It was end of world(前編) ◆ew5bR2RQj.
「待て!」
「待てって言われて待つ奴が何処にいますか、馬鹿ですか貴方は?
ほらほら、これを返して欲しかったらもっと早く走ってくださいよ~!」
ほらほら、これを返して欲しかったらもっと早く走ってくださいよ~!」
詩音はゾルダのデッキを見せびらかしながら、北岡にとっては五十メートル程先の曲がり角を曲る。
彼女も疲労しているが、北岡や彼の背後を走る五ェ門に比べればマシだった。
彼女も疲労しているが、北岡や彼の背後を走る五ェ門に比べればマシだった。
「ハァ……ハァ……かたじけない、拙者が足を引っ張っているばかりに……」
「なに言ってんのよ、そんなこと言ったら俺だってずっと足を引っ張ってるじゃない」
「なに言ってんのよ、そんなこと言ったら俺だってずっと足を引っ張ってるじゃない」
デルフリンガーを杖がわりにする五ェ門の姿は、出会った頃の力強さをまるで感じない。
彼が万全であったなら、疾うの昔にゾルダのデッキを奪い返していただろう。
連戦による体力の消耗、腹部や右肩の裂傷。
それに一時間以上の追跡劇が加われば、流石の五ェ門も疲弊せざるを得なかった。
彼が万全であったなら、疾うの昔にゾルダのデッキを奪い返していただろう。
連戦による体力の消耗、腹部や右肩の裂傷。
それに一時間以上の追跡劇が加われば、流石の五ェ門も疲弊せざるを得なかった。
「行くぞ、北岡殿!」
「あ、おい待て!」
「あ、おい待て!」
北岡の制止を振り切り、走りだす五ェ門。
仕方がないと判断し、彼の後に続く北岡。
彼が走り出した頃には、既に五ェ門は曲がり角の手前まで来ている。
重そうにデルフリンガーを持っているが、彼はこれを手放すわけにはいかなかった。
仕方がないと判断し、彼の後に続く北岡。
彼が走り出した頃には、既に五ェ門は曲がり角の手前まで来ている。
重そうにデルフリンガーを持っているが、彼はこれを手放すわけにはいかなかった。
「死ね!」
曲がった先から二十メートル程の位置で待機していた詩音が、二人に向けてアサルトライフルの引き金を引く。
等間隔で吐き出される弾丸は、疲弊した身体を引き摺る二人に襲いかかった。
等間隔で吐き出される弾丸は、疲弊した身体を引き摺る二人に襲いかかった。
「てええぇぇいッ!」
迫りくる弾丸を、五ェ門は全て斬り落とす。
曲芸のようだと称したが、一時間前に比べれば明らかに動きが鈍い。
先程から詩音は、隙を突いてはアサルトライフルを乱射してくる。
銃弾は全て五ェ門が斬り落とすため届かないが、これの迎撃のためにデルフリンガーを仕舞うことができないのだ。
曲芸のようだと称したが、一時間前に比べれば明らかに動きが鈍い。
先程から詩音は、隙を突いてはアサルトライフルを乱射してくる。
銃弾は全て五ェ門が斬り落とすため届かないが、これの迎撃のためにデルフリンガーを仕舞うことができないのだ。
「くけけけけけけ!!」
踵を返し、走り去っていく詩音。
何時まで経っても追いつけない一番の原因は、彼女が周囲の警戒を一切していないことだった。
何時まで経っても追いつけない一番の原因は、彼女が周囲の警戒を一切していないことだった。
「このままじゃイタチごっこだ、こっちも何か作戦を立てないと……」
「何か策があるのか?」
「……まだ思いつかない」
「なら走るまでだ、それに……詩音殿は既に正気を失っている、小手先の戦法は通じないだろう」
「何か策があるのか?」
「……まだ思いつかない」
「なら走るまでだ、それに……詩音殿は既に正気を失っている、小手先の戦法は通じないだろう」
弁護士という職業上、北岡は数多くの人間を目にしてきた。
だが、その経験の中でも僅かにしか目にしたことのない狂人。
浅倉や東條に近いものが、今の彼女の瞳には宿っていた。
だが、その経験の中でも僅かにしか目にしたことのない狂人。
浅倉や東條に近いものが、今の彼女の瞳には宿っていた。
「もたもたしていると逃げられる、走るぞ!」
限界を迎えているにも関わらず、五ェ門はさらに速度を上げる。
それだけ彼の中でゾルダのデッキを取り返したいという気持ちが大きいのだろう。
ならば、当の本人が頑張らない訳にはいかない。
自分の柄ではないと自嘲しつつも、北岡も全力で走り出した。
そうして走り続けて数分、目の前に奇妙な建物が見える。
いや、建物だったものと言うべきだろう。
目の前にある建物は、見事なまでに焼け落ちていた。
それだけ彼の中でゾルダのデッキを取り返したいという気持ちが大きいのだろう。
ならば、当の本人が頑張らない訳にはいかない。
自分の柄ではないと自嘲しつつも、北岡も全力で走り出した。
そうして走り続けて数分、目の前に奇妙な建物が見える。
いや、建物だったものと言うべきだろう。
目の前にある建物は、見事なまでに焼け落ちていた。
「あれは……教会か?」
ひたすら走り続けたせいで方向感覚が曖昧になっていたが、十字架が見えることからそう断定する。
「誰かいるぞ!?」
そして、教会の前には二人の人物がいた。
朧気にしか見えないが、服装から詩音でないことは分かる。
男と女の二人組だ。
男の方は青いブレザーを、女の方は青と白のセーラー服を着用している。
朧気にしか見えないが、服装から詩音でないことは分かる。
男と女の二人組だ。
男の方は青いブレザーを、女の方は青と白のセーラー服を着用している。
「どうする?」
「どうするも何もここまで一本道だったんだから、あいつらに話を聞くしかないじゃない
交渉ごとは俺が請け負う契約だ、任せてよ」
「どうするも何もここまで一本道だったんだから、あいつらに話を聞くしかないじゃない
交渉ごとは俺が請け負う契約だ、任せてよ」
走りながら北岡は語る。
戦闘は五ェ門が、交渉は北岡が行う。
最初にそういう契約をしているため、五ェ門は迷うことなく首肯した。
戦闘は五ェ門が、交渉は北岡が行う。
最初にそういう契約をしているため、五ェ門は迷うことなく首肯した。
☆ ☆ ☆
「なぁ、やっぱり休憩した方が……」
「ううん、進もう」
「ううん、進もう」
焼け落ちた教会を傍目に捉えながら、蒼嶋はレナに休憩を進言する。
だが、彼女は笑顔でそれを突っぱねた。
数時間前と同じような、無理して作った嘘の笑顔で。
だが、彼女は笑顔でそれを突っぱねた。
数時間前と同じような、無理して作った嘘の笑顔で。
およそ二時間ほど前の話になる。
二回目になる放送で、またしても彼女の知り合いの名前が呼ばれた。
二回目になる放送で、またしても彼女の知り合いの名前が呼ばれた。
前原圭一。
彼女から名前を聞いていた、生き残っている友達の内の一人。
彼のことを話す時、彼女の頬がほんのりと赤く染まっていたことに蒼嶋は気付いていた。
圭一の名が呼ばれた瞬間、彼女は呆けたような顔で立ち尽くす。
たった今告げられた事実が、信じられないとでも言うかのように。
しばらくそうしている内に、鼻を啜る音が聞こえる。
それで、彼女が泣いていることに気付いた。
周囲の人間から子供っぽいと評される蒼嶋でも、女の子が泣き顔を見られたくないことくらいは分かる。
彼女が自分から動き出すまで、蒼嶋はずっと後ろで待っていた。
五分くらい経った頃、彼女は真っ赤な目で「ごめんね」と言った。
彼のことを話す時、彼女の頬がほんのりと赤く染まっていたことに蒼嶋は気付いていた。
圭一の名が呼ばれた瞬間、彼女は呆けたような顔で立ち尽くす。
たった今告げられた事実が、信じられないとでも言うかのように。
しばらくそうしている内に、鼻を啜る音が聞こえる。
それで、彼女が泣いていることに気付いた。
周囲の人間から子供っぽいと評される蒼嶋でも、女の子が泣き顔を見られたくないことくらいは分かる。
彼女が自分から動き出すまで、蒼嶋はずっと後ろで待っていた。
五分くらい経った頃、彼女は真っ赤な目で「ごめんね」と言った。
「でも――――」
「もういっぱい泣いたから、これ以上立ち止まってたら皆に怒られちゃうよ」
「もういっぱい泣いたから、これ以上立ち止まってたら皆に怒られちゃうよ」
