another side 0.『Fool』~自由という名の逃避~
―また民衆の暴動が発生しました!―
―東部で飢饉が発生し、民衆が施しを求めています!―
―野盗による襲撃を民衆が訴えています!―
―民衆が!―
―民衆が!―
―民衆が!―
何故だ!
何故、自分達で解決しようとしないんだ!
力が無い?
力が無いのはそう定義つけてるからだろう。
甘えだ!
自分たちを弱い存在として当て嵌めて庇護を求めているだけだ!
そうやって、自分で自分を貶めているだけなのに何故更に下を求めるんだ!
…彼女は…
エレノアはこんな奴らの所為で苦しめられていたのか?
愚かだ。
何もかもが愚か過ぎる。
こいつらも、彼女すらも愚か過ぎる。
世界は自由だ。
自分で歩む道を選ぶ権利を誰もが持っている。
なのに、それを行使しようとせず他者に依存する愚か者ばかりだ。
羨み、妬む事でしか出来ないのならば、始めから考えなければ良い。
簡単な事だ。
依存しか出来ないのなら。
貴様らには、オレが…いや、私が相応しい役目を与えてやる。
支配を!
side.12 XII.『Hanged Man』~偉大なる死~
やはり、こうなってしまったか。
奴は
マグナを殺す事に躊躇いは無い。
ならば、今の俺が成すべき事は決まった。
「…な、何で?」
一人で路頭に取り残された赤子のような表情で
マグナは隻眼の騎士を見つめている。
信じられないという様に。
信じたくないという様に。
だがそんなマグナの表情も冷徹に
いや、どこか楽しげに隻眼の騎士は見下す。
「…さて、よもや貴公がこの愚か者と知り合いだったとは
思わなかったが、ならばこの状況なら分かるだろう?
出して貰おうか、『探知機』とやらを」
抜け目が無い。
この男はあのような状況下でも
やはり俺の言葉を忘れる事が無かったという事か。
いや、俺と剣を交えていた時点で
奴は既に全てに探りを入れていた。
俺への饒舌も全ては俺という人物を知る為。
ここまでに冷静に物事を判断する事が出来る人間など普通はいない。
この男は一体どのような地獄を潜り抜けてきたというのだ?
だが、今はこんな事を考えている暇は無い。
「…分かった」
懐に手を入れ、探知機を取り出し、
地面に放り投げる。
「だが、その前にマグナを放せ。
さもなければこの場でこれを叩き壊すッ!」
そう言い、剣の切っ先を探知機へと付ける。
「…ふむ、良いだろう。
これにはそれと同じ位の価値も無い」
隻眼の騎士は剣を引くとマグナを俺の元へと突き放すと、
その背中を強く蹴り飛ばした。
「ウワッ!!」
俺の元へと崩れるマグナの後ろで
隻眼の騎士が剣を振りかぶるのが見えた。
間に合えッ!!
………………………………………………………
「ウゥ…ツゥッ!」
アルフォンスの奴にいきなり蹴り飛ばされて、
地面に身体を擦り付けながら倒れる。
背中は痛かったが動けないほどでもないし、
起き上がろうとして、背後で湿った音がしてるのに気づいた。
それにこの匂いは…血!?
慌てて起き上がり、振り向いた俺の目に映ったのは、
「…無事か…マグナ?」
息も絶え絶えといった
ルヴァイドの姿。
その片腕は肘より少し手前の辺りで切り落とされていた。
そこから噴き出す血が湿った音と共に地面に染み込んでいく。
あの時、ルヴァイドは俺を庇ったのか?
倒れる俺を強引に自分の方に引き寄せようとして
その腕を切り落とされた?
「何で…何でこんな事を平気で出来るんだよ、アルフォンスッ!?」
ルヴァイドを支えながら俺はアルフォンスを睨みつける。
「生き残る為だ」
平然とアルフォンスはそう言いのけた。
「生き残る為に最善の手段を取る。
それは当然の事だ、貴様はそうは思わないのかマグナ?」
アルフォンスの言う事は一理ある。
でも、
「その為に他人を殺すって言うのかよ!?」
だからって、誰かを傷つけて良いって訳じゃない。
「ならば、私以外の者は何故殺し合う?
他人の為、国の為と言えば聞こえは良いが所詮は己の為だ。
その中で手を汚す事もせずに貴様のように
口だけを動かす輩は何をすると言うのだ?」
アルフォンスの言葉が強く厳しいものへと変わっていく。
その言葉の先にまるで俺以外の誰かにも強く言い含めるように。
「だから、皆で協力すれば!」
引く訳にはいかない。
負ける訳にはいかない。
この言葉を受け入れてしまえば俺の全てが無かった事になる。
「協力すれば勝てるとでも言うのか?
