「な―――お、おまえッ!?」
膨大な負の圧力を前に彼女の魂が焼き切られる……寸前。
ここまで姿を見せなかった道化が、ついに王の急所を捉えたのである。
深淵に姿を見せ、無名の魔女の魂に縋り付いたのは……肉体を脱ぎ捨て“魔女”達同様魂魄となった至門。
ヴァレンティノスとの
対決で、呆気なく斃されたかに見えた彼は、
はじめから己が目的の為に準備を整えていたに過ぎなかった。
――
そう、最後の魔女とこの高次空間にて融合を果たすために。
全てを見通すと豪語し続けた魔女は、キャロルという奇貨を前にして、そちらに目を奪われて……
今ここに至るまで、至門の侵入と接近を完全に見逃してしまっていたのだ。
だが、あるいは―――
物悲しげに自嘲する、この中年男の言葉通りだったのか。
ともあれ、この異空間における魔女の形代とも言うべき薔薇の少女。
その肉体は、魂魄と化した至門によって物理的に拘束されてしまった。
「やめろ、反逆するつもりか」目に見えて狼狽する魔女に、男は語る……「ただ、あんたとこの世の終わりまで一緒にいたいだけだ」と。
その言葉に、理解不能だと。狂人を見るような目を向ける師に、至門はただ苦笑するしかなかった。
「あんたの言う自家中毒、脳の錯覚って奴だよ。
もっとも俺の場合、五十年たっても醒めちゃくれねえ訳なんだがな」
「汚らわしい……ッ! おぞましい……ッ! 気持ちの悪い……ッ!」
至門を恐怖の目で凝視しながら、全力で魔女は拒絶しようと試みるも。
既に魔術的空間に自己を固定してしまった彼女には脱出は不可能であり、
己が悲願を果たすため必要な物質世界への帰還も果たすことはできない。
「ああ、そうだろうな。認めるよ」
至門にとっての悲願が実質成就した今――されど彼の貌に浮かぶのは、何かを諦めた寂寥だった。
「俺はあんたに、一人の男として俺を受け入れてほしかったんだ。
けれど、そいつは永久に無理だろう。なら、諦めればいいのか?」
鼻で笑い飛ばしてから、彼は憤怒の形相に顔面を歪める。
「それが諦められねえんだから、しょうがねえだろうがッ!
ああ……こんなグジグジしたみっともねえ気持ちを、愛だなんて綺麗な言葉で片づける気はねえよ。手前勝手な欲望だ。そうと知った上でのことよ」
狂気に満ちた我執を剥き出し、想い人に取り憑くその姿は悪鬼そのものであった。
そして……興味薄げに先客へと声を掛ける。
「今から深淵は俺が閉じる。永遠に、俺と師匠が水入らずで過ごすんでな……出て行ってもらうぜ」
「や……やめろッ! おのれ裏切り者ッ、忘恩の徒がァァ!!」
悲願の道を永久に絶たれ、狂ったように絶叫する最後の魔女。しかし、もはやこの状況の逆転は叶わない。
彼女の無敵を支えてきた魔道というものが法理として堅固であるからこそ、同じ盤面上で差された王手を覆すことも不可能なのだ。
「ヘヘッ、悪いなぁ……あんたのしてきたこと全部、台無しにしちまってよ」
その言葉と共に脳裏に過ぎるのは、閉ざされた冷たく昏い己の世界に現れた魔女との出会い。
あまりに気宇壮大な彼女の言葉に、幼い日の彼は完全に魅せられてしまったのだから。
「あんたは、そんな世界で生きてきた餓鬼にゃまぶしすぎたんだ……
太陽だけを間近で見せられ続けたら、そりゃ他に何も見えなくなるもんさ……」
その呟きに、この男の常態である露悪はない。
ただ単一の執念のため人としての全てを引き換えた、一匹の蛆虫と成り果てる昏い覚悟だけがあった。
- このゲームをやった事はないが、wikiの記事を読んで、せめて「貴方にも私の愛で満たされた世界に生きて幸せになって、自分から解き放たれてほしい」位普段から、若しくは理想成就直前に言っていればこの末路も変わったのかねぇ。 -- 名無しさん (2020-06-23 10:36:37)
- 魔女がそんな殊勝ならそもそも物語自体始まらなかったと思う -- 名無しさん (2020-06-23 14:32:20)
- 光に目を灼かれたんだしょうがない。 -- 名無しさん (2020-06-23 16:39:11)
- 光をずっと見てきたなら諦めるのはおかしいだろ常識的に考えて‼️ -- 光に目を灼かれた邪龍 (2020-06-23 20:42:21)
- 光の奴隷ともまた違うからなぁ... -- 名無しさん (2020-06-23 20:48:56)
- ヴァルゼライド閣下と個人的に一緒にいたいからって聖戦の邪魔するとかあいつら絶対しないし -- 名無しさん (2020-06-23 20:54:41)
- ここの魔女の動揺好き -- 名無しさん (2020-06-23 21:36:40)
- ヤンデレヒロインの大勝利だぞ。縋りついてるCGが実にキモイ -- 名無しさん (2020-06-24 08:06:17)
- 自分こそが全人類へ与えるのだ、とか私も同じ立場になるから犠牲になれ、と一方的な愛を押し付けてた奴がいざ他人から向けられた瞬間に、『気持ち悪い』『そんなの愛じゃない』とブーメラン発言を連発するの最高の因果応報だよなあw -- 名無しさん (2020-06-24 12:10:26)
- 「"待"ってたぜェ!!この"瞬間(とき)"をよぉ!!」こうですねわかります -- 名無しさん (2020-08-08 19:56:03)
- !? -- 名無しさん (2020-08-08 20:19:43)
- これこそが愛だよ。人生や己の全てを犠牲にしてでも得たいという強い感情こそ人は愛と呼ぶのだ -- 名無しさん (2020-08-09 01:49:14)
- ↑やはり邪竜、アルバートはヒロインだった -- 名無しさん (2020-08-09 01:55:23)
- きっと今もレイプしてんだろーなーと思うと盛大に興奮する -- 名無しさん (2020-08-09 22:15:16)
- ↑せやな -- 名無しさん (2020-09-16 21:52:25)
- これ晶ルートのセージと同じ状況なんだよな。奇しくもセージの為に善意で導いて祝福してた奴も蝿の王という -- 名無しさん (2020-12-09 21:35:52)
- ↑3 そう思うとバッドでありながらエンドにすらなれないとこまで犠牲者と同じなんだな。光の奴隷が曲がりなりにも納得のうちに死んでるのに対しこいつはまったく納得してないのは性格の悪さがたたったか。いずれにせよ次回作はないだろうけどあったら案外またひょっこりでてくるんだろうか -- 名無しさん (2024-02-03 17:36:25)
- ↑そんなに納得して死んでたかあいつら…?というかいきなりマゴベの記事で光持ち上げとかよくわからん… -- 名無しさん (2024-02-08 18:30:03)
最終更新:2024年02月08日 18:30