また、嘘の笑顔。
しかし数時間前に浮かべたものとは違い、見ているだけで心を引き裂かれるようである。
何か言葉を掛けなければいけないのに、掛ける言葉が浮かんでこない。
数時間前のレナのような、気の効いた言葉は何一つ浮かんでこなかった。
それでも何とか言葉を捻り出そうと、蒼嶋は脳みそを回転させる。
そうしたからだろうか。
遠くの方から、聞き覚えのある嫌な音が耳に届いた。
しかし数時間前に浮かべたものとは違い、見ているだけで心を引き裂かれるようである。
何か言葉を掛けなければいけないのに、掛ける言葉が浮かんでこない。
数時間前のレナのような、気の効いた言葉は何一つ浮かんでこなかった。
それでも何とか言葉を捻り出そうと、蒼嶋は脳みそを回転させる。
そうしたからだろうか。
遠くの方から、聞き覚えのある嫌な音が耳に届いた。
「……銃声!?」
普通の男子高校生であれば、テレビやゲームの中でしか耳にしない音。
だが、蒼嶋にとっては聞き慣れた音だ。
だが、蒼嶋にとっては聞き慣れた音だ。
「隠れるぞ」
レナの手を引っ張り、崩れ落ちた教会の影に隠れる。
おそらくは誰かが交戦しているのだろう。
救援に向かうべきなのかもしれないが、戦う術のないレナを戦闘に巻き込む訳にはいかない。
千草の二の舞になることは避けたかった。
おそらくは誰かが交戦しているのだろう。
救援に向かうべきなのかもしれないが、戦う術のないレナを戦闘に巻き込む訳にはいかない。
千草の二の舞になることは避けたかった。
「こっちに来るみたいだね」
しばらくすると銃声は止み、代わりにコンクリートの地面を走り抜ける音が聞こえてくる。
周囲の警戒を一切せず、逃げることに全力を注いでいるような足音。
それほどまでに事態は緊迫しているのだろうか。
周囲の警戒を一切せず、逃げることに全力を注いでいるような足音。
それほどまでに事態は緊迫しているのだろうか。
「もうすぐ姿が見えるぞ」
隠れた位置からは、ちょうど道路を見渡すことができる。
咄嗟の判断にしてはいい場所を選んだと、脳内で自賛する蒼嶋。
足音の主は、すぐそこまで来ていた。
咄嗟の判断にしてはいい場所を選んだと、脳内で自賛する蒼嶋。
足音の主は、すぐそこまで来ていた。
「詩ぃちゃん!?」
隣にいたレナが、驚いたような声を上げる。
詩ぃちゃん――――今となっては彼女の友達の中で最後の生き残りとなった園崎詩音のことだ。
友達の姿を見て気が緩んだのか、レナは教会の影から出て行ってしまう。
詩音の持つアサルトライフルが気になったものの、こうなっては仕方がないと蒼嶋も外へと出た。
詩ぃちゃん――――今となっては彼女の友達の中で最後の生き残りとなった園崎詩音のことだ。
友達の姿を見て気が緩んだのか、レナは教会の影から出て行ってしまう。
詩音の持つアサルトライフルが気になったものの、こうなっては仕方がないと蒼嶋も外へと出た。
「レナ!?」
突然現れたレナを見て、詩音も少なからず驚いているようである。
「詩ぃちゃん、どうしたの!?」
「え、えぇ……まぁ……そちらのお兄さんは?」
「え、えぇ……まぁ……そちらのお兄さんは?」
詩音の視線がレナの背後にいる蒼嶋に向く。
「俺は蒼嶋駿朔、そっちは詩ぃちゃん……だっけ? 良かったらお兄さんが力を貸すぜ」
詩音のことは話に聞いていたが、いざ対面すると息を呑まざるを得なかった。
美しい長髪に、均整の取れた顔、タイトスカートからすらりと伸びた脚。
何よりも年齢不相応に実った胸に、思春期真っ只中の蒼嶋は視線が釘付けになってしまう。
千草やレナもそうだったが、ここにいる中学生はやたら美少女が多い。
V.V.はそれを基準に選んだのではないかと、思わず邪推してしまう程だ。
美しい長髪に、均整の取れた顔、タイトスカートからすらりと伸びた脚。
何よりも年齢不相応に実った胸に、思春期真っ只中の蒼嶋は視線が釘付けになってしまう。
千草やレナもそうだったが、ここにいる中学生はやたら美少女が多い。
V.V.はそれを基準に選んだのではないかと、思わず邪推してしまう程だ。
「そうですか、じゃあ早速ですけど一つお願いしてもいいですか?
「おう、お兄さんに出来ることなら何でもしてやる」
「おう、お兄さんに出来ることなら何でもしてやる」
美少女だからという訳ではないが、レナにとって詩音は最後の生き残りだ。
自分にできることならば、援護してあげたい気分だった。
自分にできることならば、援護してあげたい気分だった。
「実は私、さっきから二人組の男に追われてるんです、もう怖くて怖くて……だから助けてください!」
両腕で胸を挟みながら、お願いしますというように手の平を合わせる詩音。
さらに下から覗き込むように蒼嶋の目を見つめる。
俗に言う、上目遣いというやつだ。
さらに下から覗き込むように蒼嶋の目を見つめる。
俗に言う、上目遣いというやつだ。
「助けるのはいいけどさ、一つだけ聞かせてくれね――――」
「じゃ、お願いしますね~」
「って、おい待て!」
「じゃ、お願いしますね~」
「って、おい待て!」
蒼嶋が言葉を言い切る前に、詩音は早足で退散してしまう。
思わず手を伸ばすが、既に詩音の姿はなかった。
思わず手を伸ばすが、既に詩音の姿はなかった。
「はぁ……なんなんだあの娘」
「蒼嶋さん」
「ん、なに?」
「詩ぃちゃんの胸、チラチラ見てたでしょ」
「み、見てねーよ! 何で見る必要があるんだよ!」
「そんなに必死になって否定しなくてもいいよ、詩ぃちゃん胸大きいからね
でも女の子は視線に敏感だから、そういうのすぐ分かっちゃうんだよ」
「……ごめんなさい」
「蒼嶋さん」
「ん、なに?」
「詩ぃちゃんの胸、チラチラ見てたでしょ」
「み、見てねーよ! 何で見る必要があるんだよ!」
「そんなに必死になって否定しなくてもいいよ、詩ぃちゃん胸大きいからね
でも女の子は視線に敏感だから、そういうのすぐ分かっちゃうんだよ」
「……ごめんなさい」
居た堪れなくなり、蒼嶋は項垂れる。
意識して視線を逸らそうとしたのだが、どうしても目が行ってしまうのだ。
最近の中学生は色々な意味で恐ろしいと改めて実感する。
意識して視線を逸らそうとしたのだが、どうしても目が行ってしまうのだ。
最近の中学生は色々な意味で恐ろしいと改めて実感する。
「それで……どうしよっか?」
「詩ぃちゃんが言ってた二人組の男の人のこと?」
「ああ、どうも腑に落ちないことがあるんだよなぁ……」
「詩ぃちゃんが言ってた二人組の男の人のこと?」
「ああ、どうも腑に落ちないことがあるんだよなぁ……」
先程の銃声の間隔は非常に短かったため、連射をしていたことになる。
つまりあの銃声は、詩音のアサルトライフルから発砲された可能性が高いのだ。
自衛のために発射していた可能性もあり、それならば銃を使用したことを咎めることはできない。
しかし彼女の着ていた白衣には、無視できない量の血痕があった。
蒼嶋も千草を看取った時に付着した血痕が、青いブレザーに付着している。
だが、詩音に関しては何か違和感が拭えないのだ。
つまりあの銃声は、詩音のアサルトライフルから発砲された可能性が高いのだ。
自衛のために発射していた可能性もあり、それならば銃を使用したことを咎めることはできない。
しかし彼女の着ていた白衣には、無視できない量の血痕があった。
蒼嶋も千草を看取った時に付着した血痕が、青いブレザーに付着している。
だが、詩音に関しては何か違和感が拭えないのだ。
「蒼嶋さん、来るよ!」
詩音が来た方角から、二人分の足音が聞こえてくる。
タイミング的にも、詩音に言っていた二人組の男に間違いはないだろう。
タイミング的にも、詩音に言っていた二人組の男に間違いはないだろう。
「難しいこと考えててもしょうがねぇ、とりあえず出迎えてやりますか」
詩音への疑いを一旦胸に仕舞う。
とりあえず詩音を追い掛けている二人組の存在は事実であり、それに彼女が困っているのも事実だ。
どんな理由があるにせよ、女の子を追い掛けるなんて碌なことではない。
そう考えた蒼嶋は、姿を現した二人組に対峙した。