確実性の無い言葉で扇動し、
その先で待ち受けるものも考えずにか?」
扇動?
俺の言ってる事は扇動なのか?
「そういえば、貴様が言っていた娘は死んだようだな。
確か、
アメルと言ったか?
貴様がべらべらと勝手に話していた事だが
貴様はその娘に如何報いろうというのだ?」
胸が抉られる様な思いがした。
自然と息は荒くなり、汗が零れるのが分かる。
「…そ…それは…」
言葉が出ない。
俺はアメルの為にも…
「貴様の考えは破綻しているのだよ、マグナ。
他人など信用しようとも報われる事など無い。
自分で動くしかないのだよ」
アルフォンスの言葉が重く圧し掛かる。
俺は、俺は間違ってるのか?
「フ…フフフ…ハハハハ!!!」
不意に俺に支えられたルヴァイドが笑い出した。
その表情はまるでアルフォンスを哀れむように。
「一つ良いか?
貴様は何故そこまでマグナに拘る?」
ルヴァイドの唐突な質問に、
思わずルヴァイドとアルフォンスの顔を交互に見比べてしまう。
アルフォンスが俺に拘る?
「…意味が分からんな」
「とぼけるな。貴様の言う通りなら、
こうしていつまでも話している必要性など無い。
何故、そこまでマグナを貶めようとする?」
それは確かにそうだ。
ルヴァイドの言う通りなら
誰かに見られる可能性まで有るのに
こうしている必要性は無い。
さっさと俺達を殺してしまえば良いだけの話だ。
「何の事は無いマグナ、よく聞け。
こいつはお前に嫉妬しているんだよ。
人を信じるという自分に無いものを持ち続けられたお前にな」
嫉妬?
俺に?
アルフォンスが?
不意に場を取り巻く空気が一変した。
冷や汗が額を伝う。
それは押し黙っているアルフォンスから発せられる強烈な殺意によって。
「どうやら、戯れが過ぎたようだ。
その下らぬ戯言をこれ以上聞く気も無い」
その殺意が急速に一点に集中していくのが分かる。
アルフォンスが手に持つ剣に。
「マグナ、これはお前が持って行け。
俺には最早不要なものだ」
そう言ってルヴァイドは俺に持っていた剣を押し付ける。
「何言って…ルヴァ」
俺が言い切るよりも早くルヴァイドが俺を突き飛ばす。
「今は退け、マグナ。
今のお前では奴には勝てない。
だが、これだけは覚えておけ。
“お前は奴よりも強い”。
忘れるな、迷いは弱さじゃない。
受け入れろ、お前なら出来る!」
俺を強く見据えながらルヴァイドが言う。
なんだよ、それ。
そんな、まるで自分が…
「逃がしはしない!
喰らえッ! 我が奥義、アポカリプス!」
アルフォンスが剣を振るうのと同時に
その剣に貯められていた殺意が雷光となって飛び出し、
黒い稲妻が俺を射抜かんと迫る。
「ウワァアッ!!」
…………
…………………
…………………………
「あ、あれ? 俺、何とも…」
砂埃の中、自分の身体を確かめるが何処にも傷は無い。
そして、砂埃が晴れた視界の先でその理由が分かった。
「ルヴァイドォッ!」
ルヴァイドが俺とアルフォンスの間に
立ち塞がる様にして仁王立ちしていた。
血飛沫を上げ、崩れ落ちるその姿で微かに、
「……行け」
そう唇が動いた。
それを見た時、俺の脚は自然と動いていた。
がむしゃらに見っとも無く、ただ生き延びる為に。
「ゴメン…ゴメンよ、ルヴァイド。
でも、俺、強くなんかないよ…」
………………………………………………………
崩れ落ちようとする身体を強引に支える。
まだだ、まだ遣り残した事がある。
「見事だな…だが、あの愚か者の為に犠牲になるとは」
剣を収めて隻眼の騎士が歩み寄ってくる。
止めは刺す必要が無いと言う事か。
そして歩み寄る理由は俺ではなくただ一つ。
俺の傍に落ちている探知機を拾う為。
だが、それはさせん。
血を失い、急速に力を無くして行く身体の中で
残された腕に最後の力を込める。
倒れる身体も全てを利用して拳を探知機に叩きつける。
乾いた音と共に砕ける探知機を確認し、
視界は暗転して失われた。
― 生きろよ、マグナ ―
【D-3/平原/初日・深夜】
【マグナ@サモンナイト2】
[状態]:精神的疲労(重度)
右頬に打撲(大きく腫れ上がり)、衣服に赤いワインが付着、
現実逃避
[装備]:バルダーソード@TO
[道具]:支給品一式(食料を2食分消費しています) 浄化の杖@TO
予備のワインボトル一つ・小麦粉の入った袋一つ・ビン数個(中身はジャムや薬)
[思考]1:俺がアルフォンスを信じたばっかりに…
2:もう何が何だか分かんないよ…
[備考]:マグナがどの方面に逃げたかは次の書き手の方にお任せします。
another side XX.『Judgement』~変化~
「ハボリムの処分、終わりましたよ」
「ご苦労だったオズ。 義兄になる筈だった者の処分だ。
お前にも心苦しかっただろう」
「いやぁ、俺は結構楽しめたから善いけれど…
姉さんの方は結構効いてる様子だったけどね」
「オズマには私から伝える」
「どうせ、獄中で死亡とかでしょう?
