絶望キネマ

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絶望キネマ  ◆.WX8NmkbZ6



 展望台において、夜神月は支給された地図と望遠鏡越しの景色を見比べていた。
 島の地形や施設の位置が地図と一致する事やF-2で小競り合いが起きている事を確認。
 更にその方角に向かう三つの人影も見え、今後も危険な状況が続きそうだ。

 遮蔽物の為収穫は少なかったが、それらの事項に加えて爆発が起きた場所を地図に書き込む。
 目視出来る参加者が限られているとは言え幸い望遠鏡の質は低くない。
 同行者、ルパン三世曰く「総合病院で着替えている女の子の下着の色が判別出来る程度」らしい。
 ルパンの例えが適切かはともかく、他の参加者の観察が目的の月にとって及第点の精度と言えた。

「坊主よぅ」

 メモを終えて手が止まったところでそのルパンから声が掛かり、月は声の主の方へ振り向く。
「他に何か見えましたか、ルパンさん?」
「いーや、特に変わった事ぁねぇんだがよ。
 そろそろ飯にしねぇか」
 その申し出に月は目を丸くする。
 時刻は六時をとうに回っており、朝食の時間としては適切だ。
 まして夜の間ろくに寝ずに歩き回っていたのだから、食事の申し出自体は月にとっても有難い。
 月が驚いたのは、ルパンがこのタイミングで言い出すと思っていなかったからだ。
 これが六時よりも前なら、自分を心配して言い出してくれたのだろうと素直に従っていただろう。
 だが今は六時を回っている。
 即ち放送後であり、ルパンにとって親しかった人物の名前が呼ばれた後なのだ。
「……いいんですか?」
「こーんな時だからこそ、食わなきゃやってられねぇのさ。
 坊主も休まねぇと倒れちまうぜ?」
 それを聞くと月もこれ以上遠慮するのは野暮だろうと、その申し出に合意した。

 総合宿泊施設であるこの展望台の三階はレストランになっている。
 事前の捜索である程度の食材が用意されている事、それにガスと水道が使用出来る事は確認済みだ。
 だがこんな状況下で凝った料理を作る神経は両者共持ち合わせていない。
 よって厨房で発見したパスタを茹で、レトルトのミートソースを温める事になった。
 殺し合いを推奨する主催者が食材に毒を混入する可能性は極めて低い。
 それでも安全性重視を訴える月の前でルパンが毒味して見せたので、月もそれ以上反対しなかった。

 皿に盛り付けが終わると二人は厨房からレストラン内へ移動し着席する。
 席数が多い店ではないとは言え、二人だけで使うには広過ぎて閑散としていた。
 食事を前に子供のようにはしゃぐルパンはその中で浮いていたが、本人はまるで構わないようだ。
「いっただきまーす!」
「いただきます」
 ルパンは早速パスタをぐるぐると勢い良くフォークに巻き付けて皿の上のパスタを全て巻き取った。
 拳よりも二回りは大きくなったそれを、大口を開けて奥に押し込み豪快に咀嚼する。
 月はお世辞にも上品とは言えない食べ方に閉口しつつ、自分のペースで食事を進める事にした。
 フォークでパスタを持ち上げてソースと絡めると熱い湯気が零れる。
 周囲にミートソースの匂いが広がり、緊張で忘れていた空腹を思い出した。
 スプーン上でパスタを巻き取り最初の一口を口にすると、甘過ぎないトマトの味が口内に広がる。
 具材はどれも大きめに切られており、食感もいい。
 緊迫した状況や運動による疲労の為にそう感じる部分もあるのだろうが、レトルトにしては優秀だ。
 それに身体が温まると自然と落ち着き、月本来の冷静さを取り戻しつつある。
 支給品のパンで済ませる選択肢もあったが、あえて手間を掛けただけの成果はあったと言えた。
 これで窓の外に立ち昇る黒煙が見えなければ、もっと美味しく感じられた事だろう。

「ほいへよ、坊主」
「喋るのは飲み込んでからにして下さい……」
 月はルパンに注意しながらも、どんな話題を振って来るのか大体の想像は付いていた。
 ルパンは月の言葉を受けてパスタを飲み込み、改めて話を切り出す。
「あの放送、お前ぇはどう考える?」
 想像通りの問いに対し、月は放送直後のルパンとの会話を思い出した。