とりあえず詩音を追い掛けている二人組の存在は事実であり、それに彼女が困っているのも事実だ。
どんな理由があるにせよ、女の子を追い掛けるなんて碌なことではない。
そう考えた蒼嶋は、姿を現した二人組に対峙した。
「……アンタ達は?」
「ハァ……ハァ……俺は北岡秀一、こっちは石川五ェ門だ」
「俺は蒼嶋駿朔、後ろにいるのは竜宮レナだ」
「そっか、早速のところで悪いけどさ、こっちの方に長い髪の女の子が来なかったか?」
「ハァ……ハァ……俺は北岡秀一、こっちは石川五ェ門だ」
「俺は蒼嶋駿朔、後ろにいるのは竜宮レナだ」
「そっか、早速のところで悪いけどさ、こっちの方に長い髪の女の子が来なかったか?」
やはり彼らは詩音の言っていた二人組だ。
二人とも相当疲弊しているようだが、裏を返せばそれだけ必死に追跡しているということである。
二人とも相当疲弊しているようだが、裏を返せばそれだけ必死に追跡しているということである。
「なんでアンタらは詩ぃちゃんを追ってるんだ?」
「そう返すってことは来たんだな、質問には答えるけどあいつが俺の大事な物を持っていったからだ」
「そう返すってことは来たんだな、質問には答えるけどあいつが俺の大事な物を持っていったからだ」
結果的に相手の思い通りの返答をしてしまったことに気付き、蒼嶋は思わず歯噛みする。
北岡と名乗ったスーツの男は、おそらく頭の回転が相当速い。
蒼嶋も悪魔との交渉で舌戦は馴れているつもりだが、北岡の方が上手であることは否めなかった。
北岡と名乗ったスーツの男は、おそらく頭の回転が相当速い。
蒼嶋も悪魔との交渉で舌戦は馴れているつもりだが、北岡の方が上手であることは否めなかった。
「……悪いけど、そう簡単に通すわけにはいかねぇな」
「おたくが詩音の知り合いだからか?」
「おたくが詩音の知り合いだからか?」
北岡の視線が注がれているのは、蒼嶋ではなく隣にいるレナだった。
「なんでレナが詩ぃちゃんの知り合いだって知ってるのかな? かな?」
「詩音に聞いたんだよ」
「それはちょっと変だよね、詩ぃちゃんとお話ししたってこと? じゃあなんで追いかけっこなんてしてるのかな?」
「だからそれは……」
「失礼かもしれないけど、北岡さんのこと信用できない」
「詩音に聞いたんだよ」
「それはちょっと変だよね、詩ぃちゃんとお話ししたってこと? じゃあなんで追いかけっこなんてしてるのかな?」
「だからそれは……」
「失礼かもしれないけど、北岡さんのこと信用できない」
屹然とした口調でぴしゃりと言い切るレナ。
あまりの言い草に、思わず北岡は閉口してしまう。
あまりの言い草に、思わず北岡は閉口してしまう。
「北岡殿は悪人ではない、信用してはもらえぬか?」
「ごめんなさい、でも初対面の人と友達ならどっちを信じるかは言わなくても分かってもらえますよね?」
「ごめんなさい、でも初対面の人と友達ならどっちを信じるかは言わなくても分かってもらえますよね?」
レナの言い分は最もだろう。
北岡と五ェ門は顔を見合わせ、忌々しげに歪めている。
蒼嶋自身は詩音にそこまで入れ込んでいる訳ではないが、レナの友達であるために彼女を信用することにした。
北岡と五ェ門は顔を見合わせ、忌々しげに歪めている。
蒼嶋自身は詩音にそこまで入れ込んでいる訳ではないが、レナの友達であるために彼女を信用することにした。
「ってことだ、大体さ、いい年した男が寄ってたかって女子中学生追いかけるのは、ちょーっとかっこ悪いんじゃないの?」
ブラフマーストラを二人に向け、道を塞ぐように対峙する蒼嶋。
合わせるように、レナも鉈を構える。
北岡は武装していないが、五ェ門は大剣を背中に携えている。
彼らが強行突破を仕掛けてきた際、すぐ迎撃できるように準備したのだ。
合わせるように、レナも鉈を構える。
北岡は武装していないが、五ェ門は大剣を背中に携えている。
彼らが強行突破を仕掛けてきた際、すぐ迎撃できるように準備したのだ。
「クソッ、こんなことしてる場合じゃないのに……」
恨めしそうに蒼嶋とレナを見渡す北岡。
指示を仰ぐように五ェ門の顔を伺うと、彼も悔しそうに首を横に振る。
五ェ門は相当の実力者に見えるが、蒼嶋も悪魔が蔓延る塔を登り詰めた戦士。
千草の形見でもあるブラフマーストラがあるため、そう簡単にここを通すつもりはない。
一触即発と呼ぶに相応しい状況。
それぞれの視線が交差する中、ドシンと重厚感のある足音が背後から聞こえた。
慌てて後ろを振り向くと、そこにいたのは二門の巨大なキャノン砲を装備した緑色の戦士。
その姿は、東條が変身した鎧姿に似ている気がした。
指示を仰ぐように五ェ門の顔を伺うと、彼も悔しそうに首を横に振る。
五ェ門は相当の実力者に見えるが、蒼嶋も悪魔が蔓延る塔を登り詰めた戦士。
千草の形見でもあるブラフマーストラがあるため、そう簡単にここを通すつもりはない。
一触即発と呼ぶに相応しい状況。
それぞれの視線が交差する中、ドシンと重厚感のある足音が背後から聞こえた。
慌てて後ろを振り向くと、そこにいたのは二門の巨大なキャノン砲を装備した緑色の戦士。
その姿は、東條が変身した鎧姿に似ている気がした。
「逃げろ!」
対峙していた五ェ門と北岡が同時に叫び、必死の形相で脇にある民家へと駆けていく。
刹那、蒼嶋の脳内に警鐘が鳴り響いた。
上級悪魔に対峙した時のような、全身の穴という穴から汗が出るような感覚。
刹那、蒼嶋の脳内に警鐘が鳴り響いた。
上級悪魔に対峙した時のような、全身の穴という穴から汗が出るような感覚。
「レナ、伏せろ!」
蒼嶋がレナに飛び掛ったのと、キャノン砲から砲弾が発射されたのはほぼ同時だった。
「うわああぁぁぁッ!」
砲弾は四人が対峙していた中心点に着弾し、ドーム状に爆煙と爆風が広がる。
直撃こそ避けたものの、蒼嶋とレナは爆風に吹き飛ばされてしまう。
空中を彷徨う中、蒼嶋はレナの身体を庇うように抱き締める。
そして、民家の壁に叩きつけられた。
直撃こそ避けたものの、蒼嶋とレナは爆風に吹き飛ばされてしまう。
空中を彷徨う中、蒼嶋はレナの身体を庇うように抱き締める。
そして、民家の壁に叩きつけられた。
「ぐあぁっ!」
「蒼嶋さん、大丈夫!?」
「っ……大丈夫に決まってんだろ、狭間の奴の攻撃の方が十倍は痛かったぜ」
「蒼嶋さん、大丈夫!?」
「っ……大丈夫に決まってんだろ、狭間の奴の攻撃の方が十倍は痛かったぜ」
蒼嶋は苦悶の声を上げるが、レナが無事なことを確認すると笑みが漏れる。
「それにレナみたいな可愛い娘を合法的に抱き締められたんだ、それで痛みなんか吹き飛んじまったよ」
「はう……早く離してもらえないかな」
「はう……早く離してもらえないかな」
赤面するレナに催促され、名残惜しそうに蒼嶋はレナを離す。
そして鈍痛が残る背中を抑えながら、彼はゆっくりと立ち上がった。
そして鈍痛が残る背中を抑えながら、彼はゆっくりと立ち上がった。
「あちゃー、仕留められませんでしたか」
何処かから、詩音の声が聞こえる。
その声は仮面を被っているようにくぐもっていて、最初に聞いた時とは僅かに印象が違う。
それでも彼女の声だとはっきり認識できた。
その声は仮面を被っているようにくぐもっていて、最初に聞いた時とは僅かに印象が違う。
それでも彼女の声だとはっきり認識できた。
「詩ぃちゃんなの……?」
「そうですよ~、驚きましたか?」
「そうですよ~、驚きましたか?」
目の前にいる緑色の戦士は、挨拶でもするかのように言葉を返す。
筋肉質な体型の戦士が少女の声で話す姿は、蒼嶋の目にはどこか滑稽に映る。
筋肉質な体型の戦士が少女の声で話す姿は、蒼嶋の目にはどこか滑稽に映る。
「詩ぃちゃん……俺たちを騙したのかよ」
「別に騙してなんかいませんよ、北岡と五ェ門に追われてたのは事実ですし、とっても怖かったのも事実です」
「別に騙してなんかいませんよ、北岡と五ェ門に追われてたのは事実ですし、とっても怖かったのも事実です」
嘲るような口調で詩音は言葉を紡いでいく。
「あと詩ぃちゃんって呼ぶの止めてもらえません?
