この島の呪われた仕組みを祟る新たな呪いに……この俺自身がなってやるよ

発言者:吐月完
対象者:二ツ栗家


“また”大切な誰かを守れなかった、取りこぼしてしまった

もう何も感じないはずだったのに、心が痛い

かつては目を逸らした、己の内にあった感情を吐月完は理解する

愛する女性を喪った“あのとき”から自分はずっと……全てを諦めて生きていたくはなかったのだと


ここが《底》――吐月完という男の最も根幹に横たわる、“歪み”の原点




歓楽街において、完とは『振興会』の荒くれ者達に襲撃を受ける。
縁から縁へと伝播する呪術の毒と無骨なジュラルミン製の刀による剣閃が男共の命を刈り取った後、二人は生き残りの一人から残った仲間―カノの居場所を聞き出そうとするも……
しかし、振興会の男は、その年端もいかない少女は“軍神島”の生贄に捧げられたのだと嘲笑する。

また一人、仲間を失った――その事実に無念を噛み締める偲。
――しかし、その場において、それ以上に衝撃を受けている男がいた。
吐月完。自らを無邪気に「カンちゃん」と呼び慕ってくれた少女が迎えた残酷な結末に……
同じく自分を「カンちゃん」と呼んでいた最愛の女性の死を前にした時と同じ、自身を押し潰してしまいそうな痛みに苛まれていた。
かつては諦めの感情に流され、もう他者の死に心動かすことなどないと誤魔化してきた剥き出しの想いが、目覚める。


そんな完を前に、生き残りの男は弱弱しくも命乞いを始める――

「なあ、俺は違うんだよ……島に来てからまだ半月も経ってないんだ」

「見逃してくれたら、明日にでも島を出て二度と戻らないと誓う……
なあ、助けてくれよ。俺は元々、ただの雇われなんだ、二ツ栗家なんかとは何の関係もないんだよ……」

「関係ない」……その言葉は先程、一族の業を背負っていく覚悟を決めた二ツ栗珠夜から投げかけられた言葉を思い起こさせ……

母は、最後まで二ツ栗の呪いに繋がれていない他人でした。吐月さん、あなたも同じです

呪いの道に首まで浸かりながら、今も向こう側にいるような善人ぶろうとするあなたよりも……
私には文鳴さんのほうがずっと誠実だと思えますし、信用できます

島を去ってください、吐月さん。ここはもう、あなたとは関わりのない場所です


瞬間。無尽の憎悪が吐月完という呪術師からあふれ出す。


「ふざけるなよ……」


それら悪意は今突然生じたものではない。ずっと吐月完の内にあり、
理不尽と出遭い喪失を経験するたび蓄積された人間としての継続された履歴だった。
理不尽な喪失など、認めない許さないという“歪み”が、殺意として研ぎ澄まされていく。


異様な鬼気を漲らせて、完はゆらりと立ち上がった。


「関係ないだと……?たとえ一度でも関わった以上、もう誰もそこからは降りられないし逃げられやしない……それが呪いってもんだ。俺も、おまえもな」

「なら、とことんまで付き合ってやろうじゃないか。二ツ栗(おまえら)が創り上げた、
この島の呪われた仕組みを祟る新たな呪いに……この俺自身がなってやるよ」


そう告げて、男の懐から抜き取っていた携帯端末を操作し、『振興会』の名前が表示されたグループラインを表示させる。
右手に電子機器を。左手に和紙の御幣をかざし、吐月完は口中で殺しの(まじ)を唱える。

――これが本当の殺し合いの始まりだと、斃すべき『敵』の座標を見定めて。

呪詛成就を祈念する真言が結ばれると共に、呪殺の一撃が命乞いしてきた男を絶命させ……
さらに男とグループラインという“縁”で結ばれていた『振興会』の構成員にも破滅の呪詛は逃さず届けられる。
――結果、同じ夜別の場所にいた十数人の男達の断末魔が、式童子を通じて完へと伝達された。


「……とまあ、そんな感じの決意表明ってところだ」


現代における呪殺の持つ脅威――それを十分に見せつけ、一夜にして大量殺人を為した一人の呪術師(中年男)
そんな彼は、先程まで纏っていた殺意の波動を霧散させ、今や一人残った仲間である殺し屋の女に、どこか照れたように告げていた。



  • 有言実行の漢、吐月完 -- 名無しさん (2025-02-15 15:10:18)
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最終更新:2025年03月28日 00:53