男なら、ベストを尽くして強くなれ

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男なら、ベストを尽くして強くなれ  ◆gry038wOvE



「あなたは知ってる……? 英雄になる方法」

 水族館からしばらく歩いた場所、女の子を連れて立っていた青年の突然の問いに、上田は戸惑った。青年の雰囲気はどことなく暗い。今までに見てきたインチキ霊能力者やその協力者のように、どこか陰を帯びている。
 隣に添えてる少女と比べた身長の落差が目立つ。さすがに親子には見えないが、兄妹には見えなくも無い。

「な……なんだ、君は突然。名も名乗らずに失礼な」

 その暗い雰囲気を警戒し、息を呑む上田。

「ほら……東條さん、いきなりそんなことを訊くなんて失礼ですわよ。お二人も戸惑っているじゃありませんか」

 東條と呼ばれた青年が連れている少女──沙都子は呆れた風に言う。そのお嬢さま的な喋り方には、上田も僅かに「萌え」を感じてしまう。「相手は小学生だ」と念じながら、上田は汗を食い止めた。

「で、君たちは何なんだ?」
「怪しい者じゃありませんわ。私は北条沙都子、この人は東條悟史さんですわ」
東條悟……」
「失礼。間違えましたわ」

 思わず、兄の名前を口に出してしまって沙都子は恥ずかしそうに頬を染めた。関係ない人を兄と間違えるのはここに来てから二度目になってしまう。

「怪しい者じゃない……つまり、君たちは殺し合いに乗っているわけではないと?」
「……そうですわ」

 沙都子としては、東條が殺し合いに乗っているか乗っていないかを考えると微妙な意見しか出せないのだが、「今のところは」などと付け加えて不信を買うのは避けたい。

「だが、あまり不用意に信用することはできない。私はこれでも空手において素晴らしい腕前を持っている。仮に君たちが襲ってきたとして、私だけなら何とか撃退することができるが……」

 上田の背中の陰から、沙都子とそう変わらない年齢の少女が顔を出した。

「今は生憎、私だけじゃなく、見ての通りの小さな少女が一緒だ。この子が人質にとられたとき、優しいこの私はどうすることもできない」

 かなみの時と同じく、上田は沙都子のような少女相手にも僅かに怯えている。必死に隠そうとしているものの、声には若干の震えが感じられた。そんなときでも自分の力自慢をする辺りが上田らしい。

「……僕たちのこと、信用してくれないの?」
「何もそういってるわけじゃない。何か私を信用させることをしてもらえればそれでいい」
「……どうすれば信用してくれるのかな?」
「……そうだな……まずは武器の類を渡してもらおう。まずは、そのバッグだ」
「奪ったりしないよね?」
「大丈夫。心配なら彼女に持っていてもらおう」

 上田はかなみを指差した。

「でも……あんまり渡せないものもあるから」

 小さい声で呟く東條を見て、上田は突然、声を大きくして笑った。笑いやんだ後の顔もどこかにやけているように見える。

「いかがわしい本でも入ってるのか。安心したまえ、私が持っていてあげよう」
「そうじゃなくて……まあ、見てもわからないだろうから見せるけど」

 東條がデイパックからタイガのカードデッキを取り出す。

「君……それは……」
「これ、大事なものだから持ってていいかな?」

 上田は驚いて口を開けたまま、無言でインペラーのカードデッキを取り出す。東條がそれを見て驚愕した。──それは、自分を助けてくれた恩人・佐野満が持っていたはずのカードデッキだ。
 そして、佐野は東條の裏切りと浅倉の襲撃で手に入れることの出来なかった幸せを嘆きながら死んだ。

「なんで……あなたがそれを?」
「私のバッグの中にはこれが入ってた。君のとはデザインが違うが、これは、変身ができるという何とも非科学的な道具であったはずだが」

 やはり思い浮かぶのは現実か幻想かわからない鎧の騎士である。

「非科学的なんかじゃないよ。これは神崎士郎が作り出した科学の結晶なんだ。……その後、香川先生がオルタナティブのデッキを作ったけど」
「神崎士郎……? 聞かない名前だな……これが仮に本物だとすれば、ノーベル賞ものの発明なんだが」
「ライダーじゃないから、わからないんだね。……神崎士郎には、ノーベル賞なんかじゃない──もっと違う目的があったんだ」
「……? 違う目的? これが仮に本物だとして、なぜノーベル賞を狙わないんだ? そんな馬鹿な科学者がこの世に……」
「そうだね。神崎士郎は馬鹿かもしれない。大切な妹のために、このカードデッキを使って、ライダー同士を殺し合わせていたんだ」