レナが呼ぶのは別にいいですけど、会ったばかりの人にそう呼ばれるのは正直気持ち悪いです」
「ッ!」
レナが呼ぶのは別にいいですけど、会ったばかりの人にそう呼ばれるのは正直気持ち悪いです」
「ッ!」
蔑むようなその口調に、蒼嶋は自分の顔が歪んでいくのを感じる。
ぎゅっと心臓を搾り取られるような気分だった。
ぎゅっと心臓を搾り取られるような気分だった。
「いくら何でも酷すぎるよ……蒼嶋さんに謝って」
「嫌ですよ、実際気持ち悪いんですし」
「詩ぃちゃん! なんで……なんでこんなことを……」
「決まってるじゃないですか、そこにいる悟史くんを見捨てた北岡をぶち殺してやるためですよ」
「嫌ですよ、実際気持ち悪いんですし」
「詩ぃちゃん! なんで……なんでこんなことを……」
「決まってるじゃないですか、そこにいる悟史くんを見捨てた北岡をぶち殺してやるためですよ」
まるで当然のことだというように彼女が放った言葉は、思わず耳を疑ってしまうようなものだった。
「北岡さんが悟史くんを……?」
「ええ、間抜けな北岡はこのゾルダのデッキを置いてっちゃったんですよ、そしたらそれをゲームに乗ってる奴が拾っちゃいましてね」
「ええ、間抜けな北岡はこのゾルダのデッキを置いてっちゃったんですよ、そしたらそれをゲームに乗ってる奴が拾っちゃいましてね」
朗らかだった詩音の声が、重圧感を纏った低いものに変わっていく。
「殺したんですよ! これを使って悟史くんを!
しかも北岡は悟史くんが助けを求めたのに無視しました! 信じられますか!?」
しかも北岡は悟史くんが助けを求めたのに無視しました! 信じられますか!?」
詩音の絶叫が響く。
糾弾するような彼女の物言いに、逆側の民家の影にいる北岡が項垂れているのが見えた。
糾弾するような彼女の物言いに、逆側の民家の影にいる北岡が項垂れているのが見えた。
「拾った奴はこの手で私がぶっ殺してやりましたけどね」
「え……?」
「銃で横っ腹を撃った後に、顔面に何度も何度も鉈をぶち込んでやりました、楽しかったですよ」
「え……?」
「銃で横っ腹を撃った後に、顔面に何度も何度も鉈をぶち込んでやりました、楽しかったですよ」
武勇伝でも語るような詩音の口調に、レナの表情が驚愕に染まっていく。
友達だと信じていた者が、嬉々としながら自らの殺人を告白したのだ。
蒼嶋でも堪える展開に、心優しいレナが普通でいられるわけがない。
友達だと信じていた者が、嬉々としながら自らの殺人を告白したのだ。
蒼嶋でも堪える展開に、心優しいレナが普通でいられるわけがない。
「でもそれだけじゃ足りません、悟史くんを見捨てた北岡や他の連中もぶっ殺してやらないと
それに優勝すれば願いを叶えてくれるって言ってましたしね、悟史くんが生き返るなら喜んで全員殺してやりますよ」
それに優勝すれば願いを叶えてくれるって言ってましたしね、悟史くんが生き返るなら喜んで全員殺してやりますよ」
二門砲の照準が北岡の隠れる民家に注がれる。
地面を抉るほどの威力を誇るそれが直撃すれば、民家などボロ板のように吹き飛んでしまうだろう。
北岡と五ェ門の顔が動揺しているのが、蒼嶋の位置からよく見える。
地面を抉るほどの威力を誇るそれが直撃すれば、民家などボロ板のように吹き飛んでしまうだろう。
北岡と五ェ門の顔が動揺しているのが、蒼嶋の位置からよく見える。
「詩ぃちゃんは……間違ってるよ」
凛とした声が響く。
前を見ると、変身した詩音の前にレナが対峙していた。
前を見ると、変身した詩音の前にレナが対峙していた。
「はぁ?」
「どんな理由があるにせよ、人を殺すことだけは絶対に間違ってる
そんなことをしたって悟史くんは喜ばないし、それに人を殺して幸せになれる未来なんて絶対にない」
「どんな理由があるにせよ、人を殺すことだけは絶対に間違ってる
そんなことをしたって悟史くんは喜ばないし、それに人を殺して幸せになれる未来なんて絶対にない」
レナの言葉遣いは非常に落ち着いていて、まるで何十年も経験を積んだ大人のようである。
これが先ほどまで怯えていた少女なのかと、蒼嶋は疑問を抱く。
これが先ほどまで怯えていた少女なのかと、蒼嶋は疑問を抱く。
「はぁ……そんな安っぽい説教は聞きたくないんですよ、じっとしててください、すぐに楽になりますから
レナだって私にとっては大切な一人です、ちゃんとV.V.に生き返らせて――――」
「あのV.V.って人は本当に願いを叶えてくれるのかな?」
レナだって私にとっては大切な一人です、ちゃんとV.V.に生き返らせて――――」
「あのV.V.って人は本当に願いを叶えてくれるのかな?」
レナの言葉に、詩音の言葉が途切れる。
「V.V.は嘘が嫌いって言ってたけど、私には”自分が嘘を吐かれるのが嫌い”って風にしか聞こえなかったかな」
「レナ、何を……」
「多分あの人は”他人の嘘は嫌いだけど、自分の嘘はどうでもいい”って考えてると思うよ」
「じゃあ何ですか……レナは悟史くんが生き返らないって言うんですか」
「……絶対とは言えないけど、そんなに期待できない――――」
「レナ、何を……」
「多分あの人は”他人の嘘は嫌いだけど、自分の嘘はどうでもいい”って考えてると思うよ」
「じゃあ何ですか……レナは悟史くんが生き返らないって言うんですか」
「……絶対とは言えないけど、そんなに期待できない――――」
「黙れッ!」
「悟史くんは絶対に生き返ります! 生き返らなくちゃいけないんですよッ!
