。むしろ武器となる力が手に入るのならありがたいくらいだ。
対して、聖はあーだのうーだの、意味のない呻き声を上げながら空中に視線を彷徨わせていた。依存することに佐藤聖はもう躊躇いを覚えない。だが朱巳の申し出に、彼女は咄嗟に返事を返せないでいた。
当然といえば当然である。さっきまで散々腹の探りあいをしていた相手からの降伏。そこに何か裏があるのではないかと疑うのは理に適っている。
(そこからこの吸血鬼が血を吸ってから"念のため"にあたしを殺そうとする可能性はあるわね)
ゲームには乗っていない――しかしそれは殺人をしないということと同義ではない。
積極的には殺さないだけで、必要とあらばその手段を行使することに躊躇いを覚えない人種というのはいる。
「もちろん、ただってわけじゃないわ」
だから朱巳は一歩を踏み出した。聖が混乱を何割かおさめ、その瞳に警戒の色を帯びさせる。
だが朱巳は止まらなかった。さらに足を進め、手を伸ばせば触れられる間合いからさらに詰め、そして距離を零にした。
「む、ぅ――!?」
聖が驚愕の声を上げようとして、だがそれは瞬時にくぐもった音に成り果てる。
ぴちゃり、と二人の接点から濡れた響きが森の中に落ちた。唾液同士が混合される音。
一瞬、聖の手が強張った。それは人間の筋肉や骨格など一薙ぎにしてしまえる怪物の膂力――だが、すぐにその強張りは消える。水音が二度、三度と繰り返し響く内、吸血鬼の体は脱力していき、やがて見た目通りの少女の柔らかさを取り戻す。
「――ぷは」
時間にしてみれば一分も続かなかっただろう。朱巳が顔を引き、聖に向けて悪戯めいた笑みを差し向ける。
「あ――」
そこで、聖の理性の糸が切れた。
壊さないように細心の注意を払いながら、しかし乱暴に朱巳の体を押し倒す。朱巳は特に抵抗もせずにそれを受け入れた。
どさり、と二人分の体重が地面に転がる音。仰向けに寝そべった朱巳の体を征服するように、聖がその上に馬乗りになりさらに唇を求めようと顔を近づけ、
「――がちゃん」
耳元で囁かれた、そんな声に停止する。
横目で見やる。聖の即頭部に添えられる様に、そこには朱巳の手があった。まるで何か発条の様なものを巻くかのような手つき。
「教えてあげる。あたしが持ってるのは『その時の感情を固定する』っていう力なの。そう、まるでコインロッカーの鍵を掛けるみたいにね――」
奇妙な動作と言葉。混乱と欲情で乱された聖の心に、傷物の赤の言葉がまるで蛇のように侵入していく。
朱巳は役目を終えた右腕を平手に戻し、聖の頬を優しく撫で上げた。
「貴女がいま抱いた"あたしが欲しい"という感情に鍵を掛けた。貴女はもうあたしのことを忘れられないし、あたしを見捨てることも出来ない」
「……それを教えてくれるのが、血を吸うことへの報酬?」
熱く濡れた光を湛える聖の双眸。その奥の感情を読み取り、朱巳は首を横にふった。相手が欲しているであろう台詞を推察し、口にする。
「違うわ。あたしがこれからずっと一緒にいてあげる。決して貴女を独りにはしないわ。それが、貴女への報酬。"死が二人を分かつまで"――とでも言ってみる?」
「……素敵」
とろりと表情を融かし、聖は寝そべったまま朱巳の胸の中に己の顔を埋めた。その頭を朱巳の手がゆっくりと愛撫する。
(――と、まあこんなもんか。これで殺されるこたぁないでしょ)
表情にも態度にも微塵も出さず、朱巳は頭の中だけで溜息を完結させた。
彼女の能力"レイン・オン・フライデイ"は所詮、暗示に過ぎない。だから成功させるためには仕込みが必要だ。その為の情婦染みた演技。思考を混乱させ、自分という存在を受け入れさせた。フェイルセイフ事件の時にも使った手管。
(……ま、これから"されること"については本意じゃないけど……でも、それでも大したことじゃない)
自分は"傷物の赤"なのだから。
すでにこの身は傷だらけ。それでも、それが生命に届く致命的な一撃でない限り、彼女は彼女であり続ける。
それに、この演技はどうしても必要なものでもあった。
好みの対象に対する、見境のない求愛――それは結局、愛を求める心理の裏返し。
佐藤聖という人物が元々持っていた他者に対する依存性と、吸血鬼という種族特有の渇き。練り合わさったそれらが誘発する衝動である。
この女に暗示をかけるには、その衝動を上手く利用する必要があった。
結果は成功。朱巳は見事に"鍵"を掛けて見せた。これでもはや佐藤聖はその内面に何か劇的な変化が起きない限り、朱巳に対して好意を抱き続けるだろう。
(――心中を隠しもせず、周囲に対して垂れ流す。それは確かに強者の権利だわ)
強者との戦いのみに価値を見出す統和機構の"最強"。
自分に対して淫靡な感情を恥もせず向けてきた佐藤聖。
彼らは力を持つが故に、自分のように嘘をつき続ける必要がない。常に胸襟をきっちりと閉じ合わせることはしなくていい。
しかし、それでも。
(その程度の強さ、この九連内朱巳にゃ全く持って通用しないけどね――)
◇◇◇
(――凄い。"鍍金の弾丸"さんは強いんだ)
自ら吸血鬼になってやると宣言した九連内朱巳、その魂のカタチを見つめながら、十叶詠子は闇夜に微笑を浮かべた。
統和機構のアクシズをして、『世界を統御するには強すぎる』と評価された九連内朱巳の精神。魔女はそれを垣間見た。
"鍍金の弾丸"――それが彼女の魂のカタチだ。
表面に蒸着された鍍金はすでに幾重もの傷を受けてお世辞にも綺麗とはいえない。だが彼女の魂は弾丸だ。鍍金がいくら剥がれたところで意味はない。弾丸としての性質が失われるまで――標的をしとめるまで、彼女の魂は健在であり続ける。
弾丸は飛ぶことを迷ったりはしない。曲がらず、常に自分であり続けようとする。魔女がいままで見た中でも最上位に位置する強靭さ。
("カンルンシュタイン"さんは変化を柔軟に受け止められる強さを持っているけど、"鍍金の弾丸"さんはどんなに傷ついても変わらない、とっても強い魂のカタチなんだねぇ)
きっと彼女は吸血鬼になろうが異界に落ちようが"鍍金の弾丸"であることをやめはしないだろう。
黙っていて良かった。詠子は自分の手首から伸びる紐に目を落とす。
朱巳と出会ってから、自分はできるだけ口を開かないように心がけていた。"鍍金の弾丸"という魂のカタチを口にすれば、聖はそこから朱巳の能力が鍍金――即ち外側だけ取り繕った偽者であることを見抜いたかもしれない。
結果から見ればあまり意味はなかったかもしれないが、もしも嘘だとばれていた場合、聖が乱暴にしすぎて朱巳を壊してしまう可能性はあった。
聖の欲望の餌食にはなりたくなかった。でも命の恩人に嘘をつくのも気が引けた。だから詠子は中間の選択として沈黙を決めたのだ。
結果は上々といったところだろう。あの聖が、まるで乙女のように頬を染めながら朱巳に体を擦り付けている現状をみれば。
(うん。これならしばらくは大丈夫かな)
魔女は確信する。自分の身が汚されるのは、少しだけ未来になったと。
