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幻想郷の奇妙な物語 第三話

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shinatuki

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 彼は目を覚ました。辺りを見回すともう一度目を閉じ、また開いた。そして今度は頬を抓っていた。痛さの余り痛いと叫び煩い事この上ない。
 頬の痛さが現実だと物語っている。それでも彼は何度も瞬きは繰り返す。何があっても目の前の光景が現実だとは思いたくはないようだ。

「あら? 目が覚めたのかしら」

 辺り一面、無数の目目目手手手時折標識、そんな空間に女性が一人佇んでいるのである。
 気が狂いそうな空間に美しい女性がただ一人、彼にとっては救いの女神に見えたのは必然であった。

「うおぉうおお!」

 意味不明な言葉を発しながら女性にすがり付こうとするがその手は決して届くことはなかった。

「さて、アレッシーだったかしら?」
「何でオレの」
「黙りなさい! あなたの発言を許した覚えはないわ」

 ただその一言で彼、アレッシーは己がこの場では弱者であることを認識した。
 この空間を支配するこの女性から放たれるプレッシャー。それに逆らえるほどの力を彼は持ち合わせてはいない。

 彼は力がなかった。故に虐げられた。
 彼は力を得た。故に弱者を虐げた。それは彼の感性を刺激した。そして弱者を虐げる快楽を覚えた。
 彼は弱い物いじめが好きだ。一方的に自らの快楽を得ることが出来るからだ。
 彼は強いものに媚びる。そうすると強者は彼に危害を加えないからだ。
 彼は強いものが嫌いだ。だけれどもそれ以上に自らが傷つくことが嫌いだ。

「スタンド……セト神を出しなさい」

 故に心の中で幾度となく彼女を罵倒し犯しながらも一切の反論もなくスタンドを繰り出す。
 彼は思い出した。彼女が『セト神』の通じなかった相手だと。

「物分りがいいこと。だけど……ね?」
「ッ!?」

 一発の弾が彼の鳩尾に衝撃を与える。

「その邪な考えも顔も性格も気に入らないわ」

 その神々しくも妖しげな美しさを持つ顔には一切の笑みはない。アレッシーが彼女の表情から読み取れる感情は唯一つ……侮蔑。
 逆らえば死ぬ。機嫌を損ねれば死ぬ。心の中で罵倒しても死ぬ。
 彼に残された選択肢は黙したまま恭順の意を示すだけだ。彼の中にどす黒い何かが溜まっていく。

 恐怖、それだけがアレッシーの体を支配していた。いや支配を受け入れたといった方が適切であろう。
 如何なる能力かは図りかねるがアレッシーの心の内を読んでいる節が目の前の女性にはあるのだ。下手に抵抗すればそれは害意とみなされるかもしれない。

「犬畜生だってもっと抵抗はするけど……まぁいいわ。感謝なさい、生かしてあげる」

 その言葉に安堵の溜息をつくアレッシーであったが、彼の目の前の女性はアレッシーを最早路端の石としてみていないのか、一瞥すらしない。
 それもそのはず。紫はアレッシーに対して威圧感たっぷりで佇んでいる様に見られるが、その内心では見てくれだけでなく、体の内側から、経験と精神が若返っていくのはっきり感じていた。
 思わずにやけそうになる顔を必死に堪え仏頂面でいたのだ。彼女は内心ではひゃっほーいと万歳三唱を行っている。ただそれを面に出さないだけだ。

 唐突に空間に裂け目が出来る。裂け目から見える景色は正気とは思えぬ光景ではない、人が生存することが出来る大地の景色だ。
 女性は何も言わずその空間の裂け目に身を投じた。アレッシーは動いたオレもここから出してくれと言葉を発しない代わりに手を伸ばした。
 その手は永遠に届かない。無常にも亀裂は最初から何もなかったかのように閉じてしまったのだ。



