癒えない傷

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癒えない傷  ◆.WX8NmkbZ6



 ジェレミア・ゴットバルト、山田奈緒子、アイゼル・ワイマールの三人を乗せたミニクーパーが市街地を駆ける。
 放送前にH-7で地図上の建物の位置や方角は確認してあった為、道に迷う事はなかった。
 周囲に背の高い建物が無く、遠くからでも目的地である総合病院の姿が視認出来たのもその一因だ。
 エンジン音を聞かれて待ち伏せをされる危険を考慮し、車中にいた三人は病院の数百メートル手前で降車した。

 建物の北側に位置する正門を通って正面玄関前に辿り着くと、建物内から不用心な程に大きな声が聴こえ、三人は身構える。
 そして乱暴に扉が開くと、男女二人の姿が露わになった。



 ストレイト・クーガー園崎詩音の男女二人組は病院を去ろうとしていた。
 クーガーは命を落とした少女から託された女学生三名を捜す為に。
 詩音は生存を信じて止まない家族と恋人を捜す為に。
 隠し部屋や地下への隠し通路といったものを期待しないでもなかったが、両者は共に時間を惜しんでいる。
 クーガーの怪我の処置、病院内の簡単な捜索、そして詩音の敗れた服の代わりの調達と借りていたコートの返却。
 それだけ済ますと、二人はすぐに正面玄関へ向かった。

 クーガーは長居無用である事を早口で、そして大声で捲し立てると玄関の扉を勢い良く開ける。
 例えそこに敵がいても問題無いとでも言いたげな、豪快な開け方だ。
 そして目の前にいた三人組に気付くと、クーガーは扉を開けた姿勢のまま硬直した。



 数秒の沈黙を守った後、口火を切ったのはクーガーとジェレミアだ。
 青と白を基調にしたコート。
 後方に伸ばした流線形の髪。
 サングラスと仮面。
 どこか似た空気を纏う男達は同時に、同じ言葉を発する。

「「怪しい奴!!!」」

 いや、どっちもどっちだろ。
 奈緒子は心中でそうツッコミを入れた。


 次元大介は図書館に向かっていた。
 放送を聞いた地点であるG-8から最も近い施設は総合病院だったが、敢えてそちらを選ばなかった事にはそれなりの理由がある。

 次元の最優先事項は、ルパン達と合流する事だ。
 そしてルパンの性格を考えれば、あちこち動き回るよりはどこかの施設に腰を落ち着けて主催者に対抗する策でも練っているだろう。
 しかし総合病院はいかにも弱った人間が向かいそうな場所で、かつ、それを予期した危険人物が罠を張っていそうな場所だ。
 そんな所にルパンはいないし、もう一人の仲間である五ェ門とて向かう可能性は低い。
 よって次元は総合病院の次に近い図書館を目的地に選んだのだ。

 図書館に向かう途中、その方角から向かって来る足音に気付いた次元は咄嗟に物陰に身を隠した。
 そして様子を窺う為にそっと覗き込み、気付く。
「五ェ門!?」
「その声は、次元か!?」
 足音の主は石川五ェ門柊つかさ北岡秀一の三人。
 道がそれなりに入り組んだ市街で四人がすれ違わずに済んだのは、付近に禁止エリアがあり、互いにそれを避けようとした事が大きな要因と言える。
 次元が観察すると、五ェ門と同行していた二人の筋肉の付き方は一般人のそれだ。
 五ェ門と同行しているという事実からも一先ず信用する事にし、次元は三人の前に姿を見せる。
 仲間との予想以上に早い合流は勿論喜ばしい。
 それに数時間前まで同行していたロロ・ランペルージから得た情報の不可解な点を補う為にも、他の参加者との接触も都合が良かった。
 しかし次元はすぐに、露骨に顔を顰める事になる。

「拙者達はこれから総合病院に向かおうと思っている」
 あえて避けようとしていた施設の名前を聞かされては、二つ返事でそれに応じる事は出来なかった。
 五ェ門とつかさの負傷というやむを得ない事情を聞いても、それなら尚更危険を冒すべきではないのでは、と思ってしまう。
 まして今の次元にはまともな銃が無いのだ。
 そこで次元は北岡に対しブローニング・ハイパワーとデリンジャーの交換を条件として提示すると、北岡はあっさりとこれを承諾した。
 次元としては身を守る武器の弱体化を渋るのではと思っていたのだが、北岡は五ェ門から既に次元の実力を聞かされていたらしい。
 どちらが強力な銃を持った方が、自身の安全に繋がるか――北岡はそれを客観的に見極めているようだった。

 四人が病院近くまで来ると、声が聴こえた。
 それも半ば怒声に近い声であり、参加者同士の衝突を意味している。
「北岡殿はここでつかさ殿を見ていてくれ。
 拙者と次元が先行する」
 殺し合いを是としない五ェ門がそれを見過ごすはずが無く、次元は溜息を吐きつつそれに従った。
 五ェ門はいつでもデルフリンガーを抜けるよう鞘に収めたまま構え、次元も銃を抜く。