そんな詠子の思考を他所に、地面の上で絡み合う二人の少女の事態は進行していた。魔女はその両手で、自らの目を覆い隠す。
「さ、痛いのは好きじゃないけど……優しくして、ね?」
やんわりと自分にひっついていた聖を手で押し上げ、朱巳が柔和な笑みを浮かべてみせる
朱巳は着ているブラウスの第三ボタンほどまでを外し、首筋を外気へと曝け出している。緊張か、それとも圧迫のせいか、仄かに赤味の差した肌が艶やかさを放っている。
その光景を見下ろして、聖もまた朱巳に笑い返した。口元からは尖った犬歯が覗く。これからその柔肌へ打ち込まれるであろう真珠色の杭は、二人の唾液に濡れて怪しげに光っていた。
衣擦れと、僅かに荒い呼吸の音を除けば静寂そのものである森の中、声が響く。
「却下」
という一言が。
自ら吸血鬼になってやると宣言した九連内朱巳、その魂のカタチを見つめながら、十叶詠子は闇夜に微笑を浮かべた。
統和機構のアクシズをして、『世界を統御するには強すぎる』と評価された九連内朱巳の精神。魔女はそれを垣間見た。
"鍍金の弾丸"――それが彼女の魂のカタチだ。
表面に蒸着された鍍金はすでに幾重もの傷を受けてお世辞にも綺麗とはいえない。だが彼女の魂は弾丸だ。鍍金がいくら剥がれたところで意味はない。弾丸としての性質が失われるまで――標的をしとめるまで、彼女の魂は健在であり続ける。
弾丸は飛ぶことを迷ったりはしない。曲がらず、常に自分であり続けようとする。魔女がいままで見た中でも最上位に位置する強靭さ。
("カンルンシュタイン"さんは変化を柔軟に受け止められる強さを持っているけど、"鍍金の弾丸"さんはどんなに傷ついても変わらない、とっても強い魂のカタチなんだねぇ)
きっと彼女は吸血鬼になろうが異界に落ちようが"鍍金の弾丸"であることをやめはしないだろう。
黙っていて良かった。詠子は自分の手首から伸びる紐に目を落とす。
朱巳と出会ってから、自分はできるだけ口を開かないように心がけていた。"鍍金の弾丸"という魂のカタチを口にすれば、聖はそこから朱巳の能力が鍍金――即ち外側だけ取り繕った偽者であることを見抜いたかもしれない。
結果から見ればあまり意味はなかったかもしれないが、もしも嘘だとばれていた場合、聖が乱暴にしすぎて朱巳を壊してしまう可能性はあった。
聖の欲望の餌食にはなりたくなかった。でも命の恩人に嘘をつくのも気が引けた。だから詠子は中間の選択として沈黙を決めたのだ。
結果は上々といったところだろう。あの聖が、まるで乙女のように頬を染めながら朱巳に体を擦り付けている現状をみれば。
(うん。これならしばらくは大丈夫かな)
魔女は確信する。自分の身が汚されるのは、少しだけ未来になったと。
そんな詠子の思考を他所に、地面の上で絡み合う二人の少女の事態は進行していた。魔女はその両手で、自らの目を覆い隠す。
「さ、痛いのは好きじゃないけど……優しくして、ね?」
やんわりと自分にひっついていた聖を手で押し上げ、朱巳が柔和な笑みを浮かべてみせる
朱巳は着ているブラウスの第三ボタンほどまでを外し、首筋を外気へと曝け出している。緊張か、それとも圧迫のせいか、仄かに赤味の差した肌が艶やかさを放っている。
その光景を見下ろして、聖もまた朱巳に笑い返した。口元からは尖った犬歯が覗く。これからその柔肌へ打ち込まれるであろう真珠色の杭は、二人の唾液に濡れて怪しげに光っていた。
衣擦れと、僅かに荒い呼吸の音を除けば静寂そのものである森の中、声が響く。
「却下」
という一言が。
◇◇◇
え、という声が上がった。
佐藤聖は再び繰り返す。え? という単音。それは収束した疑問符だった。
一瞬で絡まった疑問の糸はあまりに多く、なぜ自分がそんな声を発したのか分からない。
ひとつだけわかるのは、朱巳の要求を棄却したその声は、この場にいた三人の誰のものでもなかったということ。
「――却下じゃ」
二度目の声。冷静になれば分かることは増える。声の主は自分の背後にいる。
「……あ、あ、ああ」
そしてその声を自分は知っていた。
聖の口から零れるように声が出る。それはまるで壊れかけた弦楽器のような、か細く消え入りそうな音。
それは歓喜と恐怖。相反する感情がぶつかり合い、対消滅を起こした結果。
思考は焼き付き、体は見えぬ糸に縛られたかのように停止。聖は一瞬で、すべての行動を放棄していた。
理解する。理解して、しまった。
自分とこの人は繋がっているから。こんなに、望めば触れられる程に近づけば、理解できる。
この人の悲しみを、この人の憤りを、この人の虚無を。
そして、何故いまになって自分の前に現れるのか。その理由も。
「――鬱陶しい。疾く、去ねい」
そして末期の一言すら許されることなく、佐藤聖の上半身は、突如出現した妖姫によって消し飛ばされた。
佐藤聖は再び繰り返す。え? という単音。それは収束した疑問符だった。
一瞬で絡まった疑問の糸はあまりに多く、なぜ自分がそんな声を発したのか分からない。
ひとつだけわかるのは、朱巳の要求を棄却したその声は、この場にいた三人の誰のものでもなかったということ。
「――却下じゃ」
二度目の声。冷静になれば分かることは増える。声の主は自分の背後にいる。
「……あ、あ、ああ」
そしてその声を自分は知っていた。
聖の口から零れるように声が出る。それはまるで壊れかけた弦楽器のような、か細く消え入りそうな音。
それは歓喜と恐怖。相反する感情がぶつかり合い、対消滅を起こした結果。
思考は焼き付き、体は見えぬ糸に縛られたかのように停止。聖は一瞬で、すべての行動を放棄していた。
理解する。理解して、しまった。
自分とこの人は繋がっているから。こんなに、望めば触れられる程に近づけば、理解できる。
この人の悲しみを、この人の憤りを、この人の虚無を。
そして、何故いまになって自分の前に現れるのか。その理由も。
「――鬱陶しい。疾く、去ねい」
そして末期の一言すら許されることなく、佐藤聖の上半身は、突如出現した妖姫によって消し飛ばされた。
◇◇◇
喪失の憂いと理不尽に対する怒りが底に敷かれた女の言葉が森に響く。それは独白だった。もしもそれが雨の中で行われていたのなら、ちょうど映画のワンシーンにでもなったかのような物悲しさを感じられただろう。
だが降り注ぐのが肉の破片と血の欠片であれば、それは狂人の描いた絵画のようにしか感じられなかった。
「――私はいくつもの国を滅ぼしてきたが、その最後は常に同じものであった」
あ、と十叶詠子は短い呟きを洩らした。
体が動かなくなる。心は握りつぶされた紙屑のように一瞬で役立たずに成り果てた。
目の前で人が死んだことにではない。怪異を友としてみる彼女にとって、彼らが人を傷つけてしまう様を見ることはよくあることだ。人の生死では、魔女は揺れない。
「――飽和した下僕たちが私を殺せと叫び出す。それが常にわが栄華の終焉の象徴であった」
だが魔女は確かに震えていた。姫という存在を前にして。
あれは詠子の知る怪異ではない。『物語』を必要としない、真正の怪物だ。
異界の住人は、基本的に『魔女』に対しては好意的である。
