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鏡像

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鏡像  ◆.WX8NmkbZ6



 木々の生い茂った山道を抜け、舗装された道路を進む少年がいる。
 汚れ一つない純白の学制服に黒一色の髪と黒光りする革靴。
 狭間偉出夫はマッパーのお陰で迷う事なくB-8の道に出る事が出来た。
 山道は狭間にとって大した障害ではなかったが、ただ靴が汚れるのが不快だという、その程度でこの道を選んだ。
 目的地はF-10――そこにいる蒼嶋駿朔。
 狭間の初期位置を考えれば随分遠回りをしてしまったが、目と鼻の先に宿敵がいる事に変わりはない。
 DS型探知機で何度か確認したが、大きな移動は見られなかった。
 逃げられる心配はないだろうとほくそ笑み、電池の消耗を抑える為に探知機の仕様は早々に止める。
 そしてはやるように足を前へ前へと進める。

 しかし戸惑いがあった。
 何故自分が枢木スザクを殺さなかったのか、その一点についてだ。
 狭間は蒼嶋以外の参加者について、生死について拘りはない。
 それはつまり生きていても死んでいてもどうでもいい、利用価値がないなら殺せばいいという事だ。

 チャームの掛けられたスザクはこれから、水銀燈を殺害した狭間を目の敵にするだろう。
 魔神皇たる狭間にとってそれは脅威足り得なかったが鬱陶しい事は確かだ。
 蒼嶋との接触を邪魔でもされたら面倒である。
 ならば山小屋で水銀燈が起こした諍いの中、あの場で殺してしまえば良かった。
 実際それも可能だった。
 しかし真正面から無防備に突っ込んできたスザクに対して狭間が取ったのは、ドルミナー。
 魔法で眠らせたスザクを前にしてもなお止めを刺そうとはしなかった。

 何故わざわざ敵としか成り得ない有象無象を生かしたのか?
 狭間は人間嫌いだ。
 しかもスザクは魔神皇への口の利き方も知らない無礼者で、人との勝手に距離を縮めてくる不愉快な男だった。
 ならば何故殺さなかった?

――ありがとう! 君のおかげで水銀燈は助かった……本当にありがとう!
――僕は枢木スザク。ハザマさん……だっけ? これからもよろしく。

 初めて向けられた好意。
 熱烈な程の感謝の念。
 そう、性別に関わらずどちらも初めて狭間にとってだった。
 誰からも愛されない……だから狭間も、誰も愛さない。
 だから魔神皇となった。
 その狭間に対し無遠慮に近付いてきたスザクに、何らかの感傷があったのかも知れない。
 チャームに掛けられた者への同情や憐憫もあったかも知れない。
 水銀燈に利用される姿に、過去の自分の姿を見てしまったのかも知れない。

 もしかしたら。
 水銀燈の治療をしたという前提があるとは言え、真っ直ぐな好意をぶつけてきたスザクならば。
 山小屋の外で見張りをしながら、狭間と目が合っただけで笑って手を振ってきたスザクならば。
 水銀燈から偽りの感情を植え付けられ、報われる事のない奉仕をしていた哀れなスザクならば。
 スザクとならば。
 あのまま別れる事なく、敵対する事なく共に進んでいたならば。
 もしかしたら――

(……くだらない)

 自分の思考の先を読み、己に吐き気がした。
 今更――本当に、今更過ぎる。
 そんな感情は、まるで人間のようではないか。

 狭間は最早人間ではない。
 魔界を支配する魔神皇。
 拘るのはただ一つ、蒼嶋の存在だけ。
 「捨てたくない」と思った感情も、蒼嶋を討つという信念を口にする事で決別したのだ。

――ウェーン だ だって みんなが わるいんだー
――みんなが ぼくをいじめるんだー
――ウェーン ウェーン いじめる いじめる ウェーン ウッ ウッ ウッ……

 泣き叫び、レイコに縋る幼い姿。
 それを蒼嶋は見ていた。
――そして、私の胸に刀を突き立てた!!

 生かしてはおけない。
 一度倒されたはずの狭間がこうしてここに立っている理由はそれだけの為にあるのだと、そう思う。
 蒼嶋の胸に刀を突き立てるという意趣返し。
 それが出来れば胸に空いた穴は埋まるはずなのだ。
 少なくとも狭間は、それを信じて蒼嶋との再会を望んでいる。

▽

 差し込む日光の量が制限された薄暗い山の中、木の枝に腰掛けて休む少女がいる。
 白銀色に輝く髪と、漆黒に濡れる羽、そして限りなく冷たい紅の瞳――天使と見間違う様相の美しい人形。
 水銀燈はその美しい容姿とは反して憎悪と憤怒をない交ぜにした表情を浮かべていた。

「何なのよアレ……。
 私がスザクを利用しているのがそんなに気に入らなかった?
 それで勝手に契約反故?
 バッカみたい、乳酸菌が足りないんじゃないのぉ!?」

 つい先程協力関係を解消したばかりの狭間への苛立ちが収まらない。
 そもそも好き好んで組んでいた訳ではなく、傷付いた右目の修復の為に嫌々関わっていただけなのだ。
 糧でしかない人間の分際で、水銀燈を『呪いの人形』と呼んで醜いとまでのたまった。
 高圧的で尊大でいけ好かない男。
 それが自分から言い出した契約を一方的に破棄し、戦闘。
 挙げ句に水銀燈にとって最も触れたくない己の欠損に触れる羽目になった。
 更には利用価値のあったスザクも見失ってしまい、水銀燈は黒羽を休めながらギリと奥歯を噛み締める。