「おいおい、とっつぁんが死んじまうわきゃあねぇだろう。
 どーせならもうちょいマシな嘘を吐け、ってなもんだ」

 放送が終わって暫し思考した後、ルパンの第一声は否定の言葉だった。
 飛行機から落ちたって海の上を引きずられたって死なねぇんだぜ、と更に幾つか言葉を並べる。
 しかし月がその言葉に応えずに黙っているとルパンも黙り、ガシガシと頭を掻いた。
「分ーかってるって。
 いつまでも現実逃避してる気なんざねぇ、俺だってちゃんと考えてるさ」
 月は放送内容に偽りは無いと考えている。
 ただしルパンの様子次第では、放送に嘘が紛れている可能性を示そうとも思っていた。
 だが月が口を開く前からルパンは自分で思考の整理を始めており、それは不要だと感じる。
 慰めが必要な程ルパンは弱くない。
 それに慰めを慰めと気付くのに充分過ぎる知性を持っているのだ。

「ただよぅ、ちょーっとだけ、俺に時間をくれねぇか」

 ルパンの頼みを断る理由は何処にも無く、月は迷わず首肯した。


「僕も幾つか可能性を考えてみましたが……あの放送に嘘は無いと思います」
「やっぱ坊主もそう思うか~。
 まぁそりゃそうだよなぁ」
 率直な意見があっさりと受け入れられたのは月にとって意外な事だった。
 ルパンの質問の真意は、銭形生存の可能性を考える為という一点にあると思っていたからだ。
 ルパンは情に篤いが、それが原因で冷静さを失う事は無い。
 銭形の死とは既に折り合いを付け、既に次の思考に移っているという事なのだろう。

 「一応理由も訊いていいか」と言われ、月は食事の手を一度止めて少し考えてから返す。
「仮に放送を偽るなら、目的はまず参加者を焦らせる事にあるでしょう。
 知り合いの名前が呼ばれれば、それまで殺し合いに関わる気の無かった人間も焦る。
 V.V.の『何でも願いを叶える』という言葉を真に受ける者も現れるかも知れません」
 言葉の合間も食事を進めるつもりだったが、手が完全に止まってしまった。
 殺し合いの事を考え始めると、とても物を食べる気分にはならない。

「しかし外の様子を見ていると、それが必要な状況ではなさそうです。
 各地で爆発が起きている……それこそ十六人も死者が出ていたとしても不思議じゃない」
 こうして食事をしている間にも、誰かが殺されているかも知れない。
 殺し合いは円満に行われ、既に参加者の四人に一人が死亡している――月は気分が悪くなった。

「V.V.の思惑通り殺し合いが進んでいるなら、放送を偽る必要はありません。
 それに普通に真実を放送するだけでも殺し合いに加わっていない参加者を焦らせるには充分です。
 むしろ放送を偽る事で、後でそれが参加者に知られた時V.V.側に不利益が出る事も考えられます。
 例えば報償目当てだった者は、V.V.が信用出来なくなれば殺し合いを止めてしまうかも知れません」
 しかし事態が急変して食事どころではなくなった時の事を思えば、食べておくべきだ。
 月は仕方なく食事を再開する。

「他にも色々ありますが、僕の意見を纏めるとおおよそこうなりますね」
「なーるほどねぇ~。
 誰が生きてて誰が死んでるかなんざ、参加者同士の接触が増えればすぐにバレちまうしなぁ」
 言い終わるとルパンは席を立ち、厨房におかわりを取りに行った。
 この状況で食事に専念出来るルパンに感嘆しながら、月はルパンについて考える。

 銭形の死を既に受け入れているなら、この質問の目的は何か。
 ルパン自身も思い付かなかったような、放送の真偽に関する斬新な説が出る事を期待していたか?
 それもあるはずだ。
 ルパンとて、銭形の死を出来る事なら信じたくなかったに違いない。
 だがそれ程望みを懸けていたようにも見えなかったので、それ自体が目的ではなさそうだ。
 恐らく、質問の真意は月の「考え方」や「思考力」を見る点にあったのだろう。
(食えない人だな……)
 月に善意で同行しているとは言え、相手の能力も分からずに行動しては後々で命取りになる。
 言動に反してルパンはまともな人間だ。
 そしてそれ以上に頭が切れる。
 自分と同等の知性の者を知らない月にとってルパンは、この点においても初めて出会う人種なのだ。