常人に対して危害を加えてしまうことは往々にしてあり得るが、詠子はいつかきっと、みんなが仲良くなれると思っている。
だが、見えてしまった。その魔女としての目が、姫という吸血鬼の本質を暴いていた。
「――許さぬよ」
十叶詠子。魔女。悪意なき少女。こちら側の存在だろうが向こう側の存在だろうが、彼女は常に善意を持って接してきた。
その彼女が、初めて他者に恐怖を抱く。あれは魔女になれない。あれと友達になることはできない。
どこまでも孤高。反作用。斥力。吸血鬼がどう望もうと、その一点は変わらない。あの吸血鬼と共に在ることが出来る者など、この世界のどこを探してもいるはずがない。
だから、十叶詠子は短く悲鳴だけを上げたのだ。あ、という末期の言葉に相応しからぬそれを。
「――今回は、許さぬ。そのような終焉を私は認めぬ」
は、と九連内朱巳は小さく囁いた。
それは恐怖からではない。びしゃりと体にかかる佐藤聖の肉片と血液も、自分の腰の上に冗談のように乗っている下半身にも、彼女は怯えない。
ただ理解した。目の前の生物が最強であることを理解した。
自分の知る"最強"以上の化け物。無論、戦ってどちらが強いかということは朱巳には分からない。
ただ"格"が違う。この吸血鬼はフォルテッシモを超越する。フォルテッシモ唯一の弱点は、強すぎて自分がどこまで強いのか確認できないということ。だから奴は常に迷っているようなものだ。
だがこの吸血鬼は違う。こいつは迷わない。もはや迷うことをやめている。だから止まらないのだ。言葉も武力も通用しない無敵の存在。
「――私が手ずから幕は下ろそう。だからこそ、私はここに下僕が増えることを望まぬのだ」
もはや自分が弄せる策など一つも無い。こいつと遭遇してしまった時点で、運命の舵は自分の手を離れていった。
ならばできることはひとつだけだろう。
朱巳は聖の遺骸を手で横に除けて立ち上がった。激痛を無視して腕を組み、顔に刻むはこの場に不適で不敵な笑み。
そう、最後まで自分を張り通すこと。それが九連内朱巳にできる唯一の行動。
途中でばれる嘘は所詮二流。最後まで嘘をつき通すという、嘘吐きの誇りがそこにはあった。
だから九連内朱巳は堂々と、不遜さを滲ませて吐き捨てる。は、という不敵に過ぎる虚勢を。
魔女と嘘吐きと。二人の少女の微かな囁きを、しかし意にも介さぬという風に、姫が腕を振り上げる。
◇◇◇
まるで指揮棒の如く掲げられた、吸血鬼のたおやかな細腕。それを一度振り下ろせば、発生した衝撃波は少女二人を粉々に打ち砕くだろう。
恐怖に縛られた少女と、自分に囚われた少女。この吸血鬼にしてみれば、どちらも同じく意味のない存在だ。
美姫がここに来たのは自分の"子"である聖の気配を追ってきたからである。
先の台詞の通り、美姫はもはやこの島に自分の下僕が増えることを望まない。
だから十数分前に遭遇した戦闘跡で感じた気配は、彼女の癇に触れてしまうものであった。
それは聖によって牙を打ち込まれたシャナの気配の残滓。粉々に吹き飛ばされ、ともすれば空気よりも薄いそれを、しかしもはや刻印に縛られることのない美姫は完全に知覚していた。
海野千絵という前科もある。自分が力を分け与えた彼女が、気ままに吸血鬼を増やしているというのは火を見るより明らかな事実であった。
だから、殺した。自分の子の気配なら今の美姫には十分探知することができる。
そして速やかな終幕のみを望むこの吸血鬼にとって、その場に運悪く居合わせた彼女たちを見逃す理由は無い――
(……いや)
無い、と思っていた。しかしその手が僅かに静止する。
もはや遊ぶような余裕は姫の中から失われていた。だが、ふとした思い付きについて、少しだけ思案する。
「――――。」
「……え?」
「は?」
結果として、彼女は短く一言、ある単語を口にした。
その単語に対する二人の反応は真逆。
そして、それが生死を分ける。
振り下ろされた美姫の腕は予定を変更し、二人の少女の内、片方だけを叩き潰した。
◇◇◇
燃え盛るマンションの前で、三人の人物が相対しあっている。
「それはつまり――」
ダウゲ・ベルガーは、己の目の前にいる人物に対して警戒を解かなかった。自分が神野陰之の支配するあの空間から逃れてからすぐ、まるでタイミングを計ったかのように現れたこの男。
背後でへたり込んでいる海野千絵を庇う様にしながら、眼前のそいつに鋭い視線を注ぐ。
「俺達に協力するよう求めている、ってことでいいのか」
「その通りだ。まさか断りはしまいね? そうするように呼びかけたのは君たちだったと記憶しているが――」
ベルガーの問いかけに、どこか苦い表情を浮かべて返答するのは佐山・御言である。
ムキチに疲労を吸い取らせながらの全力疾走で辿り着いたのは、ダナティア達のグループが根城にしていたマンション。ここまで誰とも遭遇せずにこれたのは、幸運でもあり不運でもあった。
日頃の行いが良過ぎるというのも考え物だね、と佐山は胸中で独りごちる。
交渉にはカードが必要だ。それは例えば相手が欲しているモノや相手の弱みなど。そういったものが無ければ、交渉は単なる搾取の場となってしまう。無手で――非武装という意味ではなく――交渉のテーブルに付くというのは、蛮勇を通り越して無謀な行為だ。
佐山・御言はカードをほとんど持っていない。仲間は吸血鬼に壊滅させられ、こうして自分は敗走している。身一つと言っていい状態。できることなら、本命の相手との交渉に臨む前に、その途中で何か手札を増やしておきたかった。
(いや、それは虫が良すぎるかな――本来ならこうして無事に交渉の席につけたことを喜ぶべきなのだろうが)
だがどうしてもそう思うことが出来ない。
姫。数千年を生きる吸血鬼。ゲームに乗る乗らないの意思はともかく、本気で殺戮を始めたそれは危険に過ぎる。
この交渉は絶対に成功させなければならない。残された期限は、おそらく残り五時間も無い――夜明け前に、あの吸血鬼は全てを終わらせることを望み、そして達成するだろう――つまりはこの交渉が失敗すればそうなるということである。
難易度的には全竜交渉と同じかそれ以上だ。何せ、今回は本当に時間が足りない。
そしてさらに、本命である筈だった交渉の相手たちがどう見ても満身創痍であるということも気にかかる。
無論、零時の放送でダナティアが討たれた事は知っていた――この集団が、決して小さくはないダメージを受けていることは計算の内だった。
(だが――どうみても、これは壊滅というべきではないか)
拠点は炎に包まれ、そこには傷ついた男女が一組だけ。女性の方は何か精神的なショックを受けたのか放心状態で、面識のある男性――ベルガーのほうは一見健康体に見えるが、その呼吸が歪であることを佐山は見抜いていた。おそらく、肺を痛めている。負傷の深度は分からないが、内蔵が傷ついている以上、適切な治療を施さなければ死に至る可能性は十分あった。
「――記憶しているが、そちらも大変な状況のようだね。なんなら、この私が協力してあげよう」
「……」