 総合病院は二メートル程の高さの塀で囲まれており、正門の所でそれが途切れている。
 声の出所はその正門の先だ。
 次元と五ェ門は正門の陰に隠れて暫し気配を窺うが、声が止む様子はない。
 二人は同時に正門から躍り出て、次元は「動くな」と叫ぼうとし――その口は開けられたまま、声を出す事も閉じられる事もなく動きを止める。

「いやいやいやいやこんな場に連れて来られながら美女二人に囲まれるとは実に羨ましい!
 確かに俺もこうして沙音さんという美女を片手に過ごしてはいるが、しかしここには片手と両手という大きな違いがある!
 天と地、雲泥の差、とまで言ってしまえば流石に沙音さんに失礼だから俺は決して言わないが、とにかく違う!
 しかも一方は胸が貧しいとは言えどちらも長髪美人、ついでに気が強そうで実に俺好み!
 という事でそこのお二人、この男の事は放っておいて俺と素敵なドライブに行きませんか?」
「私の同行者にふしだらな目を向けるな!
 そしてこの私を無視しようとするとは、この無礼者め!」
「さりげなく貧乳って言うな!」
「奈緒子、目を合わせちゃ駄目よ」
「詩音です、クーガーさん」

 次元や五ェ門が想像していたものよりもずっとくだらない光景が、そこにあった。

「会話というものは人間が互いのコミュニケーションの為に成立させた重要な――」
「ええい黙れ、貴様の持論など訊いておらん!
 その会話が噛み合わなくなっているのは貴様のせいだろう!!」
「そうやって人の意見を頭から否定する事がディスコミュニケーションだと言っている!
 あんたの仮面もそうだが、実に非文化的だ」
「……そこに直れ。
 サングラスごとその良く動く口を真っ二つにしてくれる」

 口論するサングラスの男と仮面の男。
 一時的に茫然としていた次元と五ェ門は顔を見合わせ、同時に叫ぶ。
「「怪しい奴らだ!!」」
「「こいつと一緒にするな!!!」」
 言い合いをしていた二人は脊髄反射で声を揃えて反論してから漸く、新たに現れた参加者達に気付き矛を収めた。



 九人の参加者達。
 一同は少々揉めながらも、その後情報交換の場を設ける事が出来た。
 信頼には程遠かったが、少なくともそれぞれのグループが殺し合いに加わっていないという点においては互いに信用し合った形だ。
 それでも殺し合いが行われている最中、これだけの人数が纏まったのは幸運と言う他ないだろう。
 例え誰も殺し合いに乗っていない場でも、ささいな齟齬から対立へ結び付く事は往々にして起こる。
 今回それが起きなかったのは、それぞれが複数人で動いており、衝動的な行動に出る者がいなかった事が大きい。
 また次元と詩音のように既に一度接触した者がいた事、つかさがクーガーの捜す陵桜学園の生徒の制服を身に着けていた事も挙げられる。

 ただし不幸だった事は――互いの持つ情報が、互いに影響を与え過ぎてしまうものだったという事か。


 一同が陣取ったのは病院の四階、談話スペースを兼ねたエレベーターホールだった。
 何かあった時に女性でも窓から逃げられるという点では一階が適当だが、そちらは同時に奇襲を受け易い為だ。
 ホールは北側に窓、南側にエレベーター、東西に廊下が伸びており、人数分以上の椅子が設置されている。
 北の窓からは正面玄関側、廊下の窓からは建物の南側を一望出来た。
 ホールに人がいるのが外から見えないようブラインドを下げ、薄く窓を開ける事で外の音が入るようにする。
 そして危険人物に関する情報だけ先に集めた次元が正面玄関に残る事で死角を埋め、話し合う準備を整えた。

「ここは暫定的に俺が司会を務めるって事でいいかな?
 この人数じゃ、誰かが纏めないと進まないでしょ」
 それぞれが腰を下ろしたのを確認すると、北岡は司会進行役を名乗り出た。
 一人一人がバラバラに話していては情報交換の体をなさない。
 北岡の弁護士という肩書も手伝って、これに反対する者はいなかった。

「一人ずつ順番に、ここに連れて来られる前からの知り合いと、ここに来てから関わった参加者について言っていこうか。
 大体どの辺りを移動してきたか、とかもね。
 俺達は五ェ門の手当てをしながらだから、順番は後の方がいいんだけど」
 詩音が回収した医薬品や包帯に関しては、クーガーの厚意で各グループに平等に分配された。
 北岡はそれを用いて五ェ門の治療を行う事を口実に、他の参加者達の様子を見てから自分の意見を言うつもりでいる。
 参加者を一人殺害しているつかさと同行している以上、円滑にこの場にいる面々と協力関係を結ぶにはある程度の情報操作が必要になる。
 わざわざ司会を引き受けたのもそれ故だった。
「ならば私から始めよう。
 ここに来てから接触した参加者は僅かだからな、すぐに終わるはずだ」
 ジェレミアが答えたのに対し、自分達が最初で無ければそれでいいと考えていた北岡は「じゃあどうぞ」と適当に先を促した。
 その間に五ェ門の傷を覆っているサラシを解こうとし――しかし、その手はすぐに止まる。