 上田、沙都子、かなみの表情と背筋が凍った。殺し合い──今自分たちが置かれている状況と似ているかもしれない。東條の奇妙な落ち着き方は、慣れたからなのだろうか。
 それと、偉大な発明を殺し合いのために使ったという神崎士郎という男。そのイメージは三人の中で狂気に包まれていた。大切な人のために他者を犠牲にする──それはある意味人間的で、恐ろしかった。

「龍騎、ナイト、ゾルダ、王蛇、シザース、ライア、ガイ、インペラー、タイガ、オーディン……本当なら十三人いるみたいだけど、僕が知ってるのはこの十人。
 それから、香川教授が発明した”オルタナティブ”とオルタナティブ・ゼロ。……僕と香川教授は”英雄”になろうとした──」

 東條と面識があるのは、龍騎=城戸真司、ナイト=秋山蓮、ゾルダ=北岡秀一、王蛇=浅倉威、インペラー=佐野満、オーディンのみである。だが、シザース、ライア、ガイの死は神崎から聞いていた。

「君は英雄になれたのか……?」
「……わからない」

 東條の答え方は辛そうだった。「香川が英雄になれたのか?」と訊かれれば、迷わずに首肯することができたが、自分が英雄であったのかは謎のままだ。

「不思議……アルターでもないのに、特殊な力を得ることが出来るんだ……」

 黙っていたかなみが口を開いた。

「君はさっきもそんなことを言ってたな。……まあ、その話は後だ。今は東條君の話を聞いておこう」

 上田は研究者としての興味で東條の話を優先した。かなみもそちらを聞きたかったのか、東條の方を見た。

「で、君はその戦いの中でどうしたんだ?」
「僕は……最初は神崎の妹を殺して殺し合いを止めようとした……」
「いけませんわ! いくらそいつが悪いヤツでも、妹さんには関係ありませんもの! それに、神崎の大事な家族ですのよ! いなくなることが……どんなに辛いことか……」

 突然、沙都子が憤怒した。

「……でも、神崎の妹が死ねば殺し合いは終わるんだよ? 神崎優衣一人の犠牲で、ライダー全員が救われる。それに、ミラーモンスターに狙われている人々も救われて、人が死ななくて済むんだ。
 ……多くの犠牲を起こさないためには、少数の犠牲は厭わない……それが香川先生の考え方だった」
「そういう問題じゃありませんの! たった一人でも……神崎士郎にとっては何よりも大切な人であるかもしれませんわ! 全てを救う方が英雄的ではありませんの!?」

 かなみと上田が、その口論を黙って見守る。どちらが正しいともいえない、辛い状況だ。だからどちらに加勢することもできない。

「……でも、全員救うなんて、香川先生でも無理だったから……」
「そうやって諦めるからうまくいかないんじゃないんでして!? 殺し合いなんて止まる……そう信じれば奇跡は起こりますの!」
「──それが、本当に英雄的なのかな?」

 どこからか迫力のある声が聞こえた。沙都子は周囲を見回した。そして、東條がその声の主であることに気がついた。それは東條の物静かそうな印象を大きく逆転させるような声であった。
 ここでの返答が、東條の行動方針を決めることになるだろう。そう悟った。
 あまり殺人者の側には立ってほしくない。それは単純に、自分の命が危うくなるからだ。

「……そんなの。我々の知ったことじゃない」

 沙都子が返答する前に、上田が心臓をヒヤッとさせる返答をしてしまった。

「いいか? 一体何が英雄的なのか……そんなの決まっていない。決めているのは自分自身だ。所詮は英雄なんて自己満足だ。私にしてみればヘラクレスもアーサー王も空想上の人物でしかない。
 しかし、時として本当に英雄的な事をする者がいる。……たとえば、車に轢かれそうな親子を助けて死んだ者がいたとする。それを身を挺して庇った者を、私は英雄と呼ぼう」

 東條は口を大きく開けた。そして、心底嬉しそうに笑った。
 自分は彼の想定する英雄と同じことをしていたのだ。だから、自分はこの人間にとって英雄だ。この男なら、自分を好きになってくれる。

