降り頻る豪雨、びしょ濡れの自分、目の前の大樹のウロ。
何故こんなところに?
二度目じゃないか?こんな訳のわからない状況。
皐月賞前日に風邪のリスクを背負ってまでこんな奇行に走る理由が思い当たらず、確かに晩飯からの歯磨き+風呂コンボを決めて明日のレースの作戦の確認をしていた筈なのにここに来るまでの記憶がない。
何故こんなところに?
二度目じゃないか?こんな訳のわからない状況。
皐月賞前日に風邪のリスクを背負ってまでこんな奇行に走る理由が思い当たらず、確かに晩飯からの歯磨き+風呂コンボを決めて明日のレースの作戦の確認をしていた筈なのにここに来るまでの記憶がない。
ということは私は寝落ちしたんじゃないか?
今の今まで炎上騒動に掻き消されて忘れていたが、年末ににあった"いつのまにか変なとこ立ってた現象"もただの夢だったか。
まあ何より最もおかしいのは目の前の大樹のウロである。
今の今まで炎上騒動に掻き消されて忘れていたが、年末ににあった"いつのまにか変なとこ立ってた現象"もただの夢だったか。
まあ何より最もおかしいのは目の前の大樹のウロである。
真っ先に感じたのは畏怖、そして神々しさやおぞまさしさ。想像もつかないような権威に呼ばれているような感覚すら覚える。ただの切り株に対する感想とは到底思えない。
呼び声に従うまま、そして己の好奇心によって大樹のウロを覗いた。
呼び声に従うまま、そして己の好奇心によって大樹のウロを覗いた。
そこには混沌があった。
水が張っているのが精々の筈の大樹のウロの中には、どこまでも底の見えない漆黒とほんの少しの色彩が、水底の漆のように煙を立てて沈んでいた。
水が張っているのが精々の筈の大樹のウロの中には、どこまでも底の見えない漆黒とほんの少しの色彩が、水底の漆のように煙を立てて沈んでいた。
「…これ、底どうなってるんだろう」
あの切り株の穴はそこまで深くなかったはずだ。
右手が水面を破る。明らかにヤバそうな見た目してるのに。
右手が水面を破る。明らかにヤバそうな見た目してるのに。
ガシィッ!
「うおぁっ!?」
「うおぁっ!?」
刹那、混沌からぬぅっと伸びてきたドス黒い手に右手首を掴まれる。
引き込まれる、という直感は正しかったらしく、咄嗟に切り株の縁を掴んだ左手は私が混沌に沈むのを食い止めている。
引き込まれる、という直感は正しかったらしく、咄嗟に切り株の縁を掴んだ左手は私が混沌に沈むのを食い止めている。
「ばっっっかお前マジで何してんだよヤバいヤバいヤバいヤバい!!」
死ぬ。これに飲まれたら戻って来れない。
夢の中の出来事だというのにそんな確信がある。
死に物狂いで手を引き抜こうと右足を切り株にかけて全力で引っ張るも、抵抗虚しくずぶずぶと肘まで沈む。
夢の中の出来事だというのにそんな確信がある。
死に物狂いで手を引き抜こうと右足を切り株にかけて全力で引っ張るも、抵抗虚しくずぶずぶと肘まで沈む。
「待って強い。ヤバい勝てる気がしない。わりい私死んだんじゃね?」
だってよクロックワークス…腕が!
そしていよいよ肩まで沈もうとしたその時、極限状態の私の脳みそは一つのイカれた発想に辿り着く。
そしていよいよ肩まで沈もうとしたその時、極限状態の私の脳みそは一つのイカれた発想に辿り着く。
(せや!いっそこっち引き込んだろ!)
こっちにおいで、とかしてくる怨霊というのは大抵仲間が欲しいだとかそんな理由をつけられがちだ。ならばいっそのこと現世側に引き摺り出して自分に憑かせればそれでいいんじゃないか(?)
「封印のための生贄に捧げられるのが嫌だから相手方に出てきて貰えばいい」というような本末転倒な理論だが、なにせ今にも死のうとしているのだ。そんなこと考える余裕はない。
もうヤケだ。掴まれた右手で相手の手首を握り返し、引き摺り出そうとする。
「封印のための生贄に捧げられるのが嫌だから相手方に出てきて貰えばいい」というような本末転倒な理論だが、なにせ今にも死のうとしているのだ。そんなこと考える余裕はない。
もうヤケだ。掴まれた右手で相手の手首を握り返し、引き摺り出そうとする。
「おおっ?」
途端に右手が軽くなる。今まで万力で挟まれたようにピクリとも動かなかった右腕が、突然抵抗が消えたことで水面から勢いよく抜け出す。
しかし掴んでいた黒い手が水面にがつん、と引っ掛かったので、完全に抜け切りはしなかった。
しかし掴んでいた黒い手が水面にがつん、と引っ掛かったので、完全に抜け切りはしなかった。
もう一度、少し沈めてから勢いをつけて水面に引き上げようとする。
がつん。
やはりぶつかる。
がつん。
やはりぶつかる。
「…へぇ〜」
もっと強く叩きつけてやる。
ガンッ!