まぁ、それで姉さんが納得するなら俺はいいけどさ」
「後は下がれオズ。 ここからは私と団長だけで話しをする」
「はいはい、では失礼します。 新たな義兄殿」
「オズ! 減らず口は止さぬか!」
………………………………………………………
「…失礼しました。 ですが、これで元老院の粛清は概ね済む形になりました」
「そうか、貴公には肉親の事もある、苦労をかけたな」
「勿体無きお言葉、私は貴方の理想に従ったまで。
それを理解できぬ父と愚弟は退場を願うしかなかったのです」
「あぁ、だがこれでローディスの実権は教皇に集中する事になる。
腐敗した元老院の排除も済んだ。
国力の衰退も何とか防ぐ事が出来るだろう」
「それと教皇からの新たな使命についてですが…」
「神聖剣ブリュンヒルトか…」
「エェ、真偽の程は定かではないですが神界と交信できるものとか」
「ふむ、それと各地のカオスゲートの捜索と考えても。
存外、本物かも知れんな」
「そうかもしれませんな、それが見つかったとの事です。
何でもゼノビアの宝物庫にて管理されているとの事で」
「…ふむ」
「誰を向かわせましょうか?」
「私が直接行こう」
「相手は神聖ゼデギネア帝国を滅ぼしたほどの者達、
確かに団長程の腕が無ければ難しいとは思いますが…」
「潜入は私個人で行うが補佐に何人か付いて来て貰う、
ヴォラックにも来て貰うつもりだ。
全て一人で行うわけではない、心配するな」
「ならば宜しいのですが」
「………」
「どうかしましたか?」
「いや、少し思い出した事があっただけだ。
…昔、少しだけ連れ添った愚かな娘だ」
「団長が過去を語るのは珍しいですな」
「思い当たる事があっただけだ。
今更、あの娘の為に何かするつもりなどは無い。
我々の傍にあのような弱き存在は不要だ」
side.13 VI.『Lovers』~訪れる空虚~
最初に会った時の印象は随分と地味な女。
親父の趣味の所為で割りと多くの女を見てきたから、
その辺の街角にでもいるような町娘、
いや、田舎娘位の印象しかなかった。
だが、一緒に居る内にあいつは俺の心の半分を持っていってしまった。
気づいた時には俺の心は海とあいつ。
それで出来上がっちまってた。
失くしたくないもの。
一度は俺が取りこぼしたものだから、
二度目は絶対に起こさない。
そう胸に誓っていた。
………………………………………………………
その姿を確認した時、
自分の嫌な予感が当たってしまったんだと理解した。
炎の中心にいる竜。
例えあんな姿になっていたとしても見間違える筈は無い。
「…本当に…なっちまったのかよ…」
―「私、足手まといになんかならない!」―
あの時のあいつの言葉が蘇える。
ならば、何の為にあいつはあの姿に?
疑問の答えはすぐに分かった。
あいつは、ランスロット・タルタロス!
カトリの傍でルヴァイドと対峙するその姿で
カトリが竜に為らざるを得なかった理由が分かった。
だが、それほどまでにあいつに追い詰められていたのか?