「君の後ろの女性――素性は知らないが、戦闘が出来る状態とは思えないが。君一人で果たして守りきれるのだろうか」
弱みに付け込む。その上でアドバンテージが取れるように、佐山は交渉の切り口を落とした。
「君が私を良く思っていないことは知っているよ、ベルガー君。私の仲間である零崎君との確執もあるだろう」
零崎人識の救出。それも行わなければならない。できればこの集団と接触する前に行いたかったことだが、時間も人手も足りな過ぎる。
「――だから無理強いはしない。選びたまえ。つまらないプライドか、尊い少女の命か」
毒をもって毒を制す。悪党を正しく叩き潰すのに、正しくない手段を用いる。それが悪役の意味。
佐山の姓は右手を差し出し、告げた。あるいは問うたのだ――"君は悪なのか"と。
僅かな間を挟み、ベルガーが応えた。
「性急だな。ああ、性急だ佐山・御言」
「……答えになっていないようだが?」
応える。それは問いに答えを返すのでなく、ただ反応するという動作だった。ベルガーが続ける。
「案外、助けが必要なのはお前の方なんじゃないのか――前に会った時には苛々するほどのらくらしていたが、今のお前にはその余裕が一切抜け落ちている」
「――話を逸らさないで欲しいものだね。君達が助けを必要としているのはこの状況から確かなわけだが」
返しつつ、佐山は内心で唇を噛んだ。弱みに付け込む。交渉の席である以上、それは何も片方の専売特許ではない。焦りすぎてこちらの弱みを晒してしまうという自分らしくない失態。
「逸らしちゃいないさ。少しばかり結論を早めようと思ってるだけでな。つまり、俺たちは互いに協力が必要な状況なわけだ。なら当然、それは対等な条件のもとで行われるべきだろう?」
「……その条件とは何だね」
訊ねておいて、しかし佐山は次の相手の言葉を予測していた。この集団と自分のグループが掲げる思想で対立しあっている部分は――
「簡単だ。もう隠す意味もないから言うが、見ての通り俺たちのグループは壊滅的な被害を受けた。襲撃と暴走と裏切りがほとんど同時に起こっちまったんでな」
パイフウ。フリウ・ハリスコー。光明寺芽衣子。そして折原臨也。
彼らのグループを粉々に引き裂いた者たち。内、半数はすでに放送で名を呼ばれたが――
「俺は俺たちの横面を張った奴らを追うつもりだ――だからそれに手を貸せとは言わんが、邪魔をするな黙認しろ」
「それは――」
できない。そう続けるべき言葉は、佐山の喉を通り抜けられなかった。
「それは、君たちの長の言っていた言葉と矛盾するのではないかね? ダナティア女史は告げたよ。怒りに身をゆだねるな。憎しみを繋ぎ、悲しみを繋ぐことは許さぬと」
「そうだな。だがこうも言った。このゲームに宣戦を布告し、進撃すると。何も憎いから仕返ししようってわけじゃない。あいつら、特に折原臨也は性質が悪い。集団をかき乱して混乱させ、結果的に多くの被害を出す」
別のものに摩り替わった佐山の言葉を、ベルガーが切り捨てる。
そう、それが彼らと自分と大きな違いだ、と佐山は再認識する。立ちはだかる者は力で捻じ伏せ、排除することも厭わぬ彼ら。すべての殺意を奪い、全員を団結させんとする自分。
(ここは――妥協できない。私はアマワから奪ってやると決めたのだから。佐山の姓が物事を告げるとき、それは絶対だ)
だが、と胸中で言葉を継ぐ。
(だが、可能なのか? ここで彼らの協力を蹴ってしまえば、あの吸血鬼に対抗することは不可能だ。何せ、協力してさえ力不足の感は否めないのだから。彼らとの交渉は一旦保留にして後に再交渉するような時間も無い……)
自分に代わって時間を稼いでくれるような仲間もいない。完全な八方塞り。
いや――自分が相手の条件を呑めば、この硬直は解ける。
零時の時点での残り人数は約三十人。この中から数人、間引くだけだ。それであの化け物に対抗できる目が出てくるなら、むしろ万々歳ではないか……
「……零崎のことを考えてるんなら、あいつだけは見逃してやってもいい。シャナのことはあるが、あいつはもう……」
言いかけて、ベルガーが口をつぐむ。
具体的には分からないが、あのシャナという少女に関連する"何か"があったのだろう。
おそらく、これ以上の譲歩は引き出せない。既に相手が引く姿勢を見せている中で、強引にこちらの意を通そうとすれば、相手はこの場を後にするだろう。
(とどのつまり……私のプライドか、参加者全員の命か選べということか)
先ほど自分が言った言葉を完全に返される形になった。
佐山・御言のプライド。だがそれは彼一人だけのものではない。新庄・運切の言葉を無にしないために、彼はアマワに宣戦を布告したのだから。
「っ――!」
脳裏に過ぎる映像に、狭心症が再発する。
もしもこちらが妥協すれば、この痛みは永遠に自分を苛み続けるだろう。
(それでも、選ぶべきは――)
佐山は自分の胸に手を押し当てながら、前を向いた。
「――とりあえずどっちが折れるかは保留にして、形だけでも協力の態勢を取るべきだと思う」
声はベルガーの背後から。
ベルガーが振り返り、佐山がその向こうの人物の顔を視界に捉える。
「海野、千絵――」
「ごめんなさいベルガーさん。でもここで争っている時間はない、と思うの」
ゆっくりと立ち上がりながら、千絵は震える声で、だがそれでもその底に冷静な機知を働かせながら言葉を紡いでいく。
「残り人数と減少のペースから、乗った連中はまだかなり残ってると予想できるわ。信用できる人はかなり少なくなる。この佐山って人、前にベルガーさんが話してた平和主義者――少し違うのかもしれないけど、とにかく素性に関わらず参加者全員を仲間にしようって言ってた人でしょう? なら少なくとも、積極的に敵対しない、という点では信用が出来るんじゃないかしら?」
「こいつが言ってることが全部嘘だ、って可能性もあるが」
「意味が無いわ。実際、零崎っていう殺人鬼を仲間にしてるんでしょう? 演技にしても、わざわざそんな諸刃の剣を懐刀にするのは危険すぎる。
とにかく、よ。ここでお互い条件に納得できずに分かれるのは得策じゃないわ。少なくとも"その時"が来るまでは一緒にいて、一応の協力関係を取っておくのがベスト……ではないけど、ベターだとは思う」
意思の同調を取らず、"仮"という枕詞のついた同盟を結成する――
通常なら、それは危うい行為だ。足並みが揃わなければ、一人が転んだだけで大惨事になりかねない。
しかし――そんな手段を取らねばならないほど状況は切迫していた。
「佐山さん、って言ったわね。貴方、交渉慣れしてる風なのに、何故か弱点を晒してしまうほど焦っていた――ベルガーさんも言ってたけど、何か重大な問題が起こったんじゃないかしら? その具体的な内容を話さないのは何故?」
「それは……」
言いかけて。
ふと、佐山は違和感を感じた。他でもない、これまでの自分の行動に。
(確かに彼女の言うとおりだ。美姫は、すでに参加者全員が共有すべきレベルの緊急事態だろう――話すことを躊躇う必要などない。なぜ私は話そうとしなかった?)