「じゃあ、僕は英雄なんだ……」
「……は?」
「だって、僕はそれと同じことをしたんだ。車に轢かれそうな親子を助けて、死んだ」
「……ハッ。バカなことを。死んだ人間が生き返る筈が無い。カードデッキと殺し合いについてはとりあえず認めるが、死者蘇生なんて信じられない。バカは休み休み言いたまえ」

 その呆れたような、半笑いの物言いに、東條は裏切られた。

「何かと思えば、君もインチキ霊能力者たちと同じか……私はこの目で見たことしか信じない。それとも、ただの冗談か?」
「それは……本当のはずだけど。……そうだ、城戸君に聞けば、ちゃんとした答えが返ってくるかも……」
「城戸君……か、そいつも君の仲間か?」
「違うけど……城戸君はライダーバトルを止めようとしてて、神崎優衣を殺すこともしなかったから……半分、僕の仲間かも」
「……私の客観的な考えでは、城戸君の行動の方が英雄的だ」
「……そう……思うんだ……」

 東條は寂しそうに言った。自分は香川教授の意見に合わせたのだから、自分の意見が英雄的でなかったことは、香川教授が英雄的でなかったことに直結するのだ。
 次第に怒りがこみ上げてきた東條の前に、上田が口を開く。

「……だが、東條君。君も殺し合いを止めようと自分なりに頑張っていたなら、……それは英雄的なことかもしれない」
「本当にそう思ってるの……?」
「それが君にとって、最善の手段だったんだろう? 君はベストを尽くした!! ハッハッハッ。私にしてみれば、ベストを尽くす人間こそが英雄だ」
「ベストを……尽くす」
「その通りだ。そういえばこちらの自己紹介がまだだったが……私は実は、全国で二千部ほど売れた『なぜベストを尽くさないのか』の作者で有名な日本科学技術大学の上田次郎教授だ。ハッハッハッ……」
「……一応、大学の教授なんだ……でも、香川先生とは何か雰囲気が違うかな」

 同じ大学教授にしても、香川のような冷静さが欠けている気がする。というか、上田という人物が発言するたびに東條の中で「変人」の度合いが高まっている。

「いいか? 困った時にはこう念じるんだ。『なぜベストを尽くさないのか?』……そう自分に念じ続けろ!! 道は開かれる!! 勇気がみなぎってくるはずだ!!」
「なぜ……ベストを尽くさないのか……」
「そうだ!! そして、ベストを尽くせ!! 前と同じように殺し合いを止めることにベストを尽くすんだ!! Why not the best!!」

 ムキになっている上田を、かなみと沙都子は冷ややかな目で見続けた。

「叫んでみろ!! 東條君!!」
「なぜベストを尽くさないのか!!」
「声が小さい!! 行け!! なぜベストを尽くさないのか!!!」
「……なぜベストを尽くさないのか!!!」
「もう一度だ!!」
「なぜベストを尽くさないのか!!!!」

(これで僕は英雄になれるんだ……)

 しばらく、それを冷ややかな視線で見届けた後、かなみは無視して沙都子に話しかける。年齢が近い分、他の人に話しかけるよりは話しやすい。

「ねえ、沙都子ちゃん……」
「……何ですの?」
「私の自己紹介、まだだったよね。私は由詑かなみ。よろしくね」
「いえいえ、こちらこそよろしくお願いしますわ」

 沙都子は軽く礼をした。あまり深く下げるのも変なので、本当に軽くだ。

「沙都子ちゃん、私この殺し合いの参加者の中に知り合いがいたんだけど……沙都子ちゃんにはいた?」
「え……ええ!! にーにー……お兄様と友達が」

 優雅に振舞うため、言いかけた愛称を訂正する沙都子。

「お兄さんがいるんだ……。私、カズ君と会うまでずっと独りぼっちだったから……」
「そうでしたの……。でも、私も変わりませんわ。両親が事故、お兄様は行方不明だったんですもの。だけど、寂しくなんかありませんわ。
 梨花がいる、みんながいる、お兄様もきっと帰ってくる……実は、かなみさんの声を聞いたとき、少し梨花と間違えそうになりましたわ」
「きっと……梨花っていう人がいないのが少し寂しいんだよ」
「そうかも、しれませんの……でも私がちゃんとしなければ、にーにー……お兄様は帰ってこない。こんな風に、神様がお兄様に会えるチャンスをくれたというのに、私が甘えていては……きっとお兄様には会えませんの」

