よう、どうしたよ木偶人形……痛感したろ、気分はどうだい?



「グッ、カハッ……覚えとけ。お利口ちゃんな機械風情が、
 人間様の大馬鹿を読めるものかよ。なァ、そうだろうが」


オルフィレウスの命を受け、最大稼働で撃滅を開始したネイムレス。
それに対し、自らの信念と相容れぬ存在として拒絶の咆哮を浴びせながら、
生まれて初めて「相手を滅ぼす」ため、ただそれだけの為に力を奮うイヴァン。

当初、学習機能と再生機能により、優勢を保っていた機械兵。
だが、かつてない出力を引き出し異形の機獣と化したイヴァンの猛攻は、
翻弄されていた戦闘機動や、再生速度の差を急速に埋め始め………
結果―――
機械兵は搭載されたその電脳回路の演算(シミュレート)から、
戦鬼はその身に刻んできた血と硝煙の経験(いたみ)から、
両者ともに防御を捨てた、全力での敵手の破壊活動に突入してゆく。


多脚という特徴を活かしての多面的な攻撃を繰り出すイヴァンに、
それは見切ったと言わんばかりに、ネイムレスは切断された自身の躯体を即席の弾丸として射出。
着弾した個々のパーツを捕食活動に使い、その排除のために動きが止まる事まで計算し、限界まで出力を引き出す。

なおも食い下がろうと突撃したイヴァンの左腕の爪は―――しかし届くことなく動きを読んだネイムレスに切り飛ばされる。
そして最大兵装を失った蜘蛛の躯を、機兵はこれまでに失った肉体を補填するかの如く、急激な速度で捕食し始める。

全身が喰われるまで、一分と猶予もない。反撃による勝利も望むべくもないと、
イヴァンは冷静な戦術眼で見立てて……次の瞬間、浮かべたのは。


「ハッ。舐めるんじゃねえって、言ったろうが……ッ!」


未だ戦意を失わぬ獰猛なる笑み。
そのまま彼は力を振り絞り、自らの肉体ごと機械兵を己が左腕に串刺した(・・・・)のである。
ネイムレスの頭脳に負の火花(スパーク)が飛び散る。
活動源たる三基の刻鋼式心装永久機関が的確に貫かれたという、現実(けっか)が鋼鉄の合理性についに罅を刻む。


そう、先程までネイムレスは相討ち程度(・・・・・)の結果ならば読むことができていた。
創造主に打ち込まれた情報、これまで学習してきた情報から総合して、
人間とはすぐ諦めたがる(・・・・・)生き物だと。そして死に様を飾りたがろうとする行為も、知った上で対策していたはずなのだ。
この状況で、自らの背後に対象の主兵装が墜落したという情報を確認した時から、十分起こりうると理解していた。
故に、殲滅には捕食という確実な手段を選んだ。完全に抵抗の力を奪い去り、万全に排除を終えようとしていたはずなのに……。

イヴァン・ストリゴイは平然とその読みの上を行った。
如何に獰猛な獣でも、食事(・・)の瞬間は鈍る。それを直感で見抜いた彼は躊躇いなく
自らの右腕をネイムレスが喰うよりも先、刹那の間にネイムレスへと喰わせた(・・・・)
結果、捕食活動の均衡を僅かに損ねたネイムレスの頭脳は、予期せぬ(・・・・)異常に処理を割かねばならなくなる。
男は、人知を超えて稼働する電脳回路を「戸惑わせ」、一瞬の隙をもぎ取ることに成功したのだ。

捕食により齎される、刻鋼人機すら発狂死する激痛。
その中で実行された、狂的ながらも正確な判断力。
機械という精神なき存在相手にすらわずかな情動(クセ)を見抜く戦闘感覚。
ネイムレスではなく、人間であっても不可能な絵空事と断じるであろう、魔業

それを成し遂げたイヴァンの勝因とは――――


「逃げんなよ──一緒に逝こうぜ?」


ネイムレスが今も理解不能(エラー)としてしか処理できない要素。
すなわち、人としての精神力(メンタル)の有無。
今もまた、笑いながら敵手の胆の中に残った四脚を無理やり捻じ込み、更なる苦痛に曝されながらも拘束を解かせない。
そんな信じがたい行為を実現させる、強固な意思人としての矜持が性能上の差をこの土壇場で覆したのだった。


そのまま、残ったエネルギーを分かたれた凶爪に注ぎこんでゆくイヴァン。
この状態ならば、つまらない鋼鉄の塊と心中となることは間違いないと悟っていながらも、
彼は、「関係ない」と笑い飛ばすだけだった。


ああ無念。しかしこの無情さも、また人生の一幕だ。
いいや、むしろ運がいい。訳も分からず死ぬに非ず。
己はこうして確かな個我に基づいて、勝利と死を得られるのだと。


僥倖を噛み締め、彼は道連れとなる、もがき抗う機械兵を苦笑と共に見下ろし――――


「それじゃあ―――あばよ、欠陥だらけの未完成品(ネイムレス)
 人の精神(オモイ)を搭載できたら、そんときゃ愉しく踊ってやるさ」



決着を告げたその瞬間……鮮烈な光が一条、夜空の星へと迸った。




  • これも来たか……。「――消えろ名無し。戦の華に無銘の鋼は必要ない」が来たら一連の流れが全部網羅されちまう…… -- 名無しさん (2019-06-03 21:02:35)
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