すぐに楽にしてあげるつもりでしたけどやめました、レナもじわじわと嬲り殺してあげます」
「レナ殿!」
すぐに楽にしてあげるつもりでしたけどやめました、レナもじわじわと嬲り殺してあげます」
「レナ殿!」
募った怒りを吐き出すように発射される砲弾。
無防備なレナに襲いかかるが、民家の影から飛び出してきた五ェ門によって斬り落とされる。
無防備なレナに襲いかかるが、民家の影から飛び出してきた五ェ門によって斬り落とされる。
「あぁ、五ェ門もいましたね、アンタも悟史くんを見捨てたんですよね
安心してください、北岡やレナと一緒にじわじわと嬲り殺してあげますから」
安心してください、北岡やレナと一緒にじわじわと嬲り殺してあげますから」
☆ ☆ ☆
「ククク……」
狭間偉出夫は歩いていた。
殺し合いが開始して十二時間以上経過しているにも関わらず、純白の制服には汚れ一つ無い。
黒い革靴が奏でる足音は、非常にしっかりとしている。
周囲の地理を把握する『マッパー』を使用しているため、彼の足取りには淀み一つないのだ。
いや、それだけではないだろう。
一番の理由は、彼の手の内にある携帯ゲーム機にあった。
殺し合いが開始して十二時間以上経過しているにも関わらず、純白の制服には汚れ一つ無い。
黒い革靴が奏でる足音は、非常にしっかりとしている。
周囲の地理を把握する『マッパー』を使用しているため、彼の足取りには淀み一つないのだ。
いや、それだけではないだろう。
一番の理由は、彼の手の内にある携帯ゲーム機にあった。
「蒼嶋……ッ!」
携帯ゲーム機のモニターには、蒼嶋駿朔の所在地が記されている。
蒼嶋が居るのがFー9であり、狭間が居るのが隣のF-10。
目と鼻の先に、渇望した宿敵の姿があるのだ。
手の平に爪が食い込むほど強く、斬鉄剣の柄を握り締める。
あと少しで、胸に空いた穴が埋まる。
放送で水銀燈の名が呼ばれなかったのは疑問だが、今となっては些末事に過ぎない。
蒼嶋の胸にこの刀を突き刺した時を想像すると、心の奥底から高笑いが出て止まらなかった。
蒼嶋が居るのがFー9であり、狭間が居るのが隣のF-10。
目と鼻の先に、渇望した宿敵の姿があるのだ。
手の平に爪が食い込むほど強く、斬鉄剣の柄を握り締める。
あと少しで、胸に空いた穴が埋まる。
放送で水銀燈の名が呼ばれなかったのは疑問だが、今となっては些末事に過ぎない。
蒼嶋の胸にこの刀を突き刺した時を想像すると、心の奥底から高笑いが出て止まらなかった。
「この音は……奴も戦っているのか」
自らの進行方向から、爆音と地響きが轟く。
おそらく蒼嶋が何者かと交戦しているのだろう。
仇敵の牙が未だ折れていないことを知り、狭間はくつくつと笑い出す。
狭間が刀を突き立てたいのは、あくまで魔神皇を倒した蒼嶋だ。
弱くなった蒼嶋など、怠惰界で強制労働させていた生徒とも大差はない。
あそこに蒼嶋がいると断定するなら、そこに辿り着くまではあと十分弱であろうか。
走ればもう少し早く到着するだろうが、蒼嶋のためにそこまでしてやるのも癪に障った。
蒼嶋の下に辿り着いた時、自分が取るべき行動は二パターンある。
戦闘が終わっていなかったら、その戦闘を強引に終結させて蒼嶋と戦う。
戦闘が終わっていたら、やはりそのまま蒼嶋と戦う。
全力の蒼嶋と戦えないのは残念だが、休憩時間を与えてやるほど彼は慈悲深くも我慢強くもない。
おそらく蒼嶋が何者かと交戦しているのだろう。
仇敵の牙が未だ折れていないことを知り、狭間はくつくつと笑い出す。
狭間が刀を突き立てたいのは、あくまで魔神皇を倒した蒼嶋だ。
弱くなった蒼嶋など、怠惰界で強制労働させていた生徒とも大差はない。
あそこに蒼嶋がいると断定するなら、そこに辿り着くまではあと十分弱であろうか。
走ればもう少し早く到着するだろうが、蒼嶋のためにそこまでしてやるのも癪に障った。
蒼嶋の下に辿り着いた時、自分が取るべき行動は二パターンある。
戦闘が終わっていなかったら、その戦闘を強引に終結させて蒼嶋と戦う。
戦闘が終わっていたら、やはりそのまま蒼嶋と戦う。
全力の蒼嶋と戦えないのは残念だが、休憩時間を与えてやるほど彼は慈悲深くも我慢強くもない。
「待っていろ、もうすぐ……もうすぐ貴様を殺しに行ってやる」
表情を歪に変えながら、狭間は道を歩き続ける。
☆ ☆ ☆
「ちゃんと避けないと死ぬぞぉッ!」
羽虫のように飛び回る四人を見て、詩音は心底愉快そうに笑う。
わざと直撃しない位置にエネルギー弾を着弾させ、四人が逃げ回るのを楽しんでいるのだ。
致命傷を与えることはできないが、彼らはじわじわと負傷していく。
特に北岡が傷ついていく姿を見ていると、身体の芯が熱くなっていた。
わざと直撃しない位置にエネルギー弾を着弾させ、四人が逃げ回るのを楽しんでいるのだ。
致命傷を与えることはできないが、彼らはじわじわと負傷していく。
特に北岡が傷ついていく姿を見ていると、身体の芯が熱くなっていた。
「ホラホラァ! 動きが鈍ってますよ!」
他の三人に比べ、北岡の動きは圧倒的に鈍い。
元の身体能力の差に疲労が加わり、エネルギー弾を避け切れない程に速度が低下しているのだ。
元の身体能力の差に疲労が加わり、エネルギー弾を避け切れない程に速度が低下しているのだ。
「がああぁぁッ!」
爆煙と爆風に呑み込まれ、その中心から吹き飛ぶ北岡。
鞠のように何度も地面を跳ねる姿を見て、詩音は下卑た笑い声を上げてしまう。
北岡の殺し方は既に決まっている。
悟史と同じように、爆死させてやるのだ。
ゾルダの力を以てすれば、この四人を制圧するのは容易い。
嬲った末にファイナルベントで爆殺するというのが、彼女が描いた筋書きだ。
鞠のように何度も地面を跳ねる姿を見て、詩音は下卑た笑い声を上げてしまう。
北岡の殺し方は既に決まっている。
悟史と同じように、爆死させてやるのだ。
ゾルダの力を以てすれば、この四人を制圧するのは容易い。
嬲った末にファイナルベントで爆殺するというのが、彼女が描いた筋書きだ。
「いつまでも調子くれてんじゃねぇぞ!」
爆煙の中から、切り裂くような声が轟く。
声の方角を見ると、煙の中に人影が見えた。
同時に、ヒュンと風を突き抜けるような音が鳴る。
声の方角を見ると、煙の中に人影が見えた。
同時に、ヒュンと風を突き抜けるような音が鳴る。
「ッ!」
爆煙の中から飛来する三本の矢。
素早くそれを察知した詩音は、ギガキャノンを発射してそれを相殺する。
素早くそれを察知した詩音は、ギガキャノンを発射してそれを相殺する。
「てっきり意気消沈して何もできないと思ってたのに」
煙が晴れ、人影が人間へと変わる。
そこにいたのは、ボーガンを構えた蒼嶋だった。
そこにいたのは、ボーガンを構えた蒼嶋だった。
「けっ、敵意には敏感なんだよ、それにアンタみたいのは魔界で見慣れてる」
「魔界……? ただのスケベじゃなかったんですね、貴方」
「ッ……気付いてないフリしてくれてもいいのによぉ、人が悪いなッ!」
「魔界……? ただのスケベじゃなかったんですね、貴方」
「ッ……気付いてないフリしてくれてもいいのによぉ、人が悪いなッ!」
捨て台詞と共に、再び矢が射出される。
今度の本数は五本だ。
蒼嶋が矢を装填した様子もないが、あのボーガンはそういう武器なのだろう。
常識では計り知れない代物だが、その程度でいちいち驚いてなどいられない。
先程と同様にギガキャノンを撃ち込み、飛来する矢を全て消滅させる。
今度の本数は五本だ。
蒼嶋が矢を装填した様子もないが、あのボーガンはそういう武器なのだろう。
常識では計り知れない代物だが、その程度でいちいち驚いてなどいられない。
先程と同様にギガキャノンを撃ち込み、飛来する矢を全て消滅させる。
「そんなチャチな矢じゃ私には届きませんよ!」
「それはどうかな!」
「それはどうかな!」
蒼嶋とは違う男の声。
上空を見上げると、そこにあるのは飛び降りてくる五ェ門の姿。
ギガキャノンで撃ち落とそうと目論むが、照準を定める前に目の前に着地されてしまう。
同時に斬撃が繰り出され、ギガキャノンの砲身が切り落とされた。
上空を見上げると、そこにあるのは飛び降りてくる五ェ門の姿。
ギガキャノンで撃ち落とそうと目論むが、照準を定める前に目の前に着地されてしまう。
同時に斬撃が繰り出され、ギガキャノンの砲身が切り落とされた。
「なんで……合図もしてないのに!?」
「貴様とは年季が違う、蒼嶋殿が隙を作ろうとしていることはすぐに分かった!」
「貴様とは年季が違う、蒼嶋殿が隙を作ろうとしていることはすぐに分かった!」
言葉を叩き付けると同時に、五ェ門は下から刃を切り上げる。
もう片方の砲身も、根野菜を斬り落とすように輪切りにされてしまった。
これでもう、ギガキャノンは使えない。
新たな武器を装填しようと、詩音は腰に装着したマグナバイザーに手を伸ばす。
もう片方の砲身も、根野菜を斬り落とすように輪切りにされてしまった。
これでもう、ギガキャノンは使えない。
新たな武器を装填しようと、詩音は腰に装着したマグナバイザーに手を伸ばす。
「痛ッ!」
だが、伸ばされた手は五ェ門の手刀によって払われてしまった。
「この短時間で何度も見ていれば、嫌でもその特性が理解できる」
胸部に繰り出される斬撃を避けようとするが、ギガキャノンの自重で思うように動けない。
斬撃はまともに命中し、詩音の肺から酸素を絞り出した。
斬撃はまともに命中し、詩音の肺から酸素を絞り出した。
「その大砲の威力は強大だが、一度撃ってから次に撃つまで時間が掛かる」
たたらを踏みつつも、詩音は腰のバックルに手を伸ばす。
ミラーモンスターのカードであれば、召喚器を通さずとも使用できるためだ。
だが、五ェ門がそれを見逃すわけがない。
再び手刀が打ち込まれ、彼女は痛みに悲鳴を上げた。
ミラーモンスターのカードであれば、召喚器を通さずとも使用できるためだ。
だが、五ェ門がそれを見逃すわけがない。
再び手刀が打ち込まれ、彼女は痛みに悲鳴を上げた。
「そしてその大砲はその重量故、装備している最中はまともに動くことができない、そうだろう?」
五ェ門に言う通りだった。
普通に歩く程度の動作なら問題ないが、走ったり避けたりとなると話は変わってくる。
接近戦に持ち込まれた途端、一気に不利になってしまうのだ。
次々と斬撃や手刀が打ち込まれ、詩音の身体に傷を負っていく。
スーツや装甲である程度は防御できているものの、達人の攻撃は正確な痛みを刻み付けてくる。
普通に歩く程度の動作なら問題ないが、走ったり避けたりとなると話は変わってくる。
接近戦に持ち込まれた途端、一気に不利になってしまうのだ。
次々と斬撃や手刀が打ち込まれ、詩音の身体に傷を負っていく。
スーツや装甲である程度は防御できているものの、達人の攻撃は正確な痛みを刻み付けてくる。
(こんなことになるのなら、さっさと全員殺しておけば……!)
