オレンジ焦燥曲

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オレンジ焦燥曲  ◆4Er6hgpSa6



――どうしてこうなった?

深碧の髪の仮面の男、ジェレミア・ゴットバルトは車の運転を続けながら考える。

「それで、先程おっしゃっていたサクラダイトとは?」

問いの主はつい先刻この車に同乗することになった女性、アイゼル・ワイマール
目を輝かせて後部座席から身を乗り出してくる姿は少女のようだが、年齢は22と言っていたか。

「高温高圧の極限状況下でも、電気抵抗がほぼゼロの超電圧状態を維持する鉱物資源だ。
 その特性故に非常に大きな電気を蓄積でき、また発熱が少ないので冷却装置の簡略化が可能になる。
 よって蓄電池としても回路の素材としても極めて優秀な物質と言え――
 ……奈緒子、興味がない話題だからといって寝るんじゃない」
「ニャッ」

奇妙な声と共に目を覚ましたのは黒髪長髪の地味な女性。山田奈緒子は助手席で舟を漕いでいた。
一度殺されかけているというのにうたた寝とは、ジェレミアからすれば信じられない図太さだ。

「話が難しくて。要約すると?」
「……回路や電池に使うと便利だ」
「じゃあ携帯電話とかにも使えるんですか?」
「うむ」
「ケータイデンワ?」
「む……まず電話というのは……」

ジェレミアは矢継ぎ早に出される質問に順番に答えながら考える。
緊張感のある情報交換の場だったはずの車内が、今や妙に毒気を抜かれる情報提供の場となっている。

――どうしてこうなった?

◇◇◇◇◇

車がH-6の橋に差しかかった頃、助手席に座った奈緒子はジェレミアに話しかけた。
白髪の男に襲われて以降ほとんど会話はなく、いい加減重苦しい空気に耐えかねたのだ。

「何でさっき、私を助けたんです?」

彼は僅かに身じろぐが、返答はない。
奈緒子は言葉を続ける。

「足手まといになったら見捨てるって言ってましたよね。
 実際その通りの状況になって、しかも私はあなたを囮にして逃げようとしたのに、あなたは私を助けた。
 あなた自身にとっても余裕のある状況とは思えませんでしたけど、何でですか?」

まず助けてもらった礼を言うべきだというのに、何だか責めるような口調になってしまった。
そのことを咎められるかと思ったが、彼は怒るどころか居心地悪そうにするばかりだ。

「……そ、それは……その……あれだ。偶然だ。
 あの男に何とか反撃しようと思っていたら、タイミングよくそこに貴女がいたのだ。
 べ、別に助けようと思って助けたわけではないからな」
「そうですか」
「そ……そうとも」
「……」
「……うむ」

ツンデレぶっても嘘を吐いているのはバレバレである。
その自覚があったのか彼は言い訳がましくぽつりと漏らした。

「……ああは言ったが……自衛手段を持たない一般人を、そう簡単に見捨てるわけにはいかんだろう」
「……」

――やっぱりこの人、いい人だ。

趣味の悪い派手な仮面とか格好とか忠義とかデイパックの中身のことはひとまず置いておくとして。
こんな殺し合いに放り込まれたことは不運以外の何物でもないが、最初に出会ったのがジェレミアだったことは不幸中の幸いと言えた。
何だかんだでこちらの心配をしてくれているし、意外と表情豊かで分かりやすい。
生真面目な性格のようだし、マジックを見せたら面白い反応をしてくれそうだな、と思う。

奈緒子が改めて礼を言おうとした時、車が停車した。

怪訝に思い前方に目をやると人影があったが、ヘッドライトが届かない距離で背格好は分からない。
どうしますか、と聞こうとした時には既にジェレミアはドアを開けて外に出ていた。

「さっきみたいに危ない人かも知れませんよ?」
「あの男のような危険人物なら、車に乗ったまま対処するのはむしろ危険だ。
 危険人物でないなら、こんな状況下で無視して行くのは気が引ける。それに今は情報も欲しい。
 ……遠目で見ていて危険だと判断したら、私のデイパックを持って逃げて構わんぞ」
「え、ちょ、ジェレミアさ――」

早口の返答と共に、小気味いい音を立てて運転席のドアが閉まる。

(いい人なんだけど……何だかなぁ)

とりあえず彼の好意に甘えて、助手席から手を伸ばし後部座席に置いたままになっていたデイパックを手繰り寄せた。助手席のドアも半開きにしておいて、地面に小枝が落ちていないことを確認する。
助けられた矢先にまた逃げるというのはあんまりだと思うが、仕方ない。命は大事なのだ。

デイパックを抱えて様子を見ていると、幸い何事もなく話は済んだらしく十分ほどで彼は戻ってきた。後ろに女性を連れているのが見える。

(一緒に来ることになったのか……な――?)