割と痛かったのか、黒い手はこちらの手首から手を離して逃げようとしている。
「…ふっw」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
ちょっと楽しくなってきた。
逃げようとのたうち回る黒い手を、逃がすものかと全力で握りしめて水面に叩きつける。
ぴしり。
水面にヒビが入るが、構わず続ける。
叩きつけるたびに段々とヒビが広がる。
そして遂に、水面はまるでそれが分厚いガラス板であるかのような音を上げて割れ砕ける。
ガンッ!
割と痛かったのか、黒い手はこちらの手首から手を離して逃げようとしている。
「…ふっw」
ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!
ちょっと楽しくなってきた。
逃げようとのたうち回る黒い手を、逃がすものかと全力で握りしめて水面に叩きつける。
ぴしり。
水面にヒビが入るが、構わず続ける。
叩きつけるたびに段々とヒビが広がる。
そして遂に、水面はまるでそれが分厚いガラス板であるかのような音を上げて割れ砕ける。
突如、黒い濁流が押し寄せる。
視界を埋め尽くしたそれが、今の今まで弱々しく逃げようとしていた黒い手、それが大量に犇きながら私に掴み掛かっているのだと認識する前に、私の意識は暗闇に呑まれて途絶えた。
視界を埋め尽くしたそれが、今の今まで弱々しく逃げようとしていた黒い手、それが大量に犇きながら私に掴み掛かっているのだと認識する前に、私の意識は暗闇に呑まれて途絶えた。
「…んっ、うぅ……やっぱただの夢か」
自室のベッドで起床。
予想される馬場情報の再確認をしようと、学習机のノートに向き合う。
自室のベッドで起床。
予想される馬場情報の再確認をしようと、学習机のノートに向き合う。
瞬間、私の頭の中に流れ込む、"存在しない筈の着順表"。
「………今年の皐月賞の着順は、確か…」
いやマジ。妄想とかじゃなくて"記憶"。
右手が動くままに私は今回の皐月賞の結果を書き出す。
右手が動くままに私は今回の皐月賞の結果を書き出す。
「…なんだこれ」
何故か私の名前がない。その分他のウマ娘の人気が一つ繰り上がっていて、18番人気に知らないウマ娘の名前。
だんだんと脳が覚醒してきたことで気づく。
髪が濡れてる。昨晩の風呂上がりに乾かしたはずだが、まさか、そんな…
だんだんと脳が覚醒してきたことで気づく。
髪が濡れてる。昨晩の風呂上がりに乾かしたはずだが、まさか、そんな…
「まあ、流石にデタラメ、だよな…」
震える声で呟き、誰もいない早朝の練習場へ向かう。
あまりに明瞭すぎる記憶から、目を逸らすために。
あまりに明瞭すぎる記憶から、目を逸らすために。
「待って、ちょっと待って、やばいって」
ライブ前の控え室の隅にうずくまり、運動とは違う理由で息を荒げながら取り乱す。
だってしょうがないだろう!?
だってしょうがないだろう!?
どうして私以外の着順が、今朝書いたアレと完全に一致している!!?
正確には2着になった私と、架空の着順表にしか載っていない最低人気のウマ娘を除いて、だが。
私がこんなにも恐慌しているのにはもう一つ理由がある。
今後私が出走を予定している他のレース…それに限らず、数十年前から来年までの全ての中央トレセン主催のレースの着順が思い出せるからだ。
…じゃあ嬉しいことじゃないかって?
マークすべき相手がわかるから勝てるようになるじゃないかって?
普通なら無邪気に喜べるんだろうなそんな風に。
でもな?
今後私が出走を予定している他のレース…それに限らず、数十年前から来年までの全ての中央トレセン主催のレースの着順が思い出せるからだ。
…じゃあ嬉しいことじゃないかって?
マークすべき相手がわかるから勝てるようになるじゃないかって?
普通なら無邪気に喜べるんだろうなそんな風に。
でもな?
同室含め五人が、来年の末までに予後不良で死ぬってなってたら?