約束しろ、ラグナ。全てが終わったら、君と俺で決着をつけるべく戦うと



創生された神世界から醒め、片割れとは異なるもう一つの絆を縁に三次元へと帰還するラグナ。帰還と共に訪れたのは――。

「―――形勢逆転だな、神殺し。よく目の前に帰ってきた」

肉親の仇に向ける、拭い難い怒りと共にリチャードはラグナへ剣を振るう。首を斬られ満身創痍のまま治らない不完全な不死身を抱えるラグナでは一合すらまともに打ち合えない。

順当に仇である神殺しは草薙剣の手で絶体絶命に追い込まれる。当然、それは予想できた展開だったはずなのに。戻ってこなければ惨めに敗北することもなかったはずで、なのに――。

何故戻ってきたのだと必死に取り繕った戦士の顔が問うが、理由など決まっている。

「友達が一緒に願ってくれた優しい世界だからこそ、ミサキと二人で甘えたまま幸せになどなれなかったんだ」

ラグナとミサキが囚われていた神世界。それはある三人(・・)の祈りを響き合わせて構築された仮想世界(バーチャルスペース)であると九条御先は告げていた。ならば、神世界創生の瞬間にそんな優しい願いを抱いてくれる存在など、自慢の親友(リチャード)しかいない訳で。

「もう、いい……。言わないでくれ、それ以上は」

こぼれた涙と共に敵意が消失する。リチャードは自分を恥じるように呟く。

「なあ、ラグナ。俺はどうすればいいんだろう?もう何も分からないんだ。だって痛感したんだよ、俺は君を憎み切れない。こんなにも許せないのに、殺すことができないんだ」

その懊悩こそが彼の本質。優しさという強さを持つリチャードは肉親の仇であっても命を略奪できず、同時に消えた肉親への想いを諦めることも出来ない。そんな自縛自滅に陥り、前進も後退もできないまま苦しみ続けている。

「どこまでも、中途半端なままなんだ」

だからこうして仇を討つ唯一無二の機会ですら友情と復讐を天秤にかけられず、リチャード・ザンブレイブは何一つ貫けないで嘆きの涙をこぼすしかないのだ。


+ ―――だから
「だから、おまえは答えを探し続けられる人間なんだよ」

何者にも成れない中途半端な自分を嘆く親友にラグナは己の本心を明かす。隠していた真実は既に白日の下にさらされた。ならば、秘めていた本心を明かすことに躊躇はない。

「光も闇も関係なく、決意を貫く連中なんて向こう見ずな暴走列車だ。目的地に突っ走るだけの頭が固い頑固者、そんな奴らの何が偉い。意見の合わない敵対者を鏖殺するのが上手いだけだろう?」

そんな褒められるようなものじゃない馬鹿共と違う。迷い、悩み、揺れて、悔やんで……それでも涙を拭って歩き出せる強さと優しさを誰より尊敬している――、と告げようとして。

「……ああ、違う。違う」

なんて穢らわしい上から目線。違うだろう?そんな綺麗ごとではない、そんな高尚な意見など本心ではないのだ。

殴られたら殴り返すことしか上手く出来ない自分。大切な家族を連れて地獄に突き進むことしかできない自分。諦めるという選択肢を選べない自分。

そんなことを迷わず選べる、否、選ぶことしかできない自分があいつを笑顔にするのだと……?もしも優しい親友のように許すことが出来たなら、ミサキは今頃どこかで平穏に暮らせていたかもしれない。

なのに戦うことだけを選び続けてきた自分はそれが愛だと叫んで、―――なんて、救えない。

「だからお前が羨ましくて、ずっと憧れ続けていた。笑ってくれ、リチャード。要は嫉妬の裏返しだったんだよ」

希望(ヒカリ)しか持たない大馬鹿者は優しさという強さを持つ親友がずっと羨ましくて(・・・・・)、戦闘者として先輩風を吹かせていたのはそれを誤魔化す言い訳だったのだと今ようやく気付いたのだ。


