CLQ403 [ロゼ ソウマ]

―― : ――数刻後。 P.M.XX:XX キアシス中央病院
―― : ここに、あるキアシス市役所員が運び込まれる。
―― : <災害対策特幇特務課>――通称「災対特務課」。 その課補佐官を務める男、『霖蒼真』である。
―― : 事の始まりはある組織のクーデター阻止。ありし4年前を”世界の異変”と叫喚する宗教じみた過激派である。
―― : その過激派が不幸だったのは『霖蒼真』の駆る「虹咲シエル」。 都市防衛幻想<ヴァースロイド>が相手であった事。
―― : 『霖蒼真』の不幸は、その過激派がある魔具を手に入れており、その凶弾を彼<シエル>に放ったこと――。
―― : ――『慰みの炎<ギリル・ライター>』。 ひとときの夢を見るも叶わず、泥怨に堕ちた幼き者の怨嗟が具現化したと言われる魔呪具。
―― : その炎は、魔力を糧にすべてを燃やす。 いわばエーテルの発火剤。
―― : 本来であれば火炎――よくて爆炎か。 だがその着火点となったのは超高純度・超高精工に編まれた幻想体――
―― : 灯し手の手に掛かったシエルは隻熱蒸発―― 同時に心臓を務める彼、霖蒼真へのバックファイアも相当なものであった。
―― : 中央病院は騒々しさたるや、かの戦後を彷彿させた。
―― : ……無理もない。 キアシス最強を連ねる八首の一人が斃れたとなっては、表裏問わず激震が走る。
―― : 意識混濁のまま霊体治療室で丸二日。 命からがら意識を戻し、集中管理のまま個室に移設。
―― : ――あれから、3日が過ぎた。
ロゼ : 『ですから、絶対安静、要介助状態なんです。今の状態では満足に歩くことすらままなりません』
ロゼ : 『何しろ霊体……魔術回路がズタズタで……本来であればマナ注入といったエーテル治療を施すのですが、何分彼の術式は特殊でして……』
ロゼ : 『ええ、ええ。現代の魔術理論と科学理論を何石も飛び越している技術です。』
ロゼ : 『いわば新型の血液と言いますか……とにかく、今は彼の回復力に頼る他ありません』
ロゼ : 『面会謝絶なんですg――ぁ、はい、はい。 すいません、ヒサヤ特務官も笑顔(怖い顔)しないで』
ロゼ : 『本人の体力からあまり……いえ、精神的な支えも必要ですから、はい、、私の方からもお願いします』
ロゼ : ―――――
ロゼ : (駆動音がして扉が開く。 ……古典こそ美学<クラシック>だったキアシスもここ数年で近代化したものだ。
ロゼ : …入るわよ。(短く区切って、個室に入ってくるは長い赤毛の女性
ソウマ : ――――・・・(部屋の奧。ベッドに横たえられたその姿。
ソウマ : (呼吸をしていないと錯覚するほど静かで、体には幾つもの管が繋がれている
ソウマ : (瞳は閉じられたまま。)………・・・・・・
ロゼ : ……、(いくつもの無機物に繋がれた彼を見て僅かに息を呑む
ロゼ : ……民間人を庇ったんですって?
ソウマ : …………
ロゼ : そりゃそうよね。シエルなら音速だろうと呪弾だろうと涼しい顔で躱せるもの。
ロゼ : …………
ソウマ : ………あの子は無事?(ボソ、と
ソウマ : ……敵は? …どうなった…?(意識を取り戻してまず、発する言葉はそれで
ロゼ : …………。(キュ、と唇閉じて
ロゼ : ……ええ。 無傷よ。あの子も、両親とも無傷。かすり傷ひとつ負ってないわ。
ロゼ : それと……何、何とかかんとか解放団体? 幹部団体まるごとお縄頂戴。
ロゼ : 中核失ったから事実上の解体ね。
ソウマ : ――、そか、 ………ぅ゛、 ッ(安堵の声、僅かに身動ぎしようとして――…痛みに声を濁らせる
ソウマ : …………良かった。(はぁ、と息を吐いて
ロゼ : ……(隣の丸椅子に腰を下ろすと、彼の手に重ねる
