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父と娘 > 7


さて、と。
俺も、こっちに来たらぜひ行きたい場所が一つあった。

銭湯だ。
俺の国では、そもそも風呂というものの考え方が異なるが、俺はこの国の風呂や温泉が好きだった。

しかし、問題がある。
娘をどうするかだ。

前に来たときは小さかったから一緒に男湯に入ったが、7歳ともなるとそうはいかない。
かといって、娘を一人で女湯に行かせるのも、何となく不安だった。

――どうにかできないか……

思案しながら、銭湯の前を歩く。

「あ、おんせんだよ」
「温泉じゃない、銭湯だ。入りたいか?」
「うん!」
「アイリン、一人で入れるか?」
「え? おとーさんは?」
「俺は男だから男湯、お前は女なんだから女湯だ」
「ひとりで入るの……?」
娘は不安そうな顔をした。


そこへ、中学生くらいの少年が声をかけてきた。

「あのー……もし良かったら、僕が見ていましょうか?」

――おっと、男の子だと思ったが……。

スカートをはいてなかったら、間違えたままだったかもしれない。
中学生くらいか。あどけない顔立ちだが、背は高めだ。
髪は耳くらい。この長さなら、男でも普通にいるだろう。

「僕もちょうど銭湯に入りに来たんです」

にっこり笑った邪気のない顔を見て、俺は

「あぁ、すみませんが、よろしくお願いします。アイリン、挨拶しろ」
と言った。


+ + +


「ふいー……」
浴槽に浸かり、足を伸ばす。湯が身体をじんわり温めていく。

――やれやれ。とりあえず、今回の目的はすべて果たした。

俺は、志乃さんが言っていたことを思い出していた。


(「能力」に関する犯罪を専門に扱う部署があるんですって)
(ははぁ、なるほど。普通の警察じゃ手に負えないでしょうからね。C.S.I.みたいなもんですか)
(ふふ、よくわかりませんけどね。なんでも、「アホ」だか「ボケ」だかって呼ばれているらしくて)
(……? はぁ……)

この国の、ネーミングセンスがいまだに分からない。
長く住んではいても、妙なカタカナ語を目にするたび、違和感を覚える。

けれど、これはそれとはまったく次元が違う。


それはともかく、「能力」犯罪の専門部署があるというのは、さもありなんという感じだ。

悪知恵のはたらく連中を取り締まってもらいたくはあるが、
自分の能力について詮索されたり届出をしたり、というのは面倒だし、気分のいいものじゃない。

俺は複雑な気持ちだった。


+ + +


風呂から上がって牛乳を飲んでいると、娘と、先ほどの少女が出てきた。

「どうもすみません、子守を押しつけてしまって。助かりました」
俺は頭を下げる。

少女は、
「いえいえ、僕も楽しかったです」
と言った。



銭湯を出ると、日が暮れていた。

娘は歩きながら、俺の前に大判のせんべいを突き出した。
「おせんべ。もらったの」
「お、良かったな。ちゃんとお礼言ったか?」
「うん、『ありがとう』って。 お姉ちゃんのおともだちが、くれたんだって」
娘は、せんべいを大事そうに抱えて歩く。

「トンカチでたたいてわらなきゃ食べられないんだって」
「へえ?」
「お姉ちゃんが、そういってたの」

俺はそれを手にとり、割ってみようとした。

「ん゛っ? なんだこりゃ、堅っ!」
「ほら、トンカチがなきゃ食べられないんだよ」
娘は得意そうな顔をする。

――こりゃ、顎砕き(jawbreaker)もいいとこだな。
こんなモノ食った日にゃ、歯が折れるか、顎関節症になるかしそうだ。

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最終更新:2010年07月07日 00:32
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