 ルルーシュ・ランペルージの関係者。
 ジェレミアの口から出た情報に、北岡は額に汗が滲むのを感じる。
 一番関わりたく無かった相手――つかさの表情は凍りついていた。

 そしてジェレミア、奈緒子、アイゼルの後に口を開いたクーガーが、そこに追い打ちを掛ける。

「こなちゃん……が、お姉ちゃんを……?」
 クーガーの言葉につかさは顔を上げるが、表情は無かった。
 ルルーシュの関係者が目の前にいるという事実を突き付けられた直後に、友人の凶行を知らされる。
 それは昨日までただの女子高生だったつかさにとって、余りに現実感の無い事だったのだろう。
「それでもかがみさんは最後まで、この戦いに抗っていましたよ」
「……そう、ですか……」
 つかさはクーガーの声に反応はするが、その声がどこまで届いているのか北岡からは分からなかった。

 ルルーシュとの関係について、他の参加者と接触した場合どう説明するのか。
 北岡は道中でつかさと既に打ち合わせを行っていた。
 話し合った通りにすれば、この場は問題無く切り抜けられる。
 しかし、そうと分かっていても。
 それでも北岡はこの時点で、嫌な予感を拭えなかった。


「ふざけるな、もう一回言ってみろ!!!」
 詩音は北岡の胸に掴み掛かり、鬼の形相で叫んでいた。
「悟史君が助けを求めているのに無視して、それであんたが勝手に忘れてきた支給品が起こした爆発に巻き込まれて死んじゃった?
 だったらあんたが殺したようなもんじゃないか!
 返せ!! 悟史君を返せよぉぉおおおおおおおお!!!!」

 クーガー、詩音と情報を話し終え、北岡達の順番が回ってきた。
 初め、北岡は拡声器による呼び掛けを聴かなかった事にしようとしていた。
 北岡の前の園崎詩音の話から、詩音が北条悟史の関係者と分かったからだ。
 しかしそういった嘘を好まない五ェ門には釘を刺されるように睨まれ、また万一バレた時のデメリットの大きさも無視出来なかった。
 諦めて北岡は正直にこれまでに関わった参加者の情報――北条悟史の呼び掛けについても含めて話す。
 その結果が、詩音の逆上だ。
 助けに行こうとしたところで浅倉の妨害に遭ったせいだと、説明しても詩音には聴こえない。

 詩音の怒号が響き北岡が困り果てている時、詩音の肩に手を置いて制したのはクーガーだった。
「詩音さーん、落ち着いて下さい。
 話し合いの途中ですよ?」
「邪魔するんですか!?
 こいつをかばうんだったらクーガーさん相手でも――」
 北岡のスーツから手を離さないまま、詩音はクーガーの方へ振り返り睨み付ける。
「だから落ち着いて下さい、と言ってるじゃありませんか。
 いいですか、あの主催者が放送で嘘を吐くなら目的は参加者に混乱を与える事と参加者間で争いを生む事です。
 そんな時、客観的には死亡した確率が高い北条さんが利用される可能性はありませんか?」
「でも、あんな状況で……」
「北岡さん達は北条さんの死亡を直接確認した訳ではありません。
 こんな時こそ北条さんを信じるべきではありませんか?」
「…………」
 悟史達を信じると決めたのは、つい先程の事だ。
 クーガーには一応の恩義もあり、詩音はそれ以上言い返せなかった。

 ただし詩音が納得したのはクーガーの言葉に対してのみだ。
 席に戻る前に、一際強く北岡の襟を掴み上げる。
「私は悟史くんが生きてるって信じます。
 でも、あなたの事は絶対に許しませんから」
 詩音が席に戻る中、クーガーは詩音以外の六人に目配せする。
 クーガーの論はかなり強引だ。
 しかし今の詩音はその強引な論が必要な状態であり、今それを追求してはならない。
 そのクーガーの意図が伝わってか、この件に関しそれ以上触れる者はいなかった。

「最後はつかさちゃんだな。
 俺達と会うまでどうしていたか、話してくれる?」
「は、はい。えっと、私は……、」
 つかさは話し合いが始まってからずっと心ここにあらずといった状態だったが、北岡が声を掛けるとすぐに気を取り直した。
 打ち合わせ通りの内容を言おうと、つかさは緊張しながら口を開く。

 偽る部分が増えればそれだけボロを出しやすくなり、辻褄を合わせる事も難しくなる。
 故に、嘘はつかさがルルーシュを殺害したという一点のみ――必要最低限でいい。
 「ルルーシュと出会ったがはぐれてしまった」。
 それが、北岡が用意した嘘だった。

「北岡さん達と会うまで、ルルーシュ君と一緒にいました。
 それから――」
「ルルーシュ様だと!?」
 当然ジェレミアはその一言で目の色を変え、席から立ち上がった。



「知っている事なら何でも良いのだ!
 あの方に何があったのか、その手掛かりだけでも……!!」

 つかさが言い終わるのも待たず、ジェレミアは訴えていた。
 ジェレミアのその必死の嘆願を聞きながら、つかさは考える。
――北岡さん達と会うまでルルーシュ君と一緒にいましたが、はぐれてしまいました。
――その後ルルーシュ君の名前が放送で呼ばれて、悲しかったです。
 きっとその言葉は、この場の全員が協力し合う為に一番必要な言葉に違いない。

 それでも――それで本当に良いのか。
 自分がしてしまった事を偽って、協力を仰ぐ。
 例え必要な事であっても、それが勝手な話である事に変わりは無い。
 それで――強くなったと言えるのか。

(私は、お姉ちゃんなのに)

「頼む……私はルルーシュ様の事を、何も知らないのだ……!!」

――誰かの真剣な気持ちを踏みにじる事が、「お姉ちゃん」のする事なの……?