奈緒子はジェレミアの後ろにいる女性――アイゼルの姿を間近で見て、目を丸くした。
茶色く長い髪に、地味な奈緒子のものとは対照的に際立った淡紅色の服、チョーカー、髪飾り。
その結果二人の最初の会話は

「……劇団の、人?」
「……違うわ」

奈緒子にとっては何となく覚えのある、アイゼルにとっては不本意極まりないものになった。

◇◇◇◇◇

友達を得て少し心に余裕ができてもアイゼルの指針は定まらないままで、橋の下でこの殺し合いが勝手に終わるのを待つことさえ考えていた。
そのアイゼルが橋を渡り東に向かうことを選んだのは、その方角から爆音が響き、火の手が上がるのが見えたからだ。
この場で爆発が起きたということは、本格的に殺し合っている者たちがいるということ。
それでも向かうのは懐かしさからか、好奇心からか。とにかくじっとしてはいられなかった。

次に誰かに会ったらどうしようか。
うにと一緒にここから脱出するということは……その誰かを殺さなければいけないということ?

結論を出せないまましばらく歩いていると、後方からの地鳴りのような音が響き思わず身構えた。
まず目に入ったのは、眩い光を放つ二つの目。全体像は……馬に引かれることなく自ら走る馬車があったら、こんな形かも知れない。スピードも馬車と同じかそれ以上で、こちらに向かってきていた。
アイゼルの十メートルほど手前でそれは止まる。

そこから降り立った人物を見て、やはりそれが乗り物なのだと分かった。そしてその人物は迷いなくこちらに歩いてくる。
ヘッドライトが逆光となり顔立ちは判別できないが、アイゼルよりも頭一つ分以上は背の高い男性。
アイゼルは目線を男に向けたままデイパックに手を入れ、剣を取り出す。

「……止まりなさい」

精一杯の虚勢と共にそう言うと男はあっさり歩みを止めた。
だがそれは決して怯えによるものではなく、むしろ余裕あってのもののようだ。
男は優雅に一礼し、名乗る。

「私はジェレミア・ゴットバルト。さる方の騎士を務めている。今は人探しの途中だ。
 ……貴女もこの殺し合いに巻き込まれた参加者とお見受けする」
「……そう。突然ここに連れて来られたわ」

剣を向けられても焦った様子はなく、ジェレミアと名乗る男は淡々と言葉を紡いでいく。
多分見えているのだろう。いくら気丈に振舞って見せていても人と殺し合うだけの覚悟は足りず……剣を握る手が震えているのが。

「こちらに危害を加える意思はないし、そもそも殺し合いなどというものに加わる気もない。
 できれば互いの身を守るためにも、他の参加者と協力し合いたいと思っている」
「……?でも、殺し合わないと……首輪が」
「首輪?……ああ。
 私は殺し合いに参加した覚えはないが、今のところ首輪に異常は見られないな」

男の返答に、彼女は少し考える。
確かにこの人物から、敵意や殺意といった意思は読み取れなかった。
それに殺し合わなければ首輪が爆発するのなら、あの白髪の男を殺さなかった時点で爆発していてもおかしくないはずだ。戦わないことが首輪の爆発に直結するわけではないのかも知れない。
だが相手が信用に足るかどうかはまだ分からないのだ。一瞬下ろしそうになった剣を構え直す。

「信用できないというのは分かる。私も貴女と同じ立場なら信用しないかも知れん。
 協力できないと言うなら無理強いする気もない、ここで失礼しよう。
 ……ただ今後も一人で行動するつもりなら、白髪の男に気を付けた方がいい」
「白髪の……?会ったんですか!?いつ!?」

身を翻し引き返そうとしていた男を引き止める。
突然声を荒げたので男は驚いているようだったが、それを気にしている余裕はない。
もし自分が遭遇したのよりも後だとしたら、