今の不利を招いたのは、完全に詩音の失態だ。
最初から全力で砲撃していれば、この窮地はなかっただろう。
最初から全力で砲撃していれば、この窮地はなかっただろう。
(……ッ……あれは?)
五ェ門の背後から五十メートル以上の距離を置いた位置に、”そこにいるはずのない者”の姿が見える。
激痛による幻かと疑ったが、強化された視界は確かにその姿を捉えていた。
何故、そいつがそこにいるのかは分からない。
だが五ェ門がそれに気付いていない以上、これは今の戦況を一変させる好機だ。
激痛による幻かと疑ったが、強化された視界は確かにその姿を捉えていた。
何故、そいつがそこにいるのかは分からない。
だが五ェ門がそれに気付いていない以上、これは今の戦況を一変させる好機だ。
「あぁッ!」
腹部に斬撃を打ち込まれた彼女は、大袈裟な素振りと共に吹き飛ぶ。
あえてそうすることで、”そこにいるはずのない者”の射線から自らを外したのだ。
仮面の下で、ニヤリと笑う。
刹那、轟音が周辺一帯を埋め尽くした。
あえてそうすることで、”そこにいるはずのない者”の射線から自らを外したのだ。
仮面の下で、ニヤリと笑う。
刹那、轟音が周辺一帯を埋め尽くした。
「ぐああぁぁッ!」
直撃を受け、大きな悲鳴を漏らす五ェ門。
焼け焦げた衣服で地面を何度も転がる様は、打ち捨てられた雑巾を連想させる。
うつ伏せで倒れ伏す五ェ門を見て、詩音は顔を恍惚に染めた。
焼け焦げた衣服で地面を何度も転がる様は、打ち捨てられた雑巾を連想させる。
うつ伏せで倒れ伏す五ェ門を見て、詩音は顔を恍惚に染めた。
「そんな馬鹿な……!」
一方で北岡はその顔を驚愕に染めている。
彼の視線は、突如として現れた"そこにいるはずのない者"に注がれていた。
彼の視線は、突如として現れた"そこにいるはずのない者"に注がれていた。
「なんで……ゾルダが……」
そこにいたのは、ゾルダだった。
だが詩音が移動した訳ではなく、北岡の背後にもゾルダの姿はある。
正面と背後にゾルダが一人ずつ。
だが詩音が移動した訳ではなく、北岡の背後にもゾルダの姿はある。
正面と背後にゾルダが一人ずつ。
今、この場には仮面ライダーゾルダが二人いるのだ。
「どういうことなんだ……わけがわからない」
「くけけけけけけけけッ! ざまーみろ! バーカッ!」
「くけけけけけけけけッ! ざまーみろ! バーカッ!」
慌てふためく北岡を見て、詩音は心の底から嘲り笑う。
二人目のゾルダの正体は自分にも分からないが、分からないことにいちいち答えを求めていたらキリがない。
二人目のゾルダの正体は自分にも分からないが、分からないことにいちいち答えを求めていたらキリがない。
「チィッ、あっちの相手は俺がする! あんたらは詩音の方を!」
蒼嶋はブラフマーストラを構えながら、新たに現れたゾルダの下へと駆ける。
その一方で詩音はギガキャノンを捨て、接近戦用の武器であるストライクベントのカードを装填した。
その一方で詩音はギガキャノンを捨て、接近戦用の武器であるストライクベントのカードを装填した。
――――STRIKE VENT――――
マグナギガの頭部を模したギガホーンを装備し、試運転とでも言うように数度振り回す。
手に馴染んだのを確認すると、ボロ雑巾のように転がる五ェ門に近づいた。
一歩ずつ近づいていくが、五ェ門が起き上がる様子はない。
直ぐ側まで辿り着いても、五ェ門は指先一つ動かさなかった。
手に馴染んだのを確認すると、ボロ雑巾のように転がる五ェ門に近づいた。
一歩ずつ近づいていくが、五ェ門が起き上がる様子はない。
直ぐ側まで辿り着いても、五ェ門は指先一つ動かさなかった。
「それじゃあ、さよなら」
仮面の下で嗜虐的に笑いながら、ギガホーンを彼の背に振り下ろす。
「兄ちゃん!」
何処かから声がした。
同時にギガホーンの先端に、鋼を押し付けたような重みが走る。
同時にギガホーンの先端に、鋼を押し付けたような重みが走る。
「ハァ……ハァ……助太刀感謝する、デルフリンガー……」
「へっ、当たりめぇだ、今ここで兄ちゃんに死なれたら、俺まで嬢ちゃんに壊されちまう」
「へっ、当たりめぇだ、今ここで兄ちゃんに死なれたら、俺まで嬢ちゃんに壊されちまう」
すんでのところで起き上がった五ェ門は、デルフリンガーでギガホーンを受け止めていた。
「そういえば貴方も居たんですね、デルフリンガー」
舌打ちを一回して、詩音はバイザー越しにデルフリンガーを見下ろす。
「今度は嬢ちゃんがそいつに変身してるとはなぁ、今からでもやめられねーのかよ」
「絶対に嫌です」
「そうかよ」
「絶対に嫌です」
「そうかよ」
剣の鍔をカシャカシャと鳴らしながら、心底残念そうにデルフリンガーは言う。
どれだけ説得の言葉を投げかけられようと、もう戻る気などない。
既にもう人を殺してしまっているのだから。
どれだけ説得の言葉を投げかけられようと、もう戻る気などない。
既にもう人を殺してしまっているのだから。
「兄ちゃん、戦闘中は黙ってろって言われたけどよ、お前さんはもう限界だ、ここからは俺も口を出させてもらうぜ」
「……かたじけない」
「……かたじけない」
五ェ門は既に満身創痍だ。
デルフリンガーの援護が無ければ、満足に戦うことすら難しいのだろう。
今の状態ならば、詩音でも圧倒することは容易いはずだ。
デルフリンガーの援護が無ければ、満足に戦うことすら難しいのだろう。
今の状態ならば、詩音でも圧倒することは容易いはずだ。
「じゃあ行きますよ、覚悟してください!」
☆ ☆ ☆
南光太郎との戦闘を終えた枢木スザクは東側へと向かっていた。
特に目的があって向かったわけではなく、強いて言うならデッキの制限を解除するための時間稼ぎだ。
既にデッキは使用可能になっていたが、わざわざ来た道を戻るのも気が引けた。
特に目的があって向かったわけではなく、強いて言うならデッキの制限を解除するための時間稼ぎだ。
既にデッキは使用可能になっていたが、わざわざ来た道を戻るのも気が引けた。
「水銀燈……水銀燈……」
虚ろな表情で俯きながら、ぶつぶつと水銀燈の名前を呟く。
足取りはふらふらとしており、誰がどう見ても危険な状態である。
既に彼の精神は限界を来たしつつあり、こうでもしないと精神の均衡を保っていられないのだ。
足取りはふらふらとしており、誰がどう見ても危険な状態である。
既に彼の精神は限界を来たしつつあり、こうでもしないと精神の均衡を保っていられないのだ。
「ごめん……水銀燈……」
水銀燈を生き返らせるならば、積極的に参加者を殺し回るべきだろう。
総合病院や警察署は弱者や怪我人が集まるため、絶好の襲撃場所である。
今の彼には水銀燈が第一であり、弱者や怪我人を襲撃することへの忌避感など全くない。
正しさなど、ルルーシュの頭を撃ち抜いた時に捨ててきた。
総合病院や警察署は弱者や怪我人が集まるため、絶好の襲撃場所である。
今の彼には水銀燈が第一であり、弱者や怪我人を襲撃することへの忌避感など全くない。
正しさなど、ルルーシュの頭を撃ち抜いた時に捨ててきた。
「ごめん……ユ……あれ、僕は何を……」
だが、思いつかなかった。
無意識で拒否するかのように、総合病院や警察署を襲撃するという発想が頭から抜けていたのだ。
こんな体たらくでは、何時まで経っても水銀燈を生き返らせることができない。
肝心なところで無能な自分に、スザクは猛烈な自己嫌悪を抱いていた。