 二皿目のパスタを持ったルパンが席に着くのを待ち、今度は月が問う。
 月もまた、同行者について知っておきたいと思っているのだ。
「放送と言えば、禁止エリアに関してルパンさんはどうお考えですか?」
「ああ、ありゃあ暫くは気にする必要はねぇだろうな。
 V.V.が参加者同士に殺し合いをさせたがってんなら、禁止エリアによる死者は出て欲しくねぇはずだ。
 殺し合いに参加せずに隠れてやり過ごそうと思ってる奴への牽制がメインの目的。
 それに死者が出て参加者が減りゃあ参加者同士が接触しにくくなる。
 だったらその分代わりに活動範囲を狭められりゃ一石二鳥ってこった」

 ルパンは一杯目の時と同様、一口でパスタを平らげる。
 そして飲み込んでから付け足した。
「島の端の方ばっかが指定されてんのがその証拠だ。
 どれも施設の隣じゃあるが、人がいそうなのはG-7ぐれぇだろ。
 それだって三時間も猶予がありゃあよっぽどのろまか事故でもねぇ限り引っ掛かりゃしねぇ」
「ええ、僕も同意見です。
 何よりV.V.は、この展望台を禁止エリアに指定しなかった」
 その通り、とルパンは口元をほころばせた。
「放送で死んだ人間の名前を呼ぶって事ぁ、参加者の動向は把握出来てるってこった。
 だがこの展望台に半ば籠城決め込んだ俺達をV.V.はほったらかしにしてやがる。
 向こうもまだまだ様子見、積極的に手出しする気はねぇって事なんだろうよ」
 ルパンはそう言ってコップの水を飲み干し、椅子の背もたれに体重を掛けて楽な姿勢を取った。
 月もまた食事を終え、皿を脇に除けて改めてルパンと向かい合う。

「どうにも分からねぇな、あのV.V.の考えてる事ぁ。
 こんだけの人数をパッと集めたり、こんな首輪を用意したり。
 凄ぇ技術を持ってるってのに、それで始める事が殺し合いってのがどーにもなぁ。
 もし坊主の立場だったらどうする?」
 ルパンは椅子の後ろの脚二本だけで器用にバランスを取り、ゆらゆらと身体を前後に揺らす。
 それと対象的に月は姿勢を正したままだ。
「僕なら……」
 大勢の人間を集めて管理し、逆らう人間は首輪を爆破して殺す。
――そんな力をもし僕が持っていたとしたら、どうする?
 月は想像した。
 日本だけでなく、世界中の人間に首輪を填めて管理する未来を。
 「罪を犯せば首輪を爆破する」と、その一言で犯罪が無くなる世界。
 それは月にとっての理想の世界そのものだった。
 全ての人間に首輪を填めるのは現実的に考えれば不可能だ。
 しかしそれを実現させるだけの『力』をV.V.は持っているのかも知れない。
 それが手に入れば、それが実現出来れば――

――僕は、新世界の神にな――

「わっ!!!」
「っ!!!?」
 突然ルパンが大きな声を出し、月は驚きの余り声もあげられないまま肩を震わせた。
「い、いきなりどうしたんです……?」
「悪ぃ悪ぃ。
 試しに訊いてみただけだってのになーんか大真面目な顔して考え込んでたもんだから、ついなぁ。
 イタズラ心って奴さ」
 相変わらず子供じみた事をする人だと、月は大きな溜息を吐く。
(いや、本当にそうか?)
 はっとしてルパンの顔を見る。
 目が合うとルパンの表情はすぐに普段の緩んだものになったが、一瞬見せたのは別の顔だ。
「で、坊主ならどうするんだ?」
(……)

 改めて考え直すと、直前の考えが馬鹿馬鹿しく思えた。
 全人類に首輪を付けて管理する事が可能だとしたら、それこそ魔法の域だ。
 それに何より、人道に反する。
 月はある程度の重犯罪者は死んでも構わない――むしろ死んだ方がいいと思っている。
 この場においても、殺し合いに参加するような人間は全員死ねばいいと思っている。
 だが人道に背くような事は嫌うし、自ら殺人犯になって悪を裁き世界を変えようとまでは思わない。