「つかさちゃん、俺が代わりに答え――」
「ごめんなさい、北岡さん」
 黙ったままでいたつかさの代役を申し出ようとした北岡の言葉を、つかさははっきりとした口調で遮る。

「ルルーシュ君は……私が――」



――私が殺しました。

 ジェレミアがルルーシュを知るのは九年前のアリエス宮での姿と、ゼロとなった後の姿のみ。
 その間、日本に送られてからどんな思いをしていたのか。
 アッシュフォード学園で何をしていたのか。
 この殺し合いに巻き込まれ、どうなったのか。
 騎士でありながら、主君について知る事は余りに少ない。

 そして知らされた事実は、信じ難い――否、信じたくないものだった。
「……何の冗談だ」
「……私が、撃ったんです」
 「冗談です」などという言葉を期待していた訳ではなく、目を見れば本気と分かった。
 唇を噛み締め、湧き上がる感情を抑え込もうとする。
 怒りと、哀しみと、忠義と、それから――

 つかさの目前まで跳躍したジェレミアは中空で剣を突き出し、振り下ろす。
 それを受け止めたのはつかさではなく、その隣で一部始終を聞いていた五ェ門だった。


 剣同士がぶつかり合う音が断続的にホールに響く。
 接近し、鍔迫り合いになり、距離を取る、その繰り返しだ。
 ジェレミアと五ェ門の二人をホールの中央に残し、他の六人はその様子を固唾を呑んで見守っていた。
 二人の衝突を止めに入ろうとするつかさを北岡が制している。

 ジェレミアは確かに実力者である。
 しかし剣を持ち、KMFを用いずに自ら前線に立つようになったのは改造されてからのここ一年の話だ。
 経験も技術も五ェ門には及ばない。
 そして改造によって得た身体能力も、五ェ門のそれとせいぜい同等程度と言えるだろう。
 ましてや今は、五ェ門も錆びた剣を用いているとは言えジェレミアの左手の剣は使用不能。
 双剣でこそ発揮出来る実力も出し切れない。

 それでもなおジェレミアが五ェ門と肉薄出来ているのは、忠義故か執念故か。
 なし崩し的に戦う事になった五ェ門との戦意の差は大きい。



 ジェレミアに退く気配が無いのを見て、五ェ門は思案する。
 本来ならば協力関係を結べたはずの相手であり、負傷させる事は互いの益にならない。
 五ェ門は左手に持った鞘から抜刀し、左から右へ薙ぐ。
 それを一歩下がる事で回避したジェレミアに対し、五ェ門は大きく一歩踏み込み、右へ振り切った剣を今度は左へ薙ぐ。

 デルフリンガーは日本刀と同じ片刃の長剣だ。
 最初の薙ぎでは相手に刃を向けていた。
 そして次の右からの薙ぎは、本来ならば手首を返し再び刃を相手に向けるところを、手首を返さずに峰を相手に向けている。
 五ェ門が定めた狙いは、人体急所の一つである脇下。
 錆びた剣による峰打ちであろうと与えた衝撃は肺に至り、相手を強制的に行動不能に出来るのだ。

 ジェレミアの手甲剣は右手でしか扱えない物であり、左からの斬撃は防ぎにくい。
 目標が五ェ門ではなく飽くまでつかさである以上、ジェレミアが相討ちを覚悟で仕掛けて来る事はないだろう。
 ならばジェレミアが取るのは後方か右への回避――五ェ門は相手の動きを予測しながら自身の次の手を考える。

 だがジェレミアがデルフリンガーの刀身に向かって左手を突き出すのを見て、五ェ門は目を剥いた。
(左手を犠牲にして受け止めるつもりか!?)
 ジェレミアに負傷させる事は、五ェ門の意に反する。
 蛮行とも言えるジェレミアの動きを阻止するべく、五ェ門は剣の軌道を変えようとした。

 しかし五ェ門の剣筋が鈍ってもなお、ジェレミアは真っ直ぐに刀身へ手を伸ばす。

「なっ……」
 ジェレミアの動きは攻撃を防ぐ為の動きではない、攻撃だ。
 それに気付いた五ェ門の反応は間に合わず、デルフリンガーを掴まれた。
 五ェ門はデルフリンガーから素早く手を離し後退する。
 武器を放棄する事になるが、掴まれたデルフリンガーに固執していてはジェレミアの次の斬撃を避けられなくなる。