「……その様子では、既に接触しているようだな。
 私が会ったのはつい先程だ。何とか逃げられたが……」

『逃げられた』……つまり、あの男に襲われたということだ。

――……私のせいだ。

自分があの時躊躇ったために、あの人物は他の参加者を襲った。
ここは戦いの場なのだから、その結果は当然のことだ。
全身から血の気が引いて、つい剣を下ろしてしまう。

「……私も、その人に襲われたわ。
 その時……拘束することも殺すこともできる機会があったのに、私は何もしないで逃げた」
「……そうか」

男はアイゼルを責めもしなければフォローもせず、ただ頷く。

「……」

少しの間逡巡するが、やがて彼女は剣をデイパックにしまって男に歩み寄り、相手の目を見据えて名乗る。

「私はアイゼル・ワイマール。
 ……協力させて戴きますわ」
「アイゼルか。……よろしく頼む」

彼は片方だけの目を細め、口の端を少しだけ持ち上げて手を差し伸べてくる。
信用するには早急だったかも知れない。
それでも、自分の過失で他人の身を危険に晒しておきながら、何の責任も負わずにのうのうと生きる自分は許せない。
そしてそれ以上に……この場所に来て初めて会話できる相手に出会えたことが、純粋に嬉しかったのかも知れない。

結局アイゼルは、その手を振り払うことができなかった。

◇◇◇◇◇

アイゼルとこの場所に連れて来られてからの経緯を簡単に説明し合うと、彼女は同行を求めてきた。今後何かあった時には協力を惜しまないという。
あの白髪の男をやり過ごしたのだから奈緒子と違って自衛手段ぐらいは持っているだろうし、そもそもこんな所に女性を一人放置していくわけにはいかないと思っていたのだから、ジェレミアにとっては好都合な申し出と言えた。

問題はその先、車内での情報交換の最中にアイゼルが車の仕組みに興味を持ったことから始まった。

彼女の住む場所……世界と言った方がいいのかも知れないが、そこには車もアスファルトも無かったらしい。
ジェレミアの知る車はサクラダイトを使う――つまり電気で動くのだが、奈緒子が言うにはこの車はガソリンで動いているそうだ。よってジェレミアにもこの車の動く仕組みは分からない。
彼女にそう告げると、彼女は電気についての詳しい説明を求めてきたのだ。
適当な説明であしらっても良かったのだが、それでは食い下がってきそうな雰囲気だったため。
それに事前知識もなしに口頭で理解できる内容ではないので途中で諦めてくれるだろうと、彼女の理解力と柔軟性を甘く見ていたため。
その二点から、彼は言われた通り詳しく説明した。ジェレミア自身も専門ではないので、あくまで学校などで学ぶ範囲でだが。
そして彼は早々に後悔することになった。

「つまり電源は静電エネルギーを供給することによって電子を電位差に逆らって移動させる働きをし、
 電子は電源の負極から出発して回路内を正電荷の濃い方に進んで電源の正極に到着するのですね。
 分かりましたわ。それで電圧についてですが――」

以下問答の繰り返し。ジェレミアも負けず嫌いな部分があり、後になってから「分からない」とも言えず、半ば意地になって説明を続けることになってしまったのだ。
お陰で奈緒子は話題に置いてけぼり、時間を食ったので橋の終着点は間近である。「どうしてこうなった」という問いに明確な回答を付けるなら、「ジェレミアの判断ミス」と言って差し支えなかった。
努力の甲斐あって満足してもらえたようだし、初めは警戒していた彼女が打ち解けてくれたのは結構なことだが……無駄な時間と体力を使った気がしてならない。

だが今は他に考えなければならないことはいくらでもあるのだと、ジェレミアは気を取り直した。

まず一つはルルーシュの現在位置だ。
あの爆発を見た上で、彼はどちらに向かうのか。
ジェレミアが贔屓目に見ても少々残念な彼の身体能力を考慮すれば、危険な地域に敢えて足を踏み入れることはない。しかし彼がギアスによって配下を増やそうと考えているなら話は別だ。
合流が遅れればそれだけ彼の身が危険に晒される。慎重に判断せねばならない。

一つは三者の持つ常識レベルの情報がそれぞれ食い違っていること。
奈緒子は「ブリタニアなんて国は知らない」「日本は占領などされていない」などと言い出すし、アイゼルの話に至っては……食い違うと言うより、異世界と言った方がふさわしいかも知れない。二人とも嘘を吐いているように見えないというのが尚更厄介だ。
異世界だの並行世界だの、小説や映画でもあるまいし……と普段なら鼻で笑っているところだが、そうもいかないらしい。
理系の話題のお陰で中断してしまったが、これも放って置いていい問題ではない。
特にアイゼルに関しては、改めて詳細を聞いておいた方がいいだろう。