 月は考えが飛躍し過ぎたのだと自省した。
 もしかしたらルパンもそれを察したのかも知れない。
「僕個人なら持て余すでしょうね。
 人を集めるのも管理するのも」
 社会福祉や医療の現場等、有効利用出来る場所は幾らでもありそうだが月個人には不要な技術だ。
「夢がねぇなぁ~。
 俺なら迷わず世界中のカワイコちゃん達を集めてハーレム作っちまうってのによぉ」
 言動は下品でも、どこまで考えているのか読ませない。
 鼻の下を伸ばして下卑た笑いを浮かべるルパンを月は真剣に観察する。
「……そぉんなに見つめるなって~。
 幾ら俺様がいい男だからってよぉ」
 注視されているのに気付くとルパンは月に向かってウインクした。
 真剣に考えている時ににやけ顔で茶化されたので、思わずカッとなる。
「だから、そういう言い方はやめて下さいと言ってるじゃないですか!」
 ルパンの今の表情からでは、知性は測れなかった。

「そいで坊主、V.V.に限らねぇ話だが……そろそろ本格的に腹ぁ括る事も考えといた方がいい」
 月が呼吸を落ち着けるとルパンのデレデレとした態度は少し改まり、声のトーンも下がった。
「どういう事です?」
「『魔法なんてあり得ない』なんて言ってる場合じゃなぇかも知れねぇぜ?」
「……それは、」
 それは月がずっと否定していた話だ。
 しかし先程常識では考えられない能力を持ったカズマと接触し、月の意見も揺らぎ始めている。
「それに俺ぁ、坊主が俺の事を知らねぇってのも引っ掛かっててよ。
 カズマみてぇな奴ならともかくだ。
 坊主みてぇな常識人が、世界を股に掛けた大泥棒の俺様を知らねぇなんざおかしな話だ」
「でも現に、僕はルパンさんを知りません」
「だからよ……」
 ルパンはわざと勿体ぶって一呼吸置き、一つの説を告げる。

「坊主がいた世界と俺がいた世界と、別モンなんじゃねぇか?」

「そんな事、あるはずが――」
 否定しようとするが、続く言葉が見つからない。
 月もまた一度は考えた可能性だからだ。
 そしてこの説を否定する材料は「現実的にあり得ないから」の一点。
 その大き過ぎる一点を月はまだ越えられず、頭を抱えた。
「……その可能性に関しては、もう少し考えさせて下さい」
「おぅ、俺だって自信がある訳じゃあねぇ。
 そっちの方まで考えといて損はねぇってだけの話だ」



 今の月には知る由も無い。
 月とLの最初の対決は月に軍配が上がり、Lの死で一度幕を下ろした。
 だが月にはデスノートと死神という存在を知っていたという点でアドバンテージがあったのだ。
 Lはキラが名前と顔で人が殺せると推理していたが、最後に勝敗を分けたのは死神の存在だった。
 Lがもし初めからそれらの知識を持っていたとしたら、別の結果が待っていたかも知れない。

 そして、今のLは既に異世界の存在も超常的な力の存在も信じている。
 更に望遠鏡からしか情報を得られない月と違い詳細名簿を持っている。
 今度のアドバンテージはLにあるのだ。
 その事を、今の月には知る由も無い。



「魔法に関しちゃあ、ロロってのと会って話せるといいんだがなぁ」
ロロ・ランペルージ……あの会場でV.V.と話していたルルーシュと同じ名字の参加者ですね。
 確かにルルーシュと家族なら、あの時の彼の行動について何か知っているかも知れません」
「問題はそのルルーシュが放送で呼ばれちまった事、だな。
 園崎詩音竜宮レナ共々、大丈夫なのかねぇ」
 ルパンは窓から未だ黒煙を上げる東の森に目を遣った。

「カズマの奴は、間に合わなかったみてぇだしよ」

 「間に合わなかった」とは、紛れも無く北条悟史の事だ。
 拡声器で妹の保護を求めた少年――月とルパンが助けに行かず、見殺しにした少年。
 D-7が炎上したのはカズマがこの展望台を出た直後だ。
 悟史の助けになればとルパンが向かわせたのだが、その甲斐無く悟史の名は放送で呼ばれた。
「……あの時僕達が助けに向かっていれば助かったかも知れないのに、と。
 そうおっしゃりたいんですか?」
 意図せずして、月の言葉は棘のあるものになった。
 それはルパンに対し苛立ちを覚えているからではなく、月自身が気に病んでいた事だからだ。
 もしあの時自分がルパンを止めなければ、悟史は死なずに済んだのではないかと。