何か引っかかりはあるが、今は迷ってる暇は無い。
いつの間にか俺の傍で呆けていたマグナの背中を叩く。
「お前はあっちだ……俺は“あいつ”を何とかする」
ルヴァイドとの2対1なら流石にこいつでも
馬鹿な真似なんてしないだろう。
ルヴァイド達を指し示した後に俺はカトリを指差し、
マグナを促した。
俺の言葉をすぐに理解したんだろう、マグナが走っていく。
それと同時に俺もカトリへと走り出した。
カトリの姿に見たところの怪我は無い。
それは当然か。
この世でこいつを相手にして、
まともに太刀打ちできる相手なんてまずいない。
今、倒れているのも何らかの術で気絶させられているだけだろう。
如何する?
ただ単純に起こしたってこいつを暴れさせちまうだけじゃないのか?
クソッ! やってみなくちゃ、わかんねぇだろ!
「オイ、起きろカトリ! 目を覚ませ!」
その眼前に立ち、大声で呼び掛ける。
その呼び掛けに応じるようにゆっくりとカトリは目を開ける。
俺の姿を視認し、軽く匂いを嗅いだ後、
まるでじゃれるようにその顔を擦り付けてくる。
「お前…分かるのか?
その姿でも?」
理性ではなく本能で感じ取っているのかもしれない。
それでも嬉しかった。
こいつはやっぱり何一つ変わっちゃいねぇ。
「へぇ~、あなたがこの娘の良い人さんね」
影からあどけない少女の声が聞こえてきた。
ゆっくりと現れたその少女は宝石の様な物を持ちながら
俺を値踏みするようにじろじろと眺めてくる。
「ねぇ、聞いてくれないお兄さん?
あの人達ったら酷いのよ、私の言う事は全然聞いてくれないし
その癖、こんないたいけな少女を物みたいに雑に扱うし」
拗ねた様にそう語る少女を一瞥し、構える。
「悪いが俺は自分でいたいけとか言うような女は信用しねぇ事にしてる。
親父にも『清純派気取りは止めておけ』って言われてるんでな。
…狙いは何だ?」
フゥ~ンと鼻を鳴らし、少女は手に持った宝石をこちらに見せる。
「これ、な~んだ?」
「ハァ? 知るか、そんなもん…て、ウォオッ!?」
少女がこちらに宝石を見せるのとほぼ同時にただでさえ暗い視界が更に暗転し、
頭上に物々しい気配を感じて咄嗟に避ける。
先程まで俺が立っていた場所にカトリの
今は竜となったその腕が振り落とされていた。
「…お、お前。 何で?」
何かがおかしい。
今のカトリの姿はまるで何かに抗っているようにも見える。
これは…まさか!
「てめぇッ!!」
怒る俺の姿とは対照的に愉快そうに
くすくすと少女は笑う。
「ウフフ、気づいた?
そう、これは竜を操れるの。
こんな風に」
少女の言葉が終わるのと同時に意識が一瞬途切れる。
吹っ飛ばされ、地面を転がり、衝撃にのた打ち回って、
やっと自分に何が起きたのか理解できた。
「ゲェハッ…ゲホッ…ウッ、クソッ!!」
少女に気が向いていた俺に背後から
カトリの強烈な尾の一撃が打ち据えられて、
無様に吹っ飛ばされていた。
本来なら今ので死んでいた所だが、
カトリが加減を加えてくれていたのだろう。
地面をのた打ち回って血反吐と吐瀉物の混じったものを
吐き出す“程度で”済んだのだ。
死んでないだけマシと言える。
「やっぱり、素直に言う事は聞いてくれないなぁ、この娘」
離れた場所で俺を見下ろしながら、
少女がデイバックから何かを取り出す。
「まぁ、その感じなら動けないでしょ?
あの娘にはちょっと静かにしててもらうから」
少女が取り出したものが何か分かり、
俺は必死に体を動かそうとする。
だが、強烈な一撃で身体の感覚が麻痺し
満足に立ち上がることすらできず、
その姿は傍から見れば、
まるで生まれたての小鹿のような弱々しさだ。
そんな俺の姿を馬鹿にするように
少女はボウガンの狙いを俺に付け、構える。
「さようなら、お兄さん」
哀れみと言うよりも侮蔑を込めて、
少女は引き金を引いた。
放たれた矢が俺に向かって飛んでくるのが見える。
長年、弓師としての腕を磨いてきた所為か、
俺を仕留めようとして飛ぶそれをはっきりと見定める事ができる。
いや、それどころか周りの景色全てがゆっくりと流れていく。
やべぇ、これが走馬灯ってやつなのか?