無意識にそのことを避けていた。それは何を意味するのか。
だが今はそのことについて悩んでいる時間はない。佐山はゆっくりと被りを振り、どうにか意識を切り替えることに成功した。無理やり狭心症を押さえ込むと、ベルガーと千絵に改めて向き直り、
「……確かに、君の言う通りだね。こちらの事情を全て話そう。リストに美姫という名前で乗っている――」
「――待て、佐山・御言。どうやら別の来客らしい」
ベルガーが、佐山の背後を睨みながら手にしていた狙撃銃を構える。
佐山は即座に振り返った。銃を構えたベルガーに背後を見せることに恐怖は感じない――おそらく、彼は海野千絵の提案を呑むだろう。彼女の提案は理に適っている。佐山自身も、もとより同盟を組むつもりだったのだから是非もない。
それよりは正体も分からぬ背後の来訪者のほうが脅威度は高かった。炎を上げるマンションのお陰で懐中電灯は必要ない。紅く揺らめく視界に、その人影を捉え、
「……詠子君?」
「あ、は、は……"法典"くん、やっと会えた――」
胸の中に飛び込んできた、震える少女を抱きすくめた。
だが降り注ぐのが肉の破片と血の欠片であれば、それは狂人の描いた絵画のようにしか感じられなかった。
「――私はいくつもの国を滅ぼしてきたが、その最後は常に同じものであった」
あ、と十叶詠子は短い呟きを洩らした。
体が動かなくなる。心は握りつぶされた紙屑のように一瞬で役立たずに成り果てた。
目の前で人が死んだことにではない。怪異を友としてみる彼女にとって、彼らが人を傷つけてしまう様を見ることはよくあることだ。人の生死では、魔女は揺れない。
「――飽和した下僕たちが私を殺せと叫び出す。それが常にわが栄華の終焉の象徴であった」
だが魔女は確かに震えていた。姫という存在を前にして。
あれは詠子の知る怪異ではない。『物語』を必要としない、真正の怪物だ。
異界の住人は、基本的に『魔女』に対しては好意的である。
常人に対して危害を加えてしまうことは往々にしてあり得るが、詠子はいつかきっと、みんなが仲良くなれると思っている。
だが、見えてしまった。その魔女としての目が、姫という吸血鬼の本質を暴いていた。
「――許さぬよ」
十叶詠子。魔女。悪意なき少女。こちら側の存在だろうが向こう側の存在だろうが、彼女は常に善意を持って接してきた。
その彼女が、初めて他者に恐怖を抱く。あれは魔女になれない。あれと友達になることはできない。
どこまでも孤高。反作用。斥力。吸血鬼がどう望もうと、その一点は変わらない。あの吸血鬼と共に在ることが出来る者など、この世界のどこを探してもいるはずがない。
だから、十叶詠子は短く悲鳴だけを上げたのだ。あ、という末期の言葉に相応しからぬそれを。
「――今回は、許さぬ。そのような終焉を私は認めぬ」
は、と九連内朱巳は小さく囁いた。
それは恐怖からではない。びしゃりと体にかかる佐藤聖の肉片と血液も、自分の腰の上に冗談のように乗っている下半身にも、彼女は怯えない。
ただ理解した。目の前の生物が最強であることを理解した。
自分の知る"最強"以上の化け物。無論、戦ってどちらが強いかということは朱巳には分からない。
ただ"格"が違う。この吸血鬼はフォルテッシモを超越する。フォルテッシモ唯一の弱点は、強すぎて自分がどこまで強いのか確認できないということ。だから奴は常に迷っているようなものだ。
だがこの吸血鬼は違う。こいつは迷わない。もはや迷うことをやめている。だから止まらないのだ。言葉も武力も通用しない無敵の存在。
「――私が手ずから幕は下ろそう。だからこそ、私はここに下僕が増えることを望まぬのだ」
もはや自分が弄せる策など一つも無い。こいつと遭遇してしまった時点で、運命の舵は自分の手を離れていった。
ならばできることはひとつだけだろう。
朱巳は聖の遺骸を手で横に除けて立ち上がった。激痛を無視して腕を組み、顔に刻むはこの場に不適で不敵な笑み。
そう、最後まで自分を張り通すこと。それが九連内朱巳にできる唯一の行動。
途中でばれる嘘は所詮二流。最後まで嘘をつき通すという、嘘吐きの誇りがそこにはあった。
だから九連内朱巳は堂々と、不遜さを滲ませて吐き捨てる。は、という不敵に過ぎる虚勢を。
魔女と嘘吐きと。二人の少女の微かな囁きを、しかし意にも介さぬという風に、姫が腕を振り上げる。
◇◇◇
まるで指揮棒の如く掲げられた、吸血鬼のたおやかな細腕。それを一度振り下ろせば、発生した衝撃波は少女二人を粉々に打ち砕くだろう。
恐怖に縛られた少女と、自分に囚われた少女。この吸血鬼にしてみれば、どちらも同じく意味のない存在だ。
美姫がここに来たのは自分の"子"である聖の気配を追ってきたからである。
先の台詞の通り、美姫はもはやこの島に自分の下僕が増えることを望まない。
だから十数分前に遭遇した戦闘跡で感じた気配は、彼女の癇に触れてしまうものであった。
それは聖によって牙を打ち込まれたシャナの気配の残滓。粉々に吹き飛ばされ、ともすれば空気よりも薄いそれを、しかしもはや刻印に縛られることのない美姫は完全に知覚していた。
海野千絵という前科もある。自分が力を分け与えた彼女が、気ままに吸血鬼を増やしているというのは火を見るより明らかな事実であった。
だから、殺した。自分の子の気配なら今の美姫には十分探知することができる。
そして速やかな終幕のみを望むこの吸血鬼にとって、その場に運悪く居合わせた彼女たちを見逃す理由は無い――
(……いや)
無い、と思っていた。しかしその手が僅かに静止する。
もはや遊ぶような余裕は姫の中から失われていた。だが、ふとした思い付きについて、少しだけ思案する。
「――――。」
「……え?」
「は?」
結果として、彼女は短く一言、ある単語を口にした。
その単語に対する二人の反応は真逆。
そして、それが生死を分ける。
振り下ろされた美姫の腕は予定を変更し、二人の少女の内、片方だけを叩き潰した。
◇◇◇
燃え盛るマンションの前で、三人の人物が相対しあっている。
「それはつまり――」
ダウゲ・ベルガーは、己の目の前にいる人物に対して警戒を解かなかった。自分が神野陰之の支配するあの空間から逃れてからすぐ、まるでタイミングを計ったかのように現れたこの男。
背後でへたり込んでいる海野千絵を庇う様にしながら、眼前のそいつに鋭い視線を注ぐ。
「俺達に協力するよう求めている、ってことでいいのか」