「そ~んな事ぁ言わねぇよ」
 剣呑な空気を纏った月に対しルパンは軽い調子で返したが、表情を引き締めて答える。
「あの爆発……ありゃあ生半可な威力じゃねぇ。
 あそこに俺達が行ってたところで、仲良く黒焦げになって終しめぇだったかも知れねぇんだ。
 お前ぇさんの判断は間違っちゃいねぇ。
 ……そりゃ死んじまった奴らに対しちゃ、助けられなくて申し訳ねぇとは思うがよ」

 月は改めて、ルパンは本当に情に篤い人物なのだと感じた。
 安全地帯にいる身とは言え未だ見ぬ他人の精神面まで気遣う事は難しい。
 少なくとも月は自分の事で手一杯で、悟史の周囲の人間達までは考えていられなかった。
 しかし同時に申し訳無さを覚える。
 ルパンが同行者を気にせず行動していれば、十六もの人命が犠牲になる事は無かったかも知れない。

「……ルパンさんは、このままこの展望台に留まりたいですか?」
「何でぇ突然。
 ここで望遠鏡使って情報集めるってのぁ坊主の案じゃねぇか」
 今更何を言い出すのかとルパンは首を傾げた。
「ルパンさん自身は、殺し合いに巻き込まれている参加者を助けに行きたいんじゃありませんか?」
 悟史の呼び掛けを無視させたのは他でも無い月だ。
 間違った判断をしたとは月も思っていないが、負い目を感じずにはいられない。
「僕を心配して一緒にいて下さっているのは分かります。
 でも、僕はルパンさんの荷物にはなりたくない」

 月は所持していたマグナムをテーブルの中央、ルパンとの間に置く。
「僕が持っている次元さんの銃と、ルパンさんに支給された剣を交換して貰えませんか?
 それでお互いの護身用の武器は確保出来るし、ルパンさんの目的も果たせる」
「おいおい、勝手に話を進めるなよなぁ」
 ルパンは背もたれに預けていた体重をテーブルの方へ移動させ猫背になった。
 だがマグナムには触れようともしない。

「俺が今出てったって、出来る事ぁねぇ。
 この島は想像以上にやべぇ……なんたってとっつぁんが死んじまうぐれぇだからよ」
 目を伏せて数瞬だけ長い付き合いの宿敵を思い起こすが、すぐに気を取り直し月と向き直る。
「だったらここで坊主と一緒に情報集めて、V.V.にあっと言わせるような策を考えた方がいい。
 文殊の知恵にゃあ一人足りねぇが、そこは坊主が二人分頑張るって事にしてよ。
 死んじまった奴らの為にも、二人でよろしくやってこうぜ」
 ルパンはそこで漸くマグナムを手に取り、指先でクルクルと回転させて弄んだ。

「大体俺に次元の銃は扱えねぇよ。
 銃ってのぁ女と一緒でよ、持ち主の言う事しか聞かねぇじゃじゃ馬なのさ。
 まぁ~ったく、俺のワルサーちゃんは今頃どこで誰と何をやってる事やら~」
 おどけて見せてから、銃の回転を銃身を握る形で止める。
 そして反対側のグリップを月に向けた。
「だからこいつはまだお前ぇさんが預かっててくれ。
 使い方で分からねぇとこがあるってんなら俺が教えてやっからよ」
 月は差し出された銃を暫し見詰め、受け取る。
「……ありがとうございます、ルパンさん。
 一緒に頑張りましょう」
「頼りにしてるぜ、坊主」
 月がグリップを力強く握ったのを確認するとルパンは頷いて席を立ち、食器を片付け始めた。

 全てにおいて優秀な月が頼られるのは珍しい事では無く、むしろいつも通りだ。
 しかし今回ルパンから「頼りにしている」と言われた時、感動と言ってもいい感情を覚えた。
 生まれて初めて出会った対等以上の相手に認められた事が、純粋に嬉しかったのだ。
 相手を励ます為に出た言葉だとしても、それに応えたいと思う。