その視界の先で不意に巨大な壁が出現し、
弾かれる矢の音で流れる時間は急速に現実に戻る。
壁だと思ったものは太い腕。
カトリが俺を庇う様に少女に立ち塞がっている。
「…邪魔しないでよ、本当に使えない娘ね」
カトリの腕が邪魔で少女の姿は見えない。
だが、その憎々しげな声だけで少女が
どんな顔をしているのかは想像がついた。
「いいわ、貴女が苦しまないように
私がやってあげるつもりだったのに、
そうやって邪魔するんだったら貴女がしなさいよ」
―グゥゥゥゥ…―
その言葉と共にカトリが呻きだす。
こんの糞女、またさっきの宝石を使いやがったな。
―オオォォォォオオォッ―
カトリが苦しみの声を上げる。
「フフフ、無駄よ。
ほんのちょっとなら貴方でも従わざるを得ない。
ほんのちょっと貴女の足元にいる人を踏み潰すくらいならね」
実際に、抵抗する声とは裏腹に
カトリの腕は徐々に俺の頭上へと上がっていく。
影が俺を包み込み、準備が整った事を悟る。
「さぁ、踏み潰しちゃいなさいよ!」
少女が声を強めて叫ぶ。
それと同時に頭上の重圧が迫るのを感じ取る。
「すまねぇな…結局、俺の方が足手まといだったって訳だ」
つい漏れてしまった弱音の声。
その瞬間、最早目と鼻の先まで迫っていた腕がピタリと止まる。
―駄目!―
「カトリ?」
聞こえない筈の声が聞こえた気がした。
「何よ、あとちょっとじゃない!
言う事を聞きなさいよ!」
ヒステリックに少女が捲くし立てる。
その声を無視するように腕を振り上げ、
ーグォオオォォッ!!―
カトリは少女に対して腕を振るった。
「キャアァッ!」
それは少女には触れてはいない。
だが目の前を通り過ぎたそれが巻き起こす暴風に
華奢な少女は耐えられずに持っていた宝石を落としてしまう。
「アッ!?」
少女が宝石を拾いなおそうとするのよりも早く、
振るわれた尾が宝石を粉々に打ち砕き、
少女は目の前に振り落とされた巨大な尾に
ペタリとその場で腰を抜かした。
ーオオォォォオオォォッ!!―
一際、大きな雄叫びを上げ、
カトリの姿が光に包まれる。
徐々に大きさを減らしていき、
俺よりも小さくなった光が収束すると
元の人間の姿へと戻ったカトリが現れた。
俺の姿を確認するとカトリの身体がふらりと揺れ、
倒れ落ちる。
身体は動くようになっている。
俺は慌てて、倒れるカトリの体を支える。
俺の腕の中で力無くカトリの瞼が開く。
「あ…ごめ…なさい…私…ホー…ムズに…
迷…惑…かけ…ちゃった…」
そういって寂しそうに微笑むカトリを俺は抱きしめる。
「ふざけんなッ! 迷惑だ何て思っちゃいねぇ!
…良かった、カトリ!」
俺の言葉をまるで子をあやす母の様な表情で聞きながら、
「ごめ…んね…」
カトリは再び俺に謝った。
「謝るな、お前の所為じゃ…カトリ?」
カトリの目は見開き、ビクリと身体が跳ねる。
そして微かに口から赤い雫を垂らすと、
俺の頬に手を当て、一筋の涙を零した。
「…ごめ…ん…」
俺の頬に当てられたカトリの手がカクンと落ちる。
そのカトリの背中には一本の矢が突き立っている。
「……てぇぇんめぇええぇぇぇぇッ!!」
誰がやったかなんて判りきっていた。
俺の視線の先で少女が口が裂けたかのように笑っている。
「アハハハハハハ、仕方ないじゃない。
言う事も聞いてくれないような娘はお仕置きしないとッ!」
少女は構えていたボウガンを投げ捨てると
そのまま闇夜の中に消えていった。
取り残された俺はただカトリの身体を抱きしめるしかできなかった。
「…嘘だろ…カトリッ!」
俺は、又、目の前でお前を失くしちまうのかよ?
―トクン―
「……ッ!?」
力無く俺に支えられるカトリの身体。
だが、微かに心臓は脈打っている。
不意に淡い光がその身体を包み、
カランと音を立て、カトリの背中から矢が抜け落ちた。
全体を包んでいた淡い光は一転に集中し、
軽い音と共に砕け散った。
「これは…俺が渡した…」
砕け散った光の欠片は俺がカトリに渡したお守り。
たった一度だけの奇跡を起こしてくれるそれは
確かに今、奇跡を起こしたと言える。
だが、
カトリが目を覚ます気配は無い。
その心音も呼吸も全てが儚く今にも消え入りそうな程に。
今のカトリは生きている“だけ”だ。
カトリを抱きかかえ、俺は思案する。
(どうする? 一度さっきの村まで戻るか?