「その通りだ。まさか断りはしまいね? そうするように呼びかけたのは君たちだったと記憶しているが――」
ベルガーの問いかけに、どこか苦い表情を浮かべて返答するのは佐山・御言である。
ムキチに疲労を吸い取らせながらの全力疾走で辿り着いたのは、ダナティア達のグループが根城にしていたマンション。ここまで誰とも遭遇せずにこれたのは、幸運でもあり不運でもあった。
日頃の行いが良過ぎるというのも考え物だね、と佐山は胸中で独りごちる。
交渉にはカードが必要だ。それは例えば相手が欲しているモノや相手の弱みなど。そういったものが無ければ、交渉は単なる搾取の場となってしまう。無手で――非武装という意味ではなく――交渉のテーブルに付くというのは、蛮勇を通り越して無謀な行為だ。
佐山・御言はカードをほとんど持っていない。仲間は吸血鬼に壊滅させられ、こうして自分は敗走している。身一つと言っていい状態。できることなら、本命の相手との交渉に臨む前に、その途中で何か手札を増やしておきたかった。
(いや、それは虫が良すぎるかな――本来ならこうして無事に交渉の席につけたことを喜ぶべきなのだろうが)
だがどうしてもそう思うことが出来ない。
姫。数千年を生きる吸血鬼。ゲームに乗る乗らないの意思はともかく、本気で殺戮を始めたそれは危険に過ぎる。
この交渉は絶対に成功させなければならない。残された期限は、おそらく残り五時間も無い――夜明け前に、あの吸血鬼は全てを終わらせることを望み、そして達成するだろう――つまりはこの交渉が失敗すればそうなるということである。
難易度的には全竜交渉と同じかそれ以上だ。何せ、今回は本当に時間が足りない。
そしてさらに、本命である筈だった交渉の相手たちがどう見ても満身創痍であるということも気にかかる。
無論、零時の放送でダナティアが討たれた事は知っていた――この集団が、決して小さくはないダメージを受けていることは計算の内だった。
(だが――どうみても、これは壊滅というべきではないか)
拠点は炎に包まれ、そこには傷ついた男女が一組だけ。女性の方は何か精神的なショックを受けたのか放心状態で、面識のある男性――ベルガーのほうは一見健康体に見えるが、その呼吸が歪であることを佐山は見抜いていた。おそらく、肺を痛めている。負傷の深度は分からないが、内蔵が傷ついている以上、適切な治療を施さなければ死に至る可能性は十分あった。
「――記憶しているが、そちらも大変な状況のようだね。なんなら、この私が協力してあげよう」
「……」
「君の後ろの女性――素性は知らないが、戦闘が出来る状態とは思えないが。君一人で果たして守りきれるのだろうか」
弱みに付け込む。その上でアドバンテージが取れるように、佐山は交渉の切り口を落とした。
「君が私を良く思っていないことは知っているよ、ベルガー君。私の仲間である零崎君との確執もあるだろう」
零崎人識の救出。それも行わなければならない。できればこの集団と接触する前に行いたかったことだが、時間も人手も足りな過ぎる。
「――だから無理強いはしない。選びたまえ。つまらないプライドか、尊い少女の命か」
毒をもって毒を制す。悪党を正しく叩き潰すのに、正しくない手段を用いる。それが悪役の意味。
佐山の姓は右手を差し出し、告げた。あるいは問うたのだ――"君は悪なのか"と。
僅かな間を挟み、ベルガーが応えた。
「性急だな。ああ、性急だ佐山・御言」
「……答えになっていないようだが?」
応える。それは問いに答えを返すのでなく、ただ反応するという動作だった。ベルガーが続ける。
「案外、助けが必要なのはお前の方なんじゃないのか――前に会った時には苛々するほどのらくらしていたが、今のお前にはその余裕が一切抜け落ちている」
「――話を逸らさないで欲しいものだね。君達が助けを必要としているのはこの状況から確かなわけだが」
返しつつ、佐山は内心で唇を噛んだ。弱みに付け込む。交渉の席である以上、それは何も片方の専売特許ではない。焦りすぎてこちらの弱みを晒してしまうという自分らしくない失態。
「逸らしちゃいないさ。少しばかり結論を早めようと思ってるだけでな。つまり、俺たちは互いに協力が必要な状況なわけだ。なら当然、それは対等な条件のもとで行われるべきだろう?」
「……その条件とは何だね」
訊ねておいて、しかし佐山は次の相手の言葉を予測していた。この集団と自分のグループが掲げる思想で対立しあっている部分は――
「簡単だ。もう隠す意味もないから言うが、見ての通り俺たちのグループは壊滅的な被害を受けた。襲撃と暴走と裏切りがほとんど同時に起こっちまったんでな」
パイフウ。フリウ・ハリスコー。光明寺芽衣子。そして折原臨也。
彼らのグループを粉々に引き裂いた者たち。内、半数はすでに放送で名を呼ばれたが――
「俺は俺たちの横面を張った奴らを追うつもりだ――だからそれに手を貸せとは言わんが、邪魔をするな黙認しろ」
「それは――」
できない。そう続けるべき言葉は、佐山の喉を通り抜けられなかった。
「それは、君たちの長の言っていた言葉と矛盾するのではないかね? ダナティア女史は告げたよ。怒りに身をゆだねるな。憎しみを繋ぎ、悲しみを繋ぐことは許さぬと」
「そうだな。だがこうも言った。このゲームに宣戦を布告し、進撃すると。何も憎いから仕返ししようってわけじゃない。あいつら、特に折原臨也は性質が悪い。集団をかき乱して混乱させ、結果的に多くの被害を出す」
別のものに摩り替わった佐山の言葉を、ベルガーが切り捨てる。
そう、それが彼らと自分と大きな違いだ、と佐山は再認識する。立ちはだかる者は力で捻じ伏せ、排除することも厭わぬ彼ら。すべての殺意を奪い、全員を団結させんとする自分。
(ここは――妥協できない。私はアマワから奪ってやると決めたのだから。佐山の姓が物事を告げるとき、それは絶対だ)
だが、と胸中で言葉を継ぐ。
(だが、可能なのか? ここで彼らの協力を蹴ってしまえば、あの吸血鬼に対抗することは不可能だ。何せ、協力してさえ力不足の感は否めないのだから。彼らとの交渉は一旦保留にして後に再交渉するような時間も無い……)
自分に代わって時間を稼いでくれるような仲間もいない。完全な八方塞り。
いや――自分が相手の条件を呑めば、この硬直は解ける。
零時の時点での残り人数は約三十人。この中から数人、間引くだけだ。それであの化け物に対抗できる目が出てくるなら、むしろ万々歳ではないか……