 月はルパンを、気に入らないところや不満はあるが「気持ちのいい人間」だと評価していた。
 だが、いつの間にか月はルパンに対し尊敬に近い感情も抱いている事に気付く。
(LもV.V.も、打ち倒して見せる。
 ルパンさんと、必ず……)

「食事も終わった事だしよ、今度は風呂に入って互いの友情を深めるってのぁどうだ~?
 男らしく風呂場でトトカルチョ、と洒落込むとかよぉ」
(……)
 尊敬の念は気のせいだと思う事にした。
 ルパンの発言を無視しながら、食器を厨房に運ぶルパンを追って月も席を立つ。


 ルパンと月は階段を上がり四階の展望スペースへ戻る。
 背後の月の足音を聴きながら、ルパンは密かに胸を撫で下ろした。
(まぁったく油断も隙もねぇ坊主だぜ……)
 初対面の時から月は、ふとしたはずみでどう変わるか分からない危うさを持っていた。
 それがV.V.の技術の話題になった時、明確に揺らめくのをルパンは感じ取った。
 危うさどころではない、『危険』。
 読心術が使える訳ではないが、これまで死線を潜り抜けて来たルパンの本能が警鐘を鳴らしたのだ。
 咄嗟に月の思考を阻んだが、その行動を怪しまれずに済んだのは幸運と言えた。

 カズマはもたらした情報、『凶悪殺人犯キラ』。
 その言葉が脳内でチラつくが、やはり月と直接結び付く事は無い。
 ただ余計に月を一人にしておけなくなった事は確かだ。
 月を一人にした時危険な目に遭うのは月ではなく――他の参加者の方かも知れない。
 Lが用意したただの嘘と割り切れない情報に、ルパンは再び悩まされる事になった。

 月は頭が良いだけに適当にはぐらかす事も出来ず、厄介な相手だ。
 しかし頼りにしているというのは出任せではなかった。
 月だからこそ脱出の為の一手を打てるのではないかという期待に嘘は無い。
 頼りの相棒になるか全てが裏目に出るか、ルパンの采配次第という事だ。

(面倒なこったが……まぁ若ぇ奴が道を踏み外さねぇようにすんのが大人の仕事、って奴だよな)
 自分はどうしようも無いコソ泥だが、たまにはこれぐらい社会貢献をしても罰は当たらないだろう。
 もしも銭形が月に出会っていたとしても、同じように正しい道に導こうとしていたはずだ。

 一度は気持ちに区切りを付けたというのに、目頭が熱くなる。
 それでも涙は落とさず、普段通りの軽い足取りで階段を上がって行く。
(俺がいつまでもメソメソしてたってとっつぁんは喜ばねぇ、逆に気色悪がられちまう。
 だったら坊主と協力してV.V.に一泡噴かせてやった方がよっぽど手向けにならぁ)

 展望スペースに到着すると、天井の大穴が目に付いた。
 カズマがぶち抜いたその穴からは青空が覗いている。

(そうだろ、とっつぁん)

 天下の大泥棒は古くからの友の為に、改めて黙祷を捧げた。


【一日目朝/D-5 展望台】
【夜神月@DEATH NOTE】
[装備]なし
[支給品]支給品一式、M19コンバット・マグナム(次元の愛銃)@ルパン三世 確認済み支給品(0~2)、月に関するメモ
[状態]健康
[思考・行動]
1:仲間を募りゲームを脱出する。
2:Lに注意する。ルパンについても(性的な意味で)警戒。
3:情報収集を行い、終盤になったら脱出目的のグループと接触する。
4:命を脅かすような行動方針はなるべく取りたくない。
5:魔法や異なる世界の存在を信じる?

【ルパン三世@ルパン三世】
[装備]小太刀二刀流@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-
[支給品]支給品一式、確認済み支給品(0~2)
[状態]健康
[思考・行動]
1:仲間を募りゲームを脱出する。
2:主催者のお宝をいただく。
3:月を見張るため、彼に着いて行く。
4:月の持つM19コンバット・マグナムが欲しい。
5:竜宮レナや園崎詩音の事が少しだけ気になる。
6:ロロ・ランペルージと接触したい。

※展望台の望遠鏡から見える範囲は展望台を中心におよそ7×7、A~Gの間の2~8までです。


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062:接触 ルパン三世 106:少女が見た日本の原風景
夜神月


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