 八雲紫は幻想郷に舞い戻ってきた。彼女が家出をしてから一日以上経過していた。もう時刻は夕暮れだ。マヨヒガの空は緋に染まり始めていた。
 いつもならば彼女の式である藍が夕餉の支度をしているはずだった。そう、しているはずだった。
 竈に火がつき、煙突から上がる煙やおかずの香り、いつも通りの日常ならば家が近づくにつれて、『今日のおかずは何だろう』と心が躍るはずだ。
 台所では時折橙が藍と一緒に料理をしている。その喧騒すら聞こえない。
 マヨヒガの我が家にはまるで最初から住人がいないように感じられた。
 紫は考えたくはなかったが覚悟を決めなければならない。それは想定していた中で最悪の状況だ。彼女が家を出たように藍も家を出たのではなかろうか。
 それは式とはいえ、一つの一人格を持った存在ならばしてもおかしくはない行動だ。例え式であることを利用し、強引に呼び戻したとしたらどうだろうか。
 先ほど浮かれる心を抑え、素敵なスキマ空間の中、セト神で体の内側と精神まで若返ったのだ。だとしても藍は決して紫に昔のように甘えたり敬ったりはしないだろう。
 むしろ理で説かず力で抑え込んだ紫を軽蔑するのではなかろうか。それは最悪の結末だ。
 紫の家路までの足取りが酷く重くなる。時間はとても長く感じられた。シンと静まり返った我が家の玄関へようやくたどり着いた。
 大きな深呼吸を一つ、早くなる胸の鼓動を抑えながらゆっくりと扉に手をかける。鍵は……いつも通りかかっていない。

「た、ただいま……」

 家の中には灯が入っていない。薄暗い廊下が目に付く。それでも紫は緊張しながらも自らの帰宅を告げた。

「やっぱり……」

 出迎えはないものか、そう言葉を紡ごうとしたが奥から聞こえてくるドタドタドタという荒々しい足音にその言葉は遮られた。

「ら、藍!」

 紫の出迎えに出てきてはくれた。だがやはり様子がおかしい。普段ならば柔らかな笑みと共に『おかえりなさい』という温もりのある言葉を紡ぐのだ。
 それなのに全く言葉を発しない。それどころか何かの感情を溜め込んだかのように必死な表情だ。その表情に思わず身構えてしまう。

「紫様!」
「ひぃ! な、何かしら……」

 荒ぶる心の内を表したかのような強い口調で自らの名を呼ばれ、驚いてしまう。それを隠すために必死に取り繕うとするが上手くいかない。
 紫は内心ビクビクしていた。もしかしたら藍の怒りがまだ収まっておらず、また何か文句を言われてしまうのではないかと悪い方向へつい考えてしまう。

「ゆかり……さま」

 そんな紫の心情を知ってかしら知らずか、一歩、また一歩と近づきスンスンと鼻を鳴らして紫の臭いを嗅いでいた。
 今の紫はネガティブゾーンまっしぐらな思考である。『臭いんだよ!ババァ!』と罵られはしまいかと心臓がバクバク言っていた。
 その心境は例えるならば憧れの先輩に告白はしたけれど、やっぱり断れるのではないかと考えながら返事を待つ、青春真っ盛りな女子高生だ。

「いい……香り」
「え?」

 藍は何と言ったのだろうか。『いい香り』といったのだ。決して臭いなどと言っていない。まさか聞き間違いではなかろうかと半ば混乱する紫。

「ら、藍?」
「紫様・・・ゆかりさまぁ~!」

 何と言ったのか再度問うことは出来なかった。何故ならば、藍は紫の名を叫びながら彼女の豊かな胸に飛び込んだのだ

「藍? え、何これ?」
「ゆかりしゃまぁ゛、ごめんなさいごめんなさい、もうでていかないで~!」

 泣きながらに紫に謝罪する藍。紫の胸元は藍の涙と鼻汁と涎で見る見るうちに汚れていく。だが紫はそれを苦には思わない。むしろ喜んでいた。
 ひたすらごめんなさいと謝り続ける藍の頭をそっと撫でる。

「うふふ、いいのよ藍。私もあなたに少し苦労をかけ過ぎたわね。ゴメンね、藍」
「うわぁぁ~ん! ありがとうございます~」

 紫の優しい言葉に今度は喜びの余りさらに涙を激しくする。それをとても優しい母親のような眼差しであやす紫は内心でガッツポーズと喜びの雄叫びを上げていた。

(あのセト神とかいうやつの能力のおかげで藍の愛が取り戻せた! さすが私、目の付け所が違う!)