無意識で拒否するかのように、総合病院や警察署を襲撃するという発想が頭から抜けていたのだ。
こんな体たらくでは、何時まで経っても水銀燈を生き返らせることができない。
肝心なところで無能な自分に、スザクは猛烈な自己嫌悪を抱いていた。
「この音は……?」
近場で誰かが戦っているのか、幾重にも重なった爆音が轟いている。
空を見上げると、煙が上がっているのが見えた。
全員を殺害するのが彼の目的であるため、ここで彼らを見逃す理由はない。
ベルデのデッキを握りしめながら、全速力で爆心地まで駆け抜けた。
彼の身体能力は凄まじく、戦闘音を聞いてから音源地である教会に辿り着くまで三分も掛かっていない。
人影を視認した瞬間、民家の影に姿を隠して彼は戦況を分析し始める。
あの場に居たのは五人。
一人は一回目の放送直前で相対した仮面ライダーゾルダ。
スーツの男とセーラ服の少女は素人であり、侍風の男と学生服の少年はそれなりの手練と見える。
事実、侍風の男はゾルダを圧倒していた。
空を見上げると、煙が上がっているのが見えた。
全員を殺害するのが彼の目的であるため、ここで彼らを見逃す理由はない。
ベルデのデッキを握りしめながら、全速力で爆心地まで駆け抜けた。
彼の身体能力は凄まじく、戦闘音を聞いてから音源地である教会に辿り着くまで三分も掛かっていない。
人影を視認した瞬間、民家の影に姿を隠して彼は戦況を分析し始める。
あの場に居たのは五人。
一人は一回目の放送直前で相対した仮面ライダーゾルダ。
スーツの男とセーラ服の少女は素人であり、侍風の男と学生服の少年はそれなりの手練と見える。
事実、侍風の男はゾルダを圧倒していた。
「これは使えるな……」
皮肉げに笑いながら、足元に落ちていたガラス片にデッキを翳すスザク。
すると腰回りにベルトが出現し、バックルの窪みに素早くデッキを装填した。
すると腰回りにベルトが出現し、バックルの窪みに素早くデッキを装填した。
「変身」
抑揚のない声で言う。
次の瞬間には、スザクの姿はカメレオンを連想させる姿をした仮面ライダーベルデへと変わっていた。
既に一度変身しているため、スザクが何の感慨も抱くことはない。
ゆらりとデッキから一枚のカードを取り出し、左脚のバイオバイザーに読み込ませた。
次の瞬間には、スザクの姿はカメレオンを連想させる姿をした仮面ライダーベルデへと変わっていた。
既に一度変身しているため、スザクが何の感慨も抱くことはない。
ゆらりとデッキから一枚のカードを取り出し、左脚のバイオバイザーに読み込ませた。
――――COPY VENT――――
認証音が響くと、ベルデの姿が絵の具をぶち撒けたように変わっていく。
黄緑色の軽快な戦士から、緑色の重厚な戦士へと。
仮面ライダーベルデの姿は、仮面ライダーゾルダへと変わっていた。
本来のコピーベントは武器を複製するだけだが、ベルデの所有する物は相手の姿形も模倣することができる。
”そこにいるはずのない者”の正体は、コピーベントでゾルダを模倣したベルデだった。
黄緑色の軽快な戦士から、緑色の重厚な戦士へと。
仮面ライダーベルデの姿は、仮面ライダーゾルダへと変わっていた。
本来のコピーベントは武器を複製するだけだが、ベルデの所有する物は相手の姿形も模倣することができる。
”そこにいるはずのない者”の正体は、コピーベントでゾルダを模倣したベルデだった。
「行ってくるね、水銀燈……」
両肩に巨大な二門砲が装備されているのを確認すると、スザクは覚束ない足取りで戦場に足を踏み入れた。
☆ ☆ ☆
「オラッ、喰らいやがれぇッ!」
ジグザグに走ることで相手の照準を乱しながら、ブラフマーストラを連射する蒼嶋。
先程の五ェ門の言葉で、ギガキャノンを装備した者の動きが鈍くなることが分かっている。
接近戦に持ち込むことができれば、相手の戦力は半分以上削がれるだろう。
正体不明の敵は不気味だが、速攻で倒してしまえば問題ない。
先程の五ェ門の言葉で、ギガキャノンを装備した者の動きが鈍くなることが分かっている。
接近戦に持ち込むことができれば、相手の戦力は半分以上削がれるだろう。
正体不明の敵は不気味だが、速攻で倒してしまえば問題ない。
「な……にぃ!?」
そう、思っていた。
ベルデは腰のマグナバイザーを抜き、襲来する矢を全て撃ち落とす。
そして――――
ベルデは腰のマグナバイザーを抜き、襲来する矢を全て撃ち落とす。
そして――――
「なんで突っ込んでくんだよぉ!」
そのまま、全速力で突っ込んできた。
ギガキャノンを装備した状態では、その自重でまともに動けないのではないのか。
ブラフマーストラの矢を全弾撃ち落としたことも驚きだったが、そのまま突っ込んできたことは余りにも予想外である。
虚を突かれ、蒼嶋はその場を動くことができない。
そんな彼へと肉薄したベルデは、加速で発生した運動エネルギーをそのままに体当たりを繰り出す。
重戦車に突撃されたかのような衝撃を受け、蒼嶋は宙へと投げ出された。
ギガキャノンを装備した状態では、その自重でまともに動けないのではないのか。
ブラフマーストラの矢を全弾撃ち落としたことも驚きだったが、そのまま突っ込んできたことは余りにも予想外である。
虚を突かれ、蒼嶋はその場を動くことができない。
そんな彼へと肉薄したベルデは、加速で発生した運動エネルギーをそのままに体当たりを繰り出す。
重戦車に突撃されたかのような衝撃を受け、蒼嶋は宙へと投げ出された。
「がはぁっ!」
ギガキャノンを装備して動けない理由は、あくまでその超重量によるものだ。
詩音や北岡のような一般人の動きは鈍くなるが、スザクには超人的な筋力や瞬発力がある。
この程度の重量は、彼にとっては重石にもならなかった。
宙に投げ出された蒼嶋を視界の捉えたスザクは、急停止して次の行動に移る。
目測で蒼嶋の着地点を予測し、ギガキャノンの照準をそこに指定。
蒼嶋が着地した瞬間、ギガキャノンを発射した。
詩音や北岡のような一般人の動きは鈍くなるが、スザクには超人的な筋力や瞬発力がある。
この程度の重量は、彼にとっては重石にもならなかった。
宙に投げ出された蒼嶋を視界の捉えたスザクは、急停止して次の行動に移る。
目測で蒼嶋の着地点を予測し、ギガキャノンの照準をそこに指定。
蒼嶋が着地した瞬間、ギガキャノンを発射した。
「蒼嶋さん!」
エネルギー弾は破裂し、周辺一帯を抉る。
エンド・オブ・ワールドには劣るものの、ギガキャノンもKMFに搭載される兵器並の威力だ。
蒼嶋は戦闘不能になったと判断し、スザクは先ほど叫んだ少女へと照準を移す。
エンド・オブ・ワールドには劣るものの、ギガキャノンもKMFに搭載される兵器並の威力だ。
蒼嶋は戦闘不能になったと判断し、スザクは先ほど叫んだ少女へと照準を移す。
「クソッタレがあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
怒声と共に、光り輝く七本の矢が放たれる。
完全に虚を突かれたため、スザクの初動は僅かに遅れてしまう。
それでもマグナバイザーを抜いたが、最後の一発だけは撃ち漏らしてしまった。
完全に虚を突かれたため、スザクの初動は僅かに遅れてしまう。
それでもマグナバイザーを抜いたが、最後の一発だけは撃ち漏らしてしまった。
「ぐっ……」
右腕に矢が刺さり、くぐもった声を漏らすスザク。
同時にコピーベントの効果が切れ、風景に溶け込むようにゾルダからベルデへと戻ってしまう。