 想像通りに攻撃が五ェ門の鼻先を掠めていった。
 しかしそれは斬撃ではなく、ジェレミアの右足による蹴り。
 五ェ門がその反撃に戸惑っている間に、更に追撃としてデルフリンガーを投擲された。
 五ェ門は切っ先を白刃取りで受け止めるが、違和感は拭えない。
(何故斬りに来なかった?
 しかもこれでは武器を失った相手に、武器を返したようなものではないか……)

「こりゃおでれーた。
 兄ちゃんのその腕、義手なんてチャチなもんじゃねーな」
 「戦っている最中ぐらいは黙っていろ」という五ェ門の要望を無視して、五ェ門の手に戻されたデルフリンガーは感心した様子でジェレミアに言う。
「いかにも……このジェレミア・ゴットバルトは改造人間である!
 如何に貴公が優れた剣士であろうと私には通じん。
 故に……そこをどけ、石川!!!」
「どく訳にはいかん!!!」

 悟りを求めながら剣の修行を続ける五ェ門は、戦いの中で覚えた違和感の正体に気付いていた。
 言葉とは裏腹に、ジェレミアは五ェ門にもつかさにも、殺意を抱いていないのだ。
 ジェレミアの剣は曇り切っている――迷いがある。
 それが何故かまでは分からないが、五ェ門が大人しく引き下がったとしても恐らくジェレミアはつかさを殺せない。

 しかし五ェ門は退かない。
――この男は、つかさ殿の事を何も知らん。
 当然だ、会って数時間の五ェ門にもどれだけ分かっているのか怪しいところだ。
 それでも五ェ門は知っているのだ、北岡と五ェ門に協力したいと申し出た優しい少女の姿を。
 例え殺意が無くとも、つかさを知りもせずに責めるのならば――五ェ門は、この場を譲りはしない。

「つかさちゃん達は浅倉に襲われて……事故だったんだ!!
 つかさちゃんの意思じゃない!」
 ジェレミアに殺意が無い事に気付いてか、北岡が声を張り上げた。
 本気で殺そうとしているのでないのならば、説得の余地はある。

 だが返事は、五ェ門や北岡が想像していたものとは異なっていた。

「そんな事は分かっている!!!」

 苛立ちも悲しみも全て声に押し込むように、ジェレミアが叫ぶ。
「でなくば、ルルーシュ様が命を落とされるはずが無い……!!」
「ならば何故、お主は退かん!」
 金色の剣と錆びたデルフリンガーがぶつかり合い、鍔迫り合いの状態で両者の動きが止まる。
 そのまま押し合っていてはデルフリンガーへの負担となる為、五ェ門は剣を払って膠着状態を脱し、後方へ跳んで距離を取った。

「私は、退く訳にはいかないのだ。
 いかなる理由があろうと……退けば忠義を果たせなくなる」



 絶対遵守のギアス。
 並はずれた知能、記憶力。
 これらを持ちながら少女に殺害される事は、本来ならばあり得ない。
 あり得るとするならば北岡が言うような事故か、ルルーシュ自身のミスか。
 ジェレミアはつかさのせいではないだろうと理解していたし、既に納得していたと言ってもいい。

 それでも退く事は出来ないのは、彼に誓った忠誠の為。
 ジェレミアがつかさに責任を追及するつもりでいなくとも。
 女性を手に掛ける事自体を快く思っていなくとも。
 この場にいる五ェ門やクーガーといった障害を掻い潜ってつかさを殺す事は不可能だと、分かってはいても。
 復讐を諦める事は、つかさを許す事は、この場で馴れ合う事は。
 ジェレミアには出来なかった。

 マリアンヌ暗殺犯は九年経った今も発見出来ず、復讐を果たせていない。
 その無念と不忠の上では尚更退けない。
 ジェレミアの感傷や感情とは無関係に、ジェレミアはつかさに牙を剥かねばならないのだ。

「ならばこそ。
 我が忠義の為に、柊つかさにはここで消えて貰う」

 北岡は溜息を吐いて肩を竦め、五ェ門はデルフリンガーを鞘に収めて居合の構えを取る。
 言葉による説得は不可能と判断したのだろう。

 ホールという限られたスペースの中で幾ら距離を取ろうと、五ェ門とジェレミアが同時に動けばその長さは一瞬でゼロになる。
 呼吸一つ。
 指先の挙動一つを互いが眼で追い、そして同時に一歩踏み出す――

「ジェレミア卿ッ!!!」
「どうした!?」

 アイゼルの緊迫した声に、ジェレミアは反射的に二歩目で足を止めて振り返った。
 互いに殺意が無いとは言え、相手と剣を抜き合った状態で堂々と隙を見せてしまうのはジェレミアのジェレミアたる所以とも言える。

 振り返ったジェレミアの視界に入ったのは、自身の頭にめがけて飛んできた靴。
 持ち前の動体視力により、それは奈緒子が履いていた靴であると認識する。
――アイゼルの声の意図は注意を促す為か?
――いや、そもそも何故奈緒子が――
「ぽぺっ!」
 余計な事を考えているうちに、普段なら余裕で避けられる速度の靴が顔に命中した。
 そして奈緒子に文句を言おうとした時、異変に気付く。