一つは、……V.V.のこと。

ジェレミアは海底に沈められ、V.V.率いる嚮団に救出されてから一年はV.V.の下にいた。
その後ルルーシュを主君と定め離反し、その命に従って嚮団殲滅にも参加したのだが……その際死んだものと思っていた彼が、何故このような殺し合いを始めたのか。

そしてそれ以上に気に掛かるのは、最後に相対した時の会話だ。

「ジェレミア。君はゼロを恨んでいたよね?」
「然り。これで皇族への忠義を果たせなくなったと考えたからな。
 されど、仕えるべき主がゼロであったなら。マリアンヌ様の為にも!」
「……お前まで、その名を口にするか!!」

シャルル皇帝の実兄であるV.V.から見れば、マリアンヌは数多くいる皇妃のうちの一人に過ぎないはずだ。
あの豹変ぶりは、何だったのか。
V.V.とマリアンヌの間に確執……どころか関係があったことすら、ジェレミアには聞かされていなかった。

――知っているのだろうか。マリアンヌ様が暗殺されたあの日の真相を。
――もしくは何らかの形で関わって……?

ハンドルを握る手に力が篭る。

――V.V.には借りがある。情もある。引け目もある。されど私はV.V.を裏切った身、今更躊躇いはない。
――もしマリアンヌ様の死に関わっているのだとしたら。例えV.V.が不死であろうと、その時はこの手で……。

「ジェレミアさん、お腹空いたんですけどデイパックの中身もらっていいですか?
 あとアイゼルさんも何か持ってたりは……」
「私はうにぐらいしか。でもこの子はホムンクルスだし……」
「うに!?」

――ええい、何の話をしているのだ!集中できん!!

橋の終着点近く、緊張感の薄い車内で彼の焦燥感は募るばかりだった。


【一日目早朝/H-6 橋の上】

【アイゼル・ワイマール@ヴィオラートのアトリエ】
[装備]:無限刃@るろうに剣心
[所持品]:支給品一式、未確認支給品0~2個、うに(現地調達)
[状態]:軽傷
[思考・行動]
1:うに、ジェレミア、奈緒子と一緒に脱出!
2:ジェレミアと奈緒子に協力を惜しまない。
3:次に白髪の男(雪代縁)に会うことがあったら見逃さない。
[備考]
※自分たちが連れてこられた技術にヘルミーナから聞かされた竜の砂時計と同種のものが使われていると考えています。
※うにのことをホムンクルスだと思っていますが、もちろん唯のウニです。
※ジェレミアの説明で、電気や電化製品について一定の理解を得ました。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しています。
※ジェレミアと奈緒子の知り合いに関する情報を聞きました。

【ジェレミア・ゴットバルト@コードギアス 反逆のルルーシュ】
[装備]ミニクーパー@ルパン三世
[所持品]支給品一式、咲世子の煙球×3@コードギアス 反逆のルルーシュ、こなたのスク水@らき☆すた
[状態]右半身に中ダメージ、疲労(中)、左腕の剣が折られたため使用不能
[思考・行動]
1:ルルーシュを探し、護衛する。
2:ルルーシュに危険が及ばぬよう、危険分子は粛清する。
3:奈緒子とアイゼルにしばらく同行。足手まといになる場合は切り捨て……る……?
4:V.V.に九年前の事件について聞く。返答によっては……。
5:アイゼルが住んでいた世界について聞く。
[備考]
参戦時期はR2、18話直前から。ルルーシュの配下になっている時期です。
※奈緒子とアイゼルに知り合いについて簡単に説明しました。V.V.については話していません。
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しています。
※ギアス能力以外の特殊能力の存在を疑っています。
※モール内で食糧を補充していたようです。他にも何かあるかも知れません。

【山田奈緒子@TRICK】
[装備]なし
[所持品]なし
[状態]健康
[思考・行動]
1:とりあえず上田を探す。
2:ジェレミアとアイゼルにしばらく同行。危なくなったら逃げる。
3:もう危険な目に遭いたくない。
4:デイパックの仕組みについては……いつか考えたい。
5:お腹空いた。うに?
6:ジェレミアにお礼を言いそびれた。……まあいいか。
[備考]
※ジェレミアとアイゼルに知り合いについて簡単に説明しました。
※ジェレミアを(色々な意味で)凄く変な人物と認識しています。でも多分、いい人?
※白髪の男(雪代縁)を危険人物と認識しています。


時系列順で読む

Back:接触 Next:危険地帯

投下順で読む

Back:接触 Next:危険地帯

051:LOST COLORS ジェレミア・ゴットバルト 085:RIP
山田奈緒子
039:うには美味いな、美味しいな アイゼル・ワイマール



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