ロゼ : (随分と、彼の手が冷たい……これも、例の回路火傷の所為なんだろうか。
ソウマ : ………、。(手にぬくみを感じて
ロゼ : やりきったのよ。護りきった。
ロゼ : ソウマ……貴方はまた、キアシスを、その皆を護ったのよ。
ソウマ : ………ロゼサン。
ロゼ : (慈愛めいた、軟らかい声色で続ける
ソウマ : ………ありがとう。
ロゼ : (本当は、怒りたかった。 この理不尽を、この不条理を。
ロゼ : (彼が誰かを傷つけただろうか。彼が誰かを脅かしただろうか。
ロゼ : (兇弾を放った彼らでさえも最後まで案じていたからこそ行われた捕縛作戦。
ロゼ : (――敵に甘くするからと、怒りたかった。
ロゼ : (――何でこんな目に会うのかと、叫びたかった。
ロゼ : (――二度とこんな真似をしないでと、泣きつきたかった。
ロゼ : (……星屑に燃え尽きるまで傷つくのが、定めだと云うのだろうか。
ロゼ : (違う、そんなのは、ただの、不条理だ。
ロゼ : ………。(あくまで優しく、彼の手を握る
ソウマ : ……でも、しくったな…。 コレ、明日にはリモートくらい出来るかな。
ロゼ : それはダメよ。しばらくは絶対安静。 喋ってる今でさえ体力使うんだから。
ロゼ : 皆を照らす虹色のお星さまも、しばらく休暇ね。
ソウマ : …ていうかあれからどのくらい経って、……、 ……そ、か。(はぁ、と
ソウマ : ………やっぱしくったね。(存外聞き分け良く
ロゼ : 件の作戦実行からは76時間ほど経ってるわね。(どうせ無理くり調べるだろうと、情報はオープン指向のようで。
ソウマ : …76? ウソでしょ ……否、嘘なワケ無いか。
ロゼ : ええ。それに結果論だわ。予見できたのなら失策だとしても、予見できない事態をここまで抑え込んだんだもの。
ロゼ : 魔術警察全員で乗り込んで、時計塔ごと蒸発――なんてシナリオは回避できたのよ。誇るべきだし、皆讃えているわ。
ロゼ : ……ま。 その状態は、褒められたものじゃないけれど。(少し、釘を刺すように。
ソウマ : ……そう? 被害が最小限に抑えられたなら、安い火傷だなって思えてきた所だったのに。
ロゼ : 被害が最小限?(じ、とソウマの瞳を覗き込む。まっすぐ、青い瞳で
ソウマ : ……、。
ロゼ : ソウマ。貴方は確かに大多数の人を救ったわ。 相手方含めて死人はゼロ。
ロゼ : これ以上ないってくらいの功績よ。公務員じゃなければ二階級特進ね。
ロゼ : ……でも。
ロゼ : ……それがどんなに正しくたって、貴方を案じる人がいることを、決して忘れないで。
ソウマ : ………。
ソウマ : ……そうだね。
ソウマ : ロゼサン。 ……ごめん、心配掛けて。
ロゼ : ……、(納得して無さそうで、納得したような彼を見て安堵の息を漏らす。
ロゼ : 小言はおしまい。 でも、本当にお疲れ様。
ロゼ : 気分はどう? 何か必要なものあれば言って。 仕事道具以外なら持ってくるわよ?
ソウマ : …んー、、今すぐには思い付かないな。(なんとか首を動かして、ロゼの方を見ながら
ロゼ : …ん。(優しく返して
ソウマ : …まだあんま頭回んないのかも。(薄目で苦笑して
ロゼ : ……今は自愛すべきね(ふふ、と苦笑気味に返して
ソウマ : (なんだかんだダメージの予後が大きい。というか、「この肉体」が負傷するなど滅多に無い事だ。
ロゼ : ……、少し休む? 意識戻ったばかりでしょ。
ソウマ : ……、いや。せっかく来てくれたんだし。
ソウマ : ロゼサンに会うの、久々…って
ソウマ : 程でもないけど、…何だろうな、少し空いたよね。
ロゼ : ……。 そう、ね。
ロゼ : ま、ぁ。 お互い忙しいし、仕方ない、し?