 よしよしと未だ泣きじゃくる藍をあやしながら幸せな気分に浸っていた。だが優しい顔の紫の表情が突如として一変する。そう彼女の体の内部に異変が生じたのだ。
 いや異変というのは適切ではない。元に戻ってきたというのが適切であろう。
 それはまさに水を差されたといっても過言ではない。アレッシーは恭順の意を示しておきながら幸せの絶頂にいるときにそれをぶち壊したのだ。紫が怒りを隠しきれないのも当然である。
 だが冷静に考えてみれば遅かれ早かれ紫にかけられた『セト神』の能力は消えていたのだ。よく考えて欲しいスタンド能力はその本体の精神力に左右される。そしてアレッシーがいるのはスキマの中だ。
 紫にとっては素敵なスキマ空間であっても人間、スタンド能力を持っているとは言えアレッシーだ。彼の精神力が一般人より上だとしてもあの空間に長時間耐えられるはずがない。
 上も下も地面も定かでなく、一面目と手が空間を支配しているのだ。紫と邂逅した時には紫の姿で精神を保っていられたが、美しい紫の姿が無くなれば当然発狂や気を失うに決まっている。
 ここはむしろアレッシーの精神が良くここまで持ったと言うべきであろう。

 事情はともあれ紫は怒気を発してしまったのだ。それを感知したのは言うまでもない、彼女の腕に抱かれている藍だ。
 藍は紫の怒気に我に返った。そして目の前の光景に愕然としてしまった。
 彼女は紫の胸で泣いていたのだ。紫の服は藍の涙と鼻水と涎でべちゃべちゃに汚れているのだ。いや汚れたと言うのは正確でない、藍が汚したのだ。
 藍は自らの顔から血の気が引いていくのを知覚した。己がしでかした行為に慄然とした。主の服を汚してしまったのだ。
 恐怖の余り震えが止まらない。

「藍、どうしたのかしら」

 紫は終始笑顔を崩さない。橙であるならば紫が怒っていないと誤認したはずだ。だがここにいるのは彼女との付き合いも長く、一つ屋根の下で暮らす式の藍なのだ。
 当然、紫が笑みの下に怒りを宿していることは藍にとっては一目瞭然だ。

「も、申し訳ありません紫様!」

 彼女は紫の怒りを静めるため、己の軽率な行いを謝罪した。

「ふぇ? 藍、別にいいのよ」
「いえ、親しき仲にも礼儀はあるべきです。私の紫様に対する、この礼節を欠いた行為お許し下さい」

 そして土下座。内心紫にまた怒られるとビクビク怯える藍にはこうするしかなかった。
 対するいきなり土下座されて謝られている紫は驚き、こちらもまた、ある可能性に怯えていた。
 折角『セト神』の能力で見てくれだけでなく精神や経験といった面まで若返り、在りし日の美少女へと戻ることが出来たのだ。
 念願であった藍の愛を取り戻すことが出来たと思った刹那、また彼女に『境界』を敷かれ、一線を画した態度を取られてしまうのか。

「許せない」

 思わずそう口から言葉が出てしまう。紫は許せない。折角良い雰囲気になっているのにスタンドを解いたアレッシーが許せないのだ。
 藍はまたもや誤解した。紫が誰を許せないのか言わないものだから『藍の行為が許せない』と受け取ってしまったのだ。
 そんな藍の心情など知らない紫は溢れんばかりの怒気を携えて藍に告げるのだ。