いや、あっちはもう駄目だ。
あの糞女にばれてるに決まってる。
仕方ねぇ、距離はあるが西の城まで行くしかねぇ!)
安全な場所なんて無いのは分かってる。
それでも今はカトリの命の方が大事だ。
賭けだろうが何だろうがやるしかねぇんだ。
一度だけ、視線をマグナ達がいた方に向ける。
今は砂埃が舞い、何が起きてるのかは
ただでさえ暗い視界の中では判別しようが無い。
今は向こうも無事だと信じるしかない。
人形の様に俺に抱き抱えられるカトリの顔を少しだけ眺めて、
俺は走り出すしかなかった。
【D-3/平原/初日・深夜】
【
アルマ@FFT】
[状態]:健康、身体の疲労(中)、常軌を逸する狂気と信念
マバリア効果中(リレイズ&リジェネ&プロテス&シェル&ヘイスト)。
[装備]:手斧@紋章の謎
死霊の指輪@TO
希望のローブ@サモンナイト2
[道具]:支給品一式、食料一式×4、水×3人分
折れ曲がったレイピア@紋章の謎、
アメルの首輪、筆記用具、ヒーリングプラス @タクティクスオウガ
キャンディ詰め合わせ(袋つき)@サモンナイトシリーズ
(メロンキャンディ×1、パインキャンディ×1 モカキャンディ×1、ミルクキャンディ×1)
[思考]0:
ラムザ兄さん、もしくは自身の優勝。
1:利用できるものは何でも利用する(他者の犠牲は勿論の事、己のいかなる犠牲すら問わない)。
2:ラムザ兄さんが生きていることを確認したい。
3:取り敢えずは
タルタロス達から逃げる。
4:
アルガスや
ウィーグラフを発見すれば、殺害してクリスタルを回収したい。
(
アグリアスは利用価値なしと判断したら殺害してクリスタルを奪う。)
[備考]:アルマがどの方面に逃げたかは次の書き手の方にお任せします。
【
ホームズ@ティアリングサーガ】
[状態]:全身に打撲(数箇所:中程度)、精神的疲労(重度)、軽い混乱
[装備]:
プリニー@魔界戦記ディスガイア、肉切り包丁
[道具]:支給品一式(ちょっと潰れている)、食料(一食分消費)
[思考]0:ゲームを破壊し、カトリと共に帰還する。
1:カトリを連れて安全な場所(E-2の城)まで逃げる。
[備考]:マグナ達の会話を聞いている余裕が無かった為、
タルタロスが
リュナンを殺害した事にまだ気づいていません。
平静を装っていますがかなり焦っています。
その為、冷静な判断が出来なくなっています。
【プリニー@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:ボッコボコ(行動にはそれほど支障なし)
[装備]:なし
[道具]:リュックサック、PDA@現実
[思考]1:アッ、俺途中から完全に空気(具体的に言うとside.7辺りから)ッス!!
【カトリ@ティアリングサーガ】
[状態]:重症(心身衰弱:大)
[装備]:火竜石@紋章の謎
[道具]:
ゾンビの杖@ティアリングサーガ、支給品一式(食料を一食分消費)
[思考] 0:みんなで生還
1:意識不明につき、思考不可。
[備考]:火竜石による消耗と一度致命的な攻撃を受けたため、
かなりの消耗をしています。
道具を使っても短時間での回復は有り得ません。
side.14 XIII.『Death』~刈り取る者~
暗闇の中、満足げな表情で逝った騎士の死体を眺める。
今際の際でも己が成すべき事を成し遂げたその姿は敬意にすら値する。
騎士の手元で砕け散った機械の残骸に目を向け、
それが使い物にならない事を確認する。
「騎士の鑑だな…惜しいな貴公程の者なら
私の下で働いて貰いたかった程だ」
死者への敬意は払いつつ、剣を抜き放ち上段に構える。
「―――――フッ!!」
そして死者を冒涜する。
剣を収め、寸断した騎士の首から首輪を外し、回収する。
それをデイバックに収めながら、
「…いつまで眺めているつもりだ?」
潜伏者へ警告を送った。
それはほんの少し前から感じていた気配。
マグナが現れた後から遅れてその気配の主は現れ、
決着が付くまでただじっとこちらの様子を窺っていた。
「流石にあんたにはバレるか」
その声には聞き覚えがあった。
だが、その声の主は記憶が確かならば…
「おっと、あんたとやる気は無い。
とりあえずは俺の話を聞いてくれないか?」
死んだ筈の青年、
ヴァイスが下卑た笑いを浮かべながら
私の前に現れた。
「ハハァン? やっぱり意外って感じだな。
だが、この通り俺は生きてるよ。
ゾンビでも何でもねぇ」
ヴァイスにこちらの考えが表層でも見抜かれていると思い、
不快感に襲われる。
「…どういう事だ?」
「さてね、俺は死ぬ筈だった。
でもこの通り、生きてる。
この祭りの主催殿は時間でも操れるんじゃねぇの?」
ヴァイスは軽い口調でそう言っているが、
自分が今、口にした事の重要性を理解しているのか?