 五ェ門は隙だらけだったはずのジェレミアに不意打ちをするような事をせず、距離を取ったままだった。
 それだけなら五ェ門に元々戦意はないのだから当然と言えるが、構えまで解いている。
 加えて、周囲の何かがおかしい。

 それまで傍観を努めていたはずのクーガーの姿が見当たらない。

「しまっ――」
 クーガーの姿はジェレミアから見て斜め上の位置にあった。
 奈緒子の靴でジェレミアの視界に死角が出来た隙に、椅子を踏み台にして天井近くまで跳躍したのだ。
 アルターを使っていなくとも速く、そして近い。
 ジェレミアが気付いた時には既に回避不能の状態だった。

 飛び蹴り。

 何の特殊能力も無く放たれたシンプルな攻撃は、クーガーの狙い通りジェレミアの右頬に直撃。
 跳ね飛ばされたジェレミアはホールの壁に叩き付けられ、昏倒する。


「どうして止めないんですか!
 何かあってからでは遅いでしょう!?」

 五ェ門とジェレミアが衝突した直後、アイゼルはクーガーに詰め寄っていた。
 怪我で済めばいい――だがもし怪我で済まなかったらと、焦らずにはいられなかったのだ。
 それでもクーガーは動こうとしない。
「あの二人が本気なら、私はとっくに止めていますよ。
 どっちも子供じゃないんです、じゃれ合いで怪我をするような事は無いでしょう」
「だからって……」
「いずれは止めますよ、このまま続けても二人の体力の無駄です。
 ただ、こういう時は言いたい事を言わせるだけ言わせた方がいい」

 アイゼルはクーガーと向き合いながら、視線だけジェレミア達の方に向けた。
 ジェレミアは激昂している――ように見える。
 しかしつかさに対して本気で殺意を向けているように見えるかと言えば、否だった。
 アイゼルや奈緒子の前で見せていた忠誠心からすれば、それは確かに不自然に思える。
 何故本気で殺意を抱いていないのか、殺意が無いなら何故こうして五ェ門と切り結んでいるのか。
 その理由は出会って数時間経過したアイゼルにも分からないのだから、クーガーにも分からないのだろう。
 だからこそ、言わせるだけ言わせる。
 出会った直後の軽薄さと大きく異なるクーガーの様子に困惑しながら、アイゼルはクーガーの方針に一応納得する事にした。
「奈緒子、手伝いなさい」
 常人離れした動きをする二人を眺めていた奈緒子を捕まえ、事情を説明する。

 ジェレミアの思いの吐露を聞き届ける。
 そしてクーガー、奈緒子、アイゼルの三人でタイミングを合わせて介入し、戦闘を中断させた。


「お疲れ。災難だったな、五ェ門」
「ごめんなさい、五ェ門さん……私のせいで……」
「なに、お互い本気だった訳ではないのだ。
 問題無い」
 一戦終えた五ェ門に、北岡とつかさは声を掛けた。

「全く理解出来ないよ。
 本気でつかさちゃんを殺そうとしてるならともかく、そういう訳でも無いのにここまでするなんてさ」
「いや、拙者はあの男のように仕える主君を持ってはいないが……分からんでもない」
「……私も……」
 不機嫌な声を露わにする北岡に対し五ェ門は否定し、つかさもそれに続いた。
「お人好しの五ェ門はともかく、つかさちゃんも分かるわけ?」
「……私がこんな事を言うのは、ジェレミアさんに失礼かも……。
 でも――」
 つかさは言い辛そうに、言葉を詰まらせる。
 うわずってしまいそうになる声を押し付けて、出来る限り普段通りの声を出した。
「――それぐらいルルーシュ君の事が、……大切だったんだなって、思いました」
「……それだって分からないな、俺は自分が一番大切だし」
 北岡は常に自分を中心に考えている。
 ライダーバトルに参加する理由は自分の永遠の命の為だし、仕事で荒稼ぎするのも自分の快楽の為だ。

「それでも大事な人って、いませんか?」

 つかさに真っ直ぐな眼で尋ねられ、思わず北岡は眼を逸らした。
 常に自分を中心に考えている。
 今もそうだし、これからもそうだろう。
 それなのにつかさの言葉で、不意に秘書の吾郎やOREジャーナルの令子の事を思い出してしまった。
 五ェ門とつかさの姿もまた、脳裏をよぎる。
 自分が一番大切なのに、何故なのか――北岡には分からなかった。