「……零崎のことを考えてるんなら、あいつだけは見逃してやってもいい。シャナのことはあるが、あいつはもう……」
言いかけて、ベルガーが口をつぐむ。
具体的には分からないが、あのシャナという少女に関連する"何か"があったのだろう。
おそらく、これ以上の譲歩は引き出せない。既に相手が引く姿勢を見せている中で、強引にこちらの意を通そうとすれば、相手はこの場を後にするだろう。
(とどのつまり……私のプライドか、参加者全員の命か選べということか)
先ほど自分が言った言葉を完全に返される形になった。
佐山・御言のプライド。だがそれは彼一人だけのものではない。新庄・運切の言葉を無にしないために、彼はアマワに宣戦を布告したのだから。
「っ――!」
脳裏に過ぎる映像に、狭心症が再発する。
もしもこちらが妥協すれば、この痛みは永遠に自分を苛み続けるだろう。
(それでも、選ぶべきは――)
佐山は自分の胸に手を押し当てながら、前を向いた。
「――とりあえずどっちが折れるかは保留にして、形だけでも協力の態勢を取るべきだと思う」
声はベルガーの背後から。
ベルガーが振り返り、佐山がその向こうの人物の顔を視界に捉える。
「海野、千絵――」
「ごめんなさいベルガーさん。でもここで争っている時間はない、と思うの」
ゆっくりと立ち上がりながら、千絵は震える声で、だがそれでもその底に冷静な機知を働かせながら言葉を紡いでいく。
「残り人数と減少のペースから、乗った連中はまだかなり残ってると予想できるわ。信用できる人はかなり少なくなる。この佐山って人、前にベルガーさんが話してた平和主義者――少し違うのかもしれないけど、とにかく素性に関わらず参加者全員を仲間にしようって言ってた人でしょう? なら少なくとも、積極的に敵対しない、という点では信用が出来るんじゃないかしら?」
「こいつが言ってることが全部嘘だ、って可能性もあるが」
「意味が無いわ。実際、零崎っていう殺人鬼を仲間にしてるんでしょう? 演技にしても、わざわざそんな諸刃の剣を懐刀にするのは危険すぎる。
とにかく、よ。ここでお互い条件に納得できずに分かれるのは得策じゃないわ。少なくとも"その時"が来るまでは一緒にいて、一応の協力関係を取っておくのがベスト……ではないけど、ベターだとは思う」
意思の同調を取らず、"仮"という枕詞のついた同盟を結成する――
通常なら、それは危うい行為だ。足並みが揃わなければ、一人が転んだだけで大惨事になりかねない。
しかし――そんな手段を取らねばならないほど状況は切迫していた。
「佐山さん、って言ったわね。貴方、交渉慣れしてる風なのに、何故か弱点を晒してしまうほど焦っていた――ベルガーさんも言ってたけど、何か重大な問題が起こったんじゃないかしら? その具体的な内容を話さないのは何故?」
「それは……」
言いかけて。
ふと、佐山は違和感を感じた。他でもない、これまでの自分の行動に。
(確かに彼女の言うとおりだ。美姫は、すでに参加者全員が共有すべきレベルの緊急事態だろう――話すことを躊躇う必要などない。なぜ私は話そうとしなかった?)
無意識にそのことを避けていた。それは何を意味するのか。
だが今はそのことについて悩んでいる時間はない。佐山はゆっくりと被りを振り、どうにか意識を切り替えることに成功した。無理やり狭心症を押さえ込むと、ベルガーと千絵に改めて向き直り、
「……確かに、君の言う通りだね。こちらの事情を全て話そう。リストに美姫という名前で乗っている――」
「――待て、佐山・御言。どうやら別の来客らしい」
ベルガーが、佐山の背後を睨みながら手にしていた狙撃銃を構える。
佐山は即座に振り返った。銃を構えたベルガーに背後を見せることに恐怖は感じない――おそらく、彼は海野千絵の提案を呑むだろう。彼女の提案は理に適っている。佐山自身も、もとより同盟を組むつもりだったのだから是非もない。
それよりは正体も分からぬ背後の来訪者のほうが脅威度は高かった。炎を上げるマンションのお陰で懐中電灯は必要ない。紅く揺らめく視界に、その人影を捉え、
「……詠子君?」
「あ、は、は……"法典"くん、やっと会えた――」
胸の中に飛び込んできた、震える少女を抱きすくめた。
◇◇◇
暗い森の中、一人の少女が道を走っている。
彼女が足を踏み出すごとに。懐中電灯の頼りない明かりが新たな木々の根を照らしていく。だがその速度から、もはや彼女の体力はほとんど残っていないものと知れた。
彼女が生き残れた理由はただの偶然だった。彼女の持つ性質がどうこうというわけではなく、ただ運が良かった。それだけのことに過ぎない。
『――佐山・御言』
吸血鬼が呟いた単語の正体。それはとある人物の名前だった。
それに対する反応は二種。その人物を知っているか、知っていないか。
("裏返しの法典"くん……)
十叶詠子がこうして生き残れたのは、佐山・御言を知っていたから。それだけの理由に過ぎなかった。
だが、それはただ死の予定が先延ばしになっただけなのかもしれない。
瞬時に爆散した朱巳の血を全身に浴びた詠子に、吸血鬼はある命令を下していた。
『佐山・御言に伝えよ。夜明けまでに私に告げた戯言を実行して見せろとな』
戯言――詠子の知る佐山・御言のイメージなら、おそらくその内容は脱出のためのアプローチ。
あの吸血鬼が何を企んでいるのかは詠子には分からない。それを佐山に伝えることによって、あの吸血鬼にどんな利が発生してしまうのか分かったものではない。
だが十叶詠子は足を止めない。周囲に見える無数の怪異達の声を頼りに、燃え盛る赤の建築物を目指して一心不乱に進んでいく。
呼吸は既に乱れきっている。森の中という悪路を、懐中電灯と月明かりがあるとはいえ全力疾走すればそうもなるだろう。線が細く、色も白い彼女にとってはなおさらだ。
それでも彼女は止まらない。否、止められないのだ。
脳裏には、夜の暗がりに浮かぶ赤い光が焼きついている。
その人生において、初めて体感した感情。それが彼女の心を縛り付けていた。
吸血鬼の魔眼。本来ならば異界を知る魔女には通用しなかったであろう。だがそれに付け込まれる隙が生まれてしまった。恐怖――その初めての感情から逃れるために、魔女は『安心』を求める。
この島でもっとも長く接していた人物の元へ、走り続ける。
