200メートルほど離れた地点からの砲撃で弾かれた。
「どうした兄弟、
しゃんとしろ!」
「兄貴…?」
2時の方向を向けば、フューリーの兄、デヴィー・ウォレットの第4世代ギガ『ショーク・ランチャー」が800ミリ砲の片方を構えながら立っている。
応援だ。デヴィッドが助けに来てくれたのだ。
先の砲撃でバランスを崩していたオーガーが、のそりと起き上がった。タンカーの中身をぶちまける勢いで、その上にかかった海水が海へ戻る。
ショークが両手に握ったハンドガン型の6連エネルギーキャノンを連射する。通常のテウルギアでは携行武器にするのは不可能なサイズのものをそれぞれ6本ずつ束ねた、カルタガリアの製品だ。
着弾地点は800ミリ砲の命中跡。
このサイズの砲でもオーガーを瞬殺するのは不可能だが、大ダメージは与えられる。ショークはそこへ追撃をかけたのだ。
へこんで弱くなった装甲を光が撃ち抜いていく。洞穴のような焼け跡。
ショークは連射をやめ、エネルギーキャノンを投げ捨てる。弾切れだ。
ショーク・ランチャーも先の戦いで消耗している。各部の装甲が無残に引き剥がされ、そこに無い。
マキシムと連携しなければ三体目のオーガーを倒せないのだ。
「おいフューリー、立て!戦えるだろ!?もしかして若いのに2回戦は無理〜なんて言い出すのかえぇ!?」
「バカ言え!俺はまだビンビンだぜ!」
唐突な猥談に苦笑しつつ、フューリーは両足を踏ん張った。マキシムもそれにならい、立ち上がった。
確かにフューリーは緊張するとダメになる。だが兄デヴィッドは小気味のいい軽口でフューリーをリラックスさせることができる。
「フューリー!」
「マスター!」
「大丈夫だシャイニー、レイニー。もう、大丈夫だ!」
だから彼らにとって、この兄弟が揃ったら、無敵だ。
「そっちこそ全く飛ばなくなったんじゃ無いのか、おじさんよぉ!」
ショークの方を向いたオーガーの腹に右アッパー。
胸部の原子力ジェネレーターが唸る。マキシムが、まだ戦えると叫んでいる。
「うるせえ!まだ昔みたいに3人一緒に相手できらぁ!!」
左肩から棒状のパーツを外して、ショークがオーガーに接近する。オーガーは攻撃を加えて来たマキシムの方を向こうとして、ショークに大きな隙を晒していた。
そこへねじ込まれるレーザーブレード。E&Hのコールブラントもかくやというサイズだが、ギガには片手剣サイズだ。
装甲を焼くレーザー。反対側からはマキシムの膝蹴りがクリーンヒット。
クジラ数百頭ぶんの重量が一瞬浮き上がる。
「そっち掴めフューリー!」
「オーケイ、こいつを投げ飛ばすぞ兄弟!」
マキシムが右手で、ショークは左手でオーガーを掴む。そのまま持ち上げ、海面の向こうへ投げ飛ばす。
放物線を描くオーガー。直後に着弾、高層ビルサイズの水しぶき。
体勢を立て直そうとするオーガーに、ショーク・ランチャーが左側のキャノンを向けた。
「ドーラ、発射!」
800ミリ砲が再び炎を吹く。砲弾は見事直撃。向かって左側の刃をへし折った。
ちぎれた刃が海底に突き刺さり、塔のオブジェと化す。
これであのオーガーの脅威は半分以下に抑えられたはずだ。
「あのアバズレ、突っ込んでくるぞ!」
「食い止めろデヴィー!俺が止めを刺す!」
「美味しいだけ持ってくつもりか?」
「それが世界中の兄貴の役割だ!」
「こういう時だけ兄貴兄貴って呼びやがってお前は!!」
ショークが突撃してくるオーガーを押しとどめた。器用に腰をひねり、残ったもう片方の刃が当たらないようにする。
首を振るようにして暴れるオーガーを両手で捕まえるショーク。
「右腕の動力をオーバーライド!」
「了解、右腕自爆まで5秒!」
「アームロケット起動!」
「アームロケット全開」
「
飛ばせえええええええ!!!!」
マキシム・ウォーリアーの肘から先が質量弾となって飛んでいく。分離した腕はショークが開けた穴に突き刺さり、内部機器をかき分けてオーガーの動力炉に接触した。
「3、2…」
「やっべ!」
ショークはオーガーから手を離し、後ろに下がった。
「1!」
レイニーのカウントダウンが終わると同時に、オーガーの中に潜り込んでいたマキシムの腕が爆発した。約10個以上の燃料電池と小型ジェネレータが臨界し、メルトダウンしたからだ。
破片が体の内部を暴れ狂い、オーガーが動きを止めた。
「仕留めたなフューリー」
ショークが両腕を失ったマキシムに近寄る。
「だと思う。だが…」
「だが?」
「800ミリの残りは?」
「左右一つずつだ。撃てってのか?」
「マシンが死んだふりするとは思えないが、やって損はないと思う」
「オーケイ、ダブルダップは基本だ」
ショーク・ランチャーがその場に立ち、双方のキャノンを前に向けた。
「
グスタフ・ドーラ、同時発射!!」
両方の巨大砲が発射され、マキシムの腕が刺さった場所に着弾した。
大爆発。破片が四方に飛び散って、オーガーの装甲がめくれ上がり、開いた本のような状態になった。
「世界一でかい魚のヒラキだ。誰も食いたくないだろうがな」
フューリーの頷きに合わせ、マキシムが首を縦に振った。
「下手くそな調理だ。嫁さん見つけた方がいいぜ」
「言ってろ!帰るぞ!」
そして、マキシムとショークが肩を並べて歩き出す。二機が歩く度に海が割れ、波が裂けた。
「やったな」
マキシムがワイヤーの垂れた右腕を掲げた。
「やったぜ」
フューリーが右拳で親指を立てた。
「俺たちは英雄だ」
フューリーは勝利に酔いしれながら、コクピットの中で笑った。
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