それは例えるなら世界を掌握したも同然の行為なのだぞ?
「それで、何の用だ?
下らぬ戯言ならば…理解しているな?」
私が剣を構えようとするのに対し、
ヴァイスは本気で慌てた。
「ちょ、ちょっと待った!
あんたの怖さは重々理解しているよ。
だからこそあんたにお願いしたい事があるんだよ」
この姑息な男が、私に願いだと?
「あんた、俺と組まないか?」
ヴァイスは必死な様子で私に取り縋ろうとする。
「貴様も聞いていた筈だ、協力などして如何なる?
最後の椅子は一つしかないのだぞ?」
そう、それは無意味だ。
生き残れるものが一人しかいない以上、
いずれは皆が殺しあうのだ。
「それは俺も分かってる。
だから生き残りが…5…
いや、10人になるまでの間で良い、
その間だけ俺と組んでくれよ!」
成る程な。
一時的な共闘関係か。
マグナを逃がしてしまった以上、
私も今までの様には行動する事は難しくなってくる。
悪くは無い、だが…
「貴様と組むメリットが私には無い。
それとも、貴様は私の考えを変えられるようなものでも
持っているというのか?」
この言葉を聞いてヴァイスの目の色が変わる。
懐に下げていた剣を抜き放ち、掲げてみせる。
「見てくれよ、こいつを。
俺なんかは初めて見るほどの業物だ。
…あん? どうかしたのか?」
思わず動揺が隠せなかった。
馬鹿な、何故このような男がアレを持っているのだ?
神聖剣ブリュンヒルトを。
「…確かに、それは素晴らしい業物だ」
この言葉を聞いて、ニヤリとヴァイスの口元が歪む。
「そう思うだろう、あんたも?
おっと、剣から手を放してくれよ、
あんたは怖すぎるんでね。
どうだい、俺と組んでくれたら
約束の期限の時にあんたの武器と交換と言う事で?」
思わず舌打ちを打ちそうになってしまった。
何処までも小物な男だ。
本来なら斬り殺している所だがアレを持って逃げられても困る。
あれは時がくれば必要になる物だ。
目の届く場所にあった方が都合が良い事は確かだ。
「…いいだろう。
但し、自分の身を自分で守れぬようなら
容赦無く見捨てるが構わぬか?」
私の言葉を聞いて、ヴァイスの顔が更に醜く歪む。
「あ、あぁ、あんたと不戦の約束が結べるだけでも有り難いんだ。
俺にはそれでも充分だ」
そして、懐から何かを取り出すとこちらに向かって投げてきた。
「これは?」
「そいつは手付金代わりだ。
あんたも知ってる奴の首輪さ、
『ゼノビアの聖騎士』殿のな」
side.15 IX.『Hermit』~享受せし孤独~
「……何だぁ、ありゃあ?」
それはほんの僅かな興味。
あの怪生物がいた建物で何があったのかが
知りたくなった。
向こうに気づかれる距離ではない事を確認し、
ゆっくりと建物に侵入する。
「チッ! 何もねぇじゃねぇか。
俺も勘が鈍ったか?」
居間には目新しいものは何も無かった。
散乱した調度品がいかに此処に居た奴らが
慌ただしく出て行ったかを示しているだけだ。
外れだったかと思い、寝室のドアを開けて
慌てて身構える。
「あん? 何だもう死んでんのか?」
ベッドに横たわる人物。
それを最初は誰かが寝ているのかと思って慌てたが、
動かぬそれは既に死んでいるのだと分かった。
「慌てて損したぜ…どれどれ?