「私、ジェレミアさんが目を覚ましたら、もう一度話してみます。
 今度はちゃんと……謝らなくちゃ」
 北岡が返事をせずにいると、つかさは話題を少しだけ逸らした。
「危ないよ、それにあいつ話なんて聞かないんじゃない?」
「でも、私は……謝りたいです」
 肩を竦める北岡に対し、つかさは譲らなかった。
「お姉ちゃんやゆきちゃんが死んだって聞いて、すごく悲しかった。
 こなちゃんがお姉ちゃんを殺したんだって聞いて……それも悲しかった。
 でも私……それと同じ事を、ルルーシュ君の周りの人達にしちゃったんです」
 つかさは死んでしまった大切な人達、それに今は変わってしまったのだという友人の顔を思い浮かべ、涙ぐむ。
 それでも制服の袖で涙を拭い、北岡と五ェ門に笑顔を見せた。
 「お姉ちゃん」として――この病院の霊安室にいるというかがみに胸を張って会いたいと、つかさは言う。
「だから……謝らなきゃ」
 そこに、放送の後に泣いていた少女の姿は無かった。

「……そっか。
 だったら俺も、あいつに話を聞かせられるように手伝うよ」
「拙者も協力しよう。
 まるで話が通じない相手でもあるまい」
「よーし、そんなら俺も一肌脱ぐぜ、嬢ちゃん」
 北岡、五ェ門、デルフリンガー、それぞれがつかさの決意に応え、つかさは大きく頷いた。

 しかし、外から聴こえた音がその会話を遮る。
 北岡にとって聞き間違えるはずのないその音は、ゾルダの銃撃音だった。



「全く、手間を掛けさせやがってこのバカチンが」
 クーガーは年上への敬意も何も無い態度で腕を組み、倒れたジェレミアを見下ろす。
 痣になった頬以外に外傷は無いが、奈緒子とアイゼルが声を掛けても目を覚ます気配はない。

 主君への忠義か、個人感情か。
 ジェレミアはそのどちらも選ぶ事が出来ないまま形だけの戦いを仕掛け、第三者の介入無しでは止まれなくなった。
 言ってしまえばそれだけの事だ。
 多情を捨て、目標をただ一点のみに決めたひたむきな『馬鹿』――クーガーの弟分や、この地で命を落とした同僚、それにクーガー自身。
 ジェレミアはそれと正反対だったが、クーガーに言わせれば馬鹿である事に変わりはなかった。

「クーガーさん、その……アルターって何なんです?」
 ジェレミアの事はアイゼルに任せたのか、奈緒子が話し掛けてきた。
 クーガーは一瞬、奈緒子のその質問の真意を掴みかねる。
 情報交換の場でアルターという言葉を使った時、それを知っている者はいなかった。
 その為クーガーは一同の前で簡単に説明を行ったのだが、ならば奈緒子は何を訊こうとしているのか。
 恐らく――かがみや詩音はすんなりとアルターという事象を受け入れていたが、奈緒子は二人とは違うのだろう。
 奈緒子のどこか不満げな表情に苦笑しながら、クーガーはアルターについて改めて答える事にした。

 だがその答えは、外の銃声によって途切れる。



 北岡と五ェ門が窓に駆け寄り、ブラインドを上げて見下ろすと――
「ゾルダ……!!」
 想像した通りの光景を目にし、北岡が声を漏らす。
 五ェ門は窓を開け、桟に足を掛けた。
「待て五ェ門、俺も行く!」
「しかし危険だ」
「俺が蒔いた種なんだ……俺があのデッキを取り返す!!」
「……ならば止めん」
 北岡の言葉に笑みを見せた五ェ門は身を翻し、飛び降りる。
「あっ」
 勿論北岡にはそれを真似する事は出来ない。

「アイゼルさん、これを持っていて下さい」
 クーガーがアイゼルにデイパックを投げて寄越した。
 詩音は「返せ」と怒鳴り、クーガーの腕の中で暴れている。
 悟史の安否は定かで無くとも、ゾルダが悟史の「帰りたい」という純粋な願いを踏みにじった事と危険な目に遭わせた事に変わりは無い。
 詩音はゾルダを殺しに行こうとしている――アイゼルはクーガーの意図を理解し、渡されたデイパックを握り締めた。
「分かりました、詩音さんの事はお任せ下さい」
 アイゼルの答えに満足し、クーガーも窓際に向かう。
「皆さんは危険ですからここにいて下さーい。
 なーに、俺が最速で片付けて来ますから御安心を。
 ……奈緒子さん、これがアルターですよ」
 奈緒子の方を見てニッと笑うと、息を大きく吸い込む。
「ラディカル・グッドスピード脚部限定!!」
 隣にあった椅子が光の粒子に変わり、クーガーのつま先から膝までが薄紫の装甲に覆われる。
 そして五ェ門が開けた窓を無視し、わざわざその隣の閉まっていた窓を蹴破って飛び降りた。
「あっ」
 勿論北岡にはこれも真似する事が出来ない。

(ここ四階だぞ……!?
 冗談じゃないよ全く!!)

