小説 > アルファるふぁ > mark5

なんとか生き残っていたハッチの一つから身を投げ出す。フューリーのパイロットスーツが金属の床を擦り、耳障りな音を上げた。
それと同時に、周囲から称賛の声や、口笛や、拍手、雄叫びなどなどが一斉にこだまする。
フューリーが所属するこの基地の全ての人間が、彼の勝利と生還を喜び、賞賛していた。
「気分はどうですか?フューリー」
「最高だな。ヒーローになったって気がする。命をかけた甲斐があったってもんさ」
「それは良かったです」
「だろ?」
レメゲトンの質問に答えて、フューリーは肩をすくめた。本当は怖かったと言えないのは、彼のひねくれた精神性が原因だ。
しかし、彼が全力で戦い、その力で勝利をもぎ取ったのも事実だ。それは彼の心を大きく満たし、明日への活力となるだろう。
「マスター、よろしいですか」
「どうしたレイニー。浮かない声じゃないか?」
「残念なお知らせが…」
「どうした?俺は親父が二股してたって驚かなかった男だぜ、今更悪い話の一つや二つ…」
「マキシム・ウォーリアーの退役が決定しました。今回の損傷が原因のようで…」
「あ、あぁ〜…」
心当たりは大いにあった。先の戦いでフューリーの愛機は大いに痛めつけられ、両腕に至っては損失しているという有様だったのだ。
もともと比較的古かった機体であるのも、一因だろう。修復が難しいから退役、というのも納得できる話だ。
「ま…仕方ねえよな」
「そうですね…」
「えぇ…」
複雑な表情を浮かべて何回も首を振った。頭では納得できるが、彼の心情はその決定には不満であった。
マキシムの退役は、そのままフューリーや彼の相棒二人がお払い箱であることを意味している。
テウルギア・ギガは建造するのに時間がかかる。そして、次に出来上がるのが彼らのためのものであるとは限らない。
それまでは後方で腐るしかなく、下手したら永遠の引退。
「退役、ねえ…」
フューリーはその事実を何度も呟いた。呟いても呟いても、心の奥底では納得できない気持ちが渦を巻いている。
死にたくないのは本音だ。だが、ギガで戦い、多くの人を守って賞賛されたいと願うのもまた、彼の本音である。
フューリーを賞賛する声や音は未だに鳴り響いていた。
「なあ」
「どうしました、フューリー?」
「俺達は生き残った。だから次のギガをもらって、またヒーローになるチャンスはあるってことだろ?」
「その通りです、マスター」
返答に満足して、フューリーがボロボロのマキシム・ウォーリアーを見た。あちこちの傷から内部機器がはみ出している、無様なギガ。
だがそれは戦いによって生まれた誇り高い戦傷である。その雄姿がもう二度と見れないということを思うと、ボロボロの状態も勇ましいように思えた。
「だったら、それまで長めのバカンスだな。どこがいいと思う?」
「もう、まーたしょうもないことを言って…」
「休んでばかりじゃあいけませんよ?」
吹っ切れたフューリーの様子に、二人のレメゲトンはクスクスと笑いだした。
フューリー自身もつられてニヤける。
視線を移せば、兄のデヴィーがこっちに手を振っているのが見えた。デヴィーの登場に、基地内がまた沸き返った。
そこにはエネルギーが満ちていた。多くの困難を乗り越える人間の意志の力があるように感じられた。
その中心は、ギガだ。人類を守護する鋼鉄の巨人、テウルギア・ギガ。
マキシムが引退しても世界にはまだ多くのギガがある。その戦いぶりがどうなっているか、フューリーは知らない。
これからは、復帰までの間、その戦いを見ることを楽しみにしよう。
気持ちのいい喧騒の中で、フューリーは息を吐き、目を閉じた。まだ見ぬギガに、思いを馳せながら。














ガキの頃俺は、自然の猛威と戦う事は出来ないと思い込んでいた。 だがこのテウルギア・ギガに乗っている時は、ハリケーンと戦う事も出来るし勝つ事も出来る。
バカバカしい夢物語のようだ。だが、そこには大きなロマンと、魂を揺さぶる情熱がある。
君もギガに乗らないか?
君の戦う姿を、どうか俺に見せて欲しい。
君とギガが連動し、強大な敵に立ち向かう姿を、どうか見せて欲しい。
そして、それを世界に刻みつけて欲しい。
君の武運と、そして健闘を祈る。

最終更新:2018年05月13日 00:30