…こいつは驚いたな!」
寝かされていた死体の顔を覗き込み、
その人物が誰なのかを知って本当に驚愕する。
自分の見知った顔、
その中でもかなりの実力者であった筈の聖騎士が
今は物言わぬ死体として其処にいたのだから。
「何であんたが死んだのかは知らねぇが、
ヘッ、悪いが貰ってくぜ」
剣を抜き放ち、容赦無く振り落とした。
………………………………………………………
「そういう訳だよ。
原因は知らねぇが、
俺が見つけた時にはもう死んでたぜ?」
俺の言葉を聞いて目の前の暗黒騎士は腕を組み、
考え込んでいる。
「…成る程な。
確かに貴様程度の腕で聖騎士殿を
手に掛けれるとは思ってはいない」
ズケズケ言いやがるぜ、畜生が。
だが、この化物をまともに相手する程、
馬鹿な事は無いぜ。
今は耐えて、いずれは寝首をかいてやれば良いさ。
今はこいつから狙われなくなったってだけでも大分マシだ。
俺は生き残るんだ。
その為なら何だってしてやるさ。
それにこいつの腕があれば、
あの糞女も、糞餓鬼も、銀髪雑魚も全員目じゃねぇ。
いや、あいつにも、
デニムの奴にだって勝てる。
思い出しただけでもムカついて来る。
あいつは俺を見捨てやがった。
助けてと何度も無様に命乞いしたのに。
だが、この二度目の生を俺は無駄にしねぇ。
全部利用して、
俺が、
俺だけが最後に残るんだ。
その為なら、俺は悪魔にだって魂を売る。
【D-3/平原/初日・深夜】
【ランスロット・タルタロス@タクティクスオウガ】
[状態]:健康、マグナに対する底無しの悪意。
[装備]:ロンバルディア@TO、サモナイト石(ダークレギオン)
[道具]:支給品一式(食料を1食分消費しています) ドラゴンアイズ@TO外伝 、
リュナンの首輪、
ハミルトンの首輪、ルヴァイドの首輪
[思考]1:生存を最優先
2:
ネスティ、または
カーチスとの接触を第一目的とする。
3:抜剣者と接触し、ディエルゴの打倒に使えるか判断する。
抜剣者もまた利用できないと判断した場合は、優勝を目指す。
4:小物(ヴァイス)と協力するか?
5:いかなる立場を取る場合においても、マグナだけは必ず後悔と絶望の中で殺害する。
【ヴァイス@タクティクスオウガ】
[状態]:疲労:中程度(死神甲冑の効果により回復は比較的早いと思われます)
左眼に肉切り用のナイフによる突き傷(失明)
背中に軽い打撲(死神の甲冑装備中はペナルティなし)
右腿に切り傷(軽症)
右の二の腕に裂傷、右足首に刺し傷(全て処置済)、やや酷い貧血、
死神の甲冑による恐怖効果、および精気吸収による生気の欠如と活力及び耐久性の向上。
[装備]:ブリュンヒルト@TO、死神の甲冑@TO、肉切り用のナイフ(2本)、漆黒の投げナイフ(4本セット:残り4本)
[道具]:支給品一式、栄養価の高い保存食(2食分)。麦酒ペットボトル2本分(移し変え済)
[思考]1:自身の生存を最優先
2:何としてもタルタロスの協力を取り付ける。
3:いずれは全員皆殺し
[備考]:女物の香水の匂いを漂わせています。
ブリュンヒルトの価値が分からないので取引の対象程度に考えています。
side.16 XXI.『World』~その場限りの完結~
片隅で行われた宴は一先ず幕を閉じました。
生き残る者。
死んだ者。
形は如何あれ最早戻る事も無し。
思惑秘めた所とて、されど叶うものなのか?
逃げる先にあるものは?
けれど、それに答える者も無し。
幕は一先ず降りました。
されど舞台は終わりません。
然らば、最後に忘れ去られしものを
遺して一先ずおさらばです。
………the.lost №s VIII.『Justice』~『正義』は此処に無く~
【ルヴァイド@サモンナイト2 死亡】
【残り31名】
[共通備考]:ルヴァイドの首を切断された死体の手元に壊れた首輪探知機があります。
その少し離れた場所に砕けた竜玉石と矢を使いきった
ガストラフェテスが落ちています。
またD-3で起こった火災はほぼ鎮火しており、焼け跡が残っているだけです。
最終更新:2013年04月10日 19:16