彼女が足を踏み出すごとに。懐中電灯の頼りない明かりが新たな木々の根を照らしていく。だがその速度から、もはや彼女の体力はほとんど残っていないものと知れた。
彼女が生き残れた理由はただの偶然だった。彼女の持つ性質がどうこうというわけではなく、ただ運が良かった。それだけのことに過ぎない。
『――佐山・御言』
吸血鬼が呟いた単語の正体。それはとある人物の名前だった。
それに対する反応は二種。その人物を知っているか、知っていないか。
("裏返しの法典"くん……)
十叶詠子がこうして生き残れたのは、佐山・御言を知っていたから。それだけの理由に過ぎなかった。
だが、それはただ死の予定が先延ばしになっただけなのかもしれない。
瞬時に爆散した朱巳の血を全身に浴びた詠子に、吸血鬼はある命令を下していた。
『佐山・御言に伝えよ。夜明けまでに私に告げた戯言を実行して見せろとな』
戯言――詠子の知る佐山・御言のイメージなら、おそらくその内容は脱出のためのアプローチ。
あの吸血鬼が何を企んでいるのかは詠子には分からない。それを佐山に伝えることによって、あの吸血鬼にどんな利が発生してしまうのか分かったものではない。
だが十叶詠子は足を止めない。周囲に見える無数の怪異達の声を頼りに、燃え盛る赤の建築物を目指して一心不乱に進んでいく。
呼吸は既に乱れきっている。森の中という悪路を、懐中電灯と月明かりがあるとはいえ全力疾走すればそうもなるだろう。線が細く、色も白い彼女にとってはなおさらだ。
それでも彼女は止まらない。否、止められないのだ。
脳裏には、夜の暗がりに浮かぶ赤い光が焼きついている。
その人生において、初めて体感した感情。それが彼女の心を縛り付けていた。
吸血鬼の魔眼。本来ならば異界を知る魔女には通用しなかったであろう。だがそれに付け込まれる隙が生まれてしまった。恐怖――その初めての感情から逃れるために、魔女は『安心』を求める。
この島でもっとも長く接していた人物の元へ、走り続ける。
【050 九連内朱巳 死亡】
【064 佐藤聖 死亡】
【残り21名】
【064 佐藤聖 死亡】
【残り21名】
【B-5/東部森林地帯/2日目・1:00頃】
【美姫】
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:参加者から管理者まで全てを皆殺しに。
[備考]:何かを感知したのは確かだが、何をどれくらい把握しているのかは不明。
刻印が解除されました。
[状態]:通常
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:参加者から管理者まで全てを皆殺しに。
[備考]:何かを感知したのは確かだが、何をどれくらい把握しているのかは不明。
刻印が解除されました。
【C-6/マンション前/2日目・01:30頃】
【海野千絵】
[状態]:物語に感染。かなり精神不安定。
[装備]:なし
[道具]:光の剣(柄のみ)
[思考]:ベルガーと一緒に脱出を目指す
[備考]:吸血鬼だった時の記憶は全て鮮明に残っている。
第四回放送はきいていましたが、内容を何処まで覚えているかは不明です。
[状態]:物語に感染。かなり精神不安定。
[装備]:なし
[道具]:光の剣(柄のみ)
[思考]:ベルガーと一緒に脱出を目指す
[備考]:吸血鬼だった時の記憶は全て鮮明に残っている。
第四回放送はきいていましたが、内容を何処まで覚えているかは不明です。
【ダウゲ・ベルガー】
[状態]:左肺機能低下、右肺機能低下、再生中、不死化(不完全)
[装備]:PSG-1(残弾20)、鈍ら刀
[道具]:携帯電話、黒い卵・改、単二式精燃槽 (フロギストンタンク)三つ
[思考]:1.折原臨也への対処を/2.ダナティアの意思を継ぎ、ゲームから脱出する
[備考]:黒い卵・改は本来の効果を失っています。
現在の効果は『望めば一度だけ無名の庵にいる神野陰之の許にまで転移する(限定一人のみ)』です。
第四回放送をきいていません。
[状態]:左肺機能低下、右肺機能低下、再生中、不死化(不完全)
[装備]:PSG-1(残弾20)、鈍ら刀
[道具]:携帯電話、黒い卵・改、単二式精燃槽 (フロギストンタンク)三つ
[思考]:1.折原臨也への対処を/2.ダナティアの意思を継ぎ、ゲームから脱出する
[備考]:黒い卵・改は本来の効果を失っています。
現在の効果は『望めば一度だけ無名の庵にいる神野陰之の許にまで転移する(限定一人のみ)』です。
第四回放送をきいていません。
【佐山・御言】
[状態]:左掌に貫通傷(物が強く握れない)。服がぼろぼろ。疲労回復中。
[装備]:木竜ムキチの割り箸(疲労回復効果発揮中)、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1800ml)
PSG-1の弾丸(数量不明)、地下水脈の地図
[思考]:1.集団を結成して美姫への対抗手段とする/2.参加者すべてを団結させ、この場から脱出する。
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる(若干克服)
[状態]:左掌に貫通傷(物が強く握れない)。服がぼろぼろ。疲労回復中。
[装備]:木竜ムキチの割り箸(疲労回復効果発揮中)、閃光手榴弾一個
[道具]:デイパック(支給品一式・パン6食分・水1800ml)
PSG-1の弾丸(数量不明)、地下水脈の地図
[思考]:1.集団を結成して美姫への対抗手段とする/2.参加者すべてを団結させ、この場から脱出する。
[備考]:親族の話に加え、新庄の話でも狭心症が起こる(若干克服)
【十叶詠子】
[状態]:やや体調不良、感染症の疑いあり。やや精神的に不安定
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:新デイパック(パン5食分、水1000ml、魔女の短剣アセイミ)
[思考]:姫の言葉を佐山に伝える
[備考]:聖に繋がれていた革紐は切断しました。
[状態]:やや体調不良、感染症の疑いあり。やや精神的に不安定
[装備]:『物語』を記した幾枚かの紙片
[道具]:新デイパック(パン5食分、水1000ml、魔女の短剣アセイミ)
[思考]:姫の言葉を佐山に伝える
[備考]:聖に繋がれていた革紐は切断しました。