+ ―――だとしても
「だとしても、俺は強くなりたかったよ。兄の仇を討ち獲って、友達と一緒に笑い合いたかった」

誰かを許せる優しさをもつお前に嫉妬していた。明かされた強く立派な親友の偽りない本音にリチャードもまた己の本心を明かす。

「どうしてこんなに弱いんだろう、何も出来ないままなんだろうって……何度も何度も。はは……」

自嘲と共にようやく二人の男はどうして友達になりたかったのかを理解できた。要はお互い合わせ鏡のようなものなのだ。同じ理想を求めながらも、そこへ至る手段と素質が全く正反対。だからこそそれを持つ相手に憧れ、妬み、互いの中に辿り着きたい未来の影を見て惹かれ合っていたのだ。

そして、今気づいた弱さを明かしたことで最後の垣根は残らず消えた。だから――。

「約束しろ、ラグナ。全てが終わったら、君と俺で決着をつけるべく戦うと。逃げることも、やめることも許さない。だからそれまで――」

「ああ、勿論だ。おまえ以外には殺されない」

いずれ来る終焉を約束し、以前より硬く結ばれる友誼と共に差し伸べられた手を掴んだ。


+ ―――と、心機一転。歩き出そうとしたはいいが……
「……すまん」

「別にいいさ、このくらい」

先の殺し合い(喧嘩)を合わせて満身創痍のラグナは歩くこともおぼつかないので、当然リチャードに肩を支えられてようやく歩を進める。そんな情けない姿にもリチャードは構わないと以前と変わらない屈託のない笑みを浮かべた。