同時にコピーベントの効果が切れ、風景に溶け込むようにゾルダからベルデへと戻ってしまう。
「それがテメェの本当の姿かよ、カメレオンってかぁ!?」
爆煙の中から襲来し、一気に畳み掛ける蒼嶋。
綺羅びやかなマントを風にはためかせながら、交差させた庭師の鋏の刃をスザクの首へと伸ばした。
彼が背負っているマントはKフロストマント。
スザクの所持するKフロストヅーラと同様、キングフロストの装備品の一つだ。
これは炎に対する耐性を持っており、さらに装備者の防御力をそれなりに上昇させる効果がある。
吹き飛ばされた瞬間、咄嗟にこれを取り出すことで彼はギガキャノンを防御したのだ。
綺羅びやかなマントを風にはためかせながら、交差させた庭師の鋏の刃をスザクの首へと伸ばした。
彼が背負っているマントはKフロストマント。
スザクの所持するKフロストヅーラと同様、キングフロストの装備品の一つだ。
これは炎に対する耐性を持っており、さらに装備者の防御力をそれなりに上昇させる効果がある。
吹き飛ばされた瞬間、咄嗟にこれを取り出すことで彼はギガキャノンを防御したのだ。
「ぐうっ……」
交差する刃を、スザクは右腕を挟んで受け止める。
万力で締め付けられるような鈍痛が伝わってくるが、右腕のアーマーが壊れる様子はない。
庭師の鋏は蒼星石専用の武器であり、彼女でなければ本来の力を発揮することはできないのである。
万力で締め付けられるような鈍痛が伝わってくるが、右腕のアーマーが壊れる様子はない。
庭師の鋏は蒼星石専用の武器であり、彼女でなければ本来の力を発揮することはできないのである。
「なんなんだあいつ……」
レナと一緒に民家の影に隠れた北岡は、ベルデの姿を見て疑問符を浮かべていた。
彼とベルデが手を組んでいた時間軸もあるが、この時間軸のベルデは北岡と会う前に脱落している。
故に北岡は、ベルデのことを一切知らなかった。
彼とベルデが手を組んでいた時間軸もあるが、この時間軸のベルデは北岡と会う前に脱落している。
故に北岡は、ベルデのことを一切知らなかった。
「さっきよりも随分と動きが鈍ってますね、そんなんじゃ死んじゃいますよ!」
「自分でやったわけじゃねぇ癖によぉ、兄ちゃん、右だ!」
「自分でやったわけじゃねぇ癖によぉ、兄ちゃん、右だ!」
猛攻を仕掛ける詩音に対し、デルフリンガーの援護で五ェ門は辛うじて応戦している。
しかし防戦一方であり、戦況は芳しくない。
変身してから五分程度しか経っていないため、時間制限による解除も望めなかった。
しかし防戦一方であり、戦況は芳しくない。
変身してから五分程度しか経っていないため、時間制限による解除も望めなかった。
「うわああぁぁぁぁッ!」
劈くような悲鳴が轟く。
慌ててそちらに視線を移すと、ベルデがヨーヨーのような武器を用いて蒼嶋を嬲っている。
蒼嶋はブラフマーストラで応戦しているが、変幻自在に動くヨーヨーに叩き落されてしまう。
ベルデに変身している者は、その力を完全に使いこなしていた。
慌ててそちらに視線を移すと、ベルデがヨーヨーのような武器を用いて蒼嶋を嬲っている。
蒼嶋はブラフマーストラで応戦しているが、変幻自在に動くヨーヨーに叩き落されてしまう。
ベルデに変身している者は、その力を完全に使いこなしていた。
「クソッ、このままじゃ……」
五ェ門も蒼嶋も倒されてしまう。
今の自分たちは、切り立った崖の上に立たされているようなものだ。
早急に手を打たなければ、四人とも突き落とされてしまう。
今の自分たちは、切り立った崖の上に立たされているようなものだ。
早急に手を打たなければ、四人とも突き落とされてしまう。
「北岡さん」
必死に挽回策を考えていると、隣にいたレナが声を掛けてくる。
「なによ」
「さっきは疑ったりしてごめんなさい」
「さっきは疑ったりしてごめんなさい」
北岡の目をしっかりと見ながら、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べるレナ。
「もうそのことはいいよ、今はあいつらを何とかする方法を考えなきゃ」
「そのことなんですけど……北岡さんは本当に悟史くんを見捨てたんですか?」
「そのことなんですけど……北岡さんは本当に悟史くんを見捨てたんですか?」
問い詰めるようなレナの視線が北岡に突き刺さる。
彼女の握っている鉈の刃が、重々しい鋼色の輝きを放っていた。
彼女の握っている鉈の刃が、重々しい鋼色の輝きを放っていた。
「……それって今は関係ないんじゃないの?」
「答えてください、もしかしたらこの状況をひっくり返すことができるかもしれないんです」
「答えてください、もしかしたらこの状況をひっくり返すことができるかもしれないんです」
逡巡する北岡。
あくまでお願いという形を取っているが、彼女の目は有無を言わさぬといった様子だ。
レナと詩音が友人であるならば、レナと悟史も友人である可能性が高い。
つまりレナにとって北岡は、友人を見殺しにした仇敵にも等しいだろう。
下手をすれば、詩音のように殺意を向けられる可能性すらある。
あくまでお願いという形を取っているが、彼女の目は有無を言わさぬといった様子だ。
レナと詩音が友人であるならば、レナと悟史も友人である可能性が高い。
つまりレナにとって北岡は、友人を見殺しにした仇敵にも等しいだろう。
下手をすれば、詩音のように殺意を向けられる可能性すらある。
「……」
だが、このまま行けばどのみち死は免れない。
有効な挽回策も思いつかず、悩めば悩むほど五ェ門や蒼嶋は消耗していく。
有効な挽回策も思いつかず、悩めば悩むほど五ェ門や蒼嶋は消耗していく。
「……分かったよ、でも時間がないから簡潔に話す、いいね?」
「はい、お願いします」
「はい、お願いします」
頭を垂れながら、北岡は真実を語り始めた。
ゾルダのデッキを置き忘れた時のこと、悟史の呼びかけを無視せざるを得なかったこと。
自らの口から罪を告白する様は、まるで教会で懺悔するような気分である。
北岡が話している間、レナは一言も言葉を発さない。
話を噛み砕いて理解するように、何度も何度も頷いていた。
ゾルダのデッキを置き忘れた時のこと、悟史の呼びかけを無視せざるを得なかったこと。
自らの口から罪を告白する様は、まるで教会で懺悔するような気分である。
北岡が話している間、レナは一言も言葉を発さない。
話を噛み砕いて理解するように、何度も何度も頷いていた。
「これで全部だ」
全ての事情を話し終えた北岡は、湿った溜め息を漏らす。
倍近くの年齢差があるとはいえ、鉈を持った少女の前で罪を告白するのは精神を消耗する。
額が脂汗塗れであることに気づき、北岡はスーツの裾で拭った。
倍近くの年齢差があるとはいえ、鉈を持った少女の前で罪を告白するのは精神を消耗する。
額が脂汗塗れであることに気づき、北岡はスーツの裾で拭った。
時系列順で読む
Back:急転直下 Next:It was end of world(後編)
投下順で読む
Back:寄生獣 Next:It was end of world(後編)
126:鬼さんこちら | 園崎詩音 | 138:It was end of world(後編) |
石川五ェ門 | ||
北岡秀一 | ||
112:Dear you | 蒼嶋駿朔 | |
竜宮レナ | ||
118:鏡像 | 狭間偉出夫 | |
125:How many miles to the police station? | 枢木スザク |