 沙都子はそっとうつむいた。地面には大して植物も生えていないし、小動物も虫もいない。つまらない光景だった。

「沙都子ちゃん……」

 やはり、声だけを聞くと梨花そのものであった。喋り方の違いもあるが、声はまるで梨花に似通っている。

「私が甘えているから、にーにー……お兄様はどこかへ行ってしまった。だから、私が頑張らなくてはお兄様に会えませんの!!」
「……じゃあ、沙都子ちゃんのお兄さんを捜しましょう!! カズ君はきっと平気だから!!」
「……そんな……にーにーに会うのは、一人前になってから……」
「でも、お兄さんだってきっと沙都子ちゃんに会いたがってるよ」
「そんなはず……だって、私のせいでにーにー……お兄様は……」
「にーにー、でいいと思うよ」
「にーにーは……私のせいで、おばさんに酷い虐待を受けましたの! 全部……私のせい……私がにーにーに甘えてばっかりだったから、にーにーは私を庇って……もっと酷い目に……」

 兄を語る沙都子の目は泣いていた。思い出すだけで悲しくなっていく。
 会いたい……けど、会いたくない。こんな自分を、兄は冷ややかな目で見るんじゃないだろうかという恐怖がある。

「にーにーはきっと……私を庇いきれなくなって……」
「沙都子ちゃん……お兄さんはきっと、沙都子ちゃんの笑顔が見たかったんじゃないのかな? だから、自分が犠牲になって沙都子ちゃんの笑顔を守ろうとした……」
「でも……それなら、どうしてにーにーはどこかへ行ってしまったんですの?」
「わからない……。けど、お兄さんにもきっと事情があったんだよ。沙都子ちゃんのせいじゃないと思うな……きっとお兄さんは今も思ってるよ。『沙都子ちゃんの笑顔がある世界に帰りたい』って……。だから、お兄さんに笑顔を見せに行こう」

 かなみはどこかで、悟史の心を感じていたのかもしれない。なぜか、その言葉は確信に満ちていた。少なくとも、諭すための嘘、という感じではなかった。

「なぜベストを尽くさないのか!!!!!!!!」

 しかし、会話は中断され、かなみと沙都子は、すぐに上田と東條を止めにかかった。

【一日目黎明/G−5 森】
【北条沙都子@ひぐらしのなく頃に(ゲーム)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、ランダム支給品(確認済み)(1〜3)
[状態]健康
[思考・行動]
1:東條、かなみ、上田と共に行動し、悟史を捜す。
2:仲間達と一緒にこのゲームを脱出する
※龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。

【東條悟@仮面ライダー龍騎(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、タイガのデッキ@仮面ライダー龍騎、ランダム支給品(確認済み)(0〜1)
[状態]健康
[思考・行動]
1:沙都子、上田、かなみと共に行動し、殺し合いを止めることにベストを尽くして英雄になる。
2:城戸が英雄か……。
※TV本編死亡後よりの参戦です
※まだかなみの名前を聞いてません。

【上田次郎@TRICK(実写)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、富竹のポラロイド@ひぐらしのなく頃に、インペラーのカードデッキ@仮面ライダー龍騎
[状態]額部に軽い裂傷(処置済み)
[思考・行動]
1:ベストを尽くす
2:かなみと共にカズマの捜索
3:山田は…まぁ、どうでもいい
4:「ベストを尽くすこと」について東條に教える。
※ 龍騎のライダーバトルについてだいたい知りました。カードデッキが殺し合いの道具であったことについても知りましたが、構造などに興味はあるかもしれません。
※ 東條が一度死んだことを信用してません。

【由詑かなみ@スクライド(アニメ)】
[装備]無し
[支給品]支給品一式、ランダムアイテム(1〜3確認済み)
[状態]健康
[思考・行動]
1:沙都子、上田、東條と共に沙都子の兄の捜索
2:カズマの捜索
3:アルターが弱まっている事、知らない人物がいる事に疑問
※彼女のアルター能力(ハート・トゥ・ハーツ)は制限されており
相手が強く思っている事しか読む事が出来ず、大まかにしか把握できません。
又、相手に自分の思考を伝える事もできません
※本編終了後のため、自分のアルター能力を理解しています。


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003:上田教授のドンと来い!変身! 上田次郎 065:目を開けながら見たい夢がある
由詑かなみ
002:青虎、闇夜にて、英雄を論ず 東條悟
北条沙都子



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