 目の前のエレベーターを使おうとしたが、万一止まった時の事を考え踏み止まる。
 やむを得ず北岡は廊下を走り、階段でクーガーと五ェ門を追った。


 森を抜けるまでに少々時間を取られながらも、レイ・ラングレンは総合病院へ辿り着く。
 元いた位置からは南に一直線に向かった場所であり、迷う事はなかった。
 そこに人がいる、いないに関わらず穏便に済ませるつもりでいる為、コソコソと隠れる必要はない。
 正面から堂々と入る事にし、入口を探す。

 正面玄関を発見すると同時に、微かに視線を感じた。
 どこからかは分からないが、攻撃を仕掛けられないうちはレイの方も手出しをする予定はない。
 罠を張られている様子も見えず、そのまま入口へ向かう。

「よぉ」

 正面玄関前まで来た時、ダークスーツに身を包み、つばの広い帽子を目深に被った男に声を掛けられた。
 男――次元が立っている場所は玄関脇の柱の陰で、玄関前以外からは死角になる場所だ。
 それでもここまで接近するまでの間、レイに居場所を気付かれなかった事は次元が只者でない事の証明に他ならない。
 足を止め、用意した台詞を紡ぐ。
 殺し合いに乗っていない事を示す言葉を――

「あんただろ、ゾルダのデッキってのを持ってんのは。
 北岡から聞いてるぜ」
「……何の事だ?」

 それを知っているのはレイが最初に接触した、デッキ入りのデイパックの持ち主だけだ。
 つまりその持ち主こそ北岡秀一であり、次元が既に北岡と情報交換を行っている事が分かる。
「とぼけんなって、あんたが北で何をやらかしたかも知ってる。
 大人しくデッキを出して貰おうか」
 次元が銃を抜き、レイに銃口を向ける。
 それは常人の目ではとても追えない早さだった。
 そして抜くのが速いだけでなく、狙いは真っ直ぐにレイの眉間に合わせられている。
 素直にデッキを差し出したところで逃がすつもりは無いのだろう。
 殺し合いに乗っている人間を排除する事に微塵の躊躇いも無い、プロの目だ。
 どうやら穏便に済ませる事は出来そうにない。

 撃ち込まれた銃弾を、横に跳ぶ事でかわす。
 逃げる事は難しい――ならば、この場で殺すだけだ。
 鉈による応戦で足りる相手でないと認識し、デッキからカードを一枚装填して地面の水溜まりに掲げる。
「させるか!!」
 次元は更に撃つが、弾はレイに届かない。
 水溜まりから現れた鋼の巨人――バッファロー型のモンスター、マグナギガに阻まれたからだ。

 レイがまずマグナギガを呼んだのは攻撃の為ではなく、変身するまでの盾にする為だ。
 次元が回り込むよりも早くデッキを掲げ、出現したベルトのバックルにそれを差し込む。

 緑色のスーツに、戦車をイメージさせる装甲を纏った仮面ライダー。
 次元に代わり、今度はゾルダに変身したレイがマグナバイザーを構え、攻勢に回る。


「次元!」
 四階から飛び降りて着地した五ェ門は次元に駆け寄る。
「悪ぃな、変身させちまった」
「防げなかったものは仕方あるまい。
 それにこの先カードを出させなければ、脅威はあの銃だけだ」
 ゾルダが遠距離戦を得意とするライダーである事、そしてカードの内容は北岡から聞いている。
 カードにさえ気を配っていれば、ゾルダの武器が増える事はない。

 そして五ェ門に遅れてクーガーが着地した。
「待たせたな!!
 ここは俺が最速で――……?」
 だが、顔を上げたクーガーはサングラスを押し上げて目を擦る。
 視力には自信があるが、見間違いにも思えたのだ。
 病院を囲む塀の一カ所から見覚えのある、ピンと立った青い髪が揺れていた。
 クーガーはそれが目の錯覚でない事を確かめると地面を蹴って高く跳び、その塀の上に降り立つ。

「見ぃ付けましたよこなたさぁ―――――――――――ん!!!!」

 泉こなたが塀に手を掛けて身体を持ち上げ、この戦いを観戦していたのだ。

「うっ、あ、あれー、どうして見付かっちゃったのかな~?
 もしかして私を捜すセンサーでも付いてるとか?」
 おどけてみせるが、それでクーガーが見逃す訳がない。
 こなたは迷わず背を向け、逃走を図る。
「逃がしませんよぉ!!」
「おい、待て!!」
 止めようとする次元の声を無視して、クーガーはこなたの背を追った。

 他の参加者との接触を求めたこなたは総合病院を訪れ、突然始まった銃撃戦を塀の影から見学していた。
 ゾルダの姿を見て「ガンダムみたいだ」と興奮したり、次元の銃の扱いに惚れぼれしたりと充実した時間を過ごした。
 そんな普段通りの緩い調子でいたのだが、こなたは教会で犯したのと同じ失敗をする。
 特徴的な髪を隠していなかった――その為に発見され、こうしてクーガーに追われる事になってしまったのだ。
 クーガーに勝てるだけの装備はまだ手に入っていない。
 こなたは困り果てながら、市街を突っ走る。


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099:どんな辛さも流れ星 ─the last job─ 柊つかさ 100:云えない言葉
石川五ェ門
北岡秀一
091:次元大介の憂鬱 次元大介
085:RIP ジェレミア・ゴットバルト
山田奈緒子
アイゼル・ワイマール
088:Avenger レイ・ラングレン
092:adamant faith 園崎詩音
ストレイト・クーガー
086:がるぐる! 泉こなた



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