「ちょっと出かけてくるから……」
「ま、待ってください!」
「晩御飯いらいないから……」

 アレッシーを問い詰めようと空間にスキマを作り出し、そこへ身を投じた紫。いつぞやと同じように一人取り残された藍。

「ぐす、ゆかりさまがまた家出しちゃった……うわぁーん!」

 その泣き声は紫には届かなかった。



 紫はキレていた。アレッシーがスキマ空間の中で泡吹いて気絶している様を見てしまったからだ。理不尽だが仕方が無い。だって紫だもの。
 ともかく、泡を吹いているアレッシーをどう起こそうか思案しなければならない。その選択肢には蹴ったり殴ったりと言うのは含まれない。
 だって少女だもの。こんなおっさんに触りたくないと思って当然である。
 ならばどうするのかスキマ空間から地上に落としてその衝撃で起こせばよいのである。
 パカッとスキマが開いてメメタァと地面に衝撃するアレッシー。

「ムニャムニャ…ハッ!」

 地面に横たわったアレッシーが目を開けるとそこには途轍もなく不機嫌そうな女性が立っているのだ。言うまでもない、八雲紫だ。

(あ、奇麗な足……)
 彼が紫の足に見とれていると突然激しい衝撃が彼を襲った。

「ギニアアーッ!」

 そう弾幕だ。紫が彼に弾幕を放ったのだ。

「相変わらず下衆ね! それよりもどういうことかしら。スタンドを解除するなんて!」

 未だ痛みに唸っているアレッシーを気遣うことなく問い詰める紫。

「あん? スタンド……? オレのセト神はあんたにはきかなかったじゃヘブホォ!」

 生意気にもタメ口なアレッシーを日傘で叩きつける紫。アレッシーにかける慈悲など持ち合わせていないようだ。

「何で! 早く答えなさいよ」
「ふぐぅ、オレたちスタンド使いの能力はソイツの精神力に左右される……のです。え~とだからですね、気絶したり寝たりすると……」
「スタンドの効果がなくなるって言うの?」

 紫の言葉にコクコクと頷くアレッシー。だが彼女は納得していない。

「⑨ね! だったら寝なければいいじゃない! 決めたわ。今から寝るの禁止ぃ~」
「ええぇ!?」

 まさに紫。他人の都合など知ったことではない。

「あ、あのぉ、さすがに寝ないと死んじゃうんですけど……」

 紫は懇願するアレッシーを一睨みして黙らせる。だが彼の言うことは一理どころかもっともだ。彼が人間である以上睡眠は避けられない。
 一日や二日寝ずに済むのならばちょっと危ない薬を使えば何とかなるかもしれない。だが金輪際寝るなというのは非現実的だ。
 いや、紫は心当たりがあった。金輪際寝ずに済む薬を持っていそうな相手がいるではないか。例え持っていなくてもすぐに作ってくれそうな人物がいるではないか。

「うふふ、スキマツアーよ」
「ヒぃー!」

 彼の足元にパックリと亀裂が走り、そのスキマに落下して行く。行き先は……そう永遠亭だ。

「これで万事解決ね」

 アレッシーが竹林にメメタァと着地したのを確認し、彼女もスキマへ入り込み、永遠亭へ向かうのであった。
 紫の彼に対する扱いは酷い。それはまるで報復を受けることなど考えていないようだ。それも当然と言えば当然である。
 大妖である紫と変わった力を持った程度の人間では実力に差がありすぎる。現状ではアレッシーが紫に勝つ可能性など万が一にもありえない。
 だが忘れてはならない。アレッシーの能力を。彼のスタンド、『セト神』は現状から相手を変化させるのだ。
 戦いは何も相手の土俵でやる必要はない。勝てる場所、状態に持ち込めばよいのだ。
 『窮鼠』アレッシーが『猫』紫を噛む可能性は喩え僅かと言えども決して消えることはない。



第三話

愛を取り戻せ!

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