ソウマ : ………(天井に視線遣って
ロゼ : ……、、 ……ま、、でも。皮肉、ね。こんな事件が、楔になるなんて。(ぼやくように
ソウマ : ……それもそうだね。(…こんな羽目になる前から、少しずつ感じていた事がある。
ソウマ : (理由はまあ、明白だろう。 ――4年の節目。それを過ぎた事。
ソウマ : (さあ、遂に交際が解禁されました。かと言って、直ぐに何もかも切り替えられる訳じゃない。
ロゼ : (少しずつでも兆しを作れたら。そんな思惑を抱えながらもあれよあれよと一ヶ月。
ロゼ : (お互い忙しい社会人。油断しているとすぐ月単位で日が過ぎ去ってしまう。
ロゼ : (――そんな訳で。気付けば仕事に逃げるように割いてしまっていた。
ロゼ : ……、(だってそうだろう。悶々と期待して、肩透かしを食らうのは、かなり堪える。
ロゼ : (勝手に期待して、勝手に消沈してるのだから、至極勝手な話ではあるのだが……。
ソウマ : ……ま。生活が順調なのは、何よりだけどね。(ぽつ、ぽつ、と
ロゼ : ……ええ。お陰様でね。
ソウマ : ……(此方は此方で踏み出せずにいる。ルールを切り出したのは此方とはいえ
ソウマ : (「めでたく20歳を越えたので付き合いましょう」なんていきなり攻撃表示、あんまりだろうと
ロゼ : …………。ソウマは、相変わらずみたいね。……こうなるまでは。
ソウマ : ……そうだね。 まあ、お陰様でこんな感じだけど。
ロゼ : 全くだわ。ホント、仕事がこi――………、、、。 、、(言い淀んで、押し黙る。
ソウマ : ……………・・・
ソウマ : …………ロゼサン。(ぽつ、と
ロゼ : ……、?
ソウマ : ……4年は経ったよ。 経った、けど。
ロゼ : ――――、。
ソウマ : ………
ソウマ : ……… やっぱり違った、って思うなら、無理しなくていいからね。
ロゼ : ――――――
ロゼ :   ――――――  、 ―――――― (ポタ、と。
ロゼ :   ぇ……?
ロゼ :  (頬を伝ったのが、涙だったなんて気付かなくて。
ソウマ : ……… なんとなく、
ソウマ : 距離置かれてる、気がしたから…
ロゼ :  …、  …………、、、――――――、
ロゼ :  (大粒が次から次へと溢れては伝っていく
ソウマ : 4年経って、付き合う……事が、現実に近付いてきて。
ロゼ :  (違う。――そう否定したいのに、そう叫んできた指先に力が入らない。
ソウマ : いざそうなった時、違う、って思われたのかな……って。
ロゼ :  (それでも、と。もう少しだけ、と。勇んできた足先が踏み出せない。
ロゼ : (出るのは、(私、また、――――)ただ(ソウマに――――)――――)
ロゼ :  ごめん、  なさい  ……、(謝罪の言葉、だけで精一杯
ソウマ : ……………
ソウマ : ………
ソウマ : …… そ、か。
ソウマ : …ゴメンね。
ソウマ : …長かったよね。 4年間は。
ロゼ : もう、や”だ…… 失敗、ばか”り、……っ、
ロゼ : わ、、わた、っ” し、、”………、、っ(ボロボロと涙とともに崩れて言葉にならない
ソウマ : ………。 … …
ソウマ : ……ごめん……
ロゼ : (声を、あげない。耐えているのか、出る余裕もないのか。
ロゼ : ……、………、、(時折すする音と、音もなく涙の跡が上書きされていくだけ
ソウマ : ………(何も言えず、唯啜り泣く音を聞いているしかできない
ロゼ : (また、失敗した。 前の、失敗は、いつだっけ。
ロゼ : (貰ってくれなかったとき?
ロゼ : (しびれを切らして夜這いして、説教されたとき?
ロゼ : ……、っ、、……(決して綺麗な4年間ではなかったけれど
ロゼ : ……、、(『……… やっぱり違った、って思うなら、無理しなくていいからね。』
ロゼ : (何年も待ったのに、そんな言葉を言わせてしまうんだ、私は――――
ロゼ : っ、、………、、(啜り泣きながら、席を立つ
ソウマ : …………
ソウマ : ……(ロゼの背に、何かを言い出そうと口を開くが、思いとどまる
ロゼ : (彼は、病み上がりも何も、こんなに、ボロボロになってるのに
ロゼ : (こんな時に、彼の心労を増やすのか――――
ロゼ : (いや負担が減るの、だろうか。もはや、正常な判断なんか出来なくて。
ソウマ : ………ロ、
ソウマ : ゼ、さん。(躊躇うが、再び愚痴を開いて
ロゼ : ……、…………、(開いた扉に、手をかけたところで
ソウマ : ……こんな事、言わない方がいいんだろうけど、……
ソウマ : ………来てくれて、嬉しかったよ。
ソウマ : ………ありがとう。
ロゼ : ――――、、、……………
ロゼ : ………、好き……
ロゼ : ……好きよ、ソウマ   ずっと、ずっとずっと。
ソウマ : 
ロゼ : (涙を切るように瞼を下ろすと、消え入るように扉の向こうへと――
ソウマ : ―――………… 、(扉の閉まる音がする
ロゼ : ――――――――
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最終更新:2021年11月08日 22:05