 立ち上がって羽根を広げ、水銀燈は展望台のある方角である南西へ向かう。
 施設そのものに目的がある訳ではなく、単純に他の参加者と接触を図る為。
 それが展望台だったのは、水銀燈の現在位置から最も近かったというだけの話だ。
 殺し合い開始から半日、これだけ時間があれば施設に籠城を始める者も出るだろう。

 これからの方針に変わりはない。
 他の参加者を皆殺しにする。
 狭間と残る姉妹は特に念入りに殺す。
 その為の有用な下僕を探す。
 そして、真紅のローザミスティカは誰にも渡さない。

 真紅。
 ローゼンメイデン第五ドール。
 忘れもしない、水銀燈が初めて出会った姉妹。
 歩き方を教えてくれた。
 アリスゲームを教えてくれなかった。

――だって、貴方はまだ未完成じゃない。
――作りかけの、可哀想なドール。
――ローゼンメイデンは究極の少女、アリスを目指して作られたドール。
――貴方は、私達とは違う……

 立ち上がる事さえ出来ない、惨めな姿。
 それを真紅は見ていた。
――そして、私を哀れんだ!!

 友達だと、大切な人だと思っていたのに、真紅はそう思っていなかった。
 水銀燈を哀れみ、ローゼンメイデンシリーズとは認めず、そして見殺しにしようとした。

「真紅ぅ~? 私は貴女の事がだ~い好きよぉ?
 どれぐらい好きかって?
 ローザミスティカを奪い合って、ジャンクにしてやりたいぐらいだぁい好きよ!!」

 誰もいない場所で、既にいない者へ向けて敢えて口にする。
 そうする事で、己の内側にある支えを確かなものにする。
 でなければ、二度と前に進めなくなるような恐怖があった。
 何百年も憎み続けた真紅の喪失はそれだけ重い。

 悲しみや恐れを掻き消すように、水銀燈は醜悪な笑みを口に貼り付けた。

 ローザミスティカさえ集まれば、完璧な少女――アリスになれる。
 そうすれば父に会える。愛して貰える。
 欠けた部位を与えて貰えるし、傷付いた眼も直して貰えるに違いない。
 それだけが、水銀燈の支え。
 ローザミスティカを求める理由であり、アリスゲームに率先して関わって他の姉妹を排除しようとする原因。

 腹部のない、眼の傷付いた水銀燈。
 父からローザミスティカを得た、それだけがアリスを目指すローゼンメイデンの姉妹として認められた証。
 『ジャンク』であり『完璧でない』水銀燈がそもそも完璧な少女たるアリスになり得るのか。
 根本的な矛盾から、水銀燈は目を背け続ける。

 この殺し合いとアリスゲームを制する。
 それが出来れば欠損を埋めて貰えるはずなのだ。
 少なくとも水銀燈は、それを信じて戦っている。

▽

 狭間の不幸は、理解者を得られなかった事だ。
 もしも誰か一人でも彼の傍に立てていたならば、辿る道筋はまるで違うものになっていただろう。

 水銀燈の不幸は、父が彼女を未完成のままに放置した事に起因している。
 もしも父から他の姉妹へのものと同等の愛を受け、真紅と別の関係を築けていたならば、今の彼女はいなかっただろう。

 求めるものが得られなかった為に、二人は道を踏み外した。
 歪み、曲がり、捩じれ、濁ってしまった。
 片や学校を魔界に堕とし、片や姉妹達をジャンクにせんと戦いを仕掛けた。
 そして今なお、それぞれの欠損を埋めようとしている。

 狭間偉出夫と水銀燈。
 二人は袂を分かった。
 本当に一時的な共闘で、一瞬とも言える同盟だった。
 二人は真逆の方向へ進み、その距離は時間を追うごとに離れていく。
 憎み合い、反発し合いう二人が再会する事があるのかは定かでない。

 しかし二人の姿は、互いが鏡に映った虚像のように良く似ていた。


【一日目 昼/C-9 道路】
【狭間偉出夫@真・女神転生if…】
[装備]:斬鉄剣@ルパン三世
[所持品]:支給品一式、ニンテンドーDS型探知機
[状態]:疲労(小)、精神疲労(小)、人間形態
[思考・行動]
1:蒼嶋駿朔(男主人公)を殺す。
2:F-10に向かう。
[備考]
※参加時期はレイコ編ラストバトル中。
※水銀燈は死亡したと思っています。

【昼/C-5 山中】
【水銀燈@ローゼンメイデン(アニメ)】
[装備]:無し
[所持品]:支給品一式×3(食料を一つ譲渡)、メロンパン×4@灼眼のシャナ、板チョコレート×11@DEATH NOTE
     農作業用の鎌@バトルロワイアル、不明支給品0~2(橘のもの、未確認)
[状態]:右目にヒビ割れ、右眼周辺に傷、深い悲しみと憎悪
[思考・行動]
1:優勝する。
2:真紅のローザミスティカを得る。
3:スザク以上の力を持つ下僕を集める。
4:3を達成したら、狭間偉出夫を殺しに行く。
5:展望台へ向かう。
[備考]
※ゾルダの正体を北岡という人物だと思っています。


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114:人形劇 水銀燈 130:運命の分かれ道
狭間偉出夫 138:It was end of world(前編)



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