「しかし、なんというか……」

ついでにいうと、もうお互い気を使うような隠し事もないので―――。

「これなら君をいつでも殺せそうだな。気が向いた時は練習代わりに試してみようか、いいだろう?」

仇であることを含めて物騒なことも気兼ねなく言い合えるようになったから―――。

「やってみやがれ、返り討ちだ」

お互い懐かしくも感じる、大切な友人との気の置けない会話に軽く喉を鳴らした。




  • 以上、男同士の美しい殺し愛でした -- 名無しさん (2020-06-28 00:25:45)
  • 兄想いだから、心から恨みを捨てられず復讐を止めることが出来ない。友達想いだから、恨みを貫き復讐の為不幸に叩き落とす事が出来ない。優しさ故の、どっちもあって”それはそれ“という重要性の天秤を何方かにも傾けられない。 -- 名無しさん (2020-06-28 00:45:06)
  • 「恋敵と親友」と同じく、「仇と親友」は両立しないなんて道理はない。 -- 名無しさん (2020-06-28 01:02:44)
  • ナーキッド「美しい……(ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ)」 -- 名無しさん (2020-06-28 07:33:10)
  • なんて素敵な綾模様+1000点 -- 名無しさん (2020-06-28 08:25:02)
  • パティ「ンヒィイイイイ!素晴らしいですわぁ!!非才の身なれど、これは後世に残すべきもの。わたくしの全霊をもってこの素晴らしさを書き記しましょう!!(ガリガリガリガリ)」 -- 名無しさん (2020-06-28 08:50:53)
  • ↑() -- 名無しさん (2020-06-28 17:37:35)
  • ↑2(無言のパロスペシャル) -- 名無しさん (2020-06-28 17:38:38)
  • ↑3,4,5 ???「臭すぎて生かしておけんなあ」 -- 名無しさん (2020-06-28 17:49:08)
  • 本当にミサキルートはリチャードいないと人奏へのきっかけすら掴めないから彼がいないと話が詰む -- 名無しさん (2020-06-30 07:20:13)
  • スフィアに到達する運命力はあるけど同じ答えにはたどり着けないからスフィアは描けないラグナとリチャード -- 名無しさん (2020-06-30 11:04:15)
  • スフィアとか真相真理とかろせいとか流出とか太極とかそう言う具体的な心の究極にならなきゃ思いの価値は低い、なんてことはないからそれでいいのだ -- 名無しさん (2020-06-30 13:06:27)
  • スフィアに至ってもゴミ屑レベルの答え出すのもいるしなぁ -- 名無しさん (2020-06-30 15:42:46)
  • リチャードはスフィアみたいな明確な成果じゃなくて何を犠牲にしなくても得られる小さな幸せを山ほど作れる人間でいいんだ。 -- 名無しさん (2020-06-30 17:14:41)
  • ↑閣下「彼はホライゾンと並ぶ尊敬すべき若人だな。何かを犠牲にする事で得られる巨大な繁栄を求めて走り続けた俺とは真逆、逆立ちしても真似できん素晴らしい生き方だ」 -- 名無しさん (2020-06-30 17:49:42)
  • イザナ「彼の締まり具合は最高だったよ」 -- 名無しさん (2020-06-30 17:51:34)
  • ↑エロゲ神は桃色VRエリアにボッシュート -- 名無しさん (2020-06-30 18:20:51)
  • 穴にガンマレイブッ刺したれ -- 名無しさん (2020-06-30 18:33:30)
  • ↑ガンマレイプレイとか上級者向け過ぎない? -- 名無しさん (2020-06-30 18:40:52)
  • 別に普通じゃないか?と邪竜と帝国軍人の皆さんは首をかしげた -- 名無しさん (2020-06-30 19:17:41)
  • ↑悪の敵「自覚が足らん(鉄拳制裁)。他者への配慮が足らん(とび膝蹴り)。見る目が皆無だ、阿呆ども(天昇・雷霆拳)」 -- 名無しさん (2020-06-30 20:14:15)
  • 閣下がライジングアッパーしたらマジで拳にガンマレイ宿ってそうw -- 名無しさん (2020-06-30 22:07:25)
  • オリハルコンを埋め込んでるから刀無くても十分可能だな! -- 名無しさん (2020-07-01 08:03:49)
  • その頃銀のワンコは変なパツキン爺さんに絡まれていた・・・ -- 名無しさん (2020-07-03 07:31:31)
  • んで、ちゃんと決着つけましたか? -- 名無しさん (2021-04-28 06:23:00)
  • ↑本編中に一度決着つけてんじゃん -- 名無しさん (2021-04-28 08:39:28)
  • 結局そんな頑固者が偉い結論になったこと分かってんのかな -- 名無しさん (2024-03-29 02:35:20)
  • ここまでの友情が深まる裏付けが弱いというか劇中での出来事がほぼ無いから、優しさも友情も全部が記号的すぎる。説明(ライターが今こうなってますよという誘導)と描写(読み手が共有できるその世界で起こった事実の積み上げ)を混同しているというかエピソードの積み上げをサボりすぎている。リチャラグの友情関連も制作時間が足りなかった弊害を受けててもったいなさすぎ -- 名無しさん (2024-03-29 10:53:06)
  • 大事な友人だったから殺せなかったってだけで優しいから肉親の仇でも殺せないではなかったやろ。返り討ちにあっただけでラグナやジェイスに殺意向けて剣を振るってたやん -- 名無しさん (2024-03-29 11:01:27)
  • 友情と復讐の狭間で殺すことも許すこともできず苦しんでるリチャードに許せるお前が羨ましいってナチュラルに煽ってくるラグナさん流石っすわ -- 名無しさん (2024-03-29 11:18:46)
  • ↑確かに、この後でも本人がラグナを許すことはないって言ってるんだから別に許せないラグナと許せるリチャードって対比にはなってないな。リチャードを友情と憎悪を両立させる男なのか迷いながらも許せる男のどっちにしたいんだろ -- 名無しさん (2024-03-29 11:49:43)
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最